日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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77 巻, 11 号
選択された号の論文の46件中1~46を表示しています
原著
  • 高田 暢夫, 木下 敬弘, 海藤 章郎, 芝崎 秀儒, 砂川 秀樹, 西田 俊朗
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2631-2637
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    目的:胃癌の腹膜播種診断における審査腹腔鏡(staging laparoscopy;以下,SL)の有用性について検討する.対象と方法:2010年10月から2015年12月に初回SLを施行した胃癌症例を対象に後ろ向き解析を行った.結果:SLを施行した103例中,P1またはCY1が指摘された症例は45例(43.6%)であった.45例中5例(11.1%)は化学療法奏効後に再度SLを施行し,P0CY0に陰転化した.最終的にP0CY0と診断された症例は63例(61.2%)で,うち59例に手術が施行された.3例に腹膜播種を認め,腹膜播種診断におけるSLの偽陰性率は5.1%(3/59)であった.結論:高度進行胃癌の治療方針決定において,SLは有用と考えられた.臨床上は偽陰性が最も問題となるため,定型化された精度の高い手技を行うことが重要と考えられた.
  • 宇都宮 高賢, 山本 裕, 八尾 隆史, 柴田 興彦
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2638-2645
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    ALTA療法後再発をきたした10症例について根治手術を施行し,その組織についてGoligher III度10症例の痔核手術組織と比較検討した.ALTA再発症例では,歯状線より口側の粘膜下に,異物型巨細胞を混じる肉芽腫形成と線維化を認めた.Herrmann線口側外側粘膜下層は有意に皮薄化し,動脈,静脈の太さは小さく,数も減少していた.しかし,歯状線部では100μm以下の小静脈,毛細血管が増加していた.再発の一因としてALTA療法による4段階注入法では,粘膜筋板を挟んだ粘膜固有層には影響が及ばず,一旦閉塞した動脈,静脈血管の一部に再疎通が起こり,新たな血管の再生が見られ,粘膜下の線維化,硝子化により,上行する血流の還流が遮断され歯状線外側の新生された血管内に鬱滞を起し外痔核は腫脹する.副血行路が粘膜固有層内に形成されると,粘膜表層に露出血管が出現し再出血をきたすと考えられた.
臨床経験
  • 堀尾 卓矢, 津福 達二, 末吉 晋, 永松 佳憲, 赤木 由人
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2646-2652
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    目的:癌性皮膚潰瘍を伴う乳癌患者のquality of life(QOL)を向上させる上で潰瘍による出血,悪臭を制御することが重要である.外用剤であるMohsペースト,メトロニダゾールゲルを用いた癌性皮膚潰瘍の管理について検討した.
    方法:2011年8月から2015年7月までに当院で経験した癌性皮膚潰瘍を伴う乳癌患者は7例で全例女性であった.出血に対しMohsペースト,悪臭に対しMTZゲルによる処置を行った.
    結果:7例中5例で出血を認め6例で悪臭を認めた.Mohsペースト使用全例で20-30分の接触時間で止血可能であった.MTZゲルにより全例2日で悪臭が軽減された.
    結論:乳癌性皮膚潰瘍の局所合併症に対しMohsペースト,MTZゲルは有効であった.Mohsペースト,MTZゲルを使い分けることで癌性皮膚潰瘍に対し効果的な管理ができると考えられた.
症例
  • 北川 瞳, 角田 博子, 吉田 敦, 鈴木 高祐, 山内 英子
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2653-2659
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,女性.右乳房腫瘤を自覚し,翌月の検診にて要精査となり当院を受診.右乳房9時方向に石灰化を含む2cm大の腫瘤を認め,DCISを疑って精査.MRIにて,右9時方向に区域性濃染がみられ,超音波でも血流と歪みの低下を伴う低エコー域であった.超音波ガイド下吸引式針生検では腺筋上皮腫(adenomyoepithelioma:以下AME)の診断であった.以後,経過観察していたところ,5年後に3.5cmまで増大したため,腫瘤切除術を施行した.術後病理は,乳頭状構築を呈し出血性嚢胞を伴うAMEで,悪性所見はなかった.AMEには,今回のように良性であっても増大するものや,悪性のものもあるため,診断後も注意深く経過観察を行う必要があると考えられた.
  • 東 友理, 岩田 啓子, 桐山 正人, 東 勇気, 庄司 泰弘, 月岡 雄治
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2660-2666
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は38歳の女性で,左乳房に大きさ8cm,境界明瞭,辺縁整で可動性良好な腫瘤を認め来院した.葉状腫瘍の診断で腫瘍摘出術を行い,組織学的に良性葉状腫瘍,切除断端陰性であった.術後1年目に局所再発し,1年5カ月目には径23cmにまで増大した.乳房切除術が施行され組織学的には境界病変であった.その後,局所再々発をきたし境界病変と診断された.次いで,右乳房に急速に増大する腫瘤が出現し,乳房切除術が施行され悪性葉状腫瘍の診断であった.術後8カ月目に右胸壁に局所再発し,腫瘍は自壊して潰瘍を形成し,胸壁浸潤,多発肺・骨転移を認めた.MIB-1 indexは左葉状腫瘍の初発,再発,再々発時がそれぞれ4.0%,22.0%,25.6%で,右葉状腫瘍の初発,再発時は23.0%,21.6%と左の初発時以外は高値を示し,MIB-1 indexは臨床所見と相関しており,葉状腫瘍の良悪性の鑑別に有用である可能性が示唆された.
  • 工藤 由里絵, 西山 宜孝, 武田 正, 光井 恵麻
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2667-2672
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    メトトレキサート(methotrexate:MTX)は関節リウマチ患者に対する治療で重要であるが,リンパ増殖性疾患を合併することがありMTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-related lymphoproliferative disorders:MTX-LPD)と呼ばれている.今回われわれはMTX-LPDに乳癌が合併した1例を経験した.症例は69歳の女性.関節リウマチで4年間MTXを内服しており,全身のリンパ節腫大と左乳房腫瘤を指摘された.リンパ節生検でびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫の組織像からMTX-LPDと診断された.左乳房腫瘤は精査の結果,左乳癌T1N0M0,cStage Iと診断され左乳房部分切除術とセンチネルリンパ節生検を施行した.センチネルリンパ節はRI法と色素法の併用で問題なく同定可能であり,迅速診断および永久標本で転移陰性であった.文献的考察を加えて報告する.
  • 久米田 浩孝, 小林 理, 浜 善久, 寺田 志洋, 渡辺 正秀, 土屋 眞一
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2673-2676
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は82歳,女性.38歳時に右乳癌に対し定型的乳房切断術を受け,術後卵巣摘出と胸壁への放射線照射を追加されていた.右前胸部痛を主訴に紹介受診.胸部CTにて右前胸部第6肋間に33×28mmの辺縁不整な充実性腫瘍を認めた.疼痛が強く,その他遠隔転移を認めず,胸壁腫瘍切除,胸壁・横隔膜再建術を施行した.病理検査では中~低分化な腺癌と診断され,ER・PgR・HER-2はいずれも陰性であり,Ki-67陽性率は50%だった.免疫染色ではCK7陽性,CK20陰性,TTF-1陰性であり,臨床像も含め乳癌の晩期再発と診断した.術後4カ月の血液検査で腫瘍マーカーの再上昇を認め,FDG-PETにて気管分岐下リンパ節に異常集積を認め,転移再発の診断にて加療中である.乳癌の晩期再発はしばしば経験することがあるが,術後40年以上経過しての再発は稀であり報告する.
  • 坂口 奈々恵, 守屋 智之, 山崎 民大, 長谷 和生, 上野 秀樹, 山本 順司
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2677-2680
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,女性.1987年,37歳時に右乳房切除術,10年後に肺転移再発を認めたため化学療法を開始,治療中であった.2014年5月,急な下肢筋力低下および排尿障害を主訴に救急外来を受診した.MRIで気管背側より胸椎,胸髄に直接浸潤する腫瘍性病変を認め,翌日緊急で脊椎後方除圧固定術,腫瘍生検を実施した.病理結果は粘液癌の診断,ER+,PgR+,HER2-,既往の乳癌の組織像と類似していた.画像・病理所見から縦隔内の転移リンパ節が直接的に脊椎,脊髄浸潤した稀な病態と考えられた.
  • 三和 健, 門永 太一, 窪内 康晃, 荒木 邦夫, 谷口 雄司, 中村 廣繁
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2681-2685
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    胸腺癌に対するサルベージ手術はまれである.今回,完全内臓逆位を伴うIV期胸腺癌と診断され,他院で放射線化学療法を施行,PRとなりサルベージ手術を施行した1例を経験したので報告する.症例は61歳,男性.胸部CTで41mmの前縦隔腫瘍と気管分岐下リンパ節腫大,肺腫瘍を認めた.胸腔鏡下左肺部分切除,縦隔腫瘍の針生検でIV期胸腺癌と診断された.前縦隔への放射線治療(60Gy)およびカルボプラチンとパクリタキセル併用化学療法6コース後,PRと判断され,サルベージ手術を施行した.胸骨正中切開で胸腺胸腺癌摘出,心膜・左肺部分合併切除を施行,上行大動脈左側からアプローチして上縦隔,気管分岐下リンパ節を郭清後,心膜再建術を施行した.
    病理組織診断は胸腺扁平上皮癌で心膜と肺に浸潤は認めず,リンパ節転移はなく切除断端は陰性,yT1N0M0,EF2であった.術後経過良好で,術後1年4カ月再発を認めない.
  • 三竹 泰弘, 中山 雅人, 青葉 太郎, 加藤 岳人, 平松 和洋, 柴田 佳久
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2686-2691
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    人工血管置換術後に起こる人工血管感染は,重篤で予後不良な合併症の一つである.腹部大動脈瘤術後に発症した十二指腸穿孔による人工血管感染に対し,人工血管を温存し十二指腸切除と大網充填を行い軽快した症例を経験したので報告する.症例は61歳,男性.約1年前,腹部大動脈瘤切迫破裂に対しYグラフトによる人工血管置換術を施行した.今回,悪寒を主訴に来院し,腹部造影CT検査・上部消化管内視鏡検査・上部消化管造影検査で十二指腸水平脚の穿孔と診断した.十二指腸部分切除,胃空腸吻合,十二指腸空腸吻合,胆嚢摘出,人工血管周囲掻爬,大網充填術を施行した.術後,人工血管周囲のドレナージ不良に対し洗浄ドレナージの再手術を行った.その後の経過は良好で軽快退院した.大動脈瘤術後の十二指腸穿孔による人工血管感染に対し,大網充填法は低侵襲であり有用であった.
  • 針谷 明房, 土肥 静之, 大野 峻哉, 天野 篤
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2692-2696
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    高齢者の大動脈瘤は認知症や慢性経過のため,発症時期が不明で瘤破裂の典型的な症状を欠くことがあり,確定診断に時間を要することがある.われわれはグラフト右脚の吻合部仮性動脈瘤切迫破裂と診断し,救命しえた88歳の症例を経験したので報告する.症例は88歳,男性.20年前,閉塞性動脈硬化症の診断で腹部大動脈―両側総大腿動脈バイパス術を当院で行っていた.今回,数日間で増強してきた右下腹部痛のため,当院救急室を受診した.右下腹部に小手拳大で周囲に圧痛のある拍動性腫瘤を触知し,緊急腹部大動脈CTA検査で吻合部仮性動脈瘤(最大径80mm)の切迫破裂が疑われたため,緊急入院,緊急救命手術を行った.仮性動脈瘤はグラフト右脚の吻合部から生じ,人工血管は断裂・離開していた.
  • 永山 加奈, 北原 佳奈, 小林 零, 高橋 保博, 川野 亮二
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2697-2700
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は35歳,女性.6年前に左自然気胸の診断にて他院で手術を施行され,その後2回再発を認めたが保存的治療で軽快した.今回,起床時より右胸痛を自覚したため近医を受診し,II度の右気胸と診断され当科紹介となった.胸部CTでは右中下葉に多発する肺嚢胞を認め,母親に気胸の既往があったことから,遺伝性肺嚢胞性疾患が疑われた.異時性両側気胸であることから手術適応と判断し,胸腔鏡下肺嚢胞切除術を施行した.術後経過は良好であり,第5病日に退院となった.退院後に施行した遺伝子検査にてFLCN遺伝子のexon12において挿入変異を認め,BHD症候群の所見に一致した.BHD症候群は稀な疾患であり,その表現型が様々であることや,確定診断に遺伝子検査が必須であることから診断が難しいとされる.今回,繰り返す気胸を契機に診断されたBHD症候群の1例を経験したので報告する.
  • 山本 淳, 長嶺 弘太郎, 佐藤 渉, 杉浦 浩朗, 亀田 久仁郎, 竹川 義則, 久保 章
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2701-2705
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.5日前からの上腹部痛と発熱を主訴に当院を受診した.他院で食道癌に対し開胸開腹手術の既往があった.血液生化学的検査で炎症反応の上昇を認め,胸腹部造影CT検査で左胸腔内に横行結腸の脱出と液体貯留を認めた.横隔膜ヘルニア嵌頓,横行結腸左胸腔内穿孔の診断で緊急手術を施行した.開腹すると,食道裂孔に横行結腸が嵌頓しており,虚血性壊死により胸腔内で2箇所穿孔していた.穿孔した横行結腸を切除し,胸腔腹腔ドレナージ,横行結腸人工肛門造設,粘液瘻造設を施行した.術後,難治性の膿胸を併発し,他院の呼吸器外科で外科的治療を要したが,術後149日目に軽快退院した.胸腔内で結腸穿孔をきたした食道切除後横隔膜ヘルニアの症例は極めて稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 廣瀬 亘, 村上 和重, 宮田 剛, 臼田 昌広, 井上 宰, 望月 泉
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2706-2710
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は67歳の男性で,胃癌に対して開腹胃全摘術(ρ型吻合付加Roux-en Y再建,結腸前経路),胆嚢摘出術を施行されている.約5年後に腹部膨満感あり,造影CTにて食道裂孔ヘルニア嵌頓による輸入脚症候群と診断した.上部消化管内視鏡下の輸入脚への減圧チューブ挿入が困難であったため,緊急手術を施行した.開腹するとρ吻合部とY吻合部を含めた小腸が縦隔内に脱出しており,食道裂孔から十二指腸断端までに至る輸入脚が拡張していた.腸管を引き出し,食道裂孔を吸収糸で縫縮してヘルニアを修復した.術後,経過良好で12日目に自宅退院したが,4カ月後に食欲不振,嘔吐が出現した.造影CTで食道裂孔ヘルニアの再発を認めたため,再手術を行い非吸収糸で食道裂孔を縫縮した.胃全摘術後の食道裂孔ヘルニア嵌頓により,輸入脚症候群を発症した例は極めて稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 山本 尚樹, 西村 充孝, 出石 邦彦, 江原 和男
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2711-2715
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は73歳の男性.1年2カ月前に胃癌で胃全摘術を施行,病理組織診断は2型,75×45mm,por1,T3(SS),ly2,v2,N2,Stage IIIAであった.術後補助化学療法施行中の術後8カ月目に両側副腎転移が出現し切除.その後化学療法を継続していたが,術後14カ月目に意識障害で救急搬送され,精査の結果脳転移と診断.左前頭葉の転移巣に対してガンマナイフを施行,約6カ月後に左中心前回にも脳転移が出現し,再度ガンマナイフを施行した.その後はS1/ docetaxel(DOC)による化学療法を継続し,原発巣手術から50カ月,2回目のガンマナイフ施行後30カ月無再発生存中である.胃癌の脳転移は比較的稀な疾患で,その予後は極めて不良である.異時性脳転移に対してガンマナイフを施行し,良好な成績が得られたため,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 山本 基, 岩橋 誠, 寺澤 宏, 丸岡 慎平, 坪田 ゆかり
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2716-2722
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    原発性十二指腸癌は比較的稀な疾患であるが,その中でも粘液癌は極めて稀である.今回われわれは,十二指腸粘液癌の2切除例を経験した.症例1は54歳の女性,右季肋部痛を主訴に来院した.腹部CTで球部に40×25mmの分葉状の腫瘍を認め,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.症例2は82歳の女性,黄疸を主訴に来院した.腹部CTで球部に直径25mmの嚢胞状の腫瘍を認め,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学検査では,2例とも著しい胞体外粘液産生によるmucous lakeの形成を認め,粘液癌と診断した.症例1は術後3年3カ月,症例2は術後2年で,それぞれ肝転移およびリンパ節転移により死亡した.十二指腸粘液癌は自験例を含めて30例のみであり,文献的考察を加え報告する.
  • 有吉 佑, 宮本 英雄, 秋田 倫幸, 斉藤 拓康, 五明 良仁, 池野 龍雄, 川口 研二
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2723-2727
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は44歳,女性.腹痛と下痢のため受診.腹部CT検査で複数箇所での腸重積が認められ外科紹介となった.保存的に経過をみたが,入院5日目の腹部CT検査で1箇所に腸重積が残存していたため手術を施行した.腹腔鏡下に腹腔内を検索すると腸重積を認めたが,小腸の軽い牽引操作によって解除された.腸切除は施行しなかった.術後末梢血中の好酸球が徐々に増加し,術中採取した腹水からも多数の好酸球を認め,好酸球性胃腸炎と診断した.術後も腹痛は持続していたが,prednisoloneの内服が著効し腹痛は消失した.その後prednisoloneを漸減,中止したが,再発していない.非典型的な腸重積を認めた場合,好酸球性胃腸炎もその原因疾患として考慮する必要がある.
  • 伊藤 直, 春木 伸裕, 高須 惟人, 溝口 公士, 呉原 裕樹, 辻 秀樹
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2728-2732
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    小腸壁内血腫は稀な腹部外傷であり,比較的軽微な外力でも発生する.今回,保存的に改善が乏しかった本疾患例に対する腹腔鏡手術を経験した.症例は15歳の男児.腹部鈍的外傷を受けた翌日に腹痛・嘔吐を主訴として当院を受診した.空腸起始部に長径8cmの壁内血腫を認め,全身状態が安定していたため保存的治療を開始した.数日で腹痛・嘔吐は消失したが,血腫は縮小せず,空腸の狭窄のため食事が満足に摂れず,保存的には治癒困難と判断した.入院後13日目,腹腔鏡下に空腸漿膜を切開して暗黒色血液136mlを除去し,漿膜を縫合した.術後は問題なく食事摂取が可能となり,退院した.外傷性小腸壁内血腫は中心静脈栄養管理の発達とともに保存的治療が主流となっているが,手術治療に勝るかは明確でない.現在では安全で低侵襲な腹腔鏡手術が普及したため,外傷性小腸壁内血腫において,今後は早期の社会復帰を目指した早期手術を積極的に検討したい.
  • 小山 太一, 酒井 健司, 谷口 博一, 村上 雅一, 池田 公正, 中道 伊津子, 黒川 英司
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2733-2737
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.右下腹部痛を主訴に当院を受診した.来院時は37度台の発熱と右下腹部に圧痛を認め,血液検査では炎症反応の上昇,腹部CT検査では虫垂の腫大と右結腸溝の液性貯留を認めた.腹膜炎を伴う急性虫垂炎と診断し,同日緊急手術を施行した.回盲部が膿瘍と一塊となっており,虫垂は確認困難であり回盲部切除術を行った.術後病理組織検査において,壊疽した虫垂とともに虫垂の粘膜下~筋層にかけて陳旧性の日本住血吸虫卵を認めた.術後経過は良好で術後15日目に退院となった.日本住血吸虫症は,中間宿主である宮入貝の撲滅により日本国内での新規患者はないとされている.病理組織検査で虫卵を指摘された患者は流行地出身者などの陳旧性症例がほとんどであるが,近年は国外感染による輸入症例の報告もある.虫垂切除標本からの日本住血吸虫卵の検出は稀ではあるが,虫卵を検出した場合には海外渡航の有無を確認するなど活動性感染の検索が必要である.
  • 森井 雄治, 河野 洋平, 白坂 美哲, 木下 忠彦
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2738-2742
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.右下腹部の鈍痛および右鼠径部の膨隆を認め来院.血液検査にて高度の炎症反応を認めた.CT画像では右鼠径ヘルニアがあり,ヘルニア嚢内には腸管内容と思われる液体貯留を認めた.また,回盲部周辺に膿瘍と思われる限局性液体貯留を認め,その内側に虫垂が指摘された.鼠径ヘルニアの嵌頓に伴う腸管穿孔による腹腔内膿瘍あるいはヘルニア嵌頓と同時性に発症した急性虫垂炎の可能性があると診断し,緊急手術を行った.手術所見は外鼠径ヘルニアで,ヘルニア内容は腸管ではなく膿瘍であった.膿瘍の原因は穿孔性虫垂炎と考えられたが,回盲部周囲の癒着が強度であったため虫垂の切除は断念し,腹腔内洗浄・ドレナージのみ行った.初回手術の10カ月後に鼠径ヘルニアに対して根治術を行い,虫垂切除は炎症再燃時に行うこととした.本症例のように鼠径ヘルニア嚢内に膿瘍を形成した穿孔性虫垂炎の報告は稀であり,若干の文献的考察を加え報告した.
  • 青木 裕一, 栗原 克己, 芝 聡美, 塩澤 幹雄, 仁平 芳人
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2743-2747
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は42歳,男性.心窩部不快感,嘔気,下腹部痛を主訴に近医を受診し精査目的に当院紹介となった.血液検査では炎症反応高値で,CTでは虫垂から連続する60mm大の嚢胞性病変を認めた.急性虫垂炎,虫垂腫瘍と診断し,絶飲食と抗菌薬による保存的治療を開始した.しかし,入院翌日に腹部症状が急激に悪化したため緊急手術を施行した.下腹部正中切開で開腹し術中所見で虫垂軸捻,虫垂粘液嚢腫と判断した.捻転を解除した後虫垂切除術を施行し,術後病理結果で虫垂粘液嚢腫と診断した.術後経過は良好で術後8日目に退院となった.
    虫垂粘液嚢腫軸捻は極めて稀な疾患で本邦では過去15例の報告があるのみである.今回,急性腹症で発症した虫垂粘液嚢腫軸捻の1例を経験したため,本邦報告例をまとめるとともに文献的考察を加え報告する.
  • 田邉 和孝, 田中 宏和, 佐藤 元彦, 岩崎 純治, 藤田 眞一
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2748-2752
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は86歳の男性で3回の下血後の腹痛を主訴に受診.腹部所見および血液検査所見は軽症であったが,腹部造影CT検査でS状結腸壁の著明な浮腫性肥厚と結腸間膜内にfree airを認めた.S状結腸穿通および腹膜炎と診断し,緊急開腹手術を施行した.腹腔内には混濁した血性腹水を少量認めたが便臭はなく,S状結腸から直腸Rsにかけて虚血性変化を認めた.病変は腸間膜側に限局しており,穿通に伴う壊死と診断した.一期的吻合はリスクが高いと判断し,Hartmann手術を施行した.術後経過良好で人工肛門の自己管理を修練し,術後25日目に退院となった.特発性大腸穿孔は糞便性の腹膜炎から敗血症,多臓器不全に移行する危険性のある疾患である.大腸の構造・生理学上,S状結腸の結腸間膜付着部反対側に好発するため,腸間膜側の穿通症例は極めて稀である.今回,われわれは特発性S状結腸穿通の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 古橋 暁, 坂口 孝宣, 木内 亮太, 柴崎 泰, 菊池 寛利, 今野 弘之
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2753-2759
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌に対する腹腔鏡下肝切除後の腹膜再発切除に際し,indocyanine green(ICG)蛍光観察が有用であった1例を報告する.患者は74歳の男性.肺気腫経過観察中のCTおよび気管支洗浄細胞診で右肺下葉原発性肺癌が診断された.同時発見された肝S6腫瘤は生検で高分化型肝細胞癌と診断され,胸腔鏡下右肺下葉切除2カ月後に腹腔鏡下肝部分切除術を施行した.肝切除14カ月後にPIVKA-IIが上昇,CTで肝下縁近傍に10mm弱の結節が2個発見された.肝細胞癌腹膜再発の診断で切除の方針とし,術5日前にICG 0.5mg/kgを静注投与した.開腹後,2カ所の硬結に一致したICG蛍光を近赤外線カメラで確認し,周囲脂肪織と一括切除した.初回肝細胞癌組織との病理学的類似性から肝細胞癌の再発と診断,肝生検時の腫瘍散布が原因と思われた.術中ICG蛍光観察は肝細胞癌の肝外転移に関しても有用と思われた.
  • 石川 亘, 片岡 正文, 仁熊 健文, 三村 太亮, 安井 和也, 児島 亨
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2760-2763
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,男性.2007年7月に肝外胆管癌の診断で肝拡大左葉切除,肝尾状葉切除,胆管切除,門脈合併切除を施行し,病理診断は胆管細胞癌,T3N0M0,Stage IIIであった.術後補助化学療法としてgemcitabineを投与した.13カ月後に胸骨後部下部前縦隔リンパ節転移に対し摘出術を施行した.術後TS-1 100mgを投与し経過観察中,上縦隔に12×16mm大の腫大したリンパ節を認めた.徐々に増大傾向を示し,PET-CTでFDGの異常集積(SUVmax = 4.57)を認め,その他の部位に転移の所見を認めなかったため,初回手術より23カ月後,上縦隔リンパ節転移に対して胸腔鏡補助下縦隔リンパ節郭清を施行した.術後TS-1の投与を継続したが,17カ月後に腹膜播種,肝転移再発をきたし初回手術より46カ月,2回目のリンパ節転移切除より23カ月目に死亡した.予後が極めて不良である胆管細胞癌縦隔リンパ節転移に対し二度の外科的切除を施行し,比較的長期の予後が得られた症例を経験した.肝外胆管癌の遠隔転移病変に対する標準的な治療法は,現段階では確立されていないため,本症例のように再発性孤立性リンパ節転移症例に対して他病変がみられない場合は,外科的切除が一つの有効な治療になりうると考えられる.
  • 山田 元彦, 仁熊 健文, 児島 亨, 稲葉 基高, 宮本 耕吉, 三村 哲重
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2764-2769
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    胆石イレウスを契機に診断された多臓器浸潤胆嚢癌の1切除例を報告する.症例は69歳の女性.嘔気と腹痛で外来を受診し,胆石イレウスおよび胆嚢癌による胆嚢胃瘻が疑われた.第2病日に手術を行い,嵌頓した結石を除去,小腸を縫合閉鎖した.再入院にて門脈塞栓術を施行して残肝機能の改善を図り,初回入院から約2カ月半後に肝拡大右葉切除,膵頭十二指腸切除,横行結腸部分切除を施行した.最終診断は胆嚢癌T4aN0M0 Stage IVAであった.胆嚢消化管瘻による胆石イレウスでは悪性腫瘍が原因となることがある.治療には手術を要することが多いが,イレウス解除術と瘻孔切除を同時に行うと過大侵襲となる可能性があるだけでなく,腫瘍学的に不十分になる可能性がある.本症例では初回入院時,早期にイレウス解除術を行い,腫瘍の十分な評価,門脈塞栓術を行ってから根治切除を行ったことで,安全に必要十分な手術を行うことができたと考えられる.
  • 池田 耕介, 永田 雅人, 中澤 幸久, 榊原 巧, 原 春久
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2770-2775
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の男性で,健診時の腹部超音波検査にて胆嚢および右腎臓に腫瘍性病変を指摘された.胸腹部造影CT検査で胆嚢体部に造影される25mm大の隆起性病変,右腎中部に40mm大の腫瘍性病変を認めた.リンパ節,他臓器に転移を認めず,原発性胆嚢癌・右腎細胞癌の術前診断で拡大胆嚢摘出術および右腎摘出術を同時に施行した.病理組織学検査の結果,胆嚢腫瘍・右腎腫瘍ともにclear cell carcinomaの像を呈しており,免疫組織染色の結果とあわせて腎細胞癌の胆嚢転移と診断した.腎細胞癌胆嚢転移は稀であり,過去の文献報告に自験例を加えた35例をもとに,疾患の特徴,術前診断の成否,術式,予後などについて検討した.
  • 砂澤 徹, 中谷 充, 大津 正義, 若林 豊
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2776-2779
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は38歳,女性.主訴は左下腹部痛.過去に4回妊娠中絶の既往あり,そのうち3回は頸管拡張および掻爬を行っている.平成26年12月23日(妊娠26週0日),腹痛にて発症後2週間は原因不詳として経過観察されていた.症状増悪し当院産科入院後の経膣超音波検査で腹水貯留を認めた.切迫流産の所見を認めず消化器内科受診.CT・MRIを施行し,左子宮動脈仮性瘤破裂と診断し当科紹介.破裂症例のため可及的な治療が必要と考えたが,妊娠中期であり,循環動態が安定していたことと,患者の強い挙児希望があり産科と協議の上,待機的に平成27年2月2日(妊娠31週6日)に帝王切開術を行い,動脈瘤切除,止血術を行った.高度癒着により左総腸骨動脈に挿入した動脈閉塞バルーンにて血流をコントロールしながら動脈瘤を切開し出血部を閉鎖した.術後経過は母子ともに良好であった.妊娠中の子宮動脈仮性瘤破裂は稀と考えられ,文献的考察を加えて報告する.
  • 佐野 史穂, 高嶋 吉浩, 宗本 義則, 斎藤 健一郎, 寺田 卓郎, 三井 毅
    2016 年 77 巻 11 号 p. 2780-2784
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/05/31
    ジャーナル フリー
    症例は34歳,女性.近医での卵巣子宮内膜症性嚢胞の経過観察のMRIで,後腹膜腫瘍を指摘された.腹部造影CTでは,右腸腰筋内に複数の動静脈が関与する多血性分葉状腫瘤と多発肺転移を認めた.MRIでは,腫瘍は内部に壊死や線維化を伴う多血性腫瘍で,血管性悪性腫瘍が疑われた.術前に支配動脈塞栓術を施行し,腫瘍生検を施行した.術中所見では,腫瘍は右腸腰筋内に存在し,複数の動静脈や腰神経を巻き込んでいた.腰神経切断後は歩けなくなる恐れがあるため,腫瘍の全摘出ではなく腫瘍の一部の生検のみとした.病理組織学的検査では,免疫染色でTFE3およびcathepsin Kが陽性であり,胞巣状軟部肉腫と診断した.術後はPazopanibやSunitinibを使用し,一時的ではあったが腫瘍の縮小も見られた.その後,他院にて全摘出術を施行した.胞巣状軟部肉腫の体幹部発生は稀であり,文献的考察を含めて報告する.
国内外科研修報告
支部・集談会記事
編集後記
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