日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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64 巻, 1 号
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  • 木下 貴裕, 前部屋 進自, 櫻井 照久, 岡村 吉隆
    2003 年 64 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    原発性自然気胸の治療とその成績を検討した.対象は, 1999年1月より2001年12月まで,初回治療例59例67側(両側8例).平均30.1歳.治療方針は,入院時,胸部X線写真とCTにてブラの有無を判定.原則として全例胸腔ドレナージ.気漏がなければ3日目にドレーン抜去し,翌日に退院.気漏が続けば手術.再発例は,気漏の有無に関わらず手術.手術は,胸腔鏡下ブラ切除術.【結果】(1)初回治療:安静のみ2症例.胸腔ドレナージ57例, 65側(両側8例)で,手術なしで退院したのは, 43側であった.手術を行ったのは, 22側であった. (2)胸腔ドレナージのみの再発率は, 27.9%であった.ブラの有無別再発率は,ブラあり40.7%,ブラなし11.1%.再発例には,全例手術を施行した. (3)手術成績:初回入院時と再発時合わせて35側に胸腔鏡下ブラ切除を施行した.術後再発率は, 8.6%であった.以上より,ブラが明らかな症例に対しては,初回時に手術を勧めても良いと考える.
  • 高橋 滋, 井川 理, 松村 博臣, 宮田 圭悟, 藤井 宏二, 竹中 温
    2003 年 64 巻 1 号 p. 5-10
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    目的:新鮮切除標本の腫瘍平均径別に深達度,リンパ節転移状況と予後を検討し,腫瘍径が郭清の指標になりうるか検討した.対象と方法:京都第二赤十字病院で根治切除された初発胃癌899例を対象とした.新鮮切除標本における腫瘍径を計測し1cmきざみで分類し, D1からD3の郭清度別に予後をもとめ,おもに内腔からみた平均腫瘍径と深達度の面からリンパ節転移を検討し平均径と最適な郭清範囲の関連につき検討を加えた.結果: 1)腫瘍径が1cm以下の症例では全例が早期胃癌であった. 1~2cmの症例では85%が早期胃癌であった. 2cmから5cmまでは進行癌が34%から50%, 67%と1cmきざみに増加し, 5cm以上では80%をこえる頻度で進行癌であった. 2)腫瘍径3cm以下の胃癌では郭清度別に差はなかった.しかしこの群のうちt2以上の進行癌で予後をみるとD1郭清例では有意に不良であった.また4~5cmの進行胃癌ではD3郭清例の予後が良好であり, 5~8cmではD3郭清が有意に良好な結果であった. 8cm以上の症例ではいずれの郭清においても差はなく,その再発形式にあきらかな癌性腹膜炎が22.5%を占めていた.結語:腫瘍径3cm以下の胃癌でも進行癌の場合はD1郭清よりD2郭清を行うべきであり,また4~8cmの進行胃癌ではD3郭清の適応と考えられた.術前の腫瘍径の適切な計測が可能であれば腫瘍径は大動脈周囲リンパ節郭清の適応の指標となりうると考えられた.
  • 中島 信久, 高木 知敬, 長渕 英介, 米山 重人, 中山 雅人
    2003 年 64 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    イレウスを呈する大腸癌の治療にあたっては,イレウスの解除と癌の根治という2つの問題を解決する必要がある.左側大腸癌では,経口的減圧不良などのため緊急手術に至り,姑息的切除に終わることが多い.最近10年間に手術を施行した32例を対象とし,経肛門的減圧を併施した最近5年間(後期, n=14)とそれ以前の5年間(前期, n=18)とに分けて,待期手術率,根治度,一期的吻合の可否などについて検討した.待期手術率は50%から86%と有意に増加し(p=0.039),根治度(cur) A率は61%から86%となった(p=0.127).切除後の一期的吻合率も33%から91%に有意に増加した(p=0.0045).左側大腸癌イレウスの治療において,経肛門的減圧を併施することにより待期手術率が向上し,癌に対する根治性を高めることができ,さらに一期的吻合率が高くなることにより, QOLの向上にも寄与すると考えられた.
  • 松下 一之, 落合 武徳, 宮崎 信一, 牧野 治文, 中島 光一, 軍司 祥雄, 堀 誠司, 林 秀樹, 圷 尚武, 鈴木 孝雄
    2003 年 64 巻 1 号 p. 16-23
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    千葉大学大学院先端応用外科学では50年前から外科医育成の教育を大学のカリキュラムに沿って行い,関連病院に外科医を派遣してきた.外科手術の評価のためには手術の安全性や手術成績が公表される必要があると考えられる.そこで大学および関連病院における大腸癌治療の成績をアンケート調査しその結果を示し,ばらつきについて報告した.今回調査した病院における直接死亡率・在院死亡率からみた手術関連死亡は全国統計より低く手術が安全に行われていた.しかし腹腔鏡補助下大腸癌切除術の適応や下部直腸癌に対する自律神経温存と側方郭清については施設により方針に相違がみられた.今回のアンケート調査結果を大学および関連施設の連携に反映させ,地域住民のための手術成績向上に寄与したい.
  • 田中 邦哉, 松尾 憲一, 斎藤 修治, 永野 靖彦, 藤井 義郎, 遠藤 格, 関戸 仁, 渡会 伸治, 嶋田 紘
    2003 年 64 巻 1 号 p. 24-30
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    1区域以内の肝切除100例を,流入血遮断により無阻血(N群),全肝遮断(P群),選択的遮断(S群)の3群に分類し,全肝阻血と選択的阻血の適応,問題点を検討した.なお,遮断は15分間の阻血, 5分間解除を原則とした.
    慢性肝炎(慢肝)・硬変例では, N群の術後第14病日のGOT値がP群に比較し低値(P<0.05)であったが, P群とS群では差はなく,術後合併症にも差はなかった.一方,正常肝例ではS群の手術時間,切除肝重量,切離面積が,いずれも高値であったが,術後結果はP群の血小板(PLT)減少,ビリルビン(Bil.)上昇が顕著であり, 1, 5病日のPLT (12.6±4.3 (/mm3), 15.2±4.4)が, S群(16.7±6.5, 20.2±5.1)に比較し低値(P<0.05), 1病日のBil. (3.1±1.6 (mg/dl))がN群(1.9±1.0)に比較し高値(P<0.05)であった.
    以上より,慢肝・硬変例のPringle法は選択的遮断と差はなく,正常肝例では選択的遮断により術後肝障害を軽減しうると考察できた.
  • 仲田 裕, 成島 道樹, 冨岡 憲明
    2003 年 64 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    【目的】総胆管結石に対する内視鏡的治療として乳頭バルーン拡張術(EPBD)と乳頭切開術(EST)を比較し, EPBDが第1選択の手技となりうるか検討した.【対象】総胆管結石症の患者81例. 1996年以前に32例にESTを施行,以後30例にEPBDを施行. 19例は内視鏡的治療なしに開腹手術を施行.【結果】内視鏡的治療の完遂率はEPBD導入以前は60%であったが,導入後は86%と有意に高くなった. EST例とEPBD例の機械的砕石の施行率と結石除去の終了までの内視鏡施行回数は差がなく,いずれも直径10mm未満で3個以下の結石の場合に,単回の内視鏡的治療で結石が除去できる可能性が高かった.術後血清アミラーゼ値はEPBD例で有意に低値であり, EPBD例に重篤な合併症を認めなかった.【結論】EPBDはESTと比較して適応症例が多く,安全性が高いことから,総胆管結石治療の第1選択となりうる.
  • 渋谷 均, 高島 健, 佐々木 賢一, 柏木 清輝, 井上 大成, 前田 豪樹
    2003 年 64 巻 1 号 p. 37-40
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,女性.右乳房腫瘤を自覚し当科を受診した.右乳房外上部領域に1.0cm大の表面不整, slight dimpleを伴う硬い腫瘤を触知した.マンモグラフィーでは近傍に石灰化を伴う1.3×1.3cmの淡い腫瘤陰影を認めた.穿刺吸引細胞診では配列パターンの乱れを伴う異型細胞の集塊を認めた.以上の結果より乳腺悪性腫瘍を疑い, 1989年10月右乳房部分切除および腋窩リンパ節郭清を施行した.病理組織学的には非乾酪性壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫で,乳腺サルコイドーシスと診断された.術後12年経過の現在,局所再発および他臓器における病変の発症を認めてない.乳腺に単独で発症したサルコイド病変は極めて稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 鈴木 秀郎, 須崎 真, 加藤 弘幸, 谷口 健太郎, 大西 久司, 梅田 一清
    2003 年 64 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    副乳癌は乳癌の中でも稀な疾患である.今回,左腋窩に発生した副乳癌を経験したので報告する.
    症例は71歳,女性で左腋窩皮下腫瘤を主訴とし来院.左腋窩に扁平に軽度隆起した径2cmの表面暗褐色の皮下腫瘤がみられた.腫瘤は皮膚と固定し,弾性硬で,左乳腺には腫瘤はなく,左腋窩リンパ節が触知された.細胞診で腺癌と診断され,生検にて充実腺管癌で辺縁に正常乳管組織を認めた.副乳癌が強く疑われたが,固有乳腺組織との連続性が否定できなかったため,非定型的左乳房切除術および腋窩リンパ節郭清を行った.術後切除標本の検索により,腋窩腫瘍と乳腺の連続性はみられず,腋窩副乳癌と診断した.自験例を含む本邦報告90例を集計し検討を加えた.
  • 太平 周作, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 坂本 英至, 伊神 剛, 森 俊治
    2003 年 64 巻 1 号 p. 46-50
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    副乳癌,副乳線維腺腫は比較的稀な疾患で,腋窩に発生することが多いため他疾患との鑑別を要し,診断に難渋することが多い.両者を両腋窩に同時性に合併した非常に稀な症例を経験したので報告する.
    症例は37歳,女性.左腋窩腫瘤を主訴に受診.左腋窩に径5cm大の硬結を認め,右腋窩にも径1cm大の硬結を認めた.左腋窩腫瘤の針生検で腺癌と診断された.両側乳房にエコー,軟線撮影上腫瘤影はなく,全身検索にて他臓器には異常所見を認めなかった.左腋窩副乳癌あるいは左腋窩汗腺癌および右腋窩リンパ節転移を疑い,手術を施行した.手術に先立ち右腋窩腫瘍生検を行い,術中迅速病理診断を行った.結果は線維腺腫であったため,左腋窩腫瘍摘出術,左腋窩リンパ節郭清を行った.術後病理診断では左腋窩は副乳より発生した副乳癌であった.術後は放射線照射を追加し経過良好である.
  • 岡田 憲三, 小野 芳人, 田中 仁, 蜂須賀 康己, 岩川 和秀, 梶原 伸介
    2003 年 64 巻 1 号 p. 51-54
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    患者は52歳,女性で,触診による乳癌検診で左B領域に腫瘤を指摘され受診した. MMG, US, CTでは左C領域,右E領域にも腫瘍を認め,多中心性両側3重乳癌の診断で両側乳房切除術を施行した.組織学的にはそれぞれ,充実腺管癌,乳頭腺管癌,浸潤性小葉癌であった.本症例は視触診による検診で発見されたが,検診では3重乳癌の病巣のうち1つを指摘されたのみであった.しかしMMGでは, 3つの腫瘤を指摘することが可能であり,全てカテゴリー4以上の所見であった.検診の場におけるMMGの有用性が示唆された.
  • 大崎 敏弘, 永島 明, 吉松 隆, 田島 裕子, 安元 公正
    2003 年 64 巻 1 号 p. 55-59
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胸腺癌手術例5例の臨床的検討を行った.年齢は39~68歳,男性2例,女性3例,組織型は類基底細胞癌1例,未分化癌3例,低分化扁平上皮癌1例,病期はIII期3例, IVa期1例, IVb期1例であった.低悪性度low-grade histologyに分類される類基底細胞癌は手術(完全切除)のみで術後13カ月無再発生存中である.高悪性度high-grade histologpに分類される未分化癌,低分化扁平上皮癌の4例中,完全切除は3例(2例に術後放射線療法)に行われ2例は無再発生存中(36, 80カ月), 1例は局所再発に対し27カ月目に再切除と化学療法を行ったが61カ月で遠隔転移を認め死亡した.非完全切除1例は術後化学療法を行ったが遠隔転移を認め28カ月で死亡した. High-grade histologyに属する未分化癌などの胸腺癌に対しても腫瘍の完全切除と補助療法により長期生存が得られる可能性があると考えられた.
  • 東海林 安人, 宮崎 恭介, 中村 文隆, 道家 充, 樫村 暢一, 加藤 紘之
    2003 年 64 巻 1 号 p. 60-64
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    特発性食道破裂は比較的稀な疾患であるが,その診断・治療の遅延により膿胸や縦隔炎を併発し重篤な転帰をとりうる.今回,われわれは3例の特発性食道破裂を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
    患者は43歳から73歳の男性で, 2例は嘔吐後の腹痛を訴え, 1例は誘因なく心窩部痛を訴えて来院した.診断は経過とX線画像での食道周囲の気腫,左胸水貯留の所見から診断され, 1例はさらに内視鏡検査での裂創の所見から確定した.いずれも発症から24時間以内に手術を行った. 2例は破裂径が4 cm以下で,破裂部の直接縫合閉鎖と胃底部縫着術を行い軽快した. 1例は破裂径が8 cmで,直接縫合閉鎖のみを行い術後縫合不全を生じた.この症例では食道を抜去し,胃管・遊離空腸による二期的食道再建を要した.破裂径が大きな症例では縫合閉鎖に加えて大網などを用いた補強術が必要であったと考えられた.
  • 須浪 毅, 金村 洙行, 山田 忍, 大平 雅一, 楊 大鵬
    2003 年 64 巻 1 号 p. 65-69
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,男性.心窩部痛,嘔吐にて発症.胸部X線撮影にて左胸腔内に消化管ガス像を認め,上部消化管造影,注腸にて胃,大腸の左胸腔内への脱出を認めた.胃軸捻転を伴う横隔膜ヘルニアと診断し手術を施行.左横隔膜外側後方にヘルニア門を認め,ここから短軸捻転した胃前庭部が大網,横行結腸と共に脱出しており,胃軸捻転を伴ったBochdalek孔ヘルニアと診断した.脱出臓器を還納し,ヘルニア門を縫合閉鎖後,胃前壁を腹壁に固定した.術後約2年経過したが,現在まで再発を認めていない.
  • 松田 明久, 田尻 孝, 宮下 正夫, 古川 清憲, 丸山 弘, 竹田 晋浩
    2003 年 64 巻 1 号 p. 70-73
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,女性で,呼吸困難を主訴に当院を受診した.腹部CT検査で横隔膜ヘルニアと診断した.保存的治療で呼吸器症状は改善していたが,入院46日目に突然,イレウス症状が出現した.呼吸,循環状態の悪化とともに肝・腎機能障害が出現し多臓器不全状態となったため,緊急手術を施行した.経腹的にアプローチしたところ,左横隔膜背側に直径約5 cmのヘルニア門を認め,小腸が約220cm脱出していた.ヘルニア嚢は認めなかった.これを用手的に還納し,胸水を吸引後,ヘルニア門を結節縫合にて直接閉鎖した.今回,経腹的に過大な侵襲を伴わず手術施行できたが,成人Bochdalek孔ヘルニアに対しては,積極的に手術的治療を考慮する必要があると思われた.
  • 青木 毅一, 肥田 圭介, 岩谷 岳, 斎藤 和好
    2003 年 64 巻 1 号 p. 74-78
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    61歳,男性. 3年前の胃全摘術ならびに十年来の糖尿病の既往あり.昼食後の突然の上腹部痛にて搬送され,諸検査で絞扼性イレウスを疑われ緊急手術となった.輸入脚吻合部より数cm肛門側の小腸が絞扼し,十二指腸が著明に拡張した輸入脚症候群の所見であったが,輸入脚に明らかな穿孔,壊死は認めず絞扼解除と十二指腸周囲のドレナージを施行した. 2病日より右側腹部の発赤を認め, 17病日に腹部CT上広範囲の後腹膜膿瘍を認めた.皮膚切開によるドレナージを行うも広範囲の組織欠損をきたし, 169病日に腹直筋皮弁による閉鎖を行った.膿瘍形成の発生機序として,著明な拡張により被薄化した十二指腸壁からの腸液の漏出が疑われた.輸入脚症候群で輸入脚に明らかな穿孔や壊死を認めない場合でも糖尿病などの易感染性を招来するような合併症を有する場合,術後の後腹膜膿瘍の発生も考慮し,頻回の画像検査による早期発見,治療に努めることが大切である.
  • 亀山 哲章, 高橋 麻衣子, 壁島 康郎, 戸泉 篤, 田村 洋一郎, 影山 隆久
    2003 年 64 巻 1 号 p. 79-83
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    持続携帯式腹膜透析(以下CAPD)患者にとって,開腹手術は腹膜の損傷および術後の癒着による腹膜機能の低下によりCAPDが継続できなくなるといった問題点がある.今回われわれはCAPD導入後8年6カ月経過し,貧血を主訴に発見された早期胃癌症例に対して大網温存幽門側胃切除術を施行した際,正中創と臓側腹膜との癒着を防止し腹膜機能を温存する目的で閉腹時に合成吸収性癒着防止材(セプラフィルム)を使用した.術後血液透析を計5回併用したが,術後14日目からは術前と同様の処方にてCAPDを継続することができ, 28日目に軽快退院となった.術後1年8カ月経過しているが現在も同様の処方にてCAPDを継続し社会復帰している.本例ではCAPD患者に対する開腹手術を施行する際にセプラフィルムを使用することで積極的に腹膜の癒着を予防することにより腹膜機能を温存できたと考えられた.
  • 福地 貴彦, 遠山 信幸, 高田 理, 小西 文雄, 兵頭 隆史, 山田 茂樹
    2003 年 64 巻 1 号 p. 84-88
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    動脈性出血による吐血,貧血をきたし,緊急手術を要した胃悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.症例は66歳,男性.主訴:吐下血,上腹部痛. 2002年1月29日上腹部痛,嘔気,吐血出現し, 30日当センター受診.貧血(Hb 10.2g/dl)認め,緊急上部消化管内視鏡検査施行.胃体部前壁に2型腫瘍と同部からの動脈性出血を認め,内視鏡的止血術を試みるも完全止血は得られず,貧血の進行を認めたため,同日緊急手術を行った.リンパ節郭清(D2)を伴う胃全摘術+脾摘術施行した.摘出標本上,胃体部前壁に7.0×4.2cm大の隆起性腫瘤と小彎側のIIc病変認め,病理ではgastric lymphoma, diffuse large cell type, mp, n 0 (0/82)であった.出血部位には表層に露出破綻した動脈を認めた.術後経過は良好で15日目に退院,現在外来通院中である.
    消化管悪性リンパ腫に対しても,緊急手術療法が必要となる稀な症例も存在しうる.
  • 山本 広幸, 松下 利雄, 広瀬 由紀, 藤井 秀則, 田中 文恵, 小西 二三男
    2003 年 64 巻 1 号 p. 89-93
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性. 1994年7月初旬より心窩部痛あり上部消化管の精査にて胃噴門部後壁に5cm大の2型の腫瘍を認めた.生検では低分化型腺癌の診断であり8月9日胃全摘術,膵尾脾合併切除術を施行した.翌年肝臓に腫瘤を認め8月24日肝部分切除術を行い,病理学的検索にて過去に切除した胃原発巣と同様の組織像であった.またEBV encoded small RNAsを標的としたin situ hybrizationで癌細胞核に陽性を示し,リンパ上皮腫類似胃癌の診断であった.その後1996年に再び転移巣を認めたため動注化学療法を行いCRの判定を得た.また経過中1998年2月には骨転移を認めたため放射線治療を行い,骨病変も,その後増大を認めなかった. 2000年4月1日脳梗塞で死亡した.
  • 奈賀 卓司, 谷口 健次郎, 柴田 俊輔, 山口 由美, 石黒 稔, 西土井 英昭
    2003 年 64 巻 1 号 p. 94-97
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    原発性直腸癌様所見を呈した胃癌術後直腸転移の1例を経験したので報告する.症例は58歳,女性. 1999年5月,胃癌の診断にて胃全摘術を施行した.病理組織学的所見はpor, se, INFγ, ly1, v0, n2 (+), stage IIIB,根治度Bであった.術後外来にてfollow中, 2001年12月,便秘症状がしだいにひどくなったため精査を施行した.注腸造影では直腸Raに比較的境界明瞭な約5cm大の全周性の狭窄を,また腹部CTでは直腸に全周性の壁肥厚を認め,直腸癌の診断にて低位前方切除術を施行した.病理組織学的には,胃癌と同等な低分化型腺癌が粘膜下層を中心に増殖しており,胃癌の直腸転移と診断した.
    胃癌の大腸転移は稀な疾患であり切除可能な症例は極めて少ない.中には原発性大腸癌との鑑別が困難な症例も散見される.注腸X線検査の詳細な検討による診断と治療方針の決定が必要とされる.
  • 平原 典幸, 渡部 広明, 西 建, 仁尾 義則
    2003 年 64 巻 1 号 p. 98-101
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,男性.食欲不振を主訴に精査入院となる.入院時軽度肝機能障害を認めたが,腫瘍マーカー(CEA, CA19-9)は正常であった.上部消化管内視鏡にて十二指腸乳頭部に約1cmの表面不整,粗結節状で淡紅色の隆起性病変を認めた.生検にて腺腫の診断を得た.手術は腫瘍を含めた乳頭全切除術を行い,総胆管,主膵管を各々十二指腸粘膜と縫合する乳頭形成術を付加した.病理組織検査にてadenoma with borderline lesionの結果を得た.しかし,術後2年6カ月の,内視鏡検査にて同部位に腫瘍の再発を認めたため生検を行ったところ,高分化腺癌の診断を得た.患者の全身状態より判断し,内視鏡的切除を行った.十二指腸乳頭部腺腫に対しては腫瘍の遺残がなく乳頭全切除が可能ならば第一選択と成りうる術式であるが生物学的悪性度について一定の見解が得られておらず,治療には十分な検討が必要であると考えられた.
  • 山本 精一, 泉 良平, 福島 亘, 角谷 直孝, 廣澤 久史, 斎藤 勝彦
    2003 年 64 巻 1 号 p. 102-106
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    若年で発症した進行十二指腸癌症例を経験したので報告する.症例は26歳の男性で,上腹部痛に対して上部消化管内視鏡を施行した.十二指腸球部に潰瘍性病変による狭窄を認め,生検にて低分化腺癌との結果を得た.手術所見はH0P1N1SI (panc.)のため膵頭十二指腸切除(D2郭清)と腹膜播種転移巣の可及的切除を施行した(Curative B).同時にperitoneal Infuse-A-portを腹部皮下に留置した.術後FP療法を8カ月施行したが, 1年4カ月目に癌性腹膜炎による腸閉塞で再発した. MTX/5FU療法に変更するも,全身状態の悪化がみられたため, 5FU 250mg/dayの投与のみとした.その後,小康状態が得られたものの,腸閉塞症状の改善がみられないまま1年9カ月後に死亡した.若年者十二指腸癌の報告は,自験例を含め5例と非常に稀なため報告した.
  • 杉本 誠一郎, 萱野 公一, 宮崎 医津博, 西岡 聖, 内田 發三
    2003 年 64 巻 1 号 p. 107-110
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    消化管穿孔の中で非外傷性小腸穿孔は比較的稀で,その原因も様々である.今回,われわれは稀な特発性小腸穿孔の1例を経験したので報告する.
    症例は84歳,男性. 82歳時に胆嚢癌にて膵頭十二指腸切除術を施行された.腹部全体の圧痛・腹膜刺激症状を認め,胸部・腹部X線検査では腹腔内遊離ガス像,イレウス像を認めなかったが,腹部CTで腹腔内遊離ガス像を認めたため,汎発性腹膜炎と診断し緊急開腹術を施行した. Bauhin弁から約65cm口側に回腸穿孔を認め,回腸部分切除術を施行した.転移や再発を認めず,腹腔内の癒着やイレウスを認めなかった.組織学的にも粘膜,筋層,漿膜は断裂し,粘膜の漿膜側へのslidingを認めず,悪性所見や慢性の炎症所見を認めなかった.穿孔の原因を特定する所見はなく,特発性小腸穿孔と診断した.術後の経過は良好であったが,術後76日目に他病死した.
  • 津田 寛, 小長谷 一郎, 邱 明麟
    2003 年 64 巻 1 号 p. 111-115
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,男性.主訴は腹痛.魚介類生食の後発症した.イレウス症状を伴う急性腹症の診断の下に開腹し小腸部分切除術を施行したところ,切除標本において粘膜内に頭部を迷入したアニサキス虫体を認めたため本症と診断した.
    イレウス症状を呈する急性腹症の診断に際して,腹痛が激烈な割に全身状態が良好で腹部超音波検査で腹水と腸管壁の限局性の肥厚がみられた場合は小腸アニサキス症を鑑別診断に加え,魚介類の生食の有無を詳細に聴取することが重要と思われた.
  • 有賀 浩子, 五箇 猛一, 千須和 寿直, 大森 敏弘, 田内 克典, 小池 秀夫
    2003 年 64 巻 1 号 p. 116-119
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は32歳の男性.腹痛,嘔吐,腹部膨満感を主訴として来院し,腹部X線検査でニボー像を認めたため腸閉塞の診断で入院となった.右下腹部に圧痛があり腹部超音波とCT検査所見で回腸末端炎と判断し,保存的治療を施行した.症状は一旦改善するも経口摂取再開にて症状の再燃を繰り返した.注腸造影と大腸内視鏡検査を施行し終末回腸に明らかな異常はみられなかったが,保存的治療によっても症状改善しないため開腹術を施行した.肉眼的には漿膜粘膜面から異常はみられず,漿膜下に径3~4mmの肉芽腫を複数個触知したためこの部分を含めて回盲部切除術を施行した.病理組織所見では,血管壁に好酸球を主体とした炎症細胞の浸潤とフィブリノイド壊死を伴う壊死性血管炎が認められ.アレルギー性肉芽腫性血管炎と診断された.腸管に限局する非定型的Churg-Strauss症候群の1症例と思われた.
  • 濱洲 晋哉, 横尾 直樹, 木元 道雄, 白子 隆志, 浦 克明, 岡本 清尚
    2003 年 64 巻 1 号 p. 120-125
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    過去7年間に546例の虫垂切除症例中5例の虫垂憩室症を経験した.年齢は29歳から75歳まで平均49.6歳.男性が4例と多く,発症から手術までの期間は平均約1.5日間であった.腹膜刺激症状は4例で陽性,白血球数は全例で上昇していた.虫垂腫大像は,超音波にて3例, CTにて1例で描出された.全例,急性虫垂炎との術前診断で虫垂切除術を施行した.憩室個数は多発3例・単発2例,発生部位は先端部3例・中央部1例・根部1例,虫垂間膜側3例・対側2例であった.憩室自体に炎症を認めた3例は全て間膜側に発生し,穿孔を伴っていた.腹水貯留は2例で認められた.病理組織学的に全例とも憩室壁に筋層を欠く,仮性憩室であった.虫垂憩室症の術前診断は困難だが,消化管造影検査などにて偶然に発見された場合は厳重な経過観察が必要である.また,憩室に炎症の存在が疑われた場合,穿孔率の高いことより時を移さぬ手術がすすめられる.
  • 萩原 淳, 中房 祐司, 濱本 隆浩, 佐藤 清治, 宮崎 耕治
    2003 年 64 巻 1 号 p. 126-130
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性で10年前よりB型肝炎による肝硬変にて加療中であった. 2001年2月25日,発熱を伴う腹痛が出現し,翌日当院を受診した.腹部全体に筋性防御と反跳圧痛を認め,腹部CT検査では上行結腸の著明な壁肥厚がみられたので同日,緊急手術を施行した.腹腔内全体に膿性腹水を認め,盲腸から肝彎曲部にかけての結腸は暗赤色調を呈し,壁肥厚が著明であった.右半結腸切除術・回腸人工肛門造設術・腹腔内洗浄ドレナージ術を行った.術直後より敗血症性ショックの状態となったため,エンドトキシン吸着療法(PMX)を開始し, PMX施行中より体温,血圧などは改善傾向を認めた.全身状態は徐々に改善して術後3カ月目に退院した.手術時の血液,腹水の細菌培養より大腸菌が検出され,切除標本の病理組織学的診断は蜂窩織炎性結腸炎であった.救命報告の少ない重症化した蜂窩織炎性結腸炎であっても,病変部腸管切除と集中治療により救命しえると考えられた.
  • 吉村 淳, 金村 哲宏, 柴地 隆宗, 吉川 高志
    2003 年 64 巻 1 号 p. 131-136
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は33歳の男性.腹痛の精査目的で入院となったが,入院後6日目に腹痛の増強のため緊急手術を行った.小腸に6つの腫瘤を認め,うち5つが鶏卵大~手拳大となって腸閉塞をきたし,腫瘤間の腸管は緊満していた.小腸切除を行ったが,手術創,肝,リンパ節などの腫瘍が急速に増大し,術後44日目に死亡した.摘出標本の肉眼形態は,隆起型,潰瘍限局型,びまん浸潤型など多彩な形態を呈した.病理組織所見では,異型度の強い大小不同の紡錘形細胞・円形細胞が粗に配列し,強い脈管浸襲と腫瘍壊死をともなっていた.免疫化学的染色では,ミオグロビンとデスミンが陽性であり,多発性小腸横紋筋肉腫と診断した.横紋筋肉腫は,頭頸部などに好発する軟部組織悪性腫瘍であり,消化管では原発性・転移性ともに極めて稀である.多発性で予後が極めて不良であったことから,本症例は潜在性の原発巣からの多発転移と推測されるが,その病態については不明である.
  • 山田 豪, 末永 裕之, 桐山 幸三, 和田 応樹, 谷口 健次, 平井 敦
    2003 年 64 巻 1 号 p. 137-141
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    サイトメガロウイルス(以下CMV)感染は免疫不全患者で起きやすいが,今回われわれは,悪性リンパ腫の化学療法中にCMV感染による消化管穿孔を起こした症例を経験したので報告する.症例は75歳男性.腹部膨満の精査で胃原発性悪性リンパ腫と診断され,化学療法目的で入院.治療による効果を認めていたが,経過中に右下腹部痛が出現し,腹部CTにて穿孔性腹膜炎と判明.上部消化管内視鏡検査では明らかな穿孔部を認めず,小腸穿孔の診断で緊急手術を施行した.開腹すると,回腸末端に約5 mmの穿孔部を認め,さらにTreitz靱帯から約30cmの空腸は穿孔しかけていた.回盲部切除,空腸部分切除,ドレナージ術を施行した.病理組織検査所見よりCMV感染による穿孔と判明した.術後9日目に縫合不全をきたし,術後22日目に敗血症にて死亡された. CMV感染による消化管穿孔は極めて稀で,本邦で10例目であり,早期診断と早期治療の重要性が示唆された.
  • 宮本 康二, 松波 英寿, 由良 二郎, 佐野 明江, 池田 庸子, 清水 明
    2003 年 64 巻 1 号 p. 142-146
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,女性, S状結腸癌によるイレウスのため,腫瘍を切除後,人工肛門の造設を行った.術後19日目に大腸内視鏡検査にて,口側の結腸に広範囲の縦走潰瘍を認め閉塞性大腸炎と診断した.さらに術後48日目の大腸内視鏡検査では,この部分が高度の狭窄となっていたため,人工肛門と共に切除した.このように,閉塞性大腸炎の潰瘍病変は原因の除去にもかかわらず,狭窄型虚血性大腸炎の像を呈することがあり,注意を要する.
  • 小林 剛, 福田 康彦, 田中 恒夫, 有田 道典, 日山 享士, 伊関 正彦
    2003 年 64 巻 1 号 p. 147-152
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    局所進行大腸癌は解剖学的特性により,腹壁や小腸,膀胱,生殖器など近接他臓器にしばしば浸潤するが,腎に直接浸潤するものは比較的稀である.下行結腸癌が左腎に直接浸潤し,合併切除により治癒を得た.症例は51歳,女性.発熱を主訴に受診し,腹部超音波検査で左腎腫瘍を疑われた.精査にて下行結腸に全周性の進行癌を認め,結腸癌が腎に浸潤したものと考えられた.下行結腸癌は左腎に強固に癒着し,左腎合併切除を含む左半結腸切除(D3郭清)を施行した.病理組織所見では下行結腸癌および左腎腫瘤は共に中分化型腺癌であり,結腸癌の腎直接浸潤と診断した.結腸癌は他臓器浸潤例においても治癒切除例では良好な成績が報告されており,積極的な浸潤臓器の合併切除が予後を改善すると考える.
  • 野村 尚, 布施 明, 軽部 康明, 小澤 孝一郎, 粕川 俊彦, 木村 理
    2003 年 64 巻 1 号 p. 153-158
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    患者は29歳,女性.腹部腫瘤を自覚し近医より当科紹介となった.左上腹部に小児頭大の腫瘤を触知し,入院中に腫瘤は下腹部に移動した. CT検査では左上腹部から骨盤にいたる巨大な多房性嚢胞性腫瘍を認め,一部に充実性成分を伴っていた.可動性からは大網や腸間膜からの発生,形態からは膵粘液性嚢胞腫瘍も疑われたが,腫瘍上縁が胃の腹側に位置し膵原発は否定された.血管造影検査では肝動脈外側区域枝が栄養血管として腫瘍に向かう所見が得られた.以上より肝嚢胞腺腫または腺癌と診断し手術を施行した.腫瘍は著明に肝外性に発育しており,外側区域部分切除にて腫瘍を摘出した. 22・18×14cm, 1,955gの嚢胞性腫瘍で病理組織検査では肝嚢胞腺腫と診断された.本疾患は比較的稀であると同時に,本症例では著明な肝外発育を示した点で診断がやや困難であったが, CTおよび血管造影検査にて肝原発との診断が可能であった.
  • 菊地 浩彰, 緑川 武正, 石橋 一慶, 斉藤 充生, 前沢 浩司, 根本 洋
    2003 年 64 巻 1 号 p. 159-163
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,男性.主訴は右季肋部痛,発熱.既往歴に糖尿病.白血球10,500/μl, γGTP116U/lと上昇し,腹部エコー, CTで肝右葉に約10cmの腫瘤を認めた.肝悪性腫瘍も否定できず, PTPE後に拡大肝右葉切除を行った.術直後より敗血症によるショックおよび乳酸アシドーシスをきたしたが,ドパミン投与と輸液管理,適切な抗生剤投与などにより救命しえた.拡大肝切直後の著しい高乳酸血症を救命しえた肝IPTの1例を経験したので報告した.炎症性肝腫瘤の肝切除に際し,糖尿病,術中低血圧,敗血症などの因子が加わることで,術後乳酸アシドーシスを併発する可能性を念頭におく必要があると思われた.
  • 鈴木 大, 田中 寿一, 土屋 俊一, 海保 隆, 柳澤 真司, 竹内 修
    2003 年 64 巻 1 号 p. 164-168
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    消化管間葉系腫瘍(gastrointestinal stromal tumor:以下GIST)の異時性肝転移に対する肝切除施行例を経験したので報告する.【症例1】51歳,男性.平成2年3月,直腸平滑筋肉腫にて高位前方切除術施行,術後病理で平滑筋肉腫の診断.平成11年7月,エコー上肝腫瘤を指摘,平成11年8月24日肝S5+S6切除術施行.病理診断では平滑筋肉腫(GIST)の肝転移であった.術後34カ月現在無再発生存中である.【症例2】56歳,男性.平成10年8月,胃平滑筋肉腫にて噴門側胃切除術施行,術後病理で平滑筋肉腫の診断.平成11年7月, CT上肝転移再発を認め,平成11年8月31日肝S5切除術施行.病理診断は平滑筋肉腫(GIST)の肝転移であった.平成12年10月3日, 6個の残肝多発再発に対し肝部分切除と術中ラジオ波焼灼術施行.平成13年5月, 3個の残肝再々発に対し経皮的ラジオ波焼灼術施行.平成14年5月多発骨転移を認めるが生存中である.【考察】GISTの生物学的特性は新しい知見が多く,慎重なfollow upが必要と思われた.
  • 島田 謙, 高橋 毅, 星野 弘樹, 板橋 浩一, 古田 一徳, 柿田 章
    2003 年 64 巻 1 号 p. 169-174
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,男性.右側腹部痛と白血球増多を伴う発熱を主訴に入院となった.画像検査上,肝右葉に約5 cm大の膿瘍を示唆する所見があったため,抗生剤に加えて経皮経肝穿刺ドレナージを行ったが治療に抵抗して全身状態は急速に悪化した.緊急的に診断的開腹術を行ったところ,肝右葉(S5~8)に直径5 cm大の腫瘍と,肝全体に無数の小転移結節がみられた.術中病理検査では好中球浸潤を伴う低分化型肝細胞癌の診断であった. G-CSF産生腫瘍を疑って術後に測定した血清G-CSF濃度は139pg/mlと高値で,またG-CSF免疫組織化学染色法では腫瘍内に多数のG-CSF陽性細胞が確認された.患者は術後も症状が増悪,第13病日目に肝不全のため死亡した.文献的にはG-CSF産生肝細胞癌は極めて稀で悪性度も高く,現在でも有効な治療手段の報告はみられない.今後の症例の蓄積と早急な診断・治療法の確立が望まれる.
  • 黒住 和史, 仲原 正明, 藤田 修弘, 中尾 量保
    2003 年 64 巻 1 号 p. 175-178
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,男性. C型慢性肝炎の既往あり.胆石症による閉塞性黄疸にて緊急入院.経皮経肝胆道ドレナージ(PTBD)を上前区域枝(B8)より施行したが, PTBD後21日目に胆道出血を認めた.手術は胆嚢摘出・総胆管切石・Tチューブ留置術を施行した.手術後第18病日に嘔吐とともにTチューブからの動脈性出血を認め,自然止血したが, 1~3日間隔で反復した.肝動脈前区域枝をgelfoamにて塞栓し止血しえた.血清総ビリルビン値は30mg/dlを超え黄疸が遷延した.希薄胆汁であったが, Tチューブを閉鎖し胆汁の体外排出を止めることにより黄疸は改善した.
    PTBD後の遠隔期胆道出血は比較的稀と考えられ,また術後の遷延性黄疸は胆汁の体外排出を止めることにより改善した.これらは同様の症例の治療において重要と考えられたので,文献的考察を加え報告する.
  • 西平 友彦, 森田 清文, 金子 猛, 石井 隆道, 岩井 輝, 井出 良浩
    2003 年 64 巻 1 号 p. 179-183
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性.心窩部痛で来院した.肝機能検査に異常を認め,総ビリルビン値は8.6mg/dlと上昇していた.超音波検査で膵頭部領域に占拠性病変が指摘され, ERCで下部胆管に隆起性の腫瘍が認められた. EUSで腫瘍内部に腺癌と異なる点状高エコーのびまん性の混在を認めた.血管造影下CTでdelayed enhancementにより腫瘍が描出され膵浸潤が疑われた.下部胆管癌の診断で幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した. 2.6×1.5×1.5cmの白色調の腫瘍で,組織像では小型の腫瘍細胞がシート状に線維性結合組織を伴い増殖していた.特殊染色と電顕で神経内分泌細胞への分化がみられず,小細胞型未分化癌と診断した.術後4カ月に肝転移,腹腔内リンパ節転移が認められ,急速な腫瘍増大により術後6カ月に死亡した.急速な転帰をきたした胆管未分化癌の1例を報告した.
  • 中川 宏治, 諏訪 敏一, 杉浦 敏之, 釜田 茂行, 宮崎 勝
    2003 年 64 巻 1 号 p. 184-188
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    接触スポーツによる膵損傷は稀とされており,ラグビーによる受傷の報告例はない.また,外傷による膵出血に対するinterventional radiology (IVR)による初期治療の報告も認められない.今回われわれは,ラグビーにより,随伴する外傷なく単独で受傷した外傷性膵損傷による出血に対し, IVRを施行し良好な経過を得たので報告する.症例は18歳,男性.ラグビーの練習試合中に腹部を蹴られ,心窩部,背部痛を主訴に受傷2日後に当院来院.血清アミラーゼの高値と腹部CTにて膵頭部の血腫と外傷性膵炎の所見を認めたため,入院,保存的に治療した.受傷後, 9日目に再出血し,前上膵十二指腸動脈の塞栓術を施行した.その後順調に経過し,退院した.膵損傷は比較的軽度な鈍的外傷によっても起こり得,治療の選択に対しては詳細な画像診断が重要であり,選択的動脈塞栓術は膵出血の治療においても有用である.
  • 田村 晃, 金子 弘真, 高木 純人, 片桐 敏雄, 前田 徹也, 柴 忠明
    2003 年 64 巻 1 号 p. 189-193
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    当教室で経験した脾嚢胞,悪性リンパ腫を除いた脾腫瘍切除症例6例に対し臨床的検討を加えた.内訳は,海綿状血管腫と過誤腫の良性腫瘍2例,血管肉腫と悪性繊維性組織球腫の原発性悪性腫瘍2例,卵巣癌・子宮癌術後の異時性孤立性転移性腫瘍2例であった.原発性悪性腫瘍の2例は腹痛を主訴としたが,他4例は無症状であった.画像検査では, US, CTとも各々特徴的な所見は呈さず,確定診断は全例切除標本によってなされた.原発性悪性腫瘍の2例は術後6カ月以内に死亡したが,他は生存中である.
    良性・悪性を問わず脾腫瘍は極めて稀な病変である.現状において原発性悪性腫瘍は,無症状のうちでの早期発見,早期治療しか予後が期待できない.また,転移性腫瘍の中には孤立性転移も稀にあり,適切な術後経過観察は予後に極めて重大な影響を及ぼす可能性があり,積極的摘脾術を考慮すべきである.
  • 鈴木 温, 関下 芳明, 塩野 恒夫, 藤森 勝, 加藤 紘之
    2003 年 64 巻 1 号 p. 194-197
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    出血性ショックを呈した脾原発血管肉腫破裂の1例を経験した.症例は79歳,男性.脾腫の精査目的で当院入院した.精査中に,出血性ショック状態となり,緊急手術を行った.脾臓はび漫性に腫大し,被膜からの出血がみられた.また,肝に多発性結節を認めた.脾摘術,肝生検を施行した.病理組織学的に脾原発血管肉腫,肝転移の診断であった.術後,肝転移が急速に増悪し,第22病日に死亡した.脾原発血管肉腫は稀な疾患で,破裂例は特に予後不良である.本邦報告例の文献学的考察を加えて報告する.
  • 花城 徳一, 石川 正志, 西岡 将規, 菊辻 徹, 柏木 豊, 三木 久嗣
    2003 年 64 巻 1 号 p. 198-201
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    Chlamydia trachomatis (CT)が急性卵管炎や骨盤腹膜炎を引き起こした際,急性虫垂炎の診断で手術が行われる場合がある.われわれは急性虫垂炎と診断し虫垂切除術を行った6例のCT骨盤腹膜炎症例を経験したので報告する.当院で平成6年4月から平成11年9月までに13歳以上の女性で虫垂切除術を行ったのは56例で,そのうちCT骨盤腹膜炎は6例であった.自験例のCT骨盤腹膜炎症例の主訴は右下腹部痛で, McBurney点の圧痛は6例中6例(100%),腹膜刺激症状は6例中5例(83%)に認められた.しかし白血球増加例は6例中3例(50%)にしか認められなかった.術中に腹水は全例に認められた. (まとめ)若年女性の右下腹部痛で,炎症所見が軽度なわりに腹水貯留を認める症例はCT骨盤腹膜炎の可能性が高いと考えられた.不必要な手術を避けるためにも女性の急性腹症患者を診察する際は, CT骨盤腹膜炎も考慮し外科的治療をも考えることが重要である.
  • 西谷 暁子, 岩瀬 和裕, 檜垣 淳, 三方 彰喜, 宮崎 実, 上池 渉
    2003 年 64 巻 1 号 p. 202-205
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は47歳,女性.十数年来自覚していた右鼠径部腫瘤の増大傾向を主訴に受診.右鼠径部に径9×8cmの弾性軟の腫瘤を認めた. CT・MRIなど画像検査で内部は液性成分を呈しており,腹腔内との交通は明らかでなかった.原発不明の皮下嚢胞の診断にて平成13年1月10日手術を施行した.手術時に腫瘤の大腿輪との交通を認め大腿ヘルニアと診断,ヘルニア嚢切除を伴うMesh Plugを用いたヘルニア根治術を行った.ヘルニア内容は腹水のみであった.切除したヘルニア嚢の病理組織学的検索にて子宮内膜症が確認された.子宮内膜症が疑われる鼠径部ヘルニア症例に対しヘルニア嚢切除を伴わない術式を選択した場合には,子宮内膜症が残存する可能性がある.子宮内膜症の併存が疑われる鼠径部ヘルニア症例に対してはヘルニア嚢の組織学的検索も考慮すべきではないかと考えられた.
  • 春藤 恭昌, 横山 日出太郎, 白川 元昭, 橋本 治光, 吉野 吾朗, 金丸 仁
    2003 年 64 巻 1 号 p. 206-209
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,女性.意識障害にて当院に搬送された.来院時低血糖および低血圧を呈し,全身に色素沈着を認めた.症状は一時的寛解をみたが,第7病日に再び状態が悪化し,第8病日に死亡した.病理解剖の結果,両側副腎の腫大を認めた.組織学的に乾酪壊死を伴う大小の類上皮細胞肉芽腫を認め,結核性Addison病の診断を得た.胸部X線にて異常なく,肺病変は陳旧性結核小病巣が1カ所認められたのみであった.結核既感染者は未だ多く存在し,低血糖および低血圧を呈した症例は,結核性Addison病の発症も念頭に入れる必要があると思われた.
  • 山口 敏之, 安藤 豪隆, 秋田 真吾, 小松 信男, 橋本 晋一, 臼井 健二
    2003 年 64 巻 1 号 p. 210-214
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性.風邪様症状で近医受診し,その際偶然腹部腫瘤を指摘され当科へ紹介された.腹部CT, MRIで後腹膜脂肪肉腫が疑われ手術を行った.腫瘤は黄色調で後腹膜腔に存在,下行結腸~S状結腸を右側に圧排するように発育していたが被膜様の膜に覆われ周囲との境界は比較的明瞭であった.切除した腫瘤は35cm×30cm×20cm,重量6,700gであり病理学的には分化型脂肪肉腫と診断された.術後経過は概ね良好で,現在再発の徴候なく外来通院中である.
  • 廣松 伸一, 藤野 隆之, 小野 崇典, 明石 英俊, 青柳 成明
    2003 年 64 巻 1 号 p. 215-219
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    留置用リザーバー感染による,左大腿動脈破裂の1例を経験したので報告する.症例は76歳,男性.膀胱癌に対する動注化学療法のため,左大腿動脈より右内腸骨動脈にカテーテル挿入し左鼠径部にリザーバー留置する.留置後1カ月目にリザーバー挿入部のMRSA感染によりリザーバーを抜去するも,その後抜去創より出血繰り返すため当科紹介となった.左大腿動脈破裂の診断で緊急手術を行った.左総大腿動脈に約8×7 mmの破裂部を認めた.周囲の感染創を十分に切除し,破裂部を含めて総大腿動脈を縫縮した.血行再建は8 mm PTFEを用い左外腸骨動脈から腸骨稜経由で浅大腿動脈への非解剖学的バイパス術を行った.更に感染創に腹直筋と縫工筋を充填した.術後創感染再発はなく経過良好であった.
  • 中田 岳成, 伊藤 勅子, 熊木 俊成, 青木 孝學, 春日 好雄
    2003 年 64 巻 1 号 p. 220-225
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性. 2001年9月,発熱,腹痛を主訴に当院入院.精査にて下部胆管癌と診断され2001年11月膵頭十二指腸切除術が施行された.切除標本にて胆管癌と別に胆嚢底部に25×20mm大の平坦浸潤型腫瘍を認めた.病理組織検査にて胆管癌は結節浸潤型腺癌,胆嚢病変は小細胞癌で,免疫染色ではグレメリウス,クロモグラニン, NSEが陽性であった.術後にCPT-11+CDDPの補助化学療法を施行し,無再発生存中である.胆嚢原発小細胞癌は稀な疾患であるが,切除後早期に再発をきたすため化学療法の併用を必要とする意見が多いが一定の見解は得られていない.また胆嚢小細胞癌報告例のなかでも胆管腺癌との同時性重複癌症例はなく,極めて稀な症例と考えられ報告する.
  • 村元 雅之, 林 周作, 山岸 庸太, 品川 直哉, 竹山 廣光, 真辺 忠夫
    2003 年 64 巻 1 号 p. 226-229
    発行日: 2003/01/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    創傷治癒学の進歩,創傷被覆材の開発により褥瘡は保存的に治癒可能な疾患となってきたが,その治療には多大な時間と労力を要する.治療期間を短縮するために手術が行われる場合があるが,形成外科的手技を必要とするため一般外科医は不慣れで敬遠しがちである.今回われわれは難治性の仙骨部褥瘡に対しpatch graftを3例に行い良好な経過が得られたので報告する.
    本法は分層植皮法の1つで,小さな植皮片を貼り付けて縫合固定しない方法である.侵襲が少なく局所麻酔で簡便に施行でき生着率も良く,感染など母床の条件の悪い時に適用される.しかも母床には手術侵襲を加えなくて済み,たとえ植皮片が生着しなくても褥瘡を悪化させることがない.手術手技は,創の洗浄と滅菌歯ブラシによるdebridement,およびgraftの採取と創への貼り付けのみである.本法は単純容易であり良好な結果が期待でき,褥瘡の外科的治療の1つとして推奨できる.
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