症例は84歳,男性.平成27年9月某日,胃角部前壁の低分化腺癌の診断で,幽門側胃切除術を施行した.狭心症に対する冠動脈ステント術の術後のために,抗血小板剤の投与が行われていたため,周術期にヘパリン置換を行った.術後,ヘパリン投与中に左鼠径部から膝にかけての強い痛みと左下肢の脱力,伸展障害が認められた.対側にも同様の症状がみられたため精査した結果,両側性の腸骨筋血腫が認められた.
ヘパリンの投与を中止し,安静にて保存的に経過観察を行ったところ腸骨筋血腫は消退したが,その後も大腿神経の支配領域の慢性疼痛と歩行障害が残存した.
周術期のヘパリン置換に伴う腸骨筋血腫はまれな合併症である.また,腸骨筋血腫は,しばしば大腿神経ニューロパチーを合併することが知られている.その治療経験を踏まえて,腸骨筋の周囲の特異な解剖学的な注意点を周知する必要性があるため,文献的考察を加えて報告する.
抄録全体を表示