日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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70 巻, 3 号
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原著
  • 内山 哲之, 北山 卓, 阿部 友哉, 大石 英和, 小田 聡, 伊勢 秀雄
    2009 年 70 巻 3 号 p. 639-644
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    SSI予防に体内での結紮縫合を絹糸でなく合成吸収糸で行うことの有用性は知られているが,費用対効果は明確ではない.今回われわれは,一般的な消化器外科手術での体内縫合結紮に合成吸収糸を使用しSSI予防とその経済効果について検討を行った.2004年10月~2006年9月に当院で施行した開腹手術のうち幽門側胃切除,胃全摘,結腸切除,直腸切除(切断含む)の4術式257例を対象とした.体内での絹糸使用を中止した05年10月を中間点としてSSIサーベイランスに基づく結果を前期群・後期群にわけて比較した.後期群では,全手術で縫合糸にかかるコストを算出し,吸収糸をすべて絹糸とした場合との推定差額を推定コスト増大額として算出した.後期群でSSI発生率,在院日数はともに低下した.全術式で推定コスト増大額よりも術後医療費は減額していた.よって合成吸収糸使用に伴うコスト増大は入院医療費の減額から相殺できる可能性があり,医療費の有効利用に寄与すると考えられた.
  • 細田 充主, 高橋 將人, 高橋 弘昌, 藤堂 省
    2009 年 70 巻 3 号 p. 645-649
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    乳房超音波エラストグラフィは非侵襲的診断方法として徐々に普及が進んでいるが,その診断的位置づけは未だ明らかにされていない.2006年11月から2007年11月に当科にてエラストグラフィを施行した72乳腺腫瘤(良性31腫瘤,悪性41腫瘤)を対象にその診断的意義を検討した.機器は日立メディコ製のEUB-7500を使用し,判定にはTsukuba elastography scoreを用いた.平均スコアは,良性腫瘤1.8±0.9,悪性腫瘤3.7±1.3(p<0.001)でスコア4以上を悪性と判定すると,感度は70.9%,特異度は90.3%であった.同時に評価したB modeカテゴリー判定では感度が97.6%,特異度は58.0%であり,エラストグラフィが特異度において良好であった.感度は腫瘤径大,浸潤癌,組織学的高gradeの腫瘤で高い傾向がみられた.乳房超音波エラストグラフィは,B modeに比べて感度は劣るが,特異度は優れていた.単独では悪性疾患の確定にはやや不適当であるが,B mode画像に併用することにより良性疾患の判別が可能となり,無駄な生検の回避には有用である.
  • 花村 徹, 横山 史朗, 渡辺 正秀
    2009 年 70 巻 3 号 p. 650-655
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    乳癌症例の臨床病理学的諸因子と腋窩リンパ節転移との関連性を検討し,センチネルリンパ節生検(SNB)の適応を再考した.
    対象は原発性乳癌130例(SNB適応90例,非適応40例)で,SNBはIndocyanine green及びIndigocarmineによる蛍光・色素併用法を施行した.
    SN転移陽性群ではSN転移陰性群に比べ,原発巣のリンパ管侵襲陽性例が有意に多く,組織学的腫瘍浸潤径が11mm以上の症例が多かった.リンパ管侵襲とリンパ節転移の関連性は,SNB非適応症例群においても確認された.また,T3N01)症例にはリンパ節転移を認めなかった.
    針生検あるいはマンモトーム生検により,原発巣のリンパ管侵襲の有無があらかじめ判明している症例では,その結果をふまえてSNBの適応を決定すべきと思われた.また,最大径10mm以下のN11)症例やT31)症例に対して,SNBの適応を拡大しうる可能性が示唆された.
  • 横山 貴司, 渡辺 明彦, 右田 和寛, 中川 顕志, 井上 隆, 向川 智英, 大山 孝雄, 石川 博文
    2009 年 70 巻 3 号 p. 656-666
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    はじめに:胃癌骨転移の頻度は少ないが,quality of lifeを著しく悪化させるため,その特徴を知ることは重要である.対象と方法:1991年から2007年までに当科で経験した初発胃癌で,手術あるいは化学療法を施行した1,084例のうち骨転移を呈した16例を対象とした.16例の臨床像と予後因子,骨転移単独症例の臨床像,本邦報告例について検討した.結果:骨転移症例は比較的若年の女性,U領域,4型,未分化型,脈管侵襲やリンパ節転移の高度な進行癌が多かった.骨転移発症までの期間は中央値266日(23~1,579日)であった.骨転移発症からの生存期間は中央値102日(8~310日),6カ月生存率は42%と不良であったが,1980年代の報告と比較すると良好であった.骨転移発症後の予後因子として単変量解析で女性,66歳以上の高齢,PS不良例,化学療法非施行例が挙げられた.多変量解析では年齢,PS,化学療法の有無が独立した予後因子となった.骨転移単独症例は4例で原発巣の悪性度が低いにもかかわらず,リンパ節転移の高度な症例が多かった.骨転移後の治療法では9例に化学療法が施行され,TS-1を中心として多剤を投与できた症例の生存期間は比較的良好であった.結語:骨転移症例の特徴を十分に理解し,早期発見から化学療法を施行することにより,予後が改善する可能性が示唆された.
  • 直井 大志, 佐野 渉, 中田 泰幸, 矢野 健太郎, 鈴木 大, 知久 毅, 田代 亜彦
    2009 年 70 巻 3 号 p. 667-672
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    上部消化管穿孔に対する保存的治療適応基準の妥当性を明らかにするため,2000年1月から2007年12月に当科で経験した上部消化管穿孔症例で入院時に保存的治療を選択した28例(十二指腸潰瘍穿孔20例,胃潰瘍穿孔5例,胃癌穿孔3例)をretrospectiveに検討した.当科における保存的治療の適応基準は,(1)全身状態が安定していること,(2)腹膜刺激症状が上腹部に限局していること,(3)CTにてダグラス窩に腹水がない,もしくは少量であること.全ての適応基準を満たした場合,患者と家族にinformed consentを得て,保存的治療を開始し,経過観察中に腹部症状の悪化や腹水が増量した症例は,緊急手術に移行した.6例が手術に移行したが,全例軽快退院した.保存的治療完遂群と手術移行群において,受診時の患者データや在院日数等を比較したが統計学的有意差は認めなかった.途中経過を厳重に観察し,速やかに手術移行できる体制があれば,上部消化管穿孔に対し,当院の適応基準で保存的治療を開始して問題ないと思われた.
症例
  • 中川 剛士, 佐藤 隆宣, 桑山 隆志, 菊池 章史, 河内 洋, 杉原 健一
    2009 年 70 巻 3 号 p. 673-676
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は35歳,女性.22歳時に右非浸潤性乳管癌に対して,乳房部分切除,腋窩郭清を施行された.13年後,右E領域に2cmの浸潤性乳管癌の診断で,乳房切除術を行った.リンフォシンチグラフィーでは腋窩方向にはリンパ流はなく,胸骨傍リンパ節にhot spotを認めたため,第2肋間の胸骨傍リンパ節に対してセンチネルリンパ節生検を施行したところ,転移陽性であった.胸骨傍リンパ節の郭清は,生命予後の改善にはならないが,転移の有無の確認は,術後の補助療法決定には有用であると思われた.
  • 水田 誠, 上田 毅, 木島 寿久, 和又 利也, 菅沢 章
    2009 年 70 巻 3 号 p. 677-680
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,女性.2005年5月に直腸癌にて低位前方切除術を受けたが,経過観察中に両側の肺転移が出現し,2006年8月17日に胸腔鏡補助下に左肺部分切除を受けた.その際左乳頭部の色素沈着を指摘され,術後捺印細胞診を行い悪性黒色腫が疑われた.2006年9月6日に左胸筋温存乳房切除術と腋窩郭清を施行した.病理組織診断はHMB-45が陽性で悪性黒色腫と診断された.腋窩リンパ節には転移は認められなかった.術後は直腸癌の再発予防のためUFT/LV内服が行われ,手術から約2年経過した現在いずれも転移再発を認めていない.乳頭部の悪性黒色腫は極めて稀で,文献的には本邦では過去に3例の報告があるのみである.
  • 春日井 敏夫, 池田 庸子, 斎藤 雄史
    2009 年 70 巻 3 号 p. 681-685
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は19歳,女性.2004年1月,血痰で来院.胸部CTで下行大動脈より左肺下葉に流入する径0.8cmの異常動脈を認めた.気管支鏡検査で気管支の走行に異常を認めなかった.肺動脈造影で左総肺底動脈は欠損していた.大動脈造影では異常動脈の血流は左肺底区に流入していた.以上より左肺底動脈体動脈起始症と診断し,2004年3月に左肺下葉切除術を施行した.左肺下葉の胸膜は著明な血管増生を認めた.異常動脈は下行大動脈より肺靱帯内を走行し左肺底区に流入していた.術後経過は良好で,血痰は消失した.
  • 尾崎 良智, 寺本 晃治, 藤野 昇三
    2009 年 70 巻 3 号 p. 686-690
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.特に基礎疾患は無く,2003年の検診で右中肺野の異常陰影を指摘され,他医にて経過観察とされた.2年後の胸部X線で陰影の増大を指摘されたがその間,自覚症状はなかった.胸部CTでは右中葉内に6×5cm大の嚢胞性腫瘤を認めた.気管支鏡生検では確定診断がつかず,培養検査でも一般細菌,真菌,抗酸菌はすべて陰性であった.2005年11月に右中葉の大部分を占める嚢胞性病変に対し,右肺中葉切除を行った.病理組織所見では嚢胞壁内腔は気管支上皮で覆われ,嚢胞内容物には壊死組織と,隔壁を有さず直角に分枝する菌糸を認め,その特徴から菌球型肺ムコール症と診断された.嚢胞壁には気管支軟骨を含むことから嚢状に気管支拡張を伴って感染を起こした可能性が示唆された.術後2年を経過しているが再発を認めていない.
  • 保田 紘一郎, 片岡 正文, 仁熊 健文, 三村 哲重, 大原 利憲
    2009 年 70 巻 3 号 p. 691-696
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    膵癌は術後再発率の高い予後不良な疾患である.膵癌術後の肺転移に対して切除術を施行した2例を経験したので報告する.症例1は75歳男性で膵体部癌に対して膵体尾部切除後48カ月で胸部異常陰影を指摘された.原発性肺癌の診断で右下葉切除を施行したが,術後5カ月で右上葉に再び腫瘤が出現し上葉部分切除を行った.免疫組織学的検討の結果,両病巣とも膵癌の肺転移と診断された.多発肺転移,腹膜播種をきたし肺転移切除後37カ月で永眠された.症例2は81歳男性で膵頭部癌に対して幽門輪温存膵頭十二指腸切除後51カ月で胸部異常陰影を指摘された.原発性肺癌の診断で右下葉切除を施行した,免疫組織学的検討にて膵癌の肺転移と診断された.術後6カ月現在無再発生存中である.膵癌術後に腹腔内臓器転移や腹膜播種を伴わず肺転移をきたし,それに対して切除術を施行された症例は稀であり報告する.
  • 中村 幸生, 松村 晃秀, 桂 浩, 阪口 全宏, 伊藤 則正, 北原 直人
    2009 年 70 巻 3 号 p. 697-701
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,女性.2006年12月,近医で施行された腹部超音波検査にて右胸水と腹水貯留を指摘.2007年6月頃より右胸水が急激に増加しドレナージを施行され,胸水中のトリグリセリド高値であり乳糜胸と診断された.腹水に対してもダグラス窩穿刺を施行され,乳糜腹水と診断された.2007年8月,当院紹介入院となった.入院時の胸部レントゲン検査,CT検査にて右胸水貯留を認めた.腹部CTではダグラス窩に少量の腹水を認めた.同年9月手術を施行.開胸下に横隔膜直上で胸管を結紮した.食事を開始したところ,ドレーン排液の混濁が見られたため,胸膜癒着術を施行したところ,乳糜の漏出は止まり,第23病日に退院となった.乳糜胸,乳糜腹水の原因は不明であり,特発性乳糜胸腹水と診断した.術後10カ月の現在,少量の腹水貯留を認めるものの,乳糜胸の再燃はみられていない.
  • 黒野 格久, 田中 直, 三谷 眞己, 全並 秀司, 矢野 智紀, 藤井 義敬
    2009 年 70 巻 3 号 p. 702-706
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は45歳,男性.検診で右上肺野に腫瘤陰影を指摘された.胸部CT検査では右腕頭動脈および上大静脈に接して径3cmの境界明瞭で辺縁平滑な腫瘤を認めた.横隔神経由来の神経鞘腫と診断し治療目的に胸腔鏡下手術を施行した.腫瘍を核出し,横隔神経は温存した.術後一時的な横隔神経麻痺を認めたが,術後第7病日には回復した.術後病理診断にて神経鞘腫と診断された.術中所見から横隔神経由来と考えられた.
  • 木山 茂, 安村 幹央, 棚橋 俊介, 林 昌俊
    2009 年 70 巻 3 号 p. 707-711
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は30歳代,女性.主訴は胸痛,心窩部痛.2008年4月中旬に心窩部痛を認めていた.症状増悪し,さらに胸痛を認めるようになり当院受診となった.画像上,胸腔内に胃泡と内容物の貯留を認めた.上部消化管内視鏡検査では胃内腔に陥凹を認めた.内視鏡下で陥凹部位に造影チューブを挿入し,造影すると胸部レントゲン写真での胃泡と一致して,造影剤の流入を認めた.以上より成人Bochdalek孔ヘルニア嵌頓,ヘルニア内容は胃と診断した.嵌頓部位にドレナージチューブを留置し,入院翌日緊急手術を施行した.胸腔鏡下でヘルニア門と嵌頓した胃,大網間の癒着を剥離し,腹腔鏡下でヘルニア内容を腹腔内に還納した.ヘルニア門の閉鎖は胸腔鏡下で行った.術後,術前に呈していた症状は消失し,以後再発を認めていない.胸腔鏡と腹腔鏡を併用することで,安全に手術を施行でき,良好な経過をえたので報告する.
  • 清水 尚, 田中 洋一, 川島 吉之, 坂本 裕彦, 黒住 昌史
    2009 年 70 巻 3 号 p. 712-718
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    同時性食道癌下咽頭癌の根治術後,再建空腸に転移をきたした食道扁平上皮癌の1切除例を経験したので報告する.症例は80歳,男性.45歳時に胃潰瘍で幽門側胃切除術,2005年4月に,同時性食道癌下咽頭癌で胸壁前空腸再建を用いた根治術を受けた(食道癌:中分化型扁平上皮癌,pT3,pN2,pStageIII,下咽頭癌:低分化型扁平上皮癌,pT3,pN1,pStageIII).2006年8月より前胸部下縁に発赤・疼痛・膿汁分泌を伴う腫瘤を認め,嘔気・嘔吐で経口摂取不能となったため当科入院となった.精査の結果,食道癌もしくは下咽頭癌の胸壁前挙上空腸転移および胸壁浸潤を疑い,胸壁皮膚合併切除を伴う挙上空腸部分切除術を施行した.皮膚欠損部は外腹斜筋皮弁を用いて再建した.病理診断は食道癌に類似した中~高分化型扁平上皮癌であり,食道癌の転移と診断した.文献上,再建空腸に転移をきたした食道扁平上皮癌の報告例はなく,極めて稀な症例を経験したので報告する.
  • 前田 賢人, 中川 淳, 小林 敏樹, 竹花 卓夫, 米沢 圭, 宮下 正
    2009 年 70 巻 3 号 p. 719-723
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,男性.2000年6月に胸部中部食道癌にて右開胸食道亜全摘術・3領域リンパ節郭清・胃管胸骨後経路再建術を施行され,病理組織学的検索で類基底細胞癌pT1bN0M0,pStageIと診断された.55歳時の2006年10月に嗄声と呼吸困難が出現し,胸腹部CT検査で50×40mm大の106recRリンパ節の転移再発を認め,気管が圧排され,刀鞘状に変形し狭窄していた.シスプラチンと5-FUを併用した化学放射線療法および引き続く化学療法が奏効し,再発確認から2年経過後も再燃なく,健在である.食道類基底細胞癌でも術後5年以降の再発があり,長期にわたるフォローアップが重要である.また,限局したリンパ節再発例では,予後不良とも言われる類基底細胞癌においても扁平上皮癌と同様に切除や化学放射線療法など積極的な治療が有効な場合もある.
  • 高橋 善明, 谷口 正美, 小路 毅, 松田 巌, 山崎 將典, 米川 甫
    2009 年 70 巻 3 号 p. 724-728
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.統合失調症で内服治療中に向精神薬の副作用による尿閉と尿路感染症のため泌尿器科入院となった.腹痛精査の上部消化管内視鏡で噴門直下に頂部の潰瘍形成を伴った径5cmの粘膜下腫瘍を認め,生検で胃神経鞘腫と診断された.当科紹介となり胃全摘術を施行した.手術検体での病理組織学的検索では,S100(+),c-kit(-),CD34(-),SMA(-),MIB-1 labeling index5%であり,良性胃神経鞘腫と診断した.術後経過は良好で現在無再発生存中である.本症例において生検検体でのMIB-1 labeling indexは15%と手術検体での5%と比べて高値であった.核分裂像やMIB-1 labeling indexを用いた生検による術前の腫瘍の悪性度評価は困難であり,またGIST(Gastrointestinal stromal tumor)と同様に胃神経鞘腫もpotentially malignant tumorであるため,本症例についても今後の注意深い経過観察が必要であると考えられた.
  • 喜多 芳昭, 宮薗 太志, 萩原 貴彦, 才原 哲史, 夏越 祥次, 愛甲 孝
    2009 年 70 巻 3 号 p. 729-734
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,女性.心窩部違和感のため近医受診,上部消化管内視鏡検査で陥凹性病変認め組織学的に胃癌と診断,当院紹介となった.0-IIc早期胃癌の診断でD1+αリンパ節郭清を伴う幽門側胃切除術を施行,一部sm浸潤を伴う早期胃癌で,腫瘍周囲の胃粘膜にサルコイド反応を認めた.また郭清したリンパ節に転移は認めなかったが,胃粘膜同様サルコイド反応を認めた.悪性腫瘍に伴うサルコイド反応は胃癌,肺癌に多いとされているが,早期胃癌において胃壁にもサルコイド反応を認めた報告は自験例を含め6例と稀であり,文献的考察を加え報告する.
  • 赤丸 祐介, 弓場 健義, 山崎 芳郎, 森本 芳和, 奥田 紘子
    2009 年 70 巻 3 号 p. 735-739
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    腎細胞癌は肺,骨などに血行性転移をきたすが,消化管への転移は稀である.今回われわれは腎細胞癌術後12年目に孤立性十二指腸転移をきたした1例を経験した.症例は78歳,男性.66歳時に左腎細胞癌に対して根治的左腎摘除術を施行された.黒色便の精査目的で施行した上部消化管内視鏡検査で,十二指腸球部に頂部に潰瘍形成を伴う粘膜下腫瘍様隆起性病変を認め,その生検にて腎細胞癌の転移と診断した.腹部CT検査では十二指腸から膵頭部に4cm大の均一に造影される腫瘍が存在した.2007年10月,膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本の病理組織学的検索では,淡明異型細胞の胞巣状増殖を認め,腎細胞癌の転移と診断した.また腫瘍は十二指腸筋層を首座とし,膵組織とは近接するが浸潤を認めなかったことより,膵転移ではなく十二指腸壁への転移と診断した.腎細胞癌十二指腸転移は稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 三口 真司, 眞次 康弘, 小橋 俊彦, 中原 英樹, 漆原 貴, 福田 康彦
    2009 年 70 巻 3 号 p. 740-745
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    今回われわれは梅の種子が原因でイレウスをきたした1例を経験したので報告する.症例は82歳,女性.8年前に子宮癌で放射線療法施行歴があった.嘔吐,腹痛を主訴に当院を受診した.イレウスと診断しイレウス管減圧による保存的加療を2週間施行したが,軽快しなかったため手術を施行した.回腸全体に放射性腸炎を認め,回腸末端の狭窄部位に梅の種子が嵌頓し穿孔しており同部位を切除した.植物種子によるイレウスの本邦報告例は自験例を含めて15例のみで非常に稀である.原因となった異物としては梅の種子が11例と圧倒的に多かった.また,13例は原因となる器質的疾患が存在していた.大腸の場合は大腸癌,小腸の場合は放射性腸炎が多かった.何らかの腸管狭窄を伴う場合は,異物が梅の種のように比較的小さくてもイレウスの原因となりうることを十分考慮する必要がある.また全例術前に異物誤嚥を確認できておらず繰り返しの問診が重要であると考えられた.
  • 甲谷 孝史
    2009 年 70 巻 3 号 p. 746-750
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は,68歳,男性.既往歴:1991年10月胃悪性リンパ腫で幽門側胃切除術を施行.現病歴:1998年9月当院にて絞扼性イレウスで小腸広範切除,十二指腸回腸吻合術を施行し,短腸症候群となった.そのため,少量の経口摂取に加え在宅中心静脈栄養法にて栄養管理をしていた.その間,1カ月に1回の頻度での血液検査などから栄養状態を評価し,その投与量を決定してきた.以後,経過順調であったが,2007年3月頃より,著明な食欲不振を認めたため,完全静脈栄養法(以下TPNと略)とした.同年5月頃より,下肢痛が出現し,爪床部白色化を認め,血清セレン(以下Seと略)値が2.0μg/ml未満であり,Se欠乏症と診断した.Se製剤を経静脈投与したところ,3カ月後には下肢痛・爪床部白色化は改善した.短腸症候群における長期TPN施行症例は,Se欠乏症が必発であるが,比較的短期間のTPN施行症例でSe欠乏症が発症したため報告する.
  • 小山 明男, 宮田 完志, 三宅 秀夫, 湯浅 典博, 竹内 英司, 小林 陽一郎
    2009 年 70 巻 3 号 p. 751-755
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例1は57歳,女性.腹膜刺激症状と両下腿に紫斑を認め,CTで小腸壁肥厚・腹水貯留を認め緊急手術を施行した.小腸全体に散在性の発赤を認め,術後の皮膚生検にてSchönlein-Henoch紫斑病と診断した.症例2は74歳,男性.腹部に反跳痛を認めたが四肢に紫斑は認めなかった.CTで腹水貯留と小腸壁の肥厚があり,腹水穿刺にて血性腹水を認めたため緊急手術を施行した.小腸と横行結腸に多発性の発赤と浮腫を認め開腹所見から本症を疑った.術後3日目に両下肢に紫斑が出現したが皮膚生検では確定診断できなかったため,上部消化管内視鏡検査を行い胃・十二指腸粘膜の生検にて本症と確定診断した.本症は腹痛を主訴とし紫斑がないときは診断が難しいが,消化管内視鏡検査を行って生検でleukocytoclastic vasculitis,あるいは血管壁へのIgA免疫複合体の沈着を確認することが診断に有用である.
  • 前田 好章, 篠原 敏樹, 砂原 正男, 濱田 朋倫
    2009 年 70 巻 3 号 p. 756-760
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下大腸切除術中の,小開腹創からの小腸検索にて発見された,空腸異所性膵の1例を経験したので報告する.症例は84歳,男性.上行結腸癌と診断され,腹腔鏡下結腸右半切除術が施行された.手術終了前の小開腹創からの全小腸検索で,Treitz靱帯から70cmの空腸に20mm大の腫瘍を認め,空腸部分切除を追加した.病理組織学的検査では,空腸の病変は,HeinrichI型の異所性膵と判明した.腹腔鏡手術においては,十分な腹腔内観察および小開腹からの小腸検索を行い,副病変,腸管損傷等の有無を検索することが重要である.
  • 遠藤 豪一, 阿部 幹, 竹重 俊幸, 佐藤 哲, 花山 寛之, 斉藤 敬弘
    2009 年 70 巻 3 号 p. 761-765
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    青色ゴムまり様母斑症候群Blue rubber bleb nevus syndrome(以下BRBNS)は全身皮膚および消化管に血管腫が多発する稀な疾患であり,消化管出血の治療に難渋することが多い.今回われわれは小腸多発性血管腫からの出血に対し,術中内視鏡下硬化療法を併施することにより,小腸を可能な限り温存しえた症例を経験したので報告する.症例は49歳,女性.下血,息切れを主訴に来院した.来院時著明な貧血を認め精査にて消化管多発性血管腫よりの出血を認め特徴的多発性の皮膚および消化管血管腫よりBRBNSと診断した.胃十二指腸,大腸の血管腫に対し内視鏡下硬化療法行うも小腸血管腫よりの出血が持続し手術を施行した.術中用手的誘導による小腸内視鏡下硬化療法を併施することにより小腸を可能な限り温存しえた.術後経過も良好である.
  • 前田 健晴, 大地 哲史, 土居 浩一, 緒方 健一, 鈴木 俊二
    2009 年 70 巻 3 号 p. 766-771
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,男性.1週間前から腹痛,発熱あり.徐々に増強するため当院受診.臍周囲に強い圧痛と筋性防御を認めた.WBC 17,080,CRP 17.75と強い炎症反応を認め,CTにて腹部正中に内部air-fluid levelを有する12cm大の腫瘤を認めた.原因不明の腹腔内膿瘍と診断し,抗生物質による保存的治療を開始したところ翌日には炎症反応の低下を認め腹痛も軽快した.しかし11日目に腹痛が増悪し,CTにて膿瘍の増大を認めたため緊急手術を施行した.膿瘍は小腸から発生した15cm大の嚢胞状の腫瘍であり,腫瘍を含めて小腸切除を行った.割面では壁は薄く内部には壊死組織を認め,小腸と瘻孔を形成していた.病理組織では短紡錘形,類上皮型の腫瘍細胞が束状,シート状に増殖しており,免疫染色ではc-kit陽性でGISTと診断した.腫瘍内に膿瘍を形成したGISTの報告は稀なため,文献的考察を加えて報告する.
  • 境 雄大, 小倉 雄太, 若山 文規, 兒玉 博之, 成田 淳一
    2009 年 70 巻 3 号 p. 772-777
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,男性.検診で胸部X線写真上の異常陰影を指摘された.CTで右上葉に胸壁浸潤を伴う最大径10cmの腫瘍が認められた.喀痰細胞診,擦過細胞診,経気管支肺生検で肺癌と診断された.cT3N0M0,StageIIBの評価で,右上葉切除術,第3,4肋骨合併切除,ND1を行った.病理組織標本では扁平上皮癌と低分化腺癌が混在していたが,免疫染色で低分化腺癌と診断された.病期はT3N2M0,StageIIIAであった.術後化学療法を行ったが,術後7カ月で脳転移が出現し,腫瘍摘出術,全頭蓋照射を行った.術後10カ月で癌性胸膜炎,縦隔リンパ節転移,腸閉塞をきたした.腹部CT,超音波検査で腫瘍による腸重積が疑われた.開腹術を行うと,回腸に腫瘍による重積がみられ,小腸切除術を行った.病理組織学的に肺癌の小腸転移と診断された.開腹術後第13病日に死亡した.肺癌の小腸転移による腸重積の本邦報告例を集計し,文献的考察を加えて報告する.
  • 森 友彦, 水野 礼, 伊東 大輔, 古元 克好, 小切 匡史
    2009 年 70 巻 3 号 p. 778-782
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,女性.右下腹部痛を主訴に他院を受診し,急性虫垂炎と診断され保存的加療を受けた.症状は消失し,退院となったが,しばらくして右下腹部の違和感をみとめたため,虫垂炎の再発を心配し,当院を受診した.外来にてフォローを行ったところ,症状は消失し,炎症反応も消失したが,虫垂の腫脹は改善しなかった.FDG-PETを行ったところ,陽性所見をみとめたため,手術を施行した.術中迅速病理診断で腺癌と診断され,また虫垂先端がS状結腸に穿通していたため,右半結腸切除(D3)+S状結腸部分切除を行った.病理検査において虫垂粘液嚢胞腺癌と診断された.虫垂炎の保存的治療後も悪性腫瘍の可能性を考えたフォローアップが必要であり,その際FDG-PETは有用な検査であると考えられた.
  • 藍澤 哲也, 岡村 一樹, 内田 雄三, 森山 初男, 野口 剛
    2009 年 70 巻 3 号 p. 783-786
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性.腹痛,下血を主訴に前医より紹介入院となった.入院時の腹部CT検査および大腸内視鏡検査で虚血性大腸炎による腸管穿孔の診断を行ったが,まずは保存的加療を優先させた.しかし第3病日,腹部CT検査で遊離ガスの増加,腹水の出現および炎症反応の増悪を認めたため緊急開腹手術を施行した.しかし明らかな腸管壊死や腸管穿孔部位は認めず,腹腔内洗浄およびドレーン留置を行った.基礎疾患にHTLV-1-associated myelopathy(以下HAMと略す)があり,腹水の培養でPseudomonas aeruginosaCandida albicansが検出されたことから,免疫能の低下により重症化したものと推測された.自験例のように免疫能の低下している患者に虚血性大腸炎をきたした場合,重症化する可能性があり,その点に十分留意する必要があると考えられた.
  • 神崎 章之, 西 鉄生, 伊藤 昭宏, 榊原 聡
    2009 年 70 巻 3 号 p. 787-792
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    消化管に発生する神経鞘腫は比較的稀な疾患であるが,その中でも大腸に発生する神経鞘腫は非常に稀である.今回われわれは上行結腸に発生した神経鞘腫により腸重積をおこした症例を経験したので報告する.症例は42歳女性,検診で便潜血を指摘され当院受診,注腸検査で上行結腸に約3cmの隆起性病変を認め入院となった.大腸内視鏡,超音波内視鏡検査で頂部に陥凹を伴う粘膜下腫瘍を認めた.入院10日目に腹痛出現,右上腹部に腫瘤を触知し,腸重積を疑い注腸検査を行った.上行結腸腫瘍を先進部とした腸重積と診断し,整復を行った.翌日再び腸重積を発症し再度整復を行った.入院14日目に右半結腸切除術を施行した.病理所見では,腫瘍は紡錘形細胞からなり,免疫染色でCD34,c-kit,α-SMA陰性,S-100蛋白陽性でKi-67陽性細胞は2%未満であった.以上より良性の神経鞘腫と診断した.術後1年再発転移は認めていない.
  • 塚田 祐一郎, 吉福 清二郎, 平野 龍亮, 笹原 孝太郎, 岸本 浩史, 田内 克典
    2009 年 70 巻 3 号 p. 793-797
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は30歳,男性.下痢,血便にて受診.下部消化管内視鏡検査にて横行結腸に4cm大の結膜下腫瘍を認め,18F-fluorodeoxyglucose positron emission tomography(以下,FDG-PET)にて集積像を示したため,悪性粘膜下腫瘍の疑いで横行結腸部分切除術を施行した.組織学的には,比較的均一な紡錘形細胞が束状ないしは交錯状に増生しており,免疫染色検査では,α-SMA(+),c-kit(-),CD34(-),S100(-)であり,平滑筋腫との診断を得た.核分裂像に乏しく,壊死,出血なども見られず,大きさも5cm以下であり,明らかな悪性所見は認められなかった.本来良性である消化管平滑筋腫にFDG-PETで集積がみられたという報告はなく,文献的考察を加え報告する.
  • 間遠 一成, 増田 英樹, 間崎 武郎, 石井 敬基, 青木 信彦, 逸見 明博
    2009 年 70 巻 3 号 p. 798-801
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    71歳,男性.平成6年6月に直腸癌のため腹会陰式直腸切断術を受けている.術後再発徴候は無く,定期検診を続けていた.平成17年7月頃より人工肛門部からの出血が度々認められ,平成18年4月には,同部位に顆粒状の粘膜異常を伴う1.5cm大の粘膜下腫瘤を認めるようになったため,平成18年5月に腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的診断では粘膜下に高度の炎症細胞浸潤を認め,結節状の腫瘤を形成していた.腫瘍性変化は認めず,炎症性偽腫瘍と診断した.直腸癌術後から隔日で洗腸を続けていたことが,炎症性偽腫瘍の原因になったと推察された.大腸原発の炎症性偽腫瘍では稀であり,人工肛門部での発症例はこれまでに報告がない.
  • 蝶野 晃弘, 内野 基, 松岡 宏樹, 中村 光宏, 池内 浩基, 冨田 尚裕
    2009 年 70 巻 3 号 p. 802-807
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は39歳,男性.発症14年の潰瘍性大腸炎,全大腸炎型,再燃緩解型.発症12年のサーベイランス大腸内視鏡検査では,cancer,dysplasiaは指摘されなかった.発症13年の注腸検査でも異常は指摘されなかった.発症14年目に腸閉塞を伴うS状結腸の狭窄を指摘され,転院となった.炎症反応の上昇,筋性防御が存在し,同日結腸全摘術を行った.閉塞性S状結腸癌で,腸間膜に多数の腹膜播種を伴いstageIVであった.病理学的には周囲にdysplasiaを伴うsignet ring cell carcinomaであった.注腸検査はサーベイランスには有用でなく,colitic cancerには急速に進行する悪性度の高い症例に留意する必要があると思われた.サーベイランス大腸内視鏡後,2年で進行大腸癌を合併した,colitic cancerの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 平田 晃弘, 内野 基, 松岡 宏樹, 中村 光宏, 池内 浩基, 冨田 尚裕
    2009 年 70 巻 3 号 p. 808-811
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.46歳時発症の潰瘍性大腸炎,全大腸炎型,再燃緩解型.発症11年の57歳時,難治性のため,他院で結腸全摘術,回腸直腸吻合術をうけた.以後,通院なく良好に経過していた.術後17年の74歳時,下血を主訴に前医を受診.残存直腸癌を指摘され,当科紹介となった.直腸切断術を行い,病理学的に残存直腸癌moderately differentiated adenocarcinoma,Rb,pA,pN0 stageIIの診断となった.癌周囲にhigh grade dysplasiaを認め,p53陽性であり,colitic cancerであると考えられた.潰瘍性大腸炎に対する回腸直腸吻合術は,癌発生のriskが高く,現在ではほとんど行われていない.過去の手術症例や高齢のために行った症例に対して,術後のサーベイランスが必要であることを示唆する1例であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 須浪 毅, 阪本 一次, 澤田 隆吾, 雪本 清隆, 山下 隆史
    2009 年 70 巻 3 号 p. 812-817
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.主訴は腹部腫瘤.腹部CTにて腹腔内腫瘤を指摘され外科紹介となった.触診にて右悸肋部に約12cm大の圧痛を伴う腫瘍抵抗を触知.血液検査では著明な炎症所見,貧血および低栄養状態が認められた.腹部CTにて,右上腹部に14×9cm大の腫瘤が上行結腸および横行結腸に接して,壁外に突出するかたちで認められ,GISTや悪性リンパ腫が疑われた.大腸ファイバーでは,横行結腸右側に隆起性病変が認められた.同部位の生検にて中分化腺癌を認め,壁外発育型大腸癌と診断し,手術を施行した.腫瘍は横行結腸から発生し,腸間膜側へ壁外性に発育.回腸の一部にも浸潤し一塊となっていたため,回腸部分切除を伴う右半結腸切除術を施行した.切除標本にて腫瘍内を貫き回腸へと通じる瘻孔を認めた.組織学的には乳頭状腺癌,pSI(ileum),pN0(0/12),sH0,sP0,cLM1,fStageIVであった.
  • 橋口 陽二郎, 上野 秀樹, 梶原 由規, 山本 順司, 望月 英隆, 長谷 和生
    2009 年 70 巻 3 号 p. 818-823
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    進行下部直腸癌に対する術前(化学)放射線照射は欧米では標準治療であるが側方領域再発に関する報告は少ない.今回,術前化学放射線療法(CRT:4Gy×5日間+UFT 400mg×7日間)+根治手術後に,CRT症例に特徴的と思われる臨床経過,病理組織学的所見を呈した骨盤内再発を2例経験したので報告する.症例1は44歳,女性.CRT後に超低位前方切除,両側側方郭清を施行した.50カ月後に腫瘍マーカー上昇を認めPETで右側方領域骨盤内再発と診断し,腫瘤摘出術を施行した.症例2は53歳,男性.CRT後に低位前方切除術,両側側方郭清を施行した.45カ月後に腫瘍マーカー上昇を認めPETで左側方領域骨盤内再発と診断し,腫瘤摘出術を施行した.いずれも治癒切除できたが,摘出標本はリンパ節構造のない腫瘍結節で,神経周囲侵襲や脈管侵襲を豊富に伴っていた.術前照射後には骨盤内再発の発症が遅延しやすく,照射後も側方転移や側方領域再発が発生しうることに注意を要する.
  • 猪川 祥邦, 梶川 真樹, 都島 由希子, 高瀬 恒信, 中山 茂樹, 矢口 豊久
    2009 年 70 巻 3 号 p. 824-828
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,女性.直腸癌穿孔に対しハルトマン手術を施行.術後9カ月で腫瘍マーカーの上昇があり,腹部造影CTで門脈臍部に低吸収域を認め転移性肝癌と診断,尾状葉温存肝左葉切除術を施行した.術後の病理組織学的所見では,門脈内に直腸の原発巣と類似した腺癌を認め,門脈腫瘍栓と診断した.また,摘出標本の肉眼所見および病理組織学的所見では肝実質には明らかな病変を認めず,肝実質転移を伴わない門脈腫瘍栓と診断した.術後の腫瘍マーカーは正常化し,術後10カ月の現在,再発の徴候を認めていない.
    大腸癌の肝実質転移を伴わない門脈腫瘍栓の報告は少なく,稀と考えられるため,文献的考察も含め報告する.
  • 浦田 順久, 上西 崇弘, 小川 雅生, 山本 隆嗣, 竹村 茂一, 久保 正二
    2009 年 70 巻 3 号 p. 829-832
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,男性.左前胸部痛および発熱を主訴に近医を受診し,腹部CT検査で肝外側区域に腫瘤像を指摘されたため,精査加療目的に転院となった.当院入院時の血液検査ではCRP値の軽度上昇を認めるのみで,腫瘍マーカーも正常範囲内であった.腹部超音波検査において,肝左葉の肝内胆管拡張および肝外側区域に径5cm大の境界不明瞭な低エコーを呈する腫瘤像を認め,その内部には音響陰影を伴う高エコー像がみられた.腹部造影CT検査でも同腫瘤は辺縁不明瞭であり,不均一な造影効果を示した.以上より,肝内結石を伴う膿瘍もしくは腫瘤形成型肝内胆管癌と診断し,肝左葉切除術を施行した.腫瘍割面は白色の充実性腫瘍であり,その中心に結石が認められた.病理組織検査では悪性細胞は認められず,炎症性細胞の浸潤および膠原線維の増生がみられることから,肝内結石症を伴った肝炎症性偽腫瘍と診断された.
  • 安部 智之, 調 憲, 祇園 智信, 播本 憲史, 梶山 潔, 長家 尚
    2009 年 70 巻 3 号 p. 833-838
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    88歳,女性,主訴は全身倦怠感と食欲不振で,近医で肝腫瘍を指摘され,当院紹介受診となった.腹部CTで肝に,分葉状の辺縁不整で,内部不均一の4cm大の腫瘤を認めた.腫瘍は,右肝静脈起始部から足側の下大静脈に,浸潤していた.ICGR15 9.0%,Child-Pugh A,liver damage Aであった.手術所見は,中・左肝静脈共通幹右側の下大静脈前面に,鉗子を頭側から足側に挿入した.肝背側実質と下大静脈は,容易に剥離可能であった.肝下面の下大静脈前面からリスタ鉗子を挿入し,liver hanging maneuver用のテープを通した.Liver hanging maneuverと,Pringle+IVCクランプにて肝右葉切除を施行した.肝実質切離後に,下大静脈の浸潤部を切除した.欠損部は,連続縫合で単純閉鎖した.術後合併症なく,軽快退院し,2年間無再発生存中である.
  • 勝原 和博, 原 真也, 高野 信二, 上田 重春, 延原 研二, 喜安 佳人
    2009 年 70 巻 3 号 p. 839-843
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.腹部違和感を主訴に当院受診した.腹部USで胆嚢腫大を認め,軽症急性胆嚢炎,胆管炎の診断で入院となった.入院24時間後に重症化し,ショック状態となった.腹部CTで気腫性胆嚢炎を認め,開腹胆嚢摘出,総胆管切開,Tチューブ留置を行った.敗血症性ショック,播種性血管内凝固症候群,急性呼吸不全,急性腎不全を合併した.人工呼吸器管理,エンドトキシン吸着,持続血液濾過透析を行った.術直後のビリルビン値は16.3mg/dlと上昇したが,術後6病日は7.5mg/dlまで低下した.しかし,術後12病日には16.4mg/dlと再上昇した.胆道造影検査で,肝内胆管にびまん性狭窄像を認め,続発性硬化性胆管炎の診断で利胆剤投与を行った.全身状態は徐々に改善し,術後88病日に退院できた.本症例のように早期から続発性硬化性胆管炎を呈した例は稀である.
  • 信岡 祐, 須崎 真, 熊本 幸司, 野口 孝, 鈴木 秀郎
    2009 年 70 巻 3 号 p. 844-849
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
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    われわれは膵頭部に発生し,膵腫瘍との鑑別が困難であった神経鞘腫の1例を経験したので報告する.症例は75歳,男性.泌尿器科にてPSA高値にて通院中,腹部CTにて膵頭部腫瘍を認め当科紹介となった.CTにて膵管の拡張はないものの,膵鈎部に6.5cm大のcystic tumorを認め,一部に造影効果のある壁在結節を認めた.MRIにては主膵管との交通は不明であったが,CT同様に,壁在結節を認めた.AngiographyにてSMA,SMV,門脈のencasementは認めなかった.また,celiac artery,SMA造影にて明らかなtumor steinは認めなかったが,SMA造影にてやや壁在結節は造影効果を認めた.以上より,悪性腫瘍の否定できず,PpPDを施行.摘出標本で膵神経鞘腫と診断された.膵神経鞘腫は比較的稀な疾患であり,本邦報告例31例の文献的考察も加え報告する.
  • 森山 秀樹, 佐々木 正寿, 北村 祥貴, 竹原 朗, 芝原 一繁, 小西 孝司
    2009 年 70 巻 3 号 p. 850-853
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,女性.2007年9月,ビーチバレーボール中に強い腹痛が出現したため当科受診した.腹部全体に強い圧痛を認めた.超音波およびCTで上腹部に径16cmの嚢胞性腫瘤および多量の腹水を認めた.嚢胞性腫瘍破裂による腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した.腹腔内には漿液性の腹水を1,800ml認めた.上腹部に巨大な嚢胞性腫瘍があり周辺臓器を圧排していた.解剖学的位置関係が不明確なため,腫瘍穿孔部縫合閉鎖および腹腔内ドレナージを施行し開腹した.術後の精査で膵粘液性嚢胞性腫瘍を疑った.術後17日目に再開腹し,腫瘍を含めた膵体尾部切除術を施行した.病理所見より卵巣様間質を有する膵粘液性嚢胞腺腫と診断した.膵粘液性嚢胞性腫瘍は比較的稀な疾患である.嚢胞破裂による腹膜炎の発症は本邦報告例を検索したところ本例が3例目であり,稀な症例と考えられたので報告する.
  • 池永 照史郎一期, 豊木 嘉一, 堤 伸二, 石戸 圭之輔, 鳴海 俊治, 袴田 健一
    2009 年 70 巻 3 号 p. 854-858
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    膵腺扁平上皮癌は膵癌の約2%に存在する比較的まれで,予後不良な疾患である.今回われわれは,結腸浸潤を伴った膵腺扁平上皮癌の1例を経験した.症例は58歳,女性.発熱,下痢を主訴に紹介医を受診.腹部CTで結腸癌膵浸潤,もしくは膵癌結腸浸潤疑いの症例として当科紹介となった.精査にて結腸癌膵浸潤,肝転移の診断にて左結腸切除,膵体尾部切除,脾摘,肝部分切除術施行.手術所見では結腸癌膵浸潤(DT,4型,circ,16×7×4.5(cm),SI(pancreas),N2,H1,P0,M0,stageIV,CurB)であったが,病理所見では膵癌結腸浸潤(pancreatic cancer,adenoasquamous carcinoma,INFγ,ly3,v3,ne2,mpd(+),T4,N1,fM1,stage4b)であった.術後経過良好で26PODに退院となった.若干の文献的考察を加え,報告する.
  • 佐々木 貴浩, 小林 慎二郎, 小泉 哲, 渡辺 泰治, 中野 浩, 大坪 毅人
    2009 年 70 巻 3 号 p. 859-864
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は29歳,男性.腹痛を主訴に来院.腹部CTにて腹腔内に多量の液体貯留を認め,脾臓の濃度は不均一に増加し,内部に血腫と思われる高吸収域を認めた.脾臓内部は一部造影効果を認める正常構造も見られたが下極側で辺縁が破綻して下方へ連続しており,脾臓破裂を強く疑った.また肝臓には多発する腫瘤影が見られ,転移性肝腫瘍と考えられた.外傷の既往がないため,腫瘍による破裂を強く疑い,脾臓摘出術施行した.肝臓表面には大小の結節を触知し,腹膜にも多数の結節を認めた.術中所見では脾腫瘍の破裂,肝転移,腹膜播種と診断した.病理所見ではCD34陽性,Alpha smooth muscle actin陽性,bcl-2陽性で,Factor VII陰性,CD31陰性,トロンボモジュリン陰性,S-100陰性で悪性孤立性線維性腫瘍(Malignant solitary fibrous tumor;以下MSFT)と診断した.今回われわれは脾破裂を契機に発見されたMSFTの1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 山内 康平, 岡田 禎人, 佐伯 悟三, 広松 孝, 會津 恵司, 新井 利幸
    2009 年 70 巻 3 号 p. 865-871
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.転落外傷にて,救急搬送された.来院時血圧80/60,腹部膨満,腹部CTで第3腰椎圧迫骨折と後腹膜に20.4cm×9.7cmの巨大腫瘍,腫瘍内出血,後腹膜出血を認めた.出血性ショック状態ではあったが,腫瘍切除の可能性の判断が困難であったため,保存的に治療した.血管造影検査では,腎動脈,腰動脈,上腸間膜動脈,下腸間膜動脈,右内腸骨動脈,左総腸骨動脈からの流入血管を認めた.上腸間膜動静脈,膵・十二指腸,肝十二指腸間膜への浸潤が疑われ,完全切除は難しいと思われたため,化学療法を行うための生検目的で開腹手術を行った.腫瘍周囲組織への浸潤は軽度で腫瘍の完全切除ができた.腫瘍は27×18cm,2,100gで,病理組織学的検査でparaganglioma(傍神経節腫,PG)と診断した.現在,術後約24カ月経過し,再発所見は認めていない.
    20cmを超えるPGの報告は極めて稀である.10cmを超えるPGは非機能性のことが多く,切除により良好な予後が期待できるので,切除の可能性を検討すべきである.
  • 西躰 隆太, 三浦 歓之, 江嵜 秀和, 桑原 道郎, 恒川 昭二, 滝 吉郎
    2009 年 70 巻 3 号 p. 872-877
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.アルコール性肝硬変に合併した早期胃癌に対して手術を行った.術直後から血性腹水が出現し,保存的治療に反応せず,術後約6カ月目に腹腔-静脈シャントを留置した.3カ月後に閉塞しシャントを全交換した.その1カ月後に再び閉塞しシャントの再交換を要した.いずれもポンプチャンバー部分にフィブリン血栓が形成され,流出路を閉塞していた.その3カ月後に再び閉塞した.血栓溶解剤(ウロキナーゼ)をポンプチャンバー内に注入してフィブリン血栓溶解を試みたところ,翌日に再開通した.再開通後,一過性の頻脈,血圧上昇,血小板減少を認めたが回復し,大きな問題を認めなかった.現在までの3年間に計16回血栓溶解療法を行い,患者は健在で外来通院中である.<結語>腹腔-静脈シャントの閉塞に対し,基礎疾患によっては,ポンプチャンバー内フィブリン血栓溶解療法によってシャント交換を免れる例があるものと思われる.
  • 脇 直久, 水田 稔, 久保 雅俊, 宇高 徹総, 白川 和豊
    2009 年 70 巻 3 号 p. 878-881
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    非常に稀な小網に発生した神経鞘腫を経験した.症例は53歳,女性.主訴は胸背部痛.CTにて胃小彎に巨大な腫瘤を認めた.左胃動脈から栄養を受けており,胃より発生した消化管間葉系腫瘍(gastrointestinal stromal tumor GIST)と診断した.胃部分切除を予定して開腹したが,腫瘤は胃小彎にあり,肝とは癒着していたものの胃とは解剖学的連続性はなく,小網から発生したと判断した.損傷しないように慎重に剥離し,腫瘤のみを摘出した.免疫染色でS-100陽性であり病理学的に神経鞘腫と診断された.
  • 大嶺 靖, 神谷 知里, 豊見山 健, 大城 敏, 宮城 淳, 知花 朝美
    2009 年 70 巻 3 号 p. 882-885
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    上腸間膜動脈症候群はまれな疾患である.症例は50歳,男性.嘔吐と腹部膨満を主訴に他院受診.その時に上腸間膜動脈症候群と診断された.症状を繰り返すため当院紹介入院となった.来院時は著明な脱水状態であった.保存的治療により改善を認めたが,すぐに再発した.同意の下,外科的治療を行うこととなった.腹腔鏡下十二指腸空腸吻合術を選択した.腹腔鏡下手術では小さな創で開腹手術と同等の手技が可能であり,本疾患において有用であると考える.
  • 村田 嘉彦, 宮田 完志, 湯浅 典博, 竹内 英司, 三宅 秀夫, 小林 陽一郎
    2009 年 70 巻 3 号 p. 886-890
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は開腹歴のない80歳女性で,主訴は下腹部痛.小腸イレウスと診断し保存的治療でいったん改善をみたがイレウスが再燃したため入院13日目に手術を施行した.開腹所見ではS状結腸間膜に径約2cmの袋状の腔が形成され,そこに回腸が4cm嵌頓していた.S状結腸間膜内ヘルニアと診断し,用手的に回腸を還納しヘルニア門を縫合閉鎖した.われわれの検索しえた限りでは,本症の本邦報告例は27例で,平均年齢は61歳(14─96),男女比は7対1と男性に多かった.一般にヘルニア門は小さく(平均3.0cm),嵌頓腸管の長さも短い(平均24cm)ため比較的長く保存的治療が行われる(入院から手術までが平均13日).ヘルニア門が3cm未満の症例では腸切除の報告はなく,報告例全体での腸切除率は15%であった.術前診断には精細なCT画像が必要である.
  • 愛洲 尚哉, 平岡 邦彦, 上田 泰弘, 中村 吉貴, 山本 隆久, 中井 亨
    2009 年 70 巻 3 号 p. 891-894
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    65歳,男性.既往に25歳時に結核性腹膜炎による腹腔内膿瘍,脊椎カリエスで手術.45,55歳時に腸閉塞,結核性腹膜炎による腹腔内膿瘍で手術歴がある.今回,腹痛を主訴に当院内科を受診した.腹部CTで,多量の腹水と多数の腹膜結節を認めた.腹水検査により,結核性腹膜炎の再燃と診断し,抗結核薬の内服を開始した.数日後よりイレウス症状が出現し,保存的治療で症状は軽快しないため手術となった.十二指腸から上部空腸まで拡張し,その肛門側で空腸が癒着して一塊となり,これが閉塞の原因であったため,十二指腸-空腸バイパス術を施行した.術後,結核治療を再開し,現在経過観察中である.結核性腹膜炎の治療は基本的に抗結核薬の内服である.本症例は,以前から腹膜炎を繰り返しており,腹膜結節と癒着による腸閉塞に至り,外科的治療を必要とした.
  • 菅原 弘光, 宮崎 修吉
    2009 年 70 巻 3 号 p. 895-898
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    急性乳び腹膜炎(Acute chylous peritonitis)は非常に稀な疾患であり,文献的にはほとんど報告がない.今回われわれは腸軸捻転で発症し,急性乳び腹膜炎を呈した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は73歳,男性.夕食後,突然の激しい腹痛にて発症,救急外来を受診した.既往歴にS状結腸切除術,胃切除術があった.来院時,理学所見では腹部全体が板状硬であり,高度の圧痛を認めた.腹部超音波検査,および腹部CT検査では中等量の腹水と腸管拡張像がみられた.腹水穿刺を施行し,乳白色の乳び腹水を認めた.急性腹症の診断で開腹したところ,術後性癒着を誘因に小腸がゆるく軸捻転しており,その表面は乳白色でリンパ管の拡張が見られ,虚血性変化はほとんどなく,捻転解除のみで腸切除は必要なかった.腹水はズダンブラック染色陽性粒子を含んでおり,乳び腹水と診断した.術後経過は良好であった.本症例は,ゆるい腸軸捻転部分のリンパ系のうっ滞をきたし乳び腹水を呈したと考えられ,捻転解除のみで腸切除は必要なく予後良好であった.
  • 村岡 曉憲, 鈴木 夏生, 丹羽 由紀子, 小松 義直, 田上 鑛一郎
    2009 年 70 巻 3 号 p. 899-905
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/09/05
    ジャーナル フリー
    リンパ管腫は小児の頸部および腋窩部に好発する良性腫瘍であり,後腹膜からの発生は比較的稀である.今回われわれは無症状にて経過した巨大な後腹膜リンパ管腫を経験した.症例は50歳,女性.人間ドックの腹部USにて大量の腹水を指摘され当院内科を受診.CT検査の結果,肝下面より骨盤底まで至り腹腔内管腔臓器を左方へ強く圧排する巨大な嚢胞性病変であった.自覚症状は全く認めなかったが将来的な出血,破裂等の危険性を考慮し手術を施行した.嚢胞壁は非常に脆弱で軽い圧排にて容易に穿破.内より3,200mlの黄色漿液を採取した.細胞診にて悪性所見は認めなかった.嚢胞壁の全切除を予定していたが,原発と思われる右腎静脈基部の下大静脈壁と強く癒着しており,一部が剥離出来ずに遺残した.病理検査結果はリンパ管腫であった.術後,遺残部周囲に多少の低吸収域を認めるも,大きさの変化なく推移.術後3年目の現在も定期的に検査を続けている.
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