日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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68 巻, 3 号
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原著
  • 高木 尚之, 土屋 誉, 本多 博, 内藤 剛, 小針 雅男
    2007 年 68 巻 3 号 p. 527-534
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    SSIサーベイランスを行い, SSI発生に影響を及ぼす因子について検討した. 2003年12月からの当院外科手術症例1,085例を対象に, 緊急手術, 手術創分類, 術前状態 (ASA分類および栄養状態), 手術時間, 術中出血量, BMIなどの各種因子とSSI発生率の関連を検討した. 緊急手術例, 創汚染症例, 術前状態 (全身状態および栄養状態) 不良例, 手術時間および術中出血量の多い症例で有意にSSI発生率が高かった. 多変量解析にて, 緊急手術, 創分類, ASA分類, 手術時間の4つの因子が有意差を示し, SSI発生と関与していた. また, 術中培養を施行した穿孔性虫垂炎16例に対して使用抗菌薬の感受性とSSI発生について検討し, 感受性陰性 (耐性) 例で有意ににSSI発生は高率であった. SSIの発生には緊急手術, 創分類, ASA分類, 手術時間がリスクファクターとして関与し, 創汚染例では抗菌薬の感受性がSSI発生に影響した.
  • 坂本 裕彦, 網倉 克己, 田中 洋一, 西村 洋治, 川島 吉之, 八岡 利昌
    2007 年 68 巻 3 号 p. 535-539
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    目的・方法 : 肝動注の合併症である脳血管障害への注意を喚起するために, 肝転移術後に肝動注を行った105例における脳血管障害の合併を検討し報告する. 結果 : 7例 (6.7%) に脳血管障害を認めた. 左小脳梗塞4例, 左視床梗塞2例, 脳橋梗塞2例, TIA2例であった. 全例左鎖骨下動脈穿刺例で, 梗塞部位は椎骨脳底動脈領域であった. 麻痺以外の症状に幻暈, 複視, 左手指の痺れ, 冷感等があった. 脳血管障害例は50~60歳台の比較的若年者が6例であり, 70歳未満では対照群に比して有意に高頻度であった. 結語 : カテーテルによる左椎骨動脈経由の血栓塞栓と推測された. 脳血管障害は頻度の高い合併症であり, 肝動注の適応決定に際し留置する必要がある.
  • 堤 謙二, 宇田川 晴司, 木ノ下 義宏, 上野 正紀, 峯 真司, 江原 一尚, 谷本 昭英, 鶴丸 昌彦
    2007 年 68 巻 3 号 p. 540-546
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    色素法によるセンチネルリンパ節 (sentinel node ; SN) を指標としたリンパ節転移診断の問題点を微小転移の観点から検討した. 早期胃癌57例を対象に, 色素法によるSNおよびセンチネルリンパ流 (Sentinel lymphatic basin, SB) 同定率, SNおよびSBを指標とした微小転移を含む転移検出感度, 正診率を検討した. 微小転移は癌細胞1個をtumor cell microinvolvement, cluster形成をtumor clusterと定義した. M癌では2.9% (1/34), SM癌では60.9% (14/23) に微小転移を認めた. 微小転移を指標としたSN同定率は100%, 感度60.0%, 正診率89.5%と感度が低く, 一方SB単位で検討すると感度は86.7%, 正診率96.5%と良好であった. 早期胃癌におけるリンパ節微小転移頻度は高く, SNを指標とした場合の偽陰性症例の頻度を考慮すると, 現状ではSNを指標とするよりもSBを指標とした方がより安全性の高い縮小手術が可能であると考えられた.
  • 山口 敏之, 井原 頌, 荻原 裕明, 高田 学, 小松 信男, 橋本 晋一, 小山 正道
    2007 年 68 巻 3 号 p. 547-551
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    過去21年5カ月間に経験した402件の粉瘤 〔表皮嚢腫 (epidermal cyst, 以下EC) 391件, 外毛根鞘嚢腫 (trichilemmal cyst, 以下TC) 11件〕 について検討した. 過去21年間で粉瘤症例数に年次的変化はみられず, EC症例の約85%が外科, 皮膚科, 整形外科で治療が行われていた. また, EC症例は中年男性に好発し, 男性の発生率は女性の約2倍で, 約60%が顔面, 頸部, 背部に発生していた. さらに, 足底部にECが発生した患者年齢 (20.9±10.2歳) は足底部以外に発生した患者年齢 (47.2±16.8歳) に較べ統計学上有意に若年であった (P<0.0001).
    一方, 粉瘤中に占めるTCの割合は約2.7%で, ECに較べて統計学上有意に女性患者が多く (P=0.037), 頭部に発生する比率が高かった (P<0.0001).
症例
  • 吉田 哲也, 先田 功, 福地 成晃, 辻江 正樹, 戎井 力, 藤本 高義
    2007 年 68 巻 3 号 p. 552-556
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    眼窩転移を生じた乳癌3症例を経験した. 1例は乳癌の初発再発として眼窩転移を生じ, 腫瘍摘出術の結果, 失明・兎眼性角膜炎というもっともQOLを損なう結果となった. 2例は早期に診断し放射線治療を施行することで, 症状が劇的に改善し, 症状の再発も長期間防止できた.
    本症はこれまで乳癌の経過中に多発転移の一つとして発症し, 予後不良とされてきた. しかし本邦報告例 (自験例を含む27例) の解析から, 乳癌の早期に発症する例も多く, 放射線治療がもっとも効果的であることが示唆された. 昨今では化学・内分泌療法の進歩により転移再発乳癌においても長期予後が期待できることから, 失明というQOLを著しく損なう可能性のある本症を早期に診断し, 適切な治療を行うことは非常に重要である.
  • 荒井 宏雅, 利野 靖, 藤井 慶太, 菅沼 伸康, 湯川 寛夫, 和田 修幸
    2007 年 68 巻 3 号 p. 557-561
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は36歳の女性. 出産を契機に全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus : SLE) を発症, 治療経過中に両側肺化膿症を合併した. 左肺病変は舌区域気管支の胸膜腔への開存による気胸となり, さらに膿胸へと進展した. 胸水培養からはStaphylococcus aureus (MRSA) が検出された. 胸腔ドレーンを挿入し, 抗生剤による洗浄を繰り返したが改善を認めず, 当科を紹介された. 手術を施行し, 術後9病日に胸腔ドレーンを抜去, その後退院した. SLEに合併した膿胸に対する1手術例を報告する.
  • 加藤 博久, 塩野 知志, 佐藤 徹, 柳川 直樹
    2007 年 68 巻 3 号 p. 562-565
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例1 : 69歳, 男性. 1991年3月, 右肺扁平上皮癌に対し右肺摘除術および縦隔リンパ節郭清を施行, 病理病期はT2N2M0-Stage IIIAであった. 術後3カ月目に右腋窩に3cm大の腫瘤を触知し腫瘍摘出術を施行した. 病理組織検査では肺癌の皮膚転移の診断であった. その後13年無再発生存した. 症例2 : 72歳, 男性. 1994年9月, 右肺扁平上皮癌に対し右中下葉切除術および縦隔リンパ節郭清を施行, 病理病期はT2N2M0-Stage IIIAであった. 術後6カ月後のCTにて縦隔リンパ節 (#5) の腫大を認め, リンパ節再発と考え化学療法を行った. しかし, リンパ節の増大を認め, 胸腔鏡下リンパ節摘出術を施行し肺癌のリンパ節転移と診断した. 術後9年再発なく健在である.
  • 松田 英祐, 岡部 和倫, 平澤 克敏, 松岡 隆久, 東 俊孝, 杉 和郎
    2007 年 68 巻 3 号 p. 566-569
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は74歳, 男性. 2004年2月, 肺癌にて左下葉切除術を行った. 同年4月左膿胸を発症し, 9月に開窓術, 12月に大網充填術を行い軽快した. 2005年9月, 左横隔膜ヘルニアを発症したため緊急手術を行いヘルニア門の縫合閉鎖を行った. 術後は良好に経過していたが2006年4月, 左横隔膜ヘルニアが再発しメッシュによるヘルニア門の閉鎖術を行った. 術後5カ月の現在, 再発は認めていない. 大網弁を挙上した際の横隔膜腱中心の切開部位がヘルニア門となったものであった. 同部は脆弱であり, 手術による剥離操作や電気凝固によってもヘルニアを起こした報告もあり. 大網弁挙上に際しては同部を貫通させることは厳に慎まなければならない.
  • 恵美 学, 吉田 和弘, 清水 克彦, 檜原 淳, 右近 圭, 山口 佳之
    2007 年 68 巻 3 号 p. 570-573
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は46歳, 男性. 交通外傷後6カ月後に検診にて右横隔膜の挙上を指摘され前医受診, 胸部CTにて右横隔膜ヘルニアと診断されたが無症状のため経過観察となった. 3年後のCTにて所見が増悪していたため当科紹介となった. 胸腹部CTにて胆嚢を含む全肝臓, 右側結腸および胃前庭部の胸腔内への脱出を認めた. 横隔膜背側に約15×10cm大のヘルニア門を認め開胸開腹アプローチにて充填材を用い閉鎖した. 外傷性右横隔膜ヘルニアは稀であり, さらに無症状であるもののヘルニア内容が全肝・右側結腸など容量が多く, 開腹に加え開胸を要した症例を経験したので報告する.
  • 小竹 優範, 小泉 博志, 森田 克哉, 伴登 宏行, 村上 望, 山田 哲司
    2007 年 68 巻 3 号 p. 574-577
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は67歳の女性で, 2002年5月に早期穹窿部胃癌に対しendoscopic submucosal dissection (以下, ESD) を施行時, 胃壁, 横隔膜を穿孔し気胸となり, クリップ縫縮術・胸腔内ドレーン留置にて改善した. 施行後18カ月目に左季肋部痛を認め近医受診し, 翌日当科紹介となった. 胸部X線写真では左胸腔内の消化管ガスを認め, 胸部CTでも左胸腔内に胃が嵌入していた. 上部消化管内視鏡検査では, 食道・胃接合部横に胃穹窿部が嵌頓していた. 以上より, 横隔膜ヘルニア嵌頓の診断で同日に緊急手術を施行した. 開腹所見は横隔膜にヘルニア孔を認め, そこに胃穹窿部が嵌頓していた. ヘルニア門に小切開を加え整復した. 胃壁の血流も改善したため胃切除は行わず, 横隔膜ヘルニア門を閉鎖し手術を終了した. 早期穹窿部胃癌に対するESDの合併症として, 解剖学的位置より胃穿孔に伴う横隔膜穿孔および気胸, 長期的には横隔膜ヘルニアなどの危険性もあり注意が必要である.
  • 雪本 清隆, 須浪 毅, 天道 正成, 澤田 隆吾, 阪本 一次, 山下 隆史
    2007 年 68 巻 3 号 p. 578-581
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は85歳, 男性. 吐血を主訴として当院受診し, 精査目的にて入院となる. 胸部X線撮影, 上部消化管造影にて横隔膜弛緩症に合併した胃軸捻転症と診断. 内視鏡的に整復を試みたが不可能であったために手術を行った. 患者は高齢であったが, 経胸的, 経横隔膜的アプローチによる胃の整復後, 横隔膜の縫縮, および内視鏡的胃瘻造設術の手技を用いた胃固定術により良好な結果を得たので, 若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 山本 紀彦, 細田 洋平, 西原 政好, 山本 真, 島田 守, 岡 博史
    2007 年 68 巻 3 号 p. 582-586
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    残胃胃石によるイレウスは比較的稀で, 術前診断が困難なことも多い. 今回われわれは, 術前に診断しえた1例を経験したので報告する. 症例は76歳, 男性. 胃癌にてBillroth II法再建による胃切除術を受けている. 2006年2月吃逆, 嘔吐出現し近医より紹介されイレウスの診断にて入院となる. 約1カ月間柿を食していた. イレウスチューブからの小腸造影で小腸内に楕円形の透亮像を認め, CT検査にて内部含気性の腫瘤像を確認した. 落下胃石による小腸嵌頓と診断し開腹手術を施行した. 回腸末端から60cmの口側に嵌頓した結石を認め, 腸切開にて8.4×4.6×4.4cmの結石を摘出した. 結石分析によりタンニン98%の結果を得, 柿胃石と診断した. 術後経過は良好で術後20日目に軽快退院した.
  • 柴 浩明, 中田 浩二, 羽生 信義, 柏木 秀幸, 矢永 勝彦
    2007 年 68 巻 3 号 p. 587-590
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は63歳, 女性. 他院腹部CTで胃壁に接する直径8cmの腫瘤を認め当科紹介受診. 上部消化管内視鏡検査で胃粘膜面に所見を認めず, 超音波内視鏡検査では胃壁との連続性を認めるものの穿刺針生検は困難であった. 胃壁外性発育を呈する胃粘膜下腫瘍の診断で開腹手術を施行. 腫瘍は網嚢腔内に存在し, 胃体下部大彎と径5mmの茎により連続していた. 胃楔状切除を施行し腫瘍を摘出した. 腫瘍は85×70×52mmで一部に嚢胞性部分を認めた. 腫瘍細胞はspindle cellの束状, whorl状の増殖を呈し, 核分裂像はほとんど認めず, 免疫組織学染色検査ではCD34, c-kit, α-SMA陽性, S-100陰性で広義のGISTと診断した. 術後経過は良好で術後第13病日に退院した. 近年, GISTの概念が提唱され多数の症例報告がみられるが, 有茎性に胃壁外性発育を示すものは少ないため, 文献的考察を加えて報告する.
  • 楠田 慎一, 北原 光太郎, 藤田 加奈子, 伊達 和俊
    2007 年 68 巻 3 号 p. 591-594
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は65歳, 男性. 平成11年4月に貧血精査のため上部消化管内視鏡検査を行った所, 胃前庭部後壁にIIcと思われる早期胃癌を認めた. 組織型は中分化型腺癌であった. 外科手術の適応と判断しその旨説明していたが, 患者自身の自己判断により来院せず, そのまま無治療となっていた. 平成16年1月風邪にて当院内科受診した際, 早期胃癌が約5年間放置されているのに気づき, 外科紹介となった. 上部消化管内視鏡検査にて, 前回の内視鏡所見と同部位にIIc様の陥凹病変あり, 組織型は中分化型腺癌であった. 平成16年3月幽門側胃切除術を施行した. 病理組織学的深達度はpT1 (SM2) であり, 5年間放置したにもかかわらず早期胃癌の状態であった. 早期胃癌を長期間放置すること自体非常に稀であるが, 今回5年間の無治療にもかかわらず早期胃癌の状態であった症例を経験したので報告する.
  • 金 成泰, 今村 容子, 川口 雄才, 北出 浩章, 中井 宏治, 高田 秀穂
    2007 年 68 巻 3 号 p. 595-598
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は81歳, 女性. 平成18年1月31日突然の腹痛が出現し, 同2月2日になっても腹痛が持続したため当院へ救急搬送された. 腹部単純X線撮影ではfree airを認め, 腹部CTでは上行結腸が拡張し結腸周囲にfluid collectionが認められた. まずは上行結腸の穿孔が疑われた. 同日緊急手術を施行した. 穿孔部は回腸末端より50cmの回腸であった. 穿孔部漿膜に連続して25cmの索状物が存在した. 索状物のもう一端は, 穿孔部より150cm口側の小腸間膜に付着していた. 回腸部分切除術を施行した. 穿孔部径は2mmで粘膜面は肉眼的に正常であった. 術後経過良好にて同2月14日に退院した. 索状物の付着部である小腸が穿孔し, 且つ索状物が小腸間膜をまたぐ形で存在した, 非常に興味深い症例であった. われわれが検索しえた範囲では同様の症例は報告されていない. 若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 金田 和久, 上西 崇弘, 栄 政之, 山本 隆嗣, 石原 寛治, 大野 耕一
    2007 年 68 巻 3 号 p. 599-602
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は63歳, 男性. 腹痛および嘔吐を主訴に外来受診した. 腹部は著明に膨満し, 腹部全体に圧痛が認められた. 腹部単純X線上, 小腸ガス像が著明であり, 鏡面像形成も認められた. 腹部CT検査でも, 腸管の拡張および小腸狭窄像が認められた. 以上より腸閉塞と診断して, イレウス管を挿入した. イレウス管挿入5日後には症状が軽快し, 排便もみられたためイレウス管を抜去したが, 腹痛および嘔吐が再燃したため開腹術を施行した. 腹腔内に少量の腹水を認め, 回盲部より120cmの回腸に約5cm長の狭窄がみられ, 口側の回腸は著明に拡張していた. このため狭窄部を中心に約15cmの回腸部分切除を施行した. 切除標本では輪状潰瘍瘢痕がみられ, 病理組織学的にはU1-IIの潰瘍で, 非特異性潰瘍と診断した. 術後経過は良好で, 術後19日目に退院した. 術後4カ月経過した現在, 症状の再燃みられず, 社会復帰している.
  • 直木 一朗, 北川 博之, 計田 一法, 小林 道也, 岡林 雄大, 花崎 和弘
    2007 年 68 巻 3 号 p. 603-606
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は58歳の男性で上腹部痛を主訴に当科を受診し, 腸閉塞の診断で入院した. 腹部の手術の既往はなかった. イレウス管造影検査と腹部造影CT検査の結果から小腸腫瘍による腸閉塞と診断し, 手術を施行した. 開腹所見ではTreitz靱帯から約50cmの部位の空腸が腫瘍を先進部として腸重積をしており, 重積を解除した後に空腸部分切除術を施行した.
    腫瘍は大きさ35mmの粘膜下腫瘍で粘膜面は糜爛を形成しており, 漿膜面にも腫瘍が露出していた. 病理組織学的所見では細胞分裂像は認めなかった. 免疫染色ではc-kitが陽性で小腸gastrointestinal stromal tumor (GIST) と診断した. 現在術後再発を認めず1年間経過している.
  • 吉岡 宏, 金治 新悟, 倉吉 和夫, 河野 菊弘, 金山 博友, 井上 淳, 吉田 学
    2007 年 68 巻 3 号 p. 607-611
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    腸重積を合併した盲腸リンパ管腫の稀な1例を経験したので報告する. 症例は30歳の女性で, 心窩部痛を主訴として入院した. 入院時, 白血球数とCRPの軽度増加以外に, 一般血液検査や腫瘍マーカー (CEA, CA19-9) に異常所見はみられなかった. 腹部超音波検査と腹部CTにて右側腹部にtarget signを認め, 腸重積が疑われた. 緊急大腸内視鏡検査にて腸重積は整復された. 内視鏡所見では, 腸重積の整復後に暗赤褐色調で表面平滑な柔らかい粘膜下腫瘍がBauhin弁の対側の盲腸にみられた. 入院後1週間目に, 盲腸の粘膜下腫瘍の術前診断にて回盲部切除を施行した. 肉眼所見では, 腫瘤の大きさは3cmで, 割面は嚢胞状, 内容は黄色の漿液であった. 病理組織学的は盲腸の嚢状リンパ管腫であった. 大腸癌のリンパ管腫が原因で腸重積をきたした本邦報告は自験例を含めて16例と稀であり, 若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 田村 光, 鯉沼 広治, 杉浦 功一, 岡田 真樹, 小島 正夫
    2007 年 68 巻 3 号 p. 612-616
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は63歳, 男性で腹痛を主訴に当科受診した. 貧血を認め, 一時的な血圧低下も認めた. 下血は認めなかったが, CT上腹腔内に液体貯留を認め, 穿刺で血液と確認した. 右上腹部に動脈瘤様構造物を認めたが, 血管撮影では瘤や出血部位は描出されず, 5年前の腹部鈍的外傷以外に既往なく全身状態も安定していたので経過観察した. 2週後の血管撮影で中結腸動脈末梢に動脈瘤を認めた. 塞栓術では, 腸管壊死に陥る可能性が高いため, 開腹し動脈瘤を含む血腫と右結腸を切除した. 組織学的には腸間膜内に径3cm大の血腫形成を認め, 周辺の小動脈に部分的な中膜および内弾性板の欠損, fibro-cellular tissueへの置換を認めた. 他に明らかな原因を特定できず, 5年前の外傷による仮性動脈瘤の形成が疑われた. 上腸間膜動脈分枝の外傷性仮性動脈瘤の本邦論文報告は, 本編を含め4例のみであり, 本例のように5年間の長期経過後に破裂したと考えられる症例は, 本邦では初めてである.
  • 田村 孝史, 寺澤 孝幸, 水野 豊, 岡本 道孝, 佐藤 雅栄
    2007 年 68 巻 3 号 p. 617-622
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    上腸間膜静脈血栓症は無症状のものから, 急激な腸管壊死に至ることもある比較的稀な疾患である. 今回腹部造影CT検査で上腸間膜静脈血栓症と診断し, 外科的加療を行い救命しえた2例を経験したので報告する. 症例1は50歳, 女性, 症例2は28歳, 男性, 2例とも腹痛を主訴に来院した. 腹部造影CT検査で上腸間膜静脈と門脈内に透亮像を認め, 腸管の浮腫および腹水を認めたため腸管壊死を伴う上腸間膜静脈および門脈血栓症と診断し開腹術を施行した. 壊死腸管の切除を行い, 症例1は2期的腸管吻合, 症例2は1期的腸管吻合を施行した. 術後はヘパリンの持続静注を行い, 経口摂取開始後はワーファリンの内服による抗凝固療法に変更した. 後日の血液凝固・線溶系の検査結果に異常値を認めず特発性上腸間膜静脈血栓症と考えられた. 2例とも肝機能悪化, 血栓の増加を認めず経過良好で現在当科外来通院中である.
  • 伊藤 勝彦, 石井 隆之, 大多和 哲, 清水 善明, 近藤 英介, 小川 清
    2007 年 68 巻 3 号 p. 623-627
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    憩室炎によるS状結腸膀胱瘻を2例経験した. 症例1は71歳, 男性. 糞尿にて来院し精査にてS状結腸憩室炎による結腸膀胱瘻と診断して, 入院後中心静脈栄養管理とした. 第19病日目にS状結腸部分切除, 膀胱部分切除を施行. 切除標本にて結腸膀胱瘻が確認された. 術後は順調に経過したが術後第15病日目に間質性肺炎の急性増悪をきたし術後第42病日目に死亡した. 症例2は66歳, 男性. 糞尿にて来院, S状結腸憩室炎による結腸膀胱瘻の診断にてS状結腸部分切除, 膀胱部分切除を施行したが切除標本では瘻孔は閉鎖していた. 術後は順調に経過して退院となった. この2症例において, 特に手術適応に関する検討を行ったので報告する.
  • 柳生 利彦, 柳 秀憲, 野田 雅史, 池内 浩基, 外賀 真, 山村 武平
    2007 年 68 巻 3 号 p. 628-631
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    19歳, 女性. 家族性大腸腺腫症 (FAP) 症例に対し腹腔鏡を併用しビキニラインアプローチ法による小開腹下一期的大腸全摘, 回腸嚢肛門吻合術 (Bikini-line incision ileal-pouch anal anastomosis : BIAA) を施行した. 恥骨上約2横指上に約10cmの皮膚切開をおき皮下組織を剥離. 正中で筋膜, 腹膜を小切開し開腹した. 右側結腸より直視下に間膜の血管処理, 腸管授動を行ったが肝彎曲部, 脾彎曲部が高位で視野が不良であり創部より腹腔鏡を挿入することにより創を延長, 追加することなく良好な視野を確保し手術操作が可能であった. 手術時間262分, 出血量60mlで術後2日目に経口摂取開始, 11日目軽快退院した. BIAAは美容的にも秀れ, 特に若年女性には有用な手技であるが, 腹腔鏡の併用は肝彎曲, 脾彎曲が高位な難易度の高い症例においてより安全かつ容易なBIAAの施行に有用と思われた.
  • 深見 保之, 寺崎 正起, 坂口 憲史, 村田 透, 大久保 雅之, 西前 香寿
    2007 年 68 巻 3 号 p. 632-634
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    日本住血吸虫卵が併存した直腸S状部癌症例を経験したので報告する. 症例は69歳, 男性. 血便を主訴に当院を受診した. 大腸内視鏡検査で直腸S状部に全周性2型病変を認め, 腹腔鏡補助下高位前方切除術を施行した. 病理所見はtub1, SS, med, INFb, ly1, v2, N1, PM0, DM0, RM0であった. また, 切除腸管壁に多数の日本住血吸虫卵を認めた.
    患者は日本住血吸虫の国内流行地の1つ静岡県沼津地区在住であった. 国内での流行は20年以上前に終息しており, 本症例も陳旧性病変と考えられた.
  • 小菅 誠, 小川 匡市, 渡部 通章, 衛藤 謙, 横山 正人, 矢永 勝彦
    2007 年 68 巻 3 号 p. 635-639
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    異時性消化管重複癌および多臓器転移に対して手術を複数回施行し, 長期生存が得られた1例を経験したので報告する. 症例は32歳, 女性, 1999年に横行結腸癌に対して手術を施行した. その後小腸・直腸癌, 肝・両側卵巣・子宮転移に対して化学療法も併用し合計4回手術療法を施行した. 初回手術より約7年が経過した現在もquality of lifeを維持しつつ治療継続中である.
  • 菊池 正二郎, 宮下 篤史, 生駒 久視, 落合 登志哉, 園山 輝久, 山岸 久一
    2007 年 68 巻 3 号 p. 640-644
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は76歳, 男性. 検診でCA19-9高値 (486.6U/ml) を指摘されて当院を受診した. 腹部造影CT検査で腹部傍大動脈領域に8×3cmの腫瘤を認め, 上・下部消化管内視鏡・MRI・FDG-PETも行ったが, 原発巣となりうる病変を同定することはできなかった. 病理組織診断のために試験開腹を行い, 診断は高度の線維化を伴う膵外発育型膵癌であった. 7病日目に突然の腹痛・39度台の発熱とともに敗血症性ショックとなり, 腹部造影CT検査を行ったところ, 腸間膜脂肪織炎, 横行結腸壁肥厚および腸間膜静脈・門脈ガス血症を認めた. 発症後8時間で緊急開腹手術を行い, 横行結腸切除術・上行結腸人工肛門造設術を行った. 術後は急速に敗血症を離脱して, 軽快退院した. 腸間膜脂肪織炎による門脈ガス血症の報告はこれまでにないが, 早期の診断と迅速な原因の除去によって軽快することを示した.
  • 猪瀬 悟史, 塩澤 俊一, 土屋 玲, 金 達浩, 成高 義彦, 小川 健治
    2007 年 68 巻 3 号 p. 645-648
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は71歳, 女性. C型肝硬変合併肝腫瘍 (S8), 脾腫による汎血球減少症の診断でS8部分切除・脾摘術を施行した. 第8病日に39℃台の発熱, 下痢がみられたが対症療法で軽快した. しかし第30病日に再び39℃台の発熱, 腹痛が出現し, 腹部CT検査で脾静脈から門脈左右枝におよぶ広範な血栓形成を認めた. ウロキナーゼ (24万単位/日), ヘパリン (5,000単位/日) 静脈内投与による血栓溶解療法を開始し, 第37病日の腹部CT検査で血栓の縮小がみられたため, 以後ワーファリン (2mg/日) 内服による抗凝固療法に変更した. 第69病日の腹部CT検査では血栓は完全に消失し, 第72病日に退院した. 術後113日目の腹部CT検査でも再発はなく, ワーファリンを減量したのち中止した. 脾摘後の門脈血栓症は比較的頻度の高い合併症であるが, 脾摘と肝切除の同時施行での発症例は自験例を含め3例であった. 術後に原因不明の発熱や腹痛などが続いた場合は本病態も考慮し, 腹部超音波検査や腹部CT検査を適宜施行することが重要である.
  • 森谷 敏幸, 磯部 秀樹, 林 健一, 稲葉 行男, 滝口 純, 三浦 卓也, 加藤 哲子
    2007 年 68 巻 3 号 p. 649-653
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は58歳, 女性. 2006年5月に右下腹部痛を主訴に紹介来院した. 腹部超音波, CT, DIC-CTで, 肝S6から肝外に発育した径7cmの嚢胞性腫瘤を指摘された. 嚢胞壁は薄く, 単房性で, 単純性嚢胞の可能性があったが, 有症状であったこと, 肝嚢胞腺腫が否定できなかったことから, 腹腔鏡下に手術を施行し, 完全切除した. 病理組織学的には嚢胞壁は立方円柱上皮からなる肝嚢胞腺腫であった. 一般的に, 肝嚢胞腺腫か腺癌かを術前に診断するのは難しい. また腺腫から癌への移行もあり, 肝嚢胞腺腫自体は良性腫瘍であるが, 悪性腫瘍に準じた完全切除が必要となる. 腹腔鏡下手術は嚢胞の破裂の危険性があり適応は慎重であるべきであり, 本邦での施行例は現在まで極めて稀である. しかし肝外発育型で肝切除の容易なもの, 大きさの小さいものに対しては適応になると思われる. 自験例は鏡視下手術の良い適応であったと思われ, 若干の文献的考察を加え報告する.
  • 宇高 徹総, 脇 直久, 久保 雅俊, 水田 稔, 白川 和豊, 宮谷 克也
    2007 年 68 巻 3 号 p. 654-658
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    肝尾状葉の単純性嚢胞で6年間の経過観察中に肝嚢胞が癌化したと考えられる肝嚢胞性腫瘍の1例を経験したので報告する. 症例は76歳, 男性. 1996年より肝嚢胞を近医で経過観察中, 2003年1月腹部CTで嚢胞内に隆起性病変を認められ当科に紹介となった. 腹部CTで肝尾状葉に4.5cm大の嚢胞性病変の内部に充実性部分を認めた. ERCPでは肝左葉内の胆管と嚢胞との間に交通を認めた. 超音波ガイド下の嚢胞の穿刺細胞診ではclass Vであった. 肝嚢胞の癌化の診断で拡大肝左葉切除, 尾状葉切除を行った. 摘出標本では5.2cm大の嚢胞性病変の内部に2cm大の充実性腫瘍を認めた. 病理組織検査では嚢胞壁には異型高円柱上皮が乳頭状に増生しており, 充実成分は高分化腺癌であった. 術後3年1カ月の現在, 多発肝転移, 大動脈周囲リンパ節転移を認めるが生存中である. 単純性肝嚢胞を経過観察する場合, 肝嚢胞が癌化する可能性を念頭に置き, 腹部超音波, 腹部CTなどにより嚢胞の形態変化を早期に発見することが重要と思われた.
  • 網倉 克己, 坂本 裕彦, 田中 洋一
    2007 年 68 巻 3 号 p. 659-664
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    下部胆管癌術後多発肝転移再発症例に対して肝動注化学療法を施行しCRを得た後, 二次性白血病を思わせる経過をたどった症例を経験した. 症例は66歳, 男性. 黄疸出現し, ENBDで減黄後, 下部胆管癌の診断で幽門輪温存膵頭十二指腸切除術 (PPPD-III a) が施行された. 術後6カ月で肝転移再発と診断された. 肝動注化学療法 (MMC16mg, 5FU400mg, Epirubicin48mg/one shot) 3回施行後, CA19-9は正常化, 腹部CTにて肝転移巣消失しCRと判断された. CRのまま19カ月間経過した後, 汎血球減少症にて発症した. 骨髄像にて急性骨髄性白血病と診断され, 5番染色体異常からType Iの二次性白血病と分類された. 造血幹細胞移植の適応なく, 濃厚赤血球, 血小板輸血など対症療法をしていたが, 全身状態悪化し発症後10カ月で永眠された. 消化器癌に対する化学療法後にも遺伝子異常をきたし, 二次性発癌を発症する可能性がある.
  • 草野 真暢, 井上 玲, 田本 英司, 中久保 善敬, 奥芝 知郎, 川村 健
    2007 年 68 巻 3 号 p. 665-670
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は76歳, 男性. 黄疸で発症し入院したがその約1年前より心窩部痛を自覚していた. 腹部CTにて, 胆嚢内結石と肝内胆管および総肝管の拡張を認め, 結石が胆嚢頸部に嵌頓し総肝管の右壁を圧排していた. 内視鏡的逆行性胆道ドレナージにより減黄したものの, その後胆管炎を併発したため, 内視鏡的経鼻胆道ドレナージに変更した. 手術では, 胆嚢を切開した上で頸部に嵌頓した結石を除去し, 胆嚢総肝管瘻合併Mirizzi症候群であることを確認した上で, 胆嚢摘出を行い, 総肝管の欠損部周囲を肝円索の一部を用いて被覆し, 肝円索内を通して総肝管ドレナージチューブを留置した. 術後50日目にドレナージチューブを抜去し, その後も肝障害はなく, 術後69日目に退院した. 胆嚢総肝管瘻を合併したMirizzi症候群の手術では, 術中所見に応じて総肝管ドレナージの方法を選択する必要がある.
  • 香山 誠司, 宮下 薫, 畠山 勝義
    2007 年 68 巻 3 号 p. 671-676
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    選択的動脈内カルシウム注入刺激法 (以下ASVS) および術前, 術中の診断にて腫瘍の局在を明らかにし, 外科的に摘出しえたインスリノーマの1例を報告する. 67歳, 女性. 意識障害のため救急搬送され当院初診. 血糖は36mg/dlと低値で, グルコースの急速静注により意識は速やかに改善した. dynamicCT, MRI, 腹部血管造影検査にて膵鈎部に径1.5cmの腫瘍を認めた. ASVSにて上腸間膜動脈領域での血中インスリン値 (以下IRI) の著明な上昇を認めた. 術中の超音波検査, 触診にて腫瘍を確認し, 腫瘍摘出術を行った. また, 腫瘍摘出前後に末梢血血糖, IRI, 門脈血IRIを測定し, 腫瘍の完全摘出を確認した. 術後に低血糖発作等の症状を認めていない. インスリノーマは多くが良性で切除により良好な予後が期待できるため, 膵機能を可及的に温存した外科的切除が第一選択である. このため, 正確な局在診断と術中の切除の確認が重要と思われ, 今後の症例の蓄積が期待される.
  • 米沢 圭, 下松谷 匠, 中村 誠昌, 白石 享, 藤野 光廣, 丸橋 和弘
    2007 年 68 巻 3 号 p. 677-681
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は57歳, 男性. 交通事故により受傷し左肋骨骨折・左血胸と脾臓上極の小さな単純型実質損傷を認めた. 循環動態は安定しており保存的に加療した. 入院3日目の腹部CTにて止血を確認し, 入院16日目に退院した. 受傷から36日後, 突然の左上腹部激痛にて搬入された. CTにて腹腔内に多量の出血と脾下極に偏在する広範囲な実質損傷を認めた. 遅発性の脾破裂と判断し緊急開腹術にて脾臓を摘出した. 脾下極には初回入院時には認めなかった広範な実質内の血腫が認められ一部が被膜外へ穿破していた. 近年, 脾損傷の治療として非手術的療法が増加しているが, 治療後の遅発性破裂に注意する必要がある. 遅発性脾破裂の機序は現在のところ不明であるが, 当症例では脾内血腫が穿破し腹腔内への出血が起こったと考えられた. 受傷後2週間以内の遅発性破裂が多いので, その間は厳重な経過観察が望ましく, 止血確認後も定期的な画像検査が必要であると考えられた.
  • 大倉 康生, 湯淺 浩行, 井戸 政佳, 伊藤 史人, 山碕 芳生, 世古口 務
    2007 年 68 巻 3 号 p. 682-686
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は22歳, 男性. 急性胃腸炎にて内科入院した際, 腹部超音波検査にて右副腎の腫瘤を指摘され, 精査を受けた. 血液検査にてノルアドレナリンの上昇を認め, 静脈血サンプリングでは右副腎静脈にてアドレナリン, ノルアドレナリンの著明な上昇を認めた. 腹部超音波検査では右副腎に表面平滑, 辺縁整で境界は明瞭, 内部均一な5.5×2.7cmの低エコーの腫瘤を, CTにて内部均一な5×5×3cmのlow densityの腫瘤を認めた. 以上より右副腎腫瘍と診断し, 腹腔鏡下右副腎摘出術を施行した. 摘出標本割面では, 白色充実性の腫瘍で, 組織学的には神経節細胞腫と診断された. 術後経過は良好で術後7日目退院となった.
  • 大河内 治, 丹羽 由紀子, 小林 大介, 坪井 賢治, 加藤 伸幸, 本田 一郎
    2007 年 68 巻 3 号 p. 687-691
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は24歳, 女性. 17歳時に両側卵巣成熟奇形腫にて腫瘍摘出術を施行された. 手術時に腫瘍に被膜破綻を認めた. 今回, 右背部痛を認め腹部CT検査で肝腫瘍を指摘され入院となった. 施行された腫瘍マーカーは全て正常値であった. 腹部造影CTおよび腹部MR画像上, 右横隔膜下および肝下面に脂肪成分および石灰化を伴う嚢胞状腫瘍を認めた. 血管造影検査では圧排所見のみであった. 卵巣奇形腫の腹膜播種性転移を疑い開腹術を施行した. 手術所見では腫瘍は肝に付着して圧排性に発育しており腫瘍摘出術を施行した. 病理組織学的に成熟奇形腫と診断された. 成熟奇形腫の播種巣が三胚葉成分全てから構成されることは稀であるうえ, その組織型が成熟型を呈するという極めて興味ある症例を経験した.
  • 竹内 聖, 柏木 裕貴, 近藤 昭宏, 岡田 節雄
    2007 年 68 巻 3 号 p. 692-696
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    内ヘルニアの中でも非常に稀な横行結腸間膜ヘルニアの1例を経験した. 症例は69歳, 女性. 2年前に腹痛で入院し, 盲嚢ヘルニアと診断されたが保存的に軽快した. 今回も同様の腹痛と嘔吐で入院し, 腹部CT検査で胃の背側に拡張して一塊となった空腸を認め盲嚢ヘルニアの再発と診断した. 保存的治療で症状は改善したがヘルニアは解除せず, 入院後第31病日に手術を施行した. Treitz靱帯の右側に空腸間膜と横行結腸間膜の線維性癒着による直径3cmのヘルニア門を認め, 空腸が50cmにわたり胃の背側から小網に向かって嵌入していた. 横行結腸間膜に欠損は認めず, 嵌頓小腸を整復後にヘルニア嚢の縫縮とヘルニア門の閉鎖を行った. 横行結腸間膜に発生するヘルニアは術前診断が困難で重症化することもあるため, 腹部の不定愁訴, 腹痛の繰り返しなどの症状がある場合は軽症例でも本疾患を念頭に置き治療を決定すべきである.
  • 花村 徹, 高田 学, 山口 敏之, 小松 信男, 橋本 晋一, 小山 正道, 丸山 雄一郎
    2007 年 68 巻 3 号 p. 697-701
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    Castleman病は頸部, 縦隔, 腸間膜, 後腹膜等の軟部組織に発生する稀な疾患である. 今回われわれは腸間膜に発生したCastleman病で, 胆石症と同時に手術が施行された1例を経験したので報告する.
    症例は34歳の女性. 主訴は心窩部痛であった. 腹部造影CT検査を施行したところ, 腸間膜内に大きさ45mmの腫瘤と胆嚢壁の肥厚, 胆石が認められた. 腸間膜腫瘤の確定診断および胆石症の治療のため, 開腹にて腸間膜腫瘤摘出術および胆嚢摘出術が施行された. 摘出標本の病理組織診断にて腸間膜腫瘤はHyaline vascular typeのCastleman病と診断された.
    Hyaline vascular typeのCastleman病は孤在性の腫瘤を形成し, 切除すれば再発することは稀であるとされている. 腸間膜原発の腫瘍の鑑別診断の一つとして考慮すべきと考えられた.
  • 高橋 聡, 田宮 洋一
    2007 年 68 巻 3 号 p. 702-705
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    大網裂孔ヘルニアは内ヘルニアの中でも比較的稀な疾患で術前診断が困難であることが知られている. 数年間にわたり腸閉塞症状を繰り返した大網裂孔ヘルニアの症例を経験したので報告する. 症例は86歳, 女性. 数年前より常に下腹部の腫瘤を自覚し, 年数回の腸閉塞症状を認めていた. 今回, 腹痛・嘔吐を主訴に当院を受診, 腸閉塞の診断で入院した. 腹部は膨隆しており下腹部に腫瘤を触知したが, 画像検査で原因疾患を特定できなかった. イレウス管を留置したが症状は改善せず, 手術を施行した. 大網尾側の異常裂孔に空腸が30cm嵌入しており, 大網裂孔ヘルニアと診断した. 嵌頓を解除し, 異常裂孔を切開, 開放した. 腸切除は行わなかった. 術後約2年間の経過観察で下腹部の腫瘤および腸閉塞症状を認めていない. 大網裂孔ヘルニアは約40%の症例で腸管壊死をきたすため, 開腹歴のない腸閉塞に際しては本症を念頭におき適切な治療を速やかに選択することが重要である.
  • 佐藤 武揚, 宮川 菊雄, 坂本 宣英
    2007 年 68 巻 3 号 p. 706-709
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は86歳, 女性で腹痛嘔吐を主訴に当院紹介となった. 前医にて肺炎で入院中CTにて閉鎖孔ヘルニアとして手術目的に当院紹介となった. 入院時検査では炎症所見を認めず, まずはイレウスチューブ挿入にて経過観察を行っていたが改善せず, 手術を施行したところ内膀胱上窩ヘルニアの嵌頓を認めたため, 小腸部分切除術を施行しヘルニア門は縫合閉鎖した. 内膀胱上窩ヘルニアは稀な疾患であり, 文献検索からは過去に国内で報告された内膀胱上窩ヘルニアは14例に過ぎず本症例が15例目に当たる. 術前正診例の報告は国内ではまだない. 症状や画像所見は他のヘルニアに酷似することがあり, また合併することも多い. 内膀胱上窩ヘルニアは高齢者の腸閉塞の原因としては少ないながらも重要な疾患と考えられる. 嵌頓が遷延したにもかかわらず壊死所見を認めず待機的手術となった内膀胱上窩ヘルニアは極めて稀な症例と考えられ, 若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 大橋 浩一郎, 山崎 元, 張 宇浩, 笹岡 英明, 西野 雅行
    2007 年 68 巻 3 号 p. 710-714
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は44歳, 女性. 右側腹部痛と発熱を主訴に当院受診となった. 右側腹部に圧痛および筋性防御を認め, 腹部CTで胆嚢と横行結腸の間に約6cm大の腫瘤像と少量の腹水を認め血腫が疑われた. 原因が不明であったが症状および貧血も軽度であったため絶食および点滴治療を10日間行い症状は改善傾向を示し一旦退院とした. 1カ月後のCTで腫瘤は約2cm大に縮小していたが, 本人の承諾を得た上で診断および治療目的で腹腔鏡にて手術施行となった. 右側の大網に約2cm大の暗赤色調の表面平滑な血腫を認め周囲の大網とともに血腫摘出術を行った. 摘出標本は器質化した血腫であり, 明らかな腫瘍性病変, 異所性子宮内膜症, 動脈瘤などの所見は認めず, 外傷の既往もないため特発性大網血腫と診断した.
    特発性大網血腫の本邦報告例は自験例を含め12例と稀であるが, 原因不明の腹腔内血腫を診断する際は本疾患も念頭に置くべきと考える.
  • 高野 尚史, 足立 淳, 前田 和成, 内山 哲史
    2007 年 68 巻 3 号 p. 715-719
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は69歳, 男性. 平成15年8月, 腹部膨満感を主訴に近医受診し腹部巨大腫瘍を指摘され, 精査加療目的にて当院紹介となった. CT・MRIで, 網嚢付近を主座とし, 内部は不均一で索状構造を有し, 腹腔内臓器を著明に圧排する巨大腫瘍が認められた. これに対し腫瘍摘出術施行. 腫瘍は左横隔膜下から骨盤腔に至り, 上腹部で胃・脾および肝を圧排, 下腹部で横行結腸および横行結腸間膜を圧排していた. 胃小彎との癒着が強固で, 同部が原発と考えられた. 標本は重量10.2kg, 脂肪様・ゼリー状・壊死状など様々な様相を呈していた. 病理組織学的には高分化型脂肪肉腫であった. 今回, 10kgを越える腹部巨大脂肪肉腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 勅使河原 修, 小松 義直, 村岡 暁憲, 鈴木 夏生, 田上 鑛一郎
    2007 年 68 巻 3 号 p. 720-724
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は35歳, 女性. 心窩部不快感を主訴に内科を受診. 腹部超音波検査で右腎・下大静脈間に動脈血流を伴うlow echoic tumorを指摘された. 腹部造影CTでは右腎内側に血管と等濃度に造影される腫瘤を認め, 右腎動脈仮性動脈瘤の可能性を指摘され入院精査となった. 腹部血管造影検査では血流豊富な腫瘤陰影と右腎動脈から分岐する栄養血管を認めた. 血液・尿検査でホルモンの異常は認めず, 131I-MIBG (metaiodobenzylguanidine) シンチでも集積は認められなかったが, 異所性非機能性副腎腫瘍等の可能性を否定できず手術を施行した. 手術所見では右腎下極に6×4×3cmの被膜を伴う弾性軟な腫瘍と血管造影検査の所見通り右腎動脈からの栄養血管を認めた. 被膜を貫き直接下大静脈に流入している4本のdrainage veinの周囲のみ線維性の癒着があったが, その他の部位に癒着はなく可動性良好であった. 病理組織学的検査でhyaline vascular typeのCastleman病と診断された.
  • 藤島 則明, 開発 展之, 浜口 伸正, 谷田 信行, 大西 一久, 原 真也
    2007 年 68 巻 3 号 p. 725-729
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    後腹膜脂肪肉腫は比較的稀な疾患である. 今回, われわれは巨大な後腹膜脂肪肉腫に伴い肝嚢胞が消失した1例を経験したので報告する. 症例は71歳, 女性. 上腹部膨満感, 食欲不振を訴え来院した. 来院時, 腹部全体を占める硬い大きな腫瘤を触知し, 軽度の圧痛を伴っていた. 腹部CT, MRIでは左上腹部から下腹部にかけ隔壁を有する大きな腫瘤を認めた. 6年前指摘されていた肝嚢胞は消失していた. 平成17年5月27日, 腫瘤摘出術を行った. 左上腹部を中心に後腹膜より発生した腫瘍で分葉状を呈し各臓器は極度に圧排されていた. 大きさ32×30×14cmで重量6.4kgであった. 病理組織検査では脂肪肉腫, 粘液型, 一部脱分極型と診断された. 腹部の巨大な腫瘍により肝嚢胞内の圧が上昇し内皮の虚血, 壊死が生じ肝嚢胞が消失したと推測される稀な症例と考えられた.
  • 塩盛 建二, 林田 和之, 落合 隆志
    2007 年 68 巻 3 号 p. 730-734
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は53歳, 男性. 1998年6月12日に後腹膜脂肪肉腫の診断にて他院で開腹腫瘍摘除術を施行された. その後局所再発を指摘され, 2001年10月15日, 2004年10月12日に開腹腫瘍摘除術を受けた. 2006年7月5日に施行した腹部造影CT検査で内腔に鏡面形成を有する腫瘤影を認め, 手術目的で今回入院となった. 38.5℃の発熱あり. 入院時検査でWBCは8,730, CRPは8.5と高値であった. 後腹膜脂肪肉腫の局所再発ならびに腹腔内膿瘍と診断した. 外科手術の適応と判断し, 2006年8月8日に手術を施行した. 腫瘍は下行結腸に穿通していたため, 下行結腸の一部を切除し腫瘍を摘除した. 病理組織学的検査で摘出標本すべての腫瘍がwell differentiated liposarcomaであった. 術後経過は良好で退院となった. 脂肪肉腫が結腸に浸潤し, 穿通した1例を経験したので, 若干の文献的考察を加え報告する.
  • 藤村 直樹, 嶋田 昌彦, 里 悌子, 松本 秀年, 石川 廣記, 北島 政樹
    2007 年 68 巻 3 号 p. 735-739
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    後腹膜脂肪肉腫は比較的稀な疾患だが, 悪性後腹膜腫瘍の中で最も多く, 10~20%を占める. 治療には外科的切除しかないが, 後腹膜はsurgical marginがとりにくく, 局所再発のコントロールが困難となることが多い. また予後は組織型により, 大きく異なる. 今回われわれは長期経過をたどり, 16年間に10回手術施行し, 途中脱分化を認めた後腹膜脂肪肉腫の1例を経験した. 症例は51歳, 女性. 1989年1月から2005年10月までに16年間で計9回の手術を行ったが, 経過と共に粘液型が主体で, 高分化型が混在している組織像から徐々に悪性度が増し, 脱分化型へと移行した. 脱分化型の予後は厳しいことが知られており, 今回の症例も, 2006年1月には再発のため再び手術施行し, さらに化学療法も施行したが効果なく, 3月に永眠された. 長期経過をたどる脂肪肉腫の症例では, その組織型の変化に十分に注意し, 治療戦略を練る必要がある.
  • 芝木 泰一郎, 藤森 丈広, 森本 典雄
    2007 年 68 巻 3 号 p. 740-743
    発行日: 2007/03/25
    公開日: 2008/08/08
    ジャーナル フリー
    症例は28歳, 男性. 外傷などの既往なく, 約1年前から左第3指の拍動性疼痛と腫脹を自覚し, 整形外科を受診したが, 単純写真上骨や関節に異常なく, 血管外科受診を勧められたため, 当院を受診した. 来院時, 左第3指に軽度うっ血腫脹や連続性血管雑音が認められたほか, 右第3指に比べ指長の短縮が認められた. 血管造影では, 動脈相早期から, 螺旋状の微細な血管が複数認められ, 静脈も描出された. 以上の所見から, 先天性左第3指動静脈奇形と診断した. 治療は外科手術を選択し, 全身麻酔下に異常血管の結紮・切離を行った. 術後拍動性疼痛は消失し, 腫脹も軽減した.
    手指のAVMの治療方法には結紮・切離のほか塞栓術など低侵襲の手段があるが合併症や長期成績に関して検討が必要である.
Letters to the Editor
編集後記
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