日本臨床外科学会雑誌
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69 巻, 7 号
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平成19年度学会賞受賞記念講演
原著
  • 木ノ下 義宏, 宇田川 晴司, 堤 謙二, 上野 正紀, 峯 真司, 江原 一尚, 山口 剛, 松田 正道, 橋本 雅司, 澤田 寿仁
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1558-1564
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    食道アカラシアに対してballoon拡張既往が腹腔鏡的Heller & Dor法(LHD)に及ぼす影響についてretrospectiveに検討した.対象:2003年7月より2006年12月までLHDを25例経験した.このうち初回治療が手術であった症例が15例(初回手術群),balloonによる拡張術の既往があるも効果不十分のため腹腔鏡手術へ移行した症例が10例(拡張既往群)であった.2群間で周術期の合併症,術後の症状,内視鏡所見を比較した.結果:手術時間は拡張既往群が有意に長く(p=0.021),下部食道筋層切開時の粘膜損傷は拡張既往群にのみ3例に認められた(p=0.037).長期的な評価では2群間に差はなく,95%に嚥下時のつかえ感が改善した.拡張既往群の高度食道拡張を伴うSigmoid型1例はつかえ感が改善しなかった.結語:特殊な症例を除き術後長期的経過観察で両群ともつかえ感の改善がみられるが,拡張既往例の食道筋層切開は粘膜損傷を起こす可能性があるので,初回治療はLHDが望ましい.
  • 田村 淳, 北口 和彦, 崎久保 守人, 上村 良, 大江 秀明, 吉川 明, 石上 俊一, 馬場 信雄, 小川 博暉, 坂梨 四郎
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1565-1572
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    当院外科入院患者において,腸炎症状を発症した症例に偽膜性腸炎またはMRSA腸炎を疑ってバンコマイシンの経口投与を行ったのでその投与状況と効果について検討した.2001年1月から2005年4月までの外科入院患者4867例のうちバンコマイシンの経口投与を受けた症例は41例で,約9割が手術症例であった.その内訳はCD抗原陽性で偽膜性腸炎と診断された症例が10例,便培養検査にてMRSA腸炎と診断された症例が10例,これらを疑ってバンコマイシンを投与したが検査結果により否定された症例が21例で,臨床症状からの正診率は49%であった.治療により全例において症状は軽快し,腸炎による死亡例は認められなかった.腸炎発症前に投与された抗菌薬をセフェム系とカルバペネム系に分けて検討すると,後者の方が腸炎発症リスクが高いと考えられた.手術部位別の比較では,MRSA腸炎は上部消化管手術後に多く発症する傾向がみられた.バンコマイシンはこれらの腸炎の標準的治療薬であるが,腸内細菌叢を攪乱することによりVRE等の新たな耐性菌感染症の発症リスクとなるため,適正な投与基準を設ける必要があると思われる.
  • 佐藤 勉, 永野 靖彦, 松尾 憲一, 金澤 周, 諏訪 宏和, 中嶌 雅之, 山本 晴美, 山本 直人, 藤井 正一, 國崎 主税, 今田 ...
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1573-1577
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    目的:腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC)に対し2004年より導入した在院期間を3泊4日に短縮したクリニカルパス(CP)と導入前の6泊7日CPと比較し,前者の有用性について検討した.対象・方法:対象は97例.CP変更前の2003年1月~2004年6月をA群(6泊7日:42例),CP変更後の2004年7月~2006年5月をB群(3泊4日:55例)としてバリアンス分析,および再入院率,医療費を検討した.結果:バリアンス発生率(A群:19.0%,B群:21.8%)はA群,B群間で有意差を認めなかった.退院後30日以内の予定外外来受診症例はA群,B群共に1例づつに認め,再入院症例は両群共に認めなかった.平均総医療費は,B群(491,003円)はA群(575,507円)と比較して有意に低く,平均1日単価は,B群(157,466円)がA群(95,603円)と比較し有意に高かった(P<0.05).結語:LCにおいて3泊4日CPは6泊7日CPに比べ,バリアンス発生率・再入院率に差はなかった.在院期間を短縮しても安全に運用でき,医療経済面でも有用であった.
  • 村田 暁彦, 小山 基, 木村 寛, 西村 顕正, 久保 寛仁, 佐々木 睦男
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1578-1584
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    骨盤内悪性腫瘍が隣接臓器に浸潤することはしばしば経験させられ,根治目的に合併切除を余儀なくされることも多い.特に,広範囲膀胱浸潤症例においては,膀胱全摘あるいは骨盤内臓全摘術が施行され,排尿機能の廃絶により,術後のQOLは著しく損なわれる.これまでに膀胱合併切除を施行されたのは51例である.そのうち,膀胱を広範囲に切除した膀胱浸潤大腸癌8例,卵巣癌・子宮肉腫各1例の計10例に対し,膀胱拡大術を施行した.再建には回腸有茎open flapを用い,Goodwin法にて膀胱形成を行った.術後1カ月から1年で膀胱容量の増加を認め,膀胱内圧測定でも,コンプライアンスの高い低圧の蓄尿が可能であった.合併症は2例に結石形成を認めた.遠隔成績でも,骨盤内臓全摘および膀胱全摘例との比較で有意な差を認めなかった.本術式は,根治性および機能的にも優れた術式と思われた.
  • 田中 俊一, 島山 俊夫, 増田 好成, 麻田 貴志, 岩砂 里美, 江藤 忠明, 千々岩 一男
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1585-1589
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    はじめに:当科で経験した腹部外科手術症例について,年齢別,緊急・待期手術別,併存疾患別に術後合併症発生率と術後30日以内死亡率を検討し,90歳以上の高齢者の手術における問題点を検討した.対象:2003年4月から2006年3月までの3年間に腹部手術を行った1,534例を対象とし,うち80歳代が240例,90歳以上の超高齢者は52例であった.結果:90歳以上の超高齢者群では,90歳未満群と比べて女性が多く,併存疾患を有する率も高率で,術後合併症発生率は44%と90歳未満の20%と比べ有意に高値であった.90歳以上の超高齢者群における術後死亡率は9.6%と,79歳以下と80~89歳の2群の死亡率と比較して高値を示し,待期・緊急手術両方とも90歳以上の超高齢者群で有意に高率であった.特に,術前併存疾患がある場合と術後合併症発生例において,超高齢者群で術後死亡率が有意に高かった.多変量解析で超高齢者の術後死亡に影響する有意な要因は,術後呼吸器合併症であった.考察:90歳以上の超高齢者の手術で,術前併存疾患を伴う症例や術後合併症を伴う症例では術後死亡率が高く,慎重な手術適応と術後管理を要するものと考えられた.
症例
  • 黒田 武志, 小山 隆司, 大石 達郎, 北出 貴嗣, 梅木 雅彦, 栗栖 茂
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1590-1594
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.BMI28.6%.主訴は心窩部痛であった.腹部エコー,CTでは腹部大動脈,下大静脈腹側に最大径9cmの腫瘤を認めた.開腹下にincisional biopsyを施行した.手術時間92分,出血量50g.病理結果では悪性リンパ腫の診断であった.術直後まで間欠的空気圧迫法(IPC)を施行した.術後1日目に立位保持し,2日目には歩行も問題なく行えた.術後4日目の離床時に呼吸困難,意識消失,血圧低下を認めた.エコー検査では右心室の拡張と両ひらめ静脈内の血栓を認め,胸部CTでは肺動脈左右分岐部に陰影欠損像を認めた.t-PA,heparinの投与を開始し,全身状態は改善し術後10日目のCTでは左肺動脈に小塞栓を認めるのみとなった.自験例は静脈血栓塞栓症予防ガイドラインでのリスクレベルは中でありIPCを施行したが,巨大な悪性腫瘍による下大静脈圧迫や血流うっ滞等の付加的危険因子を考慮した予防法をとる必要があったと考えられた.
  • 鍋山 健太郎, 和田 義人, 齊藤 信明, 宮崎 亮
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1595-1600
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    両側腋窩副乳と乳腺Pseudoangiomatous stromal hyperplasia(PASH)の1例を経験したので報告する.症例は45歳,女性.両側乳房と左腋窩の腫大,発赤を主訴で受診した.両側乳房は腫大し左腋窩腫瘤を認めた.胸部CT検査にて両側乳腺はびまん性に腫大し,左腋窩に約10cmの軟部腫瘤を認めた.診断目的で左腋窩腫瘤摘出術を行った.腋窩副乳PASHの診断であった.その後両側乳腺はさらに腫大しかつ左右腋窩腫瘤も出現したため両側単純乳房切除術左右腋窩腫瘤摘出術を行った.HE染色では乳腺間質内にスリット状,血管様の間隙を認め,その間隙内面は,一層の紡錘形細胞に覆われていた.免疫組織学的染色では,間隙内の紡錘形細胞はCD34に陽性,第8因子関連抗原に陰性であった.以上より両側腋窩副乳,乳腺PASHと診断した.今回,自験例に若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 野村 真治, 岡崎 嘉一, 藤井 雅和, 秋山 紀雄, 友澤 尚文, 森重 一郎
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1601-1605
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    50歳,女性.平成10年に右乳癌に対し乳房温存手術(C領域,Bp+Ax,T2N0M0,StageI,Scirrhous carcinoma).術後放射線照射を計50Gy施行.
    術後6年5カ月目より右乳房A領域に発赤,硬結を認め楔状切除生検を施行.病理組織検査の結果,血管肉腫と診断された.断端陽性の可能性があり,追加切除術+植皮術を施行した.追加切除標本では肉腫の残存は認めなかったが,さらに2年後に再発したため,乳房切除術+広範囲皮膚全層切除術+植皮術を施行した.
    放射線照射後皮膚血管肉腫は放射線治療後の0.03~0.8%に発生する稀な疾患である.早期に遠隔転移をきたし,予後不良である.標準治療法は確立されておらず,早期発見と広範囲切除が予後の改善につながると考えられている.
    乳癌に対する温存術後乳房に発生した放射線照射後皮膚血管肉腫という稀な疾患を経験したので報告する.
  • 武藤 潤, 敷島 裕之, 京極 典憲, 中久保 善敬, 宮坂 祐司, 金子 敏文
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1606-1610
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.2003年頃より左胸のしこりを認めた.次第に増大するため2007年3月当科受診.受診時の身体所見では左E領域を中心に径4cm大,境界明瞭平滑,ほぼ球形の腫瘤を触れた.腋窩リンパ節は触知しなかった.穿刺細胞診ではCLASSIII,乳頭状病変:Intraductal papilloma疑いの診断であった.2007年4月左乳房切除術施行.病理組織診にて,CK5/6,p63,CD10,CK14,SMAは増殖細胞に陰性,SYN,CGA,CD56は陰性,ERびまん性陽性,S-100Pは極少数散在性に陽性核を認めた.34βE12は腫瘍細胞内にモザイク状陽性.MIB1染色では増殖活性は強めであった.以上よりNoninvasive ductal carcinoma of male breastと診断した.男子乳癌は少なくその中でも非浸潤癌は稀であり,若干の文献的考察をふまえ報告する.
  • 山口 敏之, 花村 徹, 高田 学, 小松 信男, 橋本 晋一, 小山 正道
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1611-1614
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.39歳時,左乳房のしこりに気付き外来受診.生検により乳癌と診断され胸筋合併乳房切除術(Br+Mj+Mn+Ax)を受けた.病理学的にはScirrhous carcinoma,T1cn0M0 StageIであった.術後8年間の外来通院後診察は中断されていたが,術後12年目(51歳時)に久しぶりに外来受診したところ右乳頭直下に腫瘤が触知され穿刺吸引細胞診によりclassVと診断され,胸筋温存乳房切除術(Br+Ax)を受けた.病理学的にはSolid-tubular carcinoma,T1bn0M0 StageI,ER(+),PgR(+)であった.第1回目の手術から27年,第2回目の手術から15年経過した現在(66歳)も再発の徴候は認めていない.
  • 吉田 亮介, 木下 貴之, 北條 隆
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1615-1619
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    1999年から2007年の9年間における破骨細胞様巨細胞(OCGC)の出現を伴う乳癌(OCGC乳癌)の自験例につき臨床病理学的,免疫組織化学的特徴を検討した.OCGC乳癌は9症例であり,全乳癌における頻度は0.3%であった.臨床病期はStageI:4例,StageIIA:3例,StageIIB:2例であった.最大腫瘍径は1.5cm─6.0cm(平均3.1cm),リンパ節転移を4例(44%)に認めた.腫瘍組織型は全例浸潤性乳管癌,組織学的異型度は全例grade2であった.estrogen receptorは5例(56%),progesteron receptorは6例(67%)で陽性,HER2は7例で検討し,1例(14%)で陽性であった.予後は原病死1例を認めた以外は無再発生存中(平均観察期間4年10カ月)である.OCGC乳癌は臨床病期,組織学的異型度,リンパ節転移,ホルモン受容体発現状況等から悪性度は中等度,あるいは比較的良好の可能性があることが示唆された.
  • 福田 直人, 渋谷 健太郎, 丸野 要, 杉山 保幸, 水口 國雄, 村田 宣夫
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1620-1624
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は83歳,女性.45歳時に左乳癌の診断にて胸筋合併乳房切除術+両側卵巣切除術を受けている.左頸部腫瘤を主訴に当院皮膚科受診.左鎖骨上に3×4cm大のhard tumorを認め,皮膚浸潤を伴っていた.同部の皮膚生検よりびまん性に浸潤する腫瘍細胞を認め,免疫組織化学染色にてCEA,サイトケラチン,エストロゲンレセプター,プロゲステロンレセプターとも陽性であった.また腫瘍マーカーもCEA 6.9ng/ml,NCC-ST-439 490.2U/mlと上昇していたため,乳癌の晩期再発と診断された.治療はホルモン療法としてanastrozoleの投与を開始し,7カ月後に腫瘍の消失を認め,さらに8カ月以上CRを維持している.文献的に検索しえた限りでは,本例は本邦で最も遅い晩期再発乳癌症例であると考えられた.
  • 篠嵜 秀博, 森廣 雅人, 中野 茂治, 杉原 志朗, 福田 淳
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1625-1628
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.68歳時に左乳癌に対して乳房部分切除および腋窩リンパ節郭清を施行された(Invasive ductal Carcinoma,ER(-),PgR(-),Her2 3+).乳癌は化学療法等にてコントロールされていたが外来フォロー中に腹部CT検査で膵尾部の腫瘤を指摘された.検査所見上は原発性膵癌が疑われ膵尾部切除施行したが,術後の免疫組織染色でGCDFP-15は陰性であったもののER(-),PgR(-),Her2 3+と,以前の乳癌の結果と一致し,また病理組織所見は非常に酷似していたため乳癌の孤立性膵転移であると診断した.乳癌の孤立性の膵転移は非常に稀であるが診療に当たり念頭に置くべきものであること,また,乳癌の他臓器転移症例に関しては化学療法の奏効率が高い癌種であることから通常は化学療法が第一選択とすべきではあるが,膵転移に関しては症例により外科的切除も視野に入れ総合的に判断して治療を進めていく必要があると考えられた.
  • 畝 大, 杭ノ瀬 昌彦, 山澤 隆彦, 清田 正之, 飯田 淳義
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1629-1632
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    低肺機能,カテーテル閉鎖術不成功であった高齢者心房中隔欠損症に対して剣状突起下アプローチによる低侵襲手術にて閉鎖し良好な術後経過を得たためここに報告する.
    症例は78歳,女性.心雑音を契機に心エコーにて心房中隔欠損症(2次孔欠損型17mm)と診断され,労作時呼吸苦を認めた.第1選択として他院にてカテーテル閉鎖治療を試みられるも左房前後径が小さくカテーテル閉鎖不可能であった.漏斗胸であり術前より拘束性肺障害(%努力性肺活量37%)を認めたため肺機能に影響の最も少ない剣状突起下アプローチにより心房中隔欠損を閉鎖した.術直後2日間は非侵襲的人工呼吸管理(noninvasive positive pressure ventilation:NPPV)にて呼吸補助を必要としたが,以後の術後経過は良好であった.
  • 安部 智之, 中塚 昭男, 出雲 明彦, 鮎川 勝彦
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1633-1637
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    72歳,男性.既往歴にアルコール依存症があり,同疾患にて近医で入院加療中であった.自宅外泊中に,彫刻刃で自らの左前胸部を20数箇所刺し,近医受診した.胸部CTにて前縦隔血腫と左血胸があったため,当院救命センター搬送となった.CTにて,造影剤の血管外漏出像は無かったが,左血胸の増大があり,緊急血管造影となった.左内胸動脈や左肋間動脈からの出血は無く,出血源は不明であった.受傷部位に相当する第2~4肋間動脈をスポンゼルにて塞栓した.左血胸に対しては,胸腔ドレナージ術を施行した.受傷後7日目の単純CTにて,前縦隔血腫と左血胸の増大ないことを確認し,10日目に転院となった.18日目に呼吸苦を訴え,当院を再受診し,胸部造影CTで左内胸動脈に約5cmの仮性動脈瘤と左胸水の増加を認めた.緊急血管造影を行い,仮性動脈瘤の近位と遠位側にコイル塞栓術を施行した.コイル塞栓術後11日目のCTにて異常無く,前医へ転院となった.
  • 蜂須賀 康己, 魚本 昌志
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1638-1642
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性.2007年6月,交通事故による左下腿骨粉砕骨折,腰椎圧迫骨折,両側肋骨骨折にて当院整形外科に入院した.受傷後1日目に呼吸苦を訴え,CTにて左大量胸水を認めた.呼吸器外科にて胸腔ドレナージを施行し,血性胸水の流出を認めた.受傷後2日目に牛乳を飲んだ後,ドレーン排液が白濁した.排液中のtriglyceride(TG)は333mg/dl(血清TG 107mg/dl)と高値であった.同日の造影CTにて,左第1肋骨骨折部位での鎖骨下動脈の圧排を認めた.以上の所見から,胸管損傷による外傷性乳び胸と診断し,絶食の上,酢酸オクトレオチド150μg/dayの皮下注による投与を5日間行った.受傷後5日目にドレーン排液は黄色透明となり,受傷後10日目に胸腔ドレーンを抜去した.われわれが検索しえた限り,鈍的外傷による乳び胸に酢酸オクトレオチドが有効であったとする報告例は,自験例が本邦初である.
  • 新明 卓夫, 森田 克彦, 望月 篤, 栗本 典昭, 長田 博昭, 中村 治彦
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1643-1646
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    38歳,男性.11年前に気管支壁発生神経鞘腫にて後側方切開,第5肋間開胸で,中間幹環状切除,肋間筋弁による吻合部被覆術を行った.2006年10月頃から微熱と前回の術創部に一致した疼痛を自覚,胸部CTで肋骨融解像を伴う胸壁の腫瘤様陰影を認めた.同部位に対するCTガイド下経皮針生検では肉芽腫と診断されたが,後日,深部の穿刺液から黄色ブドウ球菌を検出した.胸壁膿瘍と診断したが胸壁腫瘍も完全には否定出来ず,2007年2月手術を施行した.右第6肋骨床に沿う膿瘍形成があり胸腔とは交通がなく,術創の晩期膿瘍と最終診断し,掻爬・ドレナージを行い治癒せしめた.悪性腫瘍との鑑別が困難な胸壁膿瘍の報告は少なくないが術後11年を経た晩期創部感染は過去に報告はない.病因論的観点から若干の考察を加え報告する.
  • 松田 英祐, 岡部 和倫, 八木 隆治, 平澤 克敏, 杉 和郎
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1647-1650
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,女性.既往歴に特筆事項なく健常者であった.2007年3月に発熱あり,近医にて肺炎として加療され軽快した.同年4月,再度発熱を生じ前医に入院となった.胸部CTにて中縦隔に嚢胞様の腫瘤を認め,CRPも22.3mg/mlと上昇しており,当院へ紹介となった.入院時検査所見で高度の炎症反応と,胸部CTで大動脈基部右側に約4cm大の辺縁がリング状に造影される腫瘤を認めた.縦隔膿瘍を疑い,胸腔鏡下縦隔ドレナージ術を行った.排液の培養検査でNocardia asteroidesを認め肺ノカルジア症と診断した.術後にミノマイシンとST合剤の投与を6カ月間行うこととし,軽快退院した.6カ月後の現在,再燃を認めない.肺ノカルジア症は一般にcompromized hostに発症するが,健常者にも発症することがある.本症は治療が遅れ他臓器に播種した場合,予後が著しく不良であり注意を要する.
  • 伊藤 博道, 加藤 昭紀, 野崎 礼史, 淀縄 聡, 小川 功
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1651-1654
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.咳嗽・右鼠径部膨隆を主訴に来院.右鼠径ヘルニアの診断にて根治術施行時に認めた腹水の細胞診から非小細胞癌が検出され,癌性腹膜炎と判明した.精査にて左肺を原発とするStageIVの非小細胞肺癌と診断された.カルボプラチンおよびパクリタキセルの化学療法を1コース施行し,原発巣は縮小したが,11日目から腹痛が出現し腹部X線にてfree airを認め,消化管穿孔による汎発性腹膜炎を疑い同日開腹手術を施行した.上部空腸にφ3×2cm大の転移巣を認め,その中心が壊死・穿孔していた.他にも3箇所小腸転移巣を認め,その転移巣も含めた小腸部分切除術を施行した.術後に化学療法再開予定であったが,肺病変の進行により全身状態が増悪して18病日に死亡した.肺癌の小腸転移例はしばしば認められるが穿孔例は少ない.腹腔内転移を伴う肺癌の治療中は,消化管穿孔の可能性を念頭において慎重に経過観察する必要がある.
  • 今井 健一郎, 新井田 達雄, 鬼澤 俊輔, 曽根 康之
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1655-1657
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は46歳,女性.検診の胸部X線検査で,左横隔膜付近の針状陰影を指摘された.胸部CT検査では,左胸壁に2cm長,左横隔膜内に4cmの針状陰影を認めた.伏針の診断で,全身麻酔下で摘出術を行った.左胸壁の伏針は皮下に留まっており,透視下に摘出した.横隔膜内の伏針に対しては,剣状突起縦切によるアプローチで,透視下に摘出した.摘出標本は1本の裁縫針で,左胸壁から侵入し,体内で折針して横隔膜内に進んだと推察された.
  • 佐藤 雄亮, 本山 悟, 丸山 起誉幸, 林 香織, 宇佐美 修悦, 小川 純一
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1658-1662
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は20代の男性,統合失調症.2006年末,自殺企図でサンポール(トイレ用洗浄剤,9.5%塩酸)およびハミング(衣類用柔軟仕上げ剤,界面活性剤)を内服し近医に救急搬送された.入院時に嘔吐と嗄声を認めた.上部消化管内視鏡検査にてGrade2bの所見を咽頭喉頭,食道,胃に認めたが,ICU入室し保存的治療で急性期を乗り切った.希死念慮が強く,精神科転科し精神面の治療を行った後,空腸瘻を造設,全身状態の改善と精神状態の安定を待って,両親の住む地元に転院し,経腸栄養管理を継続した.幸い食道狭窄は軽度であり,徐々に改善したため拡張術や手術は必要としなかった.経口摂取と経腸栄養により十分な栄養摂取が可能であったが統合失調症の治療に時間を費やし第154病日に退院した.受傷後15カ月では消化器症状を認めていない.空腸瘻造設は低侵襲手術であり,受傷後早期から有用と考えられた.
  • 河野 恵美子, 京極 高久, 奥野 敏隆, 高峰 義和, 林 雅造
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1663-1667
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,女性.急性胆嚢炎の疑いで他院より紹介受診した.当院腹部CTにて後腹膜気腫像を認め,十二指腸穿孔・後腹膜膿瘍の診断で緊急手術を施行した.十二指腸下行脚内側に直径2cm大の壊死に陥っている嚢胞性病変を認め,嚢胞壁切開とドレナージ術を施行し,手術を終了した.十二指腸憩室穿孔の可能性を考えたが,画像で証明できず確定診断には至らなかった.術後のドレーンからの造影で,術中には証明できなかった十二指腸憩室と十二指腸が描出され,十二指腸憩室穿孔であることが判明した.診断に苦慮したものの,ドレナージ術で治癒した十二指腸傍乳頭憩室穿孔の1例を経験したので報告する.
  • 池田 博斉, 河本 和幸, 朴 泰範, 吉田 泰夫, 伊藤 雅, 小笠原 敬三
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1668-1672
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,女性.29歳時にvon Recklinghausen病(VRD)と診断されている.血液検査で肝胆道系酵素の上昇を指摘され当院を受診した.上部消化管内視鏡検査にて十二指腸乳頭に不整形の隆起性病変を認め,生検の結果カルチノイドと診断され,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.十二指腸乳頭に30×25mm大の腫瘤を認めた以外に十二指腸壁に5個の壁在結節を認めた.病理組織検査にて十二指腸乳頭の腫瘤はソマトスタチン産生型のカルチノイド,壁在結節はいずれもGISTと診断された.#17aのリンパ節2個にカルチノイドの転移を認めたが,術後4年の時点で転移再発は認めていない.VRDにおいては神経線維腫や神経原性腫瘍以外にさまざまな非神経原性腫瘍を合併しうることが報告されており,VRD患者の診療に当たっては消化管病変の合併の可能性に関して常に留意しておく必要があると考えられた.
  • 河野 洋平, 衛藤 剛, 安田 一弘, 猪股 雅史, 白石 憲男, 北野 正剛
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1673-1677
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,男性.主訴は体重減少.半年間で15kgの体重減少を認めたため,当院受診.上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部に2型の腫瘍を認め,生検でGroupV(印環細胞癌)と診断された.CT検査では十二指腸球部の壁肥厚を認めるものの,明らかな肝転移,リンパ節転移,腹水は認めなかった.手術は十二指腸球部を含む幽門側胃切除術および2群リンパ節郭清を行った.病理診断は低分化腺癌,se,ly2,v1,n+(No.1)であった.今回,稀な十二指腸低分化腺癌を経験したので,本邦報告例の検討から明らかになった臨床病理学的特徴とともに,報告する.
  • 石黒 要, 伴登 宏行, 小竹 優範, 山田 哲司
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1678-1682
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    消化管はアミロイドの沈着好発部位の1つであるが,穿孔をきたすことは稀である.今回透析アミロイドーシスによる小腸穿孔の1例を経験した.患者は68歳の女性で,30年前より血液透析を受けていた.発熱を主訴に当院を受診した.精査の結果,消化管穿孔,汎発性腹膜炎と診断され,手術を行った.回盲部から20cm口側の回腸が壊死しており,回腸瘻造設術を施行した.病理組織学的検査にて透析アミロイドーシスによる回腸壊死と診断された.術後,集中的な治療により救命しえた.10年を経過した血液透析患者は,透析アミロイドーシスによる消化管穿孔のリスクファクターであることを再認識する必要があると考えられた.
  • 亀井 奈津子, 櫻井 丈, 片山 真史, 須田 直史, 月川 賢, 大坪 毅人
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1683-1686
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,男性.嘔気と次第に増強する腹痛を主訴に近医を受診し,絞扼性イレウスと診断され,当院へ搬送された.来院時,意識清明であったが,腹部全体が膨隆し左側腹部に圧痛を認めた.腹部CT検査で,肝周囲から膀胱直腸窩にかけて多量の腹水を認めた.また,上腸間膜動脈を中心に腸間膜が約180度回転しており,絞扼性イレウスと診断し,同日緊急手術を行った.開腹時,約1,000mlの乳糜様腹水を認め,上腸間膜動脈を軸に時計軸方向に約180度捻転していた.小腸はやや紫色に変色し,小腸腸間膜内に乳糜様の液体貯留を認めた.捻転解除後速やかに小腸の色調は改善し,腸間膜内の乳糜様液体貯留も改善した.術後経過は良好で第10病日に退院した.
  • 松原 毅, 田原 英樹
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1687-1690
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは開腹歴のない大網,横行結腸間膜による小腸絞扼性イレウスの1例を経験したので報告する.症例は開腹歴,外傷歴のない88歳,男性で突然の胆汁性嘔吐を認めた.精査の結果,内ヘルニア他による小腸絞扼性イレウスが疑われ腹腔鏡下手術施行した.腹腔内は大網の癒着を認め,大網が横行結腸間膜後葉に癒着することにより形成されたループに小腸が陥入し絞扼され,腹腔鏡下に絞扼を解除し,腸管の血流が良好なことを確認し手術を終了した.腹腔鏡は診断的価値が高く,開腹移行の際にも開腹位置や創の大きさの決定に有用であると考えられる.絞扼を解除し嵌頓した腸管を還納および全腸管を観察することは腹腔鏡下に可能であり,全身状態の良好な症例においては小腸が温存される可能性が高く良い適応と考えられた.
  • 荒居 琢磨, 松下 明正, 久保 周, 熊木 俊成, 春日 好雄, 上原 剛
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1691-1696
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    原発性非特異性小腸潰瘍は比較的稀とされる.今回,われわれは穿孔性腹膜炎をきたした多発した原発性非特異性小腸潰瘍の1例を経験したので報告する.症例は81歳,女性.主訴は上腹部痛.2005年3月初旬に急な上腹部痛を訴え来院した.腹部単純X線検査にて右横隔膜下に遊離ガス像を認めたため,穿孔性腹膜炎の診断にて同日緊急手術を施行した.Treitz靱帯より180cm肛門側の小腸に変形・狭窄を認め,同部位の小腸間膜付着部対側に,3mm大の穿孔を認めた.その他,Treitz靱帯より250cm,320cm肛門側にもそれぞれ潰瘍による変形・狭窄があり,小腸部分切除術が施行された.切除標本では境界明瞭な下掘れ傾向を示す潰瘍を認めた.臨床経過および病理組織学的所見で特異的炎症および腫瘍性病変を疑う所見はなく,原発性非特異性小腸潰瘍と診断した.本症例は,潰瘍がいずれも等間隔に小腸間膜付着部対側に発生しており,微小循環不全の関与が示唆された.
  • 磯辺 太郎, 松本 敦, 青柳 成明, 白水 和雄
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1697-1700
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性.主訴は労作時動悸・胸痛.上下部消化管内視鏡検査,出血シンチ,CTにて異常を認めず,小腸内視鏡検査にて口角より約270cmの空腸に径約20mmの可動性のある易出血性の有茎性隆起病変を認めた.細胞診の結果は肉芽組織と炎症細胞を認めるのみであった.診断・治療のため小腸部分切除を施行.病理組織学的には表面にびらんがあり,浮腫状の間質中に大小の血管増生を認め,一部では分葉状に血管増生がみられpyogenic granuloma(化膿性肉芽腫)と診断した.本疾患の口腔粘膜以外の消化管発生の報告は極めて稀であり,消化管全体の本邦報告例は29例でそのうち空腸発症例は自験例を含め3例のみであった.大量下血例,再発例も報告されており,完全切除と経過観察が必要で,原因不明の消化管出血においては本疾患も念頭に置いておくべきと考える.
  • 中嶌 雅之, 牧野 洋知, 永野 靖彦, 藤井 正一, 國崎 主税, 嶋田 紘
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1701-1706
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,男性.平成16年より黒色便を自覚し,上部・下部消化管内視鏡検査を施行されたが病変は指摘されなかった.その後も黒色便が持続していたため,平成18年12月,CT検査を施行した.骨盤内に10cm大のiso densityな腫瘤性病変を認めた.小腸腫瘍の診断で切除術の予定であったが,平成19年1月,嘔吐と腹部膨満感が出現し腹部単純X線写真で鏡面形成を認めたことから小腸腫瘍による腸閉塞と診断しイレウス管挿入した.しかし症状の改善を認めないため緊急手術を施行した.腫瘍はTreitz靱帯から270cm肛門側,回盲弁より240cm口側の回腸に存在し,同部位で回腸が時計周りに180°回転していた.小腸軸捻転症による腸閉塞と術前診断し腫瘍摘出術,回腸部分切除術を施行した.病理組織学的に中悪性度の回腸GISTと診断された.回腸GISTに起因する続発性小腸捻転症について文献的考察を加え報告した.
  • 北岡 昭宏, 大塚 一雄, 岩田 辰吾, 枡本 博文, 加藤 仁司
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1707-1711
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    非常に稀な早期虫垂多発癌の1例を経験した.症例は32歳女性で,右下腹部痛を主訴に当科紹介受診し,精査加療目的にて入院した.身体所見では右下腹部に圧痛を伴う腫瘤が触知され,血液検査で高度貧血が認められた.腹部CT,腹部MRIおよび注腸検査では盲腸腫瘍が疑われたが,大腸内視鏡検査では虫垂腫瘍の盲腸への脱出が考えられた.さらに腹部超音波検査では末梢虫垂に別の腫瘍の存在が強く疑われた.盲腸へ脱出する病巣は生検にて絨毛状腺腫と診断され,D3郭清を伴う右結腸切除術を施行した.切除標本では虫垂中枢側に生じ盲腸へ脱出する腫瘍の他,虫垂末梢側に別の腫瘍が認められた.病理組織学的検査で両者とも早期高分化型腺癌とされて,極めて稀な早期虫垂多発癌の1例と判明した.
  • 門口 幸彦, 野浦 素
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1712-1716
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は44歳,男性.左鼠径部の腫脹を主訴として入院になり,左鼠径部に膿瘍を形成した.膿瘍の切開により糞便の排出があり,この部分に瘻孔を形成した.検査の結果,大腸憩室炎による下行結腸皮膚瘻であった.横行結腸人工肛門を造設し保存的に瘻孔の閉鎖をはかったが瘻孔は閉鎖せず,3期的に結腸切除術を行うことにより治癒した.切除された腸管には瘻孔が形成されており,腸管壁は肥厚し内腔狭窄を起していた.大腸憩室炎による結腸皮膚瘻は非常に稀な疾患であり,若干の文献的考察を加えてここに報告する.
  • 東風 貢, 山家 広子, 海賀 照夫, 大久保 力, 藤井 雅志, 高山 忠利
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1717-1720
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,男性.下腹部痛とタール便を主訴に2004年1月初診.大腸内視鏡検査にて横行結腸にType2腫瘍を認め,病理組織学的にGroupV,横行結腸癌と診断された.腹部CTにて肝転移,リンパ節転移は認めないが右腎盂に水腎症を伴う腫瘍を認め,泌尿器科的精査にて右腎盂癌と診断され同時性重複癌の診断に至った.開腹による大腸癌,腎盂癌同時切除の治療方針で術前検査を開始したが,以後5カ月間通院せず,その間投薬および抗癌剤治療は受けていなかった.2004年8月再来院,大腸内視鏡検査の再検で横行結腸の病変はIIc様に変化し,病理組織検査でも癌細胞は認めなかった.2004年10月右腎臓摘出手術のみ施行,大腸病変については4カ月毎の内視鏡による経過観察とした.大腸癌診断以後36カ月経過した現在再発は認められない.今回の症例より大腸癌においても自然消失する癌の存在が示唆された.
  • 中崎 隆行, 濱崎 景子, 清水 香里, 進藤 久和, 田村 和貴, 谷口 英樹, 高原 耕
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1721-1724
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,女性.便潜血反応陽性で近医にて結腸腫瘍を指摘され当院入院となった.大腸内視鏡検査で上行結腸に隆起性病変を認め生検では未分化癌の診断であった.上行結腸癌の診断にて腹腔鏡補助下結腸右半切除術(D3郭清)を行った.切除標本は10×10mmの1型の腫瘍で中央に軽度の陥凹がみられた.病理所見では異型細胞が増殖浸潤し,腺管形成や粘液産生もみられなかった.免疫組織染色にて,EMA,ケラチンは陽性でクロモグラニンA,シナプトフィジンは陰性で,未分化癌と診断した.深達度はpSMで早期癌であった.大腸早期未分化癌の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.
  • 松谷 英樹, 村田 暁彦, 小山 基, 佐々木 睦男
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1725-1732
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    AFP産生結腸癌の2例を経験したので報告する.症例1は40歳,男性.胸部不快感を主訴に当院循環器内科を受診.スクリーニングの血液検査で貧血と便潜血反応の陽性を認めた.血清AFP値は168ng/mlと高値を示し,精査で上行結腸癌と診断し,結腸右半切除術を施行した.症例2は51歳,女性.腹部不快感と下腹部腫瘤触知を主訴に当院を受診.血清AFP値は3,920ng/mlと高値を示した.精査でS状結腸癌,多発肝転移および肺転移と診断し,結腸左半切除術を施行した.病理組織学的検査の結果,症例1は低分化腺癌,症例2は中分化腺癌と診断され,2例ともAFP免疫染色で陽性を示した.2例とも術後に全身化学療法を施行し,症例1は術後8年7カ月を経過した現在,無再発生存中であり,症例2は多発肝転移の増悪を認め,肝不全により術後4カ月で永眠された.
  • 常光 洋輔, 濱野 亮輔, 西江 学, 徳永 尚之, 大塚 眞哉, 大崎 俊英
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1733-1736
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,男性.平成16年3月検診で便潜血を指摘され,直腸癌と診断され4月27日当院紹介された.4月28日生検の結果small cell carcinomaであった.CT,MRIにて直腸周囲のリンパ節転移を疑われたが,他臓器に明らかな病変は認めなかった.6月7日腹会陰式直腸切断術,D3郭清を施行した.病理組織診で直腸原発の小細胞癌と診断され,大腸癌取扱い規約上はpStageIIIb,CurAであった.術後会陰創感染はあったものの経過良好でCDDP 40mg×2日,VP-16 100mg×3日(1クール)の化学療法を6クール施行した.術後3年9カ月現在のところ再発兆候なく経過観察中である.直腸原発の小細胞癌は非常に稀な疾患であり早期より遠隔転移をきたす予後不良な疾患である.今回われわれは治癒切除が可能で長期生存中の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
  • 信太 昭子, 高橋 毅, 飯塚 美香, 柳原 正智, 芦澤 敏, 鈴木 敬二
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1737-1741
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    本論文では原発巣切除術後に急速な再発転移をきたして死亡したG-CSF産生直腸未分化癌の1例について報告する.症例は63歳,男性.直腸に1型腫瘤があり,生検では未分化癌が示唆されたが,遠隔転移はなく(Stage IIIb),腹会陰式直腸切断術を実施した.しかし術後早期に骨盤腔内再発や,多発肝・肺転移,発熱と高G-CSF血症を伴う白血球増多が出現,急激に全身状態が悪化して術後第26病日に死亡した.切除標本の組織所見は未分化癌で,免疫染色ではp53とKi-67が強陽性だが,特定の由来臓器を示す所見はなかった.また,G-CSF陽性でありG-CSF産生腫瘍であることが示された.本邦における直腸原発G-CSF産生未分化癌の報告はなく,腫瘍によるG-CSF産生の臨床的意義についても未解決であり,今後の症例の蓄積と検討が待たれるところである.
  • 甲斐 恭平, 遠藤 芳克, 渡邉 貴紀, 佐藤 四三
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1742-1746
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    76歳,男性.腹部CT検査で肝腫瘤を指摘され入院となる.腹部CT検査では腫瘍は肝S1のSpiegel部に位置し下大静脈内に腫瘍栓を形成していた.下大静脈造影では腫瘍栓上縁は肝静脈下大静脈合流部に達していなかった.術中腫瘍栓遊離による肺梗塞予防の目的で,下大静脈フィルターを留置して,尾状葉切除術,腫瘍栓摘出術を行った.下大静脈の血行遮断は肝静脈下で可能であり,THVE(Total hepatic vascular exclusion)の必要はなかった.残肝再発・肺転移で術後16カ月に永眠された.下大静脈腫瘍栓を伴う原発性肝細胞癌の予後は不良であるが,積極的な切除を行うことにより予後の改善が得られる可能性があると思われた.術後の予後改善のためには,有効な補助化学療法や肝内,肝外再発に対する化学療法の確立が今後の課題である.
  • 大石 幸一, 江藤 高陽, 福田 三郎, 角舎 学行, 先本 秀人, 高橋 信
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1747-1752
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,男性.腹部超音波検査で肝腫瘤を指摘され入院となる.HBs抗原,HCV抗体は陰性で肝機能,AFPは正常範囲内であった.超音波検査で肝S2に4cm大の高エコーで境界明瞭な肝外突出型の腫瘍を認めた.腹部CT検査では単純で低吸収,造影により早期相で辺縁から徐々に濃染し平衡相まで遷延し,腹部MRIはT1強調像で低信号,T2強調像で高信号であった.画像診断では肝細胞癌が否定できないため肝外側区域部分切除術を施行した.肉眼的に被膜を有する赤褐色,単結節性の腫瘍であった.病理組織検査では細索状配列を示す異型性の乏しい肝細胞の増生を認めた.肝細胞腺腫との鑑別に苦慮したが一部に被膜外への増殖を認めたため高分化から中分化の肝細胞癌と診断された.肝炎ウイルスマーカー陰性,正常肝,AFP陰性であり,被包化された比較的異型性に乏しい腫瘍のため,肝細胞腺腫との鑑別が問題となった症例を経験した.
  • 岩崎 寿光, 寒原 芳浩, 吉川 卓郎, 土田 忍, 中村 毅, 埴岡 啓介
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1753-1758
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,男性.右季肋部痛を主訴に近医受診.CTにて肝左葉外側区域に径7cmの腫瘍と,左葉胆管内から総肝管にまで進展する腫瘍栓を認め,胆管内発育型肝細胞癌と診断した.入院時T-Bil 7.4mg/dlと黄疸を呈し,腫瘍栓は右肝内胆管および総肝管にまで進展していたため,CDDP 100mgの動注療法を2回行った.黄疸は消失し総肝管腫瘍栓が退縮したため,拡大左葉切除,尾状葉部分切除,胆管形成術を施行し肉眼的根治切除が可能であった.術前動注療法により原発巣および胆管内腫瘍栓が退縮し,切除しえた黄疸を合併した胆管内発育型肝細胞癌の1例を報告する.
  • 千堂 宏義, 白川 幸代, 西村 透, 金田 邦彦, 藤原 英利, 和田 隆宏
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1759-1763
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,男性.2006年6月に当科で先天性胆道拡張症術後の遺残膵内胆管腺扁平上皮癌にて膵頭十二指腸切除術(PD-I)を施行された.術後約6カ月後に発熱をきたして当院を受診し,血液検査で著明な炎症所見とCEAの高値を認めた.腹部超音波検査および腹部造影CTで肝S7に腫瘍を認め,肝転移あるいは肝膿瘍の鑑別診断が困難であった.保存的治療にても発熱,炎症所見は改善せず,腫瘍も増大傾向がみられたため,針穿刺を行った.病理組織学的に胆管腺扁平上皮癌の肝転移と診断された.5-FU+CDDPの肝動注化学療法を行ったところ肝転移は著明に縮小し,発熱,炎症所見も軽快してCEAは正常値となった.胆管腺扁平上皮癌の予後はきわめて不良で,治癒切除が行われても比較的早期に再発,転移をきたしやすい.有効な集学的治療法は確立されていないが,肝転移に対しては肝動注化学療法が治療法の選択肢の一つになりうると考えられた.
  • 佐々木 邦明, 川村 武, 松田 寿夫, 河野 洋一, 島村 隆浩, 川村 統勇
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1764-1769
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    比較的稀な胆嚢管走行異常の一つである重複胆嚢管を伴う胆石症を2例経験したので報告する.症例1は60歳の女性で,検診での腹部超音波検査にて胆石および小隆起性病変を認めた.腹腔鏡下の術中胆道造影検査にて胆嚢の描出を認め右肝管に流入する別の胆嚢管構造を認めた.同管状構造より胆道造影を再施行し右肝管より分岐することを再確認し,胆嚢摘出術を施行した.症例2は46歳の男性で,胆嚢炎を繰り返す胆石症である.腹腔鏡下の術中胆道造影検査にて,胆嚢の描出を認め右肝管に流入する別の胆嚢管構造を認めた.重複胆嚢管と診断し,両胆嚢管を切離した後,胆嚢を摘出した.重複胆嚢管はまれな胆嚢管走行異常であり直接造影検査を行っても術前の確定診断は困難である.まれではあるが重複胆嚢管をも想定した術中胆道造影および術中操作の必要性が再認識された.重複胆嚢管についての報告も集積されつつあり,文献的考察を加え報告する.
  • 小橋 研太, 石井 博, 坂川 太一, 黒河 達雄, 常光 謙輔, 植田 規史
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1770-1775
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    粘液を産生し胆管との交通を認めた肝内胆管嚢胞腺腫の2切除例を経験したので報告する.症例1は79歳の男性で,特に症状なく他病にて通院中,腹部CTにてS2に直径2.0cmの嚢胞性病変と肝内胆管B2の拡張を認めた.B2からのPTCの所見より総胆管と左肝内肝管に連続した陰影欠損を認め,粘液産生性の肝嚢胞腺腫を疑い肝部分切除術を施行した.症例2は73歳の男性で,心窩部痛・発熱を主訴に来院し血液検査で肝胆道系酵素の軽度上昇を認めた.腹部CTでS2に直径2.2cmの嚢胞性病変と左肝内胆管の軽度拡張を認め,MRCPおよびERCPにて粘液産生性の肝嚢胞腺癌もしくは腺腫を疑い,肝左葉切除術を施行した.病理組織診断は2症例とも肝内胆管嚢胞腺腫でどちらも間葉性間質を伴わなかった.
  • 田村 竜二, 岡本 貴大, 門脇 嘉彦, 高橋 卓也, 坂田 龍彦, 高倉 範尚
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1776-1781
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は25歳,女性.右側腹部痛と発熱を主訴に近医受診,腹部超音波検査にて肝腫瘤を指摘され当院へ紹介入院となった.HBs抗原およびHCV抗体は陰性,軽度肝機能異常,軽度炎症所見を認めるのみで,腫瘍マーカーは正常範囲であった.CTでは,肝右葉を占める巨大腫瘍で,充実性部分と嚢胞性部分が混在しており,充実性部分は早期相で濃染,晩期相でwash outされる肝細胞癌様所見を呈し,嚢胞性部分辺縁は淡く造影され中心部は全く造影されず,血管造影では腫瘍血管の増生と口径の不整が見られた.悪性肝腫瘍と診断し肝右葉切除術を施行した.腫瘍割面は充実性部分と嚢胞性部分が混在し,病理組織検査にて,細胆管細胞に類似した腫瘍細胞が小管腔を形成し,cytokeratin 7が陽性で抗肝細胞抗体が陰性であり,細胆管細胞癌と診断された.術後17日目に退院し,補助療法は行なわず,術後4年の現在,無再発生存中である.
  • 本多 通孝, 倉田 昌直, 本田 五郎, 鶴田 耕二, 岡本 篤武, 比島 恒和
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1782-1785
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    40歳代の女性.検診の超音波検査で膵腫瘍を指摘された.腹部CTで膵体部上縁に強い造影効果を受ける2cm大の類円形腫瘤を認め,非機能性膵内分泌腫瘍を疑い開腹手術を行った.腫瘤は膵上縁に接していたが,膵組織から発生した腫瘍ではなく,容易に剥離・摘出可能であった.術中迅速病理診断を行いhyaline vascular-typeのCastleman's diseaseと診断されたため,腫瘤の摘出のみで手術を終了した.Castleman's diseaseは縦隔頸部に好発するリンパ節過形成性病変であり,腹腔内発生は稀である.またhyaline vascular-typeは血流豊富な腫瘤であり画像上強い造影効果を呈するため,自験例のように膵に接して存在した場合,同様に血流豊富な膵内分泌腫瘍との鑑別が問題となる.本疾患は腫瘤摘出により良好な予後が期待されるため,周囲臓器の切除やリンパ節郭清は不要である.発生部位,画像診断上の特徴から本疾患の可能性を念頭に置き,術中迅速診断を利用して術式を選択することは拡大手術を回避する上で重要である.
  • 松本 祐介, 甲斐 恭平, 山田 隆年, 中島 明, 佐藤 四三
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1786-1790
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.3年2カ月前から当院内科にて慢性膵炎として外来通院していた.当初よりCTにて膵背側に嚢胞性の腫瘤があり膵仮性嚢胞の疑いで経過観察されていたが1年前より徐々に腫瘤が増大し血中CA19-9の異常高値(5,240U/ml)を認めた.悪性腫瘍との鑑別が困難なため手術目的で当科紹介となった.開腹すると膵背側の腫瘤は約4cmで周囲の組織にはさほど炎症所見が無く腫瘍性病変を考え膵体尾脾切除,胆嚢摘出術,膵管胃吻合を施行した.病理組織学的検査にて病変は大小2個の嚢胞より成り嚢胞壁は重層扁平上皮で覆われ所々にリンパ濾胞も有しておりリンパ上皮嚢腫(Lymphoepithelial cyst)と診断された.経過は良好で術後2カ月のCA19-9は11.4U/mlと正常化した.今回われわれは慢性膵炎の経過中に偶然発見され膵仮性嚢胞の疑いで経過観察の後に手術となった症例を経験した.病変が経過とともに増大していることと慢性膵炎を伴っていることからその成因を推測する上で示唆に富む症例であった.
  • 岡崎 雅也, 丸森 健司, 福沢 淳也, 今村 史人, 神賀 正博, 間瀬 憲多朗
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1791-1795
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.発熱と右側腹部痛を主訴に来院した.血液検査で,炎症反応の上昇を認め,腹部造影CTで上行結腸憩室炎と上腸間膜静脈から肝内門脈に連続する血栓を認め,入院となった.画像所見上,その他異常所見なく,血液凝固疾患も否定的であり,上行結腸憩室炎に続発した上腸間膜静脈血栓症と診断した.腹部症状軽度であったため,保存的治療を行い,炎症の改善を認めた.血栓症に対し,即抗凝固療法を考慮したが,出血性胃潰瘍を認めたため,経過観察とした.第10病日の腹部造影CTでは,憩室炎の改善と血栓の縮小を認めた.同日胃潰瘍の改善を確認し,低分子ヘパリン投与を行った.第30病日にはワーファリン内服に切り替え第46病日に退院した.3カ月後,憩室炎を再燃し入院となった.同日の腹部造影CTでは,血栓自体は消失した.今回上行結腸憩室炎に合併した上腸間膜静脈血栓症の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
  • 渡辺 啓太郎, 辻 尚志, 中原 早紀, 佃 和憲, 池田 英二, 平井 隆二
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1796-1799
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    致死率の高い上腸間膜動脈(以後SMA)塞栓症の患者に対して本邦15例目1)~12)となる経カテーテル的血栓吸引療法で救命し,さらに開腹術を回避できた1例を経験したので報告する.患者:69歳,男性.現病歴:平成19年2月急激な心窩部痛が出現したため当院に緊急搬送された.腹部造影CT検査および血管造影検査で中結腸動脈分岐部より遠位のSMAの血流途絶を認めた.血栓溶解療法および血栓吸引除去を行い,開腹術を必要とすることなく経過し,術後13病日に退院した.
  • 日高 英二, 遠藤 俊吾, 辰川 貴志子, 石田 文生, 田中 淳一, 工藤 進英
    2008 年 69 巻 7 号 p. 1800-1803
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/01/06
    ジャーナル フリー
    直腸癌に対する直腸切断術の周術期に,S状結腸間膜脂肪織炎により人工肛門壊死をきたした症例を経験したので報告する.症例は41歳,男性.下部進行直腸癌に対して,術前化学放射線治療後に腹会陰式直腸切断術を施行した.術後より発熱,炎症反応が持続し,第13病日に人工肛門壊死・穿孔をきたし,再手術を施行した.開腹所見では,後腹膜からS状結腸間膜のびまん性肥厚と硬化,これに伴う下行結腸からS状結腸人工肛門まで内腔の狭小化を認めた.さらに小腸の一部は癒着により一塊となっていた.人工肛門部から下行結腸の狭小,硬化している部分を切除し,下行結腸肛門側断端を左上腹部に誘導し,人工肛門を再造設した.また一塊となった小腸は剥離が困難であったため切除した.組織学的には腸間膜脂肪織炎と診断された.術後早期にS状結腸人工肛門を造設した腸間膜に発症した脂肪織炎は比較的稀であり,文献的考察を加え報告する.
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