日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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69 巻, 4 号
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原著
  • 堀本 義哉, 小坂 泰二郎, 齊藤 光江, 荒川 敦, 霞 富士雄
    2008 年 69 巻 4 号 p. 743-748
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    乳癌に対する術前化学療法が浸透した現在,治療前に組織診で腫瘍の性格を把握することは必須である.今回われわれは針生検後に手術を行った原発性乳癌132例について,組織型・ホルモン感受性・HER2発現などの診断が手術の前後で一致したかを比較検討した.その結果,針生検で非浸潤性乳管癌と診断した病変のうち34%に浸潤部が存在した.針生検と手術検体の比較では組織型やホルモン受容体は高率に一致したものの,HER2の一致は7割程度で手術検体が低めとなる傾向があった.診断不一致の原因として手術検体が比較的固定不良であることによる染色性の低下などが考えられる.化学療法の有無で明らかな傾向の違いはみとめられなかった.術前化学療法の有無によらず,針生検と手術検体の間には様々な要素を背景として診断に差が生じる可能性がある.特に結果が異なる際はこのことに留意して慎重に考察すべきである.
  • 齋藤 善広, 武藤 大成, 浅沼 拓, 堀越 章, 土原 一生
    2008 年 69 巻 4 号 p. 749-752
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    乳癌症例に対しLigaSureTM Precise(LSP)を用いて腋窩郭清を行い,電気メスを用いた症例と術後のリンパ漏に関して比較検討した.ドレーン抜去までの平均日数はLSP群(27症例)が5.8日に対し電気メス群(29例)が7.2日,また,平均総浸出液量はLSP群が399.5mlに対し電気メス群が517.7mlと日数,総浸出液量ともに有意に電気メス群が多かった.ドレーン抜去後のseromaに対する処置も,穿刺吸引を要した症例がLSP群では27例中3例11.1%に対し,電気メス群では29例中9例31.0%と有意に多かった.さらに,2回以上穿刺を要した症例が電気メス群では9例中6例存在し,そのうち3例は再ドレナージを要した.LSP群では2回以上の穿刺を要した症例は1例のみで,再ドレナージを要した症例は存在しなかった.以上よりLSPは腋窩郭清後のリンパ漏防止に有用と思われた.
  • 知久 毅, 佐野 渉, 鈴木 大, 矢野 健太郎, 直井 大志, 中田 泰幸, 田代 亜彦
    2008 年 69 巻 4 号 p. 753-760
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    研究の目的:結腸癌に対する回盲部切除術や結腸右半切除術では回盲部および終末回腸の一部が切除される.このような症例で回盲部温存の必要性や可能性について検討した.方法:当科で回盲部が切除された結腸癌症例150例を対象とした.周術期血中ナトリウム,中性脂肪,コレステロール値の変動,および術後の血中ビタミンB12値,貧血の程度につき検討した.また,術後排便習慣につきアンケート調査を行った.また,回盲部温存により,リンパ節郭清に対して影響があるかどうかを検討した.結果:血液検査の結果で,明らかに回盲部切除による影響は認めず,アンケート調査からは,排便に関する術前後の明らかな変化は認めなかった.回盲部温存可能性ありと考えられた結腸癌症例中,n(+)症例の25%では回結腸動脈領域のリンパ節転移陽性であった.結論:今回の検討では,回盲部を温存する必要性,温存できる可能性は低いと考えられた.
症例
  • 小篠 洋之, 石橋 生哉, 今泉 拓也, 矢野 正二郎, 緒方 裕, 白水 和雄
    2008 年 69 巻 4 号 p. 761-766
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    われわれは胃全摘術後患者に対する末梢静脈栄養にて顕在化した乳酸アシドーシスが,ビタミンB1の投与によって改善した症例を経験したので報告する.症例は79歳男性で腹痛,腹部膨満を主訴に来院.約3カ月前に胃全摘術を施行していた.精査にて絞扼性イレウスおよび腹膜炎と診断し,緊急手術を行った.術中よりアシドーシスを認め,壊死腸管切除後も遷延したが炭酸水素ナトリウム投与にて一旦改善した.しかし術翌日には糖質投与量の増加とともに再度アシドーシスが進行し呼吸状態も悪化.血中乳酸値が8.1nmol/Lと上昇していたため,乳酸アシドーシスを疑いビタミンB1(塩酸チアミン)を投与したところ速やかに改善し,乳酸値も正常化した.本症例は胃全摘術後の潜在的なビタミンB1欠乏状態であった可能性があり,末梢静脈栄養にて乳酸アシドーシスが顕在化したと思われる.
  • 太田 竜, 高橋 保正, 河原 祐一, 北村 雅也, 後藤 学, 関川 浩司
    2008 年 69 巻 4 号 p. 767-771
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,女性.2007年4月下旬,左乳房腫瘤に気付き当科受診.左乳房上内側領域に境界不明瞭な3cm大の硬い腫瘤を触知した.マンモグラフィでは多角形で微細分葉状の高濃度腫瘤であった.超音波検査では辺縁不整,境界不明瞭な低エコー像であり,MRI検査では早期相で造影効果の高い腫瘤影を認めた.針生検にて間質肉腫疑いの所見であったため,左乳房円状部分切除術,センチネルリンパ節生検を行った.病理組織診では異型のある紡錘型細胞がmyxomatousに増生し,一部に線維性間質が存在し,免疫組織学的検査では,vimentinとCD68が陽性であり,desmin,SMA,S-100,CD34は陰性,cytokeratinは弱陽性であった.以上よりmalignant fibrous histiocytoma(MFH)と診断された.乳腺原発MFHは稀な腫瘍であり,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 津福 達二, 田中 寿明, 末吉 晋, 田中 厚寿, 白水 和雄, 藤田 博正
    2008 年 69 巻 4 号 p. 772-775
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,男性.2006年2月,労作性狭心症,冠動脈狭窄症に対して3枝バイパス術を受けたが,その術前CTで胸部中部食道に連続する腫瘤を指摘されていた.術後の状態が安定した後,3月当科紹介となった.画像診断上,食道左壁に長径5cmの粘膜下腫瘍様の腫瘤を認めたため,2006年4月,胸腔鏡補助下に手術を施行した.術中所見で食道由来の腫瘤ではなく,下行大動脈から嚢状に突出し基質化した動脈瘤と診断された.術後のCTで腫瘤の増大を認めたため血管内ステントを挿入し特に問題なく退院した.食道粘膜下腫瘍と鑑別が困難であった下行大動脈瘤の1例を経験したので報告した.
  • 石崎 康代, 福田 敏勝, 中原 雅浩, 倉西 文仁, 楠部 潤子, 黒田 義則
    2008 年 69 巻 4 号 p. 776-780
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    SAM(segmental arterial mediolysis)が原因と思われる腹部内臓動脈瘤破裂の2例を経験し,いずれも保存的に治療を行い得たので報告する.症例1は53歳,男性.突然の腹痛で発症し外来受診時の検査では白血球数の上昇の他は特に異常なく経過観察入院となっていたが,入院後に貧血を生じCTを行ったところ腹腔内に血腫を認めた.症例2は58歳,女性.脳梗塞のため他院入院中であったが突然腹痛を生じCTで腹腔内に血腫を認めたために当院へ搬送された.いずれも腹部血管造影で広範囲にわたって血管径の不整や動脈瘤を認め,SAMによる中結腸動脈瘤の破裂が疑われた.血管造影の時点では明らかな活動性出血は認めず2例とも輸血と降圧療法で保存的に治療が可能であった.SAMによる腹部内臓動脈瘤の破裂では動脈瘤の部位や全身状態によっては保存的に治療を行うことはひとつの選択肢であり得ると思われた.
  • 増田 幸蔵, 山形 誠一, 志田 晴彦
    2008 年 69 巻 4 号 p. 781-784
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.発熱と胸痛にて発症した慢性膿胸の症例であった.抗生剤投与,胸腔ドレナージを試みるも症状の改善なく外科へ転科となった.CTにて膿胸腔は約10×7cm大で膿胸腔内にガス像を認め,膿胸壁の肥厚が認められた.肺剥皮術,胸腔ドレナージだけでは,再発のリスクが高いと考えられたため,十分な説明と同意を得て,Tissue Expanderを胸腔内に留置した.症状の改善をみてこれを抜去し,治癒が得られた1例を報告する.
  • 本山 悟, 丸山 起誉幸, 佐藤 雄亮, 林 香織, 宇佐美 修悦, 小川 純一
    2008 年 69 巻 4 号 p. 785-789
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    50代の男性,胸部食道癌術後の胸部創痛を主訴に受診した.精査にて後縦隔経路再建胃管に半周性の深い大きな潰瘍が認められた.消化管内視鏡検査上,潰瘍からの出血は認められないものの,CT画像では下行大動脈への穿通が危惧された.大量出血による失血死を予防するため大動脈ステント留置を提示したが,合併症としてAdamkiewicz動脈閉塞に伴う対麻痺が少なからずあることを受け入れることができず保存的治療を継続することとした.治療開始から12日目,心タンポナーデによるショックとなり緊急手術で外科的ドレナージを行った.胃管潰瘍による炎症が原因となって心嚢液が貯留したためと考えられた.胃管潰瘍は保存的治療で治癒し,患者は入院後49日目に退院した.大動脈ステント留置の適応に悩み,保存的治療中に心タンポナーデを併発した食道癌術後後縦隔経路再建胃管潰瘍症例を報告する.
  • 宮本 慶一, 川崎 仁司, 柴田 滋, 石戸 圭之輔, 赤坂 治枝, 佐々木 睦男
    2008 年 69 巻 4 号 p. 790-794
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は60代男性.検診の上部消化管造影検査で異常を指摘され前医受診.食道胃接合部から食道側にかけて腫瘍を認め,生検で腺癌の診断を得た.食道浸潤胃癌の診断で,平成18年8月に左開胸開腹(連続斜切開)下部食道切除,胃全摘D2郭清,胆摘,脾摘術を施行.手術所見ではEU,Less,2型,25×24mm,T2,N0,H0,P0,CYX,M0,StageIBの診断(胃癌取扱い規約)であった.病理診断から食道腺扁平上皮癌(pT2,ly3,v2,pN0)の診断を得た.術後6カ月のCTで気管前リンパ節を含む上縦隔リンパ節に腫大を認め,PETでも同部位に集積が認められた.他に再発・転移所見がみられないことから,平成19年2月に胸骨逆T字切開による頸部・縦隔リンパ節郭清を施行.術前に指摘された腫大リンパ節は腺扁平上皮癌の転移との診断を得た.再発巣切除後は再再発なく経過良好である.
  • 小川 聡, 石井 祥裕, 中家 亮一, 白下 英史, 久留 哲夫
    2008 年 69 巻 4 号 p. 795-799
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.うつ病にて過食と臥床を繰り返していた.朝食後口腔内に食物を充満させ窒息し,痙攣を起こしているところを発見され,救急搬送された.来院時意識レベルはIII-100(JCS),口腔内容物は既に除去されており,チアノーゼがあるものの自発呼吸を認めた.胸部では湿性ラ音を聴取し,腹部は膨満あるも筋性防御はなかった.胸部X線検査では両肺野に淡い浸潤影と大量の腹腔内遊離ガス像を認めた.誤嚥性肺炎を合併した消化管穿孔と診断し,直ちに手術を施行した.開腹すると胃体上部小彎側に縦走する約5cmの穿孔を認めた.穿孔部に潰瘍や腫瘍等の器質的疾患を認めず,特発性胃破裂と診断し一期的に縫合閉鎖した.自験例は過食による過膨張胃に,嘔吐や痙攣に起因した急激な胃内圧上昇が加わり,小彎側が破裂したものと考えられた.
  • 松永 宗倫
    2008 年 69 巻 4 号 p. 800-804
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.心窩部痛にて救急受診.腹部CTでfree airと腹水,上部内視鏡検査で胃体中部前壁に潰瘍性病変を認めた.胃穿孔と診断し,緊急手術施行.初回手術時に,穿孔部縫合閉鎖術と大網被覆術を行った.穿孔部より切除した病理組織から,胃悪性リンパ腫との診断が得られたので,初回手術後10日目に胃全摘術を施行した.病理組織は,胃原発悪性リンパ腫,diffuse large B-cell lymphomaであり,リンパ節転移や腹膜播種などは認められなかった.
  • 和田 義人, 鍋山 健太郎, 齊藤 信明, 宮崎 亮
    2008 年 69 巻 4 号 p. 805-809
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は81歳,女性.嘔吐を主訴に2006年3月,当院に精査加療目的で入院された.上部消化管内視鏡検査で幽門狭窄と胃角部に潰瘍を認めた.生検の結果はいずれもGroupIであった.上部消化管造影検査では,幽門狭窄と胃角部バリウムの貯留を認めた.腹部超音波検査,腹部CTでは幽門部に充実性腫瘤を認めた.胃潰瘍を伴った胃粘膜下腫瘍による幽門狭窄と診断し,胃切除術を行った.切除標本では幽門部粘膜下に黄白色調の径2cm大の充実性腫瘤と胃角部に潰瘍を認めた.組織学的に粘膜下腫瘤は不規則な腺管構造を有した腺癌であった.胃角部の潰瘍は著名なリンパ管侵襲を伴った中分化腺癌が漿膜下層まで浸潤していた.胃角部の腺癌の壁内転移による幽門狭窄症と診断した.胃癌の壁内転移は稀で,さらに狭窄症状を呈した症例は極めて稀である.その原因は生物学的悪性度の高い癌細胞の著明なリンパ管浸潤による閉塞が考えられた.
  • 松崎 博行, 池田 清信, 高木 睦郎, 劉 孟娟
    2008 年 69 巻 4 号 p. 810-814
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,男性.胸やけ,食思不振を主訴に来院し,胃癌の診断で手術を施行した.切除標本の病理組織学的検索の結果,胃未分化癌と診断された.術後約38カ月を経過した現在も再発,転移の徴候を認めず,外来通院中である.胃癌の大部分は腺癌であり,その他の組織型,特に未分化癌は,稀である.今回われわれは胃未分化癌の1例を経験したので報告する.
  • 的野 吾, 堀内 彦之, 岸本 幸也, 福光 賞真, 吉村 文博, 白水 和雄
    2008 年 69 巻 4 号 p. 815-819
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.腹部大動脈周囲リンパ節を含む多発リンパ節転移を伴う進行胃癌を認め,根治切除困難と考え,5-Fu 500mg+CDDP 10mg/day投与(day1~5,8~12),2週休薬を2コース施行した.さらに,TS-1 120mg/dayを21日間投与とCDDP 40mg/dayをday8,15,22に投与した.原発巣は肉眼所見で潰瘍瘢痕となり,生検では癌細胞は検出されなかった.リンパ節腫大はCT上完全に消失した.奏効度CRと判断し,幽門側胃切除術+リンパ節郭清(D2+No.16のサンプリング)を施行した.術後病理組織学的診断では胃および摘出リンパ節に癌細胞は認められず,組織学的効果判定Grade3と判断した.術後は,TS-1の内服(4週内服2週休薬)を1年行い,現在術後2年経過にて再発の徴候はない.大動脈周囲リンパ節転移陽性進行胃癌に対する術前化学療法が有効で根治手術が可能であった1例を経験したので報告する.
  • 青柳 治彦, 樋口 哲郎, 吉村 哲規, 安野 正道, 有井 滋樹, 杉原 健一
    2008 年 69 巻 4 号 p. 820-823
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は57歳の男性で,食後の嘔吐が続くため近医を受診した.腹部造影CTで十二指腸水平部に壁肥厚像を認め,精査加療目的に当科紹介受診した.小腸造影検査で十二指腸水平部に約3cmにわたる狭窄像を認め,小腸内視鏡検査では同部位に亜全周性の腫瘤を認めた.生検組織診断は中分化腺癌であった.十二指腸水平部原発十二指腸癌の診断で,膵頭十二指腸切除術を施行した.手術では腫瘍の空腸間膜起始部への浸潤が疑われた.切除標本の病理組織学的検査では,1型,4.0×2.5cmの中分化腺癌で,後腹膜脂肪織への浸潤を認めた.また第1空腸動脈根部近くのリンパ節に転移を認めた.術後診断は水平部原発十二指腸癌,T3N1M0StageIIIであった.水平部原発十二指腸癌は原発性十二指腸癌の中でも約15~33%と稀である.
  • 広田 将司, 岩瀬 和裕, 藤井 眞, 島田 和典, 根津 理一郎, 田中 康博
    2008 年 69 巻 4 号 p. 824-828
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.全身倦怠感・黄疸を主訴に入院となった.CT,MRI,ERCPにて,Vater乳頭部の腫瘍性病変による閉塞性黄疸と判断された.術前腫瘍生検で確定診断が得られなかったが,悪性腫瘍の存在を念頭に膵頭十二指腸切除術・リンパ節郭清(D2)を施行した.摘出標本ではVater乳頭部に腫瘍を認め,免疫組織化学的検査にてChromogranin A,Synaptophysin陽性を示し,小細胞癌(内分泌細胞癌)と診断した.Vater乳頭部原発の小細胞癌は稀な疾患である上,疾患概念が整理されて間が無く,症例の解析は今だ不十分な状況にある.根治的切除を行えたVater乳頭部小細胞癌(内分泌細胞癌)の1例を経験したので報告する.
  • 谷口 健次郎, 菅村 健二, 水澤 清昭, 小川 東明
    2008 年 69 巻 4 号 p. 829-832
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は29歳,男性.突然の腹痛を訴え来院した.来院時,腹部全体に圧痛,筋性防御を認めた.腹部単純X線検査ならびに腹部CT検査にて腹腔内遊離ガス像ならびに腹水を認め,消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断にて緊急手術を施行した.Treitz靱帯より約270cm肛門側小腸に約8mm大の穿孔を認め,穿孔部の前後約200cmの小腸の著明な壁肥厚,漿膜の暗赤色変化を認めた.穿孔部と著明な壁肥厚が認められた小腸を約200cm部分切除した.摘出標本では穿孔部周囲の粘膜に異常所見はなく,組織学的にも虚血,慢性炎症,悪性所見は認められず,粘膜の漿膜側へのslidingも認められなかった.以上より特発性小腸穿孔と診断した.
  • 大谷 裕, 国末 浩範, 太田 徹哉, 臼井 由行, 野村 修一
    2008 年 69 巻 4 号 p. 833-837
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.2005年4月に右外鼠径ヘルニアに対しKugel法によるヘルニア根治術が行われている.2007年3月下旬にイレウスの診断で当科外来を紹介受診.右下腹部の手術創部に一致して圧痛を認め,腹部CT検査でも同部に消化管の癒着を疑わせる所見を認めた.癒着性イレウスの診断で緊急入院し,long tubeを挿入して経過観察を行ったが症状が全く改善しなかったため,第3病日に緊急手術を施行した.前回手術創部直下の腹膜に大網が強固に癒着しており,そのために形成された孔に回腸が入り込み絞扼されていた.大網を腹膜から剥離すると腹膜外腔にprosthesis(=Kugel patch)が腹腔側に突出するように存在していた.腹膜を開き,精巣動静脈や精管を巻き込んだこのpatchを除去し,3DMax meshにてHesselbach三角をcoverしてから腹膜を閉鎖し手術を終了した.今日では,様々なタイプのproshesisがヘルニア根治術に使用されており,それに伴う特有の合併症の報告がみられる.しかしKugel法術後にprosthesisが原因で発症したイレウスの本邦報告例は過去に1例しかない.術者は,今回われわれが経験したような術後合併症があることも念頭に置くべきである.
  • 小竹 克博, 永田 博, 黒川 剛, 宮地 正彦, 鈴村 和義, 野浪 敏明
    2008 年 69 巻 4 号 p. 838-840
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は47歳,女性.片頭痛,緊張型頭痛のためindomethacinを内服していた.腹痛と嘔気,嘔吐を主訴に受診.腹部単純X線と腹部CTで小腸閉塞と診断した.保存的治療にて症状改善しないため開腹手術を施行した.手術所見では回盲弁より20cm口側の回腸に硬結を触れ,その部位より口側の小腸は拡張していた.硬結部を含む小腸部分切除術を行った.切除標本では隔膜様の輪状狭窄と輪状潰瘍を認めた.病理組織所見では粘膜固有層から粘膜下層に達する潰瘍の形成を認め,潰瘍底では好中球浸潤を伴う肉芽織の形成を認めた.NSAIDの使用歴があり,NSAID起因性のdiaphragm diseaseと診断した.
  • 緒方 健一, 土居 浩一, 鈴木 俊二, 前田 健晴, 工藤 啓介, 大地 哲史
    2008 年 69 巻 4 号 p. 841-845
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    われわれはMeckel 憩室が茎捻転し,壊死に陥り,イレウス症状を呈した症例を経験したので報告する.症例は6歳,男児.嘔気,腹痛を主訴に当院救急外来に搬送された.来院時,絞扼性イレウスが疑われたため,緊急にて開腹術施行した.開腹所見では,中腹部に茎捻転により壊死に陥った90×60mmの巨大な憩室を認め,回腸末端より約60cm口側に存在していた.この憩室は頸部で時計回りに360°回転し,壊死に陥っていた.この憩室を含めた小腸楔状切除を行った.Meckel憩室自体が頸部で捻転をおこした症例は稀であり,本邦では15例の報告が認められるのみである.これらの憩室はすべて長径6cm以上と大きく,茎が細い特徴があった.本例では憩室が捻転によって壊死に陥り,腹膜刺激症状を呈し,さらにこの巨大な憩室の圧排によってイレウスをおこしたものと考えられた.
  • 立野 太郎, 北薗 正樹, 櫻井 俊秀, 小田代 卓也, 石澤 隆, 夏越 祥次
    2008 年 69 巻 4 号 p. 846-850
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    腹腔内出血による急性腹症で発症し,有茎性管外発育を示した嚢胞状回腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)を経験したので報告する.症例は60歳の男性で,腹部全体の圧痛,筋性防御と血圧低下を認めプレショック状態であり,当院へ搬送された.腹部CTでは右下腹部に10cm大の腫瘤とhigh densityな腹水が中等量認められた.緊急開腹術を行ったところ,腹腔内には約900gの血性腹水と凝血塊を認めた.回腸に有茎性で管外に突出する10cm大の腫瘤を認め,表面の血管の一部が破綻し出血がみられた.肉眼的に巨大な嚢胞状の腫瘍内血腫と考えられた.病理組織学的には嚢胞変性をきたしたGISTであった.腹腔内の嚢胞状腫瘍の鑑別診断に小腸のGISTも念頭に入れる必要があると考えられた.
  • 中右 雅之, 宮下 正, 前田 賢人
    2008 年 69 巻 4 号 p. 851-856
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,女性.2004年11月にS状結癌および同時性肝転移に対し,S状結腸切除,肝部分切除を施行.術後,症状なく経過していたが2005年10月よりCEA値の上昇を認め,胸腹部CT検査,上部下部消化管内視鏡検査,PET-CT検査を施行するも明らかな再発所見を認めなかった.その後もCEA値は上昇し続け,2006年10月頃からイレウスを繰り返すようになった.再度PET-CT検査を施行したところ骨盤内の小腸壁に集積を認め,転移性,または原発性小腸腫瘍の診断で同年11月に開腹手術を行った.回腸内腔に2型で漿膜面に露出する腫瘍を認め小腸部分切除を施行した.病理所見の比較から,S状結腸癌の孤立性小腸転移と診断した.大腸癌の孤立性小腸転移は稀であり,PET-CTを診断に用いた報告は極めて少ない.以上,文献的考察を加え報告する.
  • 島影 尚弘, 長谷川 潤, 岡村 直孝, 田島 健三
    2008 年 69 巻 4 号 p. 857-862
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    虫垂原発の杯細胞型カルチノイド(以下カルチノイド)の報告は多いが,虫垂切除術後の遺残虫垂より発生した報告はない.今回組織学的に検討し遺残虫垂より発生したカルチノイドを経験したので報告する.症例は50歳,男性.30年前に虫垂切除術の既往あり.2000年3月右下腹部痛にて近医を受診し大腸内視鏡検査にて盲腸腫瘍を疑われ当院消化器内科に紹介された.大腸内視鏡検査で虫垂入口部に発赤を伴う粘膜下腫瘍様の病変を認め,3回目の生検で印環細胞癌と診断された.2000年5月肛門指診にてSchnitzler転移を認めたが腸閉塞を回避するため回盲部切除術を行い遺残虫垂より発生したカルチノイドと診断された.5-FU,CDDPによる化学療法を施行したが51カ月後に癌性腹膜炎にて永眠された.
  • 古川 大輔, 堂脇 昌一, 岡本 祐一, 今泉 俊秀, 幕内 博康
    2008 年 69 巻 4 号 p. 863-866
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    Ileosigmoid knotはS状結腸と小腸の間で結節を形成し腸閉塞を起こす疾患で,術前診断は困難とされている1).今回術前診断しえたileosigmoid knotの1例を経験したので報告する.症例は59歳,男性.腹痛を主訴に当院を受診した.来院時腹部は膨隆し腹部全体に圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は認めなかった.腹部CT検査では,左側腹部を中心に拡張した小腸と右側腹部に軸捻転様に拡張したS状結腸を認め,腹水も中等量存在した.小腸とS状結腸がともに関与した絞扼性イレウスであることからileosigmoid knotと診断し,緊急手術を施行した.手術所見ではS状結腸に小腸が絡みつくように結節を形成し,小腸は広範囲にわたり壊死していた.約3mの小腸とともにS状結腸を切除した.腹部CT検査で腸間膜の収束像を中心として,右側に軸捻転様に拡張したS状結腸,左側に拡張した小腸が位置し,さらに腹部単純X線像での遠位下行結腸の正中への偏位は本疾患の重要な所見と考えられた.
  • 桑原 生秀, 長田 真二, 須原 貴志, 徳山 泰治, 天岡 望, 原 明, 古田 智彦
    2008 年 69 巻 4 号 p. 867-871
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,男性.便秘を主訴に受診.精査にてS状結腸に全周性腫瘍と多発性肝腫瘍を確認し,腸閉塞予防の目的で原発巣のみ切除した.摘出標本の病理所見としてはN/C比が大きく核クロマチンの増加した小型細胞の充実性増殖を認め,免疫染色にてChromogranin AとCD56が陽性であることから小細胞癌と診断した.術後肝腫瘍の急激な増大を認め,肺小細胞癌の化学療法に準じてCDDP+CPT-11の投与を施行し一旦は明らかな治療効果を確認しえた.しかし7カ月後に骨盤内腫瘍の出現を認め,CDDP+etoposideへの変更と局所に対する放射線療法を追加し腫瘍は縮小した.その後肝腫瘍の再燃に対し塩酸Amurubicinの使用を経て現在は再度CDDP+CPT-11にて経過観察中である.小細胞癌は予後不良の悪性腫瘍として知られているが消化管原発例は極めて稀で治療内容が未だ確定していない中,quality of lifeを維持しつつ集学的治療を駆使して長期生存を目指している.
  • 伊藤 卓資, 河村 貴, 明松 智俊
    2008 年 69 巻 4 号 p. 872-876
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は40歳,女性.検診にて肝障害と腹部USにより肝腫瘍を指摘され,精査加療目的に入院となった.腹部USにて肝尾状葉の下大静脈前面に中肝静脈と右肝静脈を圧排するような高エコーの腫瘤を認めた.腹部造影CTでは,肝S1からS4に強い濃染像を認めた.腹部血管造影では,S1,S4を中心とする腫瘍濃染を認めた.車軸様血管像は認めなかった.7年間の経口避妊薬服用の既往もあり,肝細胞腺腫(LCA)を疑い肝尾状葉部分切除を施行した.異型細胞はみられず,細胆管の増生が目立つ異常門脈域の像を呈していた.以上より,肝尾状葉限局性結節性過形成(FNH)と診断した.経口避妊薬服用の既往があり車軸様血管像も認めず,LCAとの鑑別が困難であった肝尾状葉のFNHの1例を報告した.
  • 久保 秀文, 北原 正博, 兼清 信介, 多田 耕輔
    2008 年 69 巻 4 号 p. 877-882
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例1は65歳,女性.原因不明の肝硬変で近医にて経過観察されていた.2007年8月見当識障害と羽ばたき振戦を認め受診した.
    症例2は73歳,男性.2004年よりC型肝硬変で経過観察されていた.2007年7月から見当識障害が出現し,腹部US,CT,および腹部血管撮影検査にて肝S2,S6,S8に各々径2cm,1cm,1cmの肝細胞癌(以下,HCC)が診断された.S8のHCCは経皮的ラジオ波焼灼(以下,RFA)療法を施行した.両症例ともに傍臍静脈シャントと門脈血流の低下を認めた.門脈大循環シャントのため血中アンモニア値が上昇したことによる肝性脳症と診断した.症例1は2007年9月開腹下傍臍静脈シャント閉鎖術を施行し,症例2は同年,10月開腹下にS2,S6のHCCへのRFA療法と傍臍静脈シャント閉鎖術を施行した.両症例ともに術後,血中アンモニア値は正常化し,肝性脳症の改善を認めた.画像検査で傍臍静脈シャント消失を確認した.現在まで肝性脳症の再発なく食道静脈瘤や腹水の出現もない.
  • 中崎 隆行, 濱崎 景子, 清水 香里, 進藤 久和, 田村 和貴, 谷口 英樹, 高原 耕
    2008 年 69 巻 4 号 p. 883-885
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,男性.右季肋部痛のため近医受診し,肝腫瘍を指摘され,精査のため当院紹介となった.10年6カ月前に当科で上行結腸癌の診断で結腸右半切除を施行していた.腹部CT検査で肝右葉に15cmの巨大な腫瘍を認めた.転移性肝癌もしくは胆管細胞癌の疑いにて肝右葉切除を行った.病理所見では前回の大腸癌と類似した腺癌で,免疫組織染色ではEMA,CK20,CEAは陽性でCK7は陰性で,大腸,肝とも同一の形質であり,大腸癌の肝転移と診断した.大腸癌術後5年以上経過して,肝転移が出現することは稀である.大腸癌術後10年6カ月後に出現した肝転移の切除例を経験したので文献的考察を加え報告する.
  • 木村 準, 関戸 仁, 澤田 雄, 清水 哲也, 松田 悟郎, 高橋 俊毅
    2008 年 69 巻 4 号 p. 886-890
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,女性.上腹部痛,嘔吐が出現し当院緊急入院となった.上腹部に自発痛,圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は認めなかった.入院時検査所見ではWBC 13,200/μl,CRP 0.2mg/dlと軽度炎症反応を認めるのみで肝機能障害,胆道系酵素の上昇は認めなかった.腹部超音波検査では胆嚢は正中へ偏位し,胆嚢管は描出されなかった.腹部造影CT検査では胆嚢が腹部正中に偏位し,胆嚢壁の造影は認めなかった.以上より胆嚢捻転症と診断し,緊急腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.胆嚢はGrossI型の遊走胆嚢で反時計回りに180度回転しており,胆嚢捻転症による壊疽性胆嚢炎をきたしていた.胆嚢捻転症をきたす症例は遊走胆嚢であり,腹腔鏡下胆嚢摘出術はよい適応であると考えられる.
  • 梶山 潔, 橋本 健吉, 前川 宗一郎
    2008 年 69 巻 4 号 p. 891-895
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,女性.右上腹部痛を主訴に近医受診.急性胆石性胆嚢炎の診断で保存的治療の後当科紹介となった.腫瘍マーカーはCA19-9 114U/mlとやや高値であった.超音波検査では胆嚢体底部の壁肥厚が目立ち,内部に点状の高エコーが散見された.腹部CTでは胆嚢壁は全周性に肥厚し,特に胆嚢底部に限局性壁肥厚と内部の低吸収域を認めた.同部に接する肝実質も遅延性濃染を呈していた.慢性胆嚢炎および肝実質への炎症波及と術前診断したが,胆嚢癌も否定できなかった.術中所見では胆嚢壁は著明に肥厚し横行結腸と強固に癒着していた.結腸浸潤を伴う胆嚢癌も否定できず,拡大胆嚢摘出術および結腸部分切除を行った.最終病理診断は黄色肉芽腫性胆嚢炎であった.胆嚢癌を疑う胆嚢炎手術では本疾患も念頭に置き,術前画像や術中所見を総合的に判断し慎重に術式を選択することが重要であり,同時に十分なインフォームドコンセントも必要であると思われた.
  • 草野 智一, 青木 武士, 安田 大輔, 加藤 正典, 清水 喜徳, 草野 満夫
    2008 年 69 巻 4 号 p. 896-902
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    胆嚢癌はその大部分が腺癌であり,内分泌細胞を起源とする悪性腫瘍は稀である.
    内分泌細胞を起源とする悪性腫瘍は,以前はカルチノイドとして一括に分類されていたが,近年比較的発育が緩徐で予後良好な(古典的)カルチノイドと,発育が早く予後不良な内分泌細胞癌に分類された.この考え方は胃においては確立されつつあるが,胆嚢をはじめ他の臓器では十分に浸透していない.しかし組織学的・生物学的悪性度の違いから予後に大きな違いをきたすため,両者を明確に区別しておくことは重要なことである.
    今回われわれは,胆嚢において内分泌細胞癌と腺癌が併存した,比較的稀な腺内分泌細胞癌の1例を経験したので,その臨床的特徴について若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 中井 肇, 村田 年弘, 上塚 大一, 宇田 征史, 川真田 修, 太田 保
    2008 年 69 巻 4 号 p. 903-907
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    膵未分化癌は比較的稀で,予後不良とされる.今回われわれは,境界明瞭な充実性腫瘍で浸潤傾向に乏しく,しかも著明な膵外発育を示す等,膵未分化癌としては非典型的で,鑑別診断に難渋した1例を経験したので報告する.症例は58歳,女性.2004年8月,婦人科検診を契機に,腹部CT検査にて膵体部腹側に4cm大の辺縁整,境界明瞭な腫瘤を指摘され,精査目的にて当院に入院.MRI,血管造影等,精査施行されるも確定診断は困難で,膵内分泌腫瘍の疑いにて2004年10月初旬,膵体尾部切除術施行.膵外に発育する5.5cm大の硬い充実性腫瘍で,病理所見では腫瘍細胞は紡錘形で明確な分化傾向を示さず,サイトケラチン陽性,ビメンチン陰性で,膵未分化癌と診断された.
  • 木内 亮太, 加藤 岳人, 平松 和洋, 吉原 基, 水谷 哲之
    2008 年 69 巻 4 号 p. 908-912
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    膵尾部癌の膵外局所再発に対する1切除例を報告する.症例は77歳,男性.S状結腸癌および膵尾部癌に対し,2003年8月横行結腸・左腎楔状切除を伴う膵体尾部脾切除およびS状結腸切除術を施行した.病理学的検索で膵は中分化型腺癌で腎実質まで浸潤していた.術後1年2カ月後に血清CA19-9値が上昇し,術後2年5カ月目のComputed Tomography(以下CT)で左腎切除部に膵癌局所再発を認めた.2006年2月左腎,結腸,小腸,胃とともに腫瘤を切除した.病理学的に膵癌の再発が確認された.患者は初回手術から4年1カ月,再手術後19月経過し無再発健在である.膵癌手術において局所再発を避けるため適切な切除範囲を確保することが重要であることと,膵癌における単独局所再発は稀であるが,再切除により生存期間の延長が得られる場合があることが示唆された.
  • 関 崇, 平松 聖史, 伊藤 貴明, 待木 雄一, 櫻川 忠之, 加藤 健司
    2008 年 69 巻 4 号 p. 913-916
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.高血圧症にて内服加療中であった.平成18年3月上旬,近医で白血球増多を指摘されるも精査加療を拒否していた.平成18年9月下旬,腹痛と意識レベルの低下にて当院を受診した.来院時プレショック状態であり,精査にて脾破裂による腹腔内出血と診断,選択的脾動脈塞栓術を施行した.また来院時の血液検査でWBC 155000/μlと白血球増多を認め精査にて骨髄異形成症候群と診断された.術後経過は良好で術後30日目に退院となったが,その後の精査加療は拒否された.平成19年1月中旬,脳出血にて死亡した.血液悪性疾患における特発性脾破裂に対する治療としては脾摘術が一般的であり,われわれが調べえた限りではこれまでに脾動脈塞栓術にて救命したとの本邦報告例はない.文献的考察を加え報告する.
  • 蔵谷 大輔, 前田 好章, 篠原 敏樹, 濱田 朋倫, 内藤 春彦
    2008 年 69 巻 4 号 p. 917-922
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    脾原発の炎症性偽腫瘍は稀であり,1985年以来,本邦では62例が報告されているに過ぎない.今回われわれは,FDG-PETにて集積亢進を認め,脾臓摘出術を施行した脾原発炎症性偽腫瘍の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は70歳,女性.2005年11月,検診の腹部エコーで脾腫瘍を指摘された.2006年1月,当院受診.CT検査にて,脾下極に径約4.5cmの腫瘍を認めたが,経過観察とした.2007年1月腫瘤の増大を認め,FDG-PETにて集積亢進を示し悪性疾患が疑われ同年2月脾臓摘出術施行した.病理組織所見から,炎症性偽腫瘍と診断した.
  • 外浦 功, 一瀬 雅典, 松原 久裕
    2008 年 69 巻 4 号 p. 923-927
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    両側副腎に腫瘤を形成した非Hodgkin B細胞悪性リンパ腫の1切除例を経験したので報告する.症例は72歳,男性.2005年10月に食思不振を主訴に来院した.CT,腹部超音波,MRIで両側副腎に腫瘤(右8cm,左5cm)を認めた.ACTHの上昇と,cortisolの低下があり,副腎機能低下を呈していた.腫瘍径より悪性腫瘍を疑い,開腹にて両側副腎摘出術を行った.病理組織学的検査所見では高度血管増生,血管拡張を認めた.それらの血管内に大型で,類円形の異型リンパ球がつまっている血管内病変が主体であり,非Hodgkin B細胞悪性リンパ腫の1亜型であり,intravascular large B-cell lymphomaの診断であった.術後,化学療法を行い,現在再発を認めず生存中である.副腎原発のintravascular large B-cell lymphomaは極めて稀であり,本邦報告6例目である.
  • 山本 紀彦, 細田 洋平, 門田 和之, 西原 政好, 島田 守, 岡 博史
    2008 年 69 巻 4 号 p. 928-931
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    子宮広間膜ヘルニアは,子宮広間膜に生じた異常裂孔に起因する内ヘルニアであり比較的稀な疾患である.今回イレウス症状で発症した子宮広間膜ヘルニアを腹腔鏡にて修復した1手術例を経験したので報告する.症例46歳,女性.腹痛を主訴に近医受診しイレウスの診断にて当院紹介入院となる.腹部単純X線検査にて限局した小腸の拡張像および鏡面像を認めた.入院時腹部単純CT所見にて骨盤内に拡張した小腸を認め子宮が左側に偏位していた.手術の既往がなくイレウスを繰り返し起こすこと,画像より子宮広間膜ヘルニアと考えられたが,確定診断と治療も含めて腹腔鏡下手術を行うこととした.術前診断では右子宮広間膜ヘルニアと考えられていたが実際には左子宮広間膜後葉の欠損部分に小腸がRichter型に嵌頓していた.嵌頓小腸を還納し欠損部分を縫縮し手術を終了した.術後経過は良好で11日目に軽快退院となった.
  • 池嶋 聡, 倉本 正文, 松尾 彰宣, 田嶋 哲二, 馬場 秀夫, 島田 信也
    2008 年 69 巻 4 号 p. 932-935
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    腹部造影MDCTにて術前診断した右傍十二指腸ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は82歳,女性.上腹部痛と嘔吐を主訴に来院した.腹部造影MDCTにてTreitz靱帯直下から右側へ巨大なヘルニア嚢が認められ,上腸間膜動脈ならびに上行結腸を腹側に圧排するようにほぼ全小腸が嵌入し,嵌頓腸管は造影不良であった.以上より,右傍十二指腸ヘルニアによる絞扼性イレウスの診断で,即日緊急手術を行った.開腹すると術前診断通りmesentericoparietal fossaをヘルニア門とした右傍十二指腸ヘルニアであった.小腸を用手的に整復すると絞扼された回腸の血行改善を認めたため,腸管切除は行わず,ヘルニア門を縫合閉鎖した.術前の腹部造影MDCTにて早期診断し,緊急手術にて腸管切除を回避した.開腹歴のないイレウスでは傍十二指腸ヘルニアを考慮する必要があり,その診断に腹部造影MDCTが極めて有用であると考えられた.
  • 正村 裕紀, 片岡 昭彦, 富岡 伸元, 高橋 典彦, 佐藤 裕二, 藤堂 省
    2008 年 69 巻 4 号 p. 936-940
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    デスモイド腫瘍は稀な軟部腫瘍であり,病理組織学的には良性であるが再発を繰り返し治療に難渋することが多い.今回われわれは腸間膜原発と考えられる腹腔内デスモイド腫瘍の2例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
    症例1は60歳代男性.腹部膨満感を主訴に近医を受診しCTにて腹腔内巨大腫瘍を認め,当院へ紹介された.腸間膜腫瘍の診断で腫瘍摘出,横行結腸合併切除を施行した.病理組織診断で腸間膜原発デスモイド腫瘍であった.
    症例2は50歳代女性.腹部膨満感のため当院産婦人科受診.CTにて骨盤内に腫瘍は存在せず,腸管原発腫瘍疑いで当科に紹介.腹腔内腫瘍の診断で腫瘍摘出,空腸合併切除を施行した.病理組織診断で腸間膜原発デスモイド腫瘍であった.
  • 大石 康介, 鈴木 昌八, 稲葉 圭介, 鈴木 淳司, 坂口 孝宣, 馬場 聡, 今野 弘之
    2008 年 69 巻 4 号 p. 941-945
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    58歳,男性.2004年の他院でのPET健診時,腹部単純CTで膵頭部背側に径15mmの腫瘍の存在を指摘されたが,FDG-PETで集積がなく,経過観察されていた.2006年のPET検診では集積亢進を認め,腹部単純CTで腫瘍径は23mmと増大していた.当院での腹部CTおよびMRIによる精査により,腫瘍は腹腔動脈起始部から総肝動脈にかけて存在する後腹膜腫瘍と診断された.FDG-PET陽性であり,悪性腫瘍の可能性を否定できないため,腫瘍摘出術を施行した.被膜に包まれた単結節性腫瘍の最大径は23mmであり,病理組織学的には腫瘍組織は柵状配列を呈する紡錘形細胞から成り,Antoni A型神経鞘腫と診断された.腫瘍細胞の異型度は弱く,悪性所見はなかった.術中所見から総肝動脈神経叢由来の腫瘍と考えられた.
  • 米山 公康
    2008 年 69 巻 4 号 p. 946-949
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.突然の強い腹痛を主訴として受診した.受診の1カ月前より食欲不振を認めていた.腹部は板状硬で汎発性腹膜炎の状態であった.腹部単純レントゲン写真上腹腔内遊離ガス像を,腹部CTスキャンでは多量の腹水を認め,消化管穿孔の診断で緊急開腹手術を行った.術中所見では混濁した多量の腹水貯留があり,腹腔内には灰白色の小結節が多数散在していた.回腸に結節を触れ径3mmの穿孔部を認めた.盲腸に全周性の腫瘤を触知したため悪性腫瘍の腹膜播種による小腸穿孔と診断し,手術は穿孔部を含む約7cmの小腸部分切除を行った.病理組織検査において小腸漿膜面,腸管壁内および大網に肉芽腫を認め,腹水培養で結核菌が証明され結核性腹膜炎と診断された.結核性腹膜炎に遭遇することは稀となっているが,いまだ無視できない疾患である.
  • 渋谷 均, 佐々木 賢一, 檜垣 長斗, 大野 敬, 久木田 和晴
    2008 年 69 巻 4 号 p. 950-953
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    癌性腹膜炎に伴う腹水貯留は難治性の経過をとることが多く,腹部膨満感による食欲不振,呼吸困難など患者のQOLを著しく低下させる.最近,われわれは4例の癌性腹水患者にDenver peritoneovenous shunt(以下Denver shuntと略す)を施行し,その有用性について検討した.症例は男女各2名,年齢は52~71歳,胃癌1例,大腸癌2例,膵臓癌1例であった.シャント術前後で体重は平均6kg,腹囲は11.7cm減少した.腹水コントロールにより全例に食欲の改善がみられ,またPSは3例に3から2へ,また1例では2から1まで改善した.シャント術施行後死亡までの平均生存期間は73日であった.重篤な合併症であるDICは経験しなかった.癌性腹水に対するDenver shuntは末期癌患者にとってQOLの改善に極めて有用であった.
  • 森 幹人, 神宮 和彦, 望月 亮祐
    2008 年 69 巻 4 号 p. 954-958
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    爪楊枝による消化管穿孔はまれで,術前に診断することは困難だと考えられている.症例は63歳,男性.2007年6月近医より左鼠径ヘルニアの診断にて当科紹介受診.受診後夕方より,左鼠径部腫脹と左下腹部痛が出現,翌日午前に再来院した.左鼠径ヘルニア嵌頓の診断,即日入院となった.胸部単純X線写真でfree air,造影CTで腹腔内の遊離ガス像,左鼠径部に嵌頓したS状結腸とその結腸間膜に炎症所見を認めた.穿孔性腹膜炎を併発したS状結腸嵌頓左鼠径ヘルニアの診断,緊急手術を施行した.術中腹腔内に,嵌頓したS状結腸を貫通したと思われる爪楊枝を認めた.本症例のようにヘルニア嵌頓を契機に爪楊枝による消化管穿孔をきたした例は非常にまれであり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 中田 泰幸, 佐野 渉, 直井 大志, 矢野 健太郎, 鈴木 大, 知久 毅
    2008 年 69 巻 4 号 p. 959-963
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    Direct Kugel patch®による鼠径ヘルニア修復術に対する報告はあるが,Direct Kugel patch®による大腿ヘルニア修復術の報告例はいまだなされていない.われわれは,嵌頓大腿ヘルニアに対して大腿アプローチによる大腿輪切開後,Direct Kugel patch®を用いて容易に大腿ヘルニア修復術を行えたことから報告する.症例1は72歳,女性.数年前より右鼠径部の膨隆を認め,2007年6月,右鼠径部の膨隆改善しなくなり近医受診し,当院紹介受診.来院時,右鼠径部に圧痛を伴う膨隆を認め,精査の結果,右大腿ヘルニア嵌頓の診断.同日,緊急手術施行.症例2は90歳女性.2007年8月,麻痺性イレウスの診断にて内科入院.2日後の腹部CTにて大腿ヘルニア嵌頓を認め,同日,緊急手術施行.2例とも手術は,下方アプローチにより大腿輪を開放し嵌頓を解除.ヘルニア嚢を開放し嵌頓内容物を確認した後,ヘルニア嚢を処理.腹膜前腔を剥離しDirect Kugel patch®挿入による大腿輪修復術を施行した.2例とも術後は,合併症なく退院となった.
  • 徳元 伸行, 青山 博道, 石川 千佳, 平山 信男, 松永 晃直
    2008 年 69 巻 4 号 p. 964-968
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    胃癌,大腸癌,小腸平滑筋腫を合併したvon Recklinghausen病の1例を経験した.症例は73歳,男性.主訴は心窩部不快感.上部消化管内視鏡検査で,胃角部に1型腫瘤を認め,生検で腺癌と診断された.手術時に横行結腸に進行癌,空腸に平滑筋腫を認め,幽門側胃切除兼横行結腸切除兼空腸楔状切除術を施行した.1年半後に下行結腸に早期大腸癌を認め,結腸部分切除術を施行した.R病には神経原性腫瘍をはじめとした非上皮性腫瘍の合併が高頻度とされるが,近年,消化器癌の合併例の報告も散見される.本症例は,R病に胃癌,大腸癌,小腸平滑筋腫を合併した非常に稀有な症例であった.
  • 野中 隆, 柴田 良仁, 黨 和夫, 内藤 愼二, 岡 忠之
    2008 年 69 巻 4 号 p. 969-973
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    患者は66歳,女性.エホバの証人の信者であった.便潜血反応陽性にて当院受診.注腸造影検査,大腸内視鏡検査で上行結腸肝彎曲部に管腔の2/3周を占める2型の腫瘍を認め,病理診断は低分化腺癌であった.上部消化管内視鏡検査で,胃前庭部に0-IIa型の早期胃癌を認め病理診断にて低分化腺癌の診断を得た.早期胃癌,進行結腸癌の同時性重複癌と診断し,十分なインフォームドコンセントのもと腹腔鏡補助下に幽門側胃切除術(D1+β),腹腔鏡補助下に結腸右半切除術(D3)を1期的に施行した.周術期は血液製剤を使用することなく,術後経過は良好で第21病日に退院となった.無輸血手術を希望した患者に対して腹腔鏡補助下手術は総出血量を抑えることができ有用であると考えられたが,不慮の出血時には開腹手術への移行を躊躇しない姿勢が重要である.
  • 斎藤 直康, 船橋 公彦, 小池 淳一, 後藤 友彦, 寺本 龍生, 渋谷 和俊
    2008 年 69 巻 4 号 p. 974-979
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/10/06
    ジャーナル フリー
    患者は64歳,男性.左下腹部腫瘤にて当院を紹介された.既往歴は53歳で直腸癌にて高位前方切除術を施行され,悪性疾患の家族歴は認めなかった.術前の大腸内視鏡検査では,計4箇所の病変を認め,生検ですべて腺癌と診断され,入院時の血清CEA値は425.2ng/mlと異常高値を示した.2005年11月の手術時にTreitz靱帯から15cm肛門側の空腸にも腫瘍を認め,大腸亜全摘術(D3郭清)と空腸部分切除術を施行した.肉眼的所見では上行結腸に2病変(2型,0型-Is),横行結腸に3病変(2型),下行結腸に2病変(2型)の7病変と小腸の1病変(2型)の計8病変を認めた.病理組織学的所見ではいずれも腺癌でリンパ節転移はなく,1病変がmの早期癌,他は全てStage IIの異時性多発大腸癌で原発性小腸癌を伴った多重癌と診断した.術後血清CEA値は正常化したが,術後15カ月目に小腸癌が原発と思われる全身リンパ節転移を認めた.
編集後記
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