全日本鍼灸学会雑誌
Online ISSN : 1882-661X
Print ISSN : 0285-9955
ISSN-L : 0285-9955
60 巻, 1 号
全日本鍼灸学会雑誌
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
巻頭言
特別講演
  • 猪熊 茂子
    原稿種別: 特別講演
    2010 年 60 巻 1 号 p. 2-12
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/07
    ジャーナル フリー
  • 関 隆志
    原稿種別: 特別講演
    2010 年 60 巻 1 号 p. 13-22
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/07
    ジャーナル フリー
    東北大学病院漢方内科では、 誰にでも出来て、 再現性のある鍼刺激を、 様々な疾患の患者に行ったときの生体の反応を観察する研究を行ってきている。 その鍼刺激とは、 毫鍼をツボに垂直に刺して、 手技や刺激などをせずに、 ただ抜針する方法である。
     我々は、 高齢者で問題となっている、 嚥下障害・誤嚥性肺炎、 歩行障害、 緑内障、 排便障害に対し、 鍼灸刺激をしてその効果を検討した。
     脳血管障害に罹患すると嚥下反射が阻害され、 足三里と太谿に鍼刺激を行うとその反射が改善し誤嚥が減少する。 歩行障害のある患者の足三里、 太谿および腎兪に鍼刺激を行うと、 歩行機能とADLが改善する。 緑内障患者の、 太衝、 太谿、 三陰交、 足三里、 腎兪、 肝兪、 風池、 四白、 攅竹、 太陽に鍼刺激を行うと、 眼圧が低下すると共に視力が改善する。
     これらの研究の特色は、
    1) 鍼刺激は、 直刺して15分間置針の後に抜針するのみで、 刺針手技や電気刺激などを一切行わない
    2) 伝統医学の弁証によらず、 西洋医学の観点から診断した被験者に対して行った鍼治療の臨床試験
     という点である。
     1)は、 針の置針のみでも大きな臨床的な効果を鍼治療はもたらしうることを示唆し、 2)は、 西洋医学の診断に基づいて被験者を選択した臨床試験でも鍼治療の有効性を示しうることを示唆している。
     また、 我々は、 厳密に温度制御できる温熱刺激装置を開発し、 神闕を中心とした部位に温熱刺激を加えたところ、 上腸間膜動脈の血流量が増加することを報告した。
     以上の報告はプレリミナリーなものであるが、 鍼灸治療の大きな可能性を示唆している。
     本邦には内科医と同じくらいの数のはり師、 きゅう師がいるとされている。 鍼灸師には大きなマンパワーがあるのである。 高齢化に伴ってみられる 「老年症候群」 による様々な問題を解決する新しい方法として鍼灸治療を見直すべきではなかろうか。
  • 鈴木 則宏
    原稿種別: 特別講演
    2010 年 60 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/07
    ジャーナル フリー
    「頭痛」 は最も一般的な自覚症状で 「頭痛」 を経験したことのない人はいないと言っていいほどかもしれません。 頭痛は大きく3つに分類されます。 二日酔いの時や、 かき氷を食べた直後に起こる頭痛などの日常的に起こる頭痛。 次に、 くも膜下出血、 脳出血、 髄膜炎、 脳腫瘍などの脳とその周囲、 たとえば眼や副鼻腔や顎関節などに原因がある頭痛。 これらはまとめて 「器質性疾患にともなう症候性頭痛 (二次性頭痛)」 と呼ばれます。 最後が一次性頭痛と呼ばれる 「慢性頭痛」 です。 すなわち頭痛が一度では治まらず月に1~2回、 重症の場合にはなんと毎日頭痛で悩まされる状態です。 慢性頭痛は、 生命を危ぶむことはないものの、 頭痛によって生活に支障をきたしてしまうものです。 ようやく最近になって確実な治療法が現れたということ、 そして思った以上に悩んでいる患者さんが多く、 患者さん自身の仕事の能率 (勤務や家事)、 人間関係、 雇用状況、 仕事の将来性など、 社会生活や家庭生活に大きく影響を及ぼしていることが分かってきた、 ということで話題になっている頭痛です。 慢性頭痛には片頭痛、 緊張型頭痛、 群発頭痛の3つがあります。 特に片頭痛はこれまで長い間、 頭蓋内外の血管自体の疾患、 であると考えられてきました。 しかし、 片頭痛前兆の研究やトリプタンの薬理作用機序などから、 現在では血管疾患ではなく、 大脳を中心とした中枢神経の疾患としてとらえるべきであるという概念が有力になってきています。 すなわち、 片頭痛のメカニズムは中枢神経系において生じた変化が二次的に脳血管を支配するように分布する三叉神経を活性化させ血管を拡張させ、 さらに炎症を起こさせて疼痛を発生させるという考え方が主流になっています。
パネルティスカッション
  • 高橋 啓介, 赤羽 秀徳, 粕谷 大智, 中澤 光弘
    原稿種別: パネルディスカッション
    2010 年 60 巻 1 号 p. 32-47
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/07
    ジャーナル フリー
    近年、 腰痛をめぐる環境が大きく変化し、 腰痛に対する概念が大きく転換しつつある。 それは、 腰痛を 「脊椎の障害」 という捉え方から、 「生物・心理・社会的疼痛症候群」 という概念で捉えることの重要性が認識されるようになってきたことである。 従来の椎間板の障害といった形態的異常を腰痛の病態とする考え方から目に見えない機能障害という視点からも腰痛の病態を把握しようとする考え方である。 このように疾病構造が多様化していることから、 鍼灸臨床においても適切に対応できる力量が求められている。 即ち、 病態を把握した上で適切な治療を行うという考えは医療人として身に付けておかなければならない重要な要素である。
    今回のパネルディスカッション1は、 このような視点に立ち、 整形外科医、 理学療法士もパネリストに加わり、 「腰痛に対するプライマリケア」 を企画した。 まず、 腰痛に対する概念が大きく転換しつつあることを踏まえて、 病態の捉え方、 対応の仕方、 鍼灸の適応と限界、 治療方法、 評価法について、 それぞれの立場から述べて頂いた。
原著
  • 松熊 秀明, 中村 辰三
    原稿種別: 原著
    2010 年 60 巻 1 号 p. 48-53
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/07
    ジャーナル フリー
    【目的】皮膚への軽微な突起押圧刺激が近傍部ヘモグロビン動態に及ぼす影響を検討した。
    【方法】対象は健康成人10名とした。 測定は近赤外線分光法を用いて、 両側前腕の酸化ヘモグロビン、 総ヘモグロビンを測定し、 刺激前後で比較した。 刺激は右前腕に突起付きのテープを貼付した。 左前腕部には対照としてテープのみを貼付した。
    【結果】突起押圧刺激を行った右前腕部では、 刺激前と比べて刺激後10分において酸化ヘモグロビンの有意な増加 (P<0.05) を認めた。 しかし、 テープのみを貼付した左前腕部には有意差を認めなかった。 総ヘモグロビンの動態においては左右ともに有意差を認めなかった。
    【結論】酸化ヘモグロビンの動態が突起押圧刺激により増加したことについては、 軸索反射により末梢血管が拡張し、 血流 (血液量) が増加したものと考えられる。 長期間の貼付した場合更なる効果の増大が見込まれ、 局所循環の改善に有効であることが示唆された。
  • 手三里穴・足三里穴・中カン穴と無刺激の比較
    岩元 英輔, 村瀬 健太郎, 谷之口 真知子, 本石 希美
    原稿種別: 原著
    2010 年 60 巻 1 号 p. 54-63
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/07
    ジャーナル フリー
    【目的】刺激部位の異なる鍼刺激が血管弾性に及ぼす影響について、 健常者を対象に脈波伝播速度 (Pulse Wave Velocity:PWV) を用いて検討した。
    【方法】健常者70 名を対象とし、 無作為に15分間の安静を行う無刺激群 (n=10) と手三里穴 (n=23)、 足三里穴 (n=18) 、 中カン穴 (n=19) のいずれかに15分間の置鍼を行う鍼刺激群に割付けた。 血管の弾性を反映する血管弾性値 (brachial-ankle PWV score:baPWVs)、 狭窄度を反映する足首上腕血圧比 (Ankle Brachial pressure Index:ABI)、 収縮期血圧 (Systolic Blood Pressure :SBP)、 拡張期血圧 (Diastolic Blood Pressure:DBP)、 心拍数 (Heart Rate:HR) を計測し、 刺激前後および無刺激群と各鍼刺激群の群間比較を行った。
    【結果】(1) 手三里穴群においてbaPWVsは、 刺激前1222±203 cm/s、 刺激後986±143 cm/s mean±S.D.と有意な低下を認め (p<0.05)、 群間比較においても有意な低下 (p<0.05)を認めたが、 ABI、 SBP、 DBP、 HRは刺激前後、 群間比較ともに有意差は認めなかった。 (2) 足三里穴群においてbaPWVsは、 刺激前1245±126cm/s、 刺激後1014±120cm/sと有意な低下を認め (p<0.05)、 群間比較においても有意な低下 (p<0.05) を認めたが、 ABI、 SBP、 DBP、 HRは刺激前後、 群間比較ともに有意差は認めなかった。 (3) 中カン穴群において4項目の刺激前後、 群間比較のいずれも有意差は認めなかった。
    【結語】結果より、 手三里穴と足三里穴の鍼刺激は、 血管平滑筋の柔軟性を亢進させたが、 中カン穴では、 変化を認めなかった。 これより、 血管弾性に鍼刺激が及ぼす影響は、 四肢と腹部で異なることが示唆された。
報告
  • 鶴 浩幸, 江川 雅人, 今井 賢治, 北小路 博司
    原稿種別: 報告
    2010 年 60 巻 1 号 p. 64-73
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/07
    ジャーナル フリー
    鍼灸臨床におけるインシデントの掌握と医療事故防止のための取り組みの一環として、 明治国際医療大学附属鍼灸センターにおいてインシデントレポートシステム (IRS-M) を構築した。 インシデントレポートは同スタッフを報告者として、 インシデントに遭遇した日 (または発見した日) にレポートを提出することとした。 事例は月1回各項目別に集計し、 事例内容のフィードバックは同センター朝礼で定期的に口頭にて伝達し、 同時にポスター掲示を行った。 2004年7月から2005年9月までの総報告事例は146例で、 その内訳は 「治療環境96例」、 「治療前0例」、 「治療中・治療後50例」 であった。 治療環境では《不適切な鍼灸施術道具の処理66例》、 治療中・治療後では《鍼を抜き忘れそうになった12例》が最多であった。 1ヶ月に平均10事例が起こっていたが、 事例内容は鍼灸師自身が留意すれば防げるものがほとんどであり、 事故防止のためには教員や学生に情報を継続的にフィードバックし、 注意を促すことが重要と考えられた。
  • ランダム化比較試験による臨床的有効性の検討
    渡邉 勝之, 篠原 昭二
    原稿種別: 報告
    2010 年 60 巻 1 号 p. 74-83
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/07
    ジャーナル フリー
    【はじめに】経穴や局所反応点とは異なる、 強力反応点に適した鍼刺激の有効性を明らかにすることを目的として、 ランダム化比較試験 (RCT:Randomized Controlled Trial) を実施した。
    【方 法】対象は2007年11月から2008年10月に、 明治国際医療大学附属鍼灸センター来院患者で筆者が担当した142名とした。 強力反応点への鍼刺激の臨床的有効性を検証するため、 1期を3ヶ月間として下記の4期に分けRCTを実施した。 RCT1は非特異点群と強力反応点群1、 RCT2は経穴群と強力反応点群2、 RCT3は局所反応点群1と強力反応点群3、 RCT4は局所反応点群2と強力反応点群4として検討した。
    【結 果】非特異点、 経穴、 局所反応点よりも強力反応点への鍼刺激の方が高い臨床的有効性を示した。 また適刺激であれば刺激の量や質に関係することなく、 同等な臨床的有効性を示したことから、 刺激の場所が重要であることが示された。
    【考 察】病態に応じて一人ひとり発現する場所が異なる、 強力反応点への適刺激であれば、 刺激の量と質に関係することなく、 再現性を有する臨床的有効性を示したことは、 テーラーメイドの医療や鍼灸医学の理論的基盤である 「随機制宜」 にも適い、 意義深いと考える。
    【結 論】RCTの結果より、 非特異点、 経穴、 局所反応点への鍼刺激よりも、 強力反応点への鍼刺激の方が高い臨床的有効性を示した。 また、 強力反応点への適刺激であれば、 刺激の量・質・時間に関係することなく、 同等な臨床的有効性を示した。
臨床体験レポート
  • 小西 未来, 鈴木 雅雄, 竹田 太郎, 福田 文彦, 石崎 直人, 堂上 友紀, 北小路 博司, 山村 義治
    原稿種別: 臨床体験レポート
    2010 年 60 巻 1 号 p. 84-90
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/07
    ジャーナル フリー
    【はじめに】肺炎は強い咳嗽が出現し、 咳嗽はQOLは著しく低下させる。 今回、 肺炎に伴い強い咳嗽と身体疼痛を訴えた患者に対し、 鍼治療を行い良好な結果が得られたので報告する。
    【症例】47歳女性。 主訴:咳嗽とそれに伴う身体疼痛。 現病歴:X年8月2日近医にて肺炎と診断され、 抗生剤を処方されたが症状の改善を認めず、 本学附属病院内科を紹介受診し同日より入院加療となった。 繰り返す咳嗽とそれに伴う身体疼痛が強いため主治医に指示によりX年8月7日鍼治療併用を開始した。 所見:血液検査にて炎症所見を認め、 胸部聴診、 胸部CTにて肺炎所見を認めた。
    【評価】咳嗽時の身体疼痛をVisual Analogue Scaleにより評価した。
    【治療・経過】鍼治療は鎮咳と身体疼痛軽減を目的に弁証論治に基づいて配穴し、 置鍼術は10分とした。 7日間に10回の鍼治療を行い、 症状の軽減が認められた。
    【考察・結語】本症例において咳嗽とそれに伴う身体疼痛に対し、 鍼治療を併用することが有効である可能性が示唆された。
国際部報告
  • 執行理事改選およびJSAMからWFAS執行部への提案
    若山 育郎, 高澤 直美, 石崎 尚人, 津嘉 山洋, 津谷 喜一郎
    原稿種別: 国際部報告
    2010 年 60 巻 1 号 p. 91-99
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/06/07
    ジャーナル フリー
    2009年11月3日~7日にかけて、 フランス・ストラスブールの欧州議会会議場において、 世界鍼灸学会連合会 (WFAS) 第6次執行理事会、 第7次総会、 第7次執行理事会、 2009年度学術大会が開催された。
     WFAS総会では、 執行理事の改選が行われ、 49名の執行理事から成る第7次執行理事会が発足した。 また、 2010~2013年度のWFASシンポジウム・世界鍼灸学術大会の開催国が決定した。
     新執行理事会では、 全日本鍼灸学会 (JSAM) からWFASの運営方法に関する提案を行った。 提案は8項目から成るものであったが、 その中で執行理事会の議事録を作成すべきであるという提案が最も重要な提案であった。 WFAS執行理事会では、 これまで2006年のバリ大会の会議を除いて議事録が各理事に配布されたことはなかったからである。
     学術大会では、 鍼灸に関する教育、 法整備、 また伝統的研究、 科学的研究などのセッションが開催された。
     JSAMとしては、 今後も学術面においてWFASに貢献するとともに、 必要と考えられる提言をしていくことがWFASの発展に寄与すると考えている。
feedback
Top