日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
75 巻, 10 号
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原著
  • 金城 和寿, 伊藤 誠二, 三澤 一成, 伊藤 友一, 二宮 豪, 安部 哲也, 小森 康司, 千田 嘉毅, 佐野 力, 清水 泰博, 木下 ...
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2671-2678
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    目的:幽門保存胃切除術(PPG)の臨床的適応の設定.対象と方法:胃癌の根治手術として幽門側胃切除および胃全摘術,リンパ節郭清D1以上を行った2,173例を対象とし,腫瘍径,壁深達度,腫瘍-幽門輪距離および幽門周囲リンパ節転移の有無について再検討.結果:腫瘍-幽門輪距離が長いほど,壁深達度が浅いほど幽門周囲リンパ節転移率は低かった.腫瘍-幽門輪距離が5cm以上のpT1症例で幽門周囲リンパ節転移陽性の5例はいずれも腫瘍径2cm以上のSM癌であった.腫瘍-幽門輪距離が5cm以上のcM癌と腫瘍径2cm未満のcSM癌を臨床的PPGの適応と設定し臨床的所見から再検討すると,1例(0.2%)のリンパ節転移陽性例を認めたが,本症例はD2郭清施行後4年で骨転移再発した特殊例であった.結語:腫瘍-幽門輪距離が5cm以上離れたM癌と腫瘍径2cm未満のSM癌は,根治度を損ねない臨床的PPGの適応と考えた.
  • 高 賢樹, 山田 成寿, 柳田 剛, 本城 弘貴, 太田 智之, 林 賢, 草薙 洋, 加納 宣康
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2679-2686
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    目的:腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC)においてreduced port surgeryが整容性の満足度向上に寄与しているか調査した.方法:2009年11月から2013年6月に従来法,細径法,単孔+1法で施行したLC151例に対し,術後にDAS59を送付し返答を解析した.結果:回答は151例中111例,74%で得られた.スコアは従来法,細径法,単孔+1法で19.5,20.9,19.7と差はなく,すべて満足度は高かった.患者の不満に対する詳細な検討では,創のサイズが増大するほど整容性および疼痛に対する不満が有意に多く,3.5mmでは不満を認めなかった.考察:LCではreduced port surgeryによる整容性の満足度向上は認めなかった.しかし,創のサイズと整容性または疼痛に対する不満は相関している可能性が示唆された.
臨床経験
  • 笠川 隆玄, 藤森 俊彦, 尾崎 大介, 柴崎 正巳, 宇田川 郁夫
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2687-2692
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    乳房温存術時の術中断端細胞診の有用性の報告は多いが,偽陽性の存在も知られる.対象を2007年1月より2013年6月に乳房温存療法を行った乳癌症例271例とし当院の偽陽性症例の検討を行った.断端細胞診悪性17例(7.0%)中7例(2.9%)は最終病理診断断端陰性であり細胞診偽陽性と考えられた.その特性は平均年齢60.3歳(全温存症例:55.8歳),平均超音波腫瘍径16.8mm(同:15.3mm),画像上乳管内進展の疑いあり/なし:3例/4例,組織型 非浸潤性乳管癌2例・乳頭腺管癌2例・充実腺管癌2例・硬癌1例,核異型度Grade1/2/3:1例/2例/4例.全例5mm以上のmarginが確保されており,断端付近に悪性と診断され得る良性増殖性病変もなかった.同期間の穿刺吸引細胞診の偽陽性率は0.07%であり異なった特性が示唆された.断端細胞診を行う際はその特性の把握が肝要と思われる.
  • 中川 淳, 山本 道宏, 川村 純一郎, 原田 英樹, 山本 秀和, 財間 正純
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2693-2697
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    目的:当センターにおいて骨盤内悪性腫瘍手術に際し片側尿管の合併切除を行い交差性尿管尿管吻合(transureteroureterostomy;以下TUU)により再建を行った症例を対象に合併症,予後を検討した.方法:2006年6月から2014年5月までの間に同再建術を施行した10例を対象に検討を行った.結果:原疾患は結腸癌4例,直腸癌4例,子宮頸癌1例,卵巣癌1例であった.原発が2例で,8例は術後再発症例であった.尿管吻合に関連する術後短期の合併症は,1例に血腫による尿管口閉塞,水腎症を認めたのみであった.術後観察期間の中央値は16.5カ月で,その間,反復する尿路感染症はなく,術前と比べて術後の腎機能低下は認められなかった.結語:本術式は尿管合併切除を伴う骨盤内悪性腫瘍手術時の再建方法として有用かつ安全であり,治療の選択肢として考慮されるべき術式と考えられた.
症例
  • 荒田 了輔, 大原 正裕, 今岡 祐輝, 野間 翠, 大石 幸一, 板本 敏行
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2698-2701
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    3点式シートベルトの普及により臓器損傷による死亡例は激減したが,新たな受傷機転による損傷が見られるようになった.今回,シートベルト外傷による乳房内出血に対して,造影CTにより出血部位の同定が可能であり,緊急手術を行った症例を経験した.症例は47歳の女性.三点式シートベルトを装着して軽自動車を運転中に直進対向車と正面衝突し救急搬送された.搬送時,左乳房は膨隆,緊満し,乳房の圧迫を行っても乳房腫脹の持続的な進行を認めた.緊急造影CTにて左乳房内に造影剤の血管外漏出を認めたため,局所麻酔下に緊急止血手術を行った.内胸動脈の穿通枝破綻部から拍動性の動脈性出血を認め,結紮止血を行った.術後創部の感染や瘢痕形成もなく整容性も良好に保たれていた.乳房外傷により乳房腫脹の持続的な進行を認める場合には動脈破綻による活動性出血を疑い,緊急造影CTにて治療方針を決定すべきである.
  • 盛田 知幸, 茂垣 雅俊, 津浦 幸夫, 舛井 秀宣, 長堀 薫
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2702-2706
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は62歳,女性.右乳腺腫瘤を主訴に前医を受診,針生検で骨軟骨化生を伴う癌と診断され当院紹介となった.右AC領域に4.5cm大の可動性良好な腫瘤を認め,超音波検査では内部に高エコースポットを伴う不均一な低エコー腫瘤像を,マンモグラフィーでは粗大な石灰化を伴う高濃度腫瘤影を呈した.骨シンチグラフィーでは乳腺腫瘤に一致して集積を認めた.右胸筋温存乳房切除,センチネルリンパ節生検術を施行した.病理所見では紡錘形の腫瘍細胞の増殖と,骨芽細胞・破骨細胞形巨細胞・軟骨細胞への分化を示す腫瘍細胞を認め,上皮成分は認めず,骨軟骨分化を伴う乳腺間質肉腫と診断した.術後1年で肺転移・骨転移再発をし,化学療法は奏効せず,術後1年8カ月で死亡した.著明な骨軟骨分化を示した稀な乳腺間質肉腫の1例であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 中西 賢一, 武内 大, 都島 由希子, 林 裕倫, 菊森 豊根
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2707-2710
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.右乳房に腫瘤を自覚し,疼痛も出現したため当院を受診した.視触診では右乳房A領域に2cmの弾性硬の腫瘤を触知した.マンモグラフィ検査では右内上に境界不明瞭な高濃度腫瘤を認めた.超音波検査では右乳房AC領域に2.3cmの不整形腫瘤を認めた.MRI検査では早期より辺縁境界部にリング状の造影域がみられ漸増性の造影効果を示していた.穿刺吸引細胞診,針生検組織では著明な壊死が認められ,一部に乳管癌が強く疑われた.中心壊死を起こす増殖能の高い乳癌を疑い,全身麻酔下に右乳房円状部分切除およびセンチネルリンパ節生検を行った.術後病理組織診断では結節状の梗塞壊死組織巣を認め,少し離れたところに微小浸潤癌を認めた.
    今回,われわれは梗塞壊死を伴った乳癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 牧野 俊一郎, 村田 幸平, 岡村 修, 中込 奈美, 吉田 哲也, 玉井 正光
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2711-2715
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    乳癌の大腸への転移は非常に珍しいとされている.今回われわれは,乳癌術後19年目に大腸転移を認め切除を行った1例を経験したので報告する.
    症例は71歳女性.19年前,乳癌に対して他院にて乳房切除術施行.再発なくフォローされていたが,便潜血陽性となり,下部消化管内視鏡検査を施行したところ横行結腸に2型病変を指摘された.生検にてGroup5,tub2の診断となり,原発性大腸癌として当院紹介となり,腹腔鏡下横行結腸切除術を施行した.切除標本の病理組織学的検査所見から乳癌からの大腸転移と判明した.術後8カ月で肝単発再発し,化学療法を行っている.
    乳癌の既往のある患者では,術後長期間経過していても,転移や再発の可能性があることを念頭に置く必要がある.
  • 吉田 進, 小川 功, 淀縄 聡, 野崎 礼史, 伊藤 博道
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2716-2721
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,女性.胸部X線上右上肺野異常影を指摘され受診した.CT上右第1肋軟骨直下に胸壁腫瘤を認め,神経原性腫瘍を疑い胸腔鏡下手術を施行した.腫瘤は第1肋間から突出した壁側胸膜外腫瘤で,壁側胸膜と共に摘除した.病理診断はデスモイド腫瘍であった.経過観察していたが1年で局所再発した.腫瘤は右第1肋骨前部の後方中心で一部骨破壊を認めた.再手術を行い,腫瘤を第1・2肋骨・右肺上葉の一部・右腕頭静脈側壁と一塊に摘除した.胸壁欠損部はComposix meshで再建した.病理診断は初回手術時と同様であった.術後13日で退院した.外来にてメロキシカムを継続投与し,さらに放射線照射54Gyを追加した.再手術後2年7カ月,再々発所見は認めていない.胸壁デスモイド腫瘍局所再発の1手術例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
  • 安井 和也, 松浦 求樹, 高嶌 寛年
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2722-2726
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.健診で肝臓の異常を指摘され施行したCTで右肺下葉S10に石灰化を伴う結節影を認めた.気管支鏡など精査を希望されなかったため,定期的にCTで経過を観察していたが変化は認めなかった.初診から2年後のCTで陰影の増大傾向を認めた.悪性疾患の可能性が否定できないため気管支鏡を施行したが確定診断は得られなかった.診断加療目的に胸腔鏡補助下右S7+10区域切除を施行した.結節中心部に魚骨と思われる異物と少量の膿が存在しており,培養結果でActinomycesが検出された.病理結果で気管支拡張と内部に菌塊を認め気管支異物による肺放線菌症と診断した.異物誤嚥の既往は明らかでなかった.誤嚥歴は明らかでなくても限局性の陰影や気管支壁内病変,内部の高吸収域の陰影などは気管支異物を鑑別することが重要であり,異物に伴った肺放線菌症の合併にも留意することが必要であると考えられた.
  • 横田 圭右, 齋藤 雄史, 辻 秀樹
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2727-2731
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.21年前にS状結腸癌,家族性大腸腺腫症にて大腸亜全摘手術の既往あり.血便主訴に当院受診し,精査で残存直腸の進行癌と肺転移を疑う右肺多発結節を認めた.直腸癌手術で局所治癒切除が得られ,かつ右肺多発結節の全切除が可能なため,直腸手術の50日後に右肺中葉切除,S6区域切除,S2・S8・S10部分切除術を施行.術前・術中は転移性肺腫瘍を疑ったが,病理検査にて多発性肺硬化性血管腫と診断された.肺硬化性血管腫は,頻度が肺腫瘍全体の約1%で,多発例は稀である.特異的な画像所見もなく,進行直腸癌と併存していた自験例での術前診断は困難と思われるが,転移性肺腫瘍に合致し難い画像所見も認めた.また,病理所見と比較検討すればCT画像は硬化性血管腫の病理学的特徴を反映していた.多発する肺結節では,鑑別診断として硬化性血管腫も念頭に置くこと,他疾患混在の可能性にも留意して治療方針を検討する必要がある.
  • 藤居 勇貴, 嘉陽 宗史, 八幡 浩信, 福里 吉充, 上田 真
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2732-2737
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    遅発性外傷性横隔膜ヘルニアに合併した胃軸捻転は稀な病態であり,報告が少ない.症例は78歳男性,既往歴に50年前の左胸部刺傷がある.1週間続く心窩部痛,食欲低下を主訴に来院した.精査にて左横隔膜ヘルニアによる胃軸捻転と診断し,まずは内視鏡下に捻転解除を試みるも解除できず,入院4日目に根治手術を施行した.腹腔鏡下でアプローチしたが,脱出臓器の癒着が強く開腹へ移行した.術中所見では,左横隔膜中央に約5cmのヘルニア門を認め,それを単純閉鎖した.術後経過は良好であり,術後7日目に退院となった.外傷性横隔膜ヘルニアに合併した胃軸捻転は,内視鏡での整復が難しく,手術療法が必要となることが多い.手術アプローチは経胸腔,経腹の二つがあり,経腹アプローチには腹腔鏡下手術も含まれる.手術操作の容易さを考えると,開腹アプローチが適していると考える.
  • 中原 裕次郎, 山崎 誠, 宮田 博志, 瀧口 修司, 森 正樹, 土岐 祐一郎
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2738-2743
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    進行食道癌による食道肺瘻は,咳嗽や肺炎,低栄養による全身状態の悪化をきたすことが多く,しばしばステントやバイパスなどの姑息的な治療が行われる.われわれは,食道肺瘻を合併した食道癌に対して根治切除を施行した3症例を経験したので報告する.1例は治療前に食道肺瘻と診断,絶飲食として化学療法を2コース施行した.2例は治療経過(化学療法:1例,化学放射線療法:1例)中に食道肺瘻と診断,一時的な治療中断はあったが2例とも治療を完遂した.3例とも治療効果は部分奏効であり,肺部分切除を含めた食道癌根治術を施行した.病理結果では2例は腫瘍の肺浸潤を認めなかったが,1例では腫瘍の肺実質への浸潤の残存を認めた.3例とも術後経過は良好で,退院後は日常生活に戻ることができた.食道肺瘻を合併する食道癌に対して積極的な集学的治療,根治手術が有用である可能性が示唆された.
  • 福田 泰也, 平尾 素宏, 藤谷 和正, 山本 和義, 西川 和宏, 関本 貢嗣
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2744-2750
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は66歳の男性.2013年3月に当科で胃癌に対して胃全摘術(Roux-Y再建)を施行した.術後5日目に呼吸状態が悪化し,食道空腸吻合部の縫合不全により膿胸を併発していることが判明した.胸腔ドレナージの上抗生剤加療を開始したが,40℃超の高熱が持続し,胸腔ドレーン排液の培養検査と血液培養検査で同一のメタロβラクタマーゼ産生菌が検出された.縫合不全部への消化液逆流のため菌血症を脱せず,術後51日目に全身麻酔下で挙上空腸分離術(非離断)と腸瘻造設術を施行した.胸腔ドレナージ,抗生剤加療を継続するとともに,腸瘻からの経管栄養も開始して栄養改善を図ることで,術後69日目に菌血症を脱し,術後106日目には縫合不全部の治癒が確認できた.非離断部も自然に再開通し,術後118日目に軽快退院した.胃全摘術後縫合不全による難治性瘻孔に対して,挙上空腸分離術が転機となって救命しえた1例を経験したので報告する.
  • 沖元 達也, 木村 厚雄, 大成 亮次, 川崎 由香里, 奥道 恒夫, 大上 直秀
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2751-2756
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.腹部超音波検査にて腹腔内に腫瘤を指摘され上部消化管内視鏡施行.胃前庭部大弯前壁に粘膜下腫瘍様,径3cm大の腫瘍を認めた.生検で低分化腺癌と診断された.胃亜全摘,胆嚢摘出術を施行した.病理で上皮性マーカーであるCAM5.2陽性,神経内分泌のマーカーであるシナプトフィジンがほぼ全ての細胞に染色され内分泌細胞癌と診断された.腺腔形成性の腺癌の共存は認めなかった.Ki67 indexは80%以上であり高度と考えられた.pT1(SM2) N1(No.6) M0であった.術後1年間のS-1の内服を行い,現在術後6年6カ月経過し無再発生存中である.胃原発の内分泌細胞癌は稀な疾患で,予後は極めて不良とされているが今回われわれはリンパ節転移を有した胃内分泌細胞癌に対し手術による治癒切除と,術後化学療法を行い6年6カ月無再発の症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
  • 武岡 陽介, 梶原 啓司, 草場 隆史, 重政 有, 佐々木 伸文, 碇 秀樹, 米満 伸久
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2757-2762
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.2011年3月に微熱,腰背部痛を主訴に当科受診した.血液生化学検査で播種性血管内凝固症候群,胸腹部CTで脊椎・肋骨・骨盤に多発骨転移を疑う骨硬化像を認めた.既往歴として1997年11月にtype3の進行胃癌に対して胃全摘術を施行されていた.施行した消化管内視鏡検査とCT検査では原発巣を指摘できず,精査予定であったが,第2病日目に病室内で転倒し,頭部を打撲.急性硬膜下血腫の診断で緊急小開頭血腫除去術を施行したが,第4病日目に死亡退院となった.後日,開頭術時の頭蓋骨標本の病理検索で低分化腺癌が検出された.胃癌術後13年以上を経過していたが,他に原発巣を疑う病変を認めず,胃癌と骨標本の病理組織像が類似することから胃癌による多発骨・骨髄転移と診断した.胃癌術後10年を超える経過で転移再発することは,極めて稀であり若干の文献的考察を加え報告する.
  • 児玉 創太, 姜 貴嗣, 足立 靖, 細木 久裕, 坪野 充彦, 記井 英治
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2763-2768
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    68歳,男性.胆石症発作で入院した際,上部消化管内視鏡で十二指腸球部に径約1cmの中心陥凹を伴う隆起性病変を指摘され,生検にて神経内分泌腫瘍(NET)と診断された.術中迅速病理組織診で6番リンパ節に3個中2個の転移を認めたため,D1+郭清を伴う幽門側胃切除術と胆嚢摘出術を施行した.進行度はT1(SM,腫瘍径6.5mm)N1(#6:2/3,total:2/50)M0,fStage IIIBで,Ki-67(MIB-1) index:grade1,mitosis:grade1であったため,NET G1(carcinoid)と診断された.術後1年経過したが,再発や転移は認めていない.腫瘍径6.5mmでリンパ節転移を伴う十二指腸カルチノイド症例を経験した.腫瘍径が小さくても,リンパ節転移の可能性を考慮した術式選択が肝要である.
  • 蔦保 暁生, 村川 力彦, 山村 喜之, 鯉沼 潤吉, 大野 耕一, 平野 聡
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2769-2773
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は開腹歴のない84歳,男性.下腹部痛を主訴に救急搬送され,イレウスの診断にて入院となった.翌日,症状と検査所見の増悪を認めたため,絞扼性イレウスを疑い,緊急手術を行った.術中所見ではS状結腸腹膜垂がループを形成し,そこへ小腸が嵌入し壊死していた.腹膜垂のループを切離し,壊死した小腸を切除した.術後は合併症なく退院となった.腹膜垂が原因となってイレウスをきたした症例は稀で,本邦における過去の報告は20例のみである.
  • 林 雅規, 秋山 紀雄, 一宮 正道, 藤田 雄司, 濱野 公一
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2774-2778
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は30歳,女性.腹痛を主訴に当院を受診した.腹部超音波検査で左側腹部に11×7cmの多房性嚢胞性腫瘤を認め,腸間膜軸と直角方向に可動性を有していた.腹部造影CT検査で嚢胞内部にfluid-fluid levelを認めており,嚢胞内出血が疑われた.保存的治療で腫瘤は縮小したが,再出血や破裂などのリスクを考慮し腹腔鏡補助下に摘出術を行った.病理組織学的にD2-40陽性のリンパ管奇形とCD31陽性でD2-40陰性の静脈奇形が混在しており,小腸間膜リンパ管静脈奇形と診断された.術後3年を経過するが再発を認めていない.
    これまでリンパ管腫・血管腫と呼称されていた病態は,最近ISSVA分類でリンパ管奇形・静脈奇形へと分類されるようになった.本邦で小腸間膜リンパ管奇形(リンパ管腫)に静脈奇形(血管腫)が合併した報告はわずか2例のみである.極めて稀な症例と思われたので,文献的考察を加え報告する.
  • 佐瀬 友彦, 唐澤 秀明, 元井 冬彦, 内藤 剛, 片寄 友, 海野 倫明
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2779-2782
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.無症状であったが,FDG-PET/CT検診にて右側腹部に腫瘤像とそれに一致したFDGの異常集積を認め,精査目的に当院紹介となった.諸検査にて炎症性疾患を疑い約半年経過観察をしていたが病変は消失せず,悪性疾患を完全に否定できなかったため,腹腔鏡下に病変の観察を行った.ほぼ全ての小腸間膜がびまん性に肥厚,短縮しており,同部位より生検を行い,硬化性腸間膜炎の診断を得た.術後合併症無く退院し,無投薬にて経過観察しているが,約半年経過しても病変に変化を認めていない.
    硬化性腸間膜炎にFDG-PET/CT検査を行った報告は本邦に無いが,FDG-PET/CT検診の普及とともに同様の悪性疾患との鑑別が困難な症例が増加すると思われる,無症状の場合には腹腔鏡による観察が第一選択になると思われ,文献的考察を加え報告する.
  • 河合 典子, 岩井 和浩, 佐藤 暢人, 狭間 一明, 松井 あや, 平野 聡
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2783-2788
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    消化管穿孔をきたした腸管症型T細胞性リンパ腫(enteropathy-associated T-cell lymphoma,以下EATL)の2例を経験した.症例は53歳および74歳のいずれも男性で,穿孔性腹膜炎の術前診断で緊急手術を施行した.穿孔部位は1例は小腸と結腸の多発穿孔であり,もう1例は小腸のみの穿孔であった.いずれも病変部の切除を行ったが,前者は第11病日に死亡し,後者は術後に化学療法を施行できたものの,原病の増悪により術後5カ月で死亡した.本邦報告63例の集計でもEATLは極めて予後不良であったが,わずかに長期生存例も認めた.長期生存を可能にするためには病変の可及的全切除と術後早期の化学療法が必須であると考えられた.
  • 上村 和康, 萩尾 浩太郎, 磯野 忠大, 植田 猛, 芦沢 直樹, 中田 晴夏, 橘 充弘
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2789-2794
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,男性.腹痛,下血にて当院救急外来受診.消化管出血・腹腔内出血を疑われたが,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome;MDS),慢性心不全,心房細動の既往があり,心不全の増悪,Warfarin内服による凝固障害を認めたため循環器科入院となった.入院後,腹膜刺激症状出現のため当科紹介受診,腹腔内出血の診断で緊急手術を行った.多量の血性腹水および上行結腸壁から腸間膜に径約15cmの血腫を認め,右結腸切除術を施行した.病理診断では出血の原因となる病変は認めず,MDSの易出血状態にWarfarinの凝固障害が合併して,腸管壁に血腫を形成し,管腔および腹腔内に穿破し出血をきたしたと考えられた.大腸壁内血腫の本邦報告例は41例で,血液疾患を合併する抗凝固療法が原因とされる報告例は極めてまれであり,文献的考察を加え報告する.
  • 古川 健一朗, 田村 孝史, 稲川 智, 明石 義正, 大河内 信弘
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2795-2800
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    デスモイド腫瘍は軟部組織に発生する稀な腫瘍である.今回,横行結腸漿膜原発の孤発性デスモイド腫瘍を経験したので報告する.症例は61歳,男性.胃癌術後の腹部造影CT検査で横行結腸近傍に腫瘤を指摘された.6カ月の経過観察で腫瘍は18mmから63mmへと増大傾向にあったため手術の方針となった.開腹所見では,腫瘍は横行結腸から細い茎を介して連続しており,横行結腸と腫瘍を一塊に切除した.免疫組織学的染色で腫瘍はデスモイド腫瘍と診断された.また,結腸漿膜から腸管壁外に向かって発育しており結腸漿膜原発と考えられた.孤発性のデスモイド腫瘍は少なく,腸管漿膜原発は本邦で初の報告となる.デスモイド腫瘍の治療は基本的に外科的切除であるが,顕微鏡的に切除断端陰性でも局所再発する確率が高いと報告されており,術前にデスモイド腫瘍が鑑別の上位に挙がった場合は,十分な切除範囲を確保した術式を考慮するべきであると考えられた.
  • 上神 慎之介, 大毛 宏喜, 清水 亘, 渡谷 祐介, 繁本 憲文, 末田 泰二郎
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2801-2806
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は30代,男性.潰瘍性大腸炎(全大腸炎型)と診断され,内科的治療を継続し,年1回サーベイランス内視鏡検査を施行されていた.発症18年目の下部内視鏡検査で直腸に25mm大の腫瘍性病変が認められ,生検ではhigh grade dysplasiaであったが,超音波内視鏡検査・CT検査・注腸検査などから潰瘍性大腸炎の炎症を背景に出現したcolitic cancerと診断,リンパ節郭清を伴う大腸全摘,直腸粘膜抜去,J型回腸嚢肛門吻合,一時的回腸人工肛門造設術を施行した.術後永久病理組織検査では,腫瘍は中分化管状腺癌>粘液癌,SS (A),ly0,v1,n0,Stage IIと診断され,全割標本では直腸粘膜抜去した歯状線直上まで広範囲にdysplasiaの進展が認められた.
  • 阿尾 理一, 上野 秀樹, 神藤 英二, 米村 圭介, 島崎 英幸, 山本 順司, 長谷 和生
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2807-2811
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    59歳,男性.下腹部痛を主訴に近医を受診し,腹腔内腫瘍の診断で当院紹介となった.腹部CTにて腹腔内に最大径12cmの内部壊死を伴う腫瘍を認めた.下部消化管内視鏡検査では異常を認めなかった.開腹手術を施行したところ,腫瘍は横行結腸間膜に主座を有し,横行結腸の漿膜に浸潤していた.小腸間膜およびDouglas窩,肝外側区域表面には白色結節が多数存在していた.横行結腸部分切除を伴う腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的に,腫瘍は腺管構造を欠き,免疫染色等の検索で粘液分泌や内分泌顆粒は認められず,未分化癌と診断された.腸間膜の充実性悪性腫瘍は稀な疾患であり,その組織発生について文献的考察を加えて報告する.
  • 安藤 知史, 愛甲 聡, 小山 恭正, 大平 正典
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2812-2816
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,女性.右下腹部痛および発熱を主訴に近医を受診し,腸炎の診断で経過観察となっていたが,症状が増悪し発症10日後に施行したCTで上行結腸癌を認めたため当院に紹介受診となった.術前検査でStage IIIbの大腸原発の内分泌細胞癌と診断され,術前化学療法として肺小細胞癌に準じてCDDP+CPT-11を行った.著明な縮小効果を得たため,腹腔鏡補助下結腸右半切除術,D3を施行した.術後化学療法として同様の方法に引き続きXELOX療法を行い,現在まで1年6カ月再発を認めていない.大腸原発の内分泌細胞癌は予後不良と言われており,現時点では治療方針が確立しているとは言い難い.本症例では特に術前化学療法により腫瘍の著明な縮小効果が得られており,術前化学療法の有効性が示唆された.
  • 倉吉 学, 豊田 和広, 貞本 誠治, 徳本 憲昭, 高橋 忠照, 万代 光一
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2817-2823
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,男性.左原発性肺癌の手術既往があり,低分化腺癌,Stage IBであった.術後1年5カ月後に左下腹部痛が出現し,腹部CT検査にてS状結腸から腸間膜側に壁外性の腫瘍を認め,大腸内視鏡検査ではS状結腸に粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.大腸GISTなどの粘膜下腫瘍を疑い,手術施行した.腫瘍はS状結腸から下行結腸腸間膜側に存在し横行結腸にも浸潤しており,左半結腸切除術を施行した.肉眼的には10×10cm大の割面が白色肉腫様の腫瘍であり,組織学的には紡錘形細胞腫瘍の形態を呈していた.免疫組織染色ではCK7陽性でCK20陰性であることから,退形成性肺癌の大腸転移と診断した.術後3カ月目に左肺と骨盤内に再発所見を認め,術後5カ月で原病死した.肺癌の大腸転移は少なく,紡錘細胞癌は非常に稀である.若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 塚本 義貴, 中尾 照逸
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2824-2827
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は83歳の男性で,10カ月前にRsの直腸癌に対して腹腔鏡下低位前方切除を施行した(SM,N1(1/14),M0 Stage IIIa).術後の経過に異常は認めていなかったが,臍の下方に径3.5cmほどの腹部腫瘤を自覚して外来を受診した.腫瘤は超音波エラストグラフィーで硬く描出され,造影CTでは腫瘤内部は淡く造影された.また,MRI拡散強調画像で高信号を呈した.吸引細胞診は陰性であったが,担癌患者であったことより直腸癌術後のポートサイト再発を疑い摘出術を行った.病理組織学的には腹直筋腱膜に炎症を及ぼす肉芽腫であり,異物は確認されなかったもののSchloffer腫瘤の診断となった.さらに,2カ月後に左下腹部のポートサイト付近に同様な3.0cm大の皮下腫瘤が急に出現したが,炎症性肉芽腫を疑って腫瘤切除を行った.癌の腹壁転移とSchloffer腫瘤は鑑別に苦慮する場合があり,今回はポートサイトに発生したことから若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 富永 哲郎, 竹下 浩明, 黨 和夫, 七島 篤志, 澤井 照光, 永安 武
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2828-2833
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は73歳の女性で,9年前に直腸癌(pSS,pN1,cM0;fStage IIIa)に対し低位前方切除術を施行された.その後,2年間の術後補助化学療法を受け,近医で経過観察されていた.フォローアップ中に腫瘍マーカーの増加(CEA 142.1ng/ml,CA19-9 789.2U/ml)を認めたため当院へ紹介となった.腹部CT上,大動脈分岐部直下および左総腸骨動脈領域にリンパ節腫大を認めた.全身精査で明らかな原発巣を示す病変はみられず,直腸癌のリンパ節再発と判断し放射線化学療法を開始した.治療後,速やかに腫瘍は縮小し腫瘍マーカーも減少した.しかし,8カ月後に再燃し,化学療法を継続するも徐々に病態は進行し,再発より4年1カ月後に永眠した.今回われわれは,直腸癌根治切除後に9年という長期経過を経て再発をきたした症例を経験したため報告する.
  • 石野 信一郎, 白石 祐之, 堤 真吾, 西巻 正, 仲西 貴也
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2834-2838
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は既往歴の無い36歳,男性.受診数日前より全身倦怠感を自覚しており,腹痛も出現したため当院へ救急搬送された.腹部は膨満し血液検査で貧血を認めた.腹部CTでは肝に内部均一な腫瘍が多発し,病変の一部から造影剤の血管外漏出を認めた.緊急TAEで止血したが,その後,別の部位からも出血し再度TAEを行った.しかし,翌日に血圧と意識状態の急な低下を認めたため緊急手術となった.肝の複数箇所が破裂し手術は難渋したが,ガーゼパッキングにより一時的に止血を得られた.Second-look手術でも止血しておりガーゼを除去したが,翌日に再出血し状態が悪化した.ご家族よりこれ以上の積極的治療を望まない旨の希望があり,保存的治療を継続したが,患者は初回手術後第5日に死亡した.多発肝細胞癌複数破裂は治療に苦慮する病態であり,また若年者の非B非C型肝細胞癌はまれである.今回,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 倉田 徹, 中沼 伸一, 林 泰寛, 田島 秀浩, 高村 博之, 太田 哲生
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2839-2843
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,女性.非アルコール性脂肪肝炎,糖尿病の加療中に肝S4/8,径5cmの肝腫瘤を指摘された.術前検査ではリンパ節,遠隔転移を認めず,腹腔鏡下に胆嚢摘出術,肝右葉授動の後,小開腹下にS4+前腹側区域の肝切除術を行った.病理結果は中~低分化型肝細胞癌成分と低分化型胆管癌成分が混在する混合型肝癌であり,切除断端は陰性であった.術後第26病日に呼吸苦が出現し,低酸素血症と両肺野の広範なスリガラス陰影の出現を認めた.急性呼吸性窮迫症候群と判断し集学的治療を開始したが,42日後死亡した.死後の肺生検にて胆管癌に類似した腺管構造を有する腫瘍細胞の増殖と繊維化を認め,癌性リンパ管症と診断した.術後早期に癌性リンパ管症を発症した原因として,悪性度の高い胆管癌成分を有していたことに加え高齢や肝切離面積が比較的広範囲となり手術侵襲が増大したことにより腫瘍の形成・転移能が促進された可能性も推測された.
  • 森 浩一郎, 小西 尚巳, 尾嶋 英紀, 伊藤 秀樹, 池田 哲也, 登内 仁
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2844-2848
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例:83歳,男性.主訴:右側胸部痛.現病歴:二階から転落,当院に救急搬送された.入院時現症:血圧64/58mmHg,脈拍74回/分.右季肋部に限局した反跳痛,軽度の筋性防御が認められた.血液生化学所見:Hb 9.1g/dl.明らかな肝機能異常,胆道系酵素の上昇なし.超音波所見:胆嚢は腫大,壁は層状に肥厚し浮腫状,胆嚢内部は鏡面形成が認められた.腹部CT:腹水なく,壁は低信号で肥厚していた.鈍的外傷による胆嚢損傷が疑われ,緊急試験開腹術が施行された.手術所見:少量の漿液性腹水あり.胆嚢漿膜に損傷なく,胆嚢から肝十二指腸間膜まで漿膜は浮腫状で緑色調,一部暗赤色であった.胆嚢摘出術が施行された.切除標本:胆嚢肝床部の粘膜に約2cmの裂創が認められた.病理検査所見:肝床側底部の粘膜および筋層の断裂と漿膜下血腫が認められた.底部から頸部方向への急激な牽引・伸展による粘膜の裂創と推察された.
  • 浅岡 忠史, 宮本 敦史, 原田 百合奈, 種田 健司, 関本 貢嗣, 中森 正二
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2849-2853
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    妊娠中期に胆石性急性胆嚢炎を繰り返し,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した症例を経験した.症例は35歳,女性.妊娠21週に心窩部痛を認め,胆石性急性胆嚢炎の診断で保存的に加療されていたが,再発を繰り返したため,手術目的で当院へ紹介となった.絶食期間の長期化による母胎の低栄養が懸念された以外に,子宮底の上昇に伴う妊娠後期での手術の困難さを考慮して妊娠26週目に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.術中は気腹圧を8mmHgに維持し,超音波を用いた胎児心拍の確認を適宜行った.術後は産婦人科医による子宮収縮抑制剤(ritodrine hydrochloride)の持続投与を行うことで切迫早産を回避し安全に手術を施行しえた.術後経過は良好で,合併症なく妊娠36週目で健常な女児を出産した.
  • 山口 智之, 西野 栄世, 片岡 直己, 冨田 雅史, 坂本 一喜, 新保 雅也
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2854-2858
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は69歳の女性.繰り返す大腸憩室出血に対する腹部CT検査で膵頭部に径1.5cmの腫瘍を指摘された.PET-CT検査ではFDGの腫瘍部への集積は軽度であったが,膵癌を否定できず,腫瘤形成性膵炎もしくは膵癌の疑いで膵頭十二指腸切除術,結腸右半切除術を行った.病理組織診断は膵過誤腫であった.膵過誤腫は極めて稀な疾患であり,特異な臨床症状はなく,偶然発見されることが多い.また,組織型も多様であるため術前診断が困難で,術後に診断に至ることが多い.膵過誤腫の報告例を集計し,若干の文献的考察を加えて自験例を報告する.
  • 奥村 哲, 小川 雅生, 今川 敦夫, 出村 公一, 川崎 誠康, 亀山 雅男
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2859-2865
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は73歳,男性.一週間前からの全身倦怠感,労作時の動悸,息切れを主訴に救急搬送された.血液検査でHb 4.8g/dlと高度の貧血を認め,上部消化管内視鏡検査で十二指腸乳頭肛門側に易出血性の隆起性病変を認めた.腹部ダイナミックCT検査で膵頭部に28mm大の低濃度腫瘤像を認め,平衡相で淡く造影されていた.内部に嚢胞様の低濃度の部分を伴い,辺縁には石灰化も認めた.腹部MRI T2強調像で不均一な信号を呈し,辺縁部に被膜様の低信号のrimを認めた.以上より,solid pseudopapillary tumorを疑い膵頭十二指腸切除術,D2リンパ節郭清を施行した.摘出標本では膵頭部に径4cm大の腫瘤を認め,十二指腸に浸潤を認めた.病理組織学的検査の結果,膵神経内分泌腫瘍,G2と診断した.非機能性膵神経内分泌腫瘍の十二指腸浸潤の本邦での報告例は6例と少なく,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 奥田 耕司, 菊地 一公, 大島 隆宏, 三澤 一仁
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2866-2870
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    膵solid pseudopapillary neoplasm (SPN)は,低悪性度腫瘍であり,遠隔転移は稀である.今回,腹膜播種切除後,長期生存中の膵SPNの1例を経験したので報告する.症例は21歳の女性で,10歳時に外傷性膵嚢胞に対する膵嚢胞空腸吻合術の既往があった.背部痛で受診し,CTにて骨盤内に嚢胞性腫瘤を認め,膵尾部にも嚢胞性病変を指摘された.骨盤内腫瘤を摘出したところ,膵SPNに特徴的な所見であり,その後,膵尾部の嚢胞性病変を切除し,膵SPNの腹膜播種と診断した.現在,初回手術後から9年8カ月経過しているが,再発や転移なく健存中である.SPNの腹膜播種の成因は主に腫瘍破裂や外科的処置による腹腔内散布であり,積極的な外科的切除により良好な転帰が期待できる.
  • 池本 哲也, 島田 光生, 森根 裕二, 居村 暁
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2871-2876
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    78歳の女性.1997年に膵体部12cmのsolid pseudopapillary neoplasm(漿膜浸潤なし,リンパ節転移なし,破裂なし)に対し膵体尾部切除術を施行した.2010年のCTで上行結腸前面に6mmの結節が出現し,その後16mmに増大したため,2013年3月に腹腔鏡下腫瘤摘出術を施行した.同腫瘤は病理学的に1997年の切除標本に類似しており,synaptophysin,vimention,β-catenin,CD10に陽性,AE1/AE3,chromogranin Aに陰性,Ki-67 labeling indexは5%であった.再手術から3カ月後横隔膜面に6箇所の再発腫瘤を認め,さらに摘出術を施行した.本疾患の腹膜播種転移の報告例は稀で,自験例は16年が経過しているが,生物学的高悪性転化の所見は認めなかった.
  • 武田 光正, 中島 紳太郎, 阿南 匡, 衛藤 謙, 小村 伸朗, 矢永 勝彦
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2877-2882
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は24歳の女性で,2012年末にマレーシアに10日間渡航していた.帰国時に腹痛,下痢が出現し,帰国3日目に近医で急性胃腸炎と診断され投薬が行われたが,同8日目に腹痛が増悪し当院救急部に搬送となった.腹部全体で腹膜刺激症状陽性で,血液ガスで高度の代謝性アシドーシス,腹部CTで腹水の貯留と門脈ガスを認め,腸管壊死を疑い緊急開腹術を施行した.約1Lの膿性腹水を認め,大網は捻転などなかったが黒色調で壊死を疑い切除した.全消化管を検索したが絞扼・壊死・穿孔はなかった.産婦人科医によって内性器の評価を行ったが異常所見はなく,洗浄・ドレナージで手術を終了した.後日,術中腹水からFusobacteriumが検出され、これによる特発性腹膜炎と診断した.特発性腹膜炎は明らかな腹腔内感染源なしに細菌性の汎発性腹膜炎をきたす疾患と定義され,基礎疾患のない若年者の発症は非常に稀である.文献的考察を加え報告した.
  • 宮北 寛士, 和泉 秀樹, 富奥 美藤, 安田 聖栄, 貞廣 荘太郎, 梶原 博
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2883-2887
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.糖尿病,慢性腎不全にて血液透析を受けつつ療養入院中,嘔吐・腹痛を主訴に前医受診した.前医受診時,血圧低下を認めショックの状態であった.汎発性腹膜炎の診断で当院紹介となった.腹部造影CT検査にて腹水の貯留と腸管の拡張を認めた.腸管虚血による汎発性腹膜炎を疑い,同日緊急手術施行した.術中,消化管に異常を認めなかった.多量の白色膿汁の流出があり,膀胱壁は広範囲に壊死しており,膀胱頂部が黒色変化を伴い2箇所穿孔していた.膀胱壊死,破裂の診断で単純膀胱全摘術を施行した.自験例では透析患者の慢性膀胱炎に起因する壊死性膀胱炎による膀胱破裂が考えられた.壊死性膀胱炎による膀胱破裂はわれわれが検索しえる範囲では自験例を含め5例の報告のみであり非常に稀な病態であった.術前診断が困難であり,予後も不良であった.文献的考察を加えて報告する.
  • 近藤 純由, 杉本 斉, 小野 千尋, 星野 直明, 西岡 良薫
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2888-2892
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,女性.胆石症精査目的の腹部CTにて肝下面に4cmの充実性腫瘤を認め,血管造影では胃十二指腸動脈などから多数の栄養血管を認めた.腹腔鏡下腫瘍摘出術を施行した.術中異常高血圧は認めなかった.術中所見では大網内に位置し被膜を有する充実性腫瘤であった.病理組織学的検査ではparagangliomaと診断された.術後16カ月現在再発兆候は認めていない.大網原発のparagangliomaは検索しえた限りでは自験例が5例目の報告例であり,非常に稀であるため文献学的考察を加え報告する.
  • 阪本 裕亮, 橋田 裕毅, 光岡 英世, 岩崎 寛, 貝原 聡, 細谷 亮
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2893-2896
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は20歳,男性.スクーター運転中の交通事故で当院へ救急搬送された.来院時の腹部造影CT検査にて,左の腹直筋外縁の腱膜に4cm×6cm大の欠損を認め,その皮下に小腸を認めた.外傷性Spigelヘルニアの疑いにて,来院当日に緊急手術を施行した.腹直筋外縁に沿って外腹斜筋腱膜・腹横筋腱膜は約7cmにわたって断裂し,外傷性Spigelヘルニアと診断した.他に臓器損傷はなく,筋膜の単純閉鎖を行った.術後経過は良好で術後7日目に退院した.術後21カ月間でヘルニアの再発は認めていない.本邦において外傷性Spigelヘルニアの報告はまれであり,文献的考察を加え報告する.
  • 冨樫 順一, 皆川 正己, 廣吉 淳子, 渥美 振一郎, 片平 誠一郎, 竹田 泰
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2897-2902
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は45歳の女性.下腹部痛を主訴に当院救急外来を受診した.身体所見上,帝王切開創に軽度圧痛を認めたが,反跳痛および筋性防御は認めなかった.腹部造影CTでは小腸拡張を認めるも絞扼所見なく,骨盤内で多発子宮筋腫と子宮内膜症性嚢胞病変,近傍での腸管狭小化を疑った.その後,保存治療で改善せず手術を施行した.手術所見では,卵巣は正常で内膜症所見なく右の傍直腸窩に約7cmにわたって嵌頓した腸管および同部位に腹膜の欠損孔を認め内ヘルニア嵌頓と診断した.そのため,欠損孔は単純縫合閉鎖とし,小腸は腸管壊死をきたしていたため小腸部分切除とした.術後経過は良好で合併症を認めず,術後21病日に軽快退院し,術後6カ月現在再発を認めていない.傍直腸窩に発生した内ヘルニアは非常に稀であるが,原因不明の腸閉塞の際には,鑑別疾患として本疾患も念頭に置く必要がある.
  • 野々山 敬介, 早川 哲史, 中村 謙一, 牛込 創, 野澤 雅之, 北上 英彦
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2903-2908
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    大腿ヘルニアの虫垂嵌頓はまれな疾患であり,de Garengeot herniaと呼ばれ,本邦での報告例は少ない.今回de Garengeot herniaの2例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例1は93歳,女性.右鼠径部の膨隆が徐々に増大するため当院を受診した.超音波検査および造影CTで右大腿ヘルニア虫垂嵌頓と診断し,緊急手術を施行した.腹腔鏡下に手術を開始したが,嵌頓解除が困難であったため,虫垂根部を切離した後,鼠径法に移行し,虫垂を摘出し,UHS®を用いて修復した.症例2は38歳,男性.下腹部痛を認め,鼠径ヘルニア嵌頓の疑いで当院を紹介受診した.単純CTで右大腿ヘルニア虫垂嵌頓と診断し,同日緊急手術を施行した.鼠径法でアプローチし,虫垂を切除し,McVay法で修復した.2例とも,術後合併症およびヘルニアの再発を認めていない.
  • 島田 慎吾, 小笠原 和宏, 小林 篤寿, 河合 朋昭, 小林 清二, 草野 満夫
    2014 年 75 巻 10 号 p. 2909-2916
    発行日: 2014年
    公開日: 2015/04/30
    ジャーナル フリー
    症例は32歳の女性.右側腹部痛を主訴に当院を受診した.腹部CT検査で肝右葉に12cmの腫瘍を認め入院となった.上部消化管内視鏡で,胃体上部大弯に0-IIa病変を認め,生検でtub2-por1であった.HBs-AgおよびHCV-Abは陰性であった.既往歴に軽度の発達障害を認めた.肝細胞癌と早期胃癌の合併と診断し,肝切除を先行する方針とした.全身麻酔下に開腹・右開胸による肝右葉切除を施行した.術後,筋弛緩が遷延し自発呼吸が回復せずに人工呼吸器管理を要した.この際,神経内科にてミオトニア現象を確認され,問診で伯父と母に家族歴がみられたため筋強直性ジストロフィー症(MD)と診断された.術後2日目に人工呼吸器から離脱した.胃癌に対しては内視鏡的粘膜下層剥離術を行い,完全切除しえた.術後12カ月経過した現在も無再発生存中である.MDと悪性腫瘍の合併は稀ではあるが,周術期管理に注意を要する.
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