日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
71 巻, 2 号
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原著
  • 武藤 俊博, 小池 聖彦, 伊藤 友一, 中山 吾郎, 藤原 道隆, 小寺 泰弘, 中尾 昭公
    2010 年 71 巻 2 号 p. 335-343
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    目的:食道癌に対する術前補助化学療法(neoadjuvant chemotherapy,NAC)の有害事象について検討した.方法:5FUとシスプラチンを用いたNACを25例の胸部進行食道癌に施行した.grade 3,4の有害事象を集計した.結果:grade 3,4の有害事象は10例40%に認められ好中球減少が9件と最多であった.この10例はgrade 3,4の有害事象をきたさなかった15例と比較すると,高齢(平均64歳versus 56.8歳,p=0.02)でBMIは低く(平均値19.3 versus 22.4,p=0.04),NAC中のIVH施行率が高い傾向を認めた(5/10;50% versus 2/15;13%,p=0.08).3件の発熱性好中球減少症はすべてIVH施行例に発生した.結論:高齢者,低栄養に対するNACはgrade 3,4の有害事象発生の危険が高い.
  • 國安 哲史, 岩沼 佳見, 梶山 美明, 鶴丸 昌彦
    2010 年 71 巻 2 号 p. 344-353
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    Chemiluminescence法(CL法)を用い食道癌,胃癌手術患者の周術期末梢血好中球活性酸素放出能(CL値)を測定した.術前化学もしくは化学放射線療法未施行食道切除患者(食道術前非加療群)のCL値は胃切除群と比し術後有意に高値となり,食道切除は胃切除と比して高侵襲性である可能性が示唆された.また術前加療群,非加療群の比較において手術を加療から4週間後に行ったところ周術期中両群間に有意差を呈しておらず,この時期には好中球機能の改善に伴い免疫抑制の影響がなく安全に手術が行いうる可能性が示唆された.さらに食道切除群のうち術後感染併発群のCL値は非感染群と比し第2病日以降有意に高値で推移し,白血球(WBC)やC-reactive protein値(CRP)は感染群,非感染群間に有意差を呈さなかった.従ってCL法は食道切除後周術期感染症を早期に検知する有益な指標になると考えられた.
臨床経験
  • 角舎 学行, 向井 正一朗, 佐伯 吉弘, 先本 秀人, 江藤 高陽, 西阪 隆, 高橋 信
    2010 年 71 巻 2 号 p. 354-359
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    われわれは,乳房温存療法困難症例11例に対し,遊離真皮脂肪弁移植による一期的乳房再建を施行し,術後乳房照射を行った.全症例の術後経過は良好で,移植弁の感染,壊死をきたすことなく順調に軽快した.術後移植弁のMRI検査では,移植弁の周囲にのみ血流の再開が確認されたが,中心部には血流は認めず,移植弁のサイズは採取時より縮小していた.Core needle biopsyでは,移植弁は脂肪組織の組織構築を保ちつつ脂肪細胞は脱落し,組織学的には循環障害による組織凝固壊死像に相当した.乳房の整容性については,日本乳癌学会沢井班による基準では平均10.0点であった.術後の移植弁については多くの症例で硬く触知されたが,乳房最下垂点,乳頭の位置など,左右のバランスにおいては全例良好であった.遊離真皮脂肪弁移植は,乳房再建術としては筋皮弁やインプラントに比べ簡便で低侵襲であり,体位変換の必要もなく,形成外科医でなくとも可能な術式である.
  • 山下 眞一, 諸鹿 俊彦, 亀井 美玲, 小野 潔, 武野 慎祐, 川原 克信
    2010 年 71 巻 2 号 p. 360-363
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    特発性食道破裂は,早期診断が困難で,治療の開始が遅れると致死的となる非常に予後の悪い疾患である.破裂部位が小さく全身状態が保たれている場合は保存的治療の適応となることもあるが,標準治療は手術である.われわれは今回特発性食道破裂の2例を経験し有茎大網弁を作成し胸腔鏡下大網充填術を行った.術後経過は良好で軽快退院となった.開胸手術は侵襲も大きいが胸腔鏡を用いることにより低侵襲手術が可能である.今回は大網充填を行ったが胸腔鏡による縫合閉鎖は容易であり,手術における選択肢の一つとして有効である可能性が示唆された.
  • 饗場 正明, 柿沼 臣一, 山崎 穂高, 沼賀 有紀, 須藤 雄仁, 竹吉 泉
    2010 年 71 巻 2 号 p. 364-368
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    成人3症例に対して腹腔鏡併用下経皮内視鏡的胃瘻造設術を施行した.2例は重症心身障害者で1例は認知症が進行した高齢者であった.経皮内視鏡的胃瘻造設術では,側彎症などの骨格系の異常や胃と腸管の位置関係の異常により腸管を誤穿刺する可能性があった.腹腔鏡を用いることで腹腔内を直接観察し,腸管や肝の誤穿刺を確実に回避し安全に胃瘻を造設できた.腹腔鏡併用下経皮内視鏡的胃瘻造設術は経皮内視鏡的胃瘻造設術が困難な場合に開腹胃瘻造設術へ移行する前に選択される治療法の一つと考えられた.
症例
  • 境 雄大, 木村 大輔, 畑中 亮, 山田 芳嗣, 対馬 敬夫, 福田 幾夫
    2010 年 71 巻 2 号 p. 369-373
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は18歳,女性.2歳時にMarfan症候群,大動脈弁輪拡張症,大動脈弁閉鎖不全症,僧帽弁逸脱と診断され,定期的評価を受けていた.左背部痛を主訴に近医を受診し,胸部X線検査で左気胸と胸水貯留を指摘された.胸腔ドレナージが施行され,800mlの血性排液が流出した.胸腔内からの出血は改善したが,気漏が持続するため,発症から12日後に当科を紹介された.CTでは左肺尖部にブラを認めた.ドレナージを継続し,超音波検査による心血管系の評価後に待機的に胸腔鏡下手術を行った.肺尖部に新生血管の増生を伴う線維性癒着があり,その周囲にブラを認めた.胸腔鏡下ブラ術を施行した.術後の経過は良好で,術後第5病日に退院した.Marfan症候群患者の外科治療に際しては周術期の心血管系合併症の予防が重要である.血気胸・気胸手術においても術前に超音波検査による心血管系の精査を行うべきである.周術期には血圧の上昇・変動に注意する必要がある.
  • 内田 尚孝, 吹野 俊介, 児玉 渉, 玉井 伸幸, 林 英一, 吉田 春彦, 深田 民人
    2010 年 71 巻 2 号 p. 374-378
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.毎年人間ドックを受診し,異常なしといわれていた.2007年1月頃より湿性咳嗽が出現,4月の人間ドックで肺の異常陰影を指摘された.前医での気管支擦過細胞診の結果はClassIIであったが,精査加療のため当院に紹介受診となった.当院で再度気管支擦過細胞診を実施した結果,ClassIVの診断を得た.右肺癌疑いの診断で胸腔鏡補助下前方腋下開胸にて右下葉切除術を行った.術後,組織学的検査および免疫組織学的検査により肺原発MALTリンパ腫と診断された.本疾患の術前診断は困難であり,また,標準的治療法はいまだ確立されていない.初期治療として手術を実施することは,確定診断と術後の治療方針の決定に有用であると考えられた.
  • 宮城 淳, 神谷 知里, 兼城 隆雄, 豊見山 健, 大嶺 靖, 知花 朝美
    2010 年 71 巻 2 号 p. 379-382
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    肺実質内に空洞性病変を呈した肺腺癌の1例を経験した.症例は75歳男性.自覚症状はなし.胸部X線にて左上肺野に鶏卵大の空洞像が見つかった.感染性疾患が疑われたが発熱や炎症所見はみられなかった.気管支鏡による生検の結果,肺腺癌と診断され,胸腔鏡下左上葉切除を行った.現在まで24カ月経過するも再発はみられない.詳細な病理検査にて空洞の中枢側に存在するドレナージ気管支の周囲に腫瘍の浸潤がみられた.発症機転としてcheck-valve機構が生じて空洞を形成したものと推測された.肺の空洞性疾患は肺癌の合併を念頭に置く必要があると考えられた.
  • 福田 直人, 杉山 保幸, 渋谷 健太郎
    2010 年 71 巻 2 号 p. 383-387
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性.77歳時にアルツハイマー型認知症による嚥下障害に対して経皮内視鏡的胃瘻造設術が施行された.1年9カ月後の4回目の胃瘻チューブ交換後にイレウス発症し,精査の結果,胃結腸皮膚瘻と判明した.CF観察下に胃瘻バンパー回収しチューブを抜去した.そして瘻孔の閉鎖を確認した後に開腹術にて胃瘻を再造設した.PEG造設時に胃結腸皮膚瘻を合併しても,瘻孔が維持されている場合は無症状で経過し発見されないこともあり得ると考えられた.
  • 高野 祥直, 添田 暢俊, 藁谷 暢, 外舘 幸敏, 鈴木 伸康, 寺西 寧
    2010 年 71 巻 2 号 p. 388-393
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    胃壁外に発育し,膵浸潤がみられたため膵嚢胞腺癌と鑑別困難だった胃GIST症例を経験したので報告する.症例は82歳,女性,腹痛,嘔吐を主訴に当院受診.腹部造影CTでは胃壁を背側から圧排し,嚢胞を伴った内部が不均一に造影される径10cmほどの腫瘤が膵尾部に見られたため入院となった.胃内視鏡では粘膜面に腫瘤による圧排所見のみを認めた.MRCPでは主膵管が腫瘤部で途絶していた.FDG-PETでは左上腹部の腫瘤にSUV max=16.2の集積を認めた.膵嚢胞腺癌と診断され手術施行.手術時の迅速病理で胃GISTの膵浸潤と診断された.胃局所切除,膵体尾部切除術を施行した.病理所見では胃の固有筋層から壁外性に発育した腫瘍で,膵臓を圧排し増大しており,一部で膵実質に浸潤していた.免疫染色では,腫瘍細胞はCD34とc-kitが陽性で,核分裂数は10/HPF以上みられ,胃の固有筋層由来の高悪性度のGISTと診断された.術後14カ月を経過し,再発兆候なく外来通院中である.
  • 高田 晃宏, 藤谷 和正, 平尾 素宏, 辻仲 利政
    2010 年 71 巻 2 号 p. 394-399
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,男性.2004年5月胃癌に対し幽門側胃切除術を施行,T3N1P0CY1H0M0:fStageIVであった.術後TS-1による化学療法を12カ月間施行した.2005年12月臍部の違和感を訴え,腹部CT検査で肝転移と臍腫瘍を認めた.TS-1を3カ月間,Irinotecan+Cisplatinを8カ月間,Paclitaxelを7カ月間投与し,2007年7月には臍腫瘍はほぼ消失した.以降も化学療法を継続したが,9月に臍部の疼痛増強と腫瘍増大を認め,2個の肝転移巣はいずれも直径1cm以内であったことから,2007年11月に臍腫瘍切除術を施行した.切除後も化学療法を継続し,臍転移発症後3年8カ月となる2009年7月現在生存中である.臍転移はSister Mary Joseph's noduleと称され,予後不良とされているが,長期生存が得られた症例を経験したので報告する.
  • 吉岡 茂, 太枝 良夫, 片岡 雅章, 外岡 亨, 川本 潤, 和城 光庸
    2010 年 71 巻 2 号 p. 400-403
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性.胃体上部2型胃癌に対し,胃全摘術施行.術後UFTを1年間内服.胃切除後15カ月後,肝S4の6.0×5.0cmの肝転移に対し肝部分切除施行.術後,肝動注化学療法(5-Fu,ADM,MMC)施行.肝切除後26カ月後,右肺2.3×2.0cmの転移に対し,右肺部分切除施行.肺切除後90カ月たった現在無再発生存中である.異時性,単発の胃癌肝転移,肺転移症例に対しては切除により,治癒の可能性も十分あり,積極的に切除すべきと思われた.胃癌肝転移,肺転移ともに切除しえた症例の報告は少なく,今回5年以上の長期無再発生存の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 畠 達夫, 岩崎 善毅, 大橋 学, 岩永 知大, 大日向 玲紀
    2010 年 71 巻 2 号 p. 404-408
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,男性.胃癌術後の腹膜転移,転移性臍腫瘍の診断でTS-1とシスプラチン(CDDP)による化学療法が計画され,TS-1(100mg/body/day,3週投与後2週休薬),CDDP(90mg/body/day8),の5週1コースの化学療法が開始された.1コース目のCDDP投与後7日目より意識障害が出現し,同時に血清Na値が108mEq/l,血清Cl値が70mEq/lと著明に低下した.血漿浸透圧218mOsm/kgH2O,尿中Na値127mEq/l,尿浸透圧533mOsm/kgH2Oであり,SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)と診断された.電解質補給にて意識障害と電解質異常は次第に改善した.再発胃癌に投与されたCDDPによるSIADH発症はこれまで報告がなく,TS-1+CDDP療法中には定期的な電解質の確認が重要と考えられた.
  • 尾辻 英彦, 杉浦 禎一, 世古口 英, 柴田 耕治, 宮地 紘樹, 塩見 正哉
    2010 年 71 巻 2 号 p. 409-414
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は48歳,男性.頻回の嘔吐をきたし当院を受診,嘔吐に伴うと思われる代謝性アルカローシスを呈していた.腹部CTでは胃の著明な拡張と十二指腸に径約8cmの腫瘤像を認めた.上部消化管造影検査では十二指腸下行脚の狭窄像を認め,上部消化管内視鏡検査では十二指腸粘膜下病変とそれに伴う狭窄を認めた.補液等により全身状態を改善させた後,十二指腸GISTと診断,膵頭十二指腸切除術を施行した.切除標本において腫瘍は認めず,十二指腸壁内血腫と病理組織学的に診断された.血腫形成の原因として大量飲酒・慢性膵炎の関与が疑われた.非外傷性の十二指腸壁内血腫はまれであるため腫瘍との鑑別診断が問題となるが,術前診断がつけば手術を回避することもできるため,より丁寧な術前診断を心掛けることが重要であると考えられた.
  • 砂川 宏樹, 金城 達也, 大城 直人, 知念 隆之, 末松 直美, 西巻 正
    2010 年 71 巻 2 号 p. 415-419
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    十二指腸副乳頭部に発生した神経内分泌腫瘍を報告する.症例は37歳の女性.職場検診の上部内視鏡検査で十二指腸副乳頭部に10mm大の中心陥凹とびらんを伴う粘膜下腫瘍を認め,生検で神経内分泌腫瘍と診断された.腹部造影CTでは転移性病変認めず,超音波内視鏡検査で深達度mpと診断された.十二指腸副乳頭部神経内分泌腫瘍の診断で幽門輪温存膵頭十二指腸切除術施行した.病理組織学的検査ではglandular patternを呈し,クロモグラニンA・ソマトスタチンで陽性を示した.MIB-1での染色では陽性率2%以下で,核分裂も乏しかった.最大径は7mmで深達度はmp,14aのリンパ節に1個転移を認めた.今回,われわれは腫瘍径が小さく,また核分裂像に乏しいリンパ節転移陽性の十二指腸副乳頭部神経内分泌腫瘍を経験したので報告する.
  • 山田 哲平, 三上 公治, 三宅 徹, 田中 伸之介, 山下 裕一, 松井 敏幸
    2010 年 71 巻 2 号 p. 420-425
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は28歳の女性のCrohn病患者.平成18年12月末から38度台の発熱と腹痛を認めていた.横行結腸高度狭窄と腹腔内膿瘍と診断され平成19年1月に前医に緊急入院した.心臓超音波検査(UCG)で中心静脈ポート(CVポート)先端の右房内血栓症を認め,全身状態評価がアメリカ麻酔学会(ASA)分類4度と判断され当院当科へ転院した.慢性肺血栓塞栓症と高度の肺高血圧を認めたため抗凝固療法を3週間先行し,平成19年2月に経皮的心肺補助装置(PCPS)準備下で回腸人工肛門造設を伴う大腸亜全摘術を施行した.術後経過は良好であり,術後3カ月で社会復帰した.術後も慢性肺血栓塞栓症に対して抗凝固療法は継続し,術後1年目の胸部造影CT検査で血栓の消失を認めた.
    腸管外合併症としてのCVポートが関与する右房内血栓症と慢性肺血栓塞栓症を有するCrohn病のまれな症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
  • 加藤 久仁之, 千葉 丈広, 大山 健一, 小松 正代
    2010 年 71 巻 2 号 p. 426-430
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は30歳,男性.腹痛を主訴に当院救急外来を受診した.腹部造影CT検査では骨盤内に小腸の重積像(multiple concentric ring sign)および腹水を認め,腸重積の診断で緊急手術を施行した.回腸末端より約10cm口側で42cmにわたり回腸が重積していた.用手整復不可能で,盲腸内には先進部である3cm大の弾性硬の腫瘤を2個触知した.腫瘍を含め回盲部切除術を施行した.腫瘍は病理組織学検査では紡錘形細胞の増殖を粘膜下に認め,免疫組織化学染色ではc-kit一部陽性,CD34陽性,S-100蛋白陰性,α-SMA陰性でGISTと診断された.腸重積を伴った小腸GISTの本邦報告例は自検例を含め11例と比較的稀であり,30歳の若年発症例は自検例だけであった.腸重積の原因疾患として消化管粘膜下腫瘍の占める割合は7.6%,小腸GISTに腸重積が合併する頻度は4.4%と少ないが,腸重積の原因疾患に対しては小腸GISTも念頭におく必要があると考えられた.
  • 松永 篤志, 山高 浩一, 川口 正春, 石川 修司, 有澤 淑人
    2010 年 71 巻 2 号 p. 431-436
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,男性.平成20年10月下旬より発熱症状あり,その後11月になり腹痛を認め,症状増悪したため当院受診.腹部CT検査で臍からやや尾側にかけて内部に気泡と液体貯留を要する直径約8cm大の腫瘍を認めた.消化管穿孔による腹膜炎,および腹腔内膿瘍の疑いで手術を施行したところ,腹腔内より中等量の膿性腹水とともに出血を呈しており,Treitz靱帯より約170cm部の小腸に認められた充実性腫瘤からの出血と考えられた.さらに,一部腫瘤近傍の正常腸管に穿孔を認めており,腫瘤を含め2カ所の小腸部分切除術を施行した.病理検査で腫瘤は小腸原発のGISTと診断された.今回われわれは穿孔性腹膜炎から発症し手術を施行した小腸GISTの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 尾嶋 英紀, 池田 哲也, 渡部 秀樹, 伊藤 秀樹, 小西 尚巳, 登内 仁
    2010 年 71 巻 2 号 p. 437-440
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,女性.腹痛にて当院受診.腹部CT検査で骨盤内に嚢胞性病変を認め,腸管との連続性が疑われた.骨盤内膿瘍と診断し,保存的に加療を行ったところ,膿瘍腔は著明に縮小し,炎症反応も改善した.小腸造影検査でTreitz靱帯から約1mの小腸に隆起性の腫瘤性陰影を認めたため,小腸腫瘍とそれに伴う骨盤内膿瘍の診断にて腹腔鏡下小腸部分切除術を施行した.Treitz靱帯から約1mの小腸に,腫瘍を認めたため,腫瘍を含めた腸管を鏡視下で遊離後,腔外で小腸部分切除を行った.病理組織学的検査により膿瘍形成を伴った小腸原発のGISTと診断した.GISTに対する治療法として重要なのは,被膜を含めた完全切除であり,被膜損傷は避けなければならない.本症例のように膿瘍形成を伴った小腸GISTに対しても,保存的治療で膿瘍腔の縮小化を図り,その後に切除を行うことにより,安全かつ完全な切除が行われると考えられた.
  • 太田 裕之, 塚山 正市, 藤岡 重一, 村上 眞也, 小島 正継, 川浦 幸光, 辻端 亜紀彦
    2010 年 71 巻 2 号 p. 441-444
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性.心窩部痛を主訴に近医を受診し,経過中に下腹部痛,炎症反応の増悪を認めたため当科を紹介受診となった.腹部CT検査で骨盤内に嚢胞性腫瘤とこれに接して虫垂の腫大を認めた.急性虫垂炎および骨盤膿瘍の診断で虫垂切除,膿瘍ドレナージ術を施行した.肉眼所見では切除した虫垂の基部に隆起型の腫瘤を認めた.病理組織検査において,虫垂基部から体部にかけて粘膜下層に浸潤する腺癌および先端部にカルチノイドの1亜型である杯細胞型カルチノイド(goblet cell carcinoid)を認めた.虫垂基部断端に癌細胞の露出を認めたため,初回手術後21日目に右半結腸切除および3群リンパ節郭清を施行した.
    虫垂のgoblet cell carcinoidは稀な疾患で本邦で80例の報告があるに過ぎないが,原発性虫垂癌との合併例は自験例を含め2例の報告があるのみであった.若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 藤國 宣明, 中原 雅浩, 橋本 昌和, 石崎 康代, 福田 敏勝, 黒田 義則
    2010 年 71 巻 2 号 p. 445-448
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.兎糞様便を主訴に当院受診した.腹部所見は特記すべき異常なし.下部消化管内視鏡検査で,横行結腸に径2cm大の粘膜下腫瘍を認めた.腹部造影CT検査では,横行結腸の腫瘍性病変は指摘できなかった.横行結腸GISTを疑い,腹腔鏡補助下結腸部分切除術を施行した.病理組織検査では,アニサキス虫体と好酸球性膿瘍の形成を認めた.本症例は,腸アニサキス症の明らかな急性期症状を伴わず,自然に幼虫が死亡・吸収された過程のものと考えられた.横行結腸アニサキス症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 古北 由仁, 大西 一久, 谷田 信行, 藤島 則明, 浜口 伸正, 開發 展之
    2010 年 71 巻 2 号 p. 449-453
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は88歳,女性.嘔吐と腹痛を主訴に当院救急外来を受診された.既往歴として間質性肺炎と狭心症があった.腹部全体に強い圧痛を認め,CTでは著明に拡張した胆嚢を認め,血清CEAが361.7ng/mlと異常高値を示していた.急性胆嚢炎の診断で保存治療を開始したが,腹部症状の増悪を認めたため,3日後に手術を施行した.しかし胆嚢に炎症所見はなく,下行結腸からS状結腸にかけて広範な腸管壊死を認めた.壊死型虚血性腸炎の診断で,左半結腸切除ならびに人工肛門造設術を施行した.第13病日に再検したCEAは2.4ng/mlと正常化しており,第21病日に軽快退院となった.機序は不明であるが,虚血性大腸炎でもCEAが高値を示すことがあることと,動脈硬化性疾患を伴った高齢者の急性腹症に対しては,本疾患の可能性をいれて診断と治療にあたることが重要と思われた.
  • 河内 順, 大田 修平, 中山 文彦, 木島 真, 荻野 秀光, 渡部 和巨, 清水 英男
    2010 年 71 巻 2 号 p. 454-456
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は50歳,女性.間欠的腹痛を主訴に受診.腹膜刺激症状を認め,腹部CT検査では径6cmの便塊,壁の肥厚したS状結腸,周囲脂肪組織濃度の上昇を認めた.急性腹症の診断で開腹したところ,消化管穿孔はなく,S状結腸に便塊が嵌頓し,腸壁が炎症性の肥厚をきたしていた.病変部を切除し,内腔を観察したところ粘膜下に多発する腫瘤を認めた.病理診断は大腸のlipomatosisであり,腹痛との直接の関連はないものと思われた.大腸のlipomatosisは非常に珍しく,文献的考察を加え,報告する.
  • 高林 一浩, 斉田 芳久, 浅井 浩司, 榎本 俊行, 大辻 絢子, 長尾 二郎
    2010 年 71 巻 2 号 p. 457-461
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    大腸脂肪腫は従来比較的まれな疾患であるとされてきたが,内視鏡検査の普及に伴い報告数は増加している.今回われわれは腸重積をきたし肛門からの脱出にて発見されたS状結腸巨大脂肪腫の1切除例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.症例は60歳代,男性.肛門からの腫瘤脱出を主訴に当院を受診した.径8cm大,弾性軟の,出血を伴った黄色調の腫瘤の脱出を認めた.用手還納は可能であった.入院後諸検査施行し,有茎性のS状結腸脂肪腫と診断した.腸重積の合併も認めたため,開腹下にHatchinson手技とS状結腸部分切除術を施行した.病理組織学的所見では,粘膜下層に線維組織により分葉された脂肪細胞の増生を認め,大腸脂肪腫と診断された.肛門脱出をきたした大腸脂肪腫の本邦報告例は,自験例を含めて6例のみであり,極めてまれであると考えられた.
  • 田村 利尚, 日暮 愛一郎, 秋山 正樹, 永田 直幹, 平田 敬治, 山口 幸二
    2010 年 71 巻 2 号 p. 462-467
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は23歳,女性.生後5カ月時に左副腎神経芽腫に対し腫瘍切除,左腎・副腎合併切除術,術後放射線・化学療法が施行された.22歳時に発熱,左側腹部痛あり,近医受診.脾膿瘍と診断され,保存的治療で軽快したが,3カ月後に再発し,当科紹介となった.神経芽腫の再発はなく,脾膿瘍の原因は同定できなかった.原因精査,根治的治療として開腹手術を施行した.脾彎曲部結腸が脾臓・膵尾部・空腸と一塊となっており,同部を切除した.切除標本で結腸に腫瘍性病変を認め,病理組織学的検査で粘液癌,脾臓・膵尾部への直接浸潤と診断された.放射線照射野内に,10年以上の経過後に癌が発生していること,第二癌の病理組織像,発生臓器が第一癌と異なり,さらには結腸粘液癌であることより,放射線誘発大腸癌と考えられた.
  • 別府 直仁, 友松 宗史, 柳 秀憲, 安井 智明, 山中 若樹, 覚野 綾子
    2010 年 71 巻 2 号 p. 468-472
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.主訴は下血.精査の下部消化管内視鏡検査で肛門縁より10cmの上部直腸に1/2周性2型腫瘍を認め直腸癌と診断,低位前方切除術(D3)を施行した.腫瘍は浸潤傾向が強く直腸間膜内へ被覆穿孔していた.Total mesorectal excision(以下TME)を肛門管直上まで行い,両側側方リンパ節郭清術を施行した.病理組織診断で腺癌成分と扁平上皮癌成分が混在しており腺扁平上皮癌と診断した.さらにロゼット形成を伴う内分泌細胞癌成分を含み多彩な組織像を呈していた.腺扁平上皮癌の発生機序についていくつかの説が提唱されている.自験例を基に腺扁平上皮癌の発生機序や臨床病理学的特徴について文献的考察を加えて報告する.
  • 吉田 信, 関川 小百合, 高梨 節二, 樫山 基矢, 石後岡 正弘, 河島 秀昭, 村上 洋平, 鹿野 哲
    2010 年 71 巻 2 号 p. 473-477
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.直腸S状部癌のため当院入院.腹部造影CTで肝S8に径10mm,S6-7に径5mmの乏血性腫瘤を認めた.MRI SPIO投与後T2強調像で淡い高信号を示したが,腹部超音波では描出できなかった.直腸S状部癌および同時性多発肝転移の診断で手術を施行した.肝病変は術中の超音波でも描出できず,S8病変のみかろうじて触知可能であり肝部分切除を行った.肝病変は径10mmで境界やや不明瞭な白色の結節集簇様の腫瘤であった.病理組織所見では直腸S状部の高分化型腺癌で腸管傍リンパ節に1個の転移を認め,肝は腺上皮周囲にリンパ球が集簇した結節でlymphoepithelial lesionを形成,免疫染色ではCD20(+),CD10(-),CD5(+)でMALTリンパ腫と診断した.肝原発悪性リンパ腫はまれであり,その術前診断は容易ではなく,他臓器癌を合併した場合は肝転移との鑑別が重要である.
  • 棚橋 利行, 長田 真二, 徳山 泰治, 高橋 孝夫, 吉田 和弘
    2010 年 71 巻 2 号 p. 478-483
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    出産後に巨大肝細胞癌が発見された1例を経験したので報告する.症例は39歳,女性.出産後も上腹部の膨隆が持続し,受診中の近医にて肝腫瘍を指摘され当院紹介.精査にて,肝左葉を占める13cm大の巨大な肝細胞癌を認めた.腫瘍破裂の回避を第一義に考え,当科へ紹介の上準緊急性に開腹術を行った.腫瘍はすでに一部自壊しており血性腹水を認めたが,肝左葉およびS8部分切除術にて腫瘍を全摘出した.摘出腫瘍は浸潤型の低分化型肝細胞癌であった.術後経過に問題はなく10日目に退院し,11カ月目の現在化学療法中である.妊娠に合併した悪性腫瘍は非常にまれで,特に肝細胞癌の報告は少ない.エストロゲンなど妊娠に関連したホルモンが腫瘍の急速増大を起こす可能性につき摘出標本の免疫染色から検討した.
  • 岡 智, 泉 貞言, 鈴鹿 伊智雄, 塩田 邦彦, 中村 聡子, 間野 正平
    2010 年 71 巻 2 号 p. 484-488
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,女性.1カ月前から眼球結膜黄染,掻痒感自覚し当院受診した.肝胆道系酵素の上昇,腹部USにて胆嚢頸部に結石また壁肥厚あり入院となった.MRCP,ERCPにて総胆管から右肝管への狭窄あり,18fluoro-deoxyglucose positron emission tomography(FDG-PET)で同部に集積を認め,胆道癌を否定できないMirizzi症候群として開腹手術となった.右肝管は狭窄あるも迅速病理検査で断端は陰性であったが,全層胆嚢摘出,肝外胆管切除,総肝管空腸吻合術を行った.最終病理組織検査で悪性所見なく退院したが,術後6カ月目に黄疸にて再入院した.拡張した左肝内胆管よりPTCD造影すると右肝管の狭小硬化像,右肝内胆管狭小化を認めたが,ドレナージだけで軽快し退院した.経過中の血清IgG4の高値,再入院中の肝生検の再検討または唾液腺生検組織の免疫染色により最終的にIgG4関連硬化性胆管炎と診断された.現在はステロイド内服でコントロール良好である.
  • 高倉 秀樹, 田中 邦哉, 武田 和永, 松尾 憲一, 遠藤 格, 稲山 嘉明
    2010 年 71 巻 2 号 p. 489-493
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,女性.検診でHBsAg陽性を指摘され,経過観察中の腹部エコーで嚢胞性肝腫瘍を認めた.腹部CT,MRIでは肝内側区域に最大径5cmで内部に隔壁を伴った嚢胞性病変を認めた.腫瘍マーカーはいずれも正常範囲内であった.肝嚢胞腺癌と診断し,鑑別診断として中心壊死を伴った肝細胞癌,肝嚢胞内出血等を考えたが,腫瘍細胞播種の回避のため穿刺細胞診は施行せず,肝左葉切除術を実施した.摘出標本では腫瘍は平滑な被膜を有し,内腔は褐色粘液で充満され,被膜の一部に白色結節を認めた.病理組織学的には嚢胞壁は一層の円柱上皮からなり散在性に乳頭状増殖と軽度の細胞異型を認めた,白色結節は線維組織から成っていた.上皮直下の間質結合織は卵巣間質に類似しており,免疫染色でER,PGRともに陽性であったため卵巣様間質を伴った肝内胆管嚢胞腺腫と診断した.本疾患は術前確定診断が困難で癌を伴うこともあり,積極的な切除が必要であると考えられた.
  • 網倉 克己, 坂本 裕彦, 田中 洋一, 小林 泰文, 出雲 俊之
    2010 年 71 巻 2 号 p. 494-499
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性.頸部リンパ節腫脹を主訴.穿刺細胞診で悪性リンパ腫が疑われたが自然消退した.腹部CTで腹腔内リンパ節の腫脹(-).胆嚢底部~体部肝側に乳頭状の隆起を認め,胆嚢癌と診断された.2005年2月開腹所見で胆嚢に50×40mm乳頭膨張型の腫瘍,Treitz靱帯から約20cmの空腸に25×20mmの1型腫瘍を認めた.拡大胆嚢摘出+胆管切除+リンパ節郭清+空腸部分切除+胆管空腸吻合術を施行した.病理所見で胆嚢粘膜固有層,空腸粘膜下~漿膜下に中型で均一な異型リンパ球がび漫性に増殖浸潤し,CD10(+),CD20(+),CD79a(+)とB細胞マーカーが陽性,MIBI>90%と核分裂像多数で両者とも悪性リンパ腫(Diffuse large B-cell lymphoma)と診断された.術後リツキシマブ+CHOP療法を8クール施行し,術後4年10カ月無再発生存中である.胆嚢原発の悪性リンパ腫は極めてまれである.MALTリンパ腫もあるが総じて高悪性度であり予後不良であり,病型分類により術後化学療法が必要である.
  • 諸橋 一, 豊木 嘉一, 石戸 圭之輔, 工藤 大輔, 鳴海 俊治, 袴田 健一
    2010 年 71 巻 2 号 p. 500-505
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は42歳,男性.黄疸を主訴に近医を受診し諸検査の結果膵癌が疑われたため当科に紹介となった.画像診断では膵頭部に約4cmの腫瘤と門脈への浸潤も疑われた.PET-CTでは膵頭部の腫瘤に一致してSUV値が4.7の陽性集積像が認められた.以上より膵癌との術前診断で手術が施行された.病理学的検査では,腫瘤に一致した部位に腫瘍細胞は認められず炎症細胞の浸潤が認められた.また,免疫染色ではIgG4陽性の炎症細胞が認められたためIgG4関連の自己免疫性膵炎と診断された.自己免疫性膵炎は発症に自己免疫の関与が疑われる膵炎であり,FDG-PETに陽性となるため膵癌との鑑別が重要である.膵限局性の腫瘤が認められた際には本疾患も念頭に置いて慎重に診断する必要があると考えられた.今回われわれはFDG-PET陽性集積により膵癌との鑑別に難渋した自己免疫性膵炎の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 望月 聡之, 池松 禎人, 中田 祐紀, 林 忠毅, 金井 俊和, 西脇 由朗
    2010 年 71 巻 2 号 p. 506-511
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    膵リンパ上皮嚢胞(lymphoepitehlial cyst)は男性に発生する稀な良性疾患で術前に確定診断がつけば絶対的手術適応はないとされる.しかし,多房性嚢胞でCA19-9が高値を示すことが多いため悪性疾患を否定できず切除されることが多い.今回,われわれも術前正診がつかず手術を施行した2例を経験した.症例1は64歳の男性でCA19-9の上昇を認め悪性疾患を否定できず粘液性嚢胞腫瘍を疑われたため,症例2は63歳の男性で,画像診断より胃gastrointestinal Stromal Tumor(GIST)を最も疑われ,両症例とも膵体尾部切除術を施行した.病理組織学的には両症例とも嚢胞壁は重層扁平上皮で被覆され,間質内にリンパ球の集簇やリンパ濾胞を認め,免疫組織染色検査では重層扁平上皮に一致してCA19-9陽性であったため膵リンパ上皮嚢胞と診断した.
  • 坂本 英至, 長谷川 洋, 小松 俊一郎, 久留宮 康浩, 法水 信治, 高山 祐一, 都筑 豊徳
    2010 年 71 巻 2 号 p. 512-516
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,男性.他疾患検査中の腹部CTで膵尾部腫瘍を指摘された.手術40日前のMagnetic resonanse cholangiopancreatographyでは主膵管は膵尾部で途絶しているのみで途絶部より乳頭側の膵管に異常は認めなかった.血清ソマトスタチンおよびカルシトニン値の上昇を認めた.膵体尾部脾合併切除を施行した.術中主膵管内に腫瘍栓を認め,2回の追加切除にて断端を陰性にすることができた.切除標本にて腫瘍辺縁から頭側へ約4cmの膵管内腫瘍栓を認めた.組織学的にはwell differentiated endocrine carcinomaで免疫組織学的にソマトスタチン,カルシトニンが陽性であった.本症例は比較的短期間に膵管内腫瘍栓を形成したものと考えられた.臨床的にソマトスタチンおよびカルシトニンを同時に分泌する内分泌腫瘍の報告はまれであり文献的考察を加えた.
  • 川原 隆一, 堀内 彦之, 中山 剛一, 高木 克明, 丸山 祐一郎, 木下 壽文
    2010 年 71 巻 2 号 p. 517-520
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例26歳,女性.心窩部痛にて近医受診.急性膵炎と診断,腹部CTにて膵尾部に18mm大の嚢胞性腫瘤を認め,膵嚢胞性腫瘍と診断当院紹介となった.悪性所見に乏しく脾温存膵体尾部切除を行ったが尾側膵が1cmほど脾から剥離できず切断し断端を縫宿した.病理診断は膵粘液性嚢胞腺腫と診断された.術後5カ月の腹部CTにて腹水貯留認め,その中を脾動脈が貫き脾内にも穿破していた.経皮ドレナージにて膵液漏による晩期出血と診断.緊急血管造影にて脾動脈瘤破裂を認め,動脈塞栓術を行った.術後,高アミラーゼ血症が継続も徐々に軽快した.脾の30%ほど脾梗塞を認めたが徐々に吸収され術1年後はほぼ消失した.
  • 川上 浩司, 砂川 宏樹, 稲嶺 進, 座波 久光, 當山 鉄男, 大城 直人
    2010 年 71 巻 2 号 p. 521-526
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.既往として左腎珊瑚状結石を認め当院泌尿器科外来通院中.住民検診の便潜血検査で陽性のため精査目的に当院受診,大腸内視鏡検査で下行結腸に全周性一部潰瘍を形成する腫瘤を認め,注腸造影では下行結腸腫瘤部よりバリウムが腸管外で漏出する像が認められた.腹部造影CTで萎縮の強い左腎珊瑚状結石と腎周囲の慢性炎症像と,これに接して壁の肥厚した下行結腸を認めたため悪性腫瘍の否定できない腎結腸瘻疑いの診断で左腎合併結腸左半切除施行した.術中所見は左腎周囲から左横隔膜に至る強度の癒着で腎動静脈も変移,萎縮し同定は困難で剥離に難渋した.腸管と腎筋膜の癒着には手をつけず一塊として切除した.切除標本で腸管から上腎杯への瘻孔が認められた.病理所見は広汎に萎縮した腎と線維性増殖を伴う周囲の変化が存在し腎盂には急性,慢性の炎症性変化が共存していた.大腸粘膜には過形成変化を認めた.術後,一過性に麻痺性腸閉塞を発症するが保存的に軽快し,術後15日で退院となった.腎結腸瘻は比較的稀な疾患でわれわれの検索しえた症例は自験例も含めて48例であった.
  • 村上 英嗣, 緒方 裕, 内田 信治, 笹冨 輝男, 山口 圭三, 山口 倫, 白水 和雄
    2010 年 71 巻 2 号 p. 527-532
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    直腸癌異時性卵巣転移によるpseudo-Meigs症候群の1例を経験した.症例は53歳,女性.再発直腸癌に対し化学療法中に腹部膨満,体重増加,食欲不振を主訴に受診.胸腹水および骨盤内腫瘤を認め,CEA,CA19-9,CA125高値を示し,卵巣腫瘍によるpseudo-Meigs症候群の可能性を考えた.次第に呼吸不全による全身状態の増悪を認め,短期予後改善目的に右付属器摘出術を施行した.組織学的にはcytokeratin7陰性,cytokeratin20陽性で,直腸癌異時性卵巣転移によるpseudo-Meigs症候群と診断した.術後,胸腹水は消失し再貯留を認めなかった.化学療法再開するも,徐々に状態が悪化し,術後4カ月後に原癌死した.大腸癌異時性卵巣転移は予後不良であるが,胸腹水を合併した卵巣腫瘍に対して本症候群を念頭に置くことで,原癌死以外による呼吸不全等に起因する不良な予後の改善に寄与すると考える.
  • 宮崎 真一郎, 丸尾 祐司, 大澤 浩一郎, 芹澤 淳, 那須野 寛也, 吉田 直樹
    2010 年 71 巻 2 号 p. 533-536
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    短期間に子宮留膿腫を2例経験したので報告する.症例1は86歳.右大腿骨頸部骨折術後で,療養型病院で寝たきり状態.発熱と下腹部痛で当院紹介受診.腹部CTにて腹水貯留と腹腔内遊離ガス像あり,消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で緊急手術を施行.術中所見では子宮前壁に穿孔を認め,膿汁の流出を認めた.腸管に異常を認めないため子宮留膿腫穿孔による汎発性腹膜炎と診断.子宮摘出,両附属器切除術を施行した.症例2は63歳.脳出血後遺症で療養型病院に入院中,腹痛とショック状態で当院救急搬送.腹部CTで子宮内腔に液体貯留あり,子宮留膿腫と診断.産婦人科で経膣的ドレナージを施行した.高齢化が進む中で,子宮留膿腫は増える可能性がある.高齢女性の急性腹症の原因として本症を念頭においておくべきと考えられた.
  • 今津 浩喜, 溝口 良順
    2010 年 71 巻 2 号 p. 537-540
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は43歳,女性.10年位前から恥骨右側部が増大,生理時痛を伴い腫張が大きくなるため当院受診.恥骨右側に径約5cmの不整な硬い皮下腫瘤を認め,CA125は72と上昇.超音波検査で39.6×23.5×32.3mm大の辺縁不整な低エコー像,CT検査は右鼠径部から恥骨前面に不均一に造影される不整な腫瘍像が描出された.臨床経過から異所性子宮内膜症を疑い腫瘤ABCを行い内膜症の診断を得た.本人希望にて手術治療を施行.腫瘤は円靱帯から恥骨前面まで連続し円靱帯と共に摘出した.腫瘤は5.5×5×4cm大で辺縁不整,弾性硬で割面は充実性であった.病理では線維性組織内に子宮内膜間質を伴う内膜腺を認め,子宮内膜症と診断した.術後1年経過,再発は認めず.本症の診断には病歴の聴取が最も重要で,鼠径ヘルニア診断の鑑別診断の一つに上げることが診断に最も重要と思われた.治療に際して外科的切除以外でも予後がよいことから術前ABCは選択されうる検査と考えた.
  • 枝園 和彦, 久保 義郎, 小畠 誉也, 野崎 功雄, 棚田 稔, 栗田 啓
    2010 年 71 巻 2 号 p. 541-545
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性.夜間の繰り返す腹痛を自覚し,近医にて腹部CT検査を施行したところ,腹腔内に5cm大の腫瘤を指摘された.当院で行ったPET-CT検査では,S状結腸間膜にFDGの集積亢進を呈する比較的境界明瞭な腫瘤を認めた.画像検査上悪性腫瘍も否定できず,開腹下に腫瘍切除術を行った.開腹所見では,腫瘍はS状結腸間膜に存在し,下腸間膜動脈を巻き込んでいた.切除した腫瘍は,5.0×4.8×3.5cm大の境界明瞭で被膜を持った弾性硬の病変で,割面は黄白色を呈していた.病理組織学的には,紡錘形細胞の束状に錯綜した増生が主体で,中心部には泡沫細胞の集簇を認めた.免疫染色ではS-100陽性,CD34,CD117,α-SMA陰性で,神経鞘腫と診断した.明らかな悪性所見は認めなかった.FDG-PETで集積亢進を呈したS状結腸間膜良性神経鞘腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 横田 真一郎, 小泉 大, 佐田 尚宏, 安田 是和
    2010 年 71 巻 2 号 p. 546-550
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.1999年に腹部膨満感と腹痛で入院.原因不明だが,症状自然消褪した.2007年10月にも再度同様の症状が出現し当院受診した.触診で腹部所見はなく,腹部CTで腹腔内に54mm大の嚢胞性腫瘍を認めた.超音波検査でも同様な嚢胞性病変を認めた.12月腹部CTで32mm大と縮小,境界明瞭で内部均一な低吸収性腫瘍であった.有意なリンパ節腫大はなく,腫瘍マーカーも正常範囲内であった.腸間膜リンパ管腫・重複腸管・GIST等が鑑別診断に挙げられた.2008年1月手術施行.腹腔鏡下観察で腫瘍は可動性が乏しく腸間膜根部付近に存在し,鏡視下手術は困難と判断し,開腹で腫瘍摘出術を行った.術後経過良好で第5病日に退院した.病理組織学的には内部は凝血で,悪性所見はなく,血腫であった.非外傷性で出血原因不明な特発性腸間膜血腫は,非常に稀な疾患であり,文献的考察を加え報告する.
  • 河野 世章, 遠藤 正人, 佐塚 哲太郎
    2010 年 71 巻 2 号 p. 551-555
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,男性.主訴は腹部膨満.2007年6月下旬より腹部膨満出現し近医受診.腹部超音波検査で多量の腹水,腫瘍マーカーの上昇(CEA 50.2ng/ml)を指摘され,当院紹介受診となった.大腸内視鏡検査ではS状結腸に1型腫瘍を認め,生検でclass4:well diff. adenocarcinoma,highly suspectedを得た.粘液を含む多量の腹水の存在から腹膜偽粘液腫を疑い,同年9月手術施行した.腹腔内には粘液結節が充満しており,腹膜偽粘液腫の所見であった.虫垂周囲にも粘液が多量に付着していたため虫垂切除を行ったが,粘膜面に異常を認めなかった.可及的に粘液結節を摘出し,S状結腸切除術を行った.病理組織検査でS状結腸腫瘍に粘液の豊富な分化のよいadenocarcinoaを認め,深達度はSEで腹膜偽粘液腫の原発巣と思われた.術後LV/UFT療法を行っており,現在も良好なPSを保っている.腹膜偽粘液腫の原発巣は虫垂や卵巣が多く,S状結腸は稀であるため報告した.
  • 岩谷 岳, 川村 英伸, 中嶋 潤, 板橋 哲也, 野田 芳範, 若林 剛
    2010 年 71 巻 2 号 p. 556-559
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.左鼠径ヘルニア嵌頓の還納後も持続するイレウスにて当院紹介受診となった.入院時,鼠径部に腹腔内臓器の脱出は認めず,腹部膨隆と左下腹部痛の持続を認めた.腹部CTでは,限局性の著明な壁肥厚を伴う拡張腸管および腹膜前腔から陰嚢におよぶ水腫を認め,還納トラブルに伴う絞扼性イレウスが疑われ,緊急手術を施行した.開腹にてアプローチすると,約20cmの小腸が線維性に肥厚したリング状の腹膜を絞扼輪とし,ヘルニア嚢に包まれ絞扼されたまま腹膜前腔に落ち込んでおり,鼠径ヘルニア偽還納と診断した.絞扼輪を切開しイレウスを解除し,ヘルニア修復は鼠径よりアプローチしKugel法にて修復した.極め稀な病態である鼠径ヘルニア偽還納について,その成因・診断・治療法について文献的考察を加え報告する.
  • 小林 真一郎, 谷村 葉子, 高野 学, 秋山 裕人, 井垣 啓
    2010 年 71 巻 2 号 p. 560-563
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    鼠径ヘルニア術後5年以上経過して発症した遅発性メッシュ感染の2例を経験したので報告する.症例1は78歳の女性で,右鼠径ヘルニアにてメッシュプラグ法を施行された.5年後に右鼠径部腫脹を主訴に当院を受診し緊急手術を施行した.メッシュ感染と診断しメッシュ除去およびドレナージを行った.症例2は62歳の男性で,左鼠径ヘルニアにてメッシュプラグ法を施行された.8年後に左鼠径部腫脹を主訴に当院を受診した.メッシュ感染による膿瘍と診断し6カ月にわたり保存的治療を行ったが治癒せずメッシュ除去およびドレナージを行った.2例とも鼠径管後壁の補強は行わなかったがヘルニア再発や感染の再燃は認めていない.
  • 安藤 徹, 小出 紀正, 吉田 克嗣, 尾上 重巳, 久納 孝夫, 鳥本 雄二
    2010 年 71 巻 2 号 p. 564-568
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    上腰ヘルニアは上腰三角に発生するまれな疾患である.今回われわれはBard Ventralex®を用いて修復した上腰ヘルニアの1症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.症例は71歳,女性.左腰背部の腫瘤を主訴に当院外来を受診した.左腰背部に鶏卵大,弾性軟の無痛性腫瘤を認め,CT,MRIより左上腰ヘルニアと診断し手術を行った.手術所見では腹横筋腱膜に15mm大のヘルニア門があり,そこから脂肪組織が脱出していた.ヘルニア門が小さくKugel patchが挿入困難であったのでBard Ventralex®を用いてヘルニア門を閉鎖した.経過は良好で術後5日に退院した.Bard Ventralex®はヘルニア門の小さな上腰ヘルニアに対し有用であると考えられた.
  • 長嶺 弘太郎, 亀田 久仁郎, 田中 優作, 遠藤 和伸, 吉田 謙一, 久保 章
    2010 年 71 巻 2 号 p. 569-573
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/24
    ジャーナル フリー
    Spigelヘルニアは稀な腹壁ヘルニアである.今回われわれは鼠径ヘルニアとの鑑別を要した1例を経験したので報告する.症例は60歳の男性で,平成21年3月頃より右鼠径部の膨隆を認め,同年4月初旬近医より当科に紹介受診された.来院時,右鼠径部よりやや頭側部に立位で腹圧をかけると径3cm大の膨隆がみられ,還納は容易であった.痛みはないが,違和感が強いとのことであった.腹部・骨盤CTを施行すると,通常の鼠径ヘルニアよりやや頭側の腹壁からの脂肪織脱出を認めた.右鼠径ヘルニア,あるいはSpigelヘルニア疑いの診断で,平成21年5月手術施行した.鼠径管を開放すると,内鼠径輪の頭側,内腹斜筋間より表層に突出するヘルニア嚢を認めた.Spigelヘルニアと診断し,ヘルニア嚢を高位結紮し,メッシュプラグ法で修復した.術後経過良好で術後第3病日に退院した.術後4カ月経過した現在再発は認めていない.
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