日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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70 巻, 5 号
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原著
  • 山田 貴允, 山本 直人, 佐藤 勉, 金澤 周, 大島 貴, 永野 靖彦, 藤井 正一, 國崎 主税, 山本 裕司, 今田 敏夫
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1249-1254
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者術後せん妄発生予測因子を明らかにする.方法:2006年1月からの2年間に当院で手術をした胃癌と大腸癌の症例で,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)による評価を術前行った70歳以上の高齢者121例を対象とし,術前因子(年齢,性別,既往歴,ASA分類,PNI,PS,術前在院期間,HDS-R)と手術因子(病変部位,手術時間,出血量,アプローチ,手術難易度,ICU入室,白血球数,CRP,術後合併症,食事開始時期)を検討した1).結果:術後せん妄発生率は19.0%(23/121)だった.単変量解析では,術後せん妄発生とPNI(p=0.007),HDS-R(p=0.001),CRP(p<0.001),食事開始時期(p=0.004)に有意の関連を認め,多変量解析ではHDS-Rのみが選択された(OR13.514,95%CI4.878-37.037,p<0.001).結論:HDS-Rは術後せん妄発生予測に有用であると考えられた.
  • 千葉 明彦, 吉田 明, 稲葉 將陽, 井野 裕代, 菅沼 伸康, 稲荷 均, 山中 隆司, 黒田 香菜子, 林 宏行
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1255-1261
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    (目的)術前化学療法により乳癌組織のER,PgR,HER2発現が変化するか,また化学療法の効果により発現の変化に差があるか検討した.
    (対象と方法)2003年6月から2007年12月までにPrimary Systemic Therapy(PST)を行ったnon-pCR症例100例(PST群)を対象とし,化学療法前のcore needle biopsy(CNB)と,最終病理組織のER,PgR,HER2の発現を調べた.
    さらに術前化学療法をしていないコントロール群29例(コントロール群)と比較し,PSTの影響を検討した.
    (結果)ERの変化は,コントロール群2例(6.9%),PST群7例(7%)で有意差は認めなかったが,PgRの変化は,コントロール群1例(3.4%),PST群22例(22%)と有意差を認めた(p=0.025).HER2の発現については,コントロール群では,変化を認めなかったが,PST群でHER2陽性の10例(43.5%)が陽性から陰性へ変化した.
    化学療法の効果Grade2の症例で有意にPgR,HER2の発現が変化していた(P=0.017,P=0.003).
    (考察)PgR,HER2の変化は,heterogeneityによることも考えられるが,化学療法の効果Grade2の症例が有意に多く,化学療法により,PgR,HER2の発現が変化する可能性が示唆された.
  • 諏訪 香, 吉田 雅行, 金 容壱, 小林 寛, 清水 進一, 大月 寛郎, 神崎 正夫
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1262-1270
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    St. Gallen 2005以降,乳癌における再発リスク分類の因子として脈管侵襲が新たに加えられている.そこで,乳癌における脈管侵襲(ly因子・v因子)の予後予測因子としての意義を,脈管侵襲を一定の基準で0~3段階で評価した,1986年1月から2005年3月までの当科の浸潤性乳管癌手術症例1,549例の臨床成績をもとに検討した.症例全体の成績ではly因子・v因子ともに有意な予後との相関がみられ,乳癌の予後予測因子として妥当であることが示された.他の臨床病理学的な予後予測因子との関連や,St. Gallenの再発リスクカテゴリー分類における脈管侵襲による予後の差の検討からは,脈管侵襲は乳癌において独立した予後予測因子とはいえなかったが,低リスクの症例よりもむしろ中等度リスク以上の症例において有用な予後予測因子であることが示唆された.
  • 柳澤 真司, 土屋 俊一, 海保 隆, 外川 明, 新村 兼康, 岡本 亮
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1271-1275
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    当科において過去19年間に経験した胃癌穿孔症例は24例でありうち23例に手術を施行した.同時期の胃癌手術症例の1.5%,胃穿孔の24.0%をしめる.20例が緊急手術例でありうち10例(50%)を術前に胃癌と診断したが,内7例は穿孔前に胃癌と診断されていた.手術23例中18例に切除術を施行しそのうち2例は2期的切除であった.Stage III:6,IV:7,根治度A:2,B:9,C:12と高度進行例が多い.根治度A症例は長期生存したが,Bには長期生存がなかった.根治度Cの予後は不良であり,手術関連死6例(26.1%)中5例が根治度Cであった.胃癌と確診され根治性のある症例は1期的に根治切除を考えるが穿孔時の診断は不確実でありその場合に穿孔部閉鎖を行い胃癌であれば2期的に根治術を行う方針は有用と考えられる.高度進行例で全身状態不良な症例も多くその場合は最低限の侵襲に留めるべきである.
  • 四万村 司, 小林 慎二郎, 陣内 祐二, 櫻井 丈, 戸部 直孝, 牧角 良二, 須田 直史, 月川 賢, 宮島 伸宜, 大坪 毅人
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1276-1279
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    急性虫垂炎に対する腹腔鏡下虫垂切除術(Laparoscopic appendectomy:LA)を開腹虫垂切除術(Open appendectomy:OA)と比較しLAの有用性を検討した.対象は2006年1月~2008年3月までに虫垂切除術を施行した174例でLA群が53例,OA群が121例.手術時間はLA群が70.5±32.7分,OA群が89.9±47.1分と有意差を認めLA群が短かった(P=0.02).術中出血量はLA群が7.8±12.2ml,OA群が64.2±135.0mlと有意差を認めLA群が少なかった(P<0.001).術後合併症に関してはLA群が少ない傾向であったが有意差は認めなかった.在院日数はLA群が6.9±2.9日,OA群が10.4±8.1日と有意差を認めLA群が短かった(P<0.001).LAは有用な術式であるが今後広く普及するには手術のトレーニングシステム,合併症の問題,保険点数の問題などの検討が必要である.
臨床経験
症例
  • 川崎 健太郎, 土田 忍, 小林 真一郎, 大澤 正人, 寒原 芳浩, 中村 毅
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1286-1290
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    Aeromonas hydrophila感染例は稀ではあるが致死的となることがある.本感染症の3例を経験したので報告する.症例1:79歳,男性.胆嚢癌に胆嚢胆管切除を施行.翌日,頻脈となり血圧が低下した.白血球,Hb,血小板が低下,皮下出血が広がりDICとなった.原因不明の感染症を疑い治療を行ったが全く反応なく術後52時間で死亡した.死亡後,痰,胃液,ドレーン排液,動脈血,創浸出液からAeromonas hydrophilaが検出された.症例2:73歳,男性.食道癌に右開胸胸部食道全摘,食道瘻,胃瘻造設を施行した.2POD腹膜炎を併発,再手術を施行した.創感染の培養でAeromonasと判明した.創を開放し抗菌剤を投与した.創感染は軽快したが最終的に在院死した.症例3:72歳,男性.S状結腸線維腫を切除した.創感染の培養でAeromonasと判明した.ドレナージとPZFXで軽快した.外科手術の際には本感染症の存在と危険性を念頭に置いた上で適切なシステムの構築と迅速な対応が必要である.
  • 眞田 幸弘, 笹沼 英紀, 伊澤 祥光, 関口 忠司
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1291-1296
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,甲状腺濾胞腺腫術後8年に高サイログロブリン血症を契機に発見された甲状腺濾胞癌異時性多発骨転移の症例を経験したので報告する.症例は43歳,女性.1998年7月,左甲状腺腫瘍に対して左葉切除術を施行.病理は,異型腺腫であった.2006年8月,血清サイログロブリン値(以下,血清Tg値)が7,867ng/mlと著明に上昇していたため,精査を行ったが,局所再発や遠隔転移の所見は得られず,原因は明らかにされなかった.2007年4月には血清Tg値が12,000ng/mlまで上昇したため,さらに精査をすすめたところ,多発骨転移が発見され,骨生検で濾胞癌と診断された.2007年7月,残存甲状腺を全摘し,術後34日からI-131内用療法を行った.現在,血清Tg値は低下傾向にある.甲状腺濾胞性腫瘍は良悪性の診断が難しく,良性と診断されても,遠隔転移の可能性を念頭におき,定期的,かつ慎重な術後管理を長期間行う必要がある.
  • 竹本 大樹, 谷田 孝, 塩田 摂成, 岸本 弘之, 松井 孝夫
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1297-1301
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性.右乳房A>C領域に拍動を有する鶉卵大の腫瘤を触知した.超音波検査で血管と思われる無エコー域を血栓と思われる低エコー域が層状に被包する脈瘤を認め,ドプラ超音波で無エコー域内に明瞭な血流と拍動を認めた.造影CT検査で腫瘤への流入血管は内胸動脈と外側胸動脈の分枝と確認した.乳腺仮性動脈瘤の診断で摘出術を施行した.摘出標本では比較的太い血管を器質化した血栓が層状に被包する腫瘤であった.病理検査で内膜および中膜が破綻した血管とそれを被包する血栓と結合織を認め,乳腺仮性動脈瘤と診断した.乳腺仮性動脈瘤は本邦報告例のない極めて稀な疾患で,文献的考察を加え報告する.
  • 丸野 要, 渋谷 健太郎, 水口 國雄
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1302-1308
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,女性.左乳房の腫瘤に気付き,平成19年5月当科外来を受診した.左乳房のD領域に1.5×1.5cmの硬で表面不整,境界明瞭な腫瘤を触知し,USではlow echoicで境界明瞭な石灰化を伴う腫瘤像を,MMGでは微細な石灰化とspiculaを伴う濃度上昇域を認めた.穿刺吸引細胞診では,異型の目立つ細胞を認め悪性と診断した.6月に左乳房扇状部分切除術・センチネルリンパ節生検を施行した.病理組織検査所見は1.2×1.0×0.8cmの分葉状の腫瘍で,淡明な胞体のPAS反応陽性顆粒を有する筋上皮様細胞の増殖が主体で,腺腔構造を形成する細胞を混じていた.免疫組織学的には,腺腔形成細胞がEMA,CK陽性,筋上皮様細胞はCK,S-100,α-SMA,CD10,vimenntin陽性であった.以上の所見より腺筋上皮種と診断した.筋上皮部分に核分裂像が目立ち,p53とMIB-1が陽性で中心壊死が存在することより,悪性と診断された.腺筋上皮種は本邦では1986年以来自験例を含めて107例が報告され,その内,悪性と報告されたものは自験例を含めて11例である.悪性乳腺腺筋上皮種の1例を報告する.
  • 長谷川 久美, 松本 力雄, 山田 博文, 黒田 徹, 昆 晃, 土屋 眞一
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1309-1312
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.左乳頭全体が徐々に発赤腫大したため,平成20年7月初旬当院を初診した.乳頭は腫大発赤していたが,びらんや分泌はなかった.エコーでは23mm大の乳頭内に限局する充実性の腫瘍が描出された.生検を行ったところ充実腺管癌の所見で,乳房切除,センチネルリンパ節生検を行った.術中リンパ節転移が疑われ郭清を行ったが,最終病理では転移はなく,腫瘍は乳頭内に限局していた.乳頭に発生した乳管癌は極めて稀であり,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 櫻川 忠之, 加藤 健司, 待木 雄一, 平松 聖史, 原 朋広, 吉田 カツ江
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1313-1318
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    前立腺癌の乳腺転移は稀である.今回,乳腺転移をきたした前立腺癌の1例を経験したので報告する.患者は85歳,男性.1997年3月,前立腺癌(T3N0M1,stage D2)と診断され,以降内分泌治療を施行してした.2007年11月,有痛性の左乳腺腫瘤を主訴に当院を受診した.触診,マンモグラフィー,超音波検査などで左乳房C領域に約1cmの腫瘍を認めた.経皮的針生検でscirrhous carcinomaと診断されたため乳房部分切除術を施行した.術後病理組織診断で前立腺特異抗原(PSA)染色及び前立腺性酸性ホスファターゼ(PAP)染色が陽性であり前立腺癌乳腺転移と診断した.画像診断や穿刺吸引細胞診では前立腺癌乳腺転移の診断は難しい場合があり,鑑別診断には免疫染色が有用と思われた.また前立腺癌乳腺転移は終末期患者にみられる予後不良の病態であり,切除の意義は乏しいと思われた.
  • 尾上 重巳, 久納 孝夫, 吉田 克嗣, 小出 紀正, 鳥本 雄二, 飯田 健一
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1319-1322
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    乳癌骨転移のためビスフォスフォネート製剤を投与し,投与終了後7カ月で顎骨壊死を発症した1例を報告する.患者は81歳女性で平成13年6月右乳癌のため右乳房切除術を受けた.術後補助療法としてタモキシフェンを内服した.平成13年12月骨転移と診断された.平成16年6月副作用にて中止するまで数種類の化学内分泌療法を施行した.平成16年9月よりタモキシフェンと併用しパミドロネートを投与した.平成18年6月パミドロンネートをゾレドロネートに変更した.平成19年1月歯周炎のためゾレドロネートを休薬し,抜歯した.平成19年3月よりゾレドロネートを再開し,同年7月腎機能障害のため中止した.平成20年2月右下顎痛を発症し,顎骨壊死と診断された.ビスフォスフォネート製剤の半減期は長く,投与終了後も顎骨壊死が発生する可能性がある.そのため患者は治療終了後も定期的に歯科口腔外科医の診察を受ける必要がある.
  • 越湖 進, 木村 文昭, 田代 善彦, 内田 大貴, 藤森 丈広, 山崎 左雪
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1323-1328
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例1は35歳,男性.胸背部痛を主訴に当院に救急搬入,胸部エックス線写真・胸部CTで右肺の虚脱と胸水貯留を認め,直ちに胸腔ドレナージを施行した.血性胸水の排出が持続したため発症から8時間後に緊急手術を行った.症例2は36歳,男性.背部痛を主訴に当院に救急搬入,胸部エックス線写真・胸部CTで左肺の虚脱と胸水貯留を認め,胸腔ドレナージを施行後,血性胸水の排出が持続したため発症から12時間後に緊急手術を施行した.症例3は38歳,男性.背部痛を主訴に当院に救急搬入,胸部エックス線写真・胸部CTで左肺の虚脱を認め,胸腔ドレナージ術を施行した.胸腔ドレナージを開始し24時間後より血性胸水の排出を認めその後ショックに陥り緊急手術を施行した.いずれも胸腔鏡下手術(VATS)で肺尖部壁側胸膜に出血部位を確認し電気凝固止血を行うことが可能であった.ひきつづき凝血塊除去を行った後に肺尖部のブラを切除し手術を終了した.
  • 池田 篤, 貝沼 修, 郡司 久, 趙 明浩, 山本 宏, 竜 崇正, 池辺 大
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1329-1334
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,女性.55歳時に左胸膜腫瘍に対して当センターにて切除術を施行されlocalized fibrous mesotheliomaと診断された.今回,健診にて異常を指摘され当センター呼吸器科紹介となる.CT検査の結果,両肺野の多発結節性陰影および肝S3に径18mmの腫瘍性病変を認めた.転移性腫瘍を疑い全身検索を行うも明らかな原発巣は発見できず,患者の希望で経過観察となった.9カ月後,肺腫瘍に変化はみられなかったが肝腫瘍は径31mmと増大したためS3部分切除術を施行した.病理組織学的検査の結果,孤立性線維性腫瘍(solitary fibrous tumor;以下SFT)と診断された.また20年前の切除標本も再検にて肝と同様SFTと診断され,胸膜SFTの肝および肺転移と診断した.SFTは長期間経過してから再発をきたす場合があるが局所再発が多く遠隔転移は稀である.初回切除後,20年を経過して肝・肺転移をきたしたSFTの1例を経験したので報告する.
  • 松本 壮平, 上野 正闘, 高山 智燮, 若月 幸平, 榎本 浩士, 笠井 孝彦, 榎本 泰典, 中島 祥介
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1335-1340
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    食道類基底細胞癌は比較的稀で,悪性度の高い疾患とされている.今回,他臓器癌を合併した食道類基底細胞癌の2例を経験したので報告する.症例1は68歳の男性で,嚥下困難を主訴に内視鏡検査を受けたところ,食道癌を指摘された.術前画像検査で膀胱癌を指摘され,膀胱癌を経尿道的膀胱腫瘍摘出術を施行した後に中下部食道切除術,胃管再建を施行し,術後22カ月無再発生存中である.症例2は68歳の男性で,嚥下困難を主訴に内視鏡検査を施行したところ,食道類基底細胞癌と早期胃癌を指摘された.中下部食道切除術,胃全摘術を施行されたが,術後早期に骨転移が出現し,放射線化学療法を施行し,術後8カ月生存中である.食道癌に他臓器癌を合併することは良く知られているが,食道類基底細胞癌においても他臓器癌の存在を念頭においた術前検査,および術後の経過観察が重要であると考えられた.
  • 奥田 俊之, 原 拓央, 太田 尚宏, 尾山 佳永子, 野澤 寛, 大村 健二
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1341-1346
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    患者は70代後半の男性.飲酒中に酸性洗剤を誤飲した.10日後,心窩部痛および吐血にて救急外来を受診,上部消化管内視鏡検査で胃体上部後壁の潰瘍から出血を認め,止血処置を行い入院となった.翌日の内視鏡検査では,噴門直下から胃体下部にかけて全周性の糜爛を形成していた.しかし食道および幽門部には粘膜傷害を認めなかった.その後噴門部および胃体部で瘢痕性の狭窄を生じ,経口摂取不能となった.そのため,入院43日目に胃全摘術,R-Y再建術を施行した.病理組織診断は,粘膜下層に高度の線維化を伴う腐食性胃炎であった.腐食性胃炎は酸・アルカリ性薬剤など組織傷害性の強い薬物飲用により生じ,その程度はさまざまである.腐食性食道炎の併発が多く,また瘢痕性狭窄は幽門部に多い.本症例のように食道および幽門部に器質性変化を認めず,噴門部および胃体部で狭窄をきたした症例は稀である.
  • 大嶋 野歩, 細谷 亮
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1347-1352
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は,26歳の男性.半年前に結核性腹膜炎を発症したが,3剤併用化学療法を6カ月間施行して軽快していた.今回上腹部違和感が出現し,精査したところ,胃下部大弯側に径5cm大の腫瘤を認めたため,精査加療目的に入院となった.上部消化管内視鏡検査では,胃前庭部大弯側に頂部潰瘍を伴う粘膜下腫瘍様隆起病変を認めた.生検結果では診断が得られないため,EUS下に穿刺吸引細胞診施行しMycobacterium tuberculosis PCR陽性であったことから胃結核と術前診断した.患者の臨床経過から化学療法抵抗性を有すると考え,他臓器に結核性病変を認めなかったことから胃局所切除術を伴う腫瘤摘出術を施行した.術後病理組織学的検査でも,胃結核と診断された.本症例は,臨床的経過,治療方法の選択において示唆に富む症例であったので報告する.
  • 中津 敏允, 本山 悟, 丸山 起誉幸, 宇佐美 修悦, 南條 博, 小川 純一
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1353-1356
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    食道癌術後再建胃管に生じたGastrointestinal stromal tumor(GIST)症例に対し腫瘍核出術を行った.文献上,再建胃管GIST症例の報告はなく,術式を中心に考察を加え報告する.症例は78歳男性.15年前,胸部食道癌(p-StageI)に対し前医で非開胸食道切除,胸骨後経路食道胃管吻合術を受けた.嚥下困難を訴え受診,精査の結果,再建胃管に粘膜下腫瘍を認めた.超音波下針生検にて胃管GISTと診断され,イマチニブ400mg/日が投与された.しかし腫瘍は増大,また重度の副作用が出現したため,手術目的で当院紹介となった.手術は患者背景,根治度および手術侵襲から腫瘍核出術とした.切除した腫瘍は組織学的にc-kit陽性,CD34陽性,Ki-67陽性率5%,核分裂像0~1個/10HPFで,総合的に中リスク群に群別された.術後経過は良好で,術後1年経過した現在,再発を認めていない.
  • 竹本 研史, 横尾 直樹, 和形 隆志, 重田 孝信, 岡本 清尚
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1357-1361
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性.近医で胃体下部前壁のIIc型早期胃癌を指摘され,当科受診となった.当院での上部消化管内視鏡検査でも胃体下部前壁に上記病変を認めるものの,幽門輪および十二指腸粘膜に異常は認めなかった.血液検査では,CA19-9値が132.4U/mlと高値を示した.早期胃癌の診断にて,幽門側胃切除術を施行した.術中所見では,胃体前壁に胃癌病変を認めるとともに,幽門前庭部に腫瘤性病変を認めたが,膵実質との連続性は明らかではなかった.その後の病理組織検査で胃体部に関しては胃原発の低分化型腺癌,幽門前庭部の病変はHeinrichI型の異所性膵より発生した腺癌との診断を得た.異所性膵より発生した腺癌の報告例は少なく,その治療方針,予後に関しても不明な点が多い.術前のCA19-9が早期胃癌にも関わらず高値であったことを踏まえると,より厳密な精査により術前診断が可能であったと考えられた.
  • 藤川 幸一, 大森 敏弘, 渡邊 英二郎, 永井 基樹, 清水 瑠衣, 今岡 圭
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1362-1366
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は59歳男性.主訴は全身倦怠感,心窩部不快感.上部内視鏡検査で胃体部小弯に2型病変を認め,生検にて低分化型腺癌と診断した.術前に発熱,白血球23,300/μlと高値を示したが腫瘍熱と判断し胃全摘術および横行結腸部分切除術を施行した.術後はすみやかに解熱し白血球も正常化した.病理組織学的診断はpor1,se,pm(-),dm(-),ly1,v1,n3,stageIVであった.術後補助化学療法を施行したが,約半年後より除々に白血球の上昇を認め,腹部造影CT検査で再発を疑わせる所見が出現した.血清G-CSF 223pg/mlと上昇しており,切除標本の抗G-CSF抗体を用いた免疫組織染色を行ったところ陽性の結果が得られG-CSF産生胃癌の再発と診断した.G-CSF産生胃癌は比較的稀な疾患であり,本邦報告例の文献的考察を加え報告する.
  • 沖野 哲也, 大原 千年, 内野 良仁
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1367-1371
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性.胸やけがあり,2007年9月,内視鏡検査で胃体上部後壁に正常粘膜に覆われ,陥凹のない径3cmの粘膜下腫瘍様隆起を認めた.生検でGroupII,超音波内視鏡検査では粘膜下層から漿膜下層を主座とし,粘膜の層構造は保たれていた.胃粘膜下腫瘍と診断し,腹腔鏡下局所切除の適応と考え切除した.病理診断では腺癌(tub1>por2),深達度ss,ly2,v2,断端陰性であった.超高分化型腺癌が,粘膜筋板を破って腺管構造を保ったまま粘膜下層に浸潤し,低分化型腺癌へ移行する像が認められた.新たに胃全摘術を予定するも,腹膜播種のため試験開腹となったが,他臓器癌からの転移・浸潤は否定的であった.粘膜下腫瘍様形態を示す超高分化型腺癌は稀であり,術前生検診断が困難なため注意を要すると考えられたので報告する.
  • 岡 一斉, 榎 忠彦, 竹本 圭宏, 重田 匡利, 野島 真治, 濱野 公一
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1372-1375
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は70歳代,男性.心窩部不快感を主訴に近医を受診し,胃癌と診断され手術目的に当科入院となった.内視鏡検査で胃角部後壁から前庭部に不整形潰瘍病変を認め,生検で腺癌と診断された.腹部造影CT検査で肝外門脈内に腫瘤影と同部での門脈閉塞を認めた.腹部血管造影検査でも脾静脈合流部からの門脈本幹は造影されず,求肝性側副血行路が発達していた.腹膜播種や肝転移はなく,術中エコーで門脈内腫瘤は門脈左右分岐部から脾静脈合流部まで存在し,左胃静脈内にも触知された.2群郭清を伴う幽門側胃切除術および門脈内腫瘤の摘出術を施行した.病理組織学的検査では原病巣は中分化型管状腺癌で門脈内腫瘍塞栓の病理組織像と同様であった.術後TS-1の内服を行い,術後6カ月現在再発・転移の兆候はなく外来経過観察中である.
  • 山口 龍志郎, 稲川 智, 寺島 秀夫, 石川 詔雄, 佐々木 亮孝, 大河内 信弘
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1376-1382
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    胃癌肝転移症例の予後は極めて不良である.今回,同時性肝転移を伴う胃癌穿孔症例に対し,原発巣,肝転移巣の同時切除後,補助化学療法を追加し長期生存が得られた1例を経験したので報告する.症例は56歳,男性.心窩部痛にて当院受診.腹部CT検査にてfree airと胃壁の肥厚を認め,胃癌穿孔による腹膜炎が疑われ緊急入院となった.保存的治療にて炎症消退後,上部消化管内視鏡検査にて胃体中部小弯に存在する胃癌と診断された.手術は胃全摘,2群郭清および胆嚢摘出術を施行した.術中,肝S3に転移巣を認めたため,肝部分切除を追加し,転移巣を切除した.最終診断では胃癌M領域Type2 T3 N2 H1 P0 M0 fStage IVと診断された.根治度Bが得られたため,S-1による術後補助化学療法を2年間施行した.術後5年が経過したが再発はなく外来通院中である.
  • 池永 照史郎一期, 須貝 道博, 坂本 義之, 棟方 博文
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1383-1387
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    先天性十二指腸閉塞・狭窄症は,新生児腸閉鎖・狭窄症のうち,約半数を占める疾患である.今回われわれは,膜様狭窄に対して内視鏡的治療を施行した症例を経験したので報告する.症例は3歳,女児.生後半月頃より2回/日程度の嘔吐を認めていたが,離乳食開始後は1回/週まで減少したため,経過観察していた.しかし3歳になっても症状軽快せず,紹介医受診.精査にて十二指腸膜様狭窄の診断となった.内視鏡的にバルーン拡張術を施行するも,症状軽快せず,内視鏡下に狭窄部位の切開術を施行.術後7年経過し,再発の兆候は認めていない.
  • 竹束 正二郎, 笠間 和典, 濱田 清誠, 堀江 健司, 小島 勝, 多賀谷 信美
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1388-1392
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    消化管GISTの外科的切除に当たっては部位によって種々の問題が生ずる.特に十二指腸は解剖が複雑であり,多くの問題に直面する.われわれは十二指腸下行脚に発生した4.5cm径のGISTを腹腔鏡下に摘出したので,報告する.
    症例は45歳,女性で下血により発症し,上部内視鏡検査で潰瘍を伴う十二指腸粘膜下腫瘍と診断された.画像にて肝・リンパ節転移などは認めなかったので,まず腹腔鏡下で摘出を試みた.腫瘍辺縁の腸壁を把持し周囲をLCSにて切除,壁の欠損は単純縫合可能であった.術後病理検査は低リスクのGISTであった.術後も良好に経過し7日目退院,3年以上再発は認めていない.
    消化管GISTは腫瘍径2~5cmなら,たとえ十二指腸でも腹腔鏡下摘出は妥当と思われる.
  • 川井田 博充, 板倉 淳, 河野 寛, 日向 理, 藤井 秀樹
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1393-1396
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    胃全摘,Roux-en-Y再建術後17年目で発見された巨大十二指腸乳頭部癌の1切除例を経験した.患者は71歳,女性.54歳時に胃癌にて胃全摘術を受けている.膀胱炎で近医を受診し,腹部超音波検査で骨盤内腫瘤を指摘された.CT,MRIで右卵巣腫瘍と十二指腸を広範に占拠する4.5cm大の巨大腫瘤を認め,胆管ならびに膵管に軽度の拡張が認められた.小腸鏡による生検で中分化型腺癌と診断され,膵頭十二指腸切除術を施行した.胃癌と十二指腸乳頭部癌の異時性重複癌は稀である.Roux-en-Y再建後には十二指腸の内視鏡検査は困難であり,他の画像診断による十二指腸や胆道系疾患の発生を念頭においた経過観察が必要であると思われた.
  • 松原 健太郎, 星野 大樹, 北郷 実, 秋山 芳伸, 鈴木 文雄, 大高 均
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1397-1401
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,女性.40歳時より慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:以下RA)に対し治療を行っていた.腹痛を主訴に来院し,穿孔性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.回腸末端より10cmの小腸に直径5mmの穿孔を認め,周囲に暗赤色に虚血性変化を示す領域が多発しており,同部を含む回盲部切除術を施行した.切除小腸粘膜には多発性の潰瘍を認め,一部に穿孔が認められた.病理組織学的に,粘膜下の血管壁に広範囲にアミロイドの沈着を認め,アミロイドA蛋白と同定され,RAに続発したアミロイドーシスによる穿孔と診断した.術後は完全静脈栄養管理や消化態経腸栄養剤投与などを用いた全身管理を行い救命し,軽快退院した.消化管アミロイドーシスで穿孔をきたすことは稀であり,その予後は極めて悪い.RAに続発したアミロイドーシスによる小腸穿孔の1救命例を経験したので報告する.
  • 淺野 博, 小島 和人, 和田 将栄, 茅野 秀一, 小川 展二, 篠塚 望
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1402-1405
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は91歳,男性.嘔吐・腹痛を主訴に近医受診.腸閉塞の診断で当院へ搬送された.開腹歴はなく脊柱管狭窄症に対して3年前からNSAIDを内服していた.腹部レントゲンで小腸での腸閉塞と診断され,外科的治療を考慮したものの本人および家族が手術を希望しないため保存的加療を行った.しかし,その後も症状の改善増悪を繰り返したため入院より2カ月後手術を施行した.術中所見では回盲部の50cm口側から多数の硬結を蝕知し,同部位で閉塞していた.回腸を約80cmにわたり切除し回腸側々吻合で再建した.切除標本では回腸に多数の膜状の閉塞部位を認めた.病理学的検索では粘膜下層に高度の線維化を認め慢性炎症細胞が増加していた.
    NSAID使用による粘膜障害に関連した回腸の膜様狭窄と診断した.
  • 石上 俊一, 崎久保 守人, 馬場 信雄, 雑賀 興慶, 吉川 明, 田村 淳
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1406-1410
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    異所性膵にIPMN(intraductal papillary mucinous neoplasm)様の病理所見を伴うMeckel憩室単独軸捻転例を経験した.患者は80歳男性で,イレウスの診断で当科紹介となり,腹部造影CT検査で回盲部にwhirl signを認めたため緊急手術となった.回腸末端から約150cmの腸間膜対側に10cm長のMeckel憩室があり,時計回りに180度軸捻転し右傍結腸溝に落ち込んでいた.mesodiverticular bandや索状物はなく,先端に2×4cmの充実性腫瘍を認めた.HE染色では腫瘍内に正常膵組織と拡張した膵管様構造を認め,アルシアンブルー染色で粘液産生が観察された.さらに,免疫組織染色によるムチンコア蛋白の発現様式からIPMNと診断された.1983年以降,Meckel憩室単独軸捻転は自験例以外に17例の報告があるにすぎず,また憩室の異所性膵にIPMNを認めたとの報告は無かった.
  • 山崎 一麿, 坂東 正, 増山 喜一, 田近 貞克, 塚田 一博
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1411-1415
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    原因不明の繰り返す腸閉塞症例に対し腹腔鏡補助下の手術を行った,回腸原発の悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.
    症例は71歳,女性.過去に虫垂切除術と子宮筋腫で子宮全摘術を受けた既往がある.10年前より年に1,2度の頻度で,腸閉塞を繰り返していた.平成19年,腸閉塞で入院加療を受けたが,その後短期間に2回腸閉塞を繰り返した.小腸造影検査では異常は指摘されなかったが,現病歴より癒着性の腸閉塞を疑い腹腔鏡手術を施行した.腹腔内観察では,腸閉塞の原因となるような癒着性病変は認めなかったが,Bauhin弁より約120cmの腸管漿膜面に小さな白色結節を認めた.小開腹下の触診で同部に腫瘤が確認され,小腸腫瘍による腸閉塞と診断し,小腸部分切除術を施行した.術後の病理検査で,低悪性度のMALTリンパ腫と診断された.
  • 板谷 喜朗, 池田 博斉, 河本 和幸, 伊藤 雅, 小笠原 敬三, 能登原 憲司
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1416-1419
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,男性.健診目的で施行した下部消化管内視鏡検査で回腸末端に粘膜下腫瘍様病変を指摘され当院を紹介された.生検の結果カルチノイドと診断され,胸腹部CTで遠隔転移なく手術目的で入院となった.手術は回盲部切除術,リンパ節郭清を行った.切除標本では回腸末端,回盲弁より1cm口側に7mmの腫瘍を認め,病理組織検査では粘膜下層深層まで浸潤するカルチノイドと診断された.所属リンパ節に1個転移を認めた.
    本邦では空腸・回腸カルチノイドは消化管カルチノイドの2.9%と稀である.小腸カルチノイドは,他の消化管カルチノイドと比べ転移率が高く,10mm未満の症例の21%にリンパ節転移を認めるとされており,腫瘍径にかかわらずリンパ節郭清を伴った系統的切除の必要性が指摘されているが,本症例はそれを支持するものであった.
  • 内村 正史, 多羅尾 信, 宮本 康二, 大久保 雄一郎, 原 明
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1420-1424
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は45歳,女性.主訴は上腹部痛.既往歴に平成15年7月左乳癌に対し,胸筋温存乳房切除術を施行(硬癌,T2N1StageIIB).ER陽性,PgR陽性,HER-2陰性.術後ホルモン療法を行っていたが自己都合で中断.平成18年6月15日上腹部痛を主訴にイレウスの診断で入院.イレウス管を挿入し間歇持続吸引を行った.5日後にイレウス管造影を行ったところ臍下部付近に全周性狭窄像を認めた.以上より原発性小腸腫瘍またはクローン病の疑いで小腸部分切除を施行した.病理組織像では小型異型細胞が漿膜から粘膜側にかけて浸潤性に増殖しており,前回の乳癌組織と極めて類似していた.乳癌の小腸転移はわれわれが検索しえた限りでは,本邦手術報告例は自験例を含めて20例を数えるにすぎず稀な疾患であり,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 加藤 久仁之, 小林 慎, 目黒 英二, 入野田 崇, 早川 善郎, 高金 明典
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1425-1428
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    歯牙迷入による虫垂炎の1例を経験したので報告する.症例は50歳代男性.2日前より下腹部痛あり次第に増強,嘔吐も伴ったため来院.急性腸炎の診断で当院入院となり,抗菌薬投与にて経過を診ていたが症状の改善はみられなかった.腹部CTでは,内部に石灰化を伴う回盲部から連続する管状構造を認めた.また,周囲に脂肪濃度上昇を認め,急性虫垂炎の診断で手術を施行した.虫垂は発赤腫脹し後腹膜に強固に癒着していた.虫垂間膜および回腸末端部腸間膜は炎症により肥厚していたが,周囲の膿瘍形成および腹水は認めなかった.摘出した虫垂の内腔には歯牙を認め,病理学的には虫垂壁の全層性に好中球浸潤,虫垂間膜の小膿瘍形成を認めた.経過良好にて術後第8病日退院となった.虫垂内異物による虫垂炎の報告は珍しく,歯牙の迷入は極めて稀であり興味深い症例と思われた.
  • 河野 竜二, 櫻井 俊孝, 田中 淳一, 千々岩 一男
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1429-1432
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    顆粒細胞腫(Granular cell tumor)の下部消化管原発は非常に稀である.症例は60歳の男性.検診の大腸カメラで回盲部に直径5mm大の粘膜下腫瘍を指摘された.胸腹部CTでは遠隔転移など認めなかった.超音波内視鏡検査で第3層中程までtumor echo認めたため,内視鏡治療が困難と判断し外科的切除を行った.手術はD2郭清を伴う腹腔鏡補助下回盲部切除術を行った.病理組織所見で,S-100蛋白陽性,Neuron-specific enolase(NSE)陽性,Granular cell tumorと判明した.リンパ節転移は陰性であった.今回われわれは腹腔鏡下に切除した回盲部Granular cell tumorの1例を経験したので報告する.
  • 矢作 芙美子, 亀山 哲章, 三橋 宏章, 冨田 眞人, 松本 伸明
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1433-1437
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    大腸憩室症は比較的頻度の高い疾患であるが,巨大化した憩室症の報告は極めて稀であり,本邦での報告例は現在までに12例を認めるにすぎない.今回われわれは便潜血陽性を契機に発見され,腹腔鏡補助下手術にて切除しえたS状結腸巨大憩室症の1例を経験したので報告する.症例は70歳,男性.平成20年1月,検診にて便潜血陽性を指摘された.精査後S状結腸巨大憩室症と診断し,4月,腹腔鏡補助下S状結腸切除術を施行した.摘出標本では憩室の外径は60×35mm,憩室の壁は肥厚していた.巨大憩室の成因には一定の見解はない.治療法は,憩室を含めた腸管部分切除術が一般的であり,本邦では12例の報告があるが,ほとんどが開腹手術であった.今回われわれは腹腔鏡補助下手術を行い良好な経過を得た.本例のような大腸良性疾患は腹腔鏡下手術の良い適応と思われた.
  • 杉本 起一, 小野 誠吾, 田中 真伸, 五藤 倫敏, 冨木 裕一, 坂本 一博
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1438-1443
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性.左下腹部痛を主訴に当院受診した.大腸内視鏡検査施行したところ,S状結腸に径10mmのIs型腫瘍を認め,内視鏡的粘膜切除術を施行した.病理組織学的検査で,辺縁部に高分化管状腺癌を伴う中分化管状腺癌,SM,ly1,v1,HM0,VM1であったため,腹腔鏡下S状結腸切除術(D2)を施行した.追加腸切除標本の病理組織学的検査では,EMR瘢痕部に高分化管状腺癌を認め,pSM,ly1,v1,pN1,fStageIIIaであった.S状結腸切除術後,経口抗癌剤を内服し経過観察していたが,7年9カ月後,11年3カ月後に左肺転移を認め,それぞれ肺部分切除術を施行した.S状結腸切除術後14年1カ月経過した現在,新たな転移は認めず,経過観察中である.大腸SM癌の肺転移は少数ではあるが存在する.また,肺切除により良好な予後が期待できるため,さらなる症例の蓄積を行い,再発危険因子の解明およびサーベイランスの確立が必要である.
  • 駄場中 研, 岡本 健, 岡林 雄大, 緒方 宏美, 前田 広道, 花崎 和弘
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1444-1448
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    Gastrointestinal stromal tumor(以下,GIST)のリンパ行性転移は稀であり,リンパ節転移例は予後不良であるため,外科治療においてリンパ節郭清は不要と考えられている.今回,広範なリンパ節転移を認めた直腸GISTの1例を経験したので報告する.症例は79歳,女性.肛門痛・肛門腫瘤を主訴に当科受診.生検およびCT/FDG-PET検査で直腸周囲・右鼠径リンパ節転移を伴った直腸GISTが疑われ直腸癌に準じた腹会陰式直腸切断術及び系統的リンパ節郭清術を施行した.術後病理組織学的検査で紡錘形の核を持つ腫瘍細胞を認め,免疫組織化学検査でc-kit陽性であり直腸GISTと診断した.本症例において系統的なリンパ節郭清を行ったことの意義については,今後慎重なフォローアップにより見極めたい.
  • 吉田 良, 横井川 規巨, 高田 秀穂, 權 雅憲
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1449-1453
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    直腸癌が原因と考えられる,肝膿瘍の1例を経験した.患者は79歳,女性.既往歴に拡張型心筋症,糖尿病.発熱と右季肋部痛,肝機能障害,下血,腹部膨満にて紹介.白血球18,500/μl,CRP 20.5mg/dlと著明な炎症所見を示し,肝胆道系酵素の上昇を認めた.CT検査では,肝臓S6に約7cmの肝膿瘍を認めた.また,直腸に内腔をほば完全に閉塞する直腸癌を認めた.心不全や肺水腫を併発し全身状態が極めて悪かったため,根治手術は困難と判断して経肛門的切除を行った.切除された深部断端に腫瘍の残存が認められた.肝膿瘍は,穿刺吸引と抗生剤投与を行い,約2週間で軽快した.細胞診は陰性であった.全身状態が回復した4カ月後に低位前方切除術施行した.病理診断は,高分化型腺癌a1,n0,ly1,v1でStageIIであった.術後1年になるが経過良好で,再発や転移は認めていない.大腸癌と肝膿瘍の合併は比較的稀な疾患であり,本邦での報告例は,調べえた限りでは自験例を含めて33例であった.
  • 松浦 朋彦, 鈴木 貴久, 小林 滋, 朝蔭 直樹, 山本 哲朗, 山崎 滋孝
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1454-1458
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.約2カ月続く全身倦怠感,食欲不振を主訴に近医を受診し,肝腫瘍の診断で当科紹介され精査加療目的に入院.腹部CT検査および腹部超音波検査にて肝S6に径約4cm腫瘤像を認め,転移性肝癌もしくは胆管細胞癌が疑われた.また,腹部血管造影検査では肝細胞癌は否定的であった.肝悪性腫瘍を疑うも画像的検査で確定診断を得られず,超音波ガイド下肝針生検の結果,炎症性細胞浸潤と結合織の増生からなる病変を認め,炎症性偽腫瘍と診断した.その後,発熱および右季肋部痛が出現.保存的治療で軽快しないため,肝部分切除術を施行した.手術検体の病理結果も生検と同様であった.肝の炎症性偽腫瘍は比較的稀で,しばしば診断に苦慮する疾患である.今回われわれは悪性疾患との鑑別に苦慮し,生検で診断しえた肝炎症性偽腫瘍の1手術例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 沖田 充司, 宮出 喜生, 岡野 和雄
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1459-1464
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は30歳,男性.13年前外傷性脳挫傷・くも膜下出血のため他施設で脳室腹腔内シャント(VPS)留置,経鼻経管栄養管理されていた.誤嚥性肺炎で当院内科に転院し,嘔吐と誤嚥性肺炎を繰り返すため,胃管による減圧と中心静脈栄養管理となった.3年経過後カテーテル閉塞で当科紹介となった.再度経鼻経管栄養管理を行い3カ月後に胆嚢・総胆管結石症による肝機能障害と閉塞性黄疸を発症した.全身状態不良で手術困難であり,全身拘縮で体位確保困難なため内視鏡的処置は困難と判断し,経皮経肝胆嚢ドレナージを施行した.3カ月後経皮経肝経胆嚢管的に乳頭バルーン拡張し総胆管結石を除去し,さらに3カ月後経皮経肝的内視鏡下に胆嚢結石を除去した.経口内視鏡処置・手術不能かつVPS保有例に合併した胆嚢・総胆管結石症例への経皮経肝・経胆嚢管的結石除去を経験したので報告した.
  • 佐々木 貴浩, 小林 慎二郎, 小泉 哲, 渡辺 泰治, 中野 浩, 大坪 毅人
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1465-1470
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    診断に苦慮したCA19-9異常高値を認めた胆石症,総胆管結石症の1例を経験したので報告する.71歳男性.主訴,黄疸.血液・生化学検査で総ビリルビン11.9g/dl,直接ビリルビン9.4g/dl,ALP 1,223IU/lと上昇.腫瘍マーカーはCA19-9 11,600U/lと異常高値であった.CTで肝内胆管の軽度拡張,胆嚢の緊満と結石を認め,総胆管内には結石と思われる石灰化を認めた.また下部胆管壁の造影効果を認めた.下部胆管癌が否定できなかったため,PTCD施行し減黄を図った.PTCD排液細胞診はnegative.減黄後腫瘍マーカーは正常化し,下部胆管壁の造影効果以外,癌を疑わせる所見は認めず,ERCP,EST施行し総胆管結石を砕石.その後,腹腔鏡下胆嚢摘出術施行した.術後PTCD造影では狭窄像は認めず,CA19-9も10,1U/lと低下し,経過も良好で退院.本症例のように癌を完全に否定できない場合は慎重に検査を進め,治療にあたることが肝要と思われた.
  • 三澤 俊一, 鬼頭 秀樹
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1471-1475
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    今回われわれは直径6mmの細径経鼻内視鏡を用い,空腸瘻から吻合部に到達し,バルーンにて拡張し採石しえた胆管空腸吻合部狭窄・肝内結石の1例を経験したので報告する.
    症例は71歳,男性.平成19年に他院にて胆石,胆嚢炎にて腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行された際,術中に総胆管を損傷したため開腹手術にて胆嚢摘出術および胆道再建術として胆管空腸吻合術を施行された.以後数回胆管炎繰り返し,肝内胆管の拡張も認めたため,吻合部狭窄が疑われた.最も侵襲の少ない方法であることから,空腸瘻からの内視鏡的アプローチによるバルーン拡張術を施行し,吻合部の拡張を行った.術後は経過良好であり,以降他院外来通院中であるが明らかな胆管炎の再発は認めていない.
  • 前野 博
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1476-1480
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は54歳女性,家族歴,既往歴に特記事項認めず.心窩部不快感を主訴に近医を受診.腹部超音波検査にて肝門部左右肝管分岐部に嚢胞性病変と内部に腫瘤性病変を認め精査加療目的で当院へ紹介となった.入院時現象は特記すべき事項は認めなかった.入院時の腹部CTでS4嚢胞性病変は内部に突出する境界不整な充実性の乳頭状腫瘤を認めた.MRIで左肝内胆管との交通を疑い,かつ悪性腫瘍との診断で切除を施行した.肝S4区域切除,肝門部胆管切除,胆道再建術を施行した.腫瘍は内部が粘液で充満しており内部に乳頭状の腫瘍を認めた.病理組織検査では乳頭腺癌であり,ovarian like stromaは伴っていなかった.本症例は肝門部の胆管に発生した嚢胞内乳頭腺癌で,末梢発生でないことおよび病理組織検査よりintraductal papillary neoplasm of the bile duct(IPNB)の一亜型であると考えた.
  • 前田 健一, 下松谷 匠, 谷口 正展, 中村 誠昌, 白石 享, 丸橋 和弘
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1481-1485
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例:59歳,男性.心窩部痛・嘔吐を主訴に当院受診した.血液検査にて肝機能異常,CA19-9の上昇を認めた.画像検査で総肝管から総胆管の偏心性の壁肥厚,肝内胆管の拡張を認めた.胆汁細胞診ではclassIIであったが,肝吸虫卵が証明された.駆虫後も総胆管の狭窄が増悪し,CA19-9も著増した.また肝吸虫症と胆管癌の合併の報告があり,胆管癌の可能性が否定できず開腹術を施行した.術中迅速病理にて胆管癌の診断に至った.左右肝管合流部まで浸潤し,傍大動脈リンパ節への転移も認め,根治性がないと判断し胆嚢摘出術,胆管空腸吻合術施行した.
    考察:肝吸虫症に合併した胆管癌症例の報告はときにみられる.肝吸虫症を診断した場合,胆管癌の合併を考慮する必要があると考えられた.
  • 吉田 正史, 位田 歳晴, 内藤 恵一, 飯塚 恒, 芹沢 隆宏, 杉田 貴仁
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1486-1490
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,女性.早期胆嚢癌であったが腫瘍が脱落して総胆管へ落下したため化膿性胆管炎を併発した.内視鏡的乳頭切開術を施行して軽快した後,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.術後病理検査にて病変は胆嚢全体に広がっていたが,粘膜内に限局し,胆嚢管断端陰性であったので経過観察となった.4年後の検査にて肝右葉後区域に肝転移を認めたので切除した.病変は右葉後区域の胆管にほぼ限局して存在し病理組織像からは先行する胆嚢癌の胆管転移からの再発と考えられた.粘膜に限局する胆嚢癌は胆嚢摘出術のみで根治するといわれており,本症例のような経胆管経路での肝転移の報告はなかった.早期胆嚢癌の治療方法を検討する際に考慮すべきと思われたので報告する.
  • 松清 大, 渡邉 学, 浅井 浩司, 大沢 晃弘, 長尾 二郎, 炭山 嘉伸, 大原関 利章
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1491-1496
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は79歳女性で,労作時の息切れと腹痛を主訴に近医受診となった.高度貧血を指摘され,同時に施行した腹部超音波検査にて胆嚢結石と胆嚢腫瘍が疑われ,当院消化器内科紹介となった.当院入院後に発熱,右季肋部痛が出現し,血液生化学検査上で炎症所見の上昇が出現,急性胆嚢炎を併発したと判断し抗菌薬の投与が開始された.各種画像検査で胆嚢と連続するように肝S4,5に約90mmの腫瘤像を認め,胆汁細胞診にて胆嚢癌が強く疑われた.胆嚢癌,急性胆嚢炎,肝浸潤あるいは肝膿瘍の診断にて手術を施行した.開腹所見では術前画像検査所見と同様に胆嚢と連続するように肝S4,5に約90mmの腫瘤を認め,肝S4a+5切除,胆嚢摘出術,肝外胆管切除,胆管空腸吻合術を施行した.最終病理組織学的検査では,腺癌と紡錘形腫瘍細胞が不規則に混在するいわゆる胆嚢癌肉腫と診断された.
  • 勝田 絵里子, 関屋 亮, 内野 広文, 帖佐 英一, 河野 文彰, 鬼塚 敏男
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1497-1501
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は23歳,女性.左上腹部の腫瘤を主訴に近医を受診.巨脾・肝機能障害を認め当院紹介.腹部CT,血管造影検査,上部消化管内視鏡検査で脾腫,脾静脈の閉塞,食道胃静脈瘤を認めた.脾静脈閉塞に伴う脾腫,胃静脈瘤と診断し,Hassab手術を施行した.術後に高熱と全身倦怠が持続し,術後10日目のCTで上腸間膜静脈から肝内門脈まで高度の血栓を認めた.同日より抗凝固療法・抗血小板療法を開始した.術後17日目のCTで上腸間膜静脈内の血栓は縮小しており,術後48日目エコーでは門脈内に血栓は残存していたものの,血流は改善していた.脾摘出術後の門脈内血栓は4.4-17.3%に認められ,高度の血栓により門脈・上腸間膜動脈の完全閉塞をきたすと,肝機能障害・腸管壊死を引き起こすため適切な治療を必要とされる.Hassab術後は門脈内血栓症を常に念頭に置き,門脈内に血栓が確認された場合は直ちに抗凝固療法にて治療する必要があると考えられた.
  • 星川 竜彦, 小林 健二, 篠崎 浩治, 尾形 佳郎, 下田 将之
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1502-1507
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,女性.2006年の検診で脾臓に6cmの大腫瘤を指摘され,当院内科へ紹介となった.腹部CT検査で脾腫と内部に不均一な造影効果不良領域を認めたが,PET/CT検査ではFDGの集積増加は軽度のみで積極的に悪性を疑う所見ではなかった.その後,外来で経過観察とし,画像検査所見上大きな変化は認められなかったが,完全には悪性を否定できず,脾臓摘出術膵尾部合併切除術を施行した.腫瘍の大部分は血管腫の所見であったが,その一部に重層化傾向を示すやや小型の内皮細胞や不規則な配列を示す内皮細胞の増生が見られ,中間悪性である血管内皮腫と診断した.術後経過は良好で術後第10病日に退院し,現在外来経過観察中で術後8カ月の時点で再発の所見を認めない.
    原発性脾腫瘍は稀であり,なかでも血管内皮腫は本邦で2例の報告があるのみで,文献的考察を加えて報告する.
  • 林 泰寛, 谷 卓, 清水 康一, 高村 博之, 萱原 正都, 太田 哲生
    2009 年 70 巻 5 号 p. 1508-1511
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/11/05
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.高血圧にて内服加療中であった.約半年前,近医胸部CTにて右横隔膜下に直径11cm大の嚢胞性病変を指摘されるも肝嚢胞として放置されていた.今回,右側腹部から背部痛を主訴に前医を受診したところ,嚢胞性病変の増大を指摘され当科紹介となった.当院CTにて右副腎原発の嚢胞性腫瘍が強く疑われ,尿中カテコールアミン,Vanillylmandelic acid(VMA)の上昇と,131I-MIBGシンチグラフィーにて腫瘍部への集積を認めたことから褐色細胞腫と診断し,右副腎切除術を施行した.嚢胞内容は陳旧性の出血,凝血塊であった.病理組織学的には偽嚢胞を伴う褐色細胞腫であった.
    嚢胞性変化を伴う褐色細胞腫の報告例は本邦では自験例も含めて50例に満たず稀であり,特に右副腎原発の場合,肝由来の嚢胞性疾患との鑑別が重要であると考えられた.
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