日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
82 巻, 8 号
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綜説
原著
  • 森脇 義弘, 春日 聡
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1456-1463
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:地方辺縁地域の人口非密集地帯(医療過疎地)での高齢胃癌手術例の実態から外科領域での医療資源の集約-分散の適正化を模索した.

    方法:胃癌手術例319例/23年中80歳以上87例を評価した.

    結果:Stage IA,IB,IIA,IIB,IIIA,IIIB,IIIC,IVは各24,8,12,17,9,3,5,22%,幽門側胃切除63,胃全摘13,非切除14%,R1-R2手術26%.5年生存率は,Stage IA 74,IB 83(I全体76),IIA 80,IIB 62(II全体67),IIIA 57,IIIC 67(III全体51),IV18%,全症例で59%,在院死は12%,5年以内予後不明28%,5年以内死亡はStage Iでは非胃癌死,II以上では胃癌死が目立った.

    結論:医療過疎地では域内完結治療希望の高齢胃癌症例が存在し,治療成績は妥当.医療過疎地のセーフティネット維持に胃癌相当の手術能力維持,分散も妥当かつ必要と考える.

症例
  • 比嘉 花絵, 宮田 剛彰, 吉松 隆, 青笹 季文, 小野 聡, 志田 晴彦
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1464-1468
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,女性.1998年に傍矢状洞髄膜腫に対し開頭腫瘍摘出術を施行後,2012年に局所再発に対して再手術を施行された.その後も再発病変の増大傾向を認めていたが,再々手術のリスクが高く経過観察の方針となっていた.2011年に胸部CTで左肺腫瘍を指摘,2019年に肝腫瘍を指摘された.いずれも増大傾向にあったため,2019年に左肺舌区部分切除・底区区域切除を施行し,髄膜腫の肺転移の診断.2020年に肝S6・S5・S2を部分切除し,髄膜腫の肝転移の診断.今回,異時性に生じた髄膜腫の頭蓋外転移の手術切除例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

  • 磯野 忠大, 坂東 裕, 惟康 良平, 渡邊 貴洋, 野澤 雅之, 上村 和康
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1469-1473
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は54歳,女性.増大傾向を示す左乳房腫瘤から出血を伴うようになり前医を受診した.Mohs軟膏や放射線治療を行いながら外来化学療法を受けていた.化学療法中断後,往診にて緩和的治療を受けていたが,慢性的に出血が続き計6回の輸血を受けた.前医初診から1年11カ月後,比較的多量の出血が持続し局所の処置に困り,また強い倦怠感と息切れを主訴に当院に搬送された.入院にて局所の処置を行いながら輸血を行うも貧血の進行は抑制されず,入院5日目に動脈塞栓術(TAE)を施行した.TAE後は止血のみでなく浸出液や臭気も著明に改善し,亡くなるまでの21日間は穏やかな終末期を過ごすことができた.今回われわれは,制御困難な持続出血を伴う癌性皮膚潰瘍を形成した乳癌終末期患者に対してTAEを行い,良好な終末期を過ごせた1例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

  • 長谷川 圭, 北野 綾, 髙松 友里, 渡辺 修, 大村 光浩, 亀田 典章
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1474-1479
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    70歳,女性.右乳房に皮膚潰瘍を伴う12cmの腫瘤があり,生検で浸潤性乳管癌,ER/PgR-,HER2-であり右乳癌T4bN3cM0 Stage IIIC,トリプルネガティブタイプと診断した.白血球数98,600/μl(好中球93.5%),血清G-CSF値1,200pg/ml(基準値39.0pg/ml以下)と高値であり,生検検体のG-CSF免疫染色陽性であったためG-CSF産生乳癌と診断した.術前化学療法としてAC療法4回,docetaxel療法1回を施行したが局所進行を認めたため,手術(右乳房全切除術,腋窩リンパ節郭清)を行った.術後速やかに白血球数は正常値化し血清G-CSFが低下したものの,術後わずか2週間で多数の皮下腫瘤と縦隔リンパ節腫大が生じ,白血球数も再上昇したため再発と診断した.手術検体の腫瘍浸潤免疫細胞がPD-L1陽性であったためatezolizumab+nab-paclitaxel療法(以下,AP療法)を行ったところ奏効が得られ8コースを施行した.G-CSF産生腫瘍は様々な癌種で報告されているが,乳癌での報告例は稀である.多くは治療抵抗性であり予後不良とされているが,本症例ではAP療法による奏効が得られた.

  • 沖 豊和, 杉本 健樹, 岡田 衣世, 小河 真帆, 駄場中 研, 花崎 和弘
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1480-1485
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    先天性胸筋欠損症は,乳癌に併存することは非常に珍しく,今回両側多発乳癌を併発した1例を経験したので報告する.症例は49歳の女性で,8歳時に脳腫瘍の手術歴があった.検診異常で両側乳癌が疑われ,当科受診となった.左CD領域に2.2cm,C領域に1.7cmの腫瘤,右D領域に1.4cmとC領域に0.9cmの腫瘤を認め,病理学的検査で浸潤性乳管癌と診断された.治療は,両側乳腺全切除術と腋窩リンパ節郭清を施行した.左側では大胸筋と小胸筋が欠損し,乳腺背側直下に肋骨を認めたが,胸筋神経と伴走血管は認めなかった.術後病理結果は両側とも浸潤性乳管癌であった.脳腫瘍の既往と両側多発乳癌から,Li-Fraumeni症候群などが否定できず,遺伝学的検査を行った上での放射線治療を計画していたが,右上腕骨骨折のため放射線治療は施行しなかった.胸筋欠損症の乳癌手術では普段見慣れない視野展開となり,温存すべき血管や神経には一際注意が必要である.

  • 村形 綾乃, 長内 孝之, 谷田部 悠介, 上平 大輔, 田波 秀朗, 佐藤 栄吾
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1486-1490
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    HER2陽性転移再発乳癌に対して三次治療として抗HER2抗体トポイソメラーゼI阻害剤複合体trastuzumab deruxtecan(以下T-DXd)を投与中,KL-6が治療効果判定を示した1例を経験したので報告する.

    症例は48歳,女性.45歳時に前医で皮膚浸潤とリンパ節転移を伴う左乳癌(cT4N1M0)と診断された(ER:80-90%,PgR1-3%,HER2:2+FISH+).抗癌剤は拒否されたためtrastuzumab(以下HER)を投与したが改善はなく,trastuzumab emtansine(以下T- DM1)を投与後にリンパ節転移が消失し,47歳時に乳房部分切除術を行った.術後HERを投与したが,PETで肺肝転移を認めT- DM1,続いてHER+pertuzumab+docetaxelを投与したが腫瘍マーカーが上昇し,T-DXdの投与目的で当院へ紹介となった.間質性肺炎(以下ILD)のバイオマーカーの一つであるKrebs von den Lungen-6(以下KL-6)が高値であったが,surfactant protein A (以下SP-A),surfactant protein D(以下SP-D)は正常範囲内であり,CT上もILDの所見は認めなかった.KL-6はILDを示す以外に腫瘍マーカーとしての意味を有していると考えた.T-DXdの投与後,肺肝転移巣が縮小,腫瘍マーカー,KL-6も徐々に低下した.

  • 齋藤 慶太, 藤野 紘貴, 田山 慶子, 荻野 次郎, 平田 公一, 鶴間 哲弘
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1491-1498
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は73歳,女性.18年前に他院にて左乳房部分切除術を施行.その6年後に乳房内再発を認め,残存乳房切除を施行され,その後は再発なくフォローされていた.血便を主訴に近医を受診し,上行結腸癌の診断にて手術目的に当院へ紹介となった.原発性大腸癌として腹腔鏡下結腸部分切除術(上行結腸)を施行した.切除標本の病理組織学的検査所見より乳癌の大腸転移と判明し, ER陽性,PgR陽性であった.現在,乳房切除を施行した病院にて内分泌療法を施行中である.乳癌既往患者において消化器症状の訴えの際には,消化管転移の可能性も考慮する必要がある.乳癌の他臓器転移を外科的切除する機会は少ないが,大腸転移に対して外科的治療によってQOLが改善され,さらに薬物療法の進歩に伴って予後の改善を期待できるかもしれない.

  • 岡戸 翔嗣, 谷口 哲郎
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1499-1503
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    患者は75歳,男性.2019年12月に前胸部痛にて受診し,胸部造影CTで中縦隔嚢胞の感染が疑われ,緊急手術を行った.胸腔鏡下に膿瘍の切開排膿を行ったが,術後5日目に感染が再燃し,術後12日目に両側開胸で再手術を行った.二度目の手術後の経過は良好で,再手術後25日目に退院となった.縦隔嚢胞性疾患は多くの場合無症状で経過するが,感染を合併した場合は縦隔膿瘍など重篤な病態に至る可能性があり,早急な治療が求められる.今回われわれは,感染性縦隔嚢胞の治療に難渋した1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

  • 松田 英祐, 佐藤 創
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1504-1507
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は47歳,女性.右気胸の既往がある.初回気胸から半年後に右気胸が再発した.CTでブラなど責任病変は不明であった.再発気胸であり胸腔鏡手術を行ったが,肉眼的,組織学的に責任病変は不明であった.術後2年間で右気胸が2回再発したが,いずれの気胸の際にもその前後に月経開始はなかった.初回気胸より4年後,5回目の右気胸が発生し,その6日後に月経開始となり,再手術を行った.肉眼的に横隔膜の小孔を確認し,これを切除した.組織学的に子宮内膜組織も証明され,胸腔子宮内膜症性気胸と診断した.本疾患では月経周期との同期が不明なこともある.子宮内膜症による横隔膜の小孔の確認や組織診断には胸腔鏡手術を要するが,子宮内膜組織の周期的変化のため小孔は修復閉鎖され,組織診断が得られないことも多い.組織診断には手術時期の考慮が重要であり,月経開始直前または開始後早期が望ましい.

  • 宮下 遼平, 小林 宣隆, 中村 大輔, 三浦 健太郎, 宮澤 正久, 里見 英俊
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1508-1512
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,女性.縦隔腫瘤の加療目的で紹介となった.造影CTで前縦隔に56×35mmの造影効果の乏しい境界明瞭な腫瘤を認めた.腫瘤は3年間で8mmの増大を認めた.MRIで前縦隔腫瘍はT1強調像で均一な高信号を呈し,T2強調像で高信号域と低信号域が混在していた.成熟嚢胞性奇形腫を疑い,手術を施行した.左横隔神経は腫瘤と強固に癒着していたので合併切除し,全胸腺摘出術とした.病理組織学的検査で悪性細胞は認めず,類表皮嚢胞と診断した.術後経過は良好で,術後8日目に退院した.胸腺原発の類表皮嚢胞の報告は自験例を含めて7例のみであり,稀な疾患である.緩徐に増大する充実性縦隔腫瘍の手術適応を検討する際に,類表皮嚢胞を想起すれば経過観察を選択可能であるので報告する.

  • 山中 秀樹, 大森 謙一, 今北 正美
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1513-1517
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,男性.2009年2月の胸部CTで右肺S9末梢領域に0.3cm大の淡く小さなすりガラス型結節が存在したが,特に問題とされず経過観察はされなかった.その後2018年に不安定狭心症を発症,この際胸部CTを施行したところ,右肺S9の同一部位に1.1cm大の部分充実型結節を指摘された.詳細に比較読影し検討した結果,2009年の既存病変が増大し,かつ部分充実化をきたしたものと確認した.まず,狭心症治療を優先し循環機能が安定した後,肺腺癌を疑い手術を施行した.胸腔鏡下右肺下葉部分切除術を施行した.病理組織学診断は浸潤性粘液性腺癌であった.術前から既往症の危険因子を考慮し,消極的縮小手術の方針としており,右肺下葉切除術の追加は行わなかった.本症例は0.3cmのすりガラス型結節から10年という長い期間を経て浸潤癌となった1例で,小さなすりガラス型結節でも患者背景にも配慮し長期間の経過観察継続の必要性につき検討が望ましいということを示唆する教訓的な症例と考えられた.

  • 梅谷 有希, 磯辺 太郎, 加来 秀彰, 村上 直孝, 青柳 慶史朗, 金城 賢尚, 秋葉 純, 赤木 由人
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1518-1525
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    Heterotopic gastrointestinal gland polyp(HGGP)は消化管粘膜下層に嚢胞状に拡張した腺管の著しい増殖を特徴とし,粘膜下に膨張性に発育してポリープ状の形態を示す病変であり,HIPや過誤腫などと表現されている.今回われわれは,胃粘膜下腫瘍を疑い,切除した胃のHGGP(55mm)を経験したため報告する.症例は59歳,女性.半年前に黒色便と左季肋部痛を主訴に近医を受診し,精査にて胃粘膜下腫瘍を疑われ当院へ紹介となった.術前精査では確定診断に至らず,診断的治療目的に,腹腔鏡下胃局所切除術を施行した.切除標本は,腫瘍径55×40×35mm,質量:32g,粘膜下に腺窩上皮で覆われ,粘液を含有した多房性嚢胞性病変を認めた.病理学的診断では,非腫瘍性の粘膜が内反性に陥入していた.内反した粘膜には腺管の拡張や腺窩上皮過形成を伴っており,HGGPと診断した.本邦報告例を含めて検討した結果,胃のHGGPの無茎性病変に対しては,全層切除を行うため局所切除術を選択する必要があると考えられた.

  • 成田 丈格, 山田 純, 北條 大輔, 新海 宏
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1526-1530
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,女性.腹痛と嘔吐を主訴に受診となった.CTで上部空腸に異物を認め,それによる腸閉塞が疑われた.胃管挿入で経過観察としたところ,CTで異物が肛門側へ移動したため,異物の確認目的に小腸内視鏡を施行した.Treitz靱帯から150cmの空腸に腸石を認め,これが腸閉塞の原因であったと判明したが,内視鏡的に破砕できず,手術の方針となった.開腹すると小腸内視鏡で確認した位置に腸石が嵌頓しており,腸切開して腸石を摘出した.腸石は5.0×4.5×4.5cm大であり,成分分析で胆汁酸腸石と判明した.以前から十二指腸憩室を指摘されており,過去のCTで十二指腸憩室内に腸石と考えられる陰影を認めたが,腸閉塞をきたした際のCTでは十二指腸憩室内の陰影は消失しており,腸石の落下による腸閉塞と考えられた.胆石落下による腸閉塞の報告は散見されるが,十二指腸憩室に形成された真性腸石の落下による腸閉塞の報告は極めて稀であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 松田 恭典, 山本 隆嗣, 坂田 親治, 西澤 聡, 家根 由典, 徳原 大豪
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1531-1536
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    49歳,男性.双極性感情障害の既往あり.自殺企図にて降圧剤数種を大量に内服し救急搬送された.初診時より低血圧,高熱,腹痛を認めたが,症状は速やかに改善した.食事を再開すると症状が増悪するため,下部消化管内視鏡と注腸造影を施行したところ,上行結腸下部から回腸末端にかけて多発する不整形潰瘍を認め,著明な狭窄を呈した遠位回腸が描出された.保存的加療による治癒は望めないと判断し,手術を施行した.遠位回腸約75cmにわたり非連続性の壁肥厚と狭窄を認めたため,同範囲を一括切除した.術後27日で軽快退院した.病理組織所見では,粘膜は潰瘍化し,粘膜下層から筋層上層まで広範な線維化を認め,うっ血する毛細血管や静脈も認められたが,切除標本のいずれの部位にも血栓や動脈狭窄は認められなかった.よって,降圧剤の大量内服に起因するnon-occlusive mesenteric ischemia(NOMI)により生じた,粘膜障害とその深層の線維性狭窄であったと判断した.

  • 杉山 祐之, 逢坂 由昭, 加藤 文昭, 河北 英明, 櫻井 徹, 土田 明彦
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1537-1542
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は48歳,女性.発熱・腹痛を主訴に前医を受診し,急性虫垂炎の診断にて当院へ紹介となる.保存的加療にて症状改善したが,食事開始後に再増悪したため緊急手術を施行した.虫垂は根部付近にて壊死・融解し膿瘍形成を認め,回腸が膿瘍腔へ穿破していた.盲腸部分切除・小腸部分切除・膿瘍ドレナージ術を施行した.術後の感染コントロールは極めて不良であり,腹壁壊死・盲腸穿孔・感染性心筋炎による急性心不全を合併しCCU管理となった.術後20病日にドレーン排液よりアメーバ虫体が確認されメトロニダゾール投与を開始したが,その後は炎症反応も速やかに改善し感染コントロールは良好となり,術後99病日目に退院となった.今回われわれは,急性虫垂炎の術後管理に難渋するも,赤痢アメーバ感染と判明後は抗アメーバ療法が著効し救命しえた症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

  • 中守 咲子, 中野 大輔, 船津 のぞみ, 木谷 優介, 夏目 壮一郎, 小野 智之, 大隈 知威, 元井 亨
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1543-1549
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は26歳,女性.遺伝性網膜芽細胞腫の既往があり,乳児期に片側の眼球摘出を受けている.今回,右下腹部痛を主訴に当院を受診し,CTとMRIで11cm大の右下腹部腫瘤を認めた.腸間膜原発の肉腫を疑い手術を施行したが,術中所見にて近位上行結腸間膜内の腫瘤であったため,開腹回盲部切除術を行った.切除検体の病理組織学的診断は平滑筋肉腫の診断であったが,免疫染色にて腫瘍細胞に特異的なRBタンパクの発現消失を認めた.遺伝性網膜芽細胞腫はRB1遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントを原因とする常染色体優性遺伝性疾患で,骨肉腫,軟部肉腫などの二次性悪性腫瘍が発生することが知られており,放射線治療や化学療法がその契機となり得る.本症例は放射線照射,化学療法歴が無いにも拘らず,網膜芽細胞腫治療から25年後に異所性に平滑筋肉腫が発生し,腫瘍特異的なRBタンパクの消失から遺伝性網膜芽細胞腫の続発腫瘍と考えられた稀な1例である.また,続発腫瘍に対する治療によって更なる悪性腫瘍が発生する可能性があり,治療法に関して十分な配慮が必要である.

  • 豊福 篤志, 是枝 侑希, 伊波 悠吾, 吉田 昂平, 日暮 愛一郎, 笹栗 毅和, 永田 直幹
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1550-1558
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は65歳,男性.2020年10月に血便を主訴に近医を受診した.大腸内視鏡検査にて直腸S状部に腫瘤性病変を認め,同月,当院内科に紹介となった.精査の結果,直腸S状部癌の診断となり,手術目的で外科に紹介された.術前CTにて原発巣から連続して下腸管膜静脈内に進展する5cmの腫瘍塞栓もしくは血栓形成を認めた.遠隔臓器に転移を認めず,UICC TNM Classification System (8th Edition),Stage III Bの術前診断で,11月に腹腔鏡下直腸前方切除術+D3リンパ節郭清術を施行した.術後の経過は順調であり,退院の運びとなった.術後の病理検査でも同様にStage III Bの診断であり,術前より指摘されていた下腸間膜静脈内の病変は腫瘍塞栓の診断であった.現在,mFOLFOX6による術後補助化学療法を施行しているが,再発なく経過している.

  • 星野 敏彦
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1559-1562
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は26歳,男性.1年前よりの肛門腫瘤で当院を受診した.直腸診では,肛門皮膚5時方向に,肛門外に脱出する5cm大の腫瘤を認めた.腫瘤は一見睾丸かと思われるような,表面に皺を有する茶色のもので,根部は0-Ip様に明瞭な茎を有し,肛門乳頭付近と繋がっていた.根部結紮にて安全にとれることが予想されたため,外来にて無麻酔で切除した.病理はfibrovascular polypにて,いわゆる肛門ポリープの診断となった.

    肛門ポリープは,肥大化した肛門乳頭であり,通常は2-5mm程度の大きさで,2cmを超えるものは大変稀である.3cm以上のものは,平滑筋肉腫・肛門管癌・悪性リンパ腫などの悪性腫瘍と区別する必要がある.本症例では5cmと巨大で,手術の適応となった.通常の表面なめらかな性状と異なる睾丸様の形状で,長い茎を持ち,初診日にその場で無麻酔の切除が可能であった.特有な形状をもった肛門ポリープであったため,若干の文献的考察を含めて報告する.

  • 長谷川 毅, 佐久間 崇, 木下 春人, 中川 泰生, 筑後 孝章, 寺岡 均, 大平 雅一
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1563-1568
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は67歳,男性.貧血に対する精査目的に上部消化管内視鏡検査を施行したところ,胃体下部大彎側に3型腫瘍を認めた.生検にて胃癌と診断され,近医より当科へ紹介受診となった.腹部造影CTで肝S7に低吸収域を認め,右門脈本幹まで続く軟部陰影を認めた.腹部エコー・MRI(EOB)でも同様な所見を認め,肝転移および門脈腫瘍栓を伴う胃癌と診断し,化学療法を施行した.S-1+CDDPを3コース施行するもCTにて肝内病変および軟部陰影の増大を認めたため,S-1+CPT-11に変更したところ,肝内病変は消失し,軟部陰影は縮小した.根治切除可能と判断し,幽門側胃切除術,肝右葉切除術を施行した.病理組織診断にて,摘出肝右葉内に転移巣を疑わせる所見は認められず,腫瘍栓と思われた軟部陰影は血栓であった.術後補助化学療法は行わず,術後8年4カ月間無再発生存中である.本症例は門脈血栓が腫瘍栓のような経過を示し,非常に判断の難しい症例であった.

  • 安 昌起, 木村 健二郎, 田内 潤, 西尾 康平, 天野 良亮, 久保 正二
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1569-1574
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    患者は63歳,女性,心窩部不快感のため近医を受診したところ,超音波検査において膵頭部付近に腫瘍性病変を指摘されたため当院を受診した.諸検査で胆嚢底部の充実性腫瘍と腫大したNo.12pリンパ節が認められ,リンパ節生検で腺癌と診断された.所属リンパ節転移を伴う胆嚢癌と診断し,拡大胆嚢摘出術,所属リンパ節郭清および傍大動脈リンパ節サンプリング術を施行した.病理組織診断は,充実腺癌,pT2(SS),N1(No.12p),M1(No.16b1int),pStage IVBであった.術後3年間のゲムシタビン+シスプラチン,ゲムシタビン単剤およびテガフール・ウラシルによる補助療法を行い,術後8年間,無再発生存中である.No.16リンパ節サンプリングは病期診断,術後補助化学療法の選択に有用であり,同リンパ節転移陽性例に対しても集学的治療により根治を含め長期予後を得られる可能性がある.

  • 数納 祐馬, 柏木 宏之, 五十嵐 優人, 河内 順, 増田 作栄, 手島 伸一
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1575-1582
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    今回,嚢胞破裂を起因として発見された膵管内乳頭粘液性腺癌(intraductal papillary mucinous carcinoma:以下IPMC)の1例を経験した.症例は82歳,男性.突然の左側腹部痛にて発症し,腹部造影CTで膵体尾部に充実成分を含む多発性の嚢胞性病変を認め,周囲に少量の腹水も認めた.膵嚢胞破裂の診断で,嚢胞周囲の液体成分に対して超音波内視鏡下経胃ドレナージを行い,待機的手術の方針となった.腹水細胞診はclass IIであった.膵嚢胞性腫瘍の診断で,発症62日後に膵体尾部切除術を施行した.最終診断は,多発型膵管内乳頭粘液性腺癌(IPMC),T2,N0,M0 pStage IB(膵癌取扱い規約第7版)であった.IPMCの一部に退形成癌への移行像が認められた.術後半年で大腿骨・脛骨・上腕骨に転移性骨腫瘍と骨折を認め,骨接合術を行ったが徐々に全身状態悪化し1カ月後に死亡した.

  • 常俊 雄介, 中田 健, 茅田 洋之
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1583-1587
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は57歳,女性.10数年来の腹壁瘢痕ヘルニアにて元々腹部は30×30cmに膨隆し,非還納性であった.突然の腹痛,嘔吐にて発症し,発症15時間で当院を受診.腹部は膨隆の程度は変わらぬものの,著明な腹膜刺激症状を認め,CTにて巨大ヘルニア嚢内での,絞扼性腸閉塞を示唆する画像所見と小腸の一部造影不良域を認め,緊急手術を施行した.ヘルニア嚢内で癒着した小腸を内ヘルニア門とし,そこに嵌頓した腸管がさらに捻転し壊死に至っていた.壊死腸管を切除,吻合した.ヘルニア門が10×8cmと大きく,単純縫合閉鎖は困難にてcomponent separation repairにより修復した.術後創部感染を発症したが,皮下膿瘍の穿刺ドレナージにて改善した.術後15カ月で,感染の再燃やヘルニアの再発を認めていない.術野の汚染を伴う場合のヘルニア修復術の術式選択については,特にmesh使用の適否など,未だcontroversialである.今回われわれはmeshを使用しない本術式を選択し,術後創部感染の影響を最小限に止め治癒を得られた.

  • 山本 寛大, 大野 陽介, 鈴木 琢士, 合地 美香子, 海老沼 翔太, 赤羽 弘充
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1588-1593
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は82歳,男性.両側内鼠径ヘルニアに対して腹腔鏡下ヘルニア修復術を実施した.術翌日に自宅退院したが,術後6日目に心窩部痛を主訴に当科外来を受診した.画像検査で腸閉塞の診断となり再入院となった.腹膜縫合部の離開に伴う腸閉塞を考え,同日イレウス管を留置し保存的加療を開始した.腸閉塞症状は速やかに改善し,イレウス管を抜去し経口摂取を開始した.腸閉塞は再燃無く経過したが,腹膜縫合部の離開の可能性を十分に説明した上で待機的に審査腹腔鏡を実施した.腹膜縫合部の離開を確認し,腹腔内操作で離開部を単純縫合閉鎖した.再手術翌日より食事を再開し,その後も大きな合併症なく経過し再手術後6日目に自宅退院となった.腹腔鏡下ヘルニア修復術後に発症した腸閉塞は,腹膜縫合部の離開の可能性を念頭に置いて治療にあたる必要がある.保存的加療を先行し,できるだけ早期の手術を検討することが重要であると考えた.

  • 野口 耕右, 土師 誠二, 吉川 徹二, 亀井 武志
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1594-1599
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は44歳,女性.腹痛にて虫垂炎と診断された.

    同日の腹部CTにて,下腸間膜静脈の背側,左卵巣動静脈の右縁に位置する径2.5cm大の後腹膜嚢胞を認めた.画像上は,悪性所見は認めなかった.虫垂炎の手術を先行し,術後2カ月目に腹腔鏡での摘出術を施行した.術後の病理検査では後腹膜原発 Müller 管嚢胞と診断された.

    Müller管嚢胞は,Müller管由来の上皮に覆われた嚢胞で,男性骨盤内に好発し,剖検例では1%弱に発見されるが,女性では極めて稀である.

    大多数が良性であるが稀に悪性化の報告もあるため,一括切除を考慮すべきと思われた.

  • 皆瀨 翼, 貝羽 義浩, 木村 美咲, 吉田 茉実
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1600-1605
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は83歳,男性.1カ月前からの右鼠径部の膨隆と尿排泄困難を主訴に受診した.来院時,右鼠径部から陰嚢にかけての児頭大の膨隆を認め,用手還納は困難であった.CT画像で右鼠径ヘルニアを認め,小腸の脱出を認めた.また,膀胱と両側で尿管から腎盂にかけての拡張を認めた.血液検査では腎機能低下を認めた.腎後性腎機能障害と診断し,膀胱内にバルーンカテーテルを留置し,腎機能の改善を待ってから待機的に手術を行った.術式は,目視下に確実に腹膜前腔にメッシュを留置することを目的に,腹腔鏡下ヘルニア修復術(transabdominal preperitoneal repair:以下,TAPP法)を選択した.術後,尿排泄困難の改善を認めたことから,腎機能障害の原因として鼠径ヘルニアによる尿道抵抗の増加,および腹圧排尿の阻害が考えられた.尿排泄困難を伴う巨大鼠径ヘルニアは,腎機能障害をきたすことがあるため,早期修復の必要性が考えられた.

  • 鈴木 洋, 齋藤 達, 小澤 洋平, 横沢 友樹, 星田 徹
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1606-1611
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は90歳,女性.嘔吐を主訴に当院に救急搬送された.腹部単純CTで左閉鎖孔ヘルニア嵌頓と門脈ガス血症を認めた.超音波ガイド下に嵌頓を整復した後に,入院管理とした.翌日のCTで門脈ガスは消失しており,待機手術の方針とした.手術は鎮静下に局所麻酔を行い,ダイレクトクーゲル法に準じた鼠径法で施行した.術後経過は良好で,術後第4病日に退院した.本症例では,閉鎖孔ヘルニア嵌頓による腸閉塞に伴い悪化した全身状態の改善後に,より安全に待機手術を施行しえた.門脈にガス像が認められても,嵌頓した腸管の虚血や壊死を伴わずに閉鎖孔ヘルニアの整復が可能である場合には,局所麻酔下での待機手術も選択することが可能な治療方法と考えられた.

  • 加納 俊輔, 牧田 直樹, 宗本 将義, 八木 康道, 大西 一朗, 萱原 正都
    2021 年 82 巻 8 号 p. 1612-1616
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/28
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,男性.左鼠径ヘルニアおよび左Spigelianヘルニアが疑われ,精査加療目的に当科紹介となった.術前CTでinterparietal hernia嚢を有した外鼠径ヘルニアの診断に至り,腹腔鏡下手術の方針とした.術中所見もCTと相違無く,腹腔内所見から定型的な腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術で対応可能と判断した.鼠径部interparietal herniaはヘルニア嚢が腹壁の筋層や筋膜間へ進展する珍しいタイプの鼠径ヘルニアであるが,中でもinterparietal hernia嚢を有する外鼠径ヘルニアはbilocular typeといわれ非常に稀であり,若干の文献的考察を加え報告する.

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