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服部 正見, 畑井 三四郎, 山中 直樹, 加茂 健太, 下村 龍一, 亀岡 宣久
2022 年 83 巻 4 号 p.
644-648
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
フリー
症例は50歳,女性.7カ月前から進行する両側乳房発赤・腫脹を主訴に,当院外科を紹介受診.既往歴に関節リウマチを認め,ブシラミン内服加療中であった.視触診にて,乳房全体の皮膚肥厚と発赤,圧痛を認めた.血液検査所見にて,明らかな炎症所見や腫瘍マーカーの上昇を認めず.乳腺超音波検査にて,右乳房BD領域に50mm大の低エコー域,左乳房AC領域に30mm大の低エコー域を認めた.左腋窩に境界一部不明瞭な15mm大の低エコー腫瘤を認めた.それぞれの針生検の病理組織所見では,二相性の維持された乳管構造と間質成分が並行して増生していた.悪性所見は認めなかった.以上より,薬剤性の乳腺肥大症を疑い,薬剤の内服を中止したところ症状は軽快した.外来経過観察しているが,症状再燃を認めていない.抗リウマチ薬のブシラミンは広く使用されているため,乳腺肥大症を認めた際には薬剤の副作用を念頭に置く必要がある.
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多山 葵, 三瀬 昌宏, 松井 優悟, 藤倉 航平, 山下 大祐
2022 年 83 巻 4 号 p.
649-653
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
フリー
症例は59歳,女性.56歳時に右乳房巨大悪性葉状腫瘍に対して乳房切除術を施行した.術後6カ月目のCTにて多発する肺結節を認め,悪性葉状腫瘍による肺転移と診断した.コントロール困難な糖尿病併発のため,ドキソルビシンを使用せず,エリブリンで治療を開始した.9カ月間,脱毛以外の有害事象は認めず,転移性肺腫瘍はlong SD(stable disease)を維持した.エリブリン開始12カ月後,一部の転移性肺腫瘍が増大し,さらに転移性肝腫瘍も認めたためPD(progressive disease)と判断し,パゾパニブに変更した.変更後18カ月以上経過した現在,高血圧,Grade1~2の下痢,味覚障害以外有害事象を認めず,転移性肺腫瘍は縮小し,肝腫瘍はSDを維持している.近年,悪性軟部腫瘍に対する新しい薬剤としてエリブリン・パゾパニブが注目されているが,悪性葉状腫瘍に対する報告は乏しい.本症例から,高い忍容性と長期間のclinical benefitを有した両薬剤は,悪性葉状腫瘍に対して有効な治療選択肢であると考えられた.
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後藤 まどか, 市川 靖久, 坪内 秀樹, 川角 佑太, 森 正一
2022 年 83 巻 4 号 p.
654-659
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
フリー
78歳,男性.前医での喘息の精査治療中,胸部CTにて左下葉に40mmの境界明瞭で辺縁整な充実性腫瘤を認めた.PET-CTでは腫瘤に一致したSUVmax 2.4のFDG集積を認めた.気管支鏡下生検では確定診断に至らなかったが,増大を示し,左下葉肺癌疑いにて診断治療目的に胸腔鏡下左肺下葉切除術および縦隔リンパ節郭清(ND2a-1)を施行した.切除標本割面の肉眼所見では臓側胸膜とは接しない境界明瞭な白色調の腫瘤を認め,病理組織検査では腫瘍は束状に錯綜する紡錘形細胞から構成され,免疫染色ではCD34(+),STAT6(+),S-100(-)を示し,肺内孤立性線維性腫瘍と診断した.腫瘍径は5cm以下で壊死像を認めず,核分裂像は高倍率10視野あたり(/10HPF)3個以下で悪性を示唆する所見は認めなかった.稀な肺内孤立性線維性腫瘍の1例を経験したため報告する.
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荒木 貴代, 高瀬 恒信, 佐藤 敏, 村上 弘城, 石川 大介, 出口 智宙, 矢口 豊久
2022 年 83 巻 4 号 p.
660-667
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
フリー
24年の臨床経過で悪性化が示唆された胃異所性膵の1例を経験したので報告する.症例は66歳,男性.1997年から胃前庭部に粘膜下腫瘍を指摘され,大きさ・形態に変化がみられなかったため,経過観察となっていた.2021年3月の定期健診の上部消化管内視鏡検査にて腫瘍の増大傾向を認めたため,精査目的に超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)を施行し,腺癌と診断した.腹部造影CTでは胃前庭部粘膜下に大きさ25×19mmの腫瘤を認め,PET-CTでは同部位にのみ異常集積がみられた.血液検査ではCA19-9 64U/mLと高値であった.CEA,DUPAN-2,SPAN-1は正常値であった.超音波内視鏡所見に加え,PET-CTにて他に悪性腫瘍の存在を示唆する所見がないことから,胃異所性膵の悪性化を強く疑い開腹幽門側胃切除術D2郭清を行った.術後病理結果は異所性膵由来の腺癌(膵癌取扱い規約第7版pT2N0M0 stage I b)であった.術後は経過良好で第11病日に退院し,術後補助化学療法としてS-1療法を行った.術後6カ月時点で再発なく経過している.
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巽 孝成, 福本 晃久, 青松 幸雄, 吉川 千尋, 池西 一海, 中島 祥介
2022 年 83 巻 4 号 p.
668-674
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
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症例は67歳,男性.右側腹部痛,全身倦怠感を主訴に当院を受診した.血液検査で炎症反応の上昇を認め,造影CTでは肝に多発する低吸収域と胃に7cm大の腫瘤像を認めた.造影MRIにて多発性肝膿瘍と診断し,抗菌薬治療と経皮経肝膿瘍ドレナージを施行した.上部消化管内視鏡では胃体上部に潰瘍を伴う粘膜下腫瘤病変を認め,生検でgastrointestinal stromal tumor(GIST)と診断した.肝膿瘍の発生源精査で施行した下部消化管内視鏡と腹部超音波では,胃GIST以外の腫瘍性病変や炎症性病変は認めず,潰瘍を伴う胃GISTから細菌が経門脈性に感染を起こした多発肝膿瘍と診断した.肝膿瘍治療を先行し,入院第51病日に胃全摘術,脾膵体尾部切除術,横行結腸部分切除術,空腸部分切除術,胆嚢摘出術を施行した.術後2年半,肝膿瘍再燃やGIST再発は認めず外来通院中である.胃GISTに肝膿瘍を合併した報告は稀であり,文献的考察を加えて報告する.
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西脇 由朗, 落合 秀人, 金井 俊和, 田村 浩章, 林 忠毅, 宮﨑 真一郎, 長谷川 進一, 馬場 健
2022 年 83 巻 4 号 p.
675-684
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
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腹部膨隆が主訴の49歳の女性に直径20cm大の卵巣腫瘍が見つかり,原発性卵巣癌として広範リンパ節郭清を伴う子宮全摘術と両側附属器摘除術が施行された.病理学的検索から転移性卵巣腫瘍が疑われ,精査により胃に進行癌が見つかり,外科に紹介され胃全摘術と脾臓摘出術を施行した.病理学的に卵巣転移を伴う胃癌と最終診断(pT4a N3b M1 Stage IV)された.化学療法としてpaclitaxelとcarboplatinを7クール行い,さらにS-1内服を1年間継続した.以後,現在まで17年間再発なく経過している.胃癌の卵巣転移はKrukenberg腫瘍としてよく知られているが,その中でも卵巣先行切除後に胃癌が発見された症例の予後は悪く,長期生存している症例の報告はわずかである.卵巣以外に腹膜を含め遠隔転移がなかったこと,遺残腫瘍がない手術ができたこと,そして化学療法が長期生存につながったと思われた.
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山本 一博, 竹花 卓夫, 河合 俊輔, 遠藤 秀俊, 塩澤 哲
2022 年 83 巻 4 号 p.
685-690
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
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悪性リンパ腫の化学療法中に穿孔したサイトメガロウイルス(以下,CMV)小腸炎の1例を経験した.症例は67歳,男性.T細胞リンパ腫にて化学療法が導入されたところ,食思不振や腹部膨満といった消化器症状を呈するようになった.上部消化管内視鏡検査では原因を特定できず,徐々に増悪し,穿孔性腹膜炎をきたして当科へ紹介となった.緊急手術にて空腸穿孔を認め,空腸切除を行った.切除標本にて輪状潰瘍と潰瘍底穿通を認め,組織学的に潰瘍部分にCMV抗原陽性細胞を認めた.CMVアンチゲネミアも陽性であり,CMV腸炎の穿孔と診断した.抗ウイルス療法を開始し,軽快した.様々な背景疾患においてCMV小腸炎穿孔の報告は散見されるが,その診断は必ずしも容易ではなく,疑って積極的に診断をつけにいく必要がある.原因不明の小腸穿孔を見た場合,CMV小腸炎を鑑別に挙げておくことが重要と考えられた.
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池田 耕介, 榊原 巧, 田邉 綾, 南 雄介, 加藤 哲也, 中澤 幸久
2022 年 83 巻 4 号 p.
691-696
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
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症例は20歳,男性.右側腹部痛を主訴に当院救急外来を受診,急性虫垂炎の診断で外科紹介となった.腹部造影CTで,右側腹部に小腸の浮腫と同部から臍に向かう盲端の管腔状構造物を認めた.上行結腸から回盲部は正中に位置し,結腸の右側に小腸が位置していた.以上より,腸回転異常症を伴ったMeckel憩室炎と診断し,緊急手術を施行した.回腸末端から65cmにMeckel憩室を認め,小腸部分切除と予防的虫垂切除を施行した.病理組織学的検査では,憩室部に炎症性変化とともに胃底腺型胃粘膜と異所性膵を認めた.腸回転異常症とMeckel憩室炎の合併は稀であるが,MDCTが術前診断に有用であった1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
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篠原 陸斗, 櫛谷 洋樹, 前森 雅世, 太田 聡, 梅本 一史, 高田 実, 加藤 健太郎, 安保 義恭
2022 年 83 巻 4 号 p.
697-703
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
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症例は63歳,男性.2012年,突然の腹痛で来院し小腸穿孔の診断で小腸部分切除を施行したが,穿孔原因は不明であった.2014年,左下腹部腫瘤を自覚し,小腸内視鏡検査での生検にて悪性リンパ腫が疑われ,小腸部分切除を行った.細胞免疫形質はCD3・CD8・CD56陽性,CD4・CD5・CD79a・granzyme B・EBER-ISH陰性で,単形性上皮向性腸管T細胞リンパ腫(MEITL)と診断し,CHOEP-14療法6コースおよびMCEC療法,自家末梢血幹細胞移植を施行した.2017年と2019年に二度,再発による小腸穿孔に対して小腸部分切除を施行し,術後GDP療法によるサルベージ療法を行って再寛解を得た.2021年,3rd relapseをきたし小腸部分切除を行った.術後に抗CCR4抗体による化学療法を行ったが,腫瘍の再発・増大により診断から6年6カ月後に死亡した.今回,稀な悪性リンパ腫であるMEITLに対し,積極的な腸管切除と化学療法・自己末梢血幹細胞移植の集学的治療によって長期生存を得た1例を経験したので,若干の文献的考察も含めて報告する.
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大谷 裕, 佐倉 悠介, 樽本 浩司, 山根 佳, 金澤 旭宣
2022 年 83 巻 4 号 p.
704-710
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
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症例は48歳の男性.心窩部痛を主訴に近医を受診した際貧血を指摘され,原因精査目的で当院へ紹介された.腹部造影CT,上部・下部内視鏡検査で明らかな異常を指摘されず,小腸病変の関与を疑い,パテンシーカプセル(PC)の内服なしにカプセル内視鏡(CE)検査を施行した.内服後24時間経過してもCEが排泄されず,その後施行した腹部CTで小腸の病変部でCEが滞留している可能性が高いと判断し,バルーン内視鏡(BAE)検査を施行した.CEは内視鏡的に体外へ回収し,病変からの生検で原発性小腸癌と確定診断し,後日外科手術を施行した.病変はTreitz靱帯から約40cm肛門側にあり,小腸部分切除術ならびに中枢側リンパ節郭清を施行した.病理組織診断はstage IIIAの小腸癌であり,術後補助療法としてCapeOX療法を半年間施行した.BAEを使って滞留したCEを早期に回収して腸閉塞を回避し術前診断できたことで,原発性小腸癌に対して十分な外科的治療が可能になったと考える.また,滞留を回避するために,ガイドラインを遵守したPCの使用を考慮すべきである.
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円城寺 貴浩, 蒲原 行雄, 哲翁 華子, 黒島 直樹, 木下 綾華, 林 徳眞吉
2022 年 83 巻 4 号 p.
711-716
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
フリー
原発性小腸癌は,消化管原発の悪性腫瘍の0.3~4.9%と稀な疾患である.今回,胃切除から9年後に腸閉塞で発症した上部空腸癌の1例を経験したので報告する.症例は58歳の女性.上腹部痛と嘔吐を主訴に近医を受診し,腸閉塞の診断で当院紹介となった.CTで空腸壁の肥厚,胃十二指腸を含む口側腸管の拡張を認めた.上部消化管内視鏡検査では,Treitz靱帯肛門側の空腸に全周性の腫瘍を認め,生検で高分化腺癌の診断となった.原発性小腸癌の診断で上腸間膜動脈本幹までのリンパ節郭清を含む空腸切除術を施行した.病理学的診断は,pT4a(SE),Ly1a(SM),V1b(SS EVG),BD1,pN1a,Pn1b,pStage III A(UICC分類)であった.一般的に小腸癌の予後は不良であり,早期の診断と治療介入が予後改善には重要と考えられる.また,胃切除症例には小腸の発癌性上昇の可能性があるため,胃切除後の小腸閉塞症例に対しては,小腸癌も念頭に置いた,上部消化管造影検査および内視鏡検査が必要である.
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佃 和樹, 織田 福一郎, 千葉 哲磨, 林 美貴子, 野口 典男, 井石 秀明
2022 年 83 巻 4 号 p.
717-721
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
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症例は33歳,女性.出産18時間後の深夜に急激な心窩部痛が出現し,その後胆汁性嘔吐も認めた.疼痛処置を行ったものの痛みは次第に増強し,発症6時間後の翌早朝にはショック状態となった.さらに,緊急CT施行直後に心肺停止状態となったが,救命処置にて心拍の再開が得られた.CTでは怒張した上腸間膜静脈を軸とするwhirl signと腸管の著明な拡張が認められた.直ちに緊急開腹術を行い,術中所見にて腸回転異常症に伴う中腸軸捻と診断した.捻転した腸管は血流障害によって壊死していたため小腸起始部約20cmから右結腸までを切除し,健常であった口側小腸と左結腸を一期的に吻合再建した.術中・術後の集中治療により状態は改善し,腸管大量切除に伴う短腸症候群に対しては中心静脈栄養を導入して術後54日目に自宅退院が得られた.産褥早期に発症する中腸軸捻は極めて稀で診断に苦慮するものの致命的でもあるので,若干の文献的考察を加えて報告する.
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雪本 薫平, 平木 将紹, 久保 洋, 池田 貯, 田中 聡也, 北原 賢二
2022 年 83 巻 4 号 p.
722-726
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
フリー
症例は60歳,男性.45歳時に濾胞性リンパ腫を発症して複数回の化学療法により寛解と再燃を繰り返し,続発性γグロブリン血症を合併していた.経過観察中のCTで終末回腸の壁肥厚と回盲部周囲のリンパ節の腫大を認め,悪性リンパ腫の再発診断のもと,化学療法を再開した.治療開始後の5日目に腹痛を発症し,CTで上行結腸回腸瘻,消化管穿通と診断した.術前に消化管穿通に対しての抗菌薬の投与・γグロブリン製剤を追加投与,化学的腸管処置としての抗菌薬の投与を行った後に,開腹結腸右半切除術を施行した.創部の閉創は抗菌剤配合糸を使用し,創部の洗浄を行った.術後は抗菌薬・γグロブリン製剤の投与などを行うことで,術後の感染症を含む合併症を起こすことなく軽快し退院した.術後高率に重篤な感染性合併症をきたしやすい低γグロブリン血症に対して,適切な周術期の抗菌薬・γグロブリン製剤の追加投与などを行うことで安全に周術期管理をし得ると思われた.
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深田 晃生, 吉岡 慎一, 田村 茂行, 竹田 雅司, 藤田 淳也, 佐々木 洋
2022 年 83 巻 4 号 p.
727-732
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
フリー
症例は69歳の男性.便潜血陽性の精査目的に当院に紹介となった.大腸内視鏡検査で盲腸部に40mm大の1型腫瘍を認め,生検で腺癌の診断であった.造影CTでは,盲腸の腫瘤が上行結腸内へ重積している所見を認めた.盲腸癌による腸重積の疑いで,腹腔鏡下回盲部切除術,D3リンパ節郭清を施行した.切除標本では腫瘍は虫垂先端に位置し,虫垂が盲腸内に完全に翻転しており,完全型虫垂重積をきたしていた.病理診断は固有筋層を越えて浸潤する進行虫垂癌であった.
虫垂癌および虫垂重積はいずれも遭遇頻度の少ない疾患であり,これらの併発例の報告は僅かである.非常に稀な進行虫垂癌による完全型虫垂重積の1例を経験したので,文献的考察を踏まえて報告する.
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中村 健也, 宮川 雄輔, 北沢 将人, 得丸 重夫, 中村 聡, 副島 雄二
2022 年 83 巻 4 号 p.
733-737
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
フリー
直腸びまん性海綿状血管腫は稀な疾患であり,外科的切除が治療の基本である.今回,われわれは血便による貧血を繰り返した直腸びまん性海綿状血管腫に対して腹腔鏡下括約筋間直腸切除術を施行し,良好な結果を得た.患者は48歳の男性,主訴は血便であった.CTで腸管壁の肥厚と周囲の小石灰化像,MRIで直腸壁肥厚部にT2強調画像で高信号の脈管構造を認め,直腸びまん性海綿状血管腫と診断した.出血による高度の貧血を呈していたため手術適応と判断し,腹腔鏡下括約筋間直腸切除術を施行した.術後経過は良好で,術後13日で退院した.術後4カ月で人工肛門閉鎖を行い,術後2年5カ月で血便や貧血は認めていない.
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村山 良太, 櫻井 晶子, 吉田 昴平, 佐古 達彦, 日暮 愛一郎, 永田 直幹
2022 年 83 巻 4 号 p.
738-742
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
フリー
傍ストーマヘルニアに対する手術術式は多く報告されているが,未だ標準術式とされるものはない.傍ストーマヘルニアの再発防止には,メッシュを使用する術式の方が再発率は低くメッシュの使用が推奨されるが,メッシュの種類は数多く存在する.当科ではこれまで腹腔鏡下Sugarbaker法を第一選択とし,その際には傍ストーマヘルニア専用のParietex Composite Parastomal Mesh®(center band type)を用いていたが,現在メーカーの自主回収により使用できない.今回メッシュを折り返す工夫を加えた腹腔鏡下Sugarbaker法を施行した1例を提示し,術式およびメッシュに対する文献的考察を加えたので報告する.
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青木 諒介, 田中 宏和, 篠原 剛, 藤森 芳郎
2022 年 83 巻 4 号 p.
743-748
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
フリー
症例は80歳の女性.心窩部痛を主訴に当院を受診した.腹部造影CTでは胆嚢の腫大,胆嚢壁の肥厚および胆嚢周囲の液体貯留を認め,急性胆嚢炎,胆嚢穿孔と診断し,緊急腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った.病理組織学的検査所見では,胆嚢壁には炎症細胞の浸潤と壊死を認めた.さらに,細動脈壁にアミロイドの沈着を認め,細動脈閉塞をきたしていた.以上より,アミロイド沈着による細動脈閉塞が今回の急性無石胆嚢炎の一因であると考えられた.術後経過は良好であり,術後11日目に退院となった.
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藤代 雅巳, 小林 敦夫, 高田 厚, 小河 晃士, 叶多 寿史, 河原 正樹
2022 年 83 巻 4 号 p.
749-754
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
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症例は84歳,男性.胃癌に対し腹腔鏡下幽門側胃切除術(Roux-Y再建),胆石症に対し腹腔鏡下胆嚢摘出術の既往がある.腹部CTで偶然に十二指腸憩室内結石を指摘された.慢性的な背部痛があること,および合併症のリスクを考慮し,待機的手術の方針とした.腹腔鏡下結腸右半切除術における後腹膜剥離先行アプローチの手技を応用して十二指腸憩室を確認し,憩室を切除して30mm大の結石を摘出した.十二指腸乳頭部との位置関係を確認の上,切開部を縫合閉鎖して手術を終了した.経過良好で術後9日目に退院となった.十二指腸憩室内結石の多くは憩室穿孔等を契機に発見され,緊急開腹手術が施行されており,腹腔鏡操作で後腹膜剥離アプローチによる待機的手術は過去に報告例が無い.本症例のように,上腹部に術後癒着が想定される症例に対し,特に有用な方法と考えられる.若干の文献的考察を加え報告する.
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河口 義邦, 吉崎 雄飛, 田中 麻理子, 有田 淳一, 牛久 哲男, 長谷川 潔
2022 年 83 巻 4 号 p.
755-761
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
ジャーナル
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症例は69歳,男性.上腹部痛を主訴に受診した.CTで膵頭部腫瘤を認め,十二指腸浸潤・上腸間膜静脈腫瘍栓を伴っていた.また,肝に2箇所,転移を疑う腫瘍を認めた.十二指腸浸潤部からの生検にて膵内分泌癌の診断.イリノテカン・シスプラチンによる化学療法が開始され,1コース目の途中でセカンドオピニオン目的に当院を受診.前医標本の病理組織の再検討により,膵内分泌腫瘍 WHO grade 3と診断.膵・消化管神経内分泌腫瘍診療ガイドライン2019年でも,治癒切除可能病変な同時性遠隔転移を伴う膵内分泌腫瘍は切除を中心とした集学的治療を行うことが推奨されていることから,手術の方針とした.膵頭十二指腸切除術,門脈合併切除+再建,肝部分切除術を施行した.切除標本による病理診断はmixed acinar-neuroendocrine carcinomaであった.S-1による術後補助化学療法を施行し,現在術後15カ月,無再発にて経過観察中である.同時性肝転移を伴う膵腫瘍に対する治療戦略は原発膵腫瘍の診断により異なるため,実臨床において示唆に富む症例と考えられた.
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島岡 高宏, 濱 直樹, 瀧内 大輔, 福田 虹恵, 原田 宗一郎, 太田 博文
2022 年 83 巻 4 号 p.
762-767
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
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症例は69歳,女性.2型糖尿病にて近医通院中に,持続する高血糖精査にて施行した腹部MRIで膵頭部に1cm大の不整形腫瘤を認めたため,治療目的に紹介となった.精査の結果,膵頭部神経内分泌癌neuroendocrine carcinoma(NEC)cT1N0M0 cStage Iの診断で,膵頭十二指腸切除術を施行した.癌遺残なく切除し(R0切除),最終診断は膵頭部NEC pT1cN0M0 fStage Iであった.
術後半年経過した時点で高血糖症状が再燃し,同時に低カリウム血症と全身の圧痕性浮腫を呈し,腹部CTでは肝内に多発する再発巣を認めた.血液検査ではACTH 216pg/mL,Cortisol 37.5μg/dLと高値であり,デキサメサゾン抑制試験の結果,異所性ACTH症候群と診断した.副腎皮質ホルモン合成酵素阻害剤で症状を抑制しながら,再発治療としてetoposide+cisplatinによる化学療法を開始した.術後1年経過した現在も治療継続中である.
膵NECの異所性ACTH産生型再発の報告は非常に稀であり,文献的考察を交えて報告する.
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佐藤 里咲, 杉田 浩章, 前田 一也, 道傳 研司
2022 年 83 巻 4 号 p.
768-774
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
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症例は,63歳の女性.心窩部痛を主訴に,近医より当院に紹介受診となった.精査で左副腎転移を伴う膵尾部癌と診断し,膵体尾部・脾臓・左副腎合併切除を行った.病理組織診断では,pT3N1M1 pStage IVb,R0手術の診断であった.術後補助化学療法としてS-1単独療法を行ったが,術後10カ月で多発肺転移が出現しGnP療法を開始した.その後S-1,GEMへ変更するもPDと診断,FOLFIRINOX療法を開始した.肺病変は縮小したが,術後5年2カ月でふらつきや腫瘍マーカーの上昇を認め,頭部MRIで小脳転移を認めた.化学療法は中止し,脳腫瘍摘出術および定位分割放射線治療を施行した.その後,腫瘍マーカーは正常化し,現在無再発生存中である.
他臓器転移を伴う膵癌の予後は極めて不良であり,長期生存例は稀である.また,膵癌の脳転移症例はほとんど報告されていない.今回,われわれは左副腎転移を伴う膵尾部癌に対して,集学的治療により長期生存を得られている1例を経験したので報告する.
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宇田川 輝久, 鈴木 雄, 伊藤 靖, 玉手 義久, 栁川 直樹, 亀井 尚
2022 年 83 巻 4 号 p.
775-779
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
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前立腺癌術後に直腸間膜から前立腺癌のリンパ節転移を病理学的に確認できた直腸癌症例を経験した.症例は67歳,男性.前立腺癌に対し,ロボット支援内視鏡下前立腺切除術を施行した.術後に生化学的再発を認め,gonadotropin releasing hormone(GnRH)アンタゴニストで治療中であった.便潜血陽性をきっかけに直腸RSに全周性の2型腫瘍を認め,生検でadenocarcinomaの診断となった.腹腔鏡下高位前方切除術を施行したところ,直腸間膜内より前立腺癌のリンパ節転移を認めた.前立腺はリンパ管の流入が多く,一般的には閉鎖リンパ節や内腸骨リンパ節,外腸骨リンパ節に流入する.過去の報告で前立腺癌が直腸間膜に転移した症例は17例のみであり,極めて珍しい症例と考えられた.前立腺癌の高リスク症例では生化学的再発を高率に認めることが知られており,本症例のようなリンパ節郭清領域外への微小転移がprostate-specific antigen(PSA)が上昇する前から存在している可能性が考えられた.
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関本 晃裕, 久留宮 康浩, 世古口 英, 菅原 元, 井上 昌也, 加藤 健宏
2022 年 83 巻 4 号 p.
780-784
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
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症例は72歳,女性.鼠径部粉瘤の精査の際に,腹部CTを施行したところ後腹膜,仙骨前面に腫瘤を指摘されたため,当科受診をした.腹部CTで骨盤内に66mm,48mm,10mm大の腫瘤性病変を認めた.遠隔転移を認めなかったが,多発性腫瘤であり悪性度が高いと判断し,後腹膜脂肪肉腫の疑いとして開腹腫瘤摘出術を施行した.病理診断の結果は副腎外骨髄脂肪腫であり,仙骨前面骨髄脂肪腫と診断した.術後4年7カ月現在,無再発生存中である.多発性の副腎外骨髄脂肪腫は本邦では報告例はない.今回,われわれは稀な症例を経験したので報告する.
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笹口 桂佑, 浦上 淳, 石田 尚正, 髙岡 宗徳, 林 次郎, 山辻 知樹, 物部 泰昌
2022 年 83 巻 4 号 p.
785-789
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
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症例は69歳の男性で,右鼠径部の膨隆を主訴に当院を受診となった.右鼠径ヘルニアと診断し,腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術を施行することになった.腹腔鏡で観察すると回腸から分岐し,盲端に終わる腸管が内鼠径輪から鼠径管内に嵌頓していた.周囲の腹膜を切開し,嵌頓した腸管を鼠径ヘルニアから剥離した.切開した腹膜は腹腔鏡下に縫合閉鎖した.小開腹創から嵌頓していた腸管を切除し,鼠径ヘルニアは鼠径部切開法で修復した.術後4日目に退院した.病理所見では,切除した腸管は隣接腸管との筋層の共有を認め,共通血管で栄養されていたことから,重複腸管と診断した.重複腸管の成人例は稀であり,また重複腸管が鼠径ヘルニアに嵌頓した症例は極めて稀である.今回,腹腔鏡手術を契機に重複腸管の鼠径ヘルニア嵌頓と診断した1例を経験したので報告する.
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田路 悠太, 鯉沼 潤吉, 江畑 信孝, 岩井 和浩, 木内 隆之, 平野 聡
2022 年 83 巻 4 号 p.
790-793
発行日: 2022年
公開日: 2022/10/31
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患者は61歳の男性で,約20年前に右腋窩腫瘤(10cm大)に対して摘出術を施行し,病理組織診断は脂肪腫であった.その11年後に同部位に再発した腫瘤(15cm大)に対して2回目の摘出術を施行し,病理組織診断は同様に脂肪腫であった.その4年後に再発した同部位の腫瘤(5cm大)に対して3回目の摘出術を施行したところ,病理組織診断は脱分化型脂肪肉腫であり,剥離面の評価で断端陽性の可能性ありと診断した.術後1カ月ほどで同部位に5cm大の腫瘤を認め,脂肪肉腫の再発と診断し,可能な限りマージンをとって4回目の摘出術を施行した.病理組織診断は異型脂肪腫様腫瘍であり,前回認めた脂肪肉腫の像は認めなかったが関連する病変と考えられた.腫瘍は剥離面に近接していたため,術後に腫瘍摘出部を中心に右腋窩に計50Gy/25Frを照射した.その後は再発所見無く,5年後の現在でも無再発で経過している.
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