日本臨床外科学会雑誌
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69 巻, 10 号
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原著
  • 江渕 正和, 佐藤 栄吾
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2447-2453
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    当院で手術した乳癌症例126例を用いてCOX-2の免疫組織染色を行い,その発現と臨床病理学的パラメーターとしての病期,組織型,Histological Grade(HG),エストロゲンレセプター(ER),プロゲステロンレセプター(PgR),およびアポトーシスとの相関を検討した.COX-2の発現は,染色の強度と面積により,無染色,弱染色,中等度染色,高度染色の4段階に分類した.中等度,高度染色例をCOX-2発現ありとすると,44%が陽性であった.COX-2はいずれの病期にも発現し,発癌の早期から関与している.組織型,HG,ER,PgR,や閉経によるCOX-2陽性の割合には有意な差はなかった.一方,COX-2の発現が増強するに従って,Apoptotic Index(AI)が有意に減少していた.基礎的実験同様,臨床的にもCOX-2の過剰発現が,アポトーシスを抑制している.COX-2の発現は乳癌の増殖に関与していると考えられた.
  • 中嶋 啓雄, 藤原 郁也, 水田 成彦, 阪口 晃一, 鉢嶺 泰司, 中務 克彦, 市田 美保, 大橋 まひろ
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2454-2461
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    背景:乳癌に対するVideo-assisted breast conserving surgery(VA-BCS)は,日本において開発され,発展してきた術式である.皮膚浸潤のない乳癌に対して,目立ちにくい場所に皮膚切開創を置き,内視鏡下にskin sparing partial mastectomy(SSPM)を行うことで,高い整容性が得られる手術法である.われわれはその長期成績について報告する.
    対象と方法:皮膚浸潤のない乳癌をVA-BCSの適応とする.皮膚切開部位は,傍乳輪または中腋窩線とする.乳腺の剥離は,内視鏡下の皮下トンネル法と吊り上げ法で行い,SSPMを行う.乳腺の欠損部位は,必要に応じて自家組織による乳房再建を付加する.1999年11月~2003年3月までに142例(StageI:56,StageII:86)に,VA-BCSを行い,その術後合併症・morbidity・予後・手術後の患者満足度について検討した.
    結果:術後合併症として,皮膚壊死が6例(4.2%)と脂肪・筋肉フラップ壊死が5例(3.5%)にみられたが,重篤な合併症は無かった.平均観察期間70.0カ月で,局所再発は7例(4.9%)にみられた.60カ月でのdistant metastasis-free survival rate(DMFS)は,StageI:92.7%,StageII:90.7%であった.また,overall survival rate(OS)はStageI:94.5%,StageII:97.4%であった.患者への手術に対する満足度のアンケートでは,71.7%の患者が満足と回答した.
    結論:VA-BCSは局所再発の増加はなく,DMFSとOSは良好である.また,高い患者満足度が得られており,乳癌の局所療法として有用である.
  • 千須和 寿直, 田内 克典, 大森 敏弘, 森 周介, 岸本 浩史, 小池 秀夫, 樋口 佳代子, 宮澤 正久
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2462-2467
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    目的:急性虫垂炎の診断におけるCTを重視したプロトコールの正確性と虫垂径の測定の有用性の評価.
    対象と方法:2002年1月から2004年6月の間に急性虫垂炎と診断した連続した239人を検討した.CTでの診断基準は6mm以上の虫垂径または2次性の炎症変化とした.病理学的な診断基準は筋層以上の炎症細胞浸潤とした.
    結果:239人のうち235人がCTを受けていた.222人が虫垂切除術を受け,205人が病理学的に急性虫垂炎と診断された.CTで虫垂径が6mm以上あった200人中193人が病理学的に急性虫垂炎と診断された.手術症例の陽性的中率は92.3%(205/222)で,CTで虫垂径が6mm以上あった手術症例の陽性的中率は96.5%(193/200)であった.また保存的治療症例の35.3%(6/17)が再発し,10mm以上で再発率が50%(5/10)と高かった.
    結論:CTは急性虫垂炎の診断に有用である.
  • 横溝 肇, 吉松 和彦, 大澤 岳史, 梅原 有弘, 藤本 崇司, 渡邊 清, 大谷 泰介, 松本 敦夫, 板垣 裕子, 小川 健治
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2468-2473
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    腹膜播種性転移を伴う大腸癌症例を検討し,治療方針を明らかにすることを目的とした.初発大腸癌の6.9%に腹膜播種性転移を認め,そのうち予後の明らかな90例を対象とし,臨床病理学的因子と予後につき検討した.腹膜播種性転移の程度別の生存期間中央値はP1で21.0カ月,P2で8.4カ月,P3で3.4カ月であった.非治癒因子数別では,腹膜因子のみの予後が良好であった.根治度別では根治度BがCに比べて良好であった.原発巣切除の有無別では切除例が良好であった.化学療法の有無別では施行例が良好であった.原発巣切除および化学療法の有無の組み合わせでみると,共に施行した例の予後は他に比べ良好で,共に施行しなかった例は他に比べ不良であった.多変量解析では根治度,原発巣切除の有無,化学療法の有無が独立した因子であった.腹膜播種性転移を伴う大腸癌の治療は,原発巣を切除し,化学療法を行うことが有効と考えられる.
症例
  • 勅使河原 修, 田上 鑛一郎, 小松 義直, 村岡 暁憲, 鈴木 夏生
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2474-2478
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性.平成18年1月,左腋窩に腫瘤を自覚するが放置していた.その後腫瘤が手拳大程度まで急速に増大し皮膚の色調変化をきたしたため,同年5月に当科を受診した.来院時所見では左腋窩に12×10×10cmの弾性軟・可動性良好な腫瘤を認め,皮膚は暗赤色に変化していたが潰瘍は認めなかった.腋窩および鎖骨上窩にリンパ節は触れなかった.血液検査所見に異常はなく腫瘍マーカーは正常であった.乳腺超音波検査では正常乳腺との境界は明瞭で連続性は認めなかった.MRI検査では9.5×6.5×9.5cmの辺縁整・境界明瞭な腫瘍で,T2強調で低信号の被膜様構造を伴い,内部に一部嚢胞変性を混じた高信号の腫瘤を認めた.確定診断は困難で急激な増大を示したことから悪性腫瘍の否定が出来ず,全身麻酔下で腫瘍切除術を施行した.切除標本の病理組織学的検索では異所性乳腺から発生した境界型悪性葉状腫瘍と診断された.
  • 細田 充主, 高橋 將人, 高橋 弘昌, 伊藤 智雄, 藤堂 省
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2479-2484
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    乳腺metaplastic carcinomaは極めて稀な乳腺悪性腫瘍あり,悪性度が高く予後も不良であると報告されている.本症例の2例を経験したので報告する.症例1,42歳女性.1989年右乳癌にてBt+Ax施行.経過観察中,左乳房腫瘤を自覚し当科受診.生検にてinvasive carcinomaの診断にてBt+Axを施行した.病理組織上,乳管癌の一部にspindle cellや軟骨化生を伴うmetaplastic carcinomaの像.術後24カ月,再発なく経過観察中である.症例2,60歳女性.左乳房腫瘤と腋窩皮膚潰瘍を主訴に近医を受診.生検にて扁平上皮癌の診断で化学療法を施行するも効なく当科紹介となった.放射線照射後,Bt+Axを施行した.病理組織上,乳管癌の像と扁平上皮癌の混在が認められ,一部で骨を形成しておりmetaplastic carcinomaの診断.局所再発,多発肝転移をきたし手術3カ月後に癌死した.
  • 深田 一平, 大山 正人, 山口 和盛, 今井 史郎, 伊藤 雅, 小笠原 敬三
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2485-2489
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    全乳癌の内で腺様嚢胞癌(adenoid cystic carcinoma:以下ACC)の発生率は1%未満と稀である.乳腺原発ACCは再発や転移が極めて少なく予後良好な疾患であり,腋窩リンパ節を伴うことは極めて稀とされる1).今回,腋窩リンパ節転移を伴った乳腺腺様嚢胞癌の1例を経験したので報告する.症例は80歳女性で左乳房しこりを主訴に当科を受診,針生検を施行し乳癌と診断した.センチネルリンパ節生検にて転移を認めたため乳房切除術および腋窩リンパ節郭清を施行した.術後補助化学療法としてUFT内服を2年間施行した.術後3年現在,無再発にて経過観察中である.
  • 前田 和成, 足立 淳, 橋本 憲輝, 高野 尚史, 内山 哲史
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2490-2494
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は60歳代女性.平成17年2月,強度の目眩,嘔吐,両下肢脱力のため近医を受診した.精査の結果,脳─脊髄系には著変を認めなかったが,胸部CTにて偶然左腋窩腫瘤を指摘された.悪性腫瘍の転移を疑い,FDG-PET検査を施行され,CTにて指摘された左腋窩にFDGの強い集積を認めた.悪性病変が示唆されたが他に原発巣や転移を思わせる異常集積は認めなかった.再度乳房US,MMG,CT,MRIを施行するも原発巣は特定できなかった.他に転移を疑う所見を認めなかったため,同年5月,左腋窩リンパ節郭清LEVELIIを施行した.病理組織診断で乳癌のリンパ節転移と診断された.術後経過は良好で,平成20年4月時点で再発および他部位への転移の徴候は認めていない.現在のところ潜在性乳癌に対して明確な治療方針は示されていない.患者への充分な説明と,個々の症例に対応した治療法を実施し,厳重な経過観察が重要であると思われた.
  • 木下 雅雄, 片場 寛明
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2495-2498
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    食事療法にて軽快したと思われる稀な乳癌術後の乳糜瘻2例を経験したので報告する.症例1は39歳,女性.2005年6月,乳癌の診断にてBq+Ax(LevelII)施行.術直後よりドレーンから多量の漿液性排液が認められ,食事摂取開始後の第1病日夕方より白濁乳状排液となり,エーテル試験にて乳糜と診断した.同日夕食より低脂肪食とし,第6病日に排液の漿液化および排液量の急激な減少がみられ,第7病日低脂肪食を解除し第8病日にドレーンを抜去した.症例2は63歳,女性.2006年2月,乳癌の診断にてBt+Ax(LevelII)施行.術直後よりドレーンから中等量の漿液性排液が認められ,食事摂取開始後の第1病日夕方より白濁乳状排液となり,同様に乳糜と診断した.同日夕食より低脂肪食とし,第7病日に排液の漿液化および排液量の急激な減少がみられ,第8病日低脂肪食を解除し第9病日にドレーンを抜去した.いずれも脂肪制限食にて改善したと思われた.
  • 下村 学, 香川 直樹, 山下 正博, 中原 英樹, 漆原 貴, 福田 康彦
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2499-2504
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は81歳,女性.49歳時に左乳癌で非定型乳房切除を施行.病理組織診断では,乳頭腺管癌,T2N1M0,stageIIBであった.術後32年目に左前胸壁に3.0cm大の腫瘤を自覚して当科を受診した.CT上遠隔転移は認めなかった.全身麻酔下に腫瘍切除を行い,摘出標本の病理学的検索にて,乳癌の再発と診断した.ER:3+,PR:1+,Her2:1+であった.術後はアナストロゾールの内服にて外来通院中であり,現在までに再発を認めない.術後30年以上経過し,局所に再発した極めて稀な症例と思われた.また2000年4月から2006年12月までに当科で経験した術後10年以降の晩期再発10症例について,その臨床病理学的特徴について検討したので報告する.
  • 山口 敏之, 吉澤 さえ子, 高田 学, 小松 信男, 橋本 晋一, 小山 正道
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2505-2509
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.右腋窩の腫瘤を主訴に来院し,化膿性粉瘤を疑い切開排膿したが残存腫瘤を認めたため当科を紹介された.腫瘤は直径3cm×2cmの可動性のある硬い腫瘤で,直上の皮膚はやや陥凹し発赤を伴っていた.CTでは境界明瞭,low densityな腫瘤として描出され,造影効果が認められた.MRIでも境界明瞭な腫瘤として描出され,T1強調画像で均一,筋肉と等信号,T2強調画像で不均一に低~高信号が混在,Gd-DTPAにより不均一に造影された.良性の皮下腫瘍と診断し局所麻酔下に腫瘤切除を行った.病理学的には表皮に開口部を有する嚢胞性病変で,嚢胞壁は顆粒層を介さず角化する外毛根鞘性角化を呈し,内腔に胞巣を形成して増殖していたためproliferating trichilemmal cystと診断した.外来で経過観察中であるが再発の徴は認めていない.
  • 越湖 進, 小沢 恵介, 木村 文昭, 田代 善彦
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2510-2513
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,女性.食事中にむせた後,右側にはじまり両側にひろがる頸部腫脹と呼吸困難を主訴に近医を受診した.右胸水と前縦隔組織の腫脹が認められ当院に緊急搬送されたが,入院後速やかに頸部腫脹や胸水は消失し症状も軽快した.引き続いて行われた精査でも特に異常所見は認められず退院となった.しかし3カ月後に同様な症状をきたし再度入院,両側に乳糜が貯留しており,両側性特発性乳糜胸の診断で胸腔鏡下胸管クリッピング手術を行った.軽快退院したものの,その後も一過性ながら頸部腫脹と胸水貯留をきたしており,手術による治癒は得られず治療に難渋する結果となった.現在も当科外来に定期的に通院経過観察中である.
  • 稲垣 卓也, 中西 浩三, 松平 秀樹, 森川 利昭
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2514-2517
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は47歳,男性.33歳時に開胸手術の既往があった.後天性免疫不全症候群(Acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)に合併したニューモシスチス肺炎(Pneumocystis pneumonia:PCP)の治療中,右自然気胸を発症した.胸腔ドレナージ治療が行われたが気漏が3週間持続したため手術による気漏閉鎖の方針となった.CTで胸腔内に癒着のない作業空間があることを確認し胸腔鏡による手術を実施した.胸腔内癒着を剥離後,肺尖の責任病変と見られるブラを切除した.気漏は消失し,術後1日目に胸腔ドレーンを抜去,5日目に内科へ転科となった.
    胸腔鏡手術は侵襲が少なく,免疫不全を基盤とするAIDSに自然気胸が併発した場合,の外科治療の手段として有益であると考えた.
  • 勝原 和博, 高野 信二, 上田 重春, 延原 研二, 喜安 佳人, 酒井 堅
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2518-2522
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性.既往歴として1年前に胸部食道癌で開胸開腹の手術歴がある.某年11月8日腹痛を主訴として当院を受診した.腹部CTでは大腸の拡張像を認め,腸閉塞の診断で入院となった.イレウス管を挿入し保存的加療を行ったが,入院後6日目より腹満の増悪,発熱,呼吸困難を認め,胸腹部CTを行ったところ,左気胸,横行結腸の左胸腔内への脱出を認め,胸腔内での大腸穿孔と診断し,緊急手術を行った.食道裂孔より胸腔内に横行結腸が約40cm脱出し,虚血性壊死により2カ所で穿孔していた.脱出した横行結腸を切除し,人工肛門造設,開胸開腹ドレナージ術を行った.術後はエンドトキシン吸着,人工呼吸器管理を行った.術後膿胸の加療を必要としたが,術後98病日に退院することができた.食道切除後に胸腔内で大腸穿孔をきたした症例は稀である.胸腔内での大腸穿孔例について若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 吉田 直, 鈴木 武樹
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2523-2527
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    患者は61歳,男性.平成9年8月に他院で食道平滑筋肉腫の切除術を受けた.術後4年間外来通院し再発を認めなかった.平成17年6月より左側腹部の腫瘤を自覚し,当科を受診した.腹部超音波で左側腹部に10cmの嚢胞性腫瘍を認め,腹部CTおよび腎盂造影の所見から後腹膜腫瘍と診断した.副腎ホルモンや腫瘍マーカーでは異常を認めなかった.後腹膜腫瘍摘出術を施行し,病理組織検査では紡錘形細胞が束状に増殖しており,免疫染色ではc-kit陽性でgastrointestinal stromal tumor (GIST)と診断された.8年前の食道平滑筋肉腫の病理組織標本を免疫染色したところc-kit陽性であったため,食道GISTの後腹膜再発と診断した.術後3年を経過した現在も無再発で外来通院中である.
  • 尾上 俊介, 片山 信, 小倉 豊, 白井 量久, 深谷 昌秀, 横井 太紀雄
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2528-2532
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は35歳,女性.3カ月前より続く腹痛,食欲不振を主訴に来院.腸閉塞の診断にて入院となった.大腸内視鏡所見では,上行結腸に粘膜下腫瘍様の腫瘤を認めた.胃内視鏡所見では,幽門部に粘膜下腫瘍を認めた.上行結腸腫瘍,胃粘膜下腫瘍に対し,右半結腸切除術,幽門側胃切除術を施行した.標本の肉眼所見では,上行結腸に40×25mmの絨毛様粘膜変化を伴う腫瘍を認め,胃幽門部には45×35mmの粘膜下腫瘍を認めた.病理組織所見では,大腸に粘膜下組織を主座とした高分化型腺癌を認めた.胃腫瘍は大腸腫瘍に類似した組織型であった.術後1年7カ月経過し,無再発生存中である.粘膜下腫瘍の形態を示す大腸癌は比較的稀である.大腸癌胃転移の本邦報告21例のうち11例に切除が行われ,術後1年以上無再発と記載のあるものは2例のみであった.
  • 野村 純子, 成清 道博, 山田 行重, 西沼 亮, 中島 祥介, 堤 雅弘
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2533-2536
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    早期胃癌に対してEMR施行後,粘膜下腫瘍を思わせる形態をとり,急速に増大し胃全摘術を施行したEpstein-Barr virus(以下EBVと略記)関連胃癌の1例を経験した.病理組織では間質のリンパ濾胞に富んだ低分化型腺癌であり,腫瘍部分はlace patternといったEBV関連胃癌に特徴的所見を示し,EBER-1(EBV-encoded small RNA)がin situ hybridizationにて陽性であった.以上の症例につき若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 甫喜本 憲弘, 市川 賢吾, 藤原 千子, 尾崎 信三, 上岡 教人, 花崎 和弘
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2537-2541
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.胆嚢内結石症および閉塞性黄疸の診断で当院内科入院.後日胆嚢摘出術の予定で,ストレートタイプの内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic naso-bilialy drainage:以下ENBD)チューブを留置し,保存的加療を開始した.15日後にENBDチューブの逸脱による十二指腸穿孔性腹膜炎と診断された.ピッグテイルタイプのENBDチューブに入れ替え,2日間減黄処置を試みるも,症状の改善がみられないため,当科紹介となり,緊急手術を行った.開腹時,十二指腸下行脚に径約2mmの穿孔部位および腹腔内膿瘍を認めた.穿孔部位の単純縫合閉鎖,胆嚢摘出術および外科的ドレナージ術を施行した.術後経過は順調で,術後24日目に退院となった.ENBDチューブの逸脱が原因で消化管穿孔を起こしたという報告例は,著者らが文献的に検索しえた限りではみられず,本症例が初めてである.
  • 嶋村 和彦, 親松 学, 佐藤 賢治, 筒井 光廣, 畠山 勝義
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2542-2546
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は37歳,女性.激しい腹痛を主訴に受診.圧痛は認めたが,反跳痛,筋性防御はなかった.腹部CT検査では空腸上部に腸間膜収束像と一塊状となった空腸を認め,腸間膜裂孔に生じた内ヘルニアが疑われた.明らかな腸管虚血はなく,鎮痛剤が著効し腹痛は著明に改善したため保存的治療を行った.翌日には症状は消失した.その後同様な症状を2度繰り返し,再々発時には腸管虚血が疑われ,手術を施行した.開腹所見でTreitz靱帯左側にヘルニア門を認め,空腸が嵌頓,左傍十二指腸ヘルニアと診断した.嵌頓腸管は虚血,壊死無く,整復とヘルニア門の閉鎖のみ行った.RetrospectiveにCT画像を検討すると傍十二指腸ヘルニアの所見を認めた.繰り返す原因不明の腹痛では本疾患の可能性もあり鑑別診断に挙げるべきである.
  • 黒野 格久, 田中 直, 三谷 眞己, 全並 秀司, 桑原 義之
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2547-2551
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性.1年前より腰痛症でNSAIDsを内服中であった.平成18年3月より腹痛,下痢,両下肢の浮腫が出現したため,精査治療を目的に入院した.腸閉塞とそれに伴う低栄養と診断.両下肢の浮腫はすぐに軽快したが,イレウス症状を繰り返すため,入院56日目に手術を施行した.手術所見では,バウヒン弁から口側20cmより100cmの回腸内に硬結を認めた.硬結部を腸閉塞の原因部位と判断し,同部を切除し端々吻合した.摘出標本では小腸の数カ所に隔膜様の狭窄が存在した.病理組織学的検索では炎症細胞浸潤,粘膜筋板の途絶,粘膜下層の線維化を認め,潰瘍II度までの浅い病変が存在したことを示唆する所見であった.肉芽腫や血管炎,乾酪壊死などの特異的な所見は認めず,NSAIDsに起因する薬剤性小腸潰瘍に続発した狭窄と考えられた.
  • 草野 秀一, 花田 法久, 堀 和樹, 鶴本 泰之, 坂下 直実, 内野 良仁
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2552-2556
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,男性.開腹既往なし.関節リウマチのため,非ステロイド系消炎鎮痛剤(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)を5年間服用していた.便秘,下痢で発症し画像診断で腸閉塞と診断した.絶食にて一時軽快したが再び悪化,イレウス管での治療でも軽快しないため手術を施行した.回腸には1m以上にわたり索状物が多発しており,切開にて粘膜の硬化と・肥厚により膜様狭窄を呈していた.170cm小腸切除し端々吻合した.NSAIDsによる小腸膜様狭窄は比較的稀な疾患でNSAIDs長期内服患者の腸閉塞には本疾患を念頭におく必要があると思われたため報告する.
  • 川崎 健太郎, 大澤 正人, 大野 伯和, 小林 巌, 藤野 泰宏, 中村 毅
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2557-2560
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は50代男性.食道癌で右開胸胸部食道全摘,胃管による後縦隔経路再建を施行した.手術時Treitz靱帯より20cmの空腸に経腸栄養チューブを20cm挿入し,Stamm法で腸管に固定,刺入部を腹壁に固定した.術後経過良好であったが術後14日目に左下腹部痛が出現したので16日目にチューブを抜去した.その後も腹痛が持続,22日目に腹部CTを撮影し小腸の腸重積を指摘された.経過観察としたが27日目のCTでも腸重積が認められたため手術となった.開腹すると小腸を腹壁に固定していた部分より肛門側20cmの空腸に約10cmの順行性3筒性の腸重積を認めた.癒着で解除困難であったため小腸切除を行った.腸重積発生部は経腸栄養チューブが位置していた部分であり経腸栄養チューブが誘因になったと考えられた.経腸栄養チューブによる腸重積は非常に稀な合併症であるが,注意を要すると思われた.
  • 古谷 晃伸, 木ノ下 修, 永田 啓明, 中島 晋, 福田 賢一郎, 増山 守
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2561-2564
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は23歳,女性.4カ月前より下痢,心窩部痛,下血を認めGF,腹部エコーを施行されたが明らかな所見を認めず軽快増悪を繰り返していた.今回,腹痛下痢で再び救急外来受診し投薬治療を行ったが,翌日に腹痛の増強を認めたため腹部CTを施行した.回腸末端にtarget signを認めたため回腸回腸型の腸重積と診断し,同日緊急手術を施行した.開腹すると上行結腸内まで腸間膜を巻き込みながら回腸が入り込み回腸回腸結腸型の腸重積症であった.Hutchinson手技で整復し回盲部から70cm口側の腸間膜対側に内翻する憩室を認めこの部位が先進部と考えられた.憩室を含め5cmにわたって小腸部分切除術を施行した.病理組織は真性憩室で異所性胃粘膜も認められ,内翻したMeckel憩室を先進部とした腸重積症であると診断した.成人腸重積症においてはMeckel憩室内翻も念頭におくべきと考えられた.
  • 福本 晃久, 福岡 敏幸
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2565-2569
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,比較的稀な小腸出血および偽性腸閉塞を呈した原発性腸管アミロイドーシスに対し手術を施行し,良好な経過を得たので報告する.
    症例は73歳,男性.家族歴,既往歴に特記事項はない.嘔吐・下血を主訴に当院受診,入院となる.腹部レントゲンでは小腸の拡張が著明で腸閉塞像を呈していた.FDG-PETでは異常を認めず,上部消化管内視鏡でも出血源を認めなかったが,十二指腸生検にてアミロイド沈着を認めた.絶食にて一旦症状は改善したが,すぐに再燃,精査加療目的に手術を施行した.腫瘍や狭窄は認めず,空腸の著明な拡張と漿膜下出血を認め,粘膜には多数のビランが存在,同部を切除した.骨髄検査も異常を認めず,病理検査にて原発性腸管アミロイドーシスと診断した.経過は良好で,現在,下血・腸閉塞の再発なく外来通院中である.
  • 星野 好則, 高橋 孝行, 藤崎 真人, 平畑 忍, 前田 大, 清水 和彦
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2570-2574
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,男性.2006年5月に咽頭痛を主訴に耳鼻咽喉科を受診し,咽頭部からの生検で節外性NK細胞リンパ腫と診断され,放射線化学療法で寛解を得ていた.2007年5月までは異常を認めなかったが,同年6月上旬より心窩部不快感および下腹部痛を自覚し,6月下旬に突然の腹部激痛のため当院救命センターを受診した.腹部全体に著明な圧痛と腹部CT検査では腹腔内遊離ガスが存在し,汎発性腹膜炎の診断で緊急開腹術を施行した.腹腔内に混濁した胆汁様腹水と腫大した腸間膜リンパ節および小腸壁の扁平な散在性小結節を認めた.その一つに穿孔を認め,穿孔部を含めた小腸部分切除を施行した.切除標本では小結節の粘膜面に潰瘍形成を認め,病理組織学的に悪性リンパ腫の再発と診断された.放射線化学療法で寛解後に小腸穿孔により再発が確認された本邦初のNK細胞リンパ腫症例である.
  • 室 雅彦, 井谷 史嗣, 石川 隆, 浅海 信也, 久保 慎一郎, 金 仁洙
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2575-2579
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    小腸軸捻転にて発症した小腸GISTの1例を経験したので報告する.症例は73歳,男性.強い腹痛にて発症.腹部CT所見で下腹部に小腸腫瘤を認め,上腸間膜動脈を中心としたwhirl signを認めた.小腸腫瘤による小腸軸捻転と診断し緊急手術を施行した.手術所見は上腸間膜動脈を中心として時計回りに720度小腸が捻転していた.Treitz靱帯より1m30cm肛門側の空腸に5cm大の腫瘤を認め,これを含めた小腸部分切除を施行した.病理診断は小腸GIST,low grade malignancyであった.小腸GISTによる小腸軸捻転症は稀な疾患である.
  • 的場 周一郎, 沢田 寿仁, 戸田 重夫, 森山 仁, 横山 剛, 橋本 雅司
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2580-2584
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    患者は62歳,女性.主訴は心窩部不快感.平成某年10月頃より心窩部不快感が出現,翌年1月当院内科受診し,貧血,便潜血反応陽性を認めた.上部,下部消化管内視鏡を行うも異常は認めず,小腸造影検査を行ったところ,回腸に約6cmの憩室と,その内部に約3cm大の隆起性病変を認めた.腹腔鏡補助下に手術を行った.手術所見では回腸に憩室を認め,小切開を置き,憩室のみ切除した.術中迅速診断にて高分化型腺癌と診断され,リンパ節郭清を伴う回腸部分切除を行った.病理検査では,リンパ節転移を認めず,Meckel憩室の異所性胃粘膜から発生した癌であった.
  • 山田 大作, 小関 萬里, 黒住 和史, 橋本 安司, 森井 奈央, 谷山 清己
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2585-2591
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.1日に数回起こる腹部発作を主訴に受診した.現症では,臍を中心に約6cm腫瘤を触れ,圧痛・反跳痛などの所見を伴わなかった.血液検査所見では貧血を認めた.消化管内視鏡検査,膀胱鏡検査では異常を認めなかった.腹部CT,MRIにて臍部裏面に腫瘤を認め,腹壁への浸潤が疑われたため,尿膜管腫瘍の腹壁浸潤疑いにて手術を施行した.手術所見では回盲部より約80cmの部位にMeckel憩室が存在し,臍部の腫瘍と連続していた.腫瘍は卵黄腸管靱帯を介して,腹直筋後鞘および腹直筋に浸潤していた.病理所見ではMeckel憩室から発生した高分化型腺癌で,周囲に異所性胃粘膜細胞を伴っていた.Meckel憩室癌の本邦報告例は調べた限りでは26例と稀で,しかも本症例のように卵黄腸管靱帯を介して臍部に腫瘤を形成することは極めて稀である.臍部腫瘤を主訴としたMeckel憩室癌の1症例を報告した.
  • 岡田 一郎, 日比 健志, 白畑 敦, 松原 猛人, 木川 岳, 真田 裕
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2592-2595
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,男性.平成19年12月初旬,朝から腹痛が出現し,近医受診.急性腹症と診断され入院した.翌日,腹痛が増悪し,腹膜炎の疑いで当院紹介となった.腹部CT上,絞扼性イレウスと診断し,同日緊急手術を行った.正中切開にて開腹したところ,淡血性の腹水が大量に貯留していた.虫垂炎により虫垂先端と回腸,大網が癒着し,その間隙に回腸が約1mはまり込み,内ヘルニアを生じていた.回腸は赤紫色を呈し,絞扼性イレウスと診断した.絞扼解除後,絞扼腸管は蠕動あり,色彩改善もみられ,虫垂のみ切除し腸管切除は行わず手術は終了した.虫垂炎は急性腹症の中でもありふれた疾患である.虫垂炎の合併症として,術前の麻痺性イレウスと術後の癒着性イレウスは経験されるが,絞扼性イレウスを合併した症例報告は稀である.本邦では,自験例を含めて12例と少なく,比較的稀と考えられるので報告した.
  • 藤原 立樹, 林 政澤, 野坂 俊壽
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2596-2600
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    78歳,女性.嘔吐を主訴に当院を受診した.腹部膨満を認め,右下腹部に鶏卵大の腫瘤を触知した.腹部単純撮影では小腸ガスの貯留を認めた.血清CEA値は14.2ng/mlと高値であった.腹部CT検査では虫垂部に約9cmの瓢箪型をした嚢胞性腫瘤を認め,盲腸から上行結腸内への腫瘤嵌入による腸重積症を疑った.大腸内視鏡検査を施行したところ,重積した腫瘤に回盲弁が圧排されていたが,観察中に重積は解除された.虫垂粘液嚢腫の診断にて,開腹手術を施行した.腹腔内にリンパ節腫大や腹水貯留は認めず,回盲部切除(D2郭清)を施行した.摘出標本の嚢胞内容物は黄白色ゼリー状粘液であった.病理組織検査では,虫垂粘液嚢胞腺腫と診断され,悪性所見は認めなかった.血清CEA値は術後28日目に1.9ng/mlと正常化した.虫垂粘液嚢胞腺腫による腸重積症は報告が稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 西和田 敏, 大住 周司, 安田 里司, 蜂須賀 崇, 吉村 淳
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2601-2606
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    塩酸セベラマーを内服中の透析患者に発生した結腸穿孔を2例経験したため報告する.症例1は70歳代,女性.透析歴8年.2004年3月に腹痛,嘔吐のため当院に救急搬送された.CTで腸管穿孔と診断し,緊急開腹術を行った.下行結腸に穿孔と硬便の突出を認め,結腸部分切除,人工肛門造設術を施行した.術後に敗血症,DIC,小腸皮膚瘻を合併したが,集学的治療で改善し,軽快退院した.症例2は50歳代,女性.透析歴10年.2006年12月,入院中に腹痛,嘔吐が出現し,CTでS状結腸穿孔と診断し緊急開腹術を行った.大腸全体に硬便が貯留し,S状結腸に穿孔と便塊の突出を認め,S状結腸部分切除,人工肛門造設術を施行した.翌日より維持透析を再開し,経過良好で軽快退院した.
    塩酸セベラマーは透析患者の心血管系疾患予防の有用性から使用頻度が増加しているが,極度の便秘により腸管穿孔や腸閉塞を引き起こす可能性が示唆されている.死亡例も報告されているため,投薬には十分な注意が必要である.
  • 光岡 直志, 渡辺 哲夫, 木林 透, 高岡 宗徳
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2607-2611
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.上腹部痛と下血を主訴に初診.このとき上腹部に反跳痛,筋性防御を認めた.CTにて全結腸に壁肥厚を認め,全結腸型虚血性大腸炎の診断にて入院となった.入院時検査にて糖尿病がみられたが治療歴はなかった.絶食,補液,抗生剤の投与,血糖コントロールを行ったが,急激に腹水が出現した.注腸では全結腸に拇指圧痕像を認めたが,ハウストラの消失を伴う拡張はみられず,非壊死型全結腸型虚血性大腸炎と診断し,穿孔のないことを確認した.腹水は蛋白漏出によると考えられ,新鮮凍結血漿を輸血し,腹水は減少,34病日に行った内視鏡検査では虚血性大腸炎の治癒期として妥当であった.虚血性大腸炎は,左側結腸に発症することが多く,この場合の診断は容易であることが多いが,右側結腸や全大腸に発症した場合,手術適応を含めた初期診断が困難である.本症例も腹膜刺激症状を呈し,慎重な観察を要したが,保存的に治療しえたので,若干の考察を含めて報告する.
  • 横山 貴司, 石川 博文, 坂本 千尋, 渡辺 明彦
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2612-2617
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    S状結腸憩室炎による結腸膀胱瘻を5例経験した.平均年齢68.4歳,男性3例女性2例で,5例中3例は他院にて大腸癌あるいは膀胱癌と診断され,1例は人工肛門を造設されていた.主訴は4例で糞尿あるいは気尿を認め,1例は腹痛,腹部膨満感のみであった.5例中3例において,注腸検査,膀胱鏡,MRIにより結腸膀胱瘻が描出可能であった.全例で大腸憩室症の既往があったこと,画像上,腫瘤形成を認めないことから,憩室炎に伴う瘻孔と診断し,S状結腸切除,膀胱部分切除術を施行した.術後経過は全例良好であった.結腸憩室炎による結腸膀胱瘻は比較的稀な疾患であり,自験例5例とともに15年間の報告例を集計し,以前の本邦報告例と比較し,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 西山 悟, 永野 秀樹, 五井 孝憲, 飯田 敦, 片山 寛次, 山口 明夫
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2618-2622
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    術前診断に多列検出器CT(MDCT)が有用であった虫垂S状結腸瘻の1例を報告するとともに,虫垂S状結腸瘻の本邦報告例と自験例を含めた19例について検討した.
    症例は57歳,男性.1カ月来の右下腹部痛と受診当日の下血を主訴に受診.MDCTおよび大腸内視鏡検査を施行し,虫垂S状結腸瘻の術前診断を得られ,同日緊急に回盲部切除,S状結腸切除にて膿瘍腔とともに一塊に切除した.
    これまでの報告ではほとんどの症例で術前に注腸造影検査がなされていたが,本症例ではMDCTにて確定診断を得られた.さらに,緊急手術を考慮する際には腸管切除の前処置に影響することもなく,有用であると考えられた.
  • 諸橋 一, 山田 恭吾, 松浦 修, 山崎 総一郎, 藤田 正弘
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2623-2628
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は80歳代男性,右下腹部腫瘤を主訴に受診し,CT,USで回盲部周囲膿瘍と診断されたため,当科に紹介された.まず,保存的治療を開始したところ,膿瘍の突然の縮小が認められ,その後の注腸造影,大腸内視鏡検査でS状結腸に膿瘍腔と交通する瘻孔の存在と虫垂開口部の腫瘍が認められた.保存的治療は困難と考えられたため,開腹手術を施行した.膿瘍は回盲部から外側の腹壁,腸腰筋上を被う様に存在した.術中肉眼所見では右側結腸の炎症が先に生じ,S状結腸を巻き込む形で炎症が波及し,癒着,外側からの瘻孔形成に至ったと考えられた.切除標本では虫垂粘膜面から虫垂開口部方向にかけて広基性,隆起性の虫垂腫瘍が露出している所見が認められ,病理組織学的診断により,高分化型腺癌と診断された.
    今回,われわれはS状結腸に穿破した回盲部周囲膿瘍の精査中に発見された虫垂癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 三口 真司, 眞次 康弘, 中原 英樹, 香川 直樹, 漆原 貴, 福田 康彦
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2629-2634
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    74歳,女性.当院整形外科入院中に粘血便を主訴に当科紹介受診となった.直腸診にて肛門縁より約6cmの部位に弾性硬の腫瘤を触知した.腹部CTで直腸にmulti concentric ring signを呈する腫瘤を指摘され,直腸腫瘍による腸重積が疑われた.注腸造影では腫瘍は蟹の爪様の陰影欠損として描出され,先進部はRa,Rbの境界部にありRsより重積している直腸粘膜が描出された.整復を試みたが不可能であった.以上より,腸重積症を合併した直腸癌と診断し手術を施行した.術中所見ではRsからRbにかけて腸重積が確認された.用手的整復を試みたが,重積腸管が損傷する危険性があったため整復を断念しハルトマン手術を行った.組織学的診断は高分化腺癌,SE,N1 StageIIIaであった.
    成人の直腸S状部癌を先進部とする成人腸重積症は非常に稀である.成人の腸重積症例は,症状・所見に乏しい慢性の経過を取ることが多く,診断時には整復困難な状態に陥っておることが予想される.そのため,無理な保存的整復には固執せずに手術を施行するべきであると考えられた.
  • 小野里 航, 中村 隆俊, 小澤 平太, 佐藤 武郎, 井原 厚, 渡邊 昌彦
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2635-2639
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.約6カ月前より肛門腫瘤を自覚していた.肛門腫瘤が次第に増大したため近医を受診した.肛門周囲Paget病の診断で当院を紹介受診した.腫瘍切除術を施行したが,病理組織検査で肛門管由来の粘液癌で,深達度は固有筋層(pMP),口側切除断端が陽性であった.腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術を施行した.手術時間は335分で出血量は130mlであった.術後経過は良好で術後10日目に退院可能となった.病理組織診断は,肛門周囲皮膚へのpagetoid spreadを伴う肛門管由来の粘液癌であった.術後24カ月を経過した現在,再発の徴候はない.腺癌細胞が連続性に隣接皮膚に進展するpagetoid spreadを伴った比較的稀な肛門管癌の1例を経験した.腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術は,低侵襲で拡大視効果により安全な手術が可能で,側方郭清の不要な疾患では有用な術式と考えられた.
  • 湯澤 浩之, 高尾 貴史, 草野 敏臣
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2640-2643
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,男性.1992年(64歳時)に胆嚢摘出術を受けている.2006年3月近医で黄疸を指摘され当院紹介.画像検査で上部胆管に楔状の狭窄を認めたが,胆管壁の不整は無かった.拡張した上流胆管(肝内胆管)内に多数の小結石を認めた.胆汁細胞診はClassIIであった.良性胆管狭窄および胆道結石症の診断で内視鏡的治療を試みたが不成功のため開腹手術を行った.胆管狭窄部を切除し結石を除去した後,肝管空腸吻合を施行した.狭窄部には肉眼的にも腫瘍を認めず,慢性胆管炎による胆管狭窄であった.なお,術後胆管狭窄の原因で最も多いとされる初回手術中の胆管損傷の有無は本症例では不明である.
  • 大橋 浩一郎, 谷口 英治, 大橋 秀一, 栗原 陽次郎, 太田 喜久子, 吉川 正人
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2644-2648
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下胆嚢摘出術における術中胆道造影検査にて偶然発見された総胆管コレステロールポリープに対して腹腔鏡下に摘除した1例を経験した.症例は69歳,女性.数カ月来の心窩部鈍痛を伴う胆嚢結石症にて当科を紹介された.腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した際,術中胆道造影検査にて下部総胆管に陰影欠損を認めたため胆管を切開し胆道鏡検査を施行した.下部胆管内に約1mm大の黄白色のポリープの集簇を認めコレステロールポリープを疑い胆道鏡下に生検鉗子を用いて可及的に全摘除した.術後病理学的診断は総胆管コレステロールポリープであった.
    総胆管発生のコレステロールポリープは本邦報告例は33例と稀な疾患である.診断および治療には術中胆道鏡下に生検鉗子を用いた摘除が有効と思われた.また検索しえた範囲内では本症に対する腹腔鏡下手術は自験例が初めてであった.
  • 大石 康介, 鈴木 昌八, 坂口 孝宣, 福本 和彦, 稲葉 圭介, 今野 弘之
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2649-2655
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    正中弓状靱帯(Median arcuate ligament:MAL)の圧迫による腹腔動脈狭窄によって生じた背側膵動脈瘤に対し,靱帯切離が有効であった1例を報告する.症例は31歳,女性.17歳時より早期閉経に対して不定期に女性ホルモン剤を内服していた.2006年2月,腹痛を主訴に近医を受診し,腹部超音波検査で肝に占拠性病変を認めた.肝腫瘤質的診断の為の腹部血管造影で腹腔動脈根部の狭窄および上腸間膜動脈より分岐する背側膵動脈起始部に径5mmの嚢状を呈する動脈瘤を認めた.塞栓術は困難で,腹腔動脈の血流是正と瘤縮小を目的に開腹下で正中弓状靱帯切離を行った.肝腫瘍は血管腫で,女性ホルモン内服による増大の危険性を考慮して切除した.術後血管造影検査,MDCTで動脈瘤の消失を確認した.膵十二指腸領域動脈瘤は,腹腔動脈狭窄を代償するための膵近傍動脈血流増加が主因と考えられる.瘤への直達手術が困難な場合,腹腔動脈の狭窄解除による血流是正は適切な処置となり得る.
  • 草野 徹, 松本 敏文, 白水 章夫, 池田 陽一, 北野 正剛
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2656-2659
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    症例は39歳,男性.多飲酒家.以前より膵炎発作を繰り返し,胸痛・息切れ・倦怠感を主訴に来院.胸部単純X線とCT検査で右胸水の貯留が認められたため胸腔穿刺を行った.胸水の性状は淡血性であり,アミラーゼ49,900IU/L,蛋白定量3.1g/dlと高値であることから膵性胸水と診断した.また,膵体尾部に仮性嚢胞(4.0×3.8cm)および慢性膵炎の増悪を認めた.さらに,Endoscopic Retrograde Cholangio-pancreatographyで膵仮性嚢胞と縦隔・右胸腔との間に交通が確認されたため,慢性膵炎の増悪を契機に膵性胸水が生じたと考えられた.Endoscopic nasopancreatic drainageやEndoscopic pancreatic stenting,胸腔ドレーン留置などによる内科的治療を行うも改善傾向になく,外科的に膵体尾部切除,嚢胞開放・ドレナージ術を施行し治癒しえた.膵仮性嚢胞の経過中には胸腔内へ穿破をきたす膵性胸水の発生を念頭におく必要があると考えられた.
  • 砂川 宏樹, 川上 浩司, 稲嶺 進, 當山 鉄男, 座波 久光, 大城 直人
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2660-2664
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    膵腺扁平上皮癌の2例を報告する.症例1は52歳の男性で,上腹部痛を主訴に受診.腹部造影CTにて2カ月間で2倍に増大した4cm大の膵尾部癌の診断にて膵体尾部切除術施行した.病理では多くを扁平上皮癌成分が占拠する膵腺扁平上皮癌であった.術後1年2カ月無再発生存中である.症例2は77歳の男性で上腹部痛で受診.腹部造影CTでは膵鉤部に3cm大の腫瘍を認めた.9カ月前のCTでは同腫瘍は認められなかった.膵頭部(鉤部)癌の診断にて幽門輪温存膵頭十二指腸切除術施行.病理では腺癌と扁平上皮癌が混在する膵腺扁平上皮癌であった.膵腺扁平上皮癌は増大傾向がある言われており,われわれの2症例でも短期間での腫瘍の増大がCTにて確認された.
  • 大城 泰平, 弥政 晋輔, 京兼 隆典, 東島 由一郎, 後藤 秀成, 松田 眞佐男
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2665-2669
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
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    脾炎症性偽腫瘍の1例を報告する.症例は43歳,男性.検診エコーで脾に境界不明瞭な腫瘤を指摘された.1年6カ月の経過で腫瘤は20mmに増大し分葉状の変化を認めたため悪性リンパ腫の可能性も考慮し腹腔鏡下脾摘出術を施行した.割面は白色の線維性の腫瘤で炎症性偽腫瘍と診断した.脾炎症性偽腫瘍の自然経過を観察した症例は少ないが炎症性の腫瘤であるため予後は良好である.経過観察も可能と考えられる.
  • 西山 亮, 渡辺 義二, 丸山 尚嗣, 夏目 俊之, 上原 敏敬, 清水 辰一郎
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2670-2674
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    腫瘍マーカーが高値を示した巨大脾嚢胞の1例を経験したので報告する.症例は17歳,女性.2年前より左上腹部膨満感を自覚.徐々に増強したため来院し左上腹部に小児頭大の腫瘤を触知した.血液検査ではCA19-9,CA125がそれぞれ413U/ml,72U/mlと高値であった.US,CTでは左上腹部に20×15cmの嚢胞性病変を認め,原発は脾臓が考えられた.巨大で悪性の可能性も否定できないため開腹術を施行した.手術所見では脾臓原発の嚢胞様病変を認め,脾臓摘出術を施行.切除した脾嚢胞の大きさは22×19×10cmであり,病理組織検査にて類表皮嚢胞と診断された.嚢胞内液中のCA19-9,CA125はそれぞれ1.0×106U/ml,2.7×105U/mlと高値であった.術後の経過は良好で血清CA19-9,CA125は正常化した.
  • 島田 慎吾, 中野 詩朗, 柳田 尚之, 赤羽 弘充, 櫻井 宏治, 高橋 昌宏
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2675-2680
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    卵巣原発のカルチノイドは比較的稀であり,一般に発育が緩徐で転移の頻度は低い.なお,脾転移は極めて稀である.今回,卵巣カルチノイド切除後に肝転移,脾転移をきたした症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は平成12年に卵巣カルチノイドに対し子宮・付属器全摘術を施行された41歳の女性.平成19年9月,左季肋部痛を主訴に近医受診.腹部超音波検査,CT検査で巨大脾腫瘍と肝腫瘍を認め,当院紹介入院.精査にて卵巣カルチノイドの巨大脾転移(17×15×10cm),肝転移の術前診断で,脾摘出術を施行した.病理診断は卵巣カルチノイド脾転移の診断であった.術後,左季肋部痛は軽快した.現在,外来でVP-16とCDDPによる化学療法を施行している.
  • 比嘉 幹子, 座波 久光
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2681-2686
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    骨盤内放線菌症と子宮内避妊具(IUD)使用との関連はよく知られている.しかし,IUD使用者における骨盤内臓器と関連しない腹壁放線菌症は非常に稀であり,過去数例の報告を数えるのみである.今回われわれはIUD長期使用中であった40歳女性の腹壁放線菌症を経験したので報告する.症例は左下腹部痛と発熱を主訴に来院した.糖尿病の既往はなく,う歯や歯槽膿漏等の所見はなかった.左下腹部に圧痛を伴う炎症性腫瘤を認めた.腹壁膿瘍と診断し切開排膿を行った.術後は特に問題なく,術後1年で再発を認めていない.膿瘍の培養検査で放線菌症と診断した.感染源不明のIUD使用者の腹壁膿瘍では放線菌症も考慮すべきである.
  • 松田 宙, 岩瀬 和裕, 藤井 眞, 西川 和宏, 島田 和典, 田中 康博
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2687-2691
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    患者は40歳,女性.人間ドックで後腹膜腫瘤を指摘され,当センターを受診した.腹部CTでは膵体部頭側に38×25mm大で石灰化を伴った造影される腫瘤を認めた.腹部MRIで腫瘤はT1で低信号,T2で淡い高信号を呈し,比較的濃染された.以上より腫瘤は血流豊富で石灰化を伴う後腹膜腫瘍であり,後腹膜原発神経原性腫瘍や悪性腫瘍の可能性も否定できないため,腹腔鏡下腫瘍摘出術を行った.術中腫瘍後面の剥離に難渋し出血も認めたため,開腹に移行して腫瘍を摘出した.肉眼所見では4×3cm大で被膜に覆われ,割面は淡褐色で一部石灰化による灰白色部分の混在を認めた.組織学的にはhyaline vascular型Castleman病と診断された.リンパ増殖性疾患であるCastleman病は腹部領域に石灰化を伴って発生することは極めて稀であり報告した.
  • 白尾 一定, 貴島 文雄, 秦 洋一, 川崎 洋太
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2692-2697
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    後腹膜原発血管周皮腫術後19年目に両側肺に再発し切除した症例,58歳の女性,1988年7月に後腹膜原発血管周皮腫摘出術,同年9月に右転移性肺腫瘍摘出術,同年10月に左転移性肺腫瘍摘出術を施行した.病理診断は,後腹膜原発悪性血管周皮腫の両側肺転移であった.2006年夏頃より左胸部圧迫感が出現し,同年12月17日に当院外来を受診した.胸部CTにて両側多発肺転移の診断,腹部CTでは腹腔内には再発病巣は認めなかった.既往歴より悪性血管周皮細胞腫の再発と診断した.2007年2月22日左開胸にて最大径7.5cm大の7個の腫瘤を摘出した.同年10月25日右開胸にて14個の腫瘤を摘出した.悪性血管周皮腫の両側肺転移であった.再発までの期間が19年と長くQOLを重視した肺部分切除を2期的に行った.後腹膜原発血管周皮腫術後には,15年以降に再発する症例もあり長期の経過観察が必要である.
  • 松本 敦夫, 岡田 大介, 古川 聡美, 岡本 欣也, 山名 哲郎, 佐原 力三郎
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2698-2701
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    後腹膜に原発した巨大リンパ管腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
    症例は45歳,女性.主訴は腹部膨満感.現病歴は腹部膨満感を主訴に受診したところ,腹部腫瘤を指摘された.腹部CT検査で上行結腸の背側に嚢胞性腫瘤を認めた.腹部MRI検査ではT1強調画像において等信号域,T2強調画像で高信号域の境界明瞭な腫瘤を認めた.術前診断は腸間膜あるいは後腹膜原発のリンパ管腫の診断で,手術にて後腹膜の腫瘤を摘出した.切除標本は15×13×5cmの嚢胞性腫瘤で,内容は淡黄色透明な漿液で充満していた.病理組織検査で後腹膜リンパ管腫と診断した.リンパ管腫は小児によくみられ顔面,頸部,および腋窩に好発する.リンパ管腫において後腹膜リンパ管腫は0.25%と非常に稀である1).自然消退することはなく,治療は手術による完全切除で予後は良好とされている.
  • 山川 俊紀, 泉 貞言, 徳毛 誠樹, 岡 智, 大橋 龍一郎, 塩田 邦彦
    2008 年 69 巻 10 号 p. 2702-2707
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/04/07
    ジャーナル フリー
    総肝動脈神経叢由来の後腹膜神経鞘腫の1例を経験したので報告する.症例は63歳,男性.発熱,蕁麻疹を認め前医受診後,内服にて蕁麻疹は消失したが発熱は続いた.精査目的で腹部CTを施行した結果,門脈,膵頭体部背側に直径50mmの境界明瞭な充実性腫瘤を認めた.胆汁鬱帯による胆管炎の診断で抗生剤投与され解熱後,今後の治療方針相談で当科紹介受診した.MRI検査では,T1強調像にて低信号,T2強調像にて高信号の腫瘤として認め,FDG-PETではFDGの軽度集積を有する腫瘤であった.以上より,後腹膜神経鞘腫を念頭に開腹手術を施行した.術中迅速病理で神経鞘腫と診断されたが,腫瘤は下部胆管と強固に癒着,剥離困難で下部胆管合併腫瘤摘出術を行った.手術所見より総肝動脈神経叢由来の神経鞘腫と考えられた.病理組織学的所見は良性神経鞘腫,Antoni A,B混合型であった.術後6カ月経過したが,再発徴候は認めていない.
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