日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
Print ISSN : 1345-2843
ISSN-L : 1345-2843
69 巻, 9 号
選択された号の論文の59件中1~50を表示しています
原著
  • 金光 秀一, 松山 篤二, 中山 善文, 永田 直幹, 山口 幸二
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2149-2155
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    36例のgastrointestinal stromal tumorを臨床病理学的・免疫組織化学的に再検討した.発生部位は胃22例,十二指腸・小腸11例,直腸3例であった.組織学的には3例で上皮様成分が混在していた.免疫染色では全例でc-kit陽性だったが,1例では発現が弱く限局性であった.超低リスク(VL)群9例,低リスク(L)群10例,中リスク(I)群9例,高リスク(H)群8例に分類され,VL群/L群に転移はみられなかったが,I群/H群のうち10例に再発・転移を認めた.無再発生存率は,I群/H群はVL群/L群に比し,また,十二指腸・小腸・直腸原発例は胃原発例に比し,有意に不良であった.メチル酸イマチニブを投与された5例のうち4例は部分寛解が得られたが,c-kit発現が限局性だった残りの1例は効果が認められず死亡した.I群/H群,および,c-kit発現に乏しい例の予後改善が課題である.
  • 田中 肖吾, 山本 隆嗣, 石原 寛治, 渡辺 千絵, 金田 和久, 栄 政之, 福富 経昌, 藤井 弘一, 大野 耕一
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2156-2162
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    目的:本邦では肝切除後腹腔ドレーン非留置は普及していない.今回ドレーン留置の必要性について前向き研究で検討した.
    方法:2005年4月から2007年10月の期間に術前に肝癌と診断して肝切除を施行し,試験参加の承諾が得られた33例を対象に無作為化比較試験を行った.A群:ドレーン非留置症例,B群:留置症例の2群に分け,臨床像,手術因子および術後合併症の頻度を検討した.
    結果:A群17例,B群14例が登録された(B群2例は良性疾患であり除外).臨床像および手術因子は両群で差は認めなかった.術後合併症はA群8例(57%),B群8例(47%,p=0.72)に認め,各合併症別でも両群に差は認めなかった.A群では肝不全で死亡した1例を除く7例は膿瘍ドレナージを含む保存的治療で軽快した.B群では腹腔内膿瘍および胆汁漏合併症例に対しては再手術,追加膿瘍ドレナージおよび内視鏡的経鼻胆道ドレナージを行い軽快した.術後入院日数は両群で差は認めなかった.
    結論:肝切除後腹腔ドレーン非留置でも術後管理には支障がないと考えられた.
  • 高須 直樹, 水谷 雅臣, 藤本 博人, 磯部 秀樹, 蜂谷 修, 木村 理
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2163-2167
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    1990年1月から2006年12月までに当科で施行した穿孔性腹膜炎手術症例107例を対象とした.75歳以上の高齢者群32例と75歳未満の非高齢者群75例に分けて,術前併存疾患,術後合併症,術後管理および転帰について検討した.
    男女比,穿孔部位は両群間で,有意差を認めなかった.
    術前併存疾患全体の頻度では両群間に有意差は認めなかったが,その内訳では高齢者群で高血圧,心疾患が有意に多く認められた.
    術後合併症全体の発生頻度は有意差を認めなかったが,呼吸器合併症が高齢者群で有意に多く認められた.高齢者群において人工呼吸器管理例が有意に多かったが,術後の平均在院日数,在院死亡率では有意差を認めなかった.
    高齢者であっても適切な全身管理(特に呼吸管理)を行えば,非高齢者と転帰は同等であると考えられた.
  • 金澤 伸郎, 横山 康行, 吉田 孝司, 黒岩 厚二郎
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2168-2172
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    はじめに:閉鎖孔ヘルニアは骨盤ヘルニアの中では稀な外ヘルニアである.診断がつきにくい上に,診断が遅れると致死率も高い疾患とされている.方法:1968年から2006年までに当センターで経験した62例の閉鎖孔ヘルニアについて検討を行った.結果:患者背景は従来指摘されている閉鎖孔ヘルニアの特徴(高齢,やせ,多産,女性)に一致していた.部位では1/3の症例で両側の閉鎖孔の開大を認めており,このことは治療に当たる際に留意すべき問題である.治療法としては下腹部正中切開が大多数を占めており,過半数の症例で腸管切除が必要だった.考察:診断に際しては骨盤CTの有用性が指摘されており,近年早期の診断が可能となっている.今回,従来指摘されていたより多くの症例が両側性であることが明らかとなった.未だに入院後診断がつかず保存的治療が施されている症例があり,閉鎖孔ヘルニアについての啓発が必要不可欠である.
症例
  • 保里 惠一, 成田 洋, 齋尾 征直
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2173-2177
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,女性.1週間前に右乳房の腫瘤に気づき当院外科を受診した.右AC領域に直径約2cm大の腫瘤が触知された.穿刺吸引細胞診では診断するに至らず,摘出生検にてglycogen-rich clear cell carcinomaと診断された.このため,摘出生検より3日後に右乳腺扇状部分切除術,腋窩リンパ節郭清(Bq+Ax)を行った.病理検査結果はn0,estrogen receptor(ER)陽性,progesterone receptor(PgR)陰性,human epidermal growth factor receptor2(HER2)陰性であった.残存乳房に放射線治療を行うと共にZoladex+tamoxifen(TAM)によるホルモン療法を開始した.術後5年を経過したが,現在再発の徴候を認めていない.
    glycogen -rich clear cell carcinomaは全乳癌の0.9~3%と比較的稀な疾患である.組織学的には,腫瘍細胞全体の90%以上が胞体内に多量のグリコーゲンを含んだ,淡明な細胞からなる腫瘍と定義され,本邦での報告も少なからず散見されるようになってきた.全例が女性であり,本疾患の予後については,未だ明らかでない.
  • 久木田 和磨, 水島 康博, 川崎 浩之, 平田 公一
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2178-2183
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性.原発性マクログロブリン血症の診断を受けるも,自覚症状がないため経過観察されていた.観察中に左乳房腫瘤を自覚したため当科を受診した.細胞診ではclassIIIb,髄様癌疑いであり,精査にて左乳癌と診断し手術を行うも,病理結果はMalignant lymphoma,non-Hodgkin,diffuse large B cell typeであった.術後に汎血球がさらに減少したため,マクログロブリン血症の増悪所見と診断し他院にて化学療法を行うも,術後89日目に肺真菌症に伴う肺出血にて死亡した.原発性マクログロブリン血症に中高度悪性群のリンパ腫を併発した貴重な症例を経験したため,文献的考察を含めて報告する.
  • 菊地 覚次, 大谷 彰一郎, 檜垣 健二, 二宮 基樹, 高倉 範尚
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2184-2188
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は35歳,女性,右乳癌(T2N2aM0 cStageIIIA)との診断で術前化学療法(weekly PTX followed by FEC100)後,乳房温存手術を施行.術後1カ月目にCEAの上昇を認め,CTにて多発性肝転移・骨転移を認めた.Herceptin,Capecitabineによる治療を開始し,Goserelin,Tamoxifenを併用した.その後,腫瘍マーカー正常化しCT上も肝転移は消失し,骨転移は縮小した.約1年間腫瘍マーカーの上昇なく経過したが,本人の希望にて治療中断した後,腫瘍マーカーが再上昇し,治療中断9カ月後,黄疸出現し,CTにて膵頭部腫瘤を認め原発性膵癌の疑いで入院となった.生検組織の免疫組織学的染色により乳癌の膵転移と診断した.乳癌の膵転移は非常に稀であり,原発性膵癌との鑑別が困難な場合が多いが,免疫組織学的染色がその鑑別に有用であると考えられた.
  • 荒井 宏雅, 利野 靖, 山中 澄隆, 湯川 寛夫, 和田 修幸, 益田 宗孝
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2189-2192
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.胸腺腫を合併した重症筋無力症(MGFA分類IIIb期)の診断で当院神経内科に入院.抗コリンエステラーゼ薬内服,血漿交換療法,メチルプレドニゾロン1000mg/日×3日間のステロイドパルス療法を施行し,以後ステロイド50mg/日の内服となった.ステロイド導入後約1カ月の胸部CTでは指摘された腫瘤は画像上消失していた.拡大胸腺摘出術を施行し,術後病理診断は胸腺腫(Müller-Hermelink分類混合型,WHO分類Type B2)の退行性変化であった.術前にステロイド導入を行った胸腺腫合併重症筋無力症においては,胸腺腫の退縮の可能性もあることを念頭に置くことが肝要である.
  • 松浦 陽介, 濱中 喜晴, 三井 法真, 平井 伸司
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2193-2197
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,女性.意識消失発作にて,精査が施行された.頭蓋内病変は認められず,24時間ホルター心電図にて2:1高度房室ブロックが認められた.そのため,意識消失はAdams-Stokes発作と診断され,ペースメーカー(Pacemaker:PM)植込み術の予定となった.しかし,金属アレルギーの既往があったため,外来にて金属パッチテストを施行した.PMに使用されている金属にアレルギーは認められなかったが,予防的にPM本体をpolytetrafluoroethylene(PTFE)シート(ゴアテックスシート®)にて被覆し,植込み術を行った.植込み後12カ月が経過したが,PM植込み部のトラブルは生じていない.PMアレルギーのためPM植込み部の皮膚炎を繰り返す症例に対し,PTFEシートを使用した報告はいくつかある.今回われわれは,予防的PTFEシート被覆にてPM植込み部トラブルを回避した,金属アレルギーの1症例を経験したため,報告する.
  • 加藤 智栄, 八木 隆治, 岡 和則, 松岡 隆久, 坂野 尚, 河野 和明
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2198-2201
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.椎間板ヘルニアの既往があり,2004年1月頃から腰痛出現のため近医の整形外科受診.椎間板ヘルニア再発の診断で加療中であった.同年5月17日から入院加療したが症状増悪し,当科紹介となった.CT,MRIで孤立性左腸骨動脈瘤を認め,腰椎破壊を伴っていた.手術はY型人工血管による置換術を行った.細菌検査は陰性で,病理組織検査では炎症性動脈瘤の所見であった.術後腰痛の軽減とCT上腰椎破壊部の修復がみられた.腰椎破壊を伴う,炎症性孤立性腸骨動脈瘤の報告はなく,稀と考えられ報告した.
  • 八丸 剛, 渡辺 正純, 中原 秀樹
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2202-2206
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,男性.主訴は食欲不振・体重減少・腰背部痛で,胆嚢炎の疑いにて2007年2月1日に前医へ入院した.入院後CT施行したところ,胸腹部大動脈仮性動脈瘤切迫破裂の所見が認められ翌日に当院へ紹介転院となった.炎症所見やCT所見から感染性大動脈瘤が強く疑われ,抗生剤点滴を開始した.入院時血液培養からStaphylococcus aureusが検出され,感染性胸腹部大動脈瘤と診断した.その後仮性動脈瘤の増大傾向が認められ,2月7日に胸腹部大動脈人工血管置換術および腹部主要4分枝再建を施行した.術中検体からもStaphylococcus aureusが同定され,術前術後において有効な抗菌治療ができた.術後はリハビリを行い,約3カ月半後に退院となった.術後15カ月を経過し,感染の再燃などなく外来通院中である.
  • 上野 剛, 東 良平
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2207-2211
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,女性.2003年6月,胸部CTにて気管支B2の閉塞とその末梢に気管支分枝様に拡張し,内部にmucoid impactionを伴った嚢胞を認め,先天性気管支閉鎖症と診断した.2005年1月,呼吸不全にて紹介受診.血液検査にて炎症反応の上昇を認め,胸部CTにて右上肺野に浸潤影を伴った径8cmの腫瘤性病変を認めた.画像上肺癌も疑われたが,前回のCT所見を含め,気管支閉鎖症に感染が合併したものと判断した.抗生剤の投与にて経過をみるも,腫瘤陰影は改善せず,右肺上葉切除術を施行した.切除標本にてB2の閉鎖およびその遠位側に慢性炎症性変化を伴った嚢胞を認めた.組織検査にて嚢胞壁は気管支上皮であった.感染のため巨大腫瘤性病変を形成し,鑑別に難渋した先天性気管支閉鎖症の1例を経験した.診断に初回受診時の胸部CT検査が有用であった.
  • 春日井 敏夫, 斎藤 雄史
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2212-2215
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は39歳,男性.検診の胸部CT写真で異常影を指摘され当院を受診した.胸部CT写真で胸腺に1.7×1.3cmの濃淡のある腫瘤影を認めた.胸腺嚢胞あるいは胸腺腫を疑い手術を施行した.手術は胸骨正中切開で胸腺摘出術を施行した.腫瘍は胸腺右葉内に存在し,内部に粘稠で混濁した黄白色の貯留液を認めた.病理組織では嚢胞壁内腔面は線毛上皮に覆われ,嚢胞壁に平滑筋組織を認め,胸腺内の気管支原性嚢胞と診断した.胸腺内に発生する気管支原性嚢胞は稀であり文献的考察を加えて報告する.
  • 小野田 貴信, 中村 徹, 豊田 太, 鳥羽山 滋生
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2216-2218
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性.過去3回の右自然気胸の既往歴があり,2度の手術歴がある.2006年12月,右気胸再発にて近医より当科に紹介受診となった.胸腔ドレナージを施行し経過観察中に膿胸を併発したため,入院14日目に手術を施行した.術後MRSA創感染を併発したため,ポビドンヨード消毒を26日間継続したが,感染巣の改善はほとんどみられなかった.消毒液を0.1%ピオクタニン®に変更した所創部は速やかに清浄化し,使用2日目の培養でMRSAは消失した.有害事象は認めなかった.ピオクタニン®消毒は,MRSA創感染に有効と思われた.
  • 西村 公男, 谷木 利勝, 渋谷 祐一, 中村 敏夫, 後藤 正和, 福井 康雄
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2219-2223
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    食道表在癌の胃転移の1症例を経験した.症例は79歳,男性.主訴は突然の上腹部痛であった.来院時,心窩部に圧痛と筋性防御を認め,左上腹部に腫瘤を触れた.CTで胃小彎側に巨大な腫瘤を認め,胃腫瘍の穿孔による腹膜炎と診断されたが,心肺機能不良のため保存的に加療した.上部消化管内視鏡検査で胃上部に潰瘍を伴う粘膜下腫瘍様の出血性病変を認め,生検で扁平上皮癌と診断された.第50病日に癌死,剖検にて腹部食道に表在癌を指摘され,胃の病変はその転移と診断された.
  • 高野 恵輔, 稲川 智, 寺島 秀夫, 柳澤 和彦, 山本 雅由, 大河内 信弘
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2224-2228
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,男性.21歳時,胃亜全摘術(Billroth-II法再建)を施行された.60歳時より糖尿病性腎症で血液透析を導入され前医通院中であった.腹痛,嘔吐にて前医入院となったが,腹部CT検査で腸管の拡張や閉塞は認められず,保存的治療を施行された.しかし胃管から多量の胆汁を含む排液が持続したため,精査加療目的に当院転院となった.上,下部消化管の精査では,器質的疾患は指摘されず,糖尿病性神経障害による腸管麻痺が疑われた.再び保存的治療を施行されたが,症状の改善はみられず,外科的治療目的に当科を紹介された.上部消化管内視鏡の再検で輸出脚に食物残渣様の貯留物を認めたため,内視鏡的に摘出したところ,巨大なビニールであり,摘出後に症状は改善した.高齢者や見当識障害のある患者の場合,異物誤飲の病歴が聴取されなくとも,その可能性を念頭に置いた内視鏡検査が重要であると考えられた.
  • 服部 正嗣, 本田 一郎, 松下 英信, 小林 大介, 大河内 治, 坪井 賢治
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2229-2234
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は22歳,女性.平成18年8月過食による急性胃拡張の診断で入院し保存的治療にて軽快・退院した.10月再び過食後に腹痛・嘔気が出現して当院を受診し急性胃拡張の診断にて入院となった.経鼻胃管挿入にて減圧をはかるも腹痛軽快せず.同日深夜,ショック状態となり挿管呼吸管理,カテコラミン大量投与による循環管理を開始した.CTで腹水とfree air,腹腔穿刺で混濁腹水を認め,緊急手術を施行した.胃は広範に壊死・破裂しており,腹腔内に多量の壊死物質と食物残渣を認めた.脾臓にも壊死を認め,胃全摘術・脾摘出術・腹腔洗浄ドレナージ術を行った.術中もショック状態が続き,術後,DIC・多臓器不全の状態となった.持続血液濾過・血液製剤大量投与などの加療にもかかわらず,術後26時間で死亡した.複雑な家庭環境でのストレスが誘因とされる過食による急性胃拡張が原因で胃壊死・破裂をきたした症例を経験したので報告する.
  • 山上 裕子, 甲斐 康之, 藤井 眞, 藤川 正博, 根津 理一郎, 吉川 澄
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2235-2239
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,女性.1998年10月に潰瘍性大腸炎・直腸癌の診断にて大腸全摘・回腸肛門管吻合術を施行し,良好に経過していた.2002年11月の上部消化管造影,腹部CTにて,胃体下部大彎側に約6cm大の内部に嚢胞性変化を伴う胃粘膜下腫瘍を指摘された.2003年5月,幽門側胃切除術を施行した.摘出標本の腫瘍部分粘膜は正常であったが,穿刺にて約2mlの膿性排液を認めた.腫瘍径は70×50mmで,割面にて被膜を伴う膿瘍腔があり,さらに厚い白色の線維層に覆われていた.排液培養の結果,Methicillin resistant Staphylococcus aureus(MRSA)が同定され,胃壁膿瘍と診断された.前回の術中操作との関連も疑われるが,原因を問わず胃壁膿瘍は非常に稀である.術前診断しえた場合,ドレナージのみで治癒した可能性もあり,手術既往のある症例において胃粘膜下腫瘍では,胃壁膿瘍も鑑別すべき診断の一つと思われた.
  • 内藤 正規, 高橋 禎人, 西 八嗣, 八十川 要平, 渡邊 昌彦
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2240-2244
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    われわれは胃癌術後に癌性髄膜炎を発症した3症例を経験した.症例1は66歳男性で,残胃癌にて残胃全摘術施行.術後2年2カ月後に頭痛,脱力および嘔気を主訴に入院.髄液穿刺にて癌性髄膜炎と診断されるも,入院後第27病日に死亡した.症例2は51歳男性で,胃癌にて幽門側胃切除術施行.術後6カ月後に嘔気,嘔吐および眩暈を主訴に入院.MRIおよび髄液穿刺にて癌性髄膜炎と診断されるも,入院後第52病日に死亡した.症例3は63歳女性で,胃癌の診断にて幽門側胃切除術施行.術後7カ月後に化学療法目的に入院.入院後よりふらつき,嚥下障害および嘔気出現.髄液穿刺にて癌性髄膜炎と診断されるも,入院後第37病日に死亡した.癌性髄膜炎は全癌患者の約4%に発症し,発症後の平均予後は約1カ月と極めて悪い.進行癌の経過中に腹水等を認めない補正困難な低ナトリウム血症を認めた場合,癌性髄膜炎を疑い速やかな髄液穿刺の施行等による早期診断が重要であると考えられた.
  • 高屋 快, 鈴木 龍児, 梅邑 明子, 鈴木 雄, 遠藤 義洋, 北村 道彦, 君塚 五郎
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2245-2249
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,男性.狭心症にて当院内科通院中であったが胸やけを自覚し,貧血も認められたため上部消化管内視鏡施行し,胃噴門部に全周性の3型の腫瘍病変を認め下部食道(門歯35cm)まで浸潤しさらに門歯25cmに粘膜下腫瘤様隆起を2個認めた.いずれの箇所も生検にてGroupV,adenocarcinoma,tub2であり,胸部上部食道まで壁内転移した噴門部胃癌にてTS-1とCDDPによる化学療法を行った.化療後の上部消化管内視鏡では食道と胃の病変はPRと診断され,本人と相談のうえ平成18年3月手術(胃全摘・食道亜全摘・胸骨前結腸再建・腸瘻造設)施行.術後経過は概ね良好で20病日に退院.現在外来にて化学療法施行中である.噴門部胃癌の食道浸潤の多くは下部食道であり,本例のように上部食道にまで広範囲に浸潤した例はきわめて稀である.本症例は術前の画像診断で悪性度の高いことが予想され化学療法を行った後手術を行った.今後は化学療法を可及的に行いつつ注意深い経過の観察が必要である.
  • 榊原 巧, 丹羽 信之介, 日比野 壮貴, 大島 健司, 伊藤 昭宏, 榊原 聰
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2250-2254
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    胃癌術後直腸転移および虫垂転移をきたした症例を経験したので報告する.症例は57歳,男性.平成15年8月,胃癌に対し幽門側胃切除を施行した.病理組織学的検査所見はpor,se,n2(+),ly1,v0,stageIIIA,根治度Bであった.平成18年6月,歯状線直上の直腸前壁に粘膜下を浸潤する形態の隆起性病変を認めた.病理組織学的には,胃癌と同等な低分化型腺癌が粘膜下層を中心に増殖しており,胃癌の直腸転移と診断した.免疫染色組織像においても胃および直腸の組織像で同様の所見を得た.その後,化学療法継続するも徐々に直腸狭窄をきたしたため,平成19年1月,人工肛門を造設した.同年4月,内ヘルニアによる絞扼性イレウスのため緊急手術を施行.その際虫垂切除し,虫垂口より便汁を減圧した.切除虫垂は胃癌,直腸と同様の組織像を呈し胃癌虫垂転移と診断された.その後,化学療法を継続するも,胃癌術後より52カ月目(直腸転移診断より17カ月,虫垂転移診断より8カ月)に癌死した.直腸および虫垂への転移形式はリンパ行性であると示唆された.
  • 宮崎 進, 東野 健, 塩崎 憲, 矢野 浩司, 岡本 茂, 門田 卓士
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2255-2260
    発行日: 2008年
    公開日: 2012/10/22
    ジャーナル フリー
    広範な側方発育を呈した十二指腸癌の1例を経験したので報告する.症例は53歳,女性.2006年8月右上腹部痛,発熱を主訴に受診.精査の結果,十二指腸に約8cm大の表面凹凸のある隆起性病変を認め,生検にて十二指腸癌と診断された.術前超音波内視鏡検査によりSM浸潤が疑われたため同年9月膵頭十二指腸切除術を施行した.側方発育型の十二指腸癌は本邦でも数例の報告があるのみである.治療は内視鏡的切除,局所切除,リンパ節郭清を伴った膵頭十二指腸切除などが報告されている.側方発育を呈する十二指腸癌は,術前に壁深達度を正確に診断することは難しいため,縮小手術の選択は慎重を期すべきであると考える.
  • 樫山 紀幸, 水島 恒和, 位藤 俊一, 水野 均, 中川 朋, 伊豆蔵 正明
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2261-2265
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は38歳,男性.カレイの唐揚げの摂食後7日目に下腹部痛が増強して来院した.CTにて小腸内に35mm長のhigh densityな線状陰影を認め,魚骨と考えられた.周囲の腸間膜にdirty fat signを認め,魚骨による穿通性腹膜炎と診断した.dirty fat signが限局し,明らかなfree airを認めなかったことから,絶飲食と抗生剤による保存的治療を行った.入院2日目には腹痛は改善した.入院8日目には腹部CT検査にてliner high densityは消失しており,魚骨は排泄されたと考えられた.入院10日目にはほぼ炎症所見は消失したため退院した.今回,腹部CT検査で経時的に観察し,保存的に治療しえた魚骨による穿通性腹膜炎の1例を経験した.魚骨による穿通性腹膜炎の診断と経時的観察にはCTが有用であった.
  • 谷口 和樹, 榎本 直記, 上田 吉宏, 大野 玲, 石田 孝雄
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2266-2269
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,男性.1カ月前からの慢性的な腹痛と下痢を主訴に当院受診.腹部単純X線検査で腸閉塞の診断,腹部CT検査で回盲部の浮腫・壁肥厚変化を認め入院となった.イレウス管にて減圧したところ,腹部症状は改善し,排ガスも認められた.再度施行した腹部CT検査では壁肥厚所見の残存が認められた.下部消化管内視鏡検査では上行結腸に散在する憩室を認めたが,粘膜面に異常は認めず.保存的治療では十分に再発の可能性ありと判断し,回盲部切除術を施行した.切除標本においては回盲弁近傍の狭窄変化と憩室の存在を認めた.組織病理検索では悪性所見は認めず,炎症細胞浸潤像と線維化像を認めるのみであった.以上から回盲弁付近の右側結腸憩室炎の慢性的変化から狭窄変化をきたし,その結果として腸閉塞を発症したと判断した.右側結腸憩室炎が慢性的変化に伴う狭窄変化をきたし,手術施行症例は少ないことから若干の文献的考察を加え報告する.
  • 岡部 敏夫, 大矢 敏裕, 松本 広志, 戸塚 統, 横森 忠紘, 竹吉 泉
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2270-2274
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は35歳,男性.平成18年3月上旬,大量の下血を主訴に当院を受診した.腹部造影CT検査で回腸末端部に造影剤の漏出を認めた.下部消化管内視鏡検査で,回腸末端より新鮮血の流出を認めたが,出血点は明らかでなかった.絶食とし保存的治療を行ったが,入院翌日も下血は治まらず貧血が進行したため,手術を施行した.出血部の検索のため,術中小腸内視鏡を行った所,回腸末端より口側小腸には血液を認めず,回腸末端および上行結腸に暗赤色の血液を認めた.原因は明らかでなかったが,同部からの出血と診断し回盲部切除術を施行した.切除標本で,回腸末端に憩室を認めたが,潰瘍や腫瘍性病変,動静脈奇形などはなかった.組織学的に憩室に炎症を認めたため,憩室からの出血と診断した.術後経過は良好で,術後約1カ月で退院し,現在まで再出血はない.
  • 古手川 洋志, 岩川 和秀, 清地 秀典, 山本 幸司, 高井 昭洋, 梶原 伸介
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2275-2277
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は38歳,女性.右下腹部痛を主訴として来院.右下腹部から背側にかけて自発痛,圧痛を認めたが,筋性防御は明らかでなかった.白血球12,900/mm3,CRP 22.1mg/dlと上昇.腹部CTにて右前腎傍腔に内部にガス像を有し,周囲が淡く造影される領域があり,後腹膜膿瘍と診断.緊急開腹手術を施行した.虫垂に異常なく,回腸末端から盲腸にかけて壁の肥厚,硬化を認め,同部を授動した際に背側より膿の流出と穿孔部を認めたため回盲部切除を施行した.切除標本では,回盲弁より5mm口側回腸に憩室を認め,背側に穿破し後腹膜に膿瘍を形成していた.術後経過は良好で術後第17病日に退院した.
  • 小泉 岐博, 古川 清憲, 田中 宣威, 瀬谷 知子, 金沢 義一, 田尻 孝
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2278-2281
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    Meckel憩室内のアニサキス感染により憩室が癒着し,イレウスを発症した症例を経験したので報告する.症例は36歳,男性.突然の腹痛にて発症し,イレウスにて入院となった.イレウス管による保存的治療でイレウスは解除したが,2カ月後にイレウスが再発したため腹腔鏡下手術を行った.Meckel憩室と腸間膜が癒着し,バンドの形成を認めた.切除標本の病理組織検査によりMeckel憩室内にアニサキス虫体を認め,アニサキス感染が憩室炎を引き起こし,癒着を生じたことが明らかとなった.Meckel憩室を術前に診断することは困難であり,腹腔鏡が診断に有用であった.消化管アニサキス症は腸管の癒着を引き起こし,イレウスの原因となりうる.
  • 竹本 研史, 横尾 直樹, 和形 隆志, 重田 孝信, 多久和 晴子
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2282-2286
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,女性.3年前に胃癌に対し,胃全摘術を受けた既往がある.平成19年11月左下腹部痛にて受診した.精査にて胃癌再発と考えられる結腸狭窄によるイレウスと診断し,イレウス管留置の上,保存的加療を開始した.第7病日に開腹術を行ったが,腫瘍摘出困難につきバイパス術を施行.減圧目的にてイレウス管を留置した状態で閉腹した.術後5日目にイレウス管からの排液の増量と画像上イレウス所見の増悪を認め,腹部CT検査にて腸重積症との診断を得たため,緊急開腹術を施行した.手術所見では回盲部より100cm口側の小腸と同部位よりさらに100cm口側の小腸に順行性の腸重積を認めた.前者はイレウス管先端部を先進部としていたが,いずれも用手的に整復可能であった.術後は順調に回復し,退院となった.イレウス管が誘因と考えられる2カ所以上に同時発症した腸重積は極めて稀であり,自験例を含め現在までに本邦で8例の報告のみである.
  • 大城 泰平, 弥政 晋輔, 京兼 隆典, 東島 由一郎, 後藤 秀成, 松田 眞佐男
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2287-2292
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    空腸を原発とするBurkittリンパ腫による成人腸重積症の1例を経験した.症例は24歳,男性.嘔吐症状で発症し制吐剤,補液治療を受けていたが改善せず,約1カ月の後,腹部CT検査で小腸の重積症と診断した.手術では先進部に腫瘤を伴う空腸の重積を認め,小腸の部分切除を行った.病理組織検査でBurkittリンパ腫stageIIIAと診断し,多剤併用の化学療法を行い寛解が得られた.診断から12カ月が経過し,再発を認めない.
    成人のBurkittリンパ腫は稀な疾患で以前は予後不良とされていたが,現在では化学療法により寛解が望める疾患となっている.進行の速い高悪性度リンパ腫であり化学療法の早期導入が重要なため,各科の協力と迅速な対応が必須である.
  • 小林 照忠, 三浦 康, 柴田 近, 上野 達也, 木内 誠, 佐々木 巖
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2293-2296
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.心窩部痛を主訴に当院を受診し,十二指腸潰瘍穿孔と診断され入院した.保存的に治療するも改善なく,大網充填,腹腔ドレナージ術を行った.術中Bauhin弁より約60cm口側の回腸内に小豆大の漿膜下腫瘍を認め摘出した.術後に病理組織検査で回腸カルチノイドと診断され,水平断端に腫瘍が露出していた.腫瘍遺残とリンパ節転移の可能性を考慮し,改めて腸切除とリンパ節郭清を行った.病理組織検査では腸管内に腫瘍遺残は無かったがリンパ節に転移を認めた.1年10カ月後の現在,再発の兆候なく生存中である.緊急手術に際しても十分に術野の観察を行い,併存疾患の発見に努めることが重要と考えられた.また,腫瘍径10mm以上あるいは深達度mp以深の空・回腸カルチノイドに対しては,原則的に腫瘍切除のみではなく癌に準じたリンパ節郭清が必要と考えられた.
  • 椛島 章, 木下 忠彦, 岩下 幸雄, 伊藤 心二, 福澤 謙吾, 若杉 健三
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2297-2300
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.主訴はタール便.小腸に経口小腸透視検査にて6個,経肛門的小腸内視鏡にて3個の粘膜下腫瘍の存在が診断されたが,術前には総個数や存在範囲を確定診断できなかった.小開腹にて手術施行.回腸末端より155~255cmの回腸に12個の腫瘍を触知した.術中小腸内視鏡にて他の小腸に腫瘍が存在しないことを確認し,同部を切除した.術後の病理診断にて12個の腫瘍は全てカルチノイドと診断された.今回われわれは,本邦では頻度の稀な多発小腸カルチノイドを経験したので,若干の考察を加えて報告する.
  • 細川 洋, 丸山 敦, 亀井 茂男
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2301-2304
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    患者はRecklinghausen病のある68歳女性で,腹痛・食欲不振のため入院した.腹部単純X線像では小腸が著明に拡張しイレウスの所見であり,腹部CT検査では遠位小腸が著明に腫脹し同部位が閉塞機転と考えられた.減圧したが腸管穿孔したため,緊急手術を施行した.遠位小腸は著明に肥厚し,周囲臓器に癒着しながら一塊となっており,回盲部切除術を施行した.病理組織検査では高分化~中分化腺癌が多発しており,粘膜固有層から漿膜下層にかけて神経線維腫がみられた.Recklinghausen病に小腸癌が発生するという報告は少なく,文献的考察を加え報告する.
  • 佐藤 武揚, 中村 隆司, 大越 崇彦
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2305-2310
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.血便,肛門痛を主訴に近医を受診し直腸腫瘍を認めたため精査加療目的に当院紹介となった.疼痛が強く全身麻酔下に生検を行ったところ直腸悪性gastrointestinal stromal tumor(以下GIST)と診断された.巨大な腫瘍は小骨盤腔を占拠しており被膜破綻なしに切除不能と判断しneoadjuvant chemotherapyとしてメシル酸イマチニブ400mg/日投与を開始したところ腫瘍の著明な縮小を認めた.イマチニブ治療不応期に注意しつつ手術時期を決定し投与9カ月後,腫瘍体積が30%以上減少したことを確認し直腸切断術を施行し被膜を破綻することなく腫瘍を摘出した.病理組織診断では広範に壊死した腫瘍の内部に一部新たな病巣の発育と思われる部分を認めた.術前化学療法によりGISTの手術適応の拡大が期待されているが,その期間の決定には十分な配慮が必要と考えられる.
  • 中尾 健太郎, 有吉 朋丈, 松井 伸朗, 林 征洋, 角田 明良, 草野 満夫
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2311-2315
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,女性.主訴,右下腹部痛で,平成17年7月来院した.右下腹部に手拳大の腫瘤を触知し,同部位に圧痛を認めた.患者には検診歴はなかった.盲腸・上行結腸癌によるS状結腸,横行結腸浸潤,S状結腸内瘻化と診断し,平成17年8月に結腸右半切除,S状結腸部分切除,S状結腸人工肛門造設術を施行した.摘出標本では,90×60mmの2型の一部上行結腸に進展する盲腸癌を認め,横行結腸とS状結腸に浸潤と内瘻を形成し,それぞれ20×20mmと40×50mmの瘻孔がみられた.組織病理学的にmoderately differentiated adenocarcinoma,pT4,pN2,sH0,pP1,sM1(216),fStage IVと診断された.UFT-Eとロイコボリンによる化学療法を行ったが,術後5カ月で永眠された.複数個所に瘻孔を形成する大腸癌の報告はなく術後短期間で死亡したが,QOLの改善を認めた.
  • 松下 明正, 藍澤 喜久雄, 熊木 俊成, 坂口 博美, 久保 周, 春日 好雄, 上原 剛
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2316-2320
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,男性.右上腹部の腫瘤と高熱のため,当院に入院した.血液検査所見では,白血球数,CRP値の上昇を認め,CEAは47.1ng/ml(5>)と高値であった.腹部CT検査では,横行結腸間膜内に,内部は低吸収,境界が造影される腫瘤を認めた.大腸内視鏡検査では,横行結腸肝彎曲部に粘膜下腫瘍様の隆起性病変が見られ,中心に潰瘍を伴っていた.生検組織診断では,壊死組織のみで悪性細胞は認められなかったが,膿瘍形成を伴った悪性の粘膜下腫瘍と判断し,横行結腸部分切除術を行った.切除標本の病理組織診断は大腸粘液癌であった.粘膜下腫瘍様形態を示す大腸粘液癌は非常に稀で,本邦では9例が報告されているのみである.今回,膿瘍形成を伴い,特異な経過を示した粘膜下腫瘍様形態の大腸粘液癌の1例を報告し,その発育進展過程,臨床診断,および治療について考察した.
  • 森 亮太, 木村 昌弘, 桑原 義之, 三井 章, 石黒 秀行, 藤井 義敬
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2321-2324
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,女性.腹痛を主訴に平成14年4月中旬当院救急外来を受診した.外来で点滴加療中に大量の血便とともに,ショック状態となった.腹部は軽度膨満し,全体に軽度の圧痛を認めた.右上腹部に約5横指肝を触知した.緊急CTを施行したところS状結腸壁肥厚とS状結腸内への造影剤の漏出,さらに肝右葉を占拠する約15cmの腫瘤を認めた.以上より肝転移を伴うS状結腸癌からの出血性ショックと診断し緊急開腹術を施行した.開腹所見は,骨盤内で回腸末端,回腸間膜,S状結腸腫瘍が一塊になっていた.S状結腸癌の回腸および回腸間膜浸潤と判断しこれを一塊に切除,回腸は端々吻合し,結腸は口側切離端を人工肛門としてHartmann手術を施行した.S状結腸に2型の腫瘍が存在し,その潰瘍底が回腸間膜に穿通していた.大量出血の原因は腫瘍の回腸間膜への浸潤および同部の血管の破綻と考えられた.本症例は,小腸間膜に大腸癌が浸潤,穿通し多量の血便をきたすというきわめて稀な症例であった.若干の文献的考察を加え報告した.
  • 味元 宏道, 松原 長樹
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2325-2330
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    患者は84歳,男性.64歳時胃潰瘍に対する手術,82歳時S状結腸癌に対するS状結腸切除術の既往があった.平成18年1月中旬,突如右側腹部痛が出現した.近医の往診を受けたが,軽快しない為,当院を紹介され,入院となった.身体所見は腹部の正中部に手術瘢痕があった.臍部の右側に弾性硬の手拳大の腫瘤を認めた.単純X線像とCT検査にて,イレウスと診断し,発症翌日に開腹術を行った.手術所見は腹壁正中部に筋層,腹膜に浸潤する硬い腫瘤を認め,小腸と大腸に一部癒着していた.腹膜には多数の結節を認めた.手術は腫瘤切除術を行った.病理組織学的検査で,腹壁腫瘤は骨形成を伴ったadenocarcinomaであり,腹膜の結節もadenocarcinomaであった.S状結腸癌の再発巣が骨形成を伴うのは稀と思われるので報告した.
  • 大島 祐二, 井坂 直秀, 武内 俊章, 有田 誠司, 田中 元, 小池 直人
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2331-2336
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,男性.脳梗塞加療後に貧血の精査行い,上行結腸癌,多発肝転移と診断された.原発巣切除,肝右葉・尾状葉切除,左葉内の腫瘍核出術を施行した.切除標本の病理組織診断は,高分化型腺癌を主体とし,その中に腺管形成の乏しいクロモグラニン陽性の癌細胞を広範に有する大腸腺内分泌細胞癌であった.肝転移巣は内分泌細胞癌のコンポーネントのみが認められた.術後1カ月で残肝に転移巣出現.CPT-11によりPRが得られたが副作用が強く,術後1年1カ月後よりFOLFOX6療法を開始した.これにより,転移巣の更なる縮小を認め,残肝に最大1cmの低吸収域をわずかに認めるのみとなった.術後2年2カ月後からUFT,ホリナートカルシウムによる化学療法を継続中だが,術後3年5カ月の現在まで腫瘍の再燃を認めていない.大腸内分泌細胞癌とその化学療法に関し文献的考察を加え報告する.
  • 青笹 季文, 渡邉 善正, 南部 弘太郎, 塩谷 猛, 山田 太郎, 渋谷 哲男
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2337-2340
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    鼠径ヘルニア嚢に大腸癌腹膜転移をきたした症例を経験したので報告する.症例は75歳,男性.イレウスの疑いで入院となり,脾彎曲部に近い横行結腸に狭窄を伴う腫瘍を認め,結腸左半切除術を施行した.腹水,腹膜播種,肝転移等は認めず,病理診断は高分化腺癌,se,n0,ly1,v1であった.術後約1カ月後に右鼠径部膨隆を主訴に来院し,外鼠径ヘルニアの診断で初回手術から38日目にtension freeにて鼠径ヘルニア根治術を行った.ヘルニア嚢の病理学的診断にて横行結腸癌と同様の腺癌を認め,横行結腸癌の右鼠径ヘルニア嚢播種転移と診断された.他に転移を認めず,術後約3年経過した現在も再発徴候を認めていない.
  • 徳永 尚之, 稲垣 優, 濱野 亮輔, 常光 洋輔, 大塚 眞哉, 園部 宏
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2341-2346
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,高分化型肝細胞癌を否定しえなかった肝細胞腺腫の1切除例を経験したので報告する.症例は29歳,女性.26歳時,他疾患精査中の腹部CTにて,偶然肝S6領域に最大径約3cmの腫瘤を指摘されたが,良性肝腫瘍の診断にて経過観察となった.約3年後,腫瘍径の増大を認め,画像所見にても確定診断が困難であったため肝生検が施行された.病理診断では高分化型肝細胞癌が疑われ,肝S6亜区域切除が施行された.術後病理組織診断では核胞体比の増大を伴った異型の強い腫瘍細胞は目立たず,最終的に肝細胞腺腫と診断された.肝細胞腺腫は一般にhypervascularといわれるが,本症例のように脂肪化を伴い造影効果が乏しく高分化型肝細胞癌との鑑別がより困難となるものが存在し,注意が必要と考えられた.
  • 勝原 和博, 原 真也, 山本 洋太, 上田 重春, 延原 研二, 喜安 佳人
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2347-2351
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.2005年8月5日,左腎細胞癌で腎摘出術を施行された.腎摘出術前の腹部CTで肝左葉外側区域に10mm大の肝嚢胞性病変を指摘されていた.腎摘出術後,その嚢胞性病変が次第に増大し,嚢胞壁に壁在結節,隔壁の形成を認めたために,腎細胞癌の嚢胞性肝転移を強く疑い,2006年6月12日に肝外側区域部分切除術を施行した.組織病理診断では腎細胞癌の肝転移であった.手術後8カ月後のCTでは肝に新たな嚢胞性転移が多数認められた.悪性腫瘍の嚢胞性肝転移は比較的稀であり,機序は不明である.そのなかでも,嚢胞性肝転移に対して手術を行った報告は稀である.また,診断時と再発時のCT検査で一見すると単純肝嚢胞に類似した興味深い画像所見を呈していたので,文献的考察を加え報告する.
  • 池田 雄祐, 佐々木 路佳, 櫛田 隆久, 近藤 正道, 熊谷 文昭, 圓谷 敏彦
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2352-2356
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    われわれは52歳男性の胆石症に対する開腹胆嚢摘除術において術後2日目に発症した急性肺動脈血栓塞栓症を経験した.典型的症状(突然の呼吸困難と右下肢腫脹)と胸部造影CTにおける特徴的画像により下肢深部静脈血栓症が原因である肺動脈血栓塞栓症と診断し,即日,下大静脈フィルターを挿入し,ヘパリン大量投与を行った.その結果,術後4日目には,ほぼ正常の肺機能を回復させることが出来,術後16日目に軽快退院した.
    迅速な診断により的確な治療が即刻開始され良好な治療効果を得ることが出来た.
  • 小澤 さやか, 阿部 恭久, 花田 裕之
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2357-2361
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は93歳,女性.胸部不快感,嘔吐を主訴に近医を受診.胆嚢炎,総胆管結石の疑いで当院に紹介された.体温38.2°C,右季肋部に圧痛があり,血液検査では肝逸脱酵素と胆道系酵素の上昇,血小板減少,貧血を認めた.腹部超音波・CTで,腫大した胆嚢と総胆管・肝内胆管の拡張を認め,胆嚢内腔および総胆管内に不整形の高吸収域を認めた.ERCPでは,十二指腸乳頭部から血性胆汁の流出と,総胆管に陰影欠損を認め,PTCDで血性胆汁がドレナージされた.以上より胆道出血を伴った急性胆嚢炎,胆管炎の診断にて,入院当日,胆嚢摘出術を行った.胆嚢は腫大,緊満していた.摘出した胆嚢を切開すると内腔には血液が充満しており,15×13mmの隆起性病変が認められた.病理組織診断は高分化型管状腺癌であった.胆道出血を伴う胆嚢癌の報告は少ないため文献的考察を加え報告する.
  • 広松 孝, 新井 利幸, 佐伯 悟三, 岡田 禎人, 安部 哲也, 會津 恵司
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2362-2367
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.体重減少にて当院を受診した.腹部CT上,膵腫瘍は中心壊死し,左副腎に結節を認めた.ERCPでは膵尾部に腫瘤影を認め,腹部血管造影検査では大膵動脈から栄養されていた.膵尾部由来の腫瘍および左副腎腫瘍と診断し膵体尾部・脾摘出,左副腎摘出術を施行した.病理組織学的検査結果はendocrine tumor,low grade malignantであった.術後高Ca血症,左下副甲状腺過形成に対し左下副甲状腺切除術を施行し,MEN1と診断された.外来通院中,傍大動脈リンパ節転移を認め,リンパ節郭清術を施行した.さらに,16a2lateroに再発を認めたが,増大傾向みられないため再度リンパ節郭清を行った.初回手術より5年現在無再発生存中である.膵内分泌癌は発育が緩徐で比較的悪性度が低いため,大動脈リンパ節再発に対し,郭清により長期生存が得られる可能性が示唆された.
  • 高野 裕樹, 柴 浩明, 脇山 茂樹, 広原 鍾一, 三澤 健之, 矢永 勝彦
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2368-2371
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,女性.1994年,当院で左腎細胞癌に対し左腎摘出術(T2,N0,M0,stageII)を施行,以降前医に外来通院していた.2007年6月,腹部超音波検査で膵体部に直径40mmのhypoechoic tumorを認め当科紹介受診.腹部造影CT検査および腹部血管造影検査で,直径20mm,40mmのhypervascular tumorを認めた.腎細胞癌の手術既往もあることより,腎細胞癌膵転移の診断で,膵体尾部・脾合併切除を施行した.病理組織検査では,類円形核と淡明~弱酸性胞体を有する多稜形細胞の胞巣状増殖を認め,1994年手術時の腎細胞癌と類似した組織像を呈しており,腎細胞癌膵転移と診断した.腎細胞癌の膵転移は比較的稀であり,また長期経過後の再発であるため,文献的考察を加えて報告する.
  • 折本 有貴, 堀 明洋, 森岡 淳, 岡本 哲也, 芥川 篤史, 家田 純郎
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2372-2376
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は44歳,女性.2007年6月下血を主訴に当院を紹介受診.大腸内視鏡検査では肛門縁より約10cmの部位に中心部に浅い陥凹を伴う粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.生検で,高分化腺癌と診断された.注腸X線検査ではRs~Raにかけて前壁に長さ約5cmの片側性の陰影欠損像を認めた.立ち上がりはなだらかで鋸歯状変化を認めた.腹部造影CT検査では子宮壁および直腸壁は濃染され境界は不明瞭であった.以上より直腸癌,あるいは卵巣癌の直腸浸潤と診断し,2007年8月27日手術を施行した.病理組織学的には子宮内膜間質を伴った腺管の増殖を認め,直腸子宮内膜症と診断した.直腸間膜リンパ節内にも子宮内膜組織を認めた.腸管子宮内膜症で所属リンパ節に病変を伴うものは極めて稀である.実際に悪性腫瘍との鑑別が困難であった症例であり,若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 金森 淳, 金井 道夫, 渡辺 芳雄, 濱口 桂, 山口 竜三, 矢野 孝
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2377-2381
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は20歳,男性.2004年9月右側腹部痛,嘔吐および発熱を主訴に当院受診.腹部CTで臍右側に周囲の炎症を伴う辺縁がhigh,中央がlow densityの約4cmの腫瘍を認めた.血管造影では空腸動脈の分枝からの栄養血管が認められ,選択的造影にて腫瘍の一部が濃染されたが,小腸造影下CTでは腫瘍は腸管外に存在していた.以上より炎症を伴う腸間膜腫瘍を疑い入院9日目手術を施行した.腫瘍は大網に覆われ横行結腸間膜に位置しており,横行結腸とともに摘出した.割面像では,腫瘍の中心部は褐色調で辺縁は灰白色を呈する充実性病変であった.組織学的には砂粒体を伴う硝子化膠原線維の豊富な腫瘍様病変であり,炎症細胞浸潤を認めたため石灰化線維性偽腫瘍(CFP)と診断した.CFPは若年成人の皮下や軟部組織に好発するが,腹腔内に発生した例は本邦において自験例含め5例のみであり,極めて稀であると考えられた.
  • 澤崎 翔, 石川 善啓, 藤井 慶太, 加藤 直人, 藤沢 順, 松川 博史
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2382-2386
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は31歳,男性.前日夕方からの心窩部痛を主訴に受診.上腹部は板状硬で腹部全体に軽度の反跳痛を認めた.血液検査ではWBC 16,700/μl,CRP 0.30mg/dl.立位単純X線では有意な所見なし.腹部造影CTではDouglas窩,肝周囲の腹水および胃大彎下方に接する辺縁不整な腫瘤像を認め,内部は不均一で一部高いCT値を示していた.以上より汎発性腹膜炎,胃潰瘍穿孔疑いと診断し,緊急開腹術を施行.約1lの腹腔内出血があり,大網内に新鮮血腫を認めた.血腫を含め大網を部分的に切除し,腹腔内を洗浄した.術後経過は良好であった.病理学的検査では大網に梗塞や捻転を認めず,外傷の既往や出血性素因を示唆する所見もなく特発性大網出血と診断した.特発性大網出血の報告は稀であり,術前診断が難しい.急性腹症の鑑別として本疾患も念頭におく必要があると考えられたため若干の文献的考察とともに報告する.
  • 中山 智英, 鈴木 雅行, 竹本 法弘, 伊藤 清高
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2387-2391
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,男性.数日前より腹痛,発熱を自覚し当院救急外来を受診した.上腹部を中心とする圧痛,反跳痛を認め,腹部CTで胃および肝左葉の背側,膵の前面に最大径14cmの低吸収域の腫隆性病変を認めた.病変は一部ガス像を伴い解剖学的に網嚢腔に存在し,網嚢膿瘍の診断で緊急開腹術を施行した.胃および小網の背側に硬い腫隆を触知し,小網を一部切開すると大量の膿汁が排出された.胆嚢は壁が硬く肥厚しており,内部に1cm大の胆石を認め,胆嚢底部と十二指腸下行脚が瘻孔を形成していた.胆摘および十二指腸瘻孔部の閉鎖,網嚢腔の洗浄ドレナージを施行し手術を終えた.現在,腹腔内膿瘍の再発なく経過している.
    網嚢膿瘍は腹腔内膿瘍の中でも重症化しやすいため,早期のドレナージを必要とする病態である.われわれは穿孔性胆嚢炎が原因で巨大網嚢膿瘍を形成した1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 河瀬 勇, 高橋 幸二
    2008 年 69 巻 9 号 p. 2392-2395
    発行日: 2008年
    公開日: 2009/03/05
    ジャーナル フリー
    ショックを伴う腹腔内出血に対しては緊急手術を行うことが多く,出血源の同定・止血が肝要である.今回,われわれはショックに陥った特発性腹腔内出血症例に遭遇し,緊急手術を施行して良好な結果を得た.症例は52歳男性で,腹痛・嘔吐・意識レベル低下にて救急搬送された.搬入時ショック状態で,CTにて大量の腹水と脾門部から腹側に巨大血腫を認めた.腹部造影CT・血管造影で出血源を同定できず,緊急開腹術にても出血源不明で,脾摘および盲嚢内血腫除去を施行した.経過良好で第9病日に退院,術後約6カ月で再発はない.特発性腹腔内出血の報告は,1909年から1998年の間に世界中で110例と稀である1).われわれの調査でも,本邦において7例の報告をみるのみであった.われわれが経験した特発性腹腔内出血によるショック症例を,開腹手術の是非を含めた文献的考察を加え報告する.
feedback
Top