日本臨床外科学会雑誌
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64 巻, 3 号
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  • 内村 正幸
    2003 年 64 巻 3 号 p. 535-542
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胆嚢癌は,癌の壁深達度により予後が大きく左右される.深達度m, mpの早期癌では癌はほとんど胆嚢に限局していて,胆嚢摘出だけでも長期生存が得られる.しかし, ss以上の進行癌になると5年生存率は急速に低下し,肝合併切除が必要となる.今回自験胆嚢癌160例(病巣切除可能症例131例)を中心に長期生存症例からみた胆嚢癌術式を検討した.切除症例を癌の壁深達度別に分類すると早期癌(m, mp癌) 28.2%,進行癌71.8%と進行癌の比率が極めて高い. ss癌39例中18例(46.2%)が3年以上生存していて,この内6例は10年以上となり,最長23年となる.これら長期生存例は,いずれもS5中心肝切除かS4a+S5を主体とする肝合併切除症例である.胆嚢癌の肝転移については直接浸潤やリンパ行性転移の他に胆嚢静脈を介する血行性転移が関与し,初期転移の部位は胆嚢静脈と交通するS4a, S5,の門脈支配領域に高く,比較的早期のss癌に於いても,この領域の肝合併切除が長期生存につながる.
  • 高間 雄大, 梅岡 達生, 村上 茂樹, 庄 達夫, 石原 清宏, 酒井 邦彦, 山本 泰久
    2003 年 64 巻 3 号 p. 543-550
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    1977年から1999年までに当院で経験した乳癌術後局所再発125例を対象に,予後規定因子に関する検討を行った.まず種々の項目による単変量解析を行った後,有意差を認めた項目を用いて,ステップワイズ法により,次の重回帰関数(予後得点)を作成した.予後得点(PI)=5.550-0.034×原発巣手術時年齢-0.682×tnm分類+0.025×無病期間(月数)-0.821×再発部位(部位得点)+0.853×再発後外科的治療(無: 0,有: 1).予後得点を構成する因子のうち,最も影響力の強かった項目は無病期間であった.予後得点別の再発後5年生存率は, Grade I (PI≧4.5) 100%, Grade II (2.5≦PI<4.5) 62.4%, Grade III (2.0≦PI<2.5) 19.4%, Grade IV (PI<2.0) 6.6%で,全ての群間で有意差を認めた.
  • 諸冨 嘉樹, 大野 耕一, 中平 公士, 塩川 智司, 辻本 嘉助, 木下 博明
    2003 年 64 巻 3 号 p. 551-556
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    漏斗胸に対する胸腔鏡下胸骨挙上術(Nuss法)と従来の胸骨挙上術を比較した.従来群60例(男:女=52:8,平均6歳)とNuss群26例(24:2,平均8歳6カ月)を対象とした.従来群の手術時間,出血量,手術から帰宅までの期間は299±61分, 170±206g, 13±4日, Nuss群では138±39分, 16±11g, 8±3日であり,すべてで有意差を認めた. Nuss法では十分に胸骨が挙上され,手術瘢痕も小さく美容上満足できるものであった.合併症として従来群の5例で血性胸水,内胸動脈損傷,皮膚壊死, barのshiftがみられた.またNuss群の4例で術中の肺損傷による気胸,断裂したwireによる肺損傷と胸腔内異物,barのshift, flippingがみられた. Steel barをwireで固定したNuss群5例のうち3例でwireが断裂したことから, barの固定法にはさらなる検討と工夫が必要である. Nuss法は低侵襲かつ美容上優れた術式といえるが,さらに合併症を減らす努力が必要である.
  • 田畑 峯雄, 矢野 武志, 門野 潤, 渋谷 寛, 大迫 政彦, 迫田 晃郎
    2003 年 64 巻 3 号 p. 557-564
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    非閉塞性腸管虚血症17例の臨床像,診断,治療成績について検討した.年齢は56歳から90歳,平均73歳であった.基礎疾患として心血管疾患13例,糖尿病3例,慢性腎不全2例,誘因としてdigitalis・利尿剤投与5例,手術侵襲3例,敗血症2例,血液透析2例,血液濃縮2例などを認めた. 11例が術前ショックを呈した.造影CTを施行した12例に腸間膜動脈閉塞を伴わない腸管虚血所見を認めた.血管拡張剤の動注療法は術前,術後に1例ずつ施行した.虚血・壊死範囲は小腸から結腸9例,小腸6例,全腸管2例であった.在院死亡率は56%で,術前ショック,交感神経作動薬投与,広範囲腸管壊死は予後不良であった.周術期のprostaglandin E1の投与例は予後良好であった.動脈硬化関連疾患を有する高齢者に全身の灌流低下が生じ,腹部症状が出現したら, CTで上腸間膜動脈の閉塞と虚血腸管の有無を検索する.本症と診断したら血管拡張剤の投与と必要最小限の腸切除を行う.
  • 帆足 孝也, 岩瀬 和裕, 檜垣 淳, 尹 亨彦, 三方 彰喜, 宮崎 実, 西谷 暁子, 川本 弘一, 老松 夏美, 金 啓和, 上池 渉
    2003 年 64 巻 3 号 p. 565-569
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    腹部正中切開創を遅発性合成モノフィラメント吸収糸連続縫合により閉鎖し,術後1年6カ月以上の経過観察が可能であった588例について,腹壁瘢痕ヘルニア発生状況を観察した. 22例(3.7%)にヘルニアを認めた.ヘルニア発生時期は, 3カ月以内4例, 3カ月から6カ月6例, 6カ月から9カ月4例, 9カ月から12カ月3例および1年以上4例と,ほぼ均等に分布していた.ヘルニア初発部位は, 55%が臍周囲に認められたのに対して,縫合糸の結紮点となる下端での発生は38%であった.遅発性合成モノフィラメント吸収糸を使用した場合の縫合糸吸収に起因するヘルニア発生時期の偏りは認められず,連続縫合による閉腹操作に際しては臍周囲の縫合に注意が肝要と考えられた.
  • 野村 真治, 桂 春作, 久我 貴之, 河野 和明, 加藤 智栄
    2003 年 64 巻 3 号 p. 570-574
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    2000年2月から2002年3月までに7例の上肢急性動脈閉塞症を経験した.年齢は61歳から91歳で平均77.3歳.男性4例,女性3例であった.全例に不整脈を認め,うち6例は心房細動で, 1例は洞不全症候群であった.症状は冷感6例,知覚異常1例,疼痛3例,脱力感2例であった.閉塞部位は鎖骨下動脈2例,腋窩動脈1例,上腕動脈2例,橈骨動脈2例で,右4例,左3例であった.全例にまず血栓溶解療法を施行し, 4例で改善を得た.他の3例で,経皮的血管形成術, Fogartyバルーンカテーテルによる血栓除去術,バイパス術をそれぞれ1例ずつ追加した.全例手指の機能障害なく改善した.本疾患への治療の第一選択として血栓除去術が頻用されているが,当科ではまず血栓溶解療法を施行し, 7例中4例で有効であり,第一選択の治療法となりうると考えた.
  • 吉本 信保, 遠山 竜也, 山下 啓子, 原 泰夫, 杉浦 博士, 岩瀬 弘敬
    2003 年 64 巻 3 号 p. 575-579
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    乳腺線維腫症は,稀な良性の線維増殖性病変であり浸潤性増殖形態をとり局所再発する傾向にあるが転移することはない.症例は, 20歳の女性で,左乳房腫瘤触知を主訴に来院した.初診時,左乳房全体を占める大きさ9.0×8.0cmの表面平滑な弾性硬の腫瘤と,右乳房AC領域に大きさ3.0×2.0cmの弾性硬の腫瘤を触れた.術前,両側乳腺葉状腫瘍を疑い,両側乳腺腫瘍摘出術を施行した.術後の病理検査にて,両側乳腺線維腫症と確定診断した.免疫組織学的検査では, ERαとPgRは陰性で, Ki-67陽性細胞が散見された.本症例は,術後5カ月目,右乳腺に局所再発を認め,現在も経過観察中である.良性病変にもかかわらず高頻度に局所再発する本疾患に対して,慎重な切除範囲の決定と,厳重な術後の経過観察が大切であると考えられた.
  • 鶴岡 優子, 中込 博, 三井 照夫, 芦澤 一喜, 千葉 成宏, 中沢 美知雄
    2003 年 64 巻 3 号 p. 580-583
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,女性. 30年程前より,左腋窩の腫瘤を自覚していたが放置していた. 5年前より腫瘤が徐々に増大し,疼痛も出現してきたため近医を受診,当院を紹介された.腫瘤は長径25cm,弾性硬で皮膚が発赤していた.画像所見では多結節,内部に嚢胞状変化を伴う腫瘍で針生検では良性間質性腫瘍と診断され腫瘍摘出術を施行した.切除標本の病理組織学的検索では境界悪性葉状腫瘍と診断された.その後2カ月の間に局所再発をきたし,周囲組織を含めた十分な切除と広背筋皮弁による再建を行った.異所性乳腺原発の葉状腫瘍は非常に稀である.また本症例は葉状腫瘍の生物学的特性を示す1例と考えられる.
  • 座波 久光, 川上 浩司, 稲嶺 進, 當山 鉄男, 与那覇 俊美, 大城 直人
    2003 年 64 巻 3 号 p. 584-588
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    乳房温存術においては,切除容量が大きければ当然整容性に問題を生じる場合が多く,殊に腫瘍が下方領域に存在する場合にはそれが顕著となる.そこでわれわれは,温存術時に生じる組織欠損部への充填組織に,腹腔鏡にて作製した有茎大網弁を利用したところ,良好な結果が得られた.腹腔鏡下の有茎大網弁採取にかかる時間は約1時間程度で,腹部の創も腹腔鏡下胆嚢摘出術とほぼ同等である.本術式は,広範囲の切除を伴う下方領域の温存術において,今後有用な方法になる可能性があると思われる.
  • 趙 秀之, 川上 定男, 大垣 雅晴, 高階 謙一郎, 藤田 佳宏, 宗 寛之
    2003 年 64 巻 3 号 p. 589-593
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    穿刺吸引細胞診にて診断しえた乳腺原発腺様嚢胞癌の1例を報告する.症例は52歳,女性,左乳腺腫瘤および乳腺痛にて来院した.触診にて,左D領域に径1.5cmの弾性硬の腫瘤を触知した.境界は比較的明瞭で,可動性は良好であった.マンモグラフィでは1.5cmの楕円形の腫瘤を認め, category 3と診断した.乳腺超音波検査では楕円形の低エコー陰影を認めた.穿刺吸引細胞診にて,類粘液球を囲む唐草模様状の細胞の集積を認めたため,腺様嚢胞癌と診断し,乳房温存手術+腋窩リンパ節郭清術を施行した.病理検査では,本疾患に典型的な篩状構造と乳腺痛の原因と考えられるperineural space invasionの所見を認めた.リンパ節転移は認めなかった.本疾患は非常に稀であるが,正確に術前診断するためには,その特徴的な病理所見に対する知識が必要であると考えられた.
  • 田畑 智丈, 森浦 滋明, 小林 一郎, 石黒 成治, 吉岡 裕一郎, 松本 隆利
    2003 年 64 巻 3 号 p. 594-597
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,女性.主訴は腹痛.既往歴として58歳時に右乳癌にて定型的根治的乳房切除術, 63歳時に胆石症にて開腹胆摘術, 67歳時に乳癌の肺転移にて肺部分切除術, 70歳時に子宮癌にて広汎性子宮全摘出術を受けた.平成13年2月4日,癒着性イレウスの受診で入院. Long tubeによりイレウスはほぼ解除されたが,造影にて回盲部回腸に約2 cmの全周性狭窄を認めた.回盲部小腸腫瘍の診断で3月8日回盲部切除術を施行した.病理組織所見では乳癌の小腸転移であった.
    転移のみられた乳癌135例の剖検例での検討では乳癌の消化管転移は8.9%と報告されている.しかしながら乳癌小腸転移が臨床的に問題となることはほとんどなく本症例は稀な症例と思われた.
  • 植木 伸也, 高橋 弘昌, 高橋 将人, 田口 和典, 伊藤 智雄, 藤堂 省
    2003 年 64 巻 3 号 p. 598-602
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    乳房温存手術後の炎症性乳癌型再発は極めて予後不良であることが知られている.既存の化学療法に抵抗性であった本症に対し, Weekly Trastuzumab-Paclitaxel療法を施行した.症例は55歳,女性,左乳房温存手術後20カ月後に発症した炎症性乳癌型皮膚再発症例で皮膚病変は正中線を越えて対側乳房側へ進展していた. CEF療法およびTaxane系抗癌剤単剤は無効であった. HER 2免疫染色が強陽性であったため, Weekly Trastuzumab-Paclitaxel療法を施行した.本療法に伴った副作用は特に認めなかった. 4コース目以降明らかな皮膚病変の消退を認め, 12コース目にはCRと判定した. 20コース後には皮膚生検でpathological CRを得たため, 2002年1月24日残存乳房切除術を施行した.残存乳房内に癌細胞を認めず,現在無治療で経過観察中である.
  • 吉川 正人, 伊藤 壽記, 西田 俊朗, 打越 史洋, 澤 芳樹, 松田 暉
    2003 年 64 巻 3 号 p. 603-607
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は58歳女性で, 26年前,僧帽弁置換術が施行された. 8年前に慢性C型肝炎を指摘された.今回,人工弁機能不全にて,僧帽弁再置換術予定となるが,術前に肝硬変に起因した脾機能亢進による,二次性血小板減少症(血小板数3.4×104/mm3)を認めた.血小板輸血を行うが増加を認めず,開心術に先行して,血小板増加を目的に脾臓摘出術を施行した.その結果,血小板数は,翌日に16.0×104 mm3,脾摘後21日目の開心術時には20.5×104/mm3にまで増加し,血小板凝集能,粘着率もほぼ正常であった.僧帽弁再置換術は,止血に難渋することなく安全に施行しえた.開心術での大量出血,大量輸血は肝不全, MOFにつながり注意を要する.本例での脾摘後の血小板数増加は止血,特に術後早期の出血を抑制する点で有用であった.
  • 土田 知史, 坂本 和裕, 武内 浩一郎, 三好 光太
    2003 年 64 巻 3 号 p. 608-612
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    脊髄神経鞘腫および両側腎血管筋脂肪腫(angiomyolipoma: AML)を合併した肺リンパ脈管筋腫症(lymphangioleiomyomatosis: LAM)の1例を経験した.症例は26歳,女性.両側腎AMLの既往あり.平成6年5月より右気胸を5回(2回目に胸腔鏡手術施行),左気胸を2回発症した.今回平成12年9月より左気胸3回目を発症し入院.胸部CT上両肺野に嚢胞性変化が多発しLAMを疑い,平成12年10月胸腔鏡下生検を施行.病理組織所見で細気管支壁および胞隔に平滑筋組織の増生を認め, smooth muscle actin弱陽性, HMB-45陽性,プロゲステロンレセプター陽性によりLAMと診断した.また術後腰痛の増悪があり脊髄MRIで胸部硬膜内髄外腫瘍を認めた.摘出術を施行し神経鞘腫の診断を得た.検索しえた範囲ではLAMと神経鞘腫を合併した報告例はなく,貴重な症例と思われ報告した.
  • 山口 敏之, 高田 学, 佐近 雅宏, 秋田 真吾, 小松 信男, 橋本 晋一
    2003 年 64 巻 3 号 p. 613-616
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.鉄道沿線の草刈り作業中,他の人の自動草刈り機の刈刃が背部に接触し外傷を負ったため,救急車で当院に搬送された.創は長さ25cmにわたり筋肉,肋骨が切断され胸腔内に到達しており創から左肺が観察された.ただちに全身麻酔下に手術を行い胸腔内の観察を行ったところ,心・大血管の損傷はなかったが,左肺下葉(S6)に幅8 cm,深さ2 cmの損傷を認めた.自動縫合器を用いて同部を切除・縫合し,胸腔内および胸壁創を充分洗浄したのち閉胸,手術を終了した.経過は良好で術後10日で退院した.
  • 荒能 義彦
    2003 年 64 巻 3 号 p. 617-619
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は75歳の男性, 45歳時に肺結核にたいし左胸郭成形術をうけている. 1998年12月7日,交通事故で受傷し救急車で来院した.努力性呼吸でチアノーゼがあり右背部の胸壁陥凹と奇異性運動を認めた.画像所見では右血気胸,肺挫傷と右第3から第9までの肋骨骨折が認められ,胸壁の偏位が著明であった.
    右後側方切開・第5肋間で開胸,下葉の3カ所の裂創部分を縫合閉鎖した.多発骨折している肋骨を可及的に鋼線で固定した.
    術後経過は良好で,受傷直後の急性期手術が有効であったと思われた.
  • 尾方 章人, 東野 正幸, 谷村 愼哉, 福長 洋介, 田口 伸一
    2003 年 64 巻 3 号 p. 620-623
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,女性. 10年来,軽度の嚥下困難を認め食道憩室の存在を指摘されていた.近年,症状の増悪と憩室の増大を認めたため手術適応となった.術前の食道造影検査において,第4, 5頸椎の高さで左方に突出する憩室の茎を認めることから非Zenker憩室が疑われた.術中所見においても,輪状咽頭筋の尾側で食道壁左側の縦走筋の間から突出する憩室を認めた.また術前の食道内圧測定においても嚥下による協調運動は保持されていたため,術式としては憩室切除術にとどめ輪状咽頭筋切離術を加えなかった.
    術後1年を経過しているが,憩室の再発は認められていない.しかしながら今後も再発の有無を注意深く観察してゆくべきである.
  • 森島 宏隆, 仲原 正明, 城戸 哲夫, 中尾 量保, 辻本 正彦
    2003 年 64 巻 3 号 p. 624-628
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,男性.主訴は嚥下困難.食道胃透視,内視鏡検査にて食道癌(MtUt, 3型, 12cm長),胃癌(M, IIa+IIb, 3 cm大)と診断. CT検査にて食道癌の右肺浸潤が疑われT4と診断し,放射線(40Gy)化学療法(CDDP, 5'-DFUR)を施行した.終了2週目に発熱と,胸部X線にて右下葉肺炎を認めた.食道造影にて右下葉B6と膿瘍腔が造影され食道肺瘻と診断した. covered EMSを挿入し,肺炎の改善を図り, 19日後に手術を施行した.食道と右肺は固く癒着し,食道および右肺下葉を一塊として切除した.病理診断は,高分化扁平上皮癌, pT3, pN0, stage IIで,肺浸潤や瘻孔は明らかでなかった.食道気管支瘻を形成した食道癌に対するcovered EMS挿入は,肺炎の治療に有効であるとともに,術前処置としても有用な方法と考えられた.
  • 藤田 晃司, 松原 健太郎, 村井 信二, 中村 明彦, 菅沼 和弘, 宇山 一朗
    2003 年 64 巻 3 号 p. 629-633
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    比較的稀な胃前庭部に発生した胃平滑筋腫に対して完全腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は26歳の女性.主訴は心窩部痛.上部消化管内視鏡検査にて胃前庭部後壁に径3.5cmのdelleを伴った粘膜下腫瘍を認めた.完全腹腔鏡下手術への希望が強いため,書面でのICをとった上で完全腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行した.手術は気腹法で施行した.超音波凝固切開装置を用いて,胃大彎側および小彎側における胃壁周囲の血管処理と胃結腸間膜および小網の切離を行った.右胃大網動静脈の血管処理は,末梢にてクリップを使用した.十二指腸は,幽門輪から約2cm肛側,胃は胃角部にて切離した.再建はBillroth-I法とし,吻合は後壁の漿膜筋層を3針結紮縫合して胃と十二指腸を固定してから,後壁・前壁の順に全層連続縫合を施行した.腫瘍は3.5×3.5×1.8cmの大きさで,幽門輪までの距離が2cmであった.病理診断は平滑筋腫で術後経過は良好で術後17日目に退院した.幽門輪に近接した胃平滑筋に対し完全腹腔鏡下幽門側胃切除術は有効であると考えられた.
  • 齋藤 元伸, 関川 浩司, 安斉 圭一, 安藤 善郎, 竹之下 誠一
    2003 年 64 巻 3 号 p. 634-637
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胃癌からのKrukenberg転移術後31カ月経過し,外鼠径ヘルニアを契機に診断された腹膜再発の1例を報告した.症例は46歳,女性. Krukenberg腫瘍摘出術後31カ月経過した2002年1月,ヘルニア根治術施行した.切除したヘルニア嚢の先端に黄白色大豆大の孤立結節を認め,病理学的検索にて胃癌の腹膜再発と診断した.本例ではその他の腹膜への多発結節もみられず,術後5カ月経過した現在もなお再発の兆候がないことより前回手術時に腹腔内遊離癌細胞がヘルニア嚢に着床し,そこで増殖したことが推察された.腹膜再発の診断は,腹水などの臨床症状を伴わない例,画像や腫瘍マーカーの変化がない例では困難な場合がある.その際には,極めて稀な腹膜転移形式の一つであるヘルニア嚢腫瘍の存在も常に念頭に入れ診察することが大切である.
  • 植村 一仁, 岡田 邦明, 近藤 征文, 石津 寛之, 大沢 昌平, 益子 博幸
    2003 年 64 巻 3 号 p. 638-641
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は47歳,男性.検診にて十二指腸の異常所見を指摘され当院受診.上部消化管内視鏡検査にて十二指腸副乳頭部に径15mmの中央に浅い陥凹を伴う隆起性病変を認め,生検でカルチノイドと診断された.超音波内視鏡検査では深達度smと考えられた.腹部CTでは,肝転移,十二指腸周囲のリンパ節腫脹は認めなかった.十二指腸副乳頭部カルチノイドの診断で幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的所見は,十二指腸副乳頭部カルチノイド, 14×13mm,深達度sm,リンパ節14dに3個の転移を認めた.十二指腸副乳頭部カルチノイドは腫瘍径が小さくても本例のようにリンパ節転移陽性例があり,膵頭十二指腸切除のようにリンパ節郭清を伴った根治術が望ましいと考えられた.
  • 福田 篤志, 山本 一治, 松田 裕之, 松浦 弘
    2003 年 64 巻 3 号 p. 642-645
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    腹腔動脈起始部が正中弓状靱帯によって圧迫されて狭窄し,膵十二指腸動脈アーケードを介した血流が増加することにより生じたと思われる下膵十二指腸動脈瘤の症例を経験した.症例は48歳,女性で,上腹部痛の精査中に3cm径の下膵十二指腸動脈瘤が発見された.動脈造影にて総肝動脈は逆行性に造影され,膵十二指腸動脈アーケードを介した上腸間膜動脈系の血流増加が示唆された.開腹下に正中弓状靱帯を切離して腹腔動脈起始部の圧迫を解除し,同時に動脈瘤を切除した.術後上腹部痛消失し, 3カ月目の動脈造影にて腹腔動脈の狭窄は軽快し,総肝動脈は順行性に造影されていた.腹腔動脈狭窄と膵十二指腸動脈瘤の合併は比較的稀であるが,破裂例の報告もあり,本症例のように待期的に圧迫解除と瘤切除を行うべきと思われた.
  • リンパ節転移からみた術式の文献的考察
    籾山 卓哉, 角村 純一, 吉留 克英, 宮崎 実, 永井 勲
    2003 年 64 巻 3 号 p. 646-651
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胆石症術前に偶然診断された原発性十二指腸球部進行癌の1例を経験した. 56歳,女性.胆嚢炎を併発した胆石症加療目的で当科に紹介された.術前スクリーニングの上部消化管内視鏡検査で原発性十二指腸球部癌と診断された.幽門側胃および十二指腸球部切除術, Billroth II法再建,リンパ節郭清と胆嚢摘出術を施行した.腫瘍は十二指腸球部上壁中心で3.2×2.5cmのBorrmann 1型様で,病理組織診断は低分化腺癌, ss, n (-)であった.
    十二指腸進行癌では通常膵頭十二指腸切除術が必要とされるが,本症例のような漿膜浸潤を認めない球部癌に対する術式に関しては議論の余地があると思われる.今回十二指腸球部癌の手術術式に関し主にリンパ節転移の面から文献的考察を試みた.
  • 中村 吉貴, 大西 律人, 脇田 和幸, 崔 修逸, 塚本 忠司, 石田 武
    2003 年 64 巻 3 号 p. 652-656
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    消化管出血の原因として小腸動静脈奇形は比較的稀な疾患であり,また微小病変の場合術中の局在診断が困難なことがある.今回われわれは術中の局在診断を適切に行うため,術直前にマイクロカテーテルを血管内留置し,切除しえた2症例を経験したので文献的考察を加え報告する.(症例1) 62歳,女性.大量下血にて当院を受診した.入院後腹部血管造影検査で微小回腸動静脈奇形と診断した.術直前にマイクロカテーテル,マイクロコイルを留置した.術中,色素の注入および単純X線撮影にて病変部位を同定し,回腸部分切除術を施行した.(症例2) 34歳,男性.下血,めまいを主訴に当院を受診した. Hb 4.8g/dlと高度の貧血を認めた. Dynamic CT,腹部血管造影検査で空腸動脈の一本に著明な拡張を認め小腸動静脈奇形と診断した.術直前にマイクロカテーテルを留置し,色素の注入で切除範囲を確認し,空腸部分切除術を施行した.
  • 今井 寿, 須原 貴志, 佐々木 義之, 高橋 治海, 佐治 重豊
    2003 年 64 巻 3 号 p. 657-662
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は62歳の男性.右肩痛を主訴に受診,入院した. CT, MRI検査にて右副腎に直径約6cmの腫瘍を認め,右副腎腫瘍と診断し,精査目的に他院へ転院した.その結果,内分泌学的には異常を認めなかったため,腹腔鏡下生検を行ったところ転移性副腎腫瘍と診断された.原発巣の検索目的で当院へ再入院した時には,下腹部に可動性良好な腫瘤を触知し,腹部CT検査で同部に径10cmの腫瘍像を認めた.小腸腫瘍,同副腎転移の診断で小腸部分切除術と右副腎を肝右葉と右腎合併切除で摘出した.小腸腫瘍は粘膜面の潰瘍形成,腫瘍内血腫,多発性の小膿瘍を認め,右副腎は出血を伴う海綿状腫瘍であった.摘出標本の免疫組織学的検査にてc-kit陽性でSMA陽性のgastrointestinal stromal tumorと診断された.術後早期に局所再発・肺転移をきたし34日目に永眠された.本症例は極めて悪性度の高い腫瘍と考え報告する.
  • 中村 貴成, 福島 幸男, 塚原 康生, 柴田 高, 北田 昌之, 島野 高志
    2003 年 64 巻 3 号 p. 663-667
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,女性.突然の右下腹部痛を主訴に来院し急性腹症として緊急試験開腹術を施行した.回腸に全周性の壁肥厚と自潰穿孔部が認められ小腸腫瘍による穿孔性腹膜炎の術中診断となり,小範囲のリンパ節郭清を含む回腸部分切除術と腹腔ドレナージ術を施行した.術後病理組織学的検査により非ホジキン悪性リンパ腫, diffuse large T-cell typeと診断された.化学療法を施行したが術後7カ月目に永眠された.当院において過去40年間に,急性腹症として試験開腹術を施行し穿孔性腹膜炎をきたした小腸悪性リンパ腫と術後診断された8例を臨床病理学的に検討した結果,全身状態が回復し術後化学療法を施行できた4例中長期生存例は2例であり,諸家の報告と同様に予後不良であった.したがって治療方針としては,手術は可能な限り低侵襲にとどめて全身状態の改善に努め,術後早期に多剤併用化学療法を施行するのが最善と考えられた.
  • 鬼澤 俊輔, 宮崎 正二郎, 糟谷 忍, 森山 宣, 藤田 徹, 御子柴 幸男
    2003 年 64 巻 3 号 p. 668-672
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は38歳,男性.主訴は右下腹部痛.注腸造影検査,大腸内視鏡検査, CT検査にて虫垂腫瘍を認め,生検により悪性リンパ腫と診断した.精査にて他病変はなく,虫垂原発悪性リンパ腫の診断で結腸右半切除+D3郭清術を施行した. 1群リンパ節に転移を認めた.組織学的検査によりnon Hodgkin lymphoma, diffuse large cell typeと診断された.術後, CHOP療法2クールを施行した.術後24カ月現在再発の徴候はない.虫垂原発悪性リンパ腫は消化管原発の悪性リンパ腫の中でも稀な疾患であり,本邦報告例の集計を加え報告する.
  • 栗山 直久, 世古口 務, 山本 敏雄, 井戸 政佳, 三枝 庄太郎, 野田 雅俊
    2003 年 64 巻 3 号 p. 673-677
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    過去16年5カ月間に当院で経験した虫垂粘液嚢腫11症例(腺腫8例,腺癌3例)について臨床病理学的検討を行った.年齢は42~83歳で,男性4例,女性7例であった.主訴は下腹部痛が最も多く6例(うち腫瘤触知2例)であったが, 2例は無症状で発見された.近年の画像診断の進歩によって腺腫8例中5例において術前診断が可能であり,腺癌3例はともに癌性腹膜炎(腹膜偽粘液腫)の術前診断であった.術式は虫垂切除が6例(うち小腸部分切除併施1例)と最も多く,次いで回盲部切除4例(うち大網切除併施1例),盲腸部分切除1例であった.予後は腺腫8例では胃癌合併の1例が癌死したが,他は生存中で,腺癌3例では2例がそれぞれ3カ月, 17カ月後死亡し, 1例が9カ月生存中である.
  • 篠原 徹雄, 山下 裕一, 渡邊 建詞, 酒井 憲見, 前川 隆文, 白日 高歩
    2003 年 64 巻 3 号 p. 678-682
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    Crohn病は重篤な合併症をきたす例が少なくない.主なものに瘻孔形成,腸管狭窄や穿孔などがあるが,なかでも肝膿瘍や腸腰筋膿瘍を合併することは非常に稀である.肝膿瘍は本邦では渉猟しえた限りでは7例であり,腸腰筋膿瘍において34例であることから,両者を合併したCrohn病は極めて稀と思われる.今回われわれは, 24歳男性の大腸Crohn病の治療中に続発した肝膿瘍と腸腰筋膿瘍を合併した患者に対し,腸腰筋膿瘍には経皮的ドレナージを行い,破裂肝膿瘍には開腹ドレナージを行い治癒しえた1例を経験したので文献的検討とともに報告する.
  • 山口 明浩, 塚本 賢治, 清水 義博, 内山 清
    2003 年 64 巻 3 号 p. 683-686
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    S状結腸の感染性壊死の1例を経験したので報告する.症例は63歳の男性,糖尿病,脳梗塞後の患者である.腹痛を主訴に来院し,粘血便と腹部の筋性防御を認めた. CT検査ではS状結腸の著明な肥厚を認め,憩室炎の穿孔を疑い緊急手術を施行した. S状結腸の壊死を認め,直腸にも炎症性変化が著明であった. S状結腸を切除し,直腸断端は閉鎖し下行結腸人工肛門を造設した.病理組織学的検査では憩室はなく,粘膜から筋層に至るまで大型のグラム陽性桿菌を多数認め,感染性大腸壊死と診断した.術後,肺炎,脳梗塞症状の増悪など繰り返したが224日目に軽快退院した.糖尿病患者では慢性便秘と長期臥床傾向にある場合,腸内環境の保全に考慮すべきではないかと考えられた.
  • 加藤 公一, 金住 直人, 伊藤 不二男, 鈴木 祐一, 木村 次郎, 石井 正大
    2003 年 64 巻 3 号 p. 687-691
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,男性.両側鼠径ヘルニアの手術歴があり2年前より左鼠径ヘルニアが再発していた.今回自己にて用手整復後より左鼠径部痛が出現し当院受診した.嵌頓所見なく帰宅後,左鼠径部の疼痛・腫脹が増強し翌日再度受診した.体温38℃,左鼠径部から陰嚢にかけて腫脹・圧痛・発赤が著明であり,左鼠径ヘルニアの嵌頓を疑い手術施行した.鼠径管内に腸管の脱出なく,精索内に感染性壊死組織・膿・便汁を認めたため開腹し, S状結腸の腸間膜内への穿孔が原因と診断した. S状結腸部分切除・左精索切除術を施行し,患者は第57病日退院した.病理組織学的に結腸癌,結腸憩室の所見は認めなかった.鼠径・陰嚢部に炎症所見を伴う腫脹を呈する患者では,大腸穿孔の可能性も考慮する必要がある.
  • 石原 行雄, 横山 剛, 河野 洋一, 松田 壽夫, 川村 武, 川村 統勇
    2003 年 64 巻 3 号 p. 692-695
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,男性. 2000年11月,眩暈,ふらつきを主訴に受診.血液検査にてHb 6.8 g/dlと著明な貧血を認めた.下部消化管内視鏡検査では上行結腸に単発の大きさが約15 mm大の鮮紅色を伴った円形の隆起性病変を認めた.腹部血管造影では,回結腸動脈から上行結腸中部を栄養する分枝に斑状の強い濃染像を認めた.他部位に貧血をきたす病変はなく,上行結腸angiodysplasiaの出血とそれに伴う高度の鉄欠乏性貧血と診断し,腹腔鏡補助下上行結腸切除術を施行した.術後経過は良好で術後23カ月の現在,出血,貧血の兆候は認めていない.
  • 上甲 秀樹, 日前 敏子, 増田 潤, 矢野 達哉
    2003 年 64 巻 3 号 p. 696-699
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,女性.発熱,歩行障害,左側腹部痛が出現し,当院整形外科に入院した.翌日,ショック状態となり当科に紹介された.腹部単純X線写真で下行結腸周囲に多数の斑状気泡像を,腹部CT検査で後腹膜腔から左股関節部にかけて広範囲に気腫像を認めた.後腹膜膿瘍の診断で緊急手術を施行した.術後,注腸透視,腹部CTで大腸憩室の後腹膜穿孔と診断した.
  • 森 一成, 佐々木 政一, 白井 康嗣, 坂田 好史
    2003 年 64 巻 3 号 p. 700-704
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は52歳の女性で,主訴は左側腹部痛. 10年2カ月前に直腸癌にて低位前方切除術,その後肺転移巣に対して3回の切除,脳転移巣に対して2回の切除と6回のガンマナイフ治療の既往がある.さらに, 5カ月前には肺転移巣へ放射線照射を行っている.単純CTにて膵尾部に点状の石灰沈着像を有する腫瘤を認め,造影CTでは腫瘤の中心部の造影が乏しかった. MRIではT1でlow, T2ではiso intensityを呈し,その中に一部まだらなhigh intensityの部分も混在した. ERPでは膵尾部で主膵管の閉塞と腺房像の消失を認めた.以上より膵の悪性腫瘍を疑って膵体尾部切除,脾摘術を施行した.腫瘍は大きさ4.0×3.1×3.0cm,割面で黄白色を呈する中分化型腺癌で,主膵管および末梢膵管内に病変はなく,直腸の原発巣,肺および脳の転移巣と病理組織学的に類似点に富むことから直腸癌の膵転移と診断した.直腸癌の膵転移切除の報告は少なく,希有な症例と思われるので報告する.
  • 野村 裕紀, 桂巻 正, 水口 徹, 西森 英史, 菊池 仁, 平田 公一
    2003 年 64 巻 3 号 p. 705-709
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    特発性門脈圧亢進症(IPH)による巨大脾腫に対して脾摘を施行後,門脈内血栓形成を認め,ダナパロイドナトリウム投与を行ったところ血栓消失を得た症例を経験したので報告する.症例は51歳,女性. IPH,脾腫,汎血球減少症のため当院内科にて部分的脾動脈塞栓術(PSE)などの内科的加療を受けてきたが,高度の汎血球減少症,腹部膨満を認め,経時的に悪化傾向を示すため,当科で脾摘を施行した.術後経過は良好であったが,術後の腹部CT検査で術前には存在しなかった門脈内血栓を認め,ダナパロイドナトリウム投与を行ったところ血栓の消失を得た.ダナパロイドナトリウムは投与方法が簡便であり,出血傾向などの副作用を生じない新しい抗凝固剤とされており,今後わが国でも深部静脈血栓症や門脈血栓症などに対する有効な治療剤となりうる可能性が示唆された.
  • 永吉 茂樹, 須藤 隆一郎, 川添 康, 池田 祐司, 中安 清, 江里 健輔
    2003 年 64 巻 3 号 p. 710-714
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    巨大肝嚢胞により閉塞性黄疸をきたす症例は稀である.今回われわれは閉塞性黄疸をきたした巨大肝嚢胞に対して開窓術を行い,良好な経過を得たので報告する.
    症例は73歳,女性で,皮膚黄染,食思不振を訴えて来院した.初診時,黄疸・肝機能異常を認め,精査にて肝門部に径13×9cmの肝嚢胞を認めた.胆管は肝門部にて閉塞し,肝内胆管は両側とも著明に拡張していた.右肝内胆管に対しPTCD施行.その後良好に減黄,肝機能改善を認めた.しかし,左肝内胆管が完全閉塞状態であることに加え,閉塞性黄疸の原因として胆管癌の存在を完全に否定しえなかったため,手術を施行した.開腹術により胆管癌が否定されたため,開窓術を施行し,術後経過は良好であった.
  • 松原 毅, 柴北 宗顕, 槙野 好成, 橘 球, 内田 正昭
    2003 年 64 巻 3 号 p. 715-718
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は28歳,女性.以前より胆石症の診断にて経過観察中であったが,右季肋部の強い痛みを訴えて当院を受診した.血液生化学検査で肝機能の著明な上昇を認めたため胆嚢炎の診断にて入院となった.腹腔鏡下胆嚢摘出術施行したところ術中肝表面に腹壁との癒着を認め,またクラミジアIgA, IgG抗体が陽性であったため胆石症に合併したFitz-Hugh-Curtis症候群と診断した.
    クラミジア感染症が増加傾向にある現在,若年女性の腹腔鏡下手術の際には本疾患を念頭に各種クラミジア検査を施行するとともに,術中肝表面の詳細な観察が重要であると思われた.
  • 矢野 佳子, 前浦 義市, 遠藤 和喜雄, 北條 茂幸, 山崎 惠司, 岡本 茂
    2003 年 64 巻 3 号 p. 719-723
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    今回われわれは膵嚢胞として9年4カ月経過観察されていた比較的稀であるslow growingな膵癌の1例を経験したので報告する.症例は67歳,男性.平成4年7月他院にて腹部CT,エコーで膵尾部に長径30mmの腫瘤を認め膵嚢胞と診断され,経過観察されていた.平成13年2月の腹部CTでは,膵尾部35mmの嚢胞性腫瘤と,肝S8に径15mmの腫瘤を認めた.同10月の腹部CTで肝の腫瘍は増大傾向であったため11月8日当院紹介入院となった.肝腫瘍はエコーガイド下生検により,胆管細胞癌と診断された.以上より術前膵嚢胞,胆管細胞癌の診断で, 12月11日膵体尾部切除,肝S8部分切除を行った.病理組織学的には膵癌(悪性膵島細胞腫瘍),肝転移であった.術前の膵嚢胞の良悪性の鑑別診断は困難であることが多く,明らかな仮性嚢胞と診断できるものを除けば常に手術適応を念頭に置き,定期的で厳重な経過観察が不可欠である.
  • 小坂 錦司, 吉川 和彦, 井上 雅文, 山本 篤, 西村 重彦, 妙中 直之
    2003 年 64 巻 3 号 p. 724-729
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,男性. 1998年2月頃より,左上腹部に違和感を認めていた. 1998年3月,他院にて腹部超音波検査を受け,脾臓に腫瘍を指摘された.精査目的にて当院内科に入院した. CTでは脾臓内に石灰化を伴う腫瘍が認められ,辺縁がわずかに造影された. MRIではT1強調像で等信号, T2強調像で低信号の腫瘍であった.血管造影では腫瘍血管はほとんど認めなかった.脾腫瘍の診断のもと, 1999年6月1日,脾臓摘出術を施行した.摘出した脾臓の重量は345gで,割面では6.0×4.0cm大の黄白色で充実性,境界明瞭な腫瘍が認められた.病理組織学的所見では,腫瘍部はヒアリン化を強く伴った,陳旧性の線維性肉芽腫で,所々に形質細胞の集簇がみられinflammatory pseudotumorと診断した.
  • 山口 方規, 遠山 信幸, 野田 弘志, 住永 佳久, 小西 文雄
    2003 年 64 巻 3 号 p. 730-734
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,男性.近医にて後腹膜腫瘤の診断で開腹,腫瘤生検時に血圧の上昇を認め手術が中止された.術後検査にて血中,尿中カテコラミンの異常高値を認め,病理組織診断と併せて褐色細胞腫と診断,当院紹介入院,術前腹部超音波検査, CT, MRI検査で肝背側に腫瘤を認め,下大静脈への浸潤が疑われた.両側副腎に異常を認めなかった.下大静脈壁部分切除を伴う副腎外褐色細胞腫摘出術を施行した.摘出標本は6×6×5cm, 66g.表面多結節性,割面分葉状の腫瘤であった.病理組織学的に腫瘍細胞は胞巣状に増生し,周囲脂肪織内への浸潤性増生,静脈侵襲も認め,悪性を示唆する所見であった.以上より,副腎外悪性褐色細胞腫と診断された.術後血中,尿中カテコールアミンは速やかに正常範囲へ低下し,経過良好にて術後19日目に退院した.全褐色細胞腫のうち副腎外悪性褐色細胞腫の頻度は約4%とされているが,その判定基準は必ずしも明確ではない.今回われわれは非常に稀な副腎外悪性褐色細胞腫を経験したが,特に良悪性の判定に関する考案を含めて報告する.
  • 鬼頭 靖, 神谷 里明, 小川 明男, 松永 宏之, 成田 裕司, 松崎 安孝
    2003 年 64 巻 3 号 p. 735-739
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    後腹膜に原発する黄色肉芽腫は比較的稀な疾患である.今回,われわれは左坐骨神経に癒着していた後腹膜黄色肉芽腫の1例を経験したので報告する.症例は56歳,女性である.子宮癌検診で骨盤内に腫瘍を指摘され,当院婦人科に入院した.術前診断は有茎性子宮筋腫または卵巣腫瘍であった.開腹所見で骨盤内に8×7×5 cmの後腹膜に存在する腫瘍を認め,直腸を右方に圧排していた.腫瘍は仙骨と左坐骨神経に癒着していたが,剥離は可能で完全摘出した.病理組織学的には黄色肉芽腫であった.術後1年5カ月を経過した現在再発所見は認めていない.
  • 岡 義雄, 西嶌 準一, 奥 邦彦, 宮崎 知, 中野 博史, 伊豆蔵 正明
    2003 年 64 巻 3 号 p. 740-745
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例1は56歳,男性.下腹部痛を主訴に当科紹介.下腹部全体に圧痛があり,左鼠径部に膨隆を認めた.腹部CT検査で左鼠径ヘルニアがあり,腸間膜がそこへ引き寄せられていた.骨盤内右側から下腹部にかけて腸間膜が渦巻状にみえた.鼠径ヘルニアに合併した腸間膜軸捻転症と診断し,緊急開腹手術を行った.大網は捻転し,末梢側約半分は暗赤色を呈し,肥厚しており,末梢先端は左鼠径部に入り込んでいた.症例2は50歳,男性.右下腹部痛を主訴とし,急性虫垂炎疑いで当科紹介となった.腹部CT検査で右下腹部の腸間膜濃度が著しく上昇しており,渦巻状にみえた.この尾側に続いて右鼠径ヘルニアがみられた.鼠径ヘルニアによる大網捻転症と診断し,緊急開腹術を行った.大網は捻転しており,暗赤色となっていた.末梢先端は右鼠径部に入っていた.両症例とも大網切除を行った.本症の診断にはCT検査が非常に有用であると思われた.
  • 小川 匡市, 鈴木 且麿, 織田 豊, 藤田 明彦, 林 武徳, 山崎 洋次
    2003 年 64 巻 3 号 p. 746-751
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    診断に難渋したdesmoplastic small round cell tumor (DSRCT)の1例を経験した.症例は38歳,男性.腹部膨隆を主訴に内科受診,腹水精査目的で入院,画像診断,腹水細胞診により原発巣不明の低分化型腺癌,癌性腹膜炎と診断された. Tumor reductionを目的として開腹手術を行い大網約1/3切除した.術後切除検体の免疫染色の結果,腹膜原発のDSRCTと診断された. DSRCTに対しては,術前化学療法後手術および放射線治療を施行することにより35%の5年生存率が得られたと近年報告された.同regimenによる化学療法を予定したが,化学療法目前にして術後第50病日,呼吸不全のため死亡した.原因不明の腹腔内腫瘍の診断には, open incisional biopsy, laparoscopicbiopsyを含めた迅速かつ的確な生検が必要であったことが示唆された.
  • 中辻 直之, 野見 武男, 高山 智燮, 堀川 雅人, 杉原 誠一, 丸山 博司
    2003 年 64 巻 3 号 p. 752-756
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は64歳の男性.心窩部痛を主訴に来院.上部消化管内視鏡で胃体中部後壁の早期胃癌と診断.腹部CT検査で膵頭部に辺縁がenhanceされる充実性腫瘤を認め,血管造影で腫瘍濃染像とencasementを認めた.膵頭十二指腸切除および胃全摘術を施行し,膵頭部腫瘤の病理検査で膵腺扁平上皮癌と診断された.膵腺扁平上皮癌は比較的稀で,胃癌との同時性重複癌は調べ得た範囲内では本邦1例目であった.
  • 河内 康博, 重田 匡利, 友近 忍, 中尾 光宏, 藤田 雄司, 宮下 洋
    2003 年 64 巻 3 号 p. 757-761
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,男性.腹部拍動性腫瘤,食欲不振を主訴に来院.腹部USおよびCTで最大径76mmの巨大な腎動脈下腹部大動脈瘤を認めた.上部消化管精査で胃前庭部大彎に3型腫瘍,体中部前壁小彎にIIc病変を認め,胃透視後の腹部X線写真で上部直腸にapple core signを認めた.胃・直腸同時性重複進行癌を合併した腹部大動脈瘤の診断で一期的手術を施行した.手術は8×10cmの動脈瘤切除, Y型人工血管置換を先行させ,ひき続いて幽門側胃切除術を施行し,直腸癌に対してHartmann手術を一期的に施行した.術後合併症もなく49日で退院し,術後6カ月の現在再発なく生存中である.上部・下部消化管進行癌と腹部大動脈瘤に対する同時手術は人工血管感染予防に細心の注意を払えば,一期的手術が可能である.
  • 高橋 亮, 森田 高行, 藤田 美芳, 宮坂 祐司, 仙丸 直人, 高田 実
    2003 年 64 巻 3 号 p. 762-766
    発行日: 2003/03/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.心窩部痛を主訴に近医受診,胃癌の診断で,当院内科紹介入院となった.入院後消化管精査にて,食道,胃,下行結腸に癌腫を認めた. CTにて肝腫瘍を認め, 3重複癌,肝転移の診断で全身化学療法の後,胃全摘,左半結腸切除,肝部分切除(S5)を施行した.術後診断では肝腫瘍は肝細胞癌で,同時性4重複癌と診断した.食道癌に対しては,放射線療法を施行した.病理学的には食道は中分化型扁平上皮癌(生検),胃は中分化型管状腺癌, T2, N1, Stage II,大腸は高分化型腺癌, sm, n (-), stage I,肝は中分化型肝細胞癌, T2, N0, M0, Stage IIであった.重複癌に対する手術は侵襲が過大となりがちであるが,化学療法,放射線療法と組み合わせることで,侵襲を最低限度にとどめ,良好に経過中である.
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