日本臨床外科学会雑誌
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61 巻, 2 号
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  • 尾浦 正二, 内藤 泰顕
    2000 年 61 巻 2 号 p. 291-295
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    骨転移ないし骨浸潤を有する女性乳癌患者30例を対象にType I collagen cross-linked N-telopeptide (NTx)の骨転移診断能をType I collagen cross-linked C-telopeptide (I CTP)と比較検討した. NTxおよびI CTPは,共に骨病変個数が増加するにつれ高値を示したが,骨病変個数との相関はI CTPの方が良好であった. NTxおよびI CTPは,乳癌術後非担癌患者に比較して骨病変を有する症例で高値を示したが,骨病変陽性例でcut off値以上を示す割合は, NTxが16.7%であったのに対し, I CTPでは56.7%であった.また骨病変が良好に制御されている症例と制御不良な症例を比較すると, I CTPでは後者が前者の2倍, NTxでは1.7倍の値を示した.しかしながらNTxにおいては,骨病変の制御不良症例でも平均値がcut off以下であった.以上より,乳癌骨病変診断能は, NTxよりもI CTPの方が優れていると思われる.
  • 藤岡 秀一, 筒井 光広, 佐々木 壽英, 田中 乙雄, 梨本 篤, 土屋 嘉昭, 藪崎 裕
    2000 年 61 巻 2 号 p. 296-300
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1990年1月から1995年10月の期間に治癒切除された大腸癌肝転移54例のうち14例に5-FU残肝動注療(1000mg/body/4hrs/2 week,計6クール以上), 22例にL-5FU療法(5-FU500mg/body/24 hrs, day 1-5, leucovorin 30mg/body/bolus, day 1;計2クール), 18例 (対照群) にUFT内服療法を施行しprospective studyを行った.累積5年生存率は,動注群: 41%, L-5FU群: 46%,対象群: 36%で各群間に有意差を認めなかった.動注群の肺 (P=0.048) と多臓器 (P=0.049) に対する無病期間は対象群に比較して有意に長かったが, L-5FU群では対象群に比較して無病期間に有意差を認めなかった.残肝再発に対する再切除率は動注群: 57%, L-5FU群: 14%,対象群: 30%と動注群で最も高かった.動注療法およびL-5FU療法は生命予後の改善には寄与しなかったが,動注療法では多発性残肝再発,肺転移および多臓器再発に対する抑制効果が期待できた.
  • 須郷 広之, 岩田 豊仁, 吉本 次郎, 行方 浩二, 児島 邦明, 深澤 正樹, 別府 倫兄, 二川 俊二
    2000 年 61 巻 2 号 p. 301-306
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    再発形態による予後の比較と再切除例の治療成績から再発肝細胞癌に対する外科治療の適応と意義を検討した.術後再発79例を対象に,再発までの期間,肝外再発の有無,残肝再発形式,残肝再発部位,再発後治療の5項目について再発後生存率を比較した.結果,術後2年以降再発,肝外再発を認めない,単発例,再切除例で各々有意に予後良好であった.残肝再発部位(同側葉,対側葉再発)による差は認めなかった.再切除例11例の検討では異時性多中心性発癌の疑われた症例は3例のみであったが,残肝単発再発例の再切除後平均生存期間は5.2年と良好で,うち5例は再切除後5年を経過しても再々発を認めなかった.以上から積極的に再切除を考慮すべき条件として術後2年以降の残肝単発再発例が考えられ,こうした症例に対する再切除は予後良好で意義あるものと考えられた.
  • 若林 久男, 米本 治弘, 石村 健, 唐澤 幸彦, 森 誠治, 合田 文則, 臼杵 尚志, 前場 隆志, 前田 肇
    2000 年 61 巻 2 号 p. 307-312
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    ICG停滞率15分値(ICGR15)を基軸とした肝予備能評価を再検討するため,肝細胞癌症例を対象に,術前検査値でICGR15と他の肝機能検査値との相関性,および慢性肝炎例における組織学的活動性と線維化(F0-3)との相関性,さらに肝右葉または拡大右葉切除例で, ICGを含む術前肝機能検査値と術後経過との相関性を検討した. ICGR15は, Alb, ChE, PT, GOT,血小板数,門脈圧と有意に相関したが,分布にばらつきが認められた.組織学的F因子はICGと相関するが,同程度のICGでもFは0から3まで分布した.術後経過良好群,合併症群,肝不全群間には術前検査項目Alb, ChE, GOT, ICGR15で有意差が認められたが,重回帰分析ではICGR15とChEのみが有意性が得られた. ICGR15は肝予備能評価で最も信頼性が高くて,他の肝機能検査値とも相関するが,その分布には幅があり,他の検査結果と解離のある症例では慎重な考慮が必要である.
  • 山藤 和夫, 高橋 哲也, 朝見 淳規, 守瀬 善一, 竹島 薫, 深澤 貴子, 村山 剛也, 戸倉 康之
    2000 年 61 巻 2 号 p. 313-318
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝門部において通常の左右肝管合流部の位置よりも低位で合流してくる肝管(従来副肝管あるいは異所肝管と呼ばれている肝管)をそれが左右の主肝管である場合も含めて「低位合流肝管」という概念で捉え,これら低位合流肝管と胆嚢管とが合流する肝外胆道走向変異例についてその頻度および関与する低位合流肝管の種類(肝支配域)を857例を対象として検討した.胆嚢管が低位合流肝管に合流する変異の頻度は1.5%であり,低位合流肝管が胆嚢管に合流する変異の頻度は0.6%であった.関与する低位合流肝管はすべて右葉系で,その支配域は後区域のものが多かったが,前区域や前後区域に跨がるものもあり,支配域の大きさは亜区域から肝葉まで様々であった.以上より従来副肝管あるいは異所肝管と呼ばれている変異と左右の主肝管自体が低位で合流する変異は一連のものであると理解され,「低位合流肝管」という概念で包括して扱うのがよいと思われた.
  • 宮里 浩, 仲地 厚, 下地 英明, 伊佐 勉, 白石 祐之, 草野 敏臣, 武藤 良弘
    2000 年 61 巻 2 号 p. 319-324
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下胆嚢摘出術(以下LC)における胆道損傷は,その要因や損傷病態,経過も腹腔鏡下手術の特性に起因する特徴がある.本稿では, LC中の胆管損傷例7例(切断3例,裂傷3例,クリッピング1例)について,臨床的特徴および適切な治療方法について検討した.損傷の診断は,術中4例,術後1日目1例,術後3日目1例,術後29日目1例であった.損傷の修復方法は, 6例に手術的修復(胆管空腸吻合術1例,胆管端々吻合術2例, 1次縫合術2例,クリップ除去1例)を行った.胆管切断に対する端々吻合例1例および胆管裂傷に対する1次縫合例1例において術後の胆道狭窄が出現した. RTBDチューブがそれぞれ19日および37日留置されていたが,胆道損傷後の狭窄は8ヵ月後および14ヵ月後に出現しており,胆管端々吻合例および1次縫合例においては,ステントチューブの留置期間を含めて長期間の経過観察が必要である.
  • 高垣 有作, 川崎 貞男, 駒井 宏好, 藤原 慶一, 内藤 泰顯
    2000 年 61 巻 2 号 p. 325-328
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    開腹法により手術を行った非破裂性腹部大動脈瘤21例を対象として,漢方方剤の大建中湯を投与した7例(投与群)と微温湯のみを投与した7例(コントロール群), Panthenolを投与した7例(パンテノール群)に分け,大建中湯が腸蠕動の回復に効果があるかを検討した.大建中湯および微温湯は術翌日より胃管から投与した.各群間に年齢,手術時間,大動脈遮断時間,術中水分バランスに差はみられなかった.術後排ガスの出現時期は投与群とパンテノール群がコントロール群に比較して有意に早かった.投与群とパンテノール群では差は見られなかった.腹部X線写真による小腸ガスの消失時期は投与群がコントロール群やパンテノール群に比較して有意に早かった.大建中湯投与による副作用は認められなかった.以上の結果より腸蠕動の回復に大建中湯は有用と考えた.
  • 進 誠也, 小原 則博, 前田 潤平, 宮田 昭海, 天野 実, 川野 洋治, 河合 紀生子
    2000 年 61 巻 2 号 p. 329-333
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺紡錘細胞癌は比較的稀な疾患であり,その臨床的特徴として腫瘍径が大きく,いずれも進行癌の状態で報告されている.今回われわれは腫瘍径2cm未満の早期乳腺紡錘細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は73歳,女性.主訴は左乳房腫瘤で,術前の画像診断では最大径1.9cm,リンパ節・遠隔転移は認めなかった.術中所見でも限局性であると考え,乳房温存術を施行した.組織所見では直径が3mmに満たない扁平上皮癌領域から紡錘形細胞への移行像を認め,腫瘍の大部分は紡錘形細胞により占められていた.本症例より(1)癌腫が極めて小さい段階より紡錘細胞癌へ移行しうることと, (2)紡錘細胞癌へ移行したことで増殖速度が急激に増加し大部分を紡錘形細胞が占めるようになることが考えられた.
  • 太平 周作, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 塩見 正哉, 籾山 正人, 伊神 剛
    2000 年 61 巻 2 号 p. 334-337
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺は転移を受け難い臓器の一つであり,他臓器悪性腫瘍の転移は非常に稀である.またplacental site trophoblastic tumor (以下PSTT)は比較的新しい概念の絨毛性疾患であり世界的にも報告例が少なく非常に稀な疾患である.今回われわれは孤立性に乳腺に転移を来したPSTTの1例を経験したので報告する.
    症例は40歳女性.平成5年7月子宮PSTTで腹式単純子宮全摘術を受けた.化学療法の後,再発の徴候なく経過していたが,平成10年2月17日,右乳房腫瘤を主訴に来院した.腫瘤は嚢胞性で穿刺では血性貯留液を認めた.貯留液の細胞診は陰性であった.貯留液の減少を認めないため平成10年7月30日根治と原因検索のため乳房部分切除術を施行した.病理組織学的検索ではPSTTの転移と診断された.全身検索を行ったが,他臓器には転移を認めなかった.
  • 中村 透, 平野 聡, 児嶋 哲文, 清水 鉄也, 森川 利昭, 加藤 紘之
    2000 年 61 巻 2 号 p. 338-341
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は5歳,男児.発熱,腹痛を主訴に当院紹介受診.胸部X線写真で後縦隔左側に卵円形の腫瘤陰影を認め,食道造影にて下部食道が腫瘤により右前方へ圧排されていた.胸部CTでは心嚢,食道,大動脈と接し内部low densityを呈する7.5×5.8cmの腫瘤影を左後縦隔に認めた.後縦隔嚢胞の診断にて,左開胸下に手術を施行した.嚢胞は,食道壁と癒着しており,食道より剥離し切除した.嚢胞は大きさ5×6cm大,卵円形,単房性で,内容液は褐色漿液性であった.嚢胞壁には明らかな上皮はなく,肥厚した線維組織のなかに一層の平滑筋組織を認めた.軟骨組織は認められなかった.以上の所見より,後縦隔foregut cyst(前腸嚢胞)と診断した.
  • 武田 佳秀, 岩井 昭彦, 伊藤 浩一, 野村 則和, 栗本 昌明, 太田 一隆, 村田 哲也
    2000 年 61 巻 2 号 p. 342-347
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は37歳の女性で息切れと起座呼吸を主訴として来院した.腫瘍は児頭大で右上縦隔を占拠し,周囲組織特に気管気管支,大血管を圧排偏位して上大静脈症候群を呈していた.胸骨縦切開を加えた逆L字型開胸により腫瘍を摘出した.上大静脈と無名静脈を人工血管置換した.上大静脈後面に8×3cmの腫瘍浸潤を認め同部を原発組織と判断した.摘出材料の病理所見により比較的新しい概念である低悪性線維粘液性肉腫(low-grade fibromyxoid sarcoma)と診断した.
  • 中瀬 有遠, 福田 賢一郎, 増山 守, 加藤 誠, 米山 千尋, 渡辺 信介
    2000 年 61 巻 2 号 p. 348-351
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は68歳女性.平成10年9月に両側変形性膝関節症に対し,全身麻酔での手術を予定していたが,術前の胸部単純レントゲンで右下肺野に約1.5cmの円形陰影を指摘され,精査,治療目的に入院した.入院時,身体所見,血液生化学検査に特に異常を認めなかった.胸部CTにて,辺縁明瞭で内部均一な腫瘤陰影が右S8に認められたが,胸膜の陥入やリンパ節の腫脹は認められなかった.気管支鏡検査の範囲では異常を認めなかった.しかし,悪性腫瘍を否定し得ず,診断的治療目的に胸腔鏡による肺部分切除を施行した.病理検査にて肺硬化性血管腫と診断された.
    肺硬化性血管腫は肺末梢に好発する比較的稀な良性腫瘍である.その術前診断は困難であり,術中迅速標本でも診断し得ないことがあるとされている.このような症例に,胸腔鏡手術は低侵襲であり,確定診断をかねた治療として推奨されると考えられた.
  • 藤田 知之, 望月 靖弘, 牛山 俊樹, 大橋 昌彦, 代田 廣志, 桜井 道郎, 島田 寔
    2000 年 61 巻 2 号 p. 352-355
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    保存的治療で治癒した逆流性食道炎による食道穿孔の1例を経験したので報告する.症例は82歳,男性.逆流性食道炎の治療歴があるが,最近1年間は未治療であった.平成11年1月23日より嘔吐,胸痛,発熱があり, 1月24日当院受診. WBC, CRPの上昇を認め,入院となった.翌日,上部消化管内視鏡検査で食道下部に食道潰瘍が多発し, 15mm大の穿孔部が認められ,食道穿孔と診断された.胸部CT検査では縦隔洞炎,気縦隔を認めた. Performance statusが悪いため,保存的治療をする方針とした.禁飲食,中心静脈栄養とし,抗生物質を投与しながら経鼻胃管よりプロトンポンプ阻害剤,酸中和剤を注入した.入院後血液検査上,炎症所見は改善傾向を示し,解熱傾向になった.胸部CT検査でも第15病日には縦隔洞炎,気縦隔は改善し,第37病日の上部消化管内視鏡検査では穿孔は認められなくなった.
  • 松本 寛, 葉梨 智子, 吉田 操, 門馬 久美子, 小池 盛雄
    2000 年 61 巻 2 号 p. 356-361
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胸部食道早期癌根治術後に発生し,手術および術後化学療法を思考した異時性頸部食道小細胞癌の1例を経験した.症例は53歳,男性.スクリーニング目的の上部内視鏡検査にてO-IIa+IIc型胸部食道表在癌を指摘された.平成8年5月13日右開胸開腹胸部食道亜全摘,残胃全摘, 2領域郭清,右半結腸による胸骨後経路再建術を施行した.組織学的には中分化型扁平上皮癌,深達度m3, ly0, v0, n0の早期食道癌であった.術後経過観察中,残存頸部食道にO-Isep型小細胞癌と診断され,平成9年6月30日頸部食道切除,左側頸部リンパ節郭清,食道回腸再吻合術を施行した.組織学的には小細胞型の未分化癌, sm2, ly0, v3, n0であった.術後CDDP・VP-16による補助化学療法を3クール施行した.術後15カ月目に鎖骨上窩リンパ節再発,および肝転移をきたし,放射線治療,化学療法中である.
  • 井谷 史嗣, 成末 允勇, 金 仁洙, 宇田 憲司, 室 雅彦, 金子 晃久, 貞森 裕
    2000 年 61 巻 2 号 p. 362-367
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    臓器軸性胃軸捻転を合併したtype III(混合型)食道裂孔ヘルニア嵌頓症例に対して待機的に腹腔鏡下手術を施行し良好な結果を得た.
    症例は84歳女性.吐血を主訴として来院,緊急内視鏡および食道胃透視の結果,食道胃接合部粘膜の亀裂より出血を認め,胃軸捻転を合併したtype III食道裂孔ヘルニア嵌頓と診断された.内視鏡所見より胃への血流は保たれていると判断し,完全静脈栄養にて全身状態の改善を待ってから腹腔鏡下Nissen噴門形成術を施行した(floppy Nissen法). 8ヵ月の経過観察では合併症もなく非常に良好に経過している.
  • 國料 俊男, 早川 直和, 山本 英夫, 川端 康次, 村山 明子
    2000 年 61 巻 2 号 p. 368-372
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は37歳男性.主訴は特になし.健康診断での胃内視鏡検査にて,胃体上部小彎前壁に隆起性病変を指摘され精査目的にて来院した.上部消化管造影検査にて噴門部小彎前壁に陰影欠損, CT, EUSにて胃壁外性の嚢胞性病変を認めた.胃粘膜下腫瘍の診断で手術を施行した.胃噴門部前壁と体中部前壁の2箇所に腫瘤を認め,核出術を施行した.噴門部,体中部前壁の嚢胞壁は,内腔より粘膜,粘膜筋板,粘膜下層,固有筋層と構成されており,胃重複症と診断した.胃重複症など消化管重複症は舌根から肛門にいたる全消化管に発生する先天性疾患である.特徴的な臨床症状,画像所見を有さないことより術前診断が困難であるが,画像診断の進歩によりこのような症例の増加が予想される.胃重複症は稀ではあるが,胃粘膜下腫瘍の鑑別すべき疾患の1つとして念頭におくことが必要と思われた.
  • 西江 浩, 和又 利也, 菅沢 章, 宮野 陽介, 岩井 宣健, 谷 尚
    2000 年 61 巻 2 号 p. 373-377
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    形質細胞肉芽腫は,組織学的には形質細胞を主体とする細胞浸潤と線維性結合織からなる原因不明の肉芽腫性病変であるが,今回,われわれは胃原発の形質細胞肉芽腫の1例を経験した.患者は45歳男性で,主訴は食思不振,心窩部痛.胃内視鏡検査にて前庭部に周囲に不整な粘膜を伴う潰瘍性病変を認めたが,生検では確定診断は得られなかった.非上皮性悪性腫瘍を疑い胃切除術を施行し,病理組織学的検索にて形質細胞肉芽腫と診断された.本例では,胃形質細胞肉芽腫の潰瘍性病変の形態変化を経時的に観察することが可能であった.胃形質細胞肉芽腫の本邦報告例は10例を数えるのみであり臨床的に不明な点も多いが,その臨床像について若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 李 俊尚, 井関 貞文, 豊崎 浩一郎
    2000 年 61 巻 2 号 p. 378-381
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    早期胃癌術後23年目に根治的切除しえた総肝動脈幹前上部リンパ節再発の1例を経験した.症例は79歳,男性. 56歳時に早期胃癌に対し幽門側胃切除を受けている.平成9年,軽度上腹部痛で某医受診し,右上腹部に径5cm大の腹腔内腫瘤を指摘されていた. 1年6カ月後に再び同医受診し,径7cm大に増大していたため,当院に紹介された.術前画像診断では,膵頭部前上方に周囲を圧排性に発育する卵形腫瘍を認めた.開腹所見では膵頭部前面から総肝動脈に癒着する腫瘍を認めたが剥離可能で,腫瘍摘出を行った.病理組織学的検査では厚い線維性被膜を有し, porが大部分をしめる転移性リンパ節と診断された.術後経過は良好で,術後1年が経過した現在も再発の徴候なく健在である.
    胃癌のリンパ節再発は通常,術後5年以内におこり,また,予後も不良といわれ,自験例は稀な症例と考えられる.
  • 小谷 一敏, 梅森 君樹, 佐藤 泰之, 牧原 重善
    2000 年 61 巻 2 号 p. 382-385
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは胃切除後23年目に輸入脚症候群を呈した残胃癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は75歳,男性.腹痛,嘔吐を主訴に来院した.既往歴として23年前に胃潰瘍にて胃切除術を施行されていた.術前CTにて緊満した十二指腸を認めた.輸入脚症候群を疑い手術施行した.残胃癌によって輸入脚はほぼ完全閉塞しており著しく緊満していた.横行結腸も癌の浸潤のため狭窄していた.残胃亜全摘+横行結腸部分切除術を施行した.術後9日目より経口摂取可能となったが,術後3ヵ月にて死亡された.残胃癌によって輸入脚症候群を呈した症例はほぼ全例が他臓器浸潤を伴った高度進行癌症例でありその予後は不良と思われた.
  • 東野 健, 今本 治彦, 大里 浩樹, 菅 和臣, 山崎 恵司, 高塚 雄一
    2000 年 61 巻 2 号 p. 386-390
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,女性.胃癌にて幽門側胃切除術を受けてから1年4カ月目に膵頭部領域リンパ節再発による閉塞性黄疸をきたしたため,経皮経肝胆道ドレナージを施行し,その後にExpandable metallic stent (EMS)を挿入した.胆汁流出路は速やかに確保され,以後約1年間にわたって減黄効果が維持された.胆道ステント挿入の10カ月後に十二指腸狭窄をきたし,経口摂取不能となったため,食道用EMSを十二指腸に挿入したところ, 5分粥の摂取が可能になり,退院することができた.胆道狭窄に対するEMSは確立された治療法として定着している.一方,食道以外の消化管に対しては,保険適用でないものの,最近,報告例が増加しており,短期的には良好な成績が確認されている.悪性狭窄に対するEMSによる積極的な治療は患者の Quality of life を改善するという点において非常に有用であると思われる.
  • 山根 正修, 三谷 英信, 宇高 徹総, 辻 和宏, 安藤 隆史, 堀 堅造
    2000 年 61 巻 2 号 p. 391-394
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃大網動脈瘤はまれな疾患であり,術前に診断することは非常に困難である.また報告例のほとんどは破裂による症状のため発見されている.今回,胆嚢腫瘍の術前検査中に偶然発見,胆嚢と同時に腹腔鏡下に切除し得た未破裂右胃大網動脈瘤の1例を経験した.症例は51歳男性.検診時に発見された胆嚢腫瘍の治療目的で入院した.腹部血管造影検査にて右胃大網動脈に径1cmの嚢状動脈瘤を認めた.まず腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し,術中迅速病理検査の結果,胆嚢腫瘍は良性であったため,動脈瘤を腹腔鏡下に切除した.本症は腹腔鏡下での動脈の露出が比較的容易でありよい適応であると思われる.一般的に腹腔鏡下手術は十分普及しており侵襲が少なく,患者側も受け入れやすい.本症の未破裂例め治療法としては第1選択と思われた.
  • 久米川 浩, 田中 裕穂, 徳原 宏太, 堀 晴子, 八塚 宏太
    2000 年 61 巻 2 号 p. 395-399
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は, 44歳女性.平成5年に十二指腸下行脚の微小なカルチノイド(5mm, sm)で,十二指腸の部分切除術を施行した.以後外来で経過観察を行っていたが,平成9年1月に十二指腸の乳頭部より約1cm口側に山田2型のポリープを認め,生検にてカルチノイドの診断をえたため,再発と診断し手術目的にて外科入院となる.手術所見では,約2cm大の境界不明瞭な硬結が膵頭部まで浸潤しており,膵頭十二指腸切除術を施行した.
    一般に十二指腸のカルチノイドは, 20mm未満でsm以下であれば局所切除の適応とされているが,われわれの症例では5mmで深達度smで局所切除を施行した後に再発しており,非常に稀な症例であると考えた.この様な症例では局所切除の適応であると判断するが,術前の浸潤性の検索,術中のリンパ節の検索,術後の経過観察が重要であると考えられた.
  • 高野 信二, 宮内 勝敏, 日前 敏子, 島瀬 公一
    2000 年 61 巻 2 号 p. 400-403
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれは,完全型膵管癒合不全を伴う乳頭部癌の1例を経験したので報告する.症例は58歳,男性.近医にて黄疸を指摘され,当院紹介入院.閉塞性黄疸,乳頭部癌の診断にて手術を施行した.摘出標本の検索では,主膵管が総胆管と合流せず,乳頭部より2cm口側に開口しており,完全型膵管癒合不全を伴う乳頭部癌と診断した.同様の症例は,本邦では自験例を含め2例の報告がみられるのみであった.
  • 吉村 久, 家永 徹也, 植田 真三久, 田中 裕史, 笹田 明徳
    2000 年 61 巻 2 号 p. 404-407
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹腔動脈閉塞を合併した膵頭部癌の症例に対し膵十二指腸動脈を温存することで腹腔動脈領域への血行を温存して膵頭十二指腸切除を施行しえたので報告する.症例は76歳の男性.眼瞼結膜の黄疸を主訴に当院を受診した.血液検査にて閉塞性黄疸を呈し, CA19-9の上昇を認めた.腹部エコー, CT,逆行性膵管造影で膵頭部癌と診断した.血管造影は,腹腔動脈が根部で閉塞し, SMAから膵十二指腸動脈を介して肝動脈,脾動脈が造影された.手術は前膵十二指腸動脈を温存して膵頭十二指腸切除術を施行した.術後経過は良好であった.
  • 西村 良彦, 山田 正, 鈴木 範男, 永来 正隆, 石原 寛治, 藤井 弘一, 木下 博明
    2000 年 61 巻 2 号 p. 408-413
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    総肝動脈の欠損を伴った後下膵十二指腸動脈瘤の1例を経験したので報告する.患者は72歳の女性,腰痛を主訴に来院.腹部単純X線検査で上腹部の2個の環状石灰化像とCA19-9値の高値が認められ入院した.動脈造影で総肝動脈が描出されず,固有肝動脈は左胃動脈から右胃動脈を介して描出された.上腸間膜動脈も根部で閉塞し,膵十二指腸動脈を介した血行で維持され,動脈瘤はこの部に認められ,後下膵十二指腸動脈瘤と診断した.大動脈-上腸間膜動脈バイパス造設後,動脈瘤を切除,病理組織検査では動脈硬化性動脈瘤と診断された.術後CA19-9値は正常化し,術5年後の現在,健在である.
  • 山本 篤志, 河野 博光, 入江 秀明
    2000 年 61 巻 2 号 p. 414-417
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Crohn病による穿孔性腹膜炎の1例を経験した.症例は31歳,女性. 21歳の時Crohn病と診断され, 1992年より当院内科に通院していた. 1998年1月13日,心窩部痛,嘔気,嘔吐を訴え緊急入院となった.腹膜刺激症状と腹部単純X線検査にて横隔膜下の freeair を認め, Crohn 病による小腸穿孔を疑い緊急手術を施行した. Treitz 靱帯より約1mから1m70cmにわたって回腸の壁肥厚と腸間膜付着部の肥厚を認め, Treitz 靱帯より約1m60cmの部位の腸間膜付着側に直径3mmの穿孔を認めた.穿孔部を含み回腸を約80cm切除したのち端々吻合を行った.術後合併症もなく退院した.現在, 5-アミノサリチル酸の投与と経腸栄養療法を行い,術後1年5ヵ月を経過した現在経過良好である. Crohn病における合併症としての小腸穿孔は稀であるが,急性腹症の一原因として常に記憶にとどめ適切な手術対応が必要であると考えられた.
  • 高橋 吉仁, 山口 晃弘, 磯谷 正敏, 原田 徹, 金岡 祐次, 坂田 慶太
    2000 年 61 巻 2 号 p. 418-421
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小腸多発性リンパ腫ポリポーシス(multiple lymphomatous polyposis,以下MLP)の1例を経験したので報告する.症例は65歳男性,主訴は右下腹部痛で,小腸造影で回腸末端の狭窄像,空腸の腫瘤像を認めた.小腸悪性リンパ腫と診断し, 1997年3月3日,回盲部切除,空腸切除を施行した.切除した小腸全体にびまん性に多数のポリープを認め,病理組織診は,非ホジキン悪性リンパ腫(diffuse medium cell type, B cell type)であった.以上より, MLPと診断した. MLPは胃から大腸までの広範な消化管に発生することが多いが,食道から大腸までの全消化管に発生することもあるので,全消化管の検索が必要である.
  • 西村 東人, 冨士原 彰, 秋元 寛, 小林 正直
    2000 年 61 巻 2 号 p. 422-425
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    日本外傷学会分類IIIb+IVC型肝損傷に対してtotal hepatic vascular exclusion(以下THVE)が有用であった症例を報告する.症例は19歳男性で,交通事故にて受傷し近医にてIIIb型肝損傷と診断され出血性ショックの状態で搬入された. aortic occlusion ballon catheter (以下AOBC)を挿入し血圧を維持しつつ開腹した.肝右葉に星芒状の破裂がみられたため, Pringle法にて肝門部血行遮断を行った.肝右葉切除すべく右葉を脱転したところ肝後面より多量の静脈性出血を認め, IVC損傷を疑った.肝の上下でIVCを遮断しTHVEとし, IVC損傷を無血野で修復し右葉切除を施行した.阻血時間はPringle法単独15分, THVE連続41分,計56分であった.術後肝機能に問題なく,第22日目に軽快退院した. IIIb+IVC型肝損傷に対する補助手段として, AOBCを併用したTHVEは安全・簡便に行える有用は方法と考えられた.
  • 利光 靖子, 森嶋 友一, 鈴木 一郎, 青木 靖雄, 小林 純
    2000 年 61 巻 2 号 p. 426-431
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれは肝外発育性肝血管腫の1例を経験した.症例は58歳,女性.腹部に腫瘤を指摘され当院を受診した.腫瘤が可動性をもち振り子様に左右へ移動することがあった.腹部超音波検査や腹部CT検査により肝外発育性の腫瘍であることが判明し, CT検査においては振り子様の動きが確認された.腹部血管造影検査では肝外側区域枝,および内側区域枝の支配領域に肝血管腫特有の綿花様濃染像を認めた.振り子様の動きによる破裂や亀裂の危険性が懸念されたため手術を行った.切除標本の大きさは14×11×4cm,重さ480gで,病理組繊学的には肝海綿状血管腫の所見であった.肝外発育性肝血管腫の報告は比較的稀であり,調べ得た限りでは本邦29例目である.
  • 早川 弘輝, 久瀬 雅也, 高橋 宏明, 岡村 一則, 小坂 篤, 勝田 浩司
    2000 年 61 巻 2 号 p. 432-436
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は70歳男性.上腹部痛と発熱,黄疸を伴い当科を紹介された.血液生化学的検査では,軽度黄疸(T-Bil 4.0mg/dl, D-Bil 3.1mg/dl)と胆道系酵素やCRP, CA19-9 (340U/ml)の高値を認めた. CTにて,肝S4に9×8cm大の嚢胞と肝外側区域の萎縮,左肝内胆管の拡張を認めた. MRCPでは,嚢胞による左肝管圧排像と肝外側区域内胆管の拡張を認めた. ERCPでは胆管と嚢胞の交通はなく,左肝管は嚢胞の圧迫により下方へ圧排され閉塞していた.上腸間膜動脈造影の門脈相では,門脈左枝は描出されなかった.黄疸や炎症所見の軽快後,左尾状葉を含めて肝左葉切除を施行した.嚢胞内には漿液性液500ccが充満し,その内腔面は平滑であった.肝外側区域胆管内には胆泥が充満していた.組織学的検索では,嚢胞壁は一層の立方上皮を有し,悪性所見は認められなかった.
  • 尾関 豊, 立山 健一郎, 坂東 道哉, 角 泰廣
    2000 年 61 巻 2 号 p. 437-441
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は70歳の男性.超音波検査で肝腫瘍を指摘され, HCV抗体陽性の肝細胞癌と診断されて当科を受診した.画像診断では肝右葉頭側に11cm大の血流豊富な腫瘍を認め,右房内に連続する3cm大の腫瘍を認めた.右房内に腫瘍栓を形成した肝細胞癌の診断で, anterior approachによる肝右葉切除とtotal hepatic vascular exclusion (THVE)下の右房内腫瘍栓除去術を施行した.人工心肺を準備して手術に臨んだが, THVEのみで切除可能であった. THVE時間は15分間で,手術時間は9時間10分,術中出血量は3,450gであった.切除標本の検索では11cm大の塊状型腫瘍と肝内転移巣を認め,右肝静脈,下大静脈および右房に腫瘍栓を認めた.病理組織学的には肉眼的な腫瘍栓を含めて腫瘍は中分化型肝細胞癌であった.術後経過は良好で,術後26ヵ月の現在,無再発生存中である.
    右房内に進展した肝細胞癌の中には単純遮断下に切除可能な症例が存在する.
  • 谷村 葉子, 松崎 安孝, 弥政 晋輔, 小川 明男, 松永 宏之, 山口 喜正
    2000 年 61 巻 2 号 p. 442-447
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.便秘を主訴に1993年7月当院受診.直腸癌(Rs)同時性肝転移(H3)の術前診断にて直腸前方切除(D3),肝右葉切除,肝S3, S4部分切除を施行した.その後I994年6月と1995年9月にいずれもS4にそれぞれ1個残肝再発をきたし2回の肝S4部分切除を行った. 1997年9月肝外側区域の新たな残肝再発巣より胃前庭部への直接浸潤を認め,肝外側区域切除,前庭部胃壁合併切除を施行した.また6番リンパ節転移も認めた.病理学的に胃壁の断端陽性であったため,さらに1997年10月幽門側胃切除(D1)を追加した.転移性肝癌の胃壁浸潤の報告はまれであり,残肝再発に対する積極的な肝切除により, 5年生存を得たので報告する.
  • 稲垣 均, 鳥井 彰人, 笠井 保志, 黒川 剛, 野浪 敏明, 立松 輝
    2000 年 61 巻 2 号 p. 448-452
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝嚢胞液中, CA19-9, CEAが共に高値である場合, cystadenocarcinomaである場合が多い.今回,嚢胞液中CA19-9, CEAが高値であった単純性肝嚢胞に対し,腹腔鏡下開窓術を施行し,その6カ月後に嚢胞性腫瘍を再発し,切除の結果嚢胞腺癌であった症例を経験したので報告する.症例は57歳,女性.平成7年,検診にて肝S4に嚢胞を指摘される.平成9年1月,肝嚢胞の増大に対しエタノール固定を施行するも,平成9年6月に再び嚢胞が増大したため,腹腔鏡下開窓術を施行した.組織上嚢胞壁に悪性所見を認めず,単純性嚢胞であった.平成9年11月より血中CA19-9の上昇とともに肝S4に再び嚢胞性腫瘍を認めたため,平成10年2月愛知県がんセンターにて肝左葉切除を施行.組織診断はcystadenocarcinomaであった.本症例は肝嚢胞の癌化例と考えられ,経過観察の重要性と腹腔鏡下開窓術の手術選択の適応に関して重要な示唆を与えるものと思われる.
  • 上野 正闘, 久永 倫聖, 楯川 幸弘, 中島 祥介, 中野 博重
    2000 年 61 巻 2 号 p. 453-457
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    患者は63歳女性.家族の腸チフス感染を契機として施行された糞便検査にてSalmonella typhiが検出されたが,症状は特になく,感染既往も不明であった.腹部超音波検査,腹部CT, MRCP検査にて大きさ約2cmの胆嚢結石を認めたため,チフス菌胆道系保菌者と判断された.内科的治療のみでは根治不能と考え,平成10年11月18日腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.術後経過は良好で,排菌を認めなくなったため, 12月17日退院となった.調べ得た限りでは,胆石を有するチフス菌保菌者に対しての腹腔鏡下手術は,本症例以外には報告されていないが,今後は腹腔鏡下手術の良い適応になると考える.
  • 黄 泰平, 山崎 芳郎, 山崎 元, 福井 雄一, 畑中 信良, 奥野 慎一郎, 桑田 圭司
    2000 年 61 巻 2 号 p. 458-461
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1991年2月から1998年11月までの当院における腹腔鏡下胆嚢摘出術1831症例中6例に左側胆嚢を認めた.左側胆嚢に対する術前診断,腹腔鏡下胆嚢摘出術手技上の問題点について検討した.術前診断は6例中4例に可能であった. 6例中5例が超音波検査で右側門派臍部を認め,さらに4例がCT上左側胆嚢と診断された.術前のDIC検査では有意な所見を認めなかった.手技上の問題点ではポートの位置は全例French styleで心窩部のポートも肝円索の右側に挿入した.剥離操作の手順は初期の2例は頸部操作より行ったが,頸部操作は視野の確保が難しい場合が多く,その後の4例は肝床部の剥離操作を先行させた.肝円索付近の肝床部からの胆嚢への流入血管が2例に認められ,術中その出血をきたした.術中胆道造影は全例に施行し,胆管系の走向異常は認めなかった.
  • 横井 一樹, 原田 明生, 小松 義直, 吉田 滋, 矢口 豊久, 村上 裕哉
    2000 年 61 巻 2 号 p. 462-466
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は63歳の男性.発熱と心窩部痛にて近医を受診し,軽度黄疸と胆管炎を指摘され当院入院となった.保存的治療にて軽快したが3ヵ月後に同様の症状で再入院となった. ERCにて肝門部に圧迫により変形する陰影欠損像と,左右胆管分岐部に辺縁不整像を認めた.経内視鏡的胆道鏡にて,黄白色の粘液を伴った表面顆粒状の扁平隆起性病変を認めた.肝門部胆管癌と診断し肝左葉,尾状葉切除術を施行した.病理組織検査では乳頭腺癌,深達度fm,リンパ節転移陰性の早期胆管癌であった.腫瘍の産生する粘液により胆管閉塞を繰り返していたと推測され,粘液産生胆管癌と考えた.自験例は4年前当院にて胆嚢摘出術を施行しており,当時の術中胆道造影を見直すと,すでに胆管腫瘍の存在が指摘された.粘液産生胆管癌は稀な疾患ではあるが,適切な手術が行われれば予後は比較的良好であり,胆道精査に際しては常に念頭に置く必要がある.
  • 大内 慎一郎, 瀬戸 泰士, 花岡 農夫, 李 力行, 田中 雄一, 福岡 岳美
    2000 年 61 巻 2 号 p. 467-471
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胆管癌断端陽性例でありながら術後11年生存し,緩徐な経過をとった1例を経験したので報告する.症例は53歳女性,既往歴に上中部胆管癌で胆管切除術を施行し, hm 2, dm 2で絶対的非治癒切除になった.術後11年後よりCA19-9の上昇を認め,腹部CTで,膵頭部に1.5cmの腫瘤を認めた.内視鏡的逆行性胆管膵管造影で乳頭部に乳頭状の腫瘍を認め,乳頭部癌の診断で膵頭十二指腸切除術を施行した.癌は遺残した断端部から乳頭部まで浸潤性に増殖し,組織学的にも前回同様中分化腺癌で,遺残した断端癌が増大したものと考えられた.胆管癌の悪性度の指標とされる癌細胞のDNA ploidy patternを解析するとDNA aneuploidy patternを示した.
  • 富永 春海, 吉川 澄, 道清 勉
    2000 年 61 巻 2 号 p. 472-476
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    特異な発育様式を示した胆嚢癌の1例を経験した.症例は47歳女性.右季肋部痛出現し,近医の腹部超音波検査にて胆嚢の腫瘍を指摘された.入院時血液検査にて軽度の肝機能異常を認めた.胆嚢癌の診断にて肝床部切除,胆管切除,肝門部胆管空腸吻合術を施行した.胆嚢頸部に3×4cmの乳頭状腫瘍を認めた.腫瘍は胆嚢管へと連続しており,胆嚢管は腫瘍によって閉塞していた.胆嚢管の腫瘍と連続して5cm大の腫瘍を胆管内に認めた.胆管内の腫瘍は胆管内に突出しており,胆管への浸潤は認めなかった.高分化型腺癌であり,胆嚢壁筋層に一部浸潤を認めた.術後経過は概ね良好にて退院したが,術後3年目に肝転移のため死亡した.
  • 稲田 聡, 藤 信明, 園山 輝久, 山岸 久一, 岡 隆宏
    2000 年 61 巻 2 号 p. 477-480
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    膵管狭窄はCT検査や超音波検査にて指摘されることが多いが,画像診断が進歩した今日でも良性疾患と悪性疾患を鑑別するのは困難な場合がある.今回,われわれは膵頭部での主膵管の狭窄と尾側の拡張を呈した良性膵管狭窄症を経験したので報告する.
    症例は73歳女性で胸痛を主訴に近医受診し,胸痛は軽減するも経観察中の腹部CTで主膵管の拡張を指摘されたが,特に腫瘤は認められなかった.内視鏡的逆行性膵管造影(ERP)や超音波内視鏡(EUS)では,膵頭部主膵管の狭窄と末梢の拡張像を認めた.膵酵素の上昇,黄疸などは認められず,良性病変を疑ったが,悪性を否定しきれず手術を施行した.術中病理診断で,膵管の線維化のみで,悪性所見は認められず,十二指腸温存膵頭部切除術を施行した.病理組織学的診断では,膵実質に慢性膵炎の所見はなく,狭窄した膵管に限局した線維化が認められ,限局性膵管炎の像であった.
  • 小田 斉, 隅 健次, 岸仲 正則, 藤原 博
    2000 年 61 巻 2 号 p. 481-485
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は47歳,男性.飲酒歴なし.土木作業で連日エアプレーカーの持続的振動を左上腹部にうけていた.左上腹部痛で来院.腹部CTで脾彎曲部の大腸壁肥厚と周囲脂肪組織の浮腫を認めた.大腸X線検査で同部の鋸歯状狭窄を認め,内視鏡では狭窄部粘膜は浮腫状を呈するのみであった.漿膜側から浸潤した癌または炎症と考えたが,原発巣は不明で確定診断は得られず,腹痛も軽減したため外来通院は中止された. 1年後再び腹痛出現.大腸狭窄は改善していたが,腹部CTで脾門部に5cm径の膵嚢胞と2.5cm径の脾動脈瘤を認めた.職業歴より腹部振動衝撃による外傷性膵炎に続発した脾動脈瘤合併膵嚢胞と診断し,膵尾部切除・脾摘出術を施行した.開腹所見にて膵嚢胞に連続し脾彎曲部近傍の横行結腸間膜と脾結腸間膜に膵炎の波及と思われる高度な瘢痕化を認め, 1年前の大腸狭窄は膵炎に続発したものと判明した.原因不明の大腸狭窄では膵炎が潜在することも念頭に置く必要がある.
  • 岸本 圭永子, 長谷川 泰介, 佐原 博之, 斎藤 人志, 小坂 健夫, 高島 茂樹
    2000 年 61 巻 2 号 p. 486-490
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    高脂血症が誘因となった妊娠時急性膵炎の1治験例を報告する.患者は27歳,女性で妊娠32週目.嘔吐と上腹部痛を主訴に来院した.腹部は全体に膨隆し妊娠子宮の上縁を臍上部3横指の位置に触知.また,心窩部を中心に圧痛を認めたが,反跳痛や筋性防御はなかった.入院時検査成績では,白血球数が18,410/mm3と増加し,生化学的には総コレステロール値749mg/dl,中性脂肪値5,632mg/dl,血清アミラーゼ値9,411U/L,尿中アミラーゼ値4,724U/Lと異常高値を示した.腹部超音波検査では膵は全体に腫大し辺縁が不鮮明であった.中等度急性膵炎の診断のもと保存的治療を開始したが,治療開始翌日には胎児に変調がみられたため帝王切開術により胎児を娩出した.同時に腹腔内および膵床ドレナージ術を施行した.術後経過は良好で,血液生化学的検査値の正常化とともに全身状態も改善し術後45病日に退院した.術後3年4カ月の現在,母子共に健在である.
  • 岸渕 正典, 柳生 俊夫, 金 柄老, 西 敏夫, 川崎 勝弘, 森 武貞
    2000 年 61 巻 2 号 p. 491-494
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    脾結核症の大部分は,全身多臓器の粟粒性結核に合併した2次性のものであり,孤立性脾結核は極めてまれである.症例は55歳の女性,慢性関節リュウマチにて治療中,体重減少を主訴に当科受診.腹部超音波検査,腹部CTで脾臓に腫瘤陰影を伴った脾腫を認めた.脾悪性リンパ腫等の悪性腫瘍との鑑別が困難であったため,脾摘術を施行した.術後の病理組織検査で,結核性肉芽腫を確認したが,他臓器には結核病巣を認めず,孤立性脾結核と診断した.術後6ヵ月間抗結核療法を施行した.今日結核は減少しているものの,重症化とともに非定型的な病状の患者が増加しており,脾腫瘍あるいは脾膿瘍を認めた際には,鑑別診断の1つとして念頭におく必要があると思われた.
  • 辻 尚志, 光永 修一, 池田 英二, 内藤 稔, 大塚 康吉, 渡辺 啓太郎
    2000 年 61 巻 2 号 p. 495-499
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    第VIII因子インヒビター出現による巨大後腹膜血腫の1例を経験した.症例は69歳男性で吐血にて入院,胃噴門部早期癌の診断で手術を施行.術後,吻合部潰瘍からの出血あり再手術施行.再手術後に再び吐血したが保存的治療にて軽快した.しかし2ヵ月後に突然後腹膜に巨大血腫を形成しショック状態となった.凝固検査ではAPTTだけが延長しており,検索にて第VIII因子インヒピター出現による出血傾向と判明.原因は不明であったが,プレドニゾロン投与開始後しばらくしてAPTTは正常に戻った.インヒビターについての免疫学的解析ではIgGタイプの自己抗体であり, IgGサブクラスはIgG1,およびIgG4であった.第VIII因子インヒビター出現による出血傾向は本症例のように重篤な出血症状を呈することが多く,出血死する頻度も高いため,本疾患に対する認識と迅速な対応が必要である.
  • 宮内 邦浩, 上野 聡一郎, 中熊 尊士, 中村 隆俊, 栗田 淳, 鈴木 哲太郎
    2000 年 61 巻 2 号 p. 500-503
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は52歳男性.右側腹部腫瘤を主訴に来院.既往歴・家族歴に特記すべき事項なし.右下腹部腹壁に直径20mmの腫瘤を触知.局所麻酔下に切除生検施行.悪性線維性組織球症が疑われるが確定診断できず.全身精査するも他の部位に腫瘍病変なし.検査後受診が途切れ,半年後,腹壁の同一部位に再発. 26mm×32mmの腫瘤を認める.硬膜外麻酔下に正常部を含めて腹壁切除を施行.腹壁脂肪組織内に存在し,一部腹直筋鞘前葉に接する腫瘤であった. HE染色,脂肪染色,免疫染色にて悪性腺維性組織球症と診断.遺伝子蛋白検査は異常所見を認めなかった.悪性線維性組織球症は軟部組織悪性腫瘍中最も頻度の高い腫瘍であるが,四肢,後腹膜発生が多く腹壁原発は稀である.局所再発,転移,第2悪性腫瘍の合併が比較的多いとされ,十分な切除と経過観察が望ましいと考えられた.
  • 冨田 隆, 勝峰 康夫, 久留宮 隆
    2000 年 61 巻 2 号 p. 504-508
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は82歳女性,腹痛と嘔吐を主訴に入院した.腹部は軽度の圧痛と腸雑音の亢進がみられ,腹部単純X線で拡張した小腸ガス像は一部横行結腸を越えて右上腹部に至り,第12胸椎から第1腰椎の高さで小腸ガス像がみられた.腹部CTで拡張腸管は胃の背側,膵の腹側に位置し,腸間膜内の脈管と思われる脂肪組織内の索状物は十二指腸側の右側を上行し,肝および肝十二指腸間膜の背側を横走し,拡張腸管への連続性が認められた.以上からWinslow孔ヘルニアと診断した.開腹すると回腸末端から200cmの回腸が約30cmにわたりWinslow孔から網嚢内へ嵌頓し,上十二指腸角へ小腸が強固に癒着していた.術式は嵌頓腸管の整復と癒着部の小腸切除を施行, 2横指と軽度開大したWinslow孔の縫縮は行わなかった.術後経過は良好である.本疾患には特徴的な症状がなく,腹部単純X線検査とともにCTが術前診断に有用で,早期の診断と治療により予後は良好である.
  • 大輪 芳裕, 鈴村 和義, 小島 卓, 成瀬 隆吉, 松本 幸三, 平松 隼夫
    2000 年 61 巻 2 号 p. 509-512
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹壁ヘルニアの中で稀なSpigelヘルニアの1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は既往に帝王切開のある73歳女性で,主訴は左下腹部腫瘤.腹部触診では左下腹部に7×7cm弾性軟で圧痛のある腫瘤を認め,腹直筋外縁に3×3cmのヘルニア門を触知したが用手的還納は不能であった.腹部CTでSpigel腱膜の欠損と同部より腹壁外への腹腔内容の脱出を認め,注腸造影で腹腔内容はS状結腸と確認した.ヘルニア内容の腹腔内への還納とマーレックスメッシュでの腱膜欠損の閉鎖を行い術後5カ月の現在再発を認めていない. Spigelヘルニアは本邦で自験例を含めて18例の報告があるが, S状結腸の嵌頓症例は今までに報告はなく,腹部CTおよび注腸造影が術前診断に有用であった1例と考えられた.
  • 巽 博臣, 染谷 哲史, 戸塚 守夫, 平田 公一
    2000 年 61 巻 2 号 p. 513-517
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    原発性腹壁ヘルニアの中でもきわめて稀なSpigelヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は78歳女性.腹圧をかけた際に臍下4cmの高さで左腹直筋外縁に接する腫瘤を認めた.腹部CT上,左腹直筋外縁の腫瘤の存在部位に一致して腱膜の欠損を認め, Spigelヘルニアと診断,手術を施行した.外腹斜筋腱膜下にヘルニア嚢を認め,ヘルニア嚢を腹腔内に還納し,腱膜を腹膜とともに縫合してヘルニア門を閉鎖,さらに腱膜の脆弱部位をMarlex®meshで補強した. Spigelヘルニアは半月線と腹直筋外縁との間に発生する腹壁ヘルニアであり,本邦報告例が15例と非常に稀な疾患である.本疾患はCTによる腹壁の欠損の有無が鑑別診断の上で重要で,治療法としてmeshを用いたヘルニア門閉鎖術が有用と考えられた.
  • 南 光昭, 殿田 重彦, 湯川 裕史, 笠野 泰生, 岡 正巳
    2000 年 61 巻 2 号 p. 518-522
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    閉鎖孔ヘルニアは高齢の痩せた女性に好発し,本邦ではこれまで約300例の報告がある.術前診断率は30.5%と低く,手術時の腸管切除率も約60%と高い.今回,われわれは進行胃癌を合併した異時性両側閉鎖孔ヘルニアを経験した.異時性両側閉鎖孔ヘルニアの本邦報告例5例を集計したところ,対側の閉鎖孔ヘルニア発症までの期間は3週から21週と初回発症から比較的早期に対側も発症していた.この原因として初回発症時の手術や絶食のために,対側閉鎖孔を覆う腹膜前脂肪織の減少が原因と考えられている.自験例では2年11カ月後に対側が発症しており,また対側手術後6カ月後に進行胃癌が認められた.よって,自験例では悪性疾患の合併による,るい痩が対側発症の原因と考えられ,対側の発症期間が長い異時性両側閉鎖孔ヘルニアでは,悪性疾患などの消耗性疾患の合併も念頭におく必要があると考える.
  • 田村 昌也, 藤岡 重一, 木元 文彦, 村田 修一, 清崎 克美, 若狭 林一郎
    2000 年 61 巻 2 号 p. 523-526
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は89歳の女性で,嘔吐,発熱を主訴に当科に入院した.腹部単純X線写真にてイレウスを指摘され,原因究明のため施行した骨盤部CTにて両側性閉鎖孔ヘルニアと診断され,緊急手術を施行した.回腸末端より55cmの部位の小腸が右閉鎖孔に嵌頓していた.整復し,ヘルニア門を閉鎖した.左側は検索時すでに腸管は還納されていた.同様にヘルニア門を閉鎖した.本邦において両側発症の閉鎖孔ヘルニアは検索しえた限り12例を認めるのみである.本疾患の特徴として嵌頓と還納を繰り返す点があげられ, CTにて片側と診断された症例にも潜在的に対側にもヘルニア門を有する症例が存在する可能性があり,術中に検索が必要であると考えられた.
  • 中島 康晃, 中嶋 昭, 佐藤 康, Methasate Asada
    2000 年 61 巻 2 号 p. 527-531
    発行日: 2000/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    局所麻酔,鼠径法の手術によって治療した閉鎖孔ヘルニアの3例を報告する.症例1は81歳,女性.慢性呼吸不全,肺性心を合併した左閉鎖孔ヘルニア嵌頓のため,局所麻酔,鼠径法の手術にて治療した.症例2は84歳,女性.経過中に敗血症,急性腎不全などを合併し全身状態不良であったため局所麻酔,鼠径法の手術を選択した.症例3は85歳,女性.高度脱水を伴う右閉鎖孔ヘルニア嵌頓という全身状態を考慮し,局所麻酔,鼠径法の手術を行った.
    閉鎖孔ヘルニアは高齢のるいそう著明な女性に多く,かつ腸閉塞状態という悪条件下での手術を強いられるため,低侵襲でかつ安全,確実な治療が要求される.局所麻酔,鼠径法による閉鎖孔ヘルニア根治術は,麻酔および手術による侵襲を最低限におさえ,かつ十分な治療を行えるという点で非常に有用な治療法であると考えられた.
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