日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
71 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 村上 望, 角谷 慎一, 村杉 桂子, 牧野 奈々, 棚田 安子, 前田 一也, 吉田 貢一
    2010 年 71 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    がん終末期においての,療養場所の選択について検討した.PPI(Palliative Prognostic Index)による予後予測でのグループ化を行い,がん終末期患者における在宅移行症例9例と院内での療養・看取りとなった20例について,緩和ケアチーム介入から看取りまでの期間,在宅移行までの期間,在宅療養期間の比較検討を行った.また在宅での看取り6例に対する訪問看護ステーションへのアンケートも用いて分析した.緩和ケアチーム介入から看取りまでの期間からみると,在宅移行症例と院内症例において有意差は認めなかった.在宅移行後の患者の6名中5名は満足していたが,家族の半数は不安も大きいとの返答であった.この結果から,今回の解析では在宅移行時期は適切であったと考えられたが,摂食状況の悪化や家族ケアの不十分さを認め,今後の課題と思われた.
  • 松本 英男, 窪田 寿子, 村上 陽昭, 東田 正陽, 平林 葉子, 岡 保夫, 奥村 英雄, 浦上 淳, 山下 和城, 平井 敏弘
    2010 年 71 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    目的:われわれの施設における食道表在癌に対する非開胸による経横隔膜的食道切除術(THE)の成績を検討し,その認容性を検討した.対象:2003年4月から2009年4月まで当科で切除を行ったsm浸潤食道癌33例の治療成績を検討した.方法:cSM1までの食道表在癌で上・中縦隔にリンパ節転移の疑われない症例は,経横隔膜的食道切除を行い,これ以外の症例では右開胸での標準手術(TTE)を行った.また,病理組織診断でcSM2以上であり脈管侵襲を認める症例には補助化学放射線療法を施行した.結果:pM1,pM2が9例,pM3は2例であった.pM3の1例にはリンパ節転移を認めた.またpSM1は11例,pSM2は4例,pSM3は7例であり,リンパ節転移はそれぞれ4例(36%),2例(50%),5例(71.4%)に認めた.全症例での5年生存率は89.6%で,術式別にみるとTHEで100%,TTEで80.9%であった.深達度別にみると,pM1-2では100%,pM3-SM1で92.3%,pSM2-3では78.8%であった.結論:われわれの食道表在癌に対する適応に沿えば,THEはTTEに比べ遜色ない治療成績を得ることができた.
  • 橋本 雅司, 峯 真司, 森山 仁, 江原 一尚, 的場 周一郎, 横山 剛, 上野 正紀, 松田 正道, 木ノ下 義宏, 宇田川 晴司, ...
    2010 年 71 巻 1 号 p. 15-20
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    胃切除術後には約15%に胆道結石が発生すると報告されている.腹腔鏡下胆嚢摘出術や総胆管結石に対する内視鏡的総胆管結石切石術が普及している.そこで胃切除術後の胆石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術の可否や総胆管結石症例に対する治療法を1992年から2007年の胆石手術例2978例と胃切除術は2627例を対象に検討した.
    有症状で治療適応とした胃切除後後胆石症例は53例(胃切除術症例の2%)であり,このうち総胆管結石併発が24例(45%)あった.胆嚢結石に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術を31例に施行し23例(74%)で完遂可能であった.総胆管結石症併発例に対しては内視鏡的総胆管結石切石術が可能な例ではこれを施行後に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行することで総胆管結石のコントロールが可能と考えられた.内視鏡的総胆管アプローチが困難な例のうち,胆道拡張例や胆管内デブリ充満例,胆管炎合併例などでは積極的な胆道消化管吻合術が必要と考えられた.
症例
  • 勝木 健文, 中本 充洋, 鳥越 貴行, 中山 善文, 山口 幸二
    2010 年 71 巻 1 号 p. 21-24
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は52歳の女性.2000年6月にかかりつけ医で甲状腺右葉に34mm大の腫瘤を指摘されたが,以後腺腫様甲状腺腫の診断で経過観察となっていた.2008年7月,起床時に突然呼吸困難を自覚し,自ら救急車を要請.救急車内でチアノーゼと意識障害を認めたため気管内挿管を施行された.同日撮影した頸部CTで,上縦隔まで及ぶ巨大甲状腺腫による高度の気管狭窄を認められ,加療目的にて当院紹介.穿刺吸引細胞診では未分化癌が否定的であったため,手術を施行した.甲状腺腫瘍は圧排性の発育を示し,病理組織学的には被膜で覆われた濾胞性腫瘍で,被膜浸潤を認めたため微少浸潤型濾胞癌と診断した.術後経過は良好で,術後4日目に抜管した.医中誌で「甲状腺濾胞癌」「気管狭窄」「呼吸困難」等のkey wordで検索すると,同様の報告は4例であり比較的稀な疾患と思われる.甲状腺濾胞性腫瘍は高度の気管狭窄をきたすことがあり,注意が必要である.
  • 小林 恵子, 中込 博, 古屋 一茂, 大森 征人, 日向 道子, 小山 敏雄, 近藤 哲夫
    2010 年 71 巻 1 号 p. 25-30
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は42歳,女性.乳房内に腫瘤を自覚し近医を受診し,当院へ紹介された.マンモグラフィーでは左A領域に径13mm大の多角形辺縁不明瞭な境界を持つ腫瘤を認めカテゴリー4,超音波像では形態は多角形,境界明瞭,前方境界線の断裂なく等エコーでありカテゴリー4と診断した.MRIでは腫瘤は造影早期に濃染された.穿刺吸引細胞診にてclassIII,マンモトーム生検ではductal adenomaと診断されたものの異型例ではなく,乳房部分切除術を施行.サイログロブリン染色とTTF-1染色にて染色される甲状腺由来の組織像であった.甲状腺疾患の既往を確認したところ約7年前他院にて甲状腺濾胞腺腫の診断のもと内視鏡下甲状腺腫瘤摘除術を受けていた.腫瘤の局在位からも甲状腺腫瘤の内視鏡手術後に発症したポートサイト播種と診断した.良性の甲状腺腺腫と診断された症例であってもポートサイト播種を生じる可能性を示した症例であり,今後の内視鏡手術において参考になる症例と考える.
  • 杭瀬 崇, 伊藤 充矢, 大谷 彰一郎, 桧垣 健二, 高田 晋一, 松浦 博夫
    2010 年 71 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    乳腺葉状腫瘍は女性乳腺腫瘍の0.3~0.5%と比較的稀な疾患であるが,とりわけ男性については極めて稀であり,医学中央雑誌およびPUBMEDで検索する限り本邦でまだ報告例はなく,世界でも11例の報告を認めるのみである.今回われわれは,男性乳房に発症した巨大腫瘍に対して摘出手術を施行し,病理検査にて,葉状腫瘍の診断を得た1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は28歳,男性.増大する左乳房の腫瘤を主訴に当院紹介受診.家族歴,既往歴に特記事項なし.造影MRI検査では,左乳房に8cm大の境界明瞭で辺縁分葉状の腫瘍を認め,内部はほぼ均一に漸増する造影パターンを示した.針生検で悪性所見は認めなかったが確定診断には至らず,本人の希望もあり診断・加療目的にて摘出手術を施行した.摘出標本の病理組織検査から,極めて稀な男性乳腺葉状腫瘍と診断した.
  • 久保 慎一郎, 池田 雅彦, 小野 亮子, 重西 邦浩, 石井 辰明
    2010 年 71 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は70歳代女性.右乳房腫瘤を自覚し当院を受診.来院時,右乳房E領域に17mm大の腫瘤を認めた.マンモグラフィでは辺縁一部微細鋸歯状の高濃度腫瘤を認め,超音波検査にて15mm大の球形の低エコー腫瘤を認めた.穿刺吸引細胞診では浸潤性乳管癌(充実腺管癌)が疑われたが,胞体はライトグリーン好性細顆粒状でneuroendocrine differentiationの可能性も指摘された.針生検ではchromogranin A,CD56陽性,synaptophysin陽性で神経内分泌癌が推定された.以上より,神経内分泌癌の診断にて,右乳房切除およびセンチネルリンパ節生検を行い,神経内分泌癌の確定診断を得た.
  • 丸山 祐一郎, 堀内 彦之, 淡河 恵津世, 川原 隆一, 石川 博人, 木下 壽文
    2010 年 71 巻 1 号 p. 41-44
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,女性.主訴は嘔吐.右乳癌の診断で2006年に右胸筋温存乳房切除+腋窩リンパ節郭清,および術後補助療法を5-FU,エンドキサン,サイクロフォスファマイド,ドセタキセルを用いて施行された.2年後,対測乳房再発,皮膚転移をきたしたため,放射線療法施行された.その他,明らかな他臓器再発の所見は認めなかった.2009年2月嘔吐を契機に諸検査を受けられた.十二指腸閉塞と診断し,2009年3月27日,胃空腸吻合術施行.術中所見にて乳癌術後腹膜転移による十二指腸閉塞と診断した.経口摂取可能となり,現在外来化学療法中である.
    生存中に診断される乳癌の腹膜転移は少ないが,乳癌術後で消化管狭窄症状続いた場合,考慮する必要があると考えられる.
  • 和田 真弘, 藤村 知賢, 田中 求, 杉浦 功一, 池田 謙, 奥澤 星二郎, 島田 修
    2010 年 71 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,女性.腹部膨満感を主訴に,当院救急外来を受診した.なお既往歴で42歳時に左乳癌にて手術治療があった.来院時現症として,腹部の膨満と軽度の圧痛を認めるのみであった.腹部単純X線検査でイレウス像を認めた.腹部CT検査では,S状結腸に閉塞起点を認める腸閉塞の所見であった.下部消化管内視鏡検査ではS状結腸に全周性の狭窄を認めたが,粘膜面に明らかな腫瘍性病変を疑わせる所見は認めなかった.手術所見では,腹腔内に多数の白色小結節を多数認め,腹膜播種と診断した.S状結腸は非常に小範囲で狭窄を認めた.両側卵巣は粗大顆粒状の白色結節を有し腫大していた.手術はハルトマン手術と左側卵巣腫瘍摘出術を施行した.病理組織検査所見では,S状結腸筋層に既往の乳癌の転移巣を認めた.今回われわれは乳癌腹膜播種再発・消化管転移により腸閉塞をきたした症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 遠藤 光史, 青木 利明, 土田 明彦, 青木 達哉
    2010 年 71 巻 1 号 p. 52-56
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性.平成15年他院で左乳房温存手術施行.平成20年4月局所再発・リンパ節転移治療目的にて当院紹介.5月中旬よりカペシタビン,ドセタキセル併用療法開始.6月下旬に下血で入院,大腸内視鏡検査で直腸粘膜に広範なびらん・潰瘍性病変を認め,生検上悪性所見は認めず,薬剤性の直腸潰瘍を疑い,保存的加療を施行.症状は改善し,FEC100療法に変更.9月上旬便秘・肛門痛で再入院.直腸粘膜の潰瘍は軽快したが,壁硬化と狭窄を認め,生検では悪性所見は認めなかった.狭窄症状は改善せず,10月下旬に人工肛門造設術を施行.手術所見では腹膜播種は認めず,直腸壁は肥厚・硬化し,経肛門的針生検で,乳癌の転移と診断された.本邦乳癌直腸転移報告例は,自験例を含め10例とまれである.今後術後補助療法の発展から,再発形式の多様化も考えられ,乳癌術後の直腸狭窄では,転移も念頭におくべきである.
  • 五味 邦之, 梶川 昌二, 島田 宏, 矢澤 和虎, 代田 廣志, 中村 智次
    2010 年 71 巻 1 号 p. 57-61
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,女性.1年前に上行結腸癌の診断で結腸右半切除術を施行.充実型低分化腺癌のStageIIIaであったため術後補助療法としてテガフール・ウラシルの内服をしていた.術後3カ月目に腫瘍マーカーの上昇を認めたため,PET-CTを施行したところ腹部傍大動脈から縦隔,左鎖骨上窩にかけて多数のリンパ節腫大を認めた.上行結腸癌のリンパ節転移と診断し化学療法をmFOLFOX6に変更したが,次第に左乳房の発赤・腫脹と多数の皮膚結節が出現した.造影CTでは左乳房全体の不整な造影効果が認められ原発性炎症性乳癌の可能性も考えられたが,皮膚結節の生検にて上行結腸癌の乳房転移と診断された.次第に全身状態は悪化し術後1年2カ月で永眠された.大腸癌の乳房転移はまれであるが,なかでも炎症性乳癌の形態を呈した症例は報告がないため文献的考察も含めて報告する.
  • 花岡 俊仁, 鈴木 宏光, 中川 和彦, 福原 哲治, 小林 一泰, 佐伯 英行, 白川 敦子
    2010 年 71 巻 1 号 p. 62-66
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,女性.糖尿病の既往がある.2002年6月血痰,喀血が出現し,当院を受診した.胸部CTにて左上葉中心に淡いスリガラス様陰影を認めた.気管支動脈造影にて2カ所血管の拡張部を認め,塞栓術を施行した.その後血痰は減少し,肺の陰影も消退したが,左上葉に8×5mm大の小結節影が残存した.経過観察となったが,2003年1月再び喀血が出現し,胸腔鏡補助下に左上葉切除術を施行した.病理組織検査にて肉芽形成を伴う気管支炎像があり,一部にムコールの菌塊が充満する像を認め,肺ムコール症と診断した.手術後6年2カ月を経過し,再発なく糖尿病外来に通院中である.
    肺ムコール症の頻度は稀で,免疫能低下状態で発症することの多い予後不良な疾患である.自験例は糖尿病があり二次性といえるが,左上葉の小結節影にムコールが付着・増殖した腐生性の要因も考えられた.
  • 佐藤 征二郎, 白戸 亨, 富樫 賢一
    2010 年 71 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性.既往歴に特記すべきことはない.呼吸困難を主訴に近医を受診し,胸部レントゲン上,左自然気胸の診断となった.胸部CTを施行され左肺尖部にブラと左S6領域にブラとそれに隣接した8mm程度の小結節を認めた.胸腔ドレーンを留置し,一旦軽快退院となったが,翌月には再発したためブラおよび腫瘍切除を目的として,手術となった.気漏は肺尖部のブラより認めていた.組織学的にS6の腫瘍はherring bone patternを呈し,核分裂像も多数散見され,MIB-1 indexも高値であり紡錘細胞肉腫の結果であった.術後全身検索で原発となる臓器は他に認めなかった.免疫組織学的検索で,肺芽腫,滑膜肉腫が鑑別となり,滑膜肉腫に特徴的な融合遺伝子を調べたが,検出することはできず,確定診断には至らなかった.術後3年9カ月経過し他の肉腫病変は顕在化しておらず無再発生存中である.
  • 松谷 毅, 内田 英二, 丸山 弘, 鈴木 成治, 松田 明久, 笹島 耕二
    2010 年 71 巻 1 号 p. 72-76
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性.嚥下困難,体重減少を主訴に前医を受診.上部消化管内視鏡検査にて胸部中部食道に腫瘍を認め,生検にて腺癌であった.腫瘍マーカーは,CEA 43.3ng/mlと高値であった.食道腺癌(Mt,3型,T3N2M0,StageIII)にて右開胸開腹胸部食道亜全摘術を行った.術後経過は良好であり,術後第21病日に軽快退院した.CEA値は正常範囲内となった.切除標本の病理学的検査では,中分化型腺癌,pT3,pN2,sM0,ly1,v0,fStageIII,CEA染色陽性で,Barrett食道は食道胃接合部から腫瘍肛門側まで認めたが腫瘍の口側にはなかった.Docetaxel/CDDP/5-FU化学療法を行ったが,術後5カ月後に肝転移と肺転移が出現した.TS-1/CPT-11併用化学療法へと変更したがstable disease(SD)であった.現在外来にて通院加療中である.
  • 金田 邦彦, 岡本 明子, 高松 学, 高橋 応典, 松田 武, 川口 勝徳
    2010 年 71 巻 1 号 p. 77-82
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    抗利尿ホルモン分泌異常症候群(syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion:以下SIADH)は,ADHの異常分泌のために水分貯留が起こり,その結果,低Na血症に至る症候群である.今回,われわれは進行食道癌に対する術前化学療法としてCDDP+5FU療法(以下FP療法とする)施行中にSIADHを発症した1例を経験した.食道癌化学療法中にSIADHをきたした報告例は少なく,そのうち切除可能症例で外科的切除を行ったのは自験例を含めて4例だけであった.今後,進行食道癌に対して術前化学療法を行う機会が増加することが予想され,その際にはSIADHの発症を念頭におく必要があると考えられた.本例では根治手術後に施行した術後補助化学療法でも同様のSIADHを発症しており,発症幾序の観点からも示唆に富んでいると考えられた.
  • 亀山 眞一郎, 小網 博之, 伊志嶺 朝成, 伊佐 勉, 古波倉 史子, 新里 誠一郎
    2010 年 71 巻 1 号 p. 83-86
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は47歳,男性.平成14年12月,十二指腸潰瘍穿孔に対して大網被覆術を施行したが,潰瘍出血を繰り返したため,その8日後に幽門側胃切除術・Roux-en Y再建を行った.平成17年10月,全身浮腫を主訴に当院を受診.11月に大腸内視鏡を行ったところ,胃空腸吻合部と横行結腸を交通する巨大な瘻孔を認めた.上部消化管造影でも交通が確認され,胃空腸結腸瘻と診断した.平成18年4月,瘻孔部を含む胃空腸部分切除・横行結腸部分切除術を行った.本症は下痢や体重減少で発症することが最も多く,胃切除後にこれらの症状を示す場合には本症を念頭に置く必要があると考えられた.
  • 溝口 資夫, 上之園 芳一, 有上 貴明, 石神 純也, 吉井 紘興, 夏越 祥次
    2010 年 71 巻 1 号 p. 87-93
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.胃内発育型の胃粘膜下腫瘍の経過観察中に腫瘍の増大を認めたため手術を行った.手術は腹腔鏡下に4ポートで開始し,術中胃内視鏡にて腫瘍の局在を確認後,切除範囲を決定した.腫瘍周囲4カ所に内視鏡治療用のニードルナイフを用いて腹腔鏡観察下に胃壁を全層切開した.さらにその切開部より超音波凝固切開装置を用いて腫瘍を含めた胃部分切除術を行った.切除部位の閉鎖は,針の対側端に予めループを作製した支持糸を用い,鏡視下に数カ所を全層刺通後,針をループに通し,体外に支持糸を牽引し自動縫合器を用いて一括縫合閉鎖を行った.最終病理ではlow-grade-GISTと診断され,切除断端も充分に確保されていた.術後合併症もきたすことなく退院できた.本術式は胃内発育型の胃GISTに対し,病変部位を安全に確認しながら切除断端を確保し,胃切除範囲を最小限に抑えることが可能であり,縫合も不要であることから簡便かつ安全に行える手技である.
  • 大橋 龍一郎, 小野田 裕士, 徳毛 誠樹, 岡 智, 山川 俊紀, 塩田 邦彦
    2010 年 71 巻 1 号 p. 94-98
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    胃癌手術後に発生した腹膜播種再発によるY脚の閉塞症5例に対して姑息的バイパス手術を行った.先行する胃切除術式は幽門側胃切除術1例,胃全摘術4例で,いずれもRoux-en-Y再建法が施行されていた.胃癌の組織型は全例が未分化型腺癌で,4例は初回手術時に腹膜播種あるいは腹腔内洗浄細胞診が陽性であった.胃切除術からバイパス手術までの平均期間は448日間,バイパス手術後の平均生存期間は82日間であった.4例が退院可能でその内の2例には在宅高カロリー輸液療法が行われた.退院可能例の平均在宅療養期間は33日間であった.67歳女性症例の臨床経過を呈示する.Y脚の閉塞症は緊急処置を要する状態であるが,原因が腹膜播種である場合には癌終末期の姑息的治療であるため手術適応は難しい.症例ごとに説明と合意を得ながら治療方針をきめるべきである.
  • 平田 貴文, 久米 修一, 久保田 竜生
    2010 年 71 巻 1 号 p. 99-103
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性.腹痛,食欲不振にて当院受診.上部消化管内視鏡検査にて胃体下部大弯に退色調の地図状粘膜隆起を3カ所認め生検を行った.結果はRussell body,Dutcher bodyを有する髄外性形質細胞腫疑いであった.またヘリコバクターピロリ菌は認めなかった.その後の精査にて遠隔転移など認めないことから幽門側胃切除術を行った.術後,病理組織学的検査では粘膜固有層を中心にλ鎖陽性細胞を主体とした形質細胞の浸潤を認めた.術後経過は良好で現在無再発生存中である.髄外性形質細胞腫は比較的まれな疾患で,消化管原発は10%程度といわれている.また胃MALTリンパ腫の類縁疾患といわれているが今回の症例ではMALTリンパ腫の特徴は認めなかった.まれな疾患である胃形質細胞腫を経験したので文献的考察を加え報告する.
  • 山下 重雄, 高橋 直人, 渡部 篤史, 三森 教雄, 柏木 秀幸, 矢永 勝彦
    2010 年 71 巻 1 号 p. 104-108
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.アレルギー性紫斑病,ネフローゼ症候群にて当院内科入院であった.腹痛の精査で腹腔内遊離ガスを認め,十二指腸潰瘍の穿孔と診断された.CTガイド下ドレナージを行い,プロトンポンプ阻害薬(以下PPI)投与とステロイドの減量を行った.その後再穿孔を発症したため緊急手術を施行した.開腹時穿孔部を同定できず,ドレナージ術に留めた.全身状態の改善を待ち,後壁側への穿通性難治性潰瘍と判断し2週間後に再手術を施行した.十二指腸下行脚の口側に大きな潰瘍底が存在し,同部より胆汁が流出しており,潰瘍底より術中造影を施行すると総胆管のみ描出された.総胆管十二指腸瘻の診断で選択的胃迷走神経切離術,胃半切除術,総胆管空腸吻合術を施行した.術後経過は良好で軽快退院となった.消化性潰瘍の治療はPPIをはじめとする内科的治療が中心であるが,本症例のような総胆管穿通を伴った症例では,外科的治療が必要である.
  • 大沢 晃弘, 渡邉 学, 浅井 浩司, 松清 大, 齋藤 智明, 長尾 二郎, 高橋 啓
    2010 年 71 巻 1 号 p. 109-113
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,女性.閉塞性黄疸の診断にて紹介入院となった.腹部超音波,CT,上部消化管内視鏡,ERCP検査にて十二指腸乳頭部の腫瘍性病変による閉塞性黄疸と診断された.生検の結果,十二指腸乳頭部癌と診断.EBDによる減黄の後,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学検査の結果,腺内分泌細胞癌の診断であった.十二指腸腺内分泌細胞癌の本邦報告例は自験例を含め10例である.本疾患は悪性度が高く,治癒切除および術後補助化学療法がなされてもその予後は極めて不良である.自験例は,手術時すでに肝転移を認めていた.術後化学療法としてS-1内服を行ったが,徐々に進行していき術後14カ月で死亡した.本邦報告例とともに文献的考察を加え報告する.
  • 北村 大介, 関 英一郎, 権田 厚文
    2010 年 71 巻 1 号 p. 114-118
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.平成17年4月,直腸癌に対してMiles手術を行った.平成18年6月CTにて仙骨前面局所再発と肺転移を認めたため平成18年7月骨盤部に計50Gy放射線照射を行った.同時期よりmFOLFOX6を開始した.計28コース行い,CTでは局所はSDであったが肺転移がPDであったため,平成20年4月からFOLFIRI2に変更しbevacizumab併用を開始した.計19コース行いNCで経過していた.平成21年3月,最終投与5日後,突然腹痛,発熱あり外来受診.CTにて消化管穿孔,腹膜炎の診断にて緊急手術施行した.回腸穿孔を認め,小腸部分切除,洗浄ドレナージを行い,回腸人工肛門を造設した.消化管穿孔はbevacizumab療法の有害事象の中で最も重篤であり,放射線治療後はリスクも高く,治療時には細心の注意が必要であると思われた.
  • 本間 祐樹, 小尾 芳郎, 上向 伸幸, 長堀 優, 阿部 哲夫, 遠藤 格
    2010 年 71 巻 1 号 p. 119-122
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    S状結腸腹膜垂を原因とする稀なイレウスを経験したので報告する.症例は開腹歴のない63歳男性で腹痛,嘔吐を主訴に来院した.イレウスと診断し,イレウス管を挿入の後,保存的治療を行った.一旦は症状が軽快したものの再増悪し,イレウス管造影で小腸の著明な狭窄を認めたため開腹手術を施行した.術中所見ではS状結腸腹膜垂がループを形成し内ヘルニアとなり,その中に小腸が嵌頓していた.腹膜垂を切離し,閉塞を解除した.腸管に壊死所見は認めなかったため小腸切除は行わなかった.腹膜垂によるイレウスは本邦では19例報告があり,自験例は20例目と考えられた.
  • 桂田 純二郎, 河村 正敏, 荻野 健夫, 高橋 剛, 坂本 信之, 堤 謙二
    2010 年 71 巻 1 号 p. 123-127
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,女性.平成16年3月,直腸癌にて低位前方切除術施行.病理組織学的所見は中分化腺癌,ss,n0,P0,H0,M(-),stageII.術後は化学療法せず,外来で経過観察されていた.平成17年7月,CEA 5.4ng/ml,10月には8.0ng/mlと上昇を認めた.CT上明らかな異常所見なく,FDG-PET/CT施行.小腸にFDGの集積を認め,MRI上も同部位の小腸壁に肥厚が認められた.直腸癌術後小腸転移の診断で,11月手術施行.腹膜播種はなく,Bauhin弁より約20cm口側回腸に腫瘤あり,小腸部分切除術施行.病理組織学的所見で中分化腺癌が認められ,前回直腸癌と同様の所見であることから,直腸癌術後孤立性小腸転移と診断された.術後TS-1を隔日投与し,再発巣切除術後3年3カ月経過した現在無再発生存中である.
  • 渡辺 一輝, 野家 環, 伊藤 契, 針原 康, 古嶋 薫, 小西 敏郎
    2010 年 71 巻 1 号 p. 128-131
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は10年前に右腎細胞癌の既往がある68歳男性.貧血を指摘されたが,上・下部内視鏡検査で問題を認めなかった.カプセル内視鏡を施行すると小腸に隆起性病変を認めたため,ダブルバルーン内視鏡を行い,回腸末端から180cmの小腸にIspポリープを認め,生検で腎細胞癌の小腸転移と診断した.回腸部分切除を行ったところ,病理組織でも腎癌の小腸転移の診断だった.その7カ月後に再度,小腸転移を認め小腸部分切除を施行しているが現在初回手術から16カ月生存中である.腎癌は術後長期間にわたって異時性転移を認めるが,小腸転移はその中でも稀で,診断が困難であることが多い.しかし,早期発見により本症例のように延命やQOLの向上につながる症例もあるため,腎癌の既往がある場合には,腎癌小腸転移も疑って,積極的にカプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡を施行する必要がある.
  • 澤岻 安勝, 横山 直行, 桑原 史郎, 山崎 俊幸, 片柳 憲雄
    2010 年 71 巻 1 号 p. 132-136
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.腹部膨満,下腹部痛を主訴に当院へ救急搬送された.初診時の理学所見上,右下腹部を中心とする筋性防御を認め,腹部CT検査上,腹腔内遊離ガスおよび回腸末端付近に腹水を認めた.虫垂炎穿孔による腹膜炎の術前診断で緊急手術となる.下腹部正中切開で開腹し,膿性腹水と著明に腫大した虫垂突起の中央に穿孔を認めた.また,虫垂根部付近に示指頭大の腫瘤を触知した.盲腸癌もしくは虫垂癌と診断し,回盲部切除術(D2)施行した.病理結果はC,type 1,30×25mm,tub 1 with muc,pSE,ly0,v0,pN1(3/7),D2,stageIIIa,Cur Aで,盲腸癌による虫垂開口部の閉塞が虫垂穿孔の原因と推測された.術後27日退院した.術後にカペシタビン投与を行ったが,術後8カ月で腹膜再発し,FOLFOX6による化学療法中である.術前診断が困難な穿孔性虫垂炎発症の盲腸癌の1例を報告した.
  • 大楽 耕司, 上田 晃志郎, 鴨田 隆弘, 藤岡 顕太郎
    2010 年 71 巻 1 号 p. 137-140
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    腸間膜側への大腸穿孔は遊離腹腔内への穿孔に比べて症状の出現が緩く,診断が困難とされている.しかも,一旦糞便性の腹膜炎に陥れば予後不良となる.今回,われわれは腸間膜側へ穿孔し,後腹膜気腫を伴ったS状結腸穿孔症例を経験した.症例は79歳の男性.上部消化管造影検査の2日後に下腹部痛が出現し,腹痛が増強するため当院を受診した.来院時の腹部CT検査でS状結腸にバリウムの混在した便貯留と周囲のガス像を認めた.ガス像は後腹膜腔を膵臓背側付近まで広がっていた.これよりS状結腸穿孔の診断の下に緊急手術を施行した.術中所見ではS状結腸の腸間膜側に約4cm大の穿孔口を認めた.Hartmann手術を選択し,穿孔部を含めてS状結腸を切除し人工肛門を造設した.第26病日に軽快退院し,約4カ月後に人工肛門閉鎖術を施行した.現在まで良好に経過している.
  • 光吉 一弘, 浅尾 寧延, 高村 宙二
    2010 年 71 巻 1 号 p. 141-144
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    脾膿瘍を生じたサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)感染を合併した潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の1例を経験した.症例は75歳の男性で,高熱を伴う敗血症状態で救急搬送されてきた.腹部CT検査で脾膿瘍を認め,大腸憩室穿孔等を疑い大腸内視鏡検査を施行したが下行結腸脾弯曲付近より大腸壁の全周性硬化狭窄によりカメラの挿入が不可能でありウログラフィン造影で脾膿瘍に至る瘻孔を確認した.抗生剤投与でも膿瘍の沈静化が図れず,US下にドレナージを施行したが,なお瘻孔残存が持続するため口側の横行結腸に人工肛門を造設し瘻孔部を空置することにより,ようやく瘻孔閉鎖さらに脾膿瘍が消失した.2期的に狭窄部大腸を切除する人工肛門閉鎖術を脾臓温存して施行したが,切除標本よりCMV感染を合併したUCであることが判明した.CMV感染を合併したUCでは時に潰瘍や瘻孔形成することがあり,念頭におき診断および治療にあたるべきと考えられた.
  • 境 雄大, 小倉 雄太, 成田 淳一, 若山 文規, 兒玉 博之
    2010 年 71 巻 1 号 p. 145-149
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    患者は65歳,男性.肺小細胞癌と癌性疼痛に対して抗悪性腫瘍剤とオキシコドンによる治療を行っていた.抗悪性腫瘍剤の最終投与から17日後に腹痛が出現した.体温は39.7℃で,右下腹部に圧痛と反跳疼痛を認めた.白血球数は3,000/μl,CRPは1.53mg/dlであった.腹部CTで大腸憩室炎と診断し,保存的治療を開始した.腹膜刺激症状は改善したが,右下腹部が圧痛持続し,血液生化学検査で炎症反応が遷延するため,入院後第5病日にCTを施行すると盲腸周囲膿瘍を形成していた.開腹術を行い,大腸憩室炎穿孔による盲腸周囲膿瘍と診断し,回盲部切除術を行った.術後第26病日に呼吸器内科に転科し,化学療法を再開したが,術後7カ月で肺癌により死亡した.悪性腫瘍の化学療法時には明らかな骨髄抑制はなくとも大腸憩室炎に対して保存的治療が無効なことがあるため,臨床症状,検査所見から期を逸することなく外科的治療を考慮すべきである.
  • 福岡 達成, 野田 英児, 前田 清, 井上 透, 西口 幸雄, 平川 弘聖
    2010 年 71 巻 1 号 p. 150-153
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は70歳代の男性.膀胱癌および肺転移に対して術前化学療法を施行後,経尿道的膀胱腫瘍切除術を施行した.その後外来にて経過観察中,手術から約8カ月後の腹部CT検査にて左総腸骨動脈周囲リンパ節の腫大,および上行結腸に腫瘤陰影が認められた.さらに大腸内視鏡検査にて上行結腸に1型の腫瘍を認めた.上行結腸腫瘍に対し,結腸右半切除術を行い,同時に左総腸骨動脈周囲のリンパ節を摘出した.病理組織検査の結果,上行結腸の腫瘍,左総腸骨動脈周囲リンパ節ともに膀胱癌の転移と診断された.転移性大腸癌は非常に稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 石原 寛治, 金田 和久, 栄 政之, 渡辺 千絵, 田中 肖吾, 山本 隆嗣
    2010 年 71 巻 1 号 p. 154-158
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    イレウス管は腸閉塞症の保存的治療に減圧やステントを目的として広く用いられている.一方,稀ではあるが腸穿孔や腸重積などの合併症も報告されており近年,イレウス管に起因する腸重積の報告は増加しつつある.
    症例は80代女性,腹部膨満と嘔吐を主訴に受診.腹部X線写真・エコーで小腸から上行結腸の著明な拡張があり腸閉塞の診断で入院.イレウス管挿入後,精査にて横行結腸癌による腸閉塞と判明した.挿入7日目,排液の低下とともに嘔吐が始まり,左下腹部にソーセージ様の柔らかい無痛性腫瘤を触れ,腹部CTで腸重積と診断.手術ではTreitz靱帯より20cmで空腸が順行性に重積していた.
    イレウス管を用いる場合,留置中・抜去後を通して腸重積をきたす可能性を念頭に置き,エコー・CTなどで腸管の状態を随時観察する必要があると考えられた.
  • 板谷 喜朗, 河本 和幸, 伊藤 雅, 小笠原 敬三, 能登原 憲司
    2010 年 71 巻 1 号 p. 159-163
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.2008年12月四肢近位の筋痛で体動困難となり近医を受診した.筋原酵素(CK)の上昇と腎機能低下を認め,横紋筋融解症と診断された.安静補液後も筋力低下や嚥下障害を認め,2009年1月精査加療目的で当院を紹介となった.受診時CK3,059IU/lと著明高値で,筋電図や大腿筋MRIの所見から多発性筋炎と診断した.また腹部CTと大腸内視鏡検査で肝転移を伴うS状結腸癌と診断し,S状結腸切除,肝切除を施行した.CKは術直後に585IU/lまで低下し,3カ月後には正常化し,筋力も徐々に回復した.臨床経過とCKの推移からS状結腸癌に伴う悪性疾患関連筋炎と診断した.皮膚筋炎と悪性腫瘍の合併は知られているが,多発性筋炎を合併した大腸癌の報告例は少なく,本症例は貴重な1例と考える.
  • 森 義之, 飯野 弥, 三井 文彦, 日向 理, 藤井 秀樹
    2010 年 71 巻 1 号 p. 164-168
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性.2003年2月,下部直腸癌に対して,術前化学放射線療法を施行した後,同年3月に低位前方切除術を施行した(pStageIIIa).術後吻合部縫合不全を生じ,人工肛門造設術を施行した.ドレーン抜去部が糞瘻となっていたが自然閉鎖した.縫合不全が画像上認められないことを確認して,2004年5月,人工肛門を閉鎖したところ,2005年4月,左下腹部のドレーン抜去部に直腸皮膚瘻が再燃した.経皮的なフィブリノーゲン注入では閉鎖しないため,経下部消化管内視鏡的にERCP用の造影カテーテルを瘻孔内へ約5cm挿入し,シアノアクリレートを注入した.瘻孔は閉鎖し,3年10カ月後の現在再燃を認めない.特に放射線治療後は,消化管術後縫合不全により生じる瘻孔が難治性となり,治療に難渋することがあるが,本症例では経内視鏡的シアノアクリレート注入が有効と考えられた.
  • 盛口 佳宏, 山本 聖一郎, 藤田 伸, 赤須 孝之, 森谷 冝皓
    2010 年 71 巻 1 号 p. 169-173
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    57歳,女性.近医にて直腸癌に対し低位前方切除術を施行され,術後8カ月の吻合部再発に対して,腹会陰式直腸切断術を施行された.しかし,その後仙骨前面に2度の骨盤内再発をきたした.1度目は腫瘍・子宮付属器合併切除術後に化学療法,2度目は放射線療法後に腫瘍切除術が施行された.いずれも完全切除であったが,その7カ月後に,再度骨盤内再発の診断で当院受診となった.当院では仙骨合併骨盤内臓全摘術を施行した.切除標本では高分化腺癌が存在し,完全切除であった.術後6年目に交通事故死するまで再発を認めなかった.直腸癌では,骨盤内再発を繰り返しても,拡大切除で長期生存が得られる症例を経験する.本症例のような場合,根治拡大手術を考慮し,慎重な治療方針の選択が必要である.
  • 杉本 起一, 福永 正氣, 飯田 義人, 菅野 雅彦, 杉山 和義, 津村 秀憲
    2010 年 71 巻 1 号 p. 174-179
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    高分化型肝細胞癌で腫瘍径が20mm以上であるものは稀とされる.今回,われわれは腫瘍径が70mmに及ぶが,病理組織学的に腫瘍全体に脱分化がみられず,画像検査所見と病理組織学的検査診断に解離を認めた高分化型肝細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は50歳代,男性.2004年8月に肝血管腫と診断された径30mmの肝腫瘍が,2006年2月には径が70mmと増大を認め,精査加療目的に当科紹介となった.腹部超音波検査では辺縁に低エコーを伴い,内部は比較的均一な等エコーを示した.腹部CT検査,腹部血管造影検査では辺縁が濃染し,動脈優位のhypervascular tumorを認めた.古典的肝細胞癌を疑い,肝右葉切除術を施行した.病理組織学的検査では,腫瘍全体に脱分化がみられず,高分化型肝細胞癌と診断した.術後3年6カ月経過した現在,再発は認めていない.
  • 宮垣 博道, 小林 省吾, 永野 浩昭, 武田 裕, 森 正樹, 土岐 祐一郎
    2010 年 71 巻 1 号 p. 180-186
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    レンメル症候群は,十二指腸憩室が胆管炎や膵炎を惹起するまれな病態である.手術治療は重症例もしくは再発例に考慮される.われわれは膵・胆管合流異常症を合併したレンメル症候群を経験したので,文献的考察を加え報告する.
    症例は49歳,男性.全身倦怠感,上腹部痛,黄疸および嘔気を主訴に2008年5月当科入院となった.腹部造影CTにて,十二指腸憩室による下部胆管狭窄および胆嚢の壁肥厚を認めた.急性膵炎と胆管炎により発症したレンメル症候群および胆嚢癌疑いと診断した.急性膵炎および胆管炎が軽快した後,憩室切除術,胆嚢肝床部切除術を施行した.術中胆道造影検査にて膵・胆管合流異常症と診断したため,胆管切除,胆管空腸吻合を追加した.術後経過良好にて術後16日目に退院となった.
    報告例97例中,69例(71.1%)に手術施行,うち18例は保存的治療の再発例であった.再発および合併症の観点より,手術適応については常に考慮すべきと考えられた.
  • 大河内 治, 服部 正嗣, 松下 英信, 坪井 賢治, 加藤 伸幸, 川瀬 義久
    2010 年 71 巻 1 号 p. 187-190
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは肝臓および胃への浸潤を伴う肝門部胆管癌腹壁再発に対して,腹壁欠損部の補填にComposix Kugel Patch®を使用した症例を経験したので報告する.症例は62歳の男性で,2004年9月に肝門部胆管癌の診断で拡大肝右葉切除術を施行している.術後3年目の定期受診時に上腹部の創近傍に腫瘤を指摘され穿刺吸引細胞診で腺癌と診断された.CTでは3×3×4cmの腹壁再発を認め,肝外側区域および胃前壁への浸潤を伴っていた.2007年12月に肝臓および胃部分切除を伴う腹壁腫瘍切除術を施行した.腹壁欠損部は6×10cmでComposix Kugel Patch®により1期的に修復した.術後は感染の兆候もなく第15病日に退院し,現在のところ癌再発や腹壁ヘルニアを認めていない.消化器癌に伴う腹壁欠損においてもComposix Kugel Patch®は簡便に腹壁の再建ができ有用な方法であると考えられた.
  • 松川 啓義, 貞森 裕, 松田 浩明, 篠浦 先, 吉田 龍一, 八木 孝仁
    2010 年 71 巻 1 号 p. 191-195
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は5歳,女児.生直後に乳児持続性高インスリン血症性低血糖症(PHHI)と診断され,オクトレオチド投与でコントロールされていた.重篤な低血糖はないものの低血糖に対し頻回の血糖測定と補食が必要で,肥満と高度脂肪肝が認められた.膵切除術の適応精査を行い,経皮経肝門脈血サンプリングでインスリン過剰分泌が膵体部に優勢であったため,脾温存膵体尾部切除を施行した.組織学的にdiffuse typeの膵島細胞症と診断された.術後はオクトレオチド休止後も低血糖の出現なく補食も中止可能となり,2年経過し肥満は軽快傾向で糖尿病の発症はみられない.内科的にコントロールされるPHHIに対して,薬物治療から離脱可能でかつ膵切除後の糖尿病を生じない範囲での膵減量切除が可能であれば,長期薬物療法と広範膵切除の問題点を相補する治療選択肢となりえると考えられる.
  • 清田 誠志, 大河 昌人, 塚崎 高志, 小山 昱甫, 塚崎 義人
    2010 年 71 巻 1 号 p. 196-200
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    膵頭十二指腸切除術後の膵液瘻は,時に難治性となり治療に難渋することがある.今回,膵頭十二指腸切除術後の完全外膵液瘻に対して,非観血的に内瘻化しえた1例を経験したので報告する.
    症例は80歳,女性.十二指腸乳頭部癌にたいして膵頭十二指腸切除術を施行した.術後に膵空腸吻合部縫合不全から腹腔内膿瘍を合併した.膿瘍ドレナージなどの保存的加療を行ったところ膿瘍腔は瘻孔化したが,瘻孔造影にて完全外膵液瘻と診断した.画像上,瘻孔と挙上空腸が近接していたため,透視下および超音波下に膵液瘻孔より挙上空腸を穿刺し,挙上空腸内に内瘻用カテーテルを留置し内瘻化した.経過は良好で,内瘻化術後13カ月後の現在,膵炎症状や耐糖能異常なく良好に経過している.
  • 川畑 方博, 井原 司, 赤司 昌謙, 松永 章, 野々下 政昭, 井関 充及
    2010 年 71 巻 1 号 p. 201-207
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,男性.近医で糖尿病のフォロー中であった.平成17年7月頃より食欲不振,体重減少が出現.平成17年8月6日同院にて上部消化管内視鏡検査施行.十二指腸下行脚ファーター乳頭よりやや口側に径約5cmの隆起性病変を認めた.生検では壊死組織のみで悪性所見は確認出来なかった.平成17年9月5日精査加療目的にて当科紹介入院.術前に確定診断は得られなかったが,原発性十二指腸癌の診断にて平成17年9月16日に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的に腫瘍は十二指腸の固有筋層内にみられ,腺癌約50%,扁平上皮癌および腺扁平上皮癌約15%,肉腫様腫瘍約35%で構成されていた.固有筋層内に異所性膵が管状腺癌と混在し,膵管由来を思わす像もみられた.今回十二指腸に異所性膵由来と考えられる肉腫様成分を伴った膵管癌の1例を経験した.術後比較的良好な経過をたどっており,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 森山 裕熙, 小山 太一, 田中 純一, 寺島 毅, 加納 繁照
    2010 年 71 巻 1 号 p. 208-211
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は48歳,女性.深夜に突然の下腹部痛を認め,当院救急に搬送された.腹部単純CTにてイレウスが疑われ,経過観察入院となった.腹痛が増悪するため造影CTで再検したところ,腹水を認め小腸ループの拡張も悪化していた.小腸ループは限局性であり,腸管の位置異常も疑われたため内ヘルニアの可能性を念頭に入れ,小腸の絞扼性イレウスの診断で発症よりおよそ15時間後に緊急手術を施行した.開腹するとS状結腸間膜に直径約2cmの異常裂孔が存在し,小腸が内側から外側へ貫通して脱出,絞扼されており,S状結腸間膜裂孔ヘルニアによる腸閉塞と診断した.整復後,腸切除をすることなく裂孔の閉鎖のみで手術を終了,術後5日目に軽快退院した.S状結腸間膜裂孔ヘルニアはいまだまれであり,文献的考察を加えて報告する.
  • 丸山 常彦, 高垣 俊郎, 大河内 信弘, 森下 由紀雄
    2010 年 71 巻 1 号 p. 212-215
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    小腸間膜デスモイド腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は69歳,男性.慢性閉塞性肺疾患,高血圧の経過観察中に施行した血液検査で低蛋白血症および腫瘍マーカーの上昇を認めたため,腹部CTを施行したところ,腹腔内に径20cmの腫瘍を認めた.腫瘍は腸管を圧排するような形で存在し,注腸造影からも腸管への浸潤は認められなかった.血管造影で上腸間膜動脈からの栄養血管を認めた.原発巣不明の腹腔内腫瘍の診断で手術を施行した.腫瘍はTreitz靱帯より110cmの小腸間膜より突出するように存在し,周囲との癒着は全く認められなかった.腸間膜および小腸を合併切除して腫瘍を摘出した.腫瘍は18×15×9cmの黄白色の充実性腫瘍で重量1,400gであった.病理所見は硝子化を伴う豊富な線維性基質を背景に紡錘形細胞の疎な増殖を認め,小腸間膜由来のデスモイド腫瘍と診断した.現在,術後5年無再発で経過観察中である.
  • 久保田 哲, 賀川 義規, 加藤 寛章, 清水 潤三, 池田 公正, 北田 昌之
    2010 年 71 巻 1 号 p. 216-220
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は27歳,男性.右鼠径部に膨隆を自覚し,他院にて右鼠径ヘルニアと診断され手術施行されたが,ヘルニア嚢はみとめず脂肪腫切除のみ行われた.術後10カ月より再び右鼠径部の膨隆をみとめ術後1年2カ月後に当科初診となった.身体所見と超音波検査より右鼠径ヘルニア再発と診断し手術を施行した.しかしヘルニア嚢は確認できず,内鼠径輪外側より発生する脂肪腫のみ認めた.脂肪腫を切除し病理組織検査に提出すると高分化型脂肪肉腫と診断された.腹部CTでは後腹膜に脂肪の増生を認め,後腹膜から発生した高分化型脂肪肉腫と判断した.このため開腹下に追加切除を行った.鼠径部腫瘤を契機に発見された後腹膜脂肪肉腫は稀であり,自験例を含め本邦では7例しか報告がない.われわれは,鼠径部の膨隆を主訴とする後腹膜脂肪肉腫の1例を経験したので報告する.
  • 絹田 俊爾, 輿石 直樹, 松村 優, 平井 優, 渡部 裕志, 木嶋 泰興
    2010 年 71 巻 1 号 p. 221-224
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,男性.アルコール性肝硬変・難治性腹水にて近医で治療を受けていた.自宅で臍部より大量に腹水の流出を認め,近医を受診し精査加療目的に当科紹介受診となった.肉眼所見およびCT検査所見より大網の腹壁外脱出を伴う臍ヘルニア破裂と診断し,緊急手術を行った.脱出した大網を切除し,直径2cm大のヘルニア門を確認した.アスピレーション用カテーテルを腹腔内に留置し,ヘルニア門は単純閉鎖した.術後は腹腔内に留置したカテーテルより腹水を排液し,ヘルニア門縫合部に緊張が加わらないようにし,良好に経過した.
    本邦における臍ヘルニア破裂の論文報告は3例であり,自験例を含め4例と稀な症例である.さらに,腹腔内臓器が脱出した報告は小腸の脱出を認めた1例と大網の脱出を認めた本症例の2例のみであり,貴重な症例と考え文献的考察を加えて報告する.
  • 後藤 哲宏, 有吉 明丈, 中尾 健太郎, 松井 伸朗, 草野 満夫
    2010 年 71 巻 1 号 p. 225-229
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,男性.主訴は腹痛,嘔吐.現病歴は,腹痛・嘔吐で当院内科受診した.開腹手術の既往はなく,その後,下血がみられ,緊急内視鏡検査(上部消化管内視鏡検査ならびに下部消化管内視鏡検査)施行し,小腸出血がみられた.諸検査より絞扼性イレウスを疑い,緊急開腹手術を行った.開腹所見として,Treitz靱帯から40cmから約76cmの空腸が大網と下行結腸に挟まれる形で嵌頓し絞扼壊死に陥っていた.ヘルニア門を開放し,壊死腸管を切除した.術後経過は順調であったが,退院間近に誤嚥性肺炎となり死亡した.内ヘルニアは比較的稀な疾患であり臨床的特徴所見は乏しく術前診断が困難なことが多い.本症例は正常解剖構造に嵌頓する内ヘルニアであり極めて稀な症例と考え,文献的な考察を加えて報告する.
  • 川崎 雄一郎, 菅原 聡, 佐藤 一, 坂本 隆
    2010 年 71 巻 1 号 p. 230-234
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,鼠径ヘルニアの自己整復を繰り返していた男性.嘔吐を主訴に近医を受診し精査加療目的に当院へ紹介された.初診時,腹部膨満を認めるのみで反跳痛や筋性防御,右鼠径部膨隆は認めなかった.腹部X線写真で著明な小腸ガス像,腹部CT検査で右下腹部に球状に拡張した小腸を認めた.イレウスと診断したが腹部所見に乏しく右鼠径部膨隆も認めなかったため,絶飲食,long tube挿入により治療を開始した.減圧が奏効せず,再度施行した腹部CT検査でも同様の所見を認めたため手術を施行した.深鼠径輪より腹膜前腔に小腸が陥入し締め付けられており,右鼠径ヘルニア偽還納によるイレウスであった.水圧法により腸管の整復を行ったが,絞扼部の血流障害が懸念されたため嵌頓部分の小腸切除を行った.術後経過は良好で術後第14病日に退院した.鼠径ヘルニア偽還納は極めて稀である.若干の文献的考察を加え報告する.
  • 安本 明浩, 徳村 弘実, 高橋 賢一, 松村 直樹, 武者 宏昭, 舟山 裕士
    2010 年 71 巻 1 号 p. 235-238
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    MRIにて術前診断しえた右大腿ヘルニア内虫垂嵌頓の1例を経験したので報告する.症例は83歳女性で,右鼠径部膨隆を主訴に来院した.右鼠径靱帯尾側に弾性軟の腫瘤を触知した.血液検査ではCRP 0.38mg/dl以外異常所見はなかった.MRIにて大腿ヘルニア内虫垂嵌頓と診断され,緊急手術を施行した.術中所見では右大腿ヘルニア内に虫垂が嵌頓し,その先端部は暗赤色に陥っていた.同一創より虫垂切除術,大腿ヘルニア修復術(McVay法)を施行した.術後経過良好にて10病日に退院した.今回,自験例を含めた本邦報告18例に文献的考察を加えて報告する.
  • 古川 公之, 竹尾 正彦, 山本 満雄
    2010 年 71 巻 1 号 p. 239-242
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/07/16
    ジャーナル フリー
    深部静脈血栓症はたびたび遭遇する疾患であるが,時に孤立性腸骨動脈瘤を診断する契機となることがある.症例は69歳,男性.主訴は右下肢腫脹で右下肢深部静脈血栓症の診断で入院となった.造影CT,動脈造影,静脈造影にて右総腸骨動脈瘤と下大静脈まで連続する深部静脈血栓症を認めた.右総腸骨動脈瘤の圧迫による深部静脈血栓症と診断した.抗凝固療法を行い,右下肢の腫脹は軽減したが静脈血栓は消失しなかった.そのためIVCフィルター留置後に,腸骨動脈瘤に対し人工血管置換術を行った.術後経過は良好で右下肢の腫脹は消失し14病日に退院した.半年後の造影CT検査で血栓の消失を認めた.深部静脈血栓症を伴った孤立性腸骨動脈瘤の本邦報告は自験例を含めて3例のみであった.
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