日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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70 巻, 7 号
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原著
  • 高金 明典, 早川 善郎, 入野田 崇, 秋山 有史, 加藤 久仁之, 目黒 英二, 小林 慎, 権藤 なおみ
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1919-1925
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    胃癌術後補助化学療法(S-1)を病診連携で行うために連携パスを作成した.パスの特徴は安全かつ適切に化学療法を行うために有害事象を有害事象共通用語規準(CTCAE v3.0)に準じて記載し,その程度により休薬,延期,中止できるようにした.また,2コースまでは当院通院とし,3コース以降に連携パスを用いて診療所での治療を行うことにした.連携による治療が行えたのは22例中15例(62.8%)であった.Grade 3以上の有害事象による治療中止は2例(13.3%)で,Grade 3の下痢とGrade 4の好中球減少により入院を必要とした.連携中に診療所で生じた問題は血液毒性による休薬後の再開時期,輸血の可否,下痢の治療などであった.その他,連携中に大きな問題は認めなかった.連携パスを用いることで有害事象を的確に把握し適切な処置を行うことが可能となり,病診連携でも安全かつ適切に術後化学療法の継続が可能であった.
  • 蓮田 憲夫, 高野 邦夫, 鈴木 健之, 腰塚 浩三, 松本 雅彦
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1926-1930
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    注腸造影によるHirschsprung病(H病)の病型診断について検討した.われわれが経験したH病症例19例を対象とした.初回注腸造影でtransition zoneが不明瞭だった症例,新生児症例に対し,前処置として浣腸,洗腸,ブジー,摘便を行った後,数回の注腸造影(delayed contrast enema)を施行し,注腸造影のtransition zoneを最終的な病型診断と比較検討した.初回注腸造影による病型診断率は58%であったが,delayed contrast enemaを含む病型診断率は84%になった.Delayed contrast enemaを施行した11例について,最終的な病型と注腸造影上のtransition zoneの比較では,7例で正しい病型診断が得られた.注腸造影により正しい病型が診断できなかった症例では,transition zoneの描出ができなかった症例と,最終的な病型診断より肛門側にtransition zoneが描出された症例が認められた.H病の診断時の注腸造影に際して,前処置は行わないこととされているが,新生児症例や描出が不充分な症例では前処置により,正確な診断が得られる可能性がある.
臨床経験
  • 佃 和憲, 中原 早紀, 高木 章司, 池田 英二, 平井 隆二, 辻 尚志
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1931-1935
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    当院で16年間に手術を行った症候性Meckel憩室について検討した.小児例5例と成人例7例の12例であった.発見契機となった症状としては腸閉塞8例,出血1例,急性炎症3例であった.また,術前にMeckel憩室と確定診断されたのは4例であり,1例は出血例に対するTcO4-シンチグラフィにより診断され,残り3例は腹部CT検査によるものであった.最近の報告ではMeckelの急性炎症の診断において腹部CT検査の有用性が示されており,当院の症例の検討でもそれを裏付ける結果が得られた.
症例
  • 安岡 利恵, 森田 修司, 満尾 学, 埴岡 啓介, 門谷 洋一
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1936-1940
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性.乳癌検診を目的に当院を受診した.腫瘤は触知せず,乳頭の異常や血性分泌はなく,マンモグラフィ検査でも異常は認められなかったものの,超音波検査で左乳頭直下に,直径6mm大の腫瘤を認めた.マンモトーム生検組織診でinvasive ductal carcinomaと診断され,乳房温存術を行った.術後,組織の再検討を行ったところ,神経内分泌腫瘍への分化を呈した非浸潤性乳癌(NE-DCIS)と最終診断された.NE-DCISは良性的な細胞所見を有することが多く,針もしくはマンモトーム生検で乳頭腫と診断されやすい.本症例のように乳管内増殖病変の診断に苦慮する場合にはNE-DCISが関与していることが多く,文献的考察を加え報告する.
  • 米山 公康, 大山 廉平
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1941-1945
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.右乳腺腫瘤を主訴に来院.腫瘤は右乳房上外側に存在し,径は2cm,乳頭間距離は1.5cmであった.精査の結果,乳癌と診断された.手術は乳房円状切除,センチネルリンパ節生検とした.病理組織検査所見は浸潤性乳管癌(充実腺管癌)であり,センチネルリンパ節には転移を認めず,乳房切除断端も陰性であった.ER陽性,PgR陰性,HER2スコアは0であった.残存乳房への放射線照射は患者の同意が得られず施行しなかった.術後補助療法はTamoxifen 20mgの内服とした.術後4年の現在,局所も含め再発の兆なく,健存である.男性の乳腺は女性に比して容積が小さいため,乳房切除術が選択されることがほとんどであり,乳房部分切除が行われることは少ない.男性乳癌に対する局所治療について文献的考察を加えたので報告する.
  • 秋田 雅史, 飯田 洋司
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1946-1949
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は87歳,女性.主訴は意識消失発作.難聴および全盲であったが日常生活は自立,老健施設に入所していた.
    2007年5月11日意識消失発作や夜間譫妄,徘徊などの不穏行動が出現,精査目的にて他院を受診.年齢より脳梗塞や認知症の進行などが疑われたが頭部CTで明らかな異常は認められなかった.
    心臓超音波検査で左房内に巨大な腫瘍エコーが認められたため手術目的にて当院転院.心エコー所見は左房内を自由に回転しながら浮遊する38×31×22mm大のhigh echoicなsolid massを認めた.
    人工心肺使用下に左房内腫瘍を摘出.術後経過良好で術前にあった意識消失発作や不穏行動は完全に消失し,第13病日に退院した.切除標本で腫瘍は血栓であった.
    意識消失発作は左房内浮遊血栓が僧帽弁に嵌頓し起こったものと考えられた.
    意識消失発作により発見された高齢者の巨大左房内浮遊血栓は少なくここに報告する.
  • 松浦 陽介, 濱中 喜晴, 三井 法真, 平井 伸司
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1950-1952
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,男性.62歳の時,洞不全症候群のため,ペースメーカー(Pacemaker:PM)植込み術が施行された.その後,PM植込み部の感染を繰り返した.原因として,PMアレルギーによる二次感染が疑われ,68歳の時,polytetrafluoroethylene(PTFE)シート(ゴアテックスシート®)被覆下にPM植込み術が施行された.以後症状の出現なく,7年5カ月が経過し,PM電池消耗が指摘されたため,PM交換術を施行した.手術では,植込まれたPTFEシートを切開し交換術を施行後,切開部を再度縫合閉鎖した.術後約6カ月が経過したが,PM植込み部のトラブルは生じていない.PMアレルギーに対し,PMをPTFEシートで被覆する方法は有用な手段とされている.しかし,その後に,PM交換術を施行した症例は非常に稀であるため報告する.
  • 仲田 和彦, 河合 庸仁, 佐久間 康平, 奥村 徳夫, 吉田 滋, 阪井 満, 森 良雄
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1953-1957
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は40歳,男性.腹痛,下痢にて受診,同日腹部CTにて上腹部に血腫を認めた.3D-CTおよび血管造影検査にて,右腎動脈瘤および中結腸動脈,右結腸動脈の不整な拡張を認めた.血管外漏出の所見ならびに血腫の増大もなく,右腎動脈のみcoiling施行.保存的に経過観察していたが,5日後排便時の急激な腹痛にて再発症した.緊急CTおよび血管造影検査施行.腹腔右側の血腫形成,血管外漏出所見も認め,緊急開腹術施行した.このときの出血源は右結腸動脈瘤破綻であり,前回出血源であった中結腸動脈瘤もふくめ右半結腸切除施行した.病理組織学的には中膜の壊死を中心としたsegmental arterial mediolysis(SAM)の診断であった.第27病日退院.退院時のCTで,肝動脈瘤が出現していたため,外来にて慎重にfollow upしていたところ,増大傾向はなく術後9カ月後の3D-CTでは縮小,術後1年後,動脈瘤は消失していた.新たな動脈瘤形成もなく,ひきつづき経過観察中である.
  • 鈴木 道隆, 茂垣 雅俊, 浜口 洋平, 舛井 秀宣, 福島 忠男, 長堀 薫
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1958-1961
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,女性.関節リウマチのため10年前よりステロイドを内服していた.平成18年12月,腹痛・悪心嘔吐を主訴として救急外来を受診し,腹部単純X線写真で著明な小腸ガス像を認めたため,腸閉塞の診断で入院となった.第2病日にイレウス管を挿入するも,自覚症状・画像所見はともに改善せず,第6病日に呼吸困難を発症した.胸部単純X線検査・胸部CT検査で右胸腔内に拡張した小腸を認めたため,横隔膜破裂と診断した.第7病日に横隔膜修復術,イレウス解除術を施行した.術後経過は良好で,第25病日に退院となった.
    横隔膜破裂の原因は外傷が殆どであるが,本例は,ステロイド内服による組織の脆弱化と腸閉塞による腹腔内圧の上昇が原因と考えられた,稀な発症様式の横隔膜破裂例であった.腸閉塞による横隔膜破裂の報告は,検索しうる限り本例が本邦で2例目であった.若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 梶浦 耕一郎, 長嶺 義哲, 亀山 眞一郎, 伊志嶺 朝成, 古波倉 史子, 福本 泰三
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1962-1965
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.夕食で鯛を食べた直後より咽頭部違和感が出現し当院受診した.CTで頸部食道に縦走する線状陰影を認め,魚骨による食道異物と診断した.しかし,上部消化管内視鏡では頸部食道に点状の粘膜発赤を認めるのみで魚骨を認めず,魚骨は食道筋層内へ完全に迷入していると考えられた.内視鏡的摘出が不可能であり,食道外切開術施行した.食道を露出したが,触診上魚骨を触知しなかった.術中エコーにて魚骨の正確な位置を診断し,筋層切開して魚骨を摘出した.術後第11病日に合併症なく軽快退院した.咽頭部違和感は消失し,術後1年で遅発性の合併症を認めない.穿孔を伴わない食道筋層内へ完全迷入した魚骨による食道異物は稀であり,それに対し食道外切開を施行した1例を経験したので報告する.
  • 富田 祐介, 本田 宏, 松本 卓子, 高畑 太郎, 内田 靖子, 小池 太郎
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1966-1969
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.過飲過食(アラ汁を食す)後の左胸部痛を主訴として食道異物を疑われ,当科を紹介受診した.CTで大動脈周囲にfree airが認められ,下部食道左壁に魚骨がつきささっていたため内視鏡下に摘出した.左胸水貯留が生じ経皮的胸腔ドレナージ術を施行したが,第7病日に胸水の増加と縦隔炎の増悪を認め,胸腔鏡下縦隔ドレナージ術を施行した.ドレナージは良好であったが,左下葉にMRSA肺化膿症を合併したためCT下穿刺ドレナージ術を施行した.第42病日に残存した瘻孔に対し,内視鏡下フィブリノゲン加第13因子(ベリプラスト®)注入を行い,瘻孔は消失し,第56病日に退院した.魚骨による食道穿孔後の難治性瘻孔閉鎖に内視鏡下瘻孔充填術が有効であった症例を経験したので報告する.
  • 矢内 勢司, 中井 宏治, 徳原 克治, 山道 啓吾, 中根 恭司, 權 雅憲
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1970-1974
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.呼吸困難,全身倦怠感を主訴に近医受診.胸部X線,胸部CTで左肺に腫瘍陰影を指摘,本院に紹介された.気管支内視鏡下生検でmucosa-associated lymphoid tissue(MALT)リンパ腫と診断され,上部消化管内視鏡で胃体上部から前庭部にかけ広範なMALTリンパ腫と弓隆部に0-IIa+IIcの胃癌を認めた.病理組織学的検査でMALTリンパ腫は肺の病変と同一であり,原発不明の胃・肺MALTリンパ腫と考えられた.胃癌は中分化型腺癌であった.胃MALTリンパ腫はStageIVとなるためCHOP療法を行うこととしたが,胃癌は粘膜下層以深の浸潤が疑われることから,胃切除術を先行した.切除標本では,胃癌は深達度が固有筋層までで,リンパ節転移はなかったが,リンパ腫のリンパ節転移および著明な脈管侵襲も認めた.今回,われわれは肺病変で発見され,進行した広範な胃MALTリンパ腫に胃癌を合併した稀な症例を経験したので報告する.
  • 宇山 攻, 沖津 宏, 一森 敏弘, 石川 正志, 木村 秀, 阪田 章聖
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1975-1980
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は50歳,女性.健診で胃粘膜下腫瘍を指摘され当院へ紹介となる.術前CT検査では胃後壁に壁外発育を示す6cm大の類円形腫瘍を認め胃GISTと診断された.腫瘍は胃体部大彎から有茎性発育をきたしており,腹腔鏡補助下に茎付着部より2cm離しstaplerを用いて胃全層を含めた胃部分切除術を行った.腫瘍は紡錘形細胞の増殖を認め免疫組織化学染色ではc-kit(+)からGISTと診断された.核分裂はほとんど認めず1>/50HPFであった.術後約12カ月経過した現在も無再発生存中である.壁外有茎性発育した胃GISTは本邦では過去に31例と比較的稀である.一般的な胃GISTに比べ壁外有茎発育性胃GISTは腫瘍径の割に予後は良好であるが,治療の第一選択は手術であり術式は胃正常部を含めた胃部分切除術が望ましい.
  • 佐野 文, 国枝 克行, 松橋 延壽, 田中 千弘, 長尾 成敏, 河合 雅彦
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1981-1986
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    GISTの予後不良因子に,腫瘍径,転移,臓器浸潤,腫瘍破裂,播種,不完全切除などがあげられる.われわれは穿孔,出血をきたした肝転移を伴う胃GISTの1例を経験したので報告する.症例は69歳,男性.2007年7月頃から心窩部不快感を自覚していたが,11月末に心窩部痛,コーヒー残渣様嘔吐を認め,当院に紹介された.腹部CTにて少量の腹腔内遊離ガス像,胃壁外に17cm大の腫瘍性病変,多発肝転移を認めた.胃内視鏡検査では穹窿部大彎の粘膜下腫瘍からの出血がみられた.胃粘膜下腫瘍による穿孔性腹膜炎と診断し,待機手術のために入院とした.入院12日目に大量吐血をきたしたため,左胃動脈上行枝の塞栓術を行った.一時的止血はできたが,再出血の危険もあり翌日胃全摘術を施行した.病理組織診断にて胃GISTと診断された.メシル酸イマチニブの内服を行っているが,術後13カ月経過した現在,肝転移巣の増大はみられていない.
  • 青山 徹, 玉川 洋, 韓 仁燮, 藤澤 順, 松川 博史, 益田 宗孝
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1987-1991
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,男性.2007年11月に下血が出現し,精査目的で上部消化管内視鏡を施行した.胃体部に潰瘍を伴った2型腫瘍を認め,生検の結果small cell carcinomaであった.また,同時に施行した免疫染色では,Chromogranin Aが陽性であった.胃小細胞癌(T2(MP),N0,M0,H0,P0,c StageIB)の診断で,2008年2月幽門側胃切除術,D1+α郭清,Billroth-I再建術を施行した.術後病理診断は,pT2(MP),N1,M0,H0,P0,CYX,根治度Bであった.併存疾患に脳出血後遺症として認知症があり,術後補助化学療法を行わずに経過観察とした.術後4カ月目の腹部造影CT検査で多発肝転移を認め,TS-1 100mg/日の内服を開始した.術後5カ月目に肝転移が進行し永眠した.胃小細胞癌は比較的稀とされる疾患であり,予後はきわめて不良である.現在,標準治療は確立されていない.今回われわれは,胃小細胞癌の1例を経験したので,本邦報告例の治療法と予後についての検討を含めて報告をする.
  • 若原 智之, 阪 眞, 森田 信司, 田中 則光, 深川 剛生, 片井 均
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1992-1996
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は38歳,女性.腹痛およびタール便を主訴に近医受診,上部消化管造影検査および内視鏡検査にて4型胃癌と診断された.初診時の腫瘍マーカーはCEA,AFPがともに高値であった.審査腹腔鏡にて洗浄細胞診陽性のため術前化学療法(S1+CDDP)を2クール施行した.CEAは基準値まで低下したものの,AFPは上昇していた.再度の審査腹腔鏡で洗浄細胞診が陰性となり,肝転移も認めなかったため,根治的胃全摘+脾合併切除を施行した.術後の病理組織学的検査で,低分化腺癌が存在した部位には化学療法の効果による組織変性を認めたが,AFP産生部位には全く効果を認めなかった.術後もAFPは上昇をつづけ,術後2カ月目の腹部CTで多発肝転移の出現をみた.本症例は腫瘍内の癌組織型の差により術前化学療法の効果に大きな差を認めた稀な症例であるともに,術前化学療法中の腫瘍マーカーの推移に関して示唆に富んだ症例である.
  • 早瀬 傑, 石井 芳正, 中野 恵一, 高橋 正泰, 竹之下 誠一
    2009 年 70 巻 7 号 p. 1997-2002
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    保存的加療に効果が見られず,外科的治療によって良好な結果を得ることのできた,十二指腸腫瘍を併存した慢性特発性偽性腸閉塞症(CIIP)の1例を経験したので報告する.症例は63歳,女性.1998年11月,腹痛出現し近医にて精査施行されたところ,十二指腸腺腫の診断にてEMR施行された.このとき腹部CTで十二指腸,大腸の拡張像も認められたため大腸内視鏡施行したが特に閉塞機転となるような病変を認めずCIIPと診断された.その後,特に症状なく経過していたが2005年からイレウスを頻回に繰り返すようになり2007年1月,当科に加療目的に紹介となった.術前精査では十二指腸と回腸末端の著明な拡張を認めるとともに十二指腸腫瘍の再発を認めた.これに対し十二指腸腫瘍切除,胃空腸吻合術,回盲部切除術を施行した.術後経過は良好で特に合併症もなく退院し,術後約2年経過した現在,特記すべき症状もなく落ち着いている.
  • 杉浦 浩朗, 久保 章, 亀田 久仁郎, 長嶺 弘太郎, 遠藤 和伸, 藤井 一博
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2003-2007
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は32歳,男性.上腹部痛,下痢認め,近医受診.腸炎の診断で内服薬処方されるも症状軽快せず,当院救急外来受診した.来院時上腹部中心に強い自発痛と圧痛を認め,腹部単純X線写真にて拡張した小腸ガス像を多量に認めたため,急性腸炎,腸閉塞の診断で入院となった.入院後,保存的加療にて症状軽快せず,再度施行した腹部造影CTにてwhirl like patternを認めたため,小腸軸捻転症と診断し入院から34時間後に捻転解除術を施行した.本症例は開腹手術の既往がなく,腹腔内に捻転の原因となりうる癒着,索状物,腸回転異常などを認めず,原発性小腸軸捻転症と診断した.本邦では成人発症の原発性小腸軸捻転症は稀であり,開腹既往の無い症例に限ると検索しうる限り41例が報告されているのみであった.手術の決定には腹部理学的所見が大切であることは勿論,経過に伴い再度施行した腹部造影CTが診断に有用であった.
  • 浅野 史雄, 長嶺 弘太郎, 亀田 久仁郎, 山本 晋也, 吉田 謙一, 久保 章, 竹川 義則
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2008-2012
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は,35歳の男性で,下痢・下腹部痛を主訴に来院した.腹部身体所見で下腹部に筋性防御を伴う圧痛があり,腹部CTで下腹部正中に炎症性腫瘤が認められた.入院後保存的加療を行ったが症状改善せず,急性虫垂炎による腹膜炎・腹腔内膿瘍の診断で,翌日手術を施行した.開腹すると虫垂は軽度の炎症所見を認めるのみで,腹腔内を検索するとBauhin弁から約50cm口側の回腸腸間膜内に重複腸管と思われる腫瘤性病変があり,その周囲に膿瘍形成を認めた.重複腸管および膿瘍を含め小腸部分切除術を行った.病理組織学的に重複腸管と診断され,小腸と対側の筋層内に膵組織を伴っていた.
    重複腸管に異所性膵を伴い腹膜炎症状で手術に至った症例は極めて稀であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 五本木 武志, 小形 岳三郎, 中野 順隆, 飯田 浩行, 軍司 直人, 折居 和雄
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2013-2016
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    長期間高血圧症と大動脈硬化を有する83歳男性がイレウスにて入院した.腹部CT検査にて回腸に局所性の肥厚による小腸閉塞所見がみられ,イレウス管挿入により症状は軽快したが,経口摂取再開によりイレウス症状が再発した.小腸閉塞部を切除する目的で回腸終末より約30cmの部位の部分切除を行った.切除小腸には2つの潰瘍性病変がみられ,その部の腸管壁は線維性に肥厚し腸管を閉塞していた.組織学的検索では,潰瘍性病変は粘膜層を保持したまま粘膜の全上皮が壊死消失し,粘膜に限られた炎症性細胞浸潤がみられる境界明瞭な病巣で,高度な虚血性小腸炎の病理像を示した.さらに,潰瘍直下の腸間膜の小動脈には,器質性血栓による完全な閉塞像がみられた.本症例は動脈硬化症を背景として血栓塞栓による虚血性小腸炎をきたした稀な症例と考えた.高齢者のイレウスには本例のような発症機序が存在することを留意すべきと思われた.
  • 遠藤 俊治, 小関 萬里, 富永 春海, 三隅 俊博, 谷峰 直樹, 上池 渉
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2017-2021
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は33歳,男性.嘔吐,臍右側痛のため当院救急外来を受診した.腹部単純X線検査で右上腹部に鏡面像を伴うガス像を認めた.CTでは右上腹部に小腸と連続する径5cm大の球形構造を認めた.内部に鏡面像と,1cm大の結節状高吸収域を2個伴っていた.99mTcシンチグラフィーでは同部に限局性異常集積を認めた.以上よりMeckel憩室炎と診断し手術を行った.腹腔鏡で観察すると回腸から腸間膜対側に分岐した約5cm大の憩室を認めた.周囲との癒着はなく可動性良好で,5cmの小開腹をおき,憩室を切除した.病理検査では憩室内面は小腸粘膜で覆われ,一部に胃底腺粘膜を伴い,広範な亜急性潰瘍が認められた.壁には固有筋層が認められ,Meckel憩室炎と診断された.憩室内部には1cm大の濃緑色結石2個を認め,胆汁酸腸石であった.真性腸石を伴うMeckel憩室炎は稀であり,文献的考察を加え報告する.
  • 田仲 徹行, 青松 幸雄, 小林 経宏, 武内 拓, 桑田 博文, 中島 祥介
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2022-2026
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,男性.平成18年9月,右下腹部痛と発熱を認めるため近医受診.抗生物質の処方を受けるも症状が増悪するため1週間後当院内科を受診し急性虫垂炎を疑われ当科紹介となった.来院時右下腹部に自発痛,圧痛,反跳痛を認め鶏卵大の腫瘤を触知した.血液検査所見では炎症所見に上昇を認めた.CT検査では盲腸内側,回腸末端部頭背側にガスを伴う5×5cmの腫瘤像を認め,急性虫垂炎または大腸憩室炎の穿孔による膿瘍形成を疑い,緊急手術を施行した.手術所見では虫垂の炎症は軽度で,回腸末端部約8cmの腸管に著明な発赤と壁肥厚を認め,同部腸間膜に膿瘍を形成していたため回盲部切除術を施行した.切除標本では回盲弁から約4cmの回腸に腸間膜に穿通する憩室を認め,病理組織学的所見とあわせ回腸憩室穿通による腸間膜膿瘍と診断した.術後経過は良好で術後20日目に退院した.
  • 山田 貴允, 藤井 正一, 佐藤 勉, 永野 靖彦, 今田 敏夫, 國崎 主税
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2027-2031
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは比較的稀な魚骨による肉芽腫性回盲部炎の1例を経験したので報告する.症例は56歳の女性で,平成19年5月腹痛精査目的に下部消化管内視鏡検査を施行し,盲腸に浮腫状粘膜に覆われた隆起と腸管拡張不良を指摘された.生検の結果は慢性炎症所見のみだった.注腸造影X線検査で回腸末端部から盲腸に狭窄を,CTで同部位に壁肥厚を認めた.Positron emission tomography(以下PET)で回盲部に2-fluoro-2-deoxy-D-glucose集積を認めた為,肉眼型4型の盲腸癌を疑い開腹回盲部切除術を施行した.切除標本では回盲部に著しい壁肥厚を認めた.組織学的検索では小型の多核巨細胞を含む,乾酪壊死のない,多数のepithelioid granulomaを認めた.また,同部位に魚骨と考えられる異物を認め,異物による肉芽腫性回盲部炎と診断した.術前PETで陽性となった比較的稀な肉芽腫性回盲部炎を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 森田 祥子, 窪田 信行, 三原 良明, 神野 大乗, 海賀 照夫, 高山 忠利
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2032-2035
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    術前に部位診断をしえた小腸血管腫の1例を経験したので報告する.症例は69歳,男性.大腸癌術後,貧血を認めた.上部下部消化管内視鏡では出血源を認めず,小腸の精査を行った.カプセル内視鏡により小腸出血を疑い,ダブルバルーン内視鏡により小腸腫瘍と診断,出血源と考え点墨を行い,小腸部分切除術を施行した.腫瘍は5mmと小さく,病理組織診断より血管腫の診断となった.小腸出血の診断はこれまで解剖学的特徴から困難であった.また,これまで広く行われてきた血管造影,出血シンチによる検出はある程度の持続的出血がなければ困難である.本症例は小腸内視鏡により出血源を術前に同定しえた症例であり,今後,原因不明の消化管出血において,カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡が診断の中心となっていくと考えられる.
  • 古元 克好, 小島 秀信, 藤 浩明, 森 友彦, 伊東 大輔, 小切 匡史
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2036-2041
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    小腸リンパ腫による狭窄が原因で発症したイレウスを契機に診断された胃,小腸同時性MALTリンパ腫を経験した.患者は61歳の女性,腹部膨満感と嘔吐のため当院救急外来を受診し腹部単純写真でイレウス像を,腹部造影CTで小腸の拡張,液貯留と部分的な壁肥厚を認めた.また胃角から前庭部の後壁に造影を受けない壁肥厚がみられ,上部消化管内視鏡で同部の2型病変はMALTリンパ腫と診断された.これよりイレウスの原因はMALTリンパ腫の小腸病変と考え化学療法を念頭にイレウスに対し保存的加療を行ったが,経口摂取を開始すると症状が再燃したため小腸腫瘍切除を施行した.小腸病変は胃同様MALTリンパ腫であったが,部分的にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に形質転換していた.胃と小腸の同時性MALTリンパ腫の報告は少なくここに報告する.
  • 小林 慎二郎, 須田 直史, 櫻井 丈, 四万村 司, 牧角 良二, 大坪 毅人
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2042-2046
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,男性.貧血の原因精査で内視鏡検査を施行され,S状結腸に腫瘍性病変が認められたため当院に紹介となった.右下腹部に手拳大の腫瘤を触知し,可動性はなかった.同部に軽度の圧痛を認めたが,反跳痛や筋性防御は認めなかった.CTで右下腹部に巨大な腫瘍を認めた.注腸造影では,S状結腸から造影剤が2方向に分かれ,下行結腸と同時に腫瘍を介して回腸末端から盲腸が造影された.腫瘍部から採取した生検組織から悪性リンパ腫と診断された.以上から回腸の悪性リンパ腫がS状結腸に穿通し瘻孔を形成したものと考えられた.後腹膜に浸潤していたため,手術は結腸右半切除+S状結腸部分切除+右尿管部分切除術を施行した.悪性リンパ腫は穿孔して発見されたり,治療経過中に穿孔することがあるが,いずれも腹膜炎となり緊急手術の対象となる.腹腔内に穿孔せずに隣接した消化管に瘻孔を形成することは少なく,稀と思われたので報告する.
  • 杉本 貴昭, 王 孔志, 藤元 治朗
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2047-2051
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    消化管MALTリンパ腫は,胃に最も多く,小腸や大腸においては稀である.今回,回盲弁に発生したMALTリンパ腫の1例を経験したので報告する.症例は65歳,男性.検診にて便潜血陽性を指摘されたため,当院消化器内科にて下部消化管内視鏡検査を受けた.回盲部に亜有茎性ポリープ様の30mm大の腫瘍性病変を認めた.抗凝固療法中であったため生検は施行せず.診断および治療目的にて回盲部切除施行.組織学的所見では中型のリンパ腫細胞がびまん性に浸潤し,lymphoepithelial lesionの形成も認めMALTリンパ腫と診断した.他臓器には異常所見は認めなかったため化学療法は施行しなかった.消化管原発MALTリンパ腫の治療法に関しては胃以外の消化管病変において確立されたものはない.局所的治療法によって長期の無病生存が期待できると報告されているが,多臓器多発の報告もあり経過観察が必要である.
  • 上田 純志, 鈴木 英之, 菅 隼人, 松本 智司, 秋谷 行宏, 田尻 孝
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2052-2056
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は83歳,女性.腹部膨満感を主訴に来院.既往に55年前子宮外妊娠による手術歴があった.腹部膨満を認め左下腹部に腫瘤を触知した.腹部CTにてS状結腸に腸管壁の肥厚像を認めた.また左下腹部に5cm大の石灰化を伴う内部不均一な円形の腫瘤像を認めた.腹部MRIでは同部は造影効果が乏しくT1にて骨格筋とほぼ等信号,T2にて軽度高信号を示す腫瘤像であった.下部消化管内視鏡ではS状結腸に全周性の腫瘍による狭窄を認め,生検にて高分化型腺癌と診断された.以上よりS状結腸癌,腹腔内腫瘤の診断にてS状結腸切除,小腸部分切除および腫瘤摘出術を行った.腹腔内腫瘤は硬い被膜に覆われており内部にガーゼを認めた.組織学的にも細胞成分に乏しい硬化性被膜でありガーゼによる異物肉芽腫症と診断された.本症例は遺留より55年を経てガーゼによる異物肉芽腫症と診断された.診断まで50年以上を経た症例は文献的にも4例であり希少な症例と考えられた.
  • 飯田 祐基, 谷 雅夫, 久保 淑幸, 住田 敏之, 阿川 千一郎, 瀬戸山 隆平
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2057-2060
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は41歳,男性.以前より時々下腹部痛を自覚していたが,左下腹部痛および有痛性の硬結を触れ当科を受診した.CT検査にてS状結腸憩室炎が疑われ保存的治療にて経過観察していたが,再度左下腹部痛が出現し,血尿・気尿も出現した.大腸内視鏡検査・膀胱鏡検査・注腸検査を施行したところ明らかな結腸膀胱瘻は認めなかったが,再度のCT検査にて膀胱内の空気像を認めた.S状結腸膀胱瘻の診断で手術を行ったところ,直腸S状部と膀胱の間に強固な癒着があり,直腸前方切除術を施行した.病理組織学的には直腸憩室炎に伴う直腸膀胱瘻と考えられた.直腸憩室炎による直腸膀胱瘻は極めて稀であり,若干の文献的考察を含めて報告する.
  • 渡邉 克隆, 神谷 順一, 塩見 正哉, 世古口 英, 高木 健司
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2061-2065
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    肛門周囲膿瘍は,日常診療で比較的よく遭遇するが,鼠径部に膿瘍を形成することは非常に稀な病態であり,検索したかぎり1例も認めない.症例は45歳の男性で,既往は特に認めない.肛門痛を主訴に来院し,肛門周囲膿瘍の診断で同日切開排膿を施行した.切開後,痛みは一時軽快したが,発熱が持続し,切開排膿から12日目に右鼠径部痛を自覚するようになった.骨盤部造影CTでは右鼠径部にガスを含んだ液体貯留を認め,前立腺や膀胱の左側の瘻孔の存在を疑わせるガス像と連続していた.注腸造影X線検査では,肛門管から瘻孔が造影され,膿瘍も造影された.以上から,肛門周囲膿瘍から鼠径部膿瘍を形成したと診断し,膿瘍切開,人工肛門造設を施行した.術後経過は良好で入院から49日目に退院した.6カ月後の注腸造影X線検査で瘻孔は消失していたため,人工肛門を閉鎖した.その後2年経過するが,再発は認めない.
  • 佐藤 嘉紀, 宗本 義則, 天谷 奨, 浅田 康行, 三井 毅, 飯田 善郎
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2066-2071
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    85歳,女性.1983年より他院でUCを指摘されていた.2005年に紹介医でCFを施行され下行結腸にLST病変を指摘,生検でGroup IVを指摘され当科紹介となった.当院CFで上行結腸から直腸にかけて多数の瘢痕を認め,下行結腸の瘢痕内に低隆起病変を認めた.注腸所見では盲腸からS状結腸にかけてのハウストラが消失し鉛管像を呈し,横行~S状結腸の拡張は認めず脾彎曲部に周囲に粘膜粗造を伴った辺縁不整な隆起性病変を認めた.以上UCを背景とした大腸癌の診断で腹腔鏡補助下大腸全摘術+回腸直腸吻合術を施行した.摘出標本では大腸粘膜は皺襞が消失,壁が軽度肥厚,下行結腸に5.8×5.0cmの平坦隆起性病変であった.病理組織所見では上皮内に限局するadenocarcinomaであり,腫瘍細胞は概ね隆起部に限局し腫瘍内の平坦粘膜部にDysplasiaを認め,今回の病変はDALMを背景にした上皮内癌が疑われた.高齢発症し長期経過後,大腸癌を合併した潰瘍性大腸炎患者の1例を経験したので報告した.
  • 太田 竜, 高橋 保正, 河原 祐一, 北村 雅也, 後藤 学, 関川 浩司
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2072-2076
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.糖尿病にて加療中,2007年10月中旬より右腰背部痛が出現し当院受診.血液検査にて高度の炎症所見を認め,腹部CTにて右腸腰筋内に5cmの膿瘍を形成していた.右腸腰筋膿瘍の診断で経皮的ドレナージを行ったが,貧血を認めたため原因検索目的にて下部消化管内視鏡検査を行ったところ,上行結腸に2型腫瘍を認めた.生検にて高分化腺癌であり,上行結腸癌の診断にて手術を施行した.上行結腸に5cmの腫瘍があり右腸腰筋に穿通し膿瘍を形成していた.結腸間膜に播種性結節が存在したため,腸腰筋の一部を合併切除して結腸右半切除術(D1)を行った.病理組織診にて腫瘍は膿瘍腔へ達していた.日常の診療において腸腰筋膿瘍に遭遇した場合には自験例のように大腸癌の存在も念頭に置く必要があると思われた.
  • 加藤 俊介, 榎本 直記, 上田 吉宏, 円城寺 恩, 大野 玲
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2077-2080
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    S状結腸癌の切除標本に日本住血吸虫卵が併存した症例を経験したので報告する.症例は77歳,女性.22歳まで静岡県に在住.便潜血陽性を主訴に当院受診した.大腸内視鏡検査にてS状結腸癌と診断し,S状結腸切除術を施行した.病理所見はtub2,ss,ly1,v0,n0,Stage IIであった.また,切除標本全長にわたり,粘膜下層から筋層に日本住血吸虫卵を多数認めた.手術後7カ月を経過した現在も残存腸管に再発なく,無再発生存中である.日本住血吸虫症と大腸癌の疫学的関連性が報告されているが,本症例の標本では虫卵の分布は非癌部主体であり,虫卵の存在と発癌に関与を示唆する所見は認めなかった.
  • 末吉 亮, 織畑 道宏, 國井 康弘, 片見 厚夫, 前川 勝治郎, 鎌野 俊紀, 斎藤 啓
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2081-2086
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,男性.便秘にて来院,精査でS状結腸癌と診断し,2007年11月中旬S状結腸切除術を施行,印環細胞を主とする粘液癌と診断した.術後化学療法としてUFT/LV,mFOLFOX-6,FOLFIRIを暫時施行した.2008年11月頃より頭痛,2008年12月上旬より舌のもつれと下肢筋力低下等を認めたため,当院緊急入院となった.頭部ガドリニウム造影MRI所見より癌性髄膜炎と診断した.全身状態が不良であったため,髄注化学療法や放射線療法は行えず,急速に病状が悪化,入院後12日目に死亡した.死亡後に施行した髄液細胞診は腺癌で,癌性髄膜炎と確定診断した.大腸癌を原発とする癌性髄膜炎は本邦で自験例を含め16例のみであった.低分化腺癌,特に印環細胞癌からの発症頻度が高かった.また術後全身化学療法施行例で癌性髄膜炎発症までに術後長期間経過する症例があり,全身化学療法の有用性も示唆された.
  • 河俣 真由美, 永野 靖彦, 山本 晴美, 山岸 茂, 藤井 正一, 國崎 主税
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2087-2092
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,男性.2005年9月,S状結腸のポリープに対してポリペクトミーを施行した.病理組織学的診断は中分化腺癌,Type0-Isp(16×13×12mm).SM(表層部から8,400um),ly0,v0,深部断端陽性(100μm(VM(+))であった.このため,同年11月,腹腔鏡補助下S状結腸切除術,D3郭清術を施行した.病理組織学的検査で癌遺残はなく,リンパ節転移も認めなかった.経過観察中の2007年5月,腹部超音波検査で肝S8に2cmの腫瘤を指摘された.画像検査所見から転移性肝癌と診断し,肝S8部分切除術を施行した.病理組織診断は,中分化腺癌で,大腸癌からの肝転移と診断した.本邦の報告では大腸SM癌の肝転移は1.2%とされ,稀である.さらに,リンパ節転移,脈管侵襲ともに陰性症例での肝転移は2例報告されるのみである.教室では1992年以降,手術を施行した大腸SM癌330例中,リンパ節転移,脈管侵襲ともに陰性の肝転移症例はこの症例のみであった.低リスクであっても画像診断などの定期的検査は必要であると考えられた.
  • 鈴木 俊二, 大地 哲史, 土居 浩一, 緒方 健一, 前田 健晴, 石原 明
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2093-2097
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.2005年にS状結腸癌に対してS状結腸切除術を施行した.術後3年目の腹部CT検査にて膵尾部腫瘍を指摘された.膵臓癌あるいは大腸癌膵転移を疑い膵体尾部切除術を施行した.病理所見では中分化腺癌細胞を認めた.組織像およびサイトケラチン染色パターンが一致したことよりS状結腸癌の膵転移と診断した.
  • 水上 達三, 大野 耕一, 鈴木 善法, 藤森 勝, 関下 芳明, 川見 弘之
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2098-2103
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.腹痛,肛門痛,下血を主訴に近医受診.直腸癌(Rb),前立腺浸潤の診断にて,前医紹介受診.サブイレウス状態にあったためS状結腸双孔式人工肛門造設術を施行.その後化学放射線療法(40Gy+UFT/UZEL)施行し,手術適応を含め当科紹介受診.骨盤内臓器全摘を回避する目的でmFOLFOX6追加後再評価の方針となった.5コース終了後,腫瘍は著明に縮小を認め,MRI,EUSにて前立腺浸潤の所見を認めないため,腹会陰式直腸切断術を施行した.前立腺から直腸右側前壁は癒着が強固であり,前立腺被膜部を含む瘢痕組織の切除も行った.切除標本上,腺癌成分は大部分が消失し,化学放射線療法の組織学的効果判定基準はGrade2と評価された.高度進行直腸癌症例の中には放射線化学療法に高感受性の症例が存在する.
  • 中原 千尋, 藤原 謙次, 山崎 徹, 岩下 俊光
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2104-2108
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.近医にて大腸癌検診目的に下部消化管内視鏡検査をうけ,肛門管に1cm大の隆起性病変を認めた.肉眼的に,当初良性の肛門ポリープと診断したが,生検にて,Group4の腺癌疑いと診断された.経肛門的に皮膚,直腸粘膜と合併切除したが,病理組織学検査で断端に癌浸潤陽性と診断された.その後の検査で,肛門管癌の表皮内Paget様進展と診断された.数回の切除,生検の経過中に,肛門中心湿疹様皮膚病変の急速な拡大を認めた.Mapping biopsyの結果,肛門周囲皮膚から歯状線を越えた直腸粘膜まで病変を認めたため,腹会陰式直腸切断術を施行した.急速な皮膚病変進行を伴う肛門管癌の経過を観察しえた報告は稀であり,早期肛門管癌の病態を知る上で貴重な症例と思われる.
  • 王 孔志, 吉田 康彦, 鈴村 和大, 中井 紀博, 岡田 敏弘, 藤元 治朗
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2109-2113
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    1996年から2007年までの12年間に当科で経験した痔瘻癌6例の臨床病理学的特徴と治療成績を検討した.大腸肛門部原発悪性腫瘍症例467例中痔瘻癌は6例(1.9%)であった.平均年齢61.8歳,男性5例,女性1例,主訴は肛門部痛と粘液排出が多く,痔瘻罹患期間は平均27.2年であった.術前確定診断は粘液細胞診断3例,組織生検2例,切除標本1例得られた.組織型は粘液癌が5例で遠隔転移,リンパ節転移はなかったが壁外性進展を特徴とし,局所が高度に進行し切除断端の確保が困難で局所再発も多かった.進行は緩徐で長期生存例も認められたが,放射線や化学療法が著効し完全奏効した症例はなく,局所の遺残・再発をきたすと根治は困難で局所での腫瘍の進展が予後因子となった.難治性痔瘻症例は臨床経過に着目し,早期診断を行い,手術に際しては的確な病巣の広がり診断を行い,十分な切除断端の確保することが肝要である.
  • 根塚 秀昭, 芳炭 哲也, 齋藤 智裕, 齊藤 光和, 藤井 久丈
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2114-2117
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性.便秘,腹満,腹痛を主訴に受診した.腹膜刺激症状を認めず.血液検査では軽度炎症反応を認めたが,血液ガス分析上アシドーシスの所見を認めなかった.腹部CTでは肝の辺縁まで及ぶ樹枝状の門脈ガス像と回腸を主体とした小胞状壁内ガス像を認めたが,free airは認めなかった.造影CTでは均一な腸管造影所見を呈し,腸間膜動脈の閉塞所見を認めなかった.腸管壊死や穿孔による腹膜炎を疑う所見に乏しいことより,便秘に伴う腸管内圧の上昇により腸管気腫をきたし門脈ガス血症に至ったと判断し,高気圧酸素療法を主体とした保存的治療を開始した.翌日には門脈ガスは消失し保存的に治癒した.腸管壊死や穿孔・梗塞が生じた重症例は緊急手術が必要であるが,軽症例は厳重な観察のもと保存的治療により改善する可能性がある.血液検査所見や画像的検査所見のみならず,理学所見をも含めた全身状態の的確な把握が肝要と考えられた.
  • 上野 陽介, 矢野 公一, 多賀 聡, 秋元 寿文, 蒲池 健一, 島内 貴弘
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2118-2122
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    急性腹症をきたす疾患は様々なものがあり得るが,早期診断を得ることで,良好な経過をたどることを経験することは多い.今回われわれは,急性腹症をきたす疾患としてまれな胆嚢軸捻転を経験した.腹部造影CT検査および腹部エコー検査にて胆嚢の腫大,造影効果の少ない壁肥厚,胆嚢壁への血流不全といった特徴的所見を把握し胆嚢軸捻転症の診断を得た.88歳と高齢ではあったが,術前より同疾患を診断し早期手術を行ったため術後合併症なく第10病日に軽快独歩退院することができた.本症例では開腹手術を選択し手術を安全かつ迅速に対応できたことが今回のような良好な結果が得られたもう一つの要因と思われた.急性腹症の診断,特に急性胆嚢炎の診断においては胆嚢軸捻転症を念頭に置く必要があり,症例に応じて腹腔鏡下手術,開腹手術を選択するべきである.
  • 内山 哲之, 阿部 友哉, 村田 幸生, 小田 聡, 大石 英和, 伊勢 秀雄
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2123-2127
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は89歳,女性.近医より胆石症による急性胆嚢炎の診断で救急搬送された.腹部造影CTにて胆嚢の著明な腫大と浮腫性変化をみたが,胆嚢壁の造影効果の減弱を有し,胆嚢捻転が疑われた.PTGBDは施行できなかったが,穿刺した胆嚢内溶液が血性であったことも併せて,胆嚢捻転をより強く疑い準緊急的に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.胆嚢はGrossII型の遊走胆嚢であり胆嚢頸部で270度時計回りに回転していたが,捻転を解除した後は比較的容易に腹腔鏡下に手術を終えることができた.segmental typeの胆嚢腺筋症があり,その遠位側に小結石が充満し,これが捻転の後天的要因と思われた.患者は第3病日に独歩退院した.胆嚢捻転症は予備力のない高齢者に発症することが多いことから,治療のアプローチや手術時期の決定に躊躇する場合もありうるが,より侵襲の少ない術式を速やかに行なうことが望ましいと考えられ,腹腔鏡下胆嚢摘出術はよい適応であると考えられた.
  • 岡田 克也, 宮澤 光男, 合川 公康, 利光 靖子, 岡本 光順, 小山 勇
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2128-2134
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    胆嚢摘出術後,総胆管狭窄により発症したamputation neuromaの2例を経験した.症例1は57歳,女性.9年前,胆石症に対し開腹胆摘および総胆管切開を施行された.黄疸を主訴に前医を受診し,精査で上部総胆管に狭窄を認め,肝門部胆管癌と診断された.当院紹介となり手術施行した.上部総胆管に約2cmの硬い腫瘤を触知し肝外胆管切除を施行した.症例2は60歳,女性.2年8カ月前,胆石胆嚢炎に対し開腹胆摘および総胆管切開を施行された.尿の黄染を自覚し前医受診したが,寛解し経過観察されていた.その後黄疸増悪し,精査で総胆管狭窄と診断された.当院紹介となり,良性胆道狭窄と診断し手術施行した.上部総胆管に約1cmの硬い腫瘤を触知し肝外胆管切除を施行した.上記2症例いずれも迅速病理で癌陰性であり,術後病理診断でamputation neuromaと診断された.胆道系術後に発症する本症はまれな疾患であるため,文献的考察を加えて報告する.
  • 星川 竜彦, 小林 健二, 鹿股 宏之, 篠崎 浩治, 加瀬 建一, 尾形 佳郎
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2135-2140
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は42歳,男性.検診で肝機能障害を指摘され,当院を紹介受診し,腹部CT検査と腹部超音波検査で肝内側区域に腫瘤性病変を認め,精査加療目的で入院とした.腹部MRI検査で左肝内胆管の閉塞と右前後区域の分岐部にも胆管壁の不整像があり,腹部血管造影検査では左門脈枝の完全閉塞と門脈本管の左右分岐部付近での狭窄を認めた.以上より切除不能胆管癌と診断し,減黄後にGemcitabine 400mg/body/week投与と放射線照射(50.4Gy)を施行した.3カ月後の腹部MRI検査で腫瘤は縮小し,6カ月後には腫瘤を指摘できなかった.その後,治療開始から9カ月目に溶血性尿毒症症候群(以下HUS)を発症し,血漿交換などを施行したが2カ月後に死亡した.切除不能胆管癌は予後不良であり,今回われわれは化学放射線が奏効した後にGemcitabineによると思われる溶血性尿毒症症候群をきたした1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 加来 啓三, 大城戸 政行, 加藤 雅人, 一宮 仁
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2141-2145
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は33歳,女性.近医受診時に腹部腫瘤を指摘され当院受診した.腹部超音波,CTで上腹部に10cm大の隔壁を有し一部石灰化を伴う境界明瞭な嚢胞性腫瘍を認めた.MRIでは腫瘍上端で一部膵頭部との連続性を認めた.以上より膵嚢胞性腫瘍,腸間膜嚢腫,後腹膜嚢腫等を疑い手術を施行した.腫瘍径は12cm,表面は薄い被膜で覆われており,周囲との境界は明瞭であった.膵頭部から膵外性に発育しており,内容液は乳糜状のリンパ液であった.術中病理診断でリンパ管腫と診断し,悪性所見は認めなかったことから腫瘍を膵頭部から切離した.術後2年経過した現在,再発は認めていない.
    膵リンパ管腫の術前診断には困難を要すが,病理組織学的には比較的診断は容易なため,術中病理検査により腫瘍切離前の診断は可能と思われる.良性腫瘍である膵リンパ管腫に対しては,極力過大な手術侵襲を避けることが望ましい.
  • 赤池 英憲, 坂井 威彦, 三井 文彦, 千須和 寿直, 宮澤 正久, 巾 芳昭, 宮田 和幸
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2146-2151
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,女性.近医で検診目的に腹部エコーを施行.左上腹部に腫瘤を指摘され当院紹介.精査を行ったところ,脾に38mm大の腫瘤を認めた.画像上,確定診断はつかなかったが,明らかな悪性所見はなく,症状もないことから経過観察となった.1年4カ月の経過で,この腫瘤は約60mmと増大傾向を認め悪性腫瘍が否定できず,脾摘出術を施行した.病理検査の結果は脾原発の炎症性偽腫瘍であった.脾原発の炎症性偽腫瘍は稀な疾患であり,画像所見での確定診断は困難である.基本的に予後良好な良性疾患であり,術前に確定診断がつけば,経過観察が可能な例もでてくると思われる.しかし,最近では炎症性偽腫瘍の疾患概念の中には真の腫瘍性病変も併存しているとの報告もあり,術前に確定診断がつかなかったり,悪性が否定できない場合には診断も兼ねた手術も必要と思われる.
  • 植木 美穂, 宮田 完志, 後藤 康友, 湯浅 典博, 雄谷 慎吾, 小林 陽一郎
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2152-2157
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,女性.近医で貧血,便潜血陽性を指摘され,精査の結果盲腸癌と診断された.遠隔転移の検索のためFDG-PETを施行したところ左右副腎へのFDGの高集積を認めた.CTで左副腎の腫大を認め,尿中総メタネフリン量が高値で,131I-meta-iodobensylguanidineシンチグラフィーで左副腎に集積を認めたことから左副腎褐色細胞腫と診断した.左副腎摘出術を盲腸癌に対する右結腸切除と同時に施行した.病理組織学的に髄質細胞成分のびまん性増加に伴う髄質層の拡大を認め,髄質/皮質比は約2と高値であり,副腎髄質過形成と診断された.副腎髄質過形成は本邦では自験例を含めて20例報告されている.本症は男性,左側に多く,また同側の副腎皮質腺腫や対側の褐色細胞腫を伴うことがあり,多発性内分泌腫瘍2型と関連を認めることがある.褐色細胞腫とほぼ同様の臨床所見を呈するため褐色細胞腫と術前診断される場合が多く,臨床診断に課題のある病態である.
  • 竹束 正二郎, 濱田 清誠, 笠間 和典, 堀江 健司, 小島 勝, 多賀谷 信美
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2158-2161
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    リンパ管腫は小児期に発生することが多いが,成人になり腹部に発生した報告もみられる.われわれは,妊娠出産後に発症した腸間膜リンパ管腫を診断し,腹腔鏡下に摘出できたので報告する.
    症例は,37歳・女性,第1子を帝王切開で出産した.産後1カ月腹部膨満感に気づき,腹腔内に嚢胞状病変が指摘された.腹部CT・エコー・PET/CTなどで,リンパ管腫を疑った.悪性所見は認めなかったため,腹腔鏡下に切除した.嚢胞は周囲組織との浸潤・癒着も少なくポートから摘出した.内容は乳糜様で,病理組織はcystic lymphangiomaであった.
    本疾患に対する腹腔鏡下手術は低侵襲で整容性にも優れ,積極的に試みて良い治療法と思われる.
  • 木村 洋平, 道傳 研司, 平沼 知加志, 伊藤 祥隆, 宮永 太門, 服部 昌和
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2162-2165
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は70歳代後半,男性.過去に複数回の開腹手術歴を有していた.平成17年11月下旬より嘔吐が出現し,同年12月初めに当院受診.受診時,腹部は膨満軟で,下腹部に圧痛を認めた.腹部CTスキャン検査にて遊離ガス像と拡張した小腸を認め,腸管穿孔を伴うイレウスと診断し,同日緊急手術を施行した.開腹すると,肥厚した線維性被膜が小腸全体を被覆しており,一部で壊死に陥った小腸が線維性被膜を通して透見された.術中所見より絞扼性イレウスを伴った被嚢性腹膜硬化症(以下EPS)と診断し,癒着剥離術と小腸部分切除術を施行した.
    本症例は複数の開腹手術が原因となり発症したEPSであり,比較的稀な病態と思われる.絞扼性イレウスを発症した機序もあきらかではなく,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 谷村 葉子, 高野 学, 小林 真一郎, 秋山 裕人, 井垣 啓
    2009 年 70 巻 7 号 p. 2166-2169
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/01/05
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.近医にて関節リウマチで加療中,関節痛,発熱を主訴に当院受診した.ごみ処理場での職業歴を有し,アスベスト曝露が疑われた.背部痛と右下腹部の腫瘤を認めた.CTにて胸膜プラーク,胸椎の肥厚,腹部腫瘤が明らかになった.感染性脊椎炎と腹腔内腫瘍と診断し,抗生剤による感染性脊椎炎の加療を先行した.5カ月後感染性脊椎炎は改善したが,その間に腹腔内腫瘍は増大した.同年10月開腹術を施行した.大網に付着した腫瘍と他に2個の播種病変を認め切除した.病理組織学的検査にて悪性腹膜中皮腫と診断した.
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