日本臨床外科学会雑誌
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82 巻, 5 号
選択された号の論文の39件中1~39を表示しています
第82回総会会長講演
  • 内山 和久
    2021 年 82 巻 5 号 p. 837-851
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    各種エネルギーデバイスの開発と画像解析機器性能の向上により,安全確実な肝切除が出来るようになった.当科では年間100-120例ある肝切除のうち腹腔鏡手術がほぼ60%で,臍部切開のみの単孔式は外側区域切除に用いている.肝切除術後の肝再生については全く新しい観点から数理学的に解析し,その再生指数をロジスティック分析することで予後の推定が可能となった.一方,腹腔鏡では術中造影超音波検査では腫瘍の同定や切離ラインの決定が困難であるため,ICG投与によって可視化し,転移巣検索や肝区域描出などの系統的切除に利用してきた.さらに5-アミノレブリン酸(5-ALA)が腫瘍細胞内で固有蛍光を発することを利用して,この術直前投与により術中に高感度CCDカメラで微小肝腫瘍を同定している.5-ALAは胆汁排泄型であることから肝切離面の照射により,胆汁漏の判定にも大変有用であることが判明した.現在,ロボット手術の適応を模索中である.

臨床経験
  • 佐藤 太祐, 松川 啓義, 塩崎 滋弘
    2021 年 82 巻 5 号 p. 852-858
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:膵頭十二指腸切除(pancreaticoduodenectomy;以下,PD)後の膵液瘻(pancreatic fistula;以下,PF)は未だ克服されていない問題である.血管吻合で用いられるパラシュート法を応用した後壁連続縫合による膵管空腸吻合法のPD術後PFに対する予防効果を評価した.

    方法:2015年から2019年にPDを施行した115例を対象とし,膵管空腸吻合を結節縫合で行った群(結節群 n=81)と後壁を連続縫合した群(連続群 n=34)のPF発生率を比較検討した.

    結果:Grade B以上のPFは結節群が81例中18例(22%)に発生したのに対して連続群では34例中1例(3%)のみであり,発生率が有意に低かった.Grade B以上のPF発生に対する独立した危険因子は,多変量解析で術前に存在する胆管炎と膵管空腸吻合法(結節縫合)と判明した.

    結語:今回の新しい膵管空腸吻合は結節縫合と比較して術後Grade B以上のPF発生率が有意に低かった.

症例
  • 村山 大輔, 大久保 陽一郎, 林 宏行, 戸田 宗治, 松井 愛唯, 安川 美緒, 岡本 咲, 岩崎 博幸
    2021 年 82 巻 5 号 p. 859-863
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は58歳,男性.急な左頸部腫脹を主訴に前医を受診し,甲状腺未分化癌の疑いで当科へ紹介.甲状腺左葉全体に弾性硬,境界不明瞭な腫瘤を触知.血液生化学検査ではthyroglobulin 4,970ng/mLと上昇.超音波検査では甲状腺左葉に68mm大の境界不明瞭,不均一な低エコー腫瘤を認めた.造影CTでは腫瘤は不均一に造影され,両側頸部リンパ節腫大を認めた.針生検にて核小体明瞭な短紡錘形細胞増生を認め,Ki-67 index 50%以上,分裂像6/10HPFs,壊死を認め,甲状腺未分化癌(T3aN1bM0,Stage IV B)と診断し,甲状腺全摘,気管周囲郭清および左#6サンプリングを施行.切除検体では腫瘍の割面は嚢胞状で,内部には出血壊死部が8割を占め,梗塞や循環障害を認めた.腫瘍辺縁では濾胞構造が確認され,濾胞性腫瘍,一部被膜浸潤を認め,微少浸潤型濾胞癌と診断した(pT3aN0M0,Stage II).術前にみられた腫瘍辺縁の紡錘形細胞は,炎症細胞浸潤や肉芽腫を伴い,反応性変化と判断した.稀な診断過程と考えられ,文献的考察を加えて報告する.

  • 河野 秀俊, 寺崎 正起, 岡本 好史, 鈴村 潔, 土屋 智敬, 西前 香寿
    2021 年 82 巻 5 号 p. 864-867
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は56歳,女性.検診で右乳腺腫瘤を指摘された.マンモグラフィで右乳房U・Oに楕円形,辺縁微細鋸歯状,高濃度腫瘤を認め,超音波では境界明瞭粗造,内部不均一な低エコー腫瘤を認めた.針生検で異型を伴う紡錘形細胞が充実性胞巣状や索状,シート状構造を示し浸潤性に密に増殖しており化生癌を疑ったが,反応性病変も鑑別に挙がった.悪性の可能性を否定できず,右乳房温存術+センチネルリンパ節生検を施行した.術後病理所見では核小体の目立つ異型細胞が重層扁平上皮様構造と腺管構造の混在を形成し浸潤性に増生しておりlow-grade adenosquamous carcinoma(LGASC)と診断した.LGASCの頻度は0.5~1%と稀な疾患であり,画像と病理所見において診断基準は未だ確立しておらず,若干の文献的考察を加え報告する.

  • 洞口 岳, 小塩 英典, 井川 愛子, 佐野 文, 足立 尊仁, 白子 隆志
    2021 年 82 巻 5 号 p. 868-872
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は38歳,女性.7カ月前に交通外傷による肺挫傷,右鎖骨骨折に対し他院で加療を行われた既往がある.腹痛と嘔気を主訴に来院し,病歴およびCT画像から,左外傷性横隔膜ヘルニアと診断された.なお,他院で施行された受傷から6日後のCT画像では,既に横隔膜が僅かに裂けていた.手術適応と判断し,待機的に腹腔鏡下左横隔膜ヘルニア修復術を施行した.左横隔膜に嵌入していた胃の穹窿部,結腸,大網を引き出し,ヘルニア門を縫縮後にメッシュで被覆し補強した.ヘルニア門は6cmであった.術後経過は良好であり,術後4日目に退院した.術後1カ月で施行したCTで再発のないことを確認した.外傷性横隔膜ヘルニアと診断し,発症から7カ月が経過していたが腹腔鏡にて安全に修復しえた症例を経験したので報告する.

  • 植野 広大, 海藤 章郎, 春木 茂男, 谷岡 利朗, 伊東 浩次, 滝口 典聡
    2021 年 82 巻 5 号 p. 873-878
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    急性壊死性食道炎 (acute esophageal necrosis: AEN)は食道粘膜の黒色変化を特徴とする稀な疾患である.予後は良好だが,食道狭窄を合併し治療に難渋することがある.患者背景に糖尿病などの基礎疾患を有することが多く,食道狭窄に対する手術治療は周術期合併症を併発するリスクが高いためである.症例は糖尿病と脳梗塞の既往がある72歳の男性.上部消化管内視鏡検査で胸部中下部食道粘膜の黒色変化を認めAENと診断した.その後,食道粘膜の黒色変化は改善したが,著しい瘢痕化を伴う食道狭窄が出現した.内視鏡的バルーン拡張術 (endoscopic balloon dilation:EBD)などの内科的治療による改善は見込めないと判断し,右開胸開腹食道亜全摘術を行った.術後は再建胃管の部分的壊死に伴う縫合不全に対するドレナージ,吻合部狭窄に対する繰り返すEBDを行い,難渋したが治癒した.AENに食道狭窄を合併した場合は,早期からEBDなどの介入を行うことが検討されるべきである.

  • 烏山 拓馬, 姚 思遠, 小嶋 大也, 浅生 義人, 竹山 治, 田中 満
    2021 年 82 巻 5 号 p. 879-884
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は72歳の男性で,血管浸潤を有する切除不能十二指腸癌の通過障害緩和目的に,腹腔鏡下胃空腸バイパス術を施行した.術後3日目に頻回に嘔吐し,4日目に39.7℃の高熱を認めた.6日目に施行した腹部CTで胃壁内嚢胞様気腫と門脈ガスおよび腹腔内遊離ガスを認めた.バイタルサインや理学所見から腸管壊死や腹膜炎は否定的で,保存的加療が可能と判断し,絶食による腸管安静と抗菌薬による保存的加療を行った.術後7日目に濃厚流動食を,9日目に固形食を開始した.状態は徐々に改善を認め,術後23日目に化学療法を導入した.胃空腸バイパス術後の胃壁内嚢胞様気腫症に門脈ガス,腹腔内遊離ガスを合併した報告は過去に認めず,文献的考察を加え報告する.

  • 戸口 景介, 今井 稔
    2021 年 82 巻 5 号 p. 885-890
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は37歳,男性.腹痛を主訴に当院へ搬送となった.腹部CTで小腸壁肥厚およびfree airを認め,小腸穿孔を疑った.腹腔鏡下に手術を施行し小腸穿孔であることは確認できたが,詳細に腹腔内を検索する必要があり,開腹に移行した.約30cmにわたり小腸に狭窄所見を認め,狭窄部位より約40cm口側の小腸でpin hole程度の穿孔を認めた.狭窄部位および穿孔部位を一括して切除し,小腸小腸吻合を施行した.術後病理結果で好酸球性胃腸炎筋層病変群と診断した.術後ステロイド内服治療を継続し再燃を認めていない.小腸穿孔をきたすような重症の好酸球性胃腸炎は病変部位を切除しても好酸球性胃腸炎が治癒したわけではなく,術後も再燃を防ぐ目的でステロイド治療が必要と思われる.

  • 川﨑 恭兵, 鍵谷 卓司, 小笠原 健太, 滝上 隆一, 山本 孝夫, 尾崎 信弘
    2021 年 82 巻 5 号 p. 891-895
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は69歳の男性で,急性発症の腹痛を主訴に当院へ救急搬送された.腹部CTにて門脈(以下PVと略)本幹,上腸間膜静脈(以下SMVと略)の血栓による完全閉塞を認め,一部小腸には造影不良も認められた.上腸間膜静脈・門脈血栓症(SMV/PV thrombosis:以下SMV/PVTと略)による腸管梗塞と考えられ,試験開腹術および血栓除去術を行った.術後,抗凝固療法を行ったところ,腸管血流は改善し,血栓は退縮した.プロテインS(PS)活性が17%と低下しており,プロテインS欠乏症が血栓形成に寄与したと考えられた.PS欠乏症に起因するSMV/PVTは極めて稀で,腸管壊死をきたすことから致死率が高いとされている.自験例では早期の血栓除去術により腸管切除を回避することができ,良好な経過を辿ったと考えられたため報告する.

  • 東本 昌之, 南曲 康多, 衣裴 勝彦, 小倉 修
    2021 年 82 巻 5 号 p. 896-900
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は16歳,男性.2015年4月上旬,昼食後よりの上腹部痛にて同日他院を受診.腹部超音波検査にて小腸の拡張と少量の腹水を認め,絞扼性腸閉塞疑いの診断で同日当院へ紹介となる.腹部CTでSMV rotation sign とwhirlpool sign を認め,上腸間膜動脈の分枝が180°反時計方向に回転していた.さらに,中等量の腹水を認めた.中腸軸捻を伴った腸回転異常症と診断し,審査腹腔鏡を施行した.術中所見では,白濁した腹水を認め,乳糜腹水と診断した.腸管の捻転を認めたが腸管壊死は認めなかった.開腹すると,腸間膜の癒着のため上腸間膜動脈基部が狭くなっており,癒着を剥離して捻転を解除.腸管の固定はせず,腸管切除することなく,虫垂切除をして手術を終了した.術後麻痺性イレウスを合併するも,術後第19病日に退院となる.

    乳糜腹水を呈する場合,腸管の血流障害は軽度で腸管切除を必要としないことが多い.術前に乳糜腹水を確認できれば腸管温存可能な場合が多く,それを踏まえて必要にして十分な治療方針,術式を考慮すべきと考えられた.

  • 上江洌 一平, 寺師 宗秀, 知花 朝史, 知念 順樹, 長濱 正吉, 宮里 浩
    2021 年 82 巻 5 号 p. 901-907
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は13歳,男児.当院受診6日前に腹痛が出現し,近医を受診.胃腸炎の診断で対症療法が開始されたが,腹痛は改善しなかった.当院受診時には38度台の発熱と下腹部全体に圧痛が著明で板状硬,腹部造影CTにて膿瘍形成性虫垂炎の診断で緊急入院した.膿瘍腔は直腸と接しており,同日,超音波内視鏡(endoscopic ultrasonography:以下EUSと略す)ガイド下で経直腸的ドレナージを施行し,外瘻チューブを留置した.入院後は抗菌薬投与と膿瘍腔洗浄を行い,膿瘍は速やかに消失した.第9病日に外瘻チューブを内瘻ステントに入れ換え,第29病日にステントは自然脱落した.EUSガイド下経直腸的ドレナージから135日後に待機的腹腔鏡下虫垂切除術を施行し,術後の経過は良好で術後4日目に退院した.術後3カ月経過し膿瘍の再発は認めていない.

    今回われわれは,小児膿瘍形成性虫垂炎に対してEUSガイド下経直腸的ドレナージが有効であった1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 土谷 祐馬, 上村 卓嗣, 齋藤 純健, 及川 隆洋, 阿部 隆之, 佐藤 耕一郎
    2021 年 82 巻 5 号 p. 908-913
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は61歳,男性.検診にて便潜血検査陽性のため近医を受診し,下部消化管内視鏡検査にて盲腸から上行結腸に及ぶ円柱状の隆起性病変を認めたため,精査加療目的に当院へ紹介となった.腹部造影CTでは上記隆起性病変内に腸間膜と思われる血管を含む脂肪構造を認め,虫垂重積が疑われた.組織生検ではadenocarcinoma in adenomaの結果であった.腹部症状を認めなかったため,待機的に腹腔鏡下回盲部切除術を行う方針とした.術中所見では術前の診断通り,盲腸内に虫垂が重積していた.整復は困難であったため,予定通り腹腔鏡下回盲部切除術(D3郭清)を施行した.病理組織検査では虫垂根部を除く全周全長に管状腺腫を認め,一部にadenocarcinomaが混在していた.虫垂重積は比較的稀な疾患であり緊急手術の適応になり得るが,虫垂の虚血・壊死がなければ待機的に腹腔鏡下の手術も可能である.本症例につき文献的考察を加え報告する.

  • 夏木 誠司, 奥野 倫久, 野田 英児, 亀谷 直樹, 加藤 幸裕, 妙中 直之, 藤田 茂樹
    2021 年 82 巻 5 号 p. 914-919
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,女性.前医にて血液検査で貧血,下部消化管内視鏡検査で上行結腸に複数の腫瘍性病変を指摘された.組織生検では悪性所見は指摘しえなかったが,腫瘍性出血による貧血,さらには腸閉塞が懸念されたため,手術目的で当院に転院となった.腹部造影CTでは上行結腸に壁肥厚を認め,腫瘤性病変を先進部とした腸重積をきたしていた.開腹手術を施行したところ,上行結腸に2型腫瘍,盲腸に1型腫瘍を認めた.病理組織学的所見にて,上行結腸高分化腺癌(pT3N1aM0,Ly1a,V0,pStage III b)と盲腸脱分化型脂肪肉腫(CDK4陽性,MDM2一部陽性)と診断した.

    脂肪肉腫は四肢や後腹膜に発生することが多く,結腸が原発部位であることは稀である.今回,上行結腸癌に併発した盲腸原発脂肪肉腫の症例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

  • 岡本 紗和子, 玉井 宏明, 佐藤 文哉, 上遠野 由紀, 山口 竜三
    2021 年 82 巻 5 号 p. 920-924
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    患者は44歳,男性.3mの高さから転落,左側腹部を強打した.搬送時ショックバイタルであったが,急速大量輸液により改善した.造影CTで下行結腸背側の大量血腫と造影剤の血管外漏出を認め,下腸間膜動脈領域の活動性出血と診断した.腸管虚血の懸念はあったが止血のため経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: TAE)を先行し,後日腸管虚血を評価し,その程度によって手術適応を決める方針とした.下腸間膜動脈造影で下行結腸の辺縁動脈損傷と判断し,TAEを行った.術後血行動態は安定し,カテコラミン持続注射からも離脱した.翌日のCTでの下行結腸の浮腫状変化と下部消化管内視鏡での小範囲の粘膜壊死所見から腸管虚血と診断し,下行結腸切除・吻合を施行した.経過良好で,術後第8病日に退院した.

  • 熊谷 健太郎, 松本 譲, 村川 力彦, 池田 篤, 大野 耕一, 平野 聡
    2021 年 82 巻 5 号 p. 925-931
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は63歳,男性.DICで発症しS状結腸癌,多発骨転移,リンパ節転移,骨髄癌腫症の診断で内科に入院し,mFOLFOX6を行っていた.化学療法開始後22日目に右季肋部痛と吐血を認め,急性出血性胆嚢炎およびDICと診断し緊急手術を行った.胆嚢は壊死し,総胆管内は凝血塊で充満し,胆道鏡で肝内胆管から下部胆管にかけ瀰漫性に胆管粘膜の発赤とoozingを認め,胆管炎と診断した.胆摘後に総胆管内にCチューブ®を留置し手術を終えた.本症例は骨髄癌腫症による凝固異常を背景とし,急性出血性胆嚢炎を発症し,胆嚢内圧上昇による胆嚢壊死と凝血塊による閉塞性胆管炎を生じたと考えられた.術後,胆道出血は止血され,化学療法の再開が可能となった.骨髄癌腫症患者であっても,急性胆嚢炎発症直前のADLが比較的良好で,胆嚢摘出術後の化学療法再開で予後延長が期待できれば,胆嚢摘出術も治療の選択肢の一つとなり得ると考えられた.

  • 平原 慧, 小林 弘典, 白川 賢司, 久原 佑太, 久保田 晴菜, 宮本 勝也
    2021 年 82 巻 5 号 p. 932-937
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は48歳,女性.1年前から血便を自覚し,近医を受診した.下部内視鏡検査を施行し,直腸S状部に2型腫瘍を認め,手術目的に紹介となった.術前造影CTにて,腹部大動脈の両側に下大静脈が走行していた.重複下大静脈を交通する腸骨間静脈は認めず,Type2aの重複下大静脈と診断した.腹腔鏡下に手術を行い,術中に重複下大静脈を視認,温存した.周術期合併症なく術後12日目に退院となった.重複下大静脈を伴う手術では解剖学的位置関係の誤認に注意が必要である.術前CTにて重複下大静脈を診断することに加え,腸骨間静脈の有無,性腺静脈や尿管の走行,解剖学的位置関係やその他の合併する偏位を考慮し,手術計画を立てることが重要である.重複下大静脈を伴う大腸癌に対する手術の報告は少なく,文献的考察を加えて報告する.

  • 平井 基晴, 亀山 仁史, 上原 拓明, 岩谷 昭, 山崎 俊幸
    2021 年 82 巻 5 号 p. 938-942
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,女性.子宮頸癌術後の経過観察目的の骨盤造影CTで直腸背側に徐々に増大する軟部影を指摘された.骨盤造影MRIではT2強調像で不均一な信号を示す嚢胞性腫瘤を認めた.経直腸的に超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)にて生検を施行したが,生検10日後に肛門周囲の痛みを主訴に当科を受診した.骨盤単純CTで肛門周囲を中心に広範囲のガス貯留を認め,EUS-FNAによるFournier壊疽の診断で同日緊急で切開ドレナージ術を施行した.術後5日目に施行した下部消化管内視鏡検査では穿刺部に潰瘍や穿孔を示唆する所見は認めなかった.術後10日目に退院したが,術後42日目に膿瘍が再燃し再度ドレナージを要し,その後改善を認めた.EUS-FNAは侵襲性,安全性の面から有用な検査ではあるが,本症例のような嚢胞性腫瘤の穿刺の際は特に慎重に適応症例を選択した上で,感染や播種のリスクについて十分に考慮し,適切な予防を行う必要がある.

  • 山口 貴之, 服部 正興, 溝口 良順, 青野 景也, 平田 明裕, 野尻 基, 吉原 基
    2021 年 82 巻 5 号 p. 943-949
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    神経内分泌細胞癌は極めて予後不良な疾患である.今回われわれは,直腸印環細胞癌に隣接した肛門管神経内分泌細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は73歳の男性.排便時出血と肛門痛を主訴に受診した.下部内視鏡検査では直腸Rbに陥凹性病変および肛門管に腫瘤を認めた.CTで左鼠径部にリンパ節転移を認め,左鼠径リンパ節転移を伴う肛門管癌と診断し,腹会陰式直腸切断術,両側側方郭清,左鼠径リンパ節郭清術を施行した.病理所見は直腸癌では印環細胞がみられ,壁全層・外膜まで浸潤していた.肛門管癌では異型細胞が充実蜂巣性状に増生し,外膜まで浸潤していた.免疫染色でSynaptophysinおよびChromogranin染色陽性で神経内分泌癌と診断した.直腸癌と肛門管癌は隣接しており,郭清したリンパ節のほとんどに直腸印環細胞癌の転移を認めた.術後早期に再発をきたし化学療法を施行し,術後2年2カ月で原病死した.

  • 石川 裕貴, 大友 浩志, 神保 琢也, 平宇 健治, 淺倉 毅, 渡邊 裕文, 齊藤 涼子
    2021 年 82 巻 5 号 p. 950-954
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は75歳,男性.黄疸を主訴に近医を受診し,精査加療目的に当院紹介となった.造影CTにて膵頭部に22mm大の腫瘤と,胆管内への隆起性進展を認めた.内視鏡的逆行性胆道膵管造影で下部胆管の不整狭窄,上部胆管の拡張を認めた.下部胆管癌の診断で亜全胃温存膵頭十二指腸切除を施行した.病理組織学的所見でsmall cell neuroendocrine carcinomaと診断した.術後経過は良好で,術後27日に退院となった.Cisplatin+irinotecanによる術後化学療法を5コース施行し,術後12カ月現在無再発生存中である.胆管原発のneuroendocrine carcinoma(NEC)は極めて稀であり,予後は極めて不良である.WHO2017/2019年版によりNECの分類が変わり,今後も集学的治療の検討が必要であるため,若干の文学的考察を加えて報告する.

  • 岩田 力, 山口 竜三, 古田 美保, 渡邊 真哉, 會津 恵司, 小林 真一郎
    2021 年 82 巻 5 号 p. 955-959
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は65歳の女性で,61歳時に胆道出血を契機に発見された膵・胆管合流異常症に合併した胆嚢癌に対して肝S4a+5切除,肝外胆管切除術(pT2N0M0 stage II)を施行した.術後補助化学療法は行わなかった.術後3年目の定期検査で腫瘍マーカーの上昇と,腹部CTおよびMRIで膵尾部に20mm大の腫瘤性病変を認めた.異時性の膵尾部癌と診断し,手術を行った.腹腔内を検索すると,膵尾部に漿膜に露出する腫瘤を認めた.腹水や肝転移はなかったが,大網と横行結腸近傍に結節性病変を認めた.大網の病変の病理組織学的検査から膵癌の腹膜播種と診断し,非切除とした.術後から化学療法を開始したが,術後13カ月目に原疾患にて死亡した.膵・胆管合流異常症は胆管癌の高リスク群とされる一方で,膵癌との合併報告は少ない.膵・胆管合流異常症において胆道癌に加え,異時性の膵癌が発生した1例を経験したので報告する.

  • 浜辺 健太, 菅原 元, 久留宮 康浩, 世古口 英, 井上 昌也, 加藤 健宏
    2021 年 82 巻 5 号 p. 960-964
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は63歳,男性.11年前に膵神経内分泌腫瘍に対して幽門輪温存膵頭十二指腸切除術施行の既往がある.6カ月前より黒色便を自覚し,上部消化管内視鏡検査で十二指腸空腸吻合部に潰瘍を認め,プロトンポンプ阻害薬を内服し経過観察されていた.その後,黒色便を伴う下痢および糞臭曖気が出現し,当科を受診した.当科受診時の上部消化管内視鏡検査では吻合部に横行結腸との瘻孔を認め,下部消化管造影検査でも吻合部との交通が確認された.十二指腸空腸横行結腸瘻と診断し,広範囲胃切除を併施する十二指腸空腸吻合部切除・横行結腸楔状切除を行い,残胃と空腸はRoux-en Y法で再建し,横行結腸楔状切除部を縫合閉鎖した.病理組織学的検査で吻合部潰瘍を認めたものの,腫瘍性病変は認めなかった.術後12カ月現在,潰瘍性病変の再発を認めていない.膵頭十二指腸切除後の吻合部潰瘍を原因とする十二指腸空腸横行結腸瘻の報告は稀である.

  • 大西 竜平, 細木 久裕, 塚崎 翔太, 吉本 秀郎, 野村 明成, 金谷 誠一郎
    2021 年 82 巻 5 号 p. 965-971
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は66歳の男性で,直腸癌に対し,腹腔鏡下腹会陰式直腸切断術および開腹下左側方リンパ節郭清施行後1年のCTにて,会陰ヘルニアの診断となった.徐々に増大し,術後5年目に会陰部の小児頭大の膨隆と皮膚潰瘍による疼痛でQOLを著しく損なっていたため,根治術を施行した.腹腔鏡下に骨盤底のヘルニア門を覆うようにメッシュを留置し大網で被覆し,会陰操作で内陰部動脈の穿通枝皮弁である臀溝皮弁で補強した.術後1年無再発経過中である.本症例では,経腹的アプローチのみでは術後漿液腫出現や腹腔内臓器の圧に耐えきれずに再発するリスクが懸念され,また経会陰アプローチのみでも修復が不十分となる可能性を考慮し,本術式を選択した.低侵襲と整容性の面で腹腔鏡下アプローチは有用であり,本術式は術後会陰ヘルニアに対し一つの有効な術式と考える.本邦での会陰ヘルニア報告例を検索し,文献的考察を加えて報告する.

  • 知念 徹, 金城 達也, 宮城 良浩, 高槻 光寿
    2021 年 82 巻 5 号 p. 972-976
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    53歳,女性.3年前から2カ月に一度,右下腹部の間欠的な疼痛を自覚したため近医産婦人科を受診.精査で卵巣腫瘍が疑われ,当院産婦人科へ紹介された.経膣超音波検査で子宮および両側付属器に明らかな病変を認めず,また腹部造影CTでは右骨盤内に小腸と接する造影効果を有する3.5cm大の類縁形腫瘤を認め,骨盤造影MRIではT1強調脂肪抑制像で内部不均一な高信号病変を認めた.PET-CTで同病変に異常集積を伴っていたため,小腸GIST疑いで当科へ紹介となった.腹腔鏡観察では腫瘤は類円形,表面平滑で可動性は良好であり,腫瘍径・腫瘍局在が画像診断と一致していたため,切除の方針とした.腫瘍周囲を剥離すると子宮円靱帯由来の腫瘍と判明し,腹腔鏡下に腫瘍摘出術を施行した.病理組織学的検査では紡錘状の平滑筋細胞が錯綜する像を認め,腫瘍細胞はα-SMA陽性,Desmin陽性,DOG-1陰性であったため,子宮円靱帯平滑筋腫の診断であった.子宮円靱帯由来の平滑筋腫は稀であり,文献的考察を含め報告する.

  • 浦岡 未央, 船水 尚武, 坂本 明優, 永岡 智之, 小川 晃平, 北澤 理子, 高田 泰次
    2021 年 82 巻 5 号 p. 977-982
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は10年前に婦人科手術の既往がある72歳の女性.総胆管結石の精査で施行した腹部CTで,肝S8に充実成分を伴う嚢胞性病変を指摘された.その病変は徐々に増大傾向を示し,肝嚢胞腺癌の疑いで手術の方針となった.術中所見では腫瘍は横隔膜から突出し,肝内に完全に埋没していた.腫瘍と接する横隔膜を部分切除し,腫瘍を摘出した.病理学的検査で腫瘤は卵巣成人型顆粒膜細胞腫(AGCT)であり,AGCTの播種と診断した.術後の病歴聴取により,婦人科手術はAGCTに対する付属器摘出であったことが判明した.

    AGCTは卵巣悪性腫瘍の2-5%を占める比較的稀な腫瘍である.予後は良好だが,30%に晩期再発を認める.播種病変は骨盤内が一般的であり,上腹部への播種は稀である.今回われわれは術前に肝腫瘍診断した鑑別が困難であったAGCTの横隔膜への腹膜播種の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 肌附 宏, 薮崎 紀充, 石山 聡治, 森 俊明, 廣田 政志, 横井 一樹
    2021 年 82 巻 5 号 p. 983-987
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,女性.慢性腎不全で11年前より連続携行式腹膜透析(continuous ambulatory peritoneal dialysis:CAPD)を導入し,5年前より血液透析(hemodialysis:HD)を併用していた.2カ月前に小腸イレウスの診断で保存的に加療している.今回,再度小腸イレウスの診断で入院となった.保存的加療で軽快し,退院したが,退院翌日に腹部症状が再燃し,下腹部に著明な圧痛と腹膜刺激徴候を認め,腹部造影CTで小腸イレウスと腹水貯留を認めた.小腸イレウス再発の診断で,緊急腸管癒着剥離術を施行した.術中所見は,骨盤内の小腸が白色被膜に包まれ,一塊となっており,被嚢性腹膜硬化症(encapsulating peritoneal sclerosis:EPS)に矛盾しない所見であった.腸管壊死を疑う所見は認めなかったため,腸管切除は行わず,被膜切除および腸管癒着剥離を行った.術後11日目で食事摂取を再開し,術後22日目に退院となった.退院後現在(術後約半年間)まで再発は認めておらず,またHDへ完全移行している.CAPD長期施行症例におけるイレウスではEPSを念頭に置いて診療にあたる必要がある.

  • 村尾 直樹, 坂部 龍太郎, 桒田 亜希, 中島 亨, 布袋 裕士, 田原 浩
    2021 年 82 巻 5 号 p. 988-994
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    腹壁瘢痕ヘルニア修復術において,術野汚染を伴う手術ではメッシュを用いた再建は感染のリスクがあり適応外となる.今回われわれは,S状結腸癌イレウスを伴う巨大な腹壁瘢痕ヘルニアに対し,腫瘍切除とcomponent separation(以下CS)法での腹壁再建を行った症例を経験したので報告する.

    症例は55歳,男性.体動困難で救急搬送された.CTでS状結腸癌によるイレウスと上腹部に縦21cm,横15cmの巨大な腹壁瘢痕ヘルニアを認め,拡張腸管が脱出していた.ステントで減圧を行ったが,11日後にステント閉塞と後腹膜穿通による膿瘍形成をきたしたため準緊急で手術を施行した.Hartmann術での腫瘍切除と,CS法での腹壁再建を行った.ストーマは左下腹部に作成し,腹壁の強度を保ちつつ閉創することが可能であった.創部には局所陰圧閉鎖療法を行い,合併症なく退院した.

  • 飯島 靖博, 篠原 剛, 町田 水穂, 藤森 芳郎
    2021 年 82 巻 5 号 p. 995-999
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    症例は75歳の女性で,腹痛・嘔吐のため当院受診2日前に近医を受診し,便秘として浣腸を施行されたが症状は軽快せず,当院を受診した.左下腹部に圧痛を認め,腸管と思われる腫瘤を触知した.腹部CTでは左鼠径部に脱出した腸管,および石灰化と思われる高輝度の物質を認めた.左鼠径ヘルニア嵌頓と診断し,緊急手術の方針とした.左内鼠径ヘルニアの嵌頓を認め,嵌頓していた腸管は魚骨により穿孔していた.穿孔部を中心に小腸部分切除を行い,鼠径ヘルニアに対してはMcVay法にて修復した.術後経過は良好で,術後15日目に独歩退院した.本症例の発生機序としては,以前より存在していた内鼠径ヘルニアの脱出腸管に魚骨が到達した際に,腸管の移動性の自由度が制限されていたために魚骨が通過できず穿孔が生じ,さらに,消化管穿孔のため腸管壁が炎症性に肥厚したため腹腔内に還納できなくなり嵌頓したものと考えられた.

  • 小林 冬美, 瑞木 亨, 大木 準
    2021 年 82 巻 5 号 p. 1000-1004
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/30
    ジャーナル フリー

    鼠径ヘルニア術後に大腿ヘルニアとして再発した2例を腹腔鏡下(transabdominal preperitoneal approach: TAPP)に修復した.再発鼠径部ヘルニアでは初発症例よりも大腿ヘルニアの割合が多く,鼠径靱帯が牽引されて大腿輪が開大することが一因とされる.

    症例1は73歳,男性.Mesh plug法術後3カ月で右鼠径部の膨隆を自覚した.術中所見ではmesh plugが留置されたHesselbach三角の瘢痕収縮により,iliopubic tractが頭側に偏位し,大腿輪が開大していた.症例2は62歳,男性.12歳で左鼠径ヘルニア修復術の既往があり,術中所見から,前回手術の影響で大腿輪が開大したものと考えられた.いずれの症例も,術後の鼠径部構造の変化が大腿ヘルニアの発生に関与したと考えられた.文献的考察を加えて報告する.

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