日本臨床外科学会雑誌
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85 巻, 2 号
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原著
  • 亀田 靖子, 長谷 諭, 津村 裕昭, 小林 健, 髙橋 信也, 金廣 哲也
    2024 年 85 巻 2 号 p. 211-217
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    近年,抗血栓薬を内服中の鼠径部ヘルニア患者は増加している.抗血栓薬内服継続下での手術は出血のリスクが高くなる一方,抗血栓薬内服中止下での手術は血栓塞栓症のリスクが高くなる.当院では抗血栓薬内服中の鼠径部ヘルニア患者に対して内服継続下で鼠径部切開法を行っており,その安全性について検討した.対象は2015年8月から2021年12月までに当院で鼠径部ヘルニアに対し鼠径部切開法で手術を施行した1,192例とした.抗血栓薬内服継続群(内服群)225例と抗血栓薬非内服群(非内服群)967例に分け比較検討した.患者背景では,内服群は非内服群より年齢は有意に高く,ASA IIIの症例が有意に多かった.手術成績では手術時間,出血量,術後在院日数,術後血腫は有意に多かったが,Clavien-Dindo分類Grade IIIの出血は有意差は認めなかった.抗血栓薬内服継続下での鼠径部切開法による鼠径部ヘルニア手術は,処置を要する術後出血などの合併症は増加させず安全に施行可能であると考える.

臨床経験
  • 犬飼 美智子, 嶋田 昌彦, 松本 航一, 坂田 道生, 関 博章, 松本 秀年
    2024 年 85 巻 2 号 p. 218-221
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    近年,癌経験者の長期生存や晩婚化により,癌患者の妊孕性温存の必要性が高まっている.特に,乳癌は30歳台の発生件数も増えている.標準治療として約8割の症例に薬物療法が術前もしくは術後に行われるが,上昇する出産希望年齢と罹患年齢が近く,化学的閉経も問題となる.われわれは,当院で経験した33年間3,445例の乳癌術後に出産した患者14例を検討した.手術時の年齢の平均は32.4歳であり,ステージ0が5例,Iが9例であった.手術時10例が既婚であった.術後出産した時の年齢の平均は37.6歳であり,術後から平均5.2年が経過し,平均1.29人を出産していた.我が国の2018年平均第一子出生時年齢は30.9歳で,合計特殊出生率は1.30である.乳癌治療は進歩したが,出産症例は少なく,第一子出生時年齢は全国平均から6.7年遅延している.これは乳癌治療と妊孕性温存は未だ課題が多い現状を反映していると考える.当院の妊孕性温存治療の取り組みに文献的考察を加え報告する.

症例
  • 加藤 彩, 山村 順, 安原 裕美子
    2024 年 85 巻 2 号 p. 222-226
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    乳腺偽血管腫様過形成(pseudoangiomatous stromal hyperplasia:PASH)の局所再発の1例を経験したので報告する.症例は42歳,女性.2022年に右乳房A区域に50mm大の腫瘤を自覚し,当科を受診した.針生検でPASHと診断され,摘出術を施行した.病理組織学的診断もPASHであり,切除断端陽性であったが本人と相談の上,経過観察の方針とした.半年後の超音波検査で,前回の手術部位に52mm大と23mm大の2つの低エコー腫瘤が連なった形で出現していた.針生検では,膠原線維性間質の中に紡錘形細胞が血管腔様の間隙を呈しながら増生する像を認め,紡錘形細胞はCD34に陽性であることから,PASHと診断した.摘出術を施行したところ,摘出標本でも同様の所見が得られ,免疫染色により紡錘形細胞はCD34,α-SMA,Bcl-2が陽性,ER,PgR,Desmin,D2-40,CD31,Factor VIIIが陰性であった.2回目の手術から半年の時点で,再発兆候は認めていない.自験例に若干の文献的考察を加え報告する.

  • 下山 咲, 藤井 正宏, 深谷 昌秀, 青葉 太郎, 畑佐 実咲, 平松 和洋
    2024 年 85 巻 2 号 p. 227-231
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,女性.右乳房腫瘤を主訴に当院を受診.精査にて右乳癌,cT4bN0M0 Stage IIIB,トリプルネガティブと診断,術前薬物療法(pembrolizumab+paclitaxel+carboplatin療法)を開始した.4コース目に発熱と倦怠感,労作時呼吸苦を訴え,精査にて肺塞栓症,薬剤性肺障害,下垂体炎と診断,免疫関連有害事象(irAE)と判断した.入院にて,抗凝固薬内服とステロイドパルス療法を施行し,第17病日に退院した.薬物療法は中止し,irAE発症2カ月後に右乳房全切除+センチネルリンパ節生検を施行.病理組織検査では病理学的完全奏効(pCR)と診断された.

    トリプルネガティブ乳癌の周術期治療においてpembrolizumab併用薬物療法は標準治療だが,irAEに留意が必要である.本症例では複数のirAEにより術前薬物療法を中止したが,pCRを得られた.irAEの内容や薬物療法の治療効果により治療方針を決定すべきであると考えられた.

  • 幸地 あすか, 川尻 成美, 若狭 研一
    2024 年 85 巻 2 号 p. 232-236
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    乳癌術後に傍大動脈リンパ節単独転移をきたし,閉塞性黄疸を生じた,稀な経過の1例を経験した.症例は45歳,女性.左乳癌cT1N1M0 cStage IIA,Triple negative typeの診断にて,術前化学療法を施行した.左乳房部分切除術および腋窩リンパ節郭清を施行し,病理学的完全奏効(pathological complete response;pCR)が得られた.術後14カ月,倦怠感を認め受診した.血液生化学検査にて肝胆道系酵素は高値で,腹部CTでは肝門部から傍大動脈にかけて軟部陰影を認めたため,膵癌を疑った.しかし,超音波内視鏡検査で膵に明らかな腫瘍は認めず,肝門部および傍大動脈リンパ節の腫大と考えた.同部位の超音波内視鏡下穿刺吸引生検を施行したところ,原発巣が乳腺・膵ともに矛盾しない結果であり原発巣の同定に難渋したが,病歴や画像検査,病理組織学的検査を総合的に考慮し乳腺原発と考えた.Weekly paclitaxel+bevacizumab (wPTX+Bev)療法が奏効し,現在,臨床的完全奏効(clinical complete response;cCR)を維持している.

  • 小野 倫枝, 三隅 啓三, 中島 千佳
    2024 年 85 巻 2 号 p. 237-243
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    症例は76歳,男性.肺腺癌で13年前右上葉切除,5年前左上大区域切除を施行.関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)と深部静脈血栓症のため,methotrexate(MTX)や抗凝固薬を内服していた.ふらつきと凝固過延長で,肺癌術後に増大・縮小を示す肺腫瘤で経過観察中の当科に紹介された.血液検査で,Ca高値,凝固能の著明な延長を,CTで肺腫瘤の増大と多発肝腫瘤を認め,再発を疑った.緊急入院後に下血をきたし凝固能を改善した後,上部消化管内視鏡で十二指腸の陥凹性病変に生検を行い,肺病変に対しても針生検を行った.病理組織の免疫染色では,両生検検体ともにLCA・L26強陽性のリンパ球細胞がびまん性に増殖し,血中可溶性IL-2レセプターも高値であった.MTXを長期内服中の医原性免疫不全状態で発症したびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の診断に至った.多発肺腫瘤の新規出現を認め,肺癌術後の再発を考えたが,MTX内服中のRA患者では,免疫不全関連リンパ増殖性疾患も鑑別に挙げる必要がある.

  • 高田 潤一, 井上 雄太
    2024 年 85 巻 2 号 p. 244-249
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    症例は53歳,女性.胸部CTで偶発的に70×50mm大の縦隔腫瘤を指摘され,当科に紹介となった.腫瘤は液体成分主体で壁の一部に造影効果を認めた.胸腺腫・奇形腫などを鑑別に,切除方針とした.胸腺右葉に連続し緊満した嚢胞性腫瘤を認めた.被膜と癒着した小範囲の右縦隔胸膜とともに,完全切除しえた.切開すると茶褐色の内容物が噴出し,嚢胞底には泥状の組織が沈殿した.病理所見では,嚢胞内容は壊死組織が主で,壁の一部にAE1/AE3陽性の上皮成分とterminal deoxynucleotidyl transferase陽性のリンパ芽球を認めた.WHO分類のType ABの胸腺腫で,UICC-TNM分類はT1N0M0-Stage I,正岡分類はI期と診断した.胸腺腫は,嚢胞性変化・壊死など多彩な病理像を呈するが,広範な壊死を伴うものの無症状の嚢胞性胸腺腫は比較的まれであり,報告する.

  • 中橋 剛一, 河合 徹, 京兼 隆典, 相場 利貞, 山崎 公稔, 鈴木 大介, 宮地 正彦
    2024 年 85 巻 2 号 p. 250-255
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    症例は77歳,男性.既往に神経線維腫症1型があり,3年前に右耳介後部の腫瘍摘出術を他院で施行し,病理で悪性末梢神経鞘腫の診断であった.今回,腰痛で体動困難となり搬送された.CTでは腰椎近傍の腫瘍による骨破壊の他に,偶発的に小腸腫瘍による腸重積と亜腸閉塞を認め,外科に紹介となった.イレウス管で減圧の後,準緊急で腹腔鏡下小腸部分切除術を施行した.病理結果では紡錘形細胞の構造分化を見ない充実性増生を認め,免疫染色の結果と合わせて小腸悪性末梢神経鞘腫と診断した.経過は良好で,術後15日目に整形外科に転科となったが,腰椎腫瘍に対する治療は希望せず,術後4カ月目に療養先の病院で原病死した.悪性末梢神経鞘腫の多くは体幹・四肢に生じ,消化管に発生するものは非常にまれである.今回,われわれは神経線維腫症1型に伴うまれな小腸悪性末梢神経鞘腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

  • 鴨志田 愛, 丸山 常彦, 小田 竜也, 金子 宜樹, 中橋 宏充
    2024 年 85 巻 2 号 p. 256-259
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    魚骨による急性虫垂炎の報告は散見されるが,interval appendectomy(以下IA)を施行した報告は認めない.IAを施行しえた魚骨による膿瘍形成性虫垂炎の1例を経験したので報告する.症例は80歳,男性.2日前より腹痛が出現し経口摂取困難となり,急性虫垂炎の疑いで当院へ紹介受診となった.右下腹部に圧痛を認めた.腹部CTで膿瘍内に線状のX線不透過像を認め,魚骨による膿瘍形成性虫垂炎と診断した.抗菌薬による保存的治療を行い,約6カ月後に腹腔鏡下のIAを施行した.虫垂の腫大は認めず,虫垂先端に癒着を認めたものの,切除可能であった.術後は合併症なく経過し,術後3日で退院となった.虫垂内部には魚骨と考えられる針状物質を2本認め,虫垂先端に潰瘍瘢痕を認めた.魚骨による急性虫垂炎は穿孔のリスクが高いという報告もあり,診断時に穿孔や膿瘍を認めない症例は,速やかな虫垂切除術が必要と考えられるが,既に膿瘍形成を認める場合にはIAも治療戦略の1つとなり得ると思われた.

  • 安井 七海, 中川 和也, 舩津屋 拓人, 小澤 真由美, 石部 敦士, 遠藤 格
    2024 年 85 巻 2 号 p. 260-265
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    症例は38歳,女性.5日前からの下腹部痛を主訴に近医を受診した.右下腹部に5cm大の腫瘤を触知し,同部位に軽度の圧痛を認めた.血液検査では軽度の炎症反応の上昇があり,腹部造影CTでは虫垂の腫大と,膿瘍を疑う内部均一な低吸収領域を認めた.穿孔性虫垂炎が疑われ抗菌薬投与が開始されたが,虫垂粘液腫なども鑑別に挙げられた.当院に転院後,切除による診断・治療目的で手術を施行した.術中所見では虫垂先端部は大網に被覆されていたが膿瘍形成は認めず,虫垂根部は腫大のみで,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.術後は合併症なく経過し,術後5日目に軽快退院となった.切除標本では虫垂粘膜と周囲の脂肪組織に淡黄色調領域を認め,病理組織学的に泡沫状組織球の浸潤を多数認め,黄色肉芽腫性虫垂炎と診断された.本症例は稀な疾患であり,悪性腫瘍が術前疑われ拡大手術を施行される例がほとんどであり,文献的考察を加えて報告する.

  • 遠藤 美代, 薮崎 紀充, 加藤 碩人, 尾嵜 浩太郎, 肌附 宏, 横井 一樹
    2024 年 85 巻 2 号 p. 266-271
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    症例は75歳,男性.73歳時に当院にて直腸癌に対してロボット支援下低位前方切除術を施行,病理診断はpT4aN0M0 pStage IIb,術後補助化学療法を行った.術後9カ月に左外鼠径ヘルニアに対して腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術,術後22カ月に転移性肝腫瘍に対して腹腔鏡下肝S4部分切除術を施行した.術後27カ月経過時にCTで左鼠径部腫瘤を認め,PET/CTでも同部に集積を認めたため,直腸癌精索転移が疑われた.診断的治療目的で左高位精巣摘除術を施行し,病理組織学的所見から直腸癌精索転移と診断した.消化器癌の精索転移は稀であり,中でも大腸癌の精索転移は非常に稀であるため,文献的考察を加えて報告する.

  • 山川 ありさ, 細井 敬泰, 高山 祐一, 高橋 崇真, 青山 広希, 前田 敦行
    2024 年 85 巻 2 号 p. 272-277
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    症例は66歳,男性.幼少期から完全内臓逆位を指摘されていた.検診で胆石を指摘されており,手術目的に外科に紹介となった.腹部造影CTでは,萎縮した胆囊と胆石に加えて,完全内臓逆位を認めた.完全内臓逆位を伴う胆石症と診断し,腹腔鏡下胆囊摘出術を施行した.術者は患者の右側に立ち,基本は通常と左右対称となる4ポートで,臍部にカメラ,剣状突起下に術者左手,左肋骨弓下鎖骨中線上に術者右手,左肋骨弓下前腋窩線上に助手としたが,術者右手用のポートは胆囊から距離をとるために7cm尾側にずらした.手術時間は44分,出血量は5mLでCalot三角部での剥離も含め,剥離操作は全て右手で容易に施行可能であった.術後経過は良好で術後4日目に退院した.完全内臓逆位に対する腹腔鏡下胆囊摘出術において,ポート位置を工夫することで良好な操作性が得られ,通常に近いアプローチで完遂できた.

  • 坂元 竜馬, 寺下 勇祐, 織畑 光一, 下里 あゆ子, 奥田 純一
    2024 年 85 巻 2 号 p. 278-283
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    未分化多形肉腫(undifferentiated pleomorphic sarcoma:以下,UPS)は局所再発を生じやすい予後不良な悪性腫瘍であり,UPSの腹腔内破裂は稀である.今回,腹腔内破裂を呈したUPSおよびその局所再発に対し,繰り返し肉眼的根治切除を行うことで長期生存を得た1例を経験した.症例は42歳の男性で,1カ月続く腹部膨満感およびその後生じた腹痛・背部痛のため当院へ搬送された.腹部CTでは右側腹部を中心に小児頭大の腫瘤を認め,MRIでは腫瘍内出血を示唆する所見が見られた.貧血の進行も認めたため,開腹での腫瘍摘出を行った.後腹膜原発UPSの診断で外来フォローを行っていたが,術後4カ月の腹部CTで再発を指摘され,再度根治切除を実施した.その後,腹腔内再発を2度繰り返し,その度に手術を施行した.初回手術から5年現在,無再発生存中である.UPSの腹腔内破裂は珍しく,早期再発の原因にもなりうるが,切除しうる限りの切除と綿密な経過観察が長期生存に寄与しうることが示唆された.

  • 小西 貴子, 國末 浩範, 太田 徹哉, 澁谷 明広, 高岡 宗徳, 山辻 知樹
    2024 年 85 巻 2 号 p. 284-288
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    症例は72歳,女性.左下腹部痛と左臀部痛を主訴に救急外来を受診した.CTでは左大坐骨孔から骨盤外へ脱出する小腸を認め,左坐骨ヘルニアと診断した.嵌頓を疑う所見は認めず,血液検査でも異常所見は認めなかった.診察後,疼痛は自然軽快したが,今後も疼痛を繰り返す可能性を考慮し,待機的に腹腔鏡による修復術を施行した.腹腔鏡下に骨盤内を観察すると,左大坐骨孔に約3cm大のヘルニア門を認めた.左坐骨ヘルニア以外にも両側の大腿ヘルニアおよび閉鎖孔ヘルニアを認めた.嵌頓の危険性を考慮し,これらを全て修復する方針とした.腹膜を切開・剥離し,左坐骨ヘルニアはヘルニア孔にプラグを充填して修復を行った.大腿ヘルニアおよび閉鎖孔ヘルニアはメッシュを被覆して修復した.術後経過は良好で,第7病日に退院となった.現在まで再発なく経過している.坐骨ヘルニアの修復において腹腔鏡によるアプローチは有用であると考えられた.

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