日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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62 巻, 1 号
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  • 高橋 修, 下田 司, 黄 舜範, 遠藤 幸夫
    2001 年 62 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    1992年4月より1999年3月までの80歳以上高齢者消化器外科手術40例につき術前,術後の日常生活活動(以下,ADL), 日常生活自立度(以下,寝たきり度)の変化を中心に検討した.術前検査値異常,併存疾患は90%で認められたが緊急手術例や悪性腫瘍に対する姑息手術症例を除く待機手術症例では重篤な合併症も少なく耐術可能であった.しかし退院可能となった30例において術前後のADL変化をみると,移動,排泄面を中心に,6例 (20%) で何らかの低下を認め,寝たきり度においては「生活自立」から「寝たきり」へと著明に上昇した症例も2例認められた.高齢者手術においては手術侵襲の軽減を図ることはもちろんであるが,耐術のみにとらわれず,術後のADLの低下を考慮し,適切な介護支援が提供できるような体制を整えて手術に臨むべきであると思われた.
  • 高橋 弘昌, 田口 和典, 渡邊 健一, 佐々木 文章, 伊藤 喜久, 藤堂 省
    2001 年 62 巻 1 号 p. 8-16
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    原発乳癌患者における術前血清c-erbB-2蛋白値と予後との関連を検討した.非浸潤癌とIV期症例を除外した原発乳癌226例を対象として,術前に採血を行い,血清c-erbB-2蛋白値をSandwich RIA法にて測定した.血清c-erbB-2蛋白値の平均は, 3.6±2.01ng/mlであった.追跡期間60カ月(中央値)で, 47例の再発例を認めた.再発に関する多変量解析では,リンパ節転移個数と血清c-erbB-2蛋白値が独立した予後因子であった.リンパ節転移陰性群では,血清c-erbB-2蛋白値が平均値以下の群がそれより高値の群よりも無再発生存率が良好であった.リンパ節転移陽性群では2群間に差を認めなかった.今回のわれわれの検討より術前の血清c-erbB-2蛋白値と予後との関連が示された.また,特に術前の血清c-erbB-2蛋白値は,リンパ節転移陰性症例の予後因子となり得ることが示された.
  • 櫻庭 幹, 大貫 恭正, 西内 正樹, 新田 澄郎
    2001 年 62 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    胸腺癌は胸腺上皮由来の比較的稀な悪性腫瘍であるが,最近その報告が増加してきている. 1988年4月から1999年12月までに当科で胸腺癌を13例経験し,臨床的に検討を試みた.男性6例,女性7例.年齢は46~76歳.自覚症状にて発見された症例は7例 (54%). 組織学的には扁平上皮癌6例,未分化癌5例,小細胞癌1例,腺癌1例.拡大胸腺全摘および胸腺全摘施行例は6例であり,部分切除あるいは生検にとどまった症例は7例であった. IVb期症例は8例でありその予後は不良であった.完全切除例は6例でありこれらの症例は比較的予後が良好であった.進行病期症例に関しては,手術適応を慎重に選択し,放射線療法,化学療法の術前術後の追加が考慮されるのが望ましい.また,現在全国的な治療プロトコールが存在しないため,各施設にて独自に行われているが,今後は全国規模での試みが必要であると考える.
  • 重政 有, 初瀬 一夫, 青木 秀樹, 大渕 康弘, 相原 司, 入江 敏之, 寺畑 信太郎, 望月 英隆
    2001 年 62 巻 1 号 p. 21-26
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    Angio CT施行時に肝内に門脈CTで楔状の低吸収(wedge-shaped defect;以下WD),動脈CTで同部の濃染という特異な像を呈する場合がある.肝転移巣の詳細な評価のためにangio CTを施行した大腸癌肝転移41例を対象とし, WDの臨床的意義について検討した. 8例に12箇所のWDを認めたが, 8例は全て同時性肝転移症例であった.原発巣の手術日からangio CTまでの期間はWDを認めなかったWD (-)群に比べWDを認めたWD (+)群が有意に短期間で,同時性肝転移症例のみに限った検討でもWD (+)群が有意に短期間であった. WDについて切除肝の病理学的検討を行い得た3例では, 1例に門脈血栓, 1例に門脈血流の一時的停止を示唆する所見である再生結節性過形成性変化を認めた. Angio CTによりWDを認めたのは原発巣切除後早期にCTAPを施行した症例に限られることから,肝内楔状病変の原因は原発巣切除の影響の可能性が高いと思われた.
  • 宮澤 秀彰, 田中 淳一, 安藤 秀明, 吉岡 政人
    2001 年 62 巻 1 号 p. 27-32
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    1998年3月以降,成人鼠径ヘルニア手術24例をmesh plug法で局所麻酔下に行った.全例局所麻酔下で手術を完遂しえた. 85歳以上の超高齢者や,弁置換術後,左肺葉切除後,気管支喘息などリスクのある患者も含まれるが,術中循環動態は安定し,術後重篤な合併症もなかった.また術後頭痛を訴える例はなく,導尿を必要とする例は少数であった.手術直後から歩行,食事摂取可能で,疼痛も坐薬や非ステロイド性消炎鎮痛剤の内服で対処でき, day surgeryも可能であると思われた.退院後のアンケート調査でも,局所麻酔を支持する意見が大多数であり,患者にも容認された麻酔法であった.
    成人鼠径ヘルニア手術に対する局所麻酔は,超高齢者ならびに抗凝固療法を受けている患者をはじめ重篤な併存疾患を有する患者に対し特に有用である.
  • 道清 勉, 吉川 澄, 藤井 眞, 川野 潔
    2001 年 62 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌術後頭蓋骨転移に対して,腫瘍摘出術を行い,長期無再発生存中の1例を経験した.症例は59歳女性で,平成4年11月,肝細胞癌の診断で,肝S4亜区域切除を行った.平成6年2月頭蓋骨転移を認め,カルモフールの投与によって腫瘍は著明に縮小したが,副作用のためカルモフールを中止すると,急速に増大したため,平成8年12月腫瘍栄養動脈の塞栓後,頭蓋骨腫瘍摘出術を行った.その後,現在まで再発の徴候は認めていない.肝細胞癌骨転移の予後は一般に不良であるが,他に転移を認めない場合には,転移巣の切除も選択肢の1つであると思われる.
  • 平能 康充, 渡辺 透, 原田 猛, 山脇 優, 神林 清作, 佐藤 博文
    2001 年 62 巻 1 号 p. 38-42
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の女性.右頸部腫瘤を認め当院受診となった.既往歴として, 10年前に右腎細胞癌に対して右腎摘が施行されている.入院時の頸部超音波検査ならびにCT検査にて甲状腺右葉に腫瘤病変を認めた.また201T1シンチでは同部位にびまん性の集積を認めた.穿刺吸引細胞診の結果はclass IIであった.これらより腺腫様甲状腺腫が疑われたが悪性腫瘍も否定できず,甲状腺右葉切除を施行した.病理組織学的に腫瘍はclear cell carcinomaであった.またサイログロブリン免疫染色が陰性であったため,腎細胞癌の甲状腺転移と診断した.術前後の全身検索で他の臓器に転移を示唆する病変を認めず,甲状腺への孤立性転移であった.腎細胞癌の甲状腺孤立性転移は非常に稀であり,本症例が本邦13例目の報告である.
  • 藤岡 重一, 紙谷 寛之, 菊地 勤, 長尾 信, 若狭 林一郎, 村田 修一
    2001 年 62 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    乳腺原発のカルチノイドは極めて稀であり,本邦においては現在31例が報告されている.症例は45歳,女性で左乳房A領域に1.5×1.0cmの腫瘤を触知した.超音波検査では辺縁凹凸不整な低エコーを示し, CTスキャンでは左前胸壁に平滑な腫瘤を認め腫瘤は乳腺組織からかなり離れて存在していた.摘出生検を施行し, HE染色では小型の腫瘍細胞が小胞巣状,索状に増殖しており,カルチノイドに類似した所見であった.グリメリウス染色ではほとんどすべての腫瘍細胞質内に好銀顆粒が認められ,クロモグラニンA染色で陽性を示し,カルチノイド腫瘍と診断した.しかしながら乳腺原発のカルチノイド腫瘍か他の部位からのカルチノイド腫瘍の乳房内転移かの鑑別は困難であったため, wide excisionに準じ追加切除を施行した.組織学的に異物肉芽腫がみられその周囲に萎縮した乳腺組織が散見されたため乳腺原発のカルチノイド腫瘍と診断した.
  • 本邦報告30例の検討
    泉 俊昌, 藤岡 雅子, 恩地 英年, 岩佐 和典, 北村 秀夫, 岡田 章一, 石田 誠, 山口 明夫
    2001 年 62 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は45歳,女性.乳房痛にて受診,左乳房A領域に17mmの不整形の硬い腫瘤を認めた.マンモグラフィでは微細石灰化を伴う辺縁不整な腫瘤影を,超音波では不整形で分葉状,内部構造不均一な低エコー性の腫瘤を認めた.臨床的には強く悪性を疑うも穿刺細胞診ではClass IVであり,腫瘤摘出術を施行した.組織学的には1.5cmの充実性腫瘍で,腺腔形成を示す乳管上皮の周囲を大型の筋上皮が取り囲んだ部分と筋上皮のみが胞巣を形成している部分が混在していた.乳管上皮はepithelial membrane antigenが陽性,筋上皮はα-smooth muscle actinが陽性であり,乳腺adenomyoepithelioma (AME)と診断された.
    自験例を含めAMEの本邦報告30例を検討した. 50歳以上の中高年の乳腺外側に多く,臨床上は癌と類似した所見を呈しover diagnosisしないことが肝要と思われた.局所再発は4例にみられたが遠隔転移はなく,術式としては乳腺部分切除が適当と考えられた.
  • 山田 雅史, 宮田 昭海, 河合 紀生子, 川野 洋治
    2001 年 62 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は41歳の女性で,平成9年11月頃から左乳房のCD領域の腫瘤に気づき,徐々に大きくなったため,平成10年4月6日来院した.左乳房のCD領域に1.5×1.5cmのやや境界不明瞭な弾性硬の腫瘍を触知し, AC領域にも2.0×1.7cmの境界明瞭な弾性軟の腫瘤を触知した.いずれも術中迅速病理検査では良悪の判定が困難で手術を中止した.永久病理検査で, CD領域の腫瘍は,乳腺には思いもかけない澄明細胞汗腺腫であった. AC領域の腫瘍は,過誤腫であったが, sclerosing adenosis類似の組織像を伴い,一部脂肪組織の巻き込み像を認め,乳癌と紛らわしい組織像を呈した.
    迅速病理検査で疑問が残った場合,永久病理検査の結果を待ち,過大な手術とならないことが重要である.
  • 森脇 義弘, 山崎 安信, 渡部 克也, 望月 康久, 牧野 達郎, 須田 嵩, 竹村 浩
    2001 年 62 巻 1 号 p. 58-62
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    50歳女性,閉経前.左乳房腫瘤を自覚し当科を受診,左乳房A領域に2cmの柔らかい腫瘤,左腋窩に軟らかいリンパ節を触知した. T1N1aMXの診断で,胸筋温存乳房切除術(Bt+Ax)を行った.腫瘍は1.5×1.2cmの小腫瘤で,組織学的には, invasive ductal carcinoma, solid-tubular, f+, t1n0と診断された.腫瘍が小さく, estrogen receptor, progesterone receptorは検討できなかった.術後, 5-FU, tremifeneの化学療法を行っていたが, 10カ月後手術創付近皮膚に再発を認め,局所に電子線照射を施行した.術後11カ月に施行した全身骨シンチグラフィでは多発性骨転移も認めた. 5-FU+epir-ubicin+cyclophosphamideの化学療法を施行したが,術後13カ月には頭痛,意識障害,痙攀も出現し再入院となった.頭部CT検査で異常はなかったが,頸部硬直を認め,髄液細胞診でClass V,髄膜播種転移と診断され,以降急激に全身状態が悪化し入院9日後に癌死した.
  • 館花 明彦, 福田 直人, 山川 達郎, 宇井 義典, 酒井 滋, 福間 英祐
    2001 年 62 巻 1 号 p. 63-66
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,女性. 38歳時,他医にて右乳癌に対し定型的乳房切除術を施行された(浸潤性乳管癌T2, NO, MO, stage II).当院へは49歳時に乳癌両肺転移,癌性胸膜炎にて入院, CMF療法を施行し軽快した.平成11年3月,腹満感の出現と腹水の貯留を認めたが,腹水細胞診ではClass Iであった.しかし,腫瘍マーカーの上昇と左卵巣の腫瘍所見より乳癌の卵巣転移と診断し, CAF療法を施行したが,腹水の増加,左卵巣腫瘍の増大と腹満感の憎悪をきたし,平成12年3月に卵巣腫瘍摘出術施行した.左卵巣腫瘍は15×10×9cm,弾性硬で分葉状,被膜を有し割面は灰白色で充実性.乳癌の卵巣転移と病理組織診断された.なお,術中採取の腹水細胞診では悪性細胞は認めなかった.術後は順調に経過し退院し,現在のところ他臓器転移や腹水の再貯留はない.
  • 鈴木 聡, 三科 武, 二瓶 幸栄, 山崎 哲, 皆川 昌広, 松原 要一
    2001 年 62 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性. 1998年9月胃癌(por, se, n2, stage IIIb)に対し,胃全摘,膵脾合併切除術(根治度B)を施行した.術後6カ月目に腹膜播種のため化学療法を施行し一時的に腹腔内腫瘤の消失をみたが,術後7カ月目に急速に増大する右乳房腫瘤を自覚して来院.乳腺全体をしめる5.8×4.8cmの弾性硬,可動性のない腫瘤で,胃癌の乳腺転移を疑い定型的乳腺切除術を施行した.切除標本の免疫組織学的検索で胃癌の乳腺転移と診断した.患者は乳腺転移出現後2カ月で胃癌の腹膜播種の増悪で死亡した.転移経路は胃癌のリンパ行性転移が示唆された.
  • 合川 公康, 大崎 敏弘, 宗 哲哉, 吉松 隆, 矢野 公一, 安元 公正
    2001 年 62 巻 1 号 p. 72-75
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    降下性壊死性縦隔炎descending necrotizing mediastinitis (以下DNM)は,口腔咽喉頭領域の感染症から発症,縦隔内へ波及し,しばしば致死性の感染症となる疾患概念である.今回われわれは前縦隔まで波及した症例に対して頸部ドレナージを(症例1),また後縦隔まで波及した症例に対して,開胸下縦隔膿瘍切開ドレナージ術を行った(症例2).さらに, 2症例とも多量の胸水貯留および無気肺を認めたため,胸腔ドレーンを挿入し,無気肺および肺感染症の治療,予防を行った. DNMに対する治療は,その病巣範囲に則した適切なアプローチで行うドレナージが重要であると考えられた.
  • 内藤 浩之, 呑村 孝之, 高橋 忠照, 尾崎 慎治, 舛本 法生, 加藤 良隆
    2001 年 62 巻 1 号 p. 76-80
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    上半身深部静脈血栓症は稀であり,全深部静脈血栓症のうち1~4%に過ぎない.これまでにわれわれは,上半身深部静脈血栓症を6例経験した.男性1例,女性5例,基礎疾患として,乳癌,胃癌, S状結腸癌,卵巣癌,気管支喘息などがあり,凝固異常は2例,下肢深部静脈血栓症との合併は3例であった.肺塞栓症は2例に認められ,そのうちの1例に上大静脈へのフィルター留置を行った.上半身深部静脈血栓症も,下肢のそれと同様に抗凝固療法は必須で,抗凝固療法禁忌の症例,血栓再発を繰り返す症例,凝固異常が認められる症例,肺塞栓症が認められる症例などには,積極的に上大静脈にフィルターを留置するべきである.また,上半身深部静脈血栓症は高頻度に悪性腫瘍を合併しているため,全身的精査を行うべきである.
  • 山本 尚人, 海野 直樹, 三岡 博, 内山 隆, 斉藤 孝晶, 中村 利夫, 鈴木 昌八, 今野 弘之, 中村 達
    2001 年 62 巻 1 号 p. 81-84
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.腹部拍動性腫瘤・肝腫瘍の精査および治療のため入院となった.入院後の諸検査から腹部大動脈瘤(AAA),肝細胞癌(HCC)と診断され,さらに上部消化管内視鏡で胃癌が発見された.動脈瘤切除・Y字型人工血管を用いた血行再建および幽門側胃切除術を一期的に施行した.術後29病日にHCCに対する経カテーテル的塞栓化学療法(TAE)を行った後,経皮的エタノール注入療法(PEIT)を追加し,順調に経過し軽快退院した.腹部消化器悪性腫瘍を合併したAAAにおいては,各疾患の状況を総合して治療方針を選択する必要があると考えられた.
  • 宮原 栄治, 山下 芳典, 清水 克彦, 平井 敏弘, 峠 哲哉
    2001 年 62 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.咳嗽を主訴に受診し,精査にて左上葉原発の扁平上皮癌と診断された.術前精査にて左主肺動脈根部に浸潤を認めたため治癒切除は困難と判断し,シスプラチン,ビンデシンによる術前化学療法を2コース施行した.左肺動脈根部への浸潤が消失し同部での切離が可能となったため左肺摘除術により完全切除となった.摘出標本の組織学的検索では, B1+2区域気管支周囲リンパ節に低分化型扁平上皮癌の転移が認められ一部は肺動脈外膜に浸潤していたが,腫瘍中心部原発巣には腫瘍細胞は認められなかった.術前化学療法の組織学的効果はEf. 2であった.術後3年が経過した現在,再発を認めていない.術前化学療法が局所制御に有効であり,微小転移巣の制御に有効であったと推察される.
  • 高橋 克行, 森田 裕人, 土用下 和之, 丸野 要, 宮島 伸宜, 酒井 滋
    2001 年 62 巻 1 号 p. 90-93
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    われわれは術前CODE療法,放射線療法および温熱療法にて切除しえた正岡分類IVb期の浸潤型胸腺腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
    症例は33歳,女性.右前胸部腫瘤を主訴に来院,精査にて浸潤型胸腺腫,肺転移,縦隔臓器浸潤を伴う正岡分類IVb期の診断にて入院,生検にてthymoma, mixed cellular typeと診断された.術前にCODE療法,放射線療法および温熱療法を施行したところ腫瘍は著明に縮小し,拡大胸腺胸腺腫摘出術を施行.腫瘍は大部分が硝子化していた.
  • 森藤 雅彦, 浜中 喜晴, 平井 伸司, 宮崎 政則, 中前 尚久
    2001 年 62 巻 1 号 p. 94-98
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    中皮腫は漿膜最上層のmesothelial cellを発生母地とする腫瘍である.われわれは,肉眼的に限局した形態で発見された悪性胸膜中皮腫の1例を経験したので報告する.症例は57歳,男性.胸部異常陰影にて入院した.精査にて横隔膜原発腫瘍を疑い胸腔鏡下切除術を施行した.術中迅速病理にて悪性所見を認め,肺,横隔膜にも浸潤していたため右肺下葉,横隔膜の一部を合併切除した.術後の病理組織検査にてmalignant mesotheliomaが疑われ,免疫組織学的検討にてCytokeratin陽性, Vimentin陽性, CD34陰性であった.その後2度局所再発し,手術と化学療法を施行し,現在外来通院中である. malignant mesotheliomaは診断が困難であるが,他疾患との鑑別に免疫組織学的検索が非常に有用である.現在本疾患に対する有効な治療法はなく,予後も極めて不良と言われる.新たな治療法の解明のためにも他疾患との明確な鑑別診断が必要と考える.
  • 進藤 久和, 木田 晴海, 新海 清人, 久野 博, 綾部 公懿
    2001 年 62 巻 1 号 p. 99-102
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    肋骨原発軟骨肉腫に対し広範囲切除後,胸壁再建術を行った1例を経験した.病理学的検査で,比較的稀な脱分化型軟骨肉腫と診断された.症例は44歳男性で,左前胸部の腫瘤と疼痛を主訴に近医を受診,精査後,軟骨肉腫を疑われ,当科に紹介入院となった.腫瘍は左第6肋骨原発で上下肋骨とともに,浸潤が疑われた左肺舌区,横隔膜,心嚢を合併切除した.絹糸による固定と,前胸部から側胸部に及ぶ16×15cmの骨性胸郭の欠損部を,整形が容易で,異物反応が少ないMarlex meshを用いて胸壁再建術を行った.腫瘍は12×8×11cm大で分化型軟骨肉腫組織と線維肉腫組織がみられ,それぞれが明瞭な境界を有して共存しており,脱分化型軟骨肉腫(dedifferentiated chondrosarcoma)と診断された.術後の呼吸機能や上肢の運動機能は良好で,治癒切除と考えられたが,左胸腔内に再発をみとめ,術後約5カ月で死亡した.
  • 林 智彦, 二宮 致, 伏田 幸夫, 西村 元一, 太田 哲生, 三輪 晃一
    2001 年 62 巻 1 号 p. 103-107
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    発症後13日目の手術により救命しえた肝硬変合併食道破裂の1例を報告する.症例は53歳男性.アルコール性肝硬変,胃潰瘍の既往を認める.飲酒後吐血し転倒していたところ近医へ担送された.当初,出血性胃潰瘍として加療されたが,入院4日目の胸部CTおよび食道X線透視により食道破裂と診断された.胸腔ドレナージによる保存的治療が行われたが全身状態が悪化し,発症13日目に当院転院となり緊急手術を施行した.胸部下部食道左壁に約3cmの破裂部位を認めた.食道破裂部直接縫合術と術中術後の胸腔内持続洗浄により救命し,術後38日目に退院となった.本症例は発症より長時間経過し,かつ肝硬変を合併していたにもかかわらず致命的な合併症を免れた.この事から,術後10日間の胸腔内持続洗浄が術後の感染制御に有効であったと考えられる.
  • 河内 保之, 多田 哲也, 畠山 勝義
    2001 年 62 巻 1 号 p. 108-112
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    Upside down stomachを呈する食道裂孔ヘルニアに総胆管結石を合併した先天性胆嚢欠損症が併存した1例を経験した.症例は76歳女性で胆石症の診断で入院した.入院時胸部X線検査で水平面を有するガス泡を縦隔に認めた.上部消化管造影検査ではupside down stomach型の食道裂孔ヘルニアを認めた.腹部超音波・CT検査で胆嚢は同定されなかった.内視鏡的逆行性膵胆管造影では総胆管結石を認め,胆嚢・胆嚢管は造影されなかった. Upside down stomach型食道裂孔ヘルニア,総胆管結石,高度萎縮胆嚢の診断で手術を行った.手術所見では食道裂孔の開大,ほぼ全胃の縦隔への脱出・軸捻転,総胆管の拡張・結石,胆嚢・胆嚢管の欠損を認めた.ヘルニア嚢の切除,食道裂孔の縫縮,胃底部横隔膜固定,総胆管切石,総胆管十二指腸吻合を行った.術後経過は良好で第18病日に退院した.
  • 中崎 隆行, 能村 正仁, 谷口 英樹, 中尾 丞, 栄田 和行, 高原 耕
    2001 年 62 巻 1 号 p. 113-116
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    乳癌からの胃転移は比較的稀である.今回,乳癌からの胃転移の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は54歳女性で1993年に左乳癌にて胸筋温存乳房切除術を受けている.心窩部痛のため近位受診し,胃癌の診断を受け当院紹介となった.上部消化管造影,胃内視鏡検査では,胃体部にびらんを伴う隆起性病変を認めた.生検では低分化腺癌の診断であった.原発性胃癌の診断にて胃切除術を行った.病理所見で腫瘍は主に粘膜下層に浸潤し,乳癌の組織像と類似性があることより乳癌からの胃転移と考えられた.
  • 吉田 直優, 伊藤 英夫, 角 泰廣, 山田 卓也, 尾関 豊
    2001 年 62 巻 1 号 p. 117-120
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    粘膜下層での静脈侵襲のため,粘膜下腫瘍様の形態を示した早期胃癌を経験したので報告する.症例は68歳男性.検診で胃の異常を指摘され,近医で胃X線検査を受けた.胃体中部後壁に,中心に点状のバリウムが貯留し,周囲が隆起した大きさ約1.5cmの病変を認めた.内視鏡検査で隆起部の粘膜は保たれており,中心の陥凹部に顆粒状の変化を認めた.生検はGroup IIIであった.早期胃癌の疑いで胃体部分節切除術を施行した.腫瘍はなだらかに隆起し,陥凹部分は隆起粘膜の一部のみで全体的に粘膜下腫瘍様の形態を呈していた.病理検査でpor1, pT1 (SM), med, INFα, ly0, v3, pN0であった.隆起の原因は癌の粘膜下層での静脈侵襲によるものであった.術後経過は良好で, 10カ月の現在無再発生存中である.
  • 永井 盛太, 岡田 喜克, 町支 秀樹, 堀 智英
    2001 年 62 巻 1 号 p. 121-124
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.入院1カ月前より食思不振を認め,悪心嘔吐を伴うようになり,当科受診.理学的には,四肢の浮腫と腹水を認め,上腹部に小手拳大の腫瘤を触知.血液生化学検査では,軽度の貧血と著明な低蛋白血症を認めた.胃透視・内視鏡検査にて,胃体部から幽門部の大彎側に最大径10cm大の表面不整な分葉状を呈する巨大な隆起性腫瘍を認め,生検では低分化型腺癌であった.蛋白の補給を行うも低蛋白血症は改善せず,蛋白漏出性胃症を伴う1+IIa型の進行胃癌と診断し,膵温存脾合併胃全摘術, 2群リンパ節郭清を施行.腫瘍は12×10×5cm大の分葉状の隆起性腫瘍であり,病理組織学的には,間質の増生を伴って分化傾向の乏しい好酸性の細胞質を持つ印環細胞癌であった. ss, ly3, v1, infγ, n2, stage IIIAであった.術後経過良好であったが,術後1年6カ月目に腫瘍死した.
  • 塚山 正市, 平野 誠, 村上 望, 宇野 雄祐, 野沢 寛, 橘川 弘勝
    2001 年 62 巻 1 号 p. 125-131
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    白血病に合併した胃癌の2例を経験したので報告する.症例1は51歳男性で,検診で胃の異常を指摘され,精査中に白血球増多から慢性骨髄性白血病(CML)と診断された. CMLの治療を先行し慢性期に早期胃癌に対し手術を施行した.症例2は72歳男性で,急性骨髄性白血病(AML)の再燃で,化学療法予定中に胃内視鏡検査で進行胃癌を認めた. AMLは再燃早期で,出血傾向を認めなかった為,胃癌に対する手術を先行した.症例1, 2とも術後合併症は認めず,経過は良好で白血病の急性増悪も認めなかった.白血病と胃癌の合併は稀である.一般にAMLの寛解期, CMLの慢性期であれば手術可能である.しかし,再燃期においても症例2のように手術可能な場合があり,治療にあたっては,個々の症例における白血病の病状と胃癌の進行度により手術適応や手術時期を慎重に判断することが肝要である.
  • 禰宜田 政隆, 佐藤 榮作, 山下 克也, 藤竹 信一, 高橋 清嗣, 青木 英明
    2001 年 62 巻 1 号 p. 132-137
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    先天性十二指腸膜様狭窄の1成人例を経験したので報告する.患者は23歳の男性.生後より月に1回程度の嘔吐を繰り返していたが,成長には特に問題はなかった.平成9年8月下旬より嘔気,嘔吐あり近医より紹介され当院受診. UGIでは十二指腸球部拡張著明. GIFでは十二指腸に幽門輪様の管腔がみられたが内視鏡挿入不能. CTでは輪状膵などの所見はみられず,胆道,十二指腸造影では十二指腸狭窄部に総胆管および膵管の開口部あり.先天性十二指腸膜様狭窄が疑われ,乳頭損傷を避けるためバイパス手術予定.狭窄部には腸管壁様の隔壁を認め,乳頭部は幽門輪様の管腔内に存在し確認不能.同部は温存し十二指腸十二指腸吻合術施行した.先天性十二指腸膜様狭窄は主に小児にみられる疾患であり,本症例の様に成人例は極めて稀と思われるが,成人の十二指腸狭窄でも本症例の可能性を考慮する必要がある.術中内視鏡が確定診断に有用であった.
  • 吉川 智道, 菅 優, 高坂 一, 山口 浩史, 木村 雅美, 福井 里佳, 井上 大成, 平田 公一
    2001 年 62 巻 1 号 p. 138-143
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,女性.既往歴, von Recklinghausen病(R病).平成10年4月21日腹痛を主訴に受診,胆石症の診断にて同年5月6日腹腔鏡下胆嚢摘出術施行.術中に十二指腸近傍に大網に埋もれる形で径1.5cmの腫瘤を認め術中穿刺生検を施行した.病理組織学的検索の結果,非上皮性腫瘍でCD34は陽性,平滑筋様構造を認めるがsmooth muscle actinは陰性でありGISTと診断された.術後の腹部CT検査にても十二指腸近傍に腫瘤の存在を確認した.患者の希望にて経過観察となり,確診時より1年4カ月後に開腹手術を施行した.腫瘍は十二指腸下行脚に存在し十二指腸局所切除を施行した.切除標本の病理組織学的検索にてGIST, uncommitted typeと診断された.従来よりR病に消化管非上皮性腫瘍合併の報告をみるが比較的新しい疾患概念であるGISTとしての検索を行った症例報告は少なく,当該症例は6例目である.
  • 中村 敏夫, 山崎 信保, 三木 明, 谷木 利勝, 福井 康雄, 山川 卓
    2001 年 62 巻 1 号 p. 144-148
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は56歳男性. 1999年3月初旬より皮膚の黄染に気づき,近医受診後当院を紹介され入院となった.腹部CTで膵頭部に腫瘤像を認め,胆道造影で総胆管の狭小化と膵内レベルでの閉塞を認めた.上部消化管造影と内視鏡検査で十二指腸下行脚上部の著明な狭窄を認めた.生検診断は中分化型腺癌であった.減黄処置の後膵頭十二指腸切除術が施行され,標出標本では十二指腸下行脚上部に潰瘍を伴う腫瘍を認めこれが膵頭部に浸潤していた.病理診断は中分化型腺癌で十二指腸癌の膵頭部浸潤であった.癌細胞は免疫組織学的に抗CA19-9抗体に強く染色された.術前血清CA19-9は高値(500U/ml)であったが術後に正常化した.術後8カ月に再発をきたし,その進行とともにCA19-9値は上昇した. CA19-9と十二指腸癌との関係を論じた報告は少ないが,これら報告とあわせCA19-9は十二指腸癌診断および経過観察のための指標の1つとなりうる可能性があると考えられた.
  • 玉井 文洋, 松山 晋平, 平松 健児, 一本杉 聡, 三宅 昌, 二見 哲夫
    2001 年 62 巻 1 号 p. 149-153
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    日常診療において腸閉塞に遭遇することは多い.その原因として稀ではあるが虚血性小腸炎がある.今回,急性期虚血性小腸炎の2手術例を経験したので本邦報告48手術例とともに報告する.症例1・2ともに高齢男性.症例1は諸検査にて絞扼性イレウスを否定できず緊急手術を行い,症例2は前医からの経過で全身状態悪化傾向にあり緊急手術を行った. 2症例ともに遠位回腸に虚血所見を認め切除を行った.虚血性小腸炎は腹痛・消化管出血にて発症し,腸閉塞を呈す.その後一時的な改善を認めるものの,慢性経過にて狭窄にいたり,腸閉塞の再発となる.急性期においては,特徴的所見に乏しく診断に苦慮するが,虚血性小腸炎の特徴をふまえ,CT画像にてその診断に結びつけることも不可能ではない.絞扼が否定できない場合や全身状態に悪影響を及ぼしている場合は緊急手術が必要となるが,急性期保存的加療後,次の腸閉塞発症前に腹腔鏡下・腹腔鏡補助下の腸切除術を行うことが理想かと思われる.
  • 井上 慎吾, 安留 道也, 山田 治樹, 宮坂 芳明, 國友 和善, 江口 英雄
    2001 年 62 巻 1 号 p. 154-157
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    日本では比較的稀とされる非閉塞性腸管虚血症(NOMI)を発症したと考えられる78歳の女性を経験したので報告する.患者は直腸癌術後の吻合部再発に対し後方骨盤内臓全摘術が施行された.その後ストマ壊死のため術後6日目に開腹術を施行した際,空腸に2カ所,回腸に1カ所限局性の壊死病変を認めたため,ストマ再造設,小腸部分切除術を施行した.切除標本では,ストマは中結腸動脈左枝の血栓性閉塞による壊死であったが,小腸には明らかな閉塞所見はなく, 3カ所の壊死部は非連続性であったことからNOMIを強く疑った.本疾患の治療の主体はパパべリンの上腸間膜動脈からの持続動注療法である.しかし早く発見できず,腸切除が施行される場合が多く,合併する基礎疾患のため,致命率は極めて高い.本症例も術後74日目に全身状態不良で死亡した.今後この疾患の存在を認識するとともに早期発見の手段を講じる必要がある.
  • 生田 真一, 登内 仁, 尾嶋 英紀, 岩永 孝雄, 三木 誓雄
    2001 年 62 巻 1 号 p. 158-162
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,男性である.過去2回下血にて精査したが,出血源不明であった.今回,腹痛と下血を主訴に当科に入院した.出血シンチグラフィで左下腹部に異常集積がみられ,上腸間膜動脈造影では回腸動脈の末梢枝に血管外漏出像を認めた.マイクロコイルを併用した動脈塞栓術を施したのち,開腹手術を施行した.術中X線透視下にコイルを検索し出血部位を同定,回盲弁から約50cmの部位の回腸を部分切除した.切除標本では露出血管を伴った境界明瞭な潰瘍を認め,病理組織学的には非特異性炎症性潰瘍の像が認められ,回腸単純性潰瘍と診断した.
    小腸の出血性病変に対しては,通常の消化管造影や内視鏡検査では出血部位の同定に難渋することが多い.出血シンチグラフィや血管造影は,出血源不明の消化管出血に対し,診断のみならず治療にも有用なstrategyになりうると考えられた.
  • 梶田 剛司, 川西 勝, 中田 浩一, 金平 永二, 大村 健二
    2001 年 62 巻 1 号 p. 163-166
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性. 35年前に胃潰瘍に対し胃切除術, BillrothII法による再建術が施行された. 1997年8月,肺低分化型腺癌に対し左上葉切除,肋骨合併切除術(P-T3N0M0, stage IIIA)および術後放射線療法が施行された. 1998年9月10日より下血が出現し当科を受診.上部消化管内視鏡検査にて,胃空腸吻合部近傍の輸出脚に出血性病変を認め,同部の生検より腺癌と診断され,手術を施行した.開腹にてTreitz靭帯より20cmの輸出脚に約7cmの腫瘤を認めた.腫瘤は横行結腸へ浸潤しており,胃空腸吻合部を含めた小腸部分切除.残胃部分切除術,横行結腸合併切除を施行した.輸出脚に存在した病変は,病理組織学的に低分化型腺癌であり,肺癌からの転移と診断された.小腸転移巣切除23カ月後の現在,再発なく外来にて経過観察中である.
  • 野本 一博, 島多 勝夫, 増山 喜一, 田近 貞克, 辻 政彦, 塚田 一博
    2001 年 62 巻 1 号 p. 167-171
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は79歳女性.便秘,右下腹部痛を主訴に当院を受診した.諸検査にて急性虫垂炎,盲腸腫瘍等が疑われ,入院となった.保存的治療後,自他覚症状が改善し,精査を進めた. CTでは虫垂の拡張,盲腸内腔に突出する腫瘍像を認めた.大腸内視鏡検査では虫垂開口部付近に易出血性の,中心に陥凹を伴う絨毛状の隆起性病変を認め,生検でGroup 4の診断を得た.原発性虫垂腺癌を疑い,回盲部切除術を施行した.病理組織学的所見では腫瘍の主体は管状絨毛腺腫で,散在性に高分化腺癌の部分を認め,根部付近では一部粘膜下層に癌組織を認めた.以上より,原発性早期虫垂腺癌と診断した.諸検査で虫垂癌が疑われる場合には,積極的に大腸内視鏡検査を施行し,大腸内視鏡検査で虫垂開口部の隆起性病変,はち巻きひだ,粘膜下腫瘍様の隆起を認めた時は,虫垂癌を疑うべきであると考えられた.
  • 西原 政好, 藤本 高義, 池永 雅一, 冨田 尚裕, 伊澤 光, 金井 俊雄
    2001 年 62 巻 1 号 p. 172-176
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    同時性大腸多発癌に併存した腹膜偽粘液腫を伴う虫垂粘液嚢胞腺癌の1例を経験したので報告する.症例は68歳男性.下血を主訴に当科を受診した.大腸内視鏡検査にて直腸(Rb)に2型病変, S状結腸に2型病変とIsp病変を認めた.術中所見で腹膜偽粘液腫を伴った虫垂腫瘍を認めたため,手術は腹会陰式直腸切断術と虫垂切除術を行った.組織学的所見にて虫垂は粘液嚢胞腺癌と, S状結腸の2病変,直腸病変のすべてが高分化腺癌で,深達度はそれぞれse, m, mpと診断された.さらに切除標本にてmicrosatellite instability (MSI)の検出によるDNA複製エラーの解析を行ったが,陰性であった.腹膜偽粘液腫を伴った虫垂癌と大腸癌の併存例の報告は,われわれの検索しえた範囲では本邦3例目であり,極めて稀な症例であると考えられた.
  • 川島 邦裕, 森 秀暁, 藤井 徹也, 花岡 俊仁, 石田 数逸, 三原 康生, 白川 敦子
    2001 年 62 巻 1 号 p. 177-181
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    S状結腸憩室が腸間膜側にて穿通し結腸間膜内糞便腫瘤を形成した2例を経験したので報告する.症例1は86歳の女性で腹痛,嘔気のため,当院受診した.腹部CT検査にて,骨盤内の脂肪織内にfree airがみられ,腸管外と思われる部位に多量の便塊が貯留していた.下部結腸の穿孔による汎発性腹膜炎を疑い,緊急開腹術を施行した. S状結腸間膜内に糞便の貯留を認め, Hartmann手術を行った.症例2は75歳の男性で腹痛のため救急車にて当院受診した.腹部CT検査で症例1と同様の所見であり,汎発性腹膜炎を疑い開腹術を施行した. S状結腸間膜内に糞便の貯留を認めHartmann手術を行った. 2例とも組織学的に憩室炎による穿孔と診断され,術後の経過は良好であった.間膜内に穿通する結腸憩室穿孔は,稀な病態であるが,炎症が比較的限局するため早期に適切な治療を行えば,予後良好と思われた.
  • 野沢 直史, 大谷 剛正, 国場 幸均, 荒井 義孝, 井原 厚, 柿田 章
    2001 年 62 巻 1 号 p. 182-186
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は33歳の女性. 23歳時より下痢,下血認め, 27歳時に他院で潰瘍性大腸炎と診断されているが転院をくり返し,仙骨部の疼痛出現後6カ月目に当院紹介入院となる.
    術前精査で多発性肝転移,潰瘍性大腸炎,直腸癌(Rs~b)が判明した.
    手術は,回腸末端部を含めた結腸全摘,腹会陰式直腸切断術,上方D3・側方D2郭清,回腸単孔式人工肛門造設術を施行.直腸癌は長径10cm大の3型様であり,回腸に直接浸潤を認めた.病理組織所見は中分化型腺癌, ly2, v3, n2であり周囲にdisplasiaを伴い,全大腸炎型の潰瘍性大腸炎であった.
    術後23日目に5FUとMMCによる全身的化学療法を2クール施行し退院したが,術後140日目に脳転移判明し,術後203日目に死亡した.今回の症例を経験し,潰瘍性大腸炎の長期経過例では定期的な大腸鏡検査でdisplasiaの存在を監視し,癌を早期に診断し治療すべきと思われた.
  • 上野 公彦, 阿部 道夫, 佐藤 俊, 和田 靖, 川口 信哉, 新谷 史明
    2001 年 62 巻 1 号 p. 187-191
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    胃切除後の癒着性イレウス術後,ステント用として留置したイレウス管が誘因で発症した小腸重積症の手術症例を経験したので報告する.症例は70歳男性.胃切除術後85日目にイレウス発症し入院.イレウス管留置の上保存的療法行うも改善せず,入院後17日目に手術施行.術後3日目にイレウス管抜去.抜去後嘔吐と軽度の腹痛持続.術後7日目に造影施行. Treitz靱帯よりやや肛門側の部位に狭窄認めた.術後8日目に施行したCTにて同部位の腸重積が疑われさらに造影検査でその肛門側にも狭窄部位を認めたため術後9日目再手術施行. Treitz靭帯より10cm肛門側の部位と120cm肛門側の部位にそれぞれ順行性3筒性の腸重積を認めたため2箇所の腸切除を行った.イレウス管留置の際,頻度は低いが腸重積の合併も念頭に置くべきであると考えられた.
  • 増山 喜一, 島多 勝夫, 魚谷 英之, 田近 貞克, 辻 政彦, 松能 久雄
    2001 年 62 巻 1 号 p. 192-196
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは左副腎皮質癌内への転移を認めた直腸癌の1例を経験したので報告する.症例は47歳,女性,便通異常,血便を主訴に近医受診し,大腸内視鏡検査にて直腸癌を指摘され手術目的にて当院入院となる.術前のCT-scanにて左副腎皮質腫瘍を認める. 1998年7月29日低位前方切除術,左副腎腫瘍,子宮・両側付属器摘出術を施行した.手術所見はRaRs, circ, 3型, Si (uterus), N4(+), P2, H0, M (-), Stage IVで,大動脈周囲リンパ節に転移著明で完全郭清は不能であり, D2 Cur Cのpalliative operationとなった.術後の病理検索にて左副腎腫瘍は副腎皮質癌であり,その腫瘍内に直腸癌の転移巣を認めることが判明した.術後CDDP, 5FUおよびPSKによる免疫化学療法を施行した後,退院とし現在外来通院治療中である.
  • 伊勢 憲人, 安藤 秀明, 古屋 智規, 佐藤 勤, 斉藤 由理, 小山 研二
    2001 年 62 巻 1 号 p. 197-200
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    赤痢アメーバ症と診断に難渋し救命しえなかった1例と,血清検査で確定診断し,抗アメーバ薬投与にて良好な結果を得た1例を報告する.症例1,主訴:発熱・右下腹部痛.腹部US,腹部CTにて盲腸周囲膿瘍,肝膿瘍の診断となり,経皮的肝膿瘍ドレナージ(PTAD),回盲部切除術行うも多発肝膿瘍による肝不全にて死亡.剖検で肝膿瘍に赤痢アメーバが証明された.症例2,主訴:発熱・右上腹部痛・粘血便.腹部CT上肝右葉に膿瘍を認めPTAD施行.膿汁は暗赤色,無臭であった.穿刺液および糞便からは赤痢アメーバは検出されなかったが,血清検査で赤痢アメーバ抗体が陽性であったため,抗アメーバ薬投与.これにより膿瘍腔は縮小,解熱し退院した.赤痢アメーバ症は血清検査での診断が有効である.赤痢アメーバ症の診断がつけば,抗アメーバ薬が著効するため,難治性肝膿瘍ではアメーバ血清検査を考慮すべきである.
  • 塩原 栄一, 増田 裕行, 仲井 淳
    2001 年 62 巻 1 号 p. 201-205
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は78歳の女性. 77歳時に他院にて浸潤性胸腺腫の診断で胸腺亜全摘出術および放射線治療を受けている. 1999年9月腹部CTにて肝S4の腫瘍を指摘され,精査加療目的に入院した.画像上,孤立性の腫瘍で経皮針生検にて胸腺腫肝転移と診断し, 11月肝左葉切除術を施行した.摘出標本は4.0×3.5×2.7cmの充実性腫瘍で病理所見は原発巣と同様の混合型胸腺腫と診断された.術後8カ月を経過しているが再発無く健在である.
    浸潤性胸腺腫の胸腔外転移は稀とされている.予後は不良であるが治療後3年の生存が見られた報告例もあり,手術,化学療法を含めた集学的な治療が必要である.
  • 永田 直幹, 柴尾 和徳, 日暮 愛一郎, 平田 敬治, 中山 善文, 伊藤 英明
    2001 年 62 巻 1 号 p. 206-211
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    脾過誤腫は比較的稀な疾患で本邦では約50数例の報告がなされている.今回われわれは脾過誤腫に対して腹腔鏡下脾臓摘出術を施行したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は40歳男性.健康診断で脾腫瘍を指摘され精査目的で入院となった.腹部超音波検査およびCT検査では低エコー像と低吸収域を認め, MRI検査ではT1・T2強調とも低信号であった.腹部血管造影検査では脾臓に約4cm大のhypovascular massが認められた.画像所見では確定診断は難しく,悪性腫瘍も否定できないため腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した.摘出標本は赤脾髄型の脾過誤腫であった.脾過誤腫は組織型の多様性から画像所見が様々で,術前に鑑別がつくのはなかなか困難である.しかし良性腫瘍であるため術前診断が可能であれば脾臓温存も考慮に入れなければならず,今回手術侵襲のことなどを考慮して腹腔鏡下脾臓摘出術を選択した.
  • 内藤 明広, 川原 勝彦, 岩田 宏, 安藤 由明, 羽田 裕司
    2001 年 62 巻 1 号 p. 212-215
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は53歳女性で,他院において他疾患の精査中に腹部CTで左副腎腫瘍を指摘され,当院を受診した.副腎の内分泌学的検査では異常を認めなかった.諸精査にて,左副腎腫瘍,腹壁瘢痕ヘルニア,左下肢静脈瘤と診断され,手術を施行した.摘出された副腎腫瘍は境界明瞭で薄い被膜で覆われ,径7.5cmであった.組織学的には,腫瘍組織は脂肪細胞が主体を占め,骨髄成分が散在し,副腎myelolipomaと診断された.術後経過は良好であった.本疾患について考察を加え報告する.
  • 小川 達哉, 田中 直行, 小森 俊昭, 柴野 成幸, 椿 昌裕, 砂川 正勝
    2001 年 62 巻 1 号 p. 216-220
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は, 29歳女性.下腹部痛を主訴として,近医受診し,鎮痛剤および点滴等の治療を受けたが症状の改善がみられず,当院産婦人科受診となった.婦人科にて骨盤内腹膜炎疑いで保存的加療を行ったが,症状は悪化し当科紹介となった.腹部CT検査により,子宮筋腫および膀胱子宮間に存在する索状物による絞扼性イレウスを疑い緊急手術を施行した.術中所見では子宮筋腫と膀胱との間に索状物が存在し,回盲部の高度炎症および回腸末端から口側約110cmにわたる小腸壊死を認めた.子宮筋腫と膀胱との間に索状物があり,子宮膀胱間を連結し,膀胱子宮窩がヘルニア門となり絞扼性イレウスが生じたものと考えられた.この索状物は,中腎傍管が癒合し子宮広間膜を形成する際に形成されたものであろうかと推測された.
  • 田畑 智丈, 森浦 滋明, 小林 一郎, 平野 篤志, 石黒 成治, 松本 隆利
    2001 年 62 巻 1 号 p. 221-224
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,男性.突然発症した腹痛と嘔吐を主訴に来院した.腹部CT検査にて絞扼性イレウスと診断し緊急手術を施行した.開腹所見では回盲部腸間膜の異常裂孔に回腸が嵌入,捻転し壊死に陥っていた.回腸約250cmを切除し,術後経過は良好であった.小腸腸間膜裂孔ヘルニアは内ヘルニアに属する比較的稀な疾患である. 1972年以降の本邦報告81例を集計し,文献的考察を加えて報告する.
  • 榊 芳和, 阪田 章聖, 木村 秀, 須見 高尚, 渡辺 恒明
    2001 年 62 巻 1 号 p. 225-230
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は41歳の女性で,上腹部痛を主訴として入院した.入院後, 38.5℃の発熱,水様下痢がみられ腹痛は持続性・進行性であり, CT検査で胃・十二指腸の著明な拡張と腸管壁の肥厚像・内腔の狭窄所見を認めた.翌日急性腹症の診断で緊急手術を行った.開腹により横行結腸から結腸間膜に及ぶ手拳大の腫瘤が認められた.横行結腸癌が結腸間膜に穿通し肉芽を形成したものと思われた.空腸はこの肉芽腫の圧迫により浮腫状となり狭窄を呈していた.結腸切除術・ドレナージ術が施行された.切除標本では全周性で3型の癌腫を認め,潰瘍底に径3.0cmの腸間膜内への穿通が確認された.病理組織学的には高分化腺癌で腸間膜根部に癌浸潤は無かった.大腸癌の腸間膜内穿通は稀であるが,急性腹症の鑑別診断として念頭におくべきであると考えられた.
  • 朝野 隆之, 吉田 紘一, 久田 将之, 瀬尾 圭亮, 西田 二郎, 山口 晋
    2001 年 62 巻 1 号 p. 231-235
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,女性.検診にて腹部腫瘤を指摘され精査加療目的にて当院紹介となった.腹部超音波検査で膵釣部近傍に内部エコー比較的均一な腫瘤を認めた.腹部CTでは十二指腸水平脚の背側に,内部に壊死を伴った境界比較的な腫瘤として描出された.後腹膜原発のリンパ腫を疑い手術を施行した.腫瘍は十二指腸背面,下大静脈前面に接しており,線維性の癒着を認めたが比較的容易に剥離可能で腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的に大きさ6×8.5×3cmのhyaline vascuiar typeのCastleman's lynphomaと診断した.明らかなを悪性像はなくリンパ節転移も認めなかった.術後経過は良好で,現在再発の兆候もなく外来にて経過観察中である. Castleman's lymphomaはリンパ節の腫瘤形成性良性病変でhyaline vascular typeは予後良好とされているが,再発をきたした症例の報告もあり今後注意深い経過観察が必要である.
  • 秋吉 高志, 小川 芳明, 井上 健, 佐藤 裕, 今泉 暢登志
    2001 年 62 巻 1 号 p. 236-239
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,女性.開腹下胆嚢摘出術の既往があり,右季肋部,背部の鈍痛を主訴に入院.一般検査ではCRPの軽度上昇以外に異常なく, CT, MRIで肝下面に接して右腎前方に圧排性発育を示す内部不均一な約15cm径の腫瘤を認めた.血管造影では上腸間膜動脈から分岐する右肝動脈後枝および中結腸動脈から栄養される腫瘍濃染像を認め,注腸造影では結腸肝彎曲部に管外性圧排像がみられた.手術所見では,腫瘍は表面平滑な被膜に覆われ,右腎筋膜へ連なって腎周囲脂肪組織内に数個の娘結節を形成しながら発育し,右腎静脈合流部の下大静脈後方に及んでいた.腫瘍とともに右腎を摘出し,結腸肝彎曲部と下大静脈の壁の一部を合併切除した.病理組織診断は,悪性線維性組織球腫(malignant fibrous histiocytoma), inflammatory typeであった.術後8カ月目に局所再発と大動脈周囲リンパ節転移および多発肝転移,肺転移を来し,術後10カ月で死亡した.
  • 金 成泰, 藤本 高義, 伊澤 光, 西原 政好, 戎井 力, 金井 俊雄
    2001 年 62 巻 1 号 p. 240-243
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,女性.上腹部腫瘤を主訴として来院.腫瘤はほぼ鶏卵大で軽い圧痛を伴い弾性軟であった.腹圧により腫瘤が増大するため腹壁ヘルニアと考えた.超音波検査および腹部CTでは,腫瘤は左右腹直筋の間の白線を貫いて皮下に達しており正中腹壁ヘルニアと診断した.手術では白線より腹膜前脂肪とヘルニア嚢が脱出しており周囲を剥離,ヘルニア嚢を切除修復し白線を2層に閉創,さらにMarlex meshにて前面を覆い補強した.術後9カ月経過した現在,再発を認めない.手術はヘルニア嚢の切除とヘルニア門の縫合閉鎖が原則であると考えられ,術式はヘルニア門を単純に閉鎖する方法,腹直筋鞘や切離線を重ね合わせて縫合する方法,腹直筋前鞘と後鞘を2層に縫合する方法などの報告がある.正中腹壁ヘルニアは本邦では比較的稀な疾患であり,自験例を含め,詳細の明らかな本邦報告例50例の集計も合わせて文献的考察を加えて報告する.
  • 石井 利昌, 前田 壽哉, 安彦 篤, 福田 六花, 山田 恭司, 高木 正之
    2001 年 62 巻 1 号 p. 244-248
    発行日: 2001/01/25
    公開日: 2009/08/24
    ジャーナル フリー
    症例は51歳男性, 7~8年前より右鼠径部腫瘤を自覚するも放置していた.その後腫瘤は著名に増大,体動困難を主訴として当科受診した.来院時右鼠径部から陰部にかけて約40cm大の表面平滑,弾性硬な腫瘤を形成していた.潰瘍,糜爛などの皮膚異状所見は認めなかった. CT・MRIでは境界明瞭,内部不均一な腹壁外腫瘤として描出した.悪性腫瘍を否定しきれず,また機能回復目的のため摘出術を施行した.手術所見では,一部精巣精索と癒着していたが,被膜に覆われ境界明瞭かつ可動性良好な腫瘤として認めた.摘出検体は, 40cm×28cm×15cm,重さ12.5kgの割面黄白色の腫瘤であり,病理組織学的所見はspindle cell lipomaであった.術後経過は良好であり再発徴候は認めていない.自験例の様な巨大spindle cell lipomaは稀であり,文献的考察を加え報告する.
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