全日本鍼灸学会雑誌
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60 巻, 5 号
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巻頭言
会長講演
原著
  • 藤井 亮輔
    原稿種別: 原著
    2010 年 60 巻 5 号 p. 792-801
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    【目的】鍼灸按摩事業所の営業数と市場規模を推計し地域医療資源の基礎資料に資する。
    【方法】98地区保健所から収集した三療事業所16,271件 (全国比21.0%) の名簿から施術所5,000件と出張業者1,000件を抽出し調査票を送付した。
    【結果】有効回答率は23%だった。 住所地非現存率 (施術所20.6%、 出張業者31.5%)、 廃業・休業率 (同順で12.4%と41.3%) 及び電話帳調査結果から2007年初頭の営業事業所数を49,710件と推計した。 平均年収は個人施術所488万円、 同出張業者284万円、 法人施術所3,485万円、 同出張業者1,633万円だった。 これらのデータを基に、 三療業の2006年の市場規模を概算で3千250億円と推計した。
    【考察】国の2006年度衛生統計の大幅な下方修正が必要である。 存否不詳事業所が1万6000件余り (全事業所比21%) 存在することから、 国の全国実態調査の早期実施が望まれる。
    【結論】2007年の鍼灸按摩事業所は概算で5万件、 市場規模は3千250億円と推計された。
  • 神田 浩里, 岡田 薫, 川喜田 健司
    原稿種別: 原著
    2010 年 60 巻 5 号 p. 802-810
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    【目的】鍼や灸刺激の反応のひとつとして、 求心性の無髄C線維の軸索反射によるフレア反応が観察される。 カプサイシン溶液を皮膚に貼付するとフレア反応を誘発し、 繰り返し貼付するとカプサイシン感受性C線維を脱感作させる。 本研究では、 鍼灸刺激で誘発されるフレア反応に関与する受容体を調べることを目的に、 フレア反応への脱感作の影響を検討した。
    【方法】同意の得られた健康成人13名 (男性6名、 女性7名;26.0±5.6才) を対象とした。 カプサイシン溶液 (0.1%) を濾紙 (20×20mm) に含ませ、 左前腕内側部に3日間貼付 (6時間/1日) し脱感作させ、 その対側をコントロール部位とした。 両部位の熱・機械的痛覚閾値、 鍼や灸刺激による皮下血流量の変化を測定した。
    【結果】脱感作部位ではコントロール部位に比べ、 熱痛覚閾値は有意に上昇したが、 機械的痛覚閾値変わらなかった。 また脱感作により、 灸刺激によるフレア反応は減少し、 鍼刺激によるフレア反応は消失した。
    【考察】鍼や灸刺激は主にカプサイシン感受性C線維よってフレア反応を生じることが明らかとなった。 熱刺激に応じる熱受容チャネルはTRPV1以外にもいくつか報告されているが、 今回灸刺激によって起こったフレア反応はカプサイシン脱感作により大きく減少したことから、 主にTRPV1を持つカプサイシン感受性C線維を介して起こったことが考えられた。 また、 脱感作後に灸刺激によって起こったわずかな反応は、 他の温度受容体も関与するかもしれないことを示唆している。 一方、 鍼刺激によるフレア反応は脱感作によって完全に消失した。 機械的痛覚閾値が脱感作によって影響を受けなかったことや、 TRPV1は機械刺激では興奮しないため、 鍼刺激によるフレア反応は機械刺激ではなく組織損傷で産生される化学物質によって引き起こされた可能性が考えられた。
  • 秩辺穴の周囲構造物と坐骨神経に対する刺鍼部位について
    郡 拓也, 東條 正典, 藤井 亮輔, 野口 栄太郎, 坂本 裕和, 秋田 恵一
    原稿種別: 原著
    2010 年 60 巻 5 号 p. 811-818
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    【目的】WHOにより標準経穴部位(361穴, 2006)の合意が成され、 それに伴って秩辺の取穴場所の変更が行われた。 新旧両秩辺とその周囲構造物との位置関係および腰痛に対する治療部位としての坐骨神経への刺鍼点について検討した。
    【方法】東京医科歯科大学解剖学実習体3体6側を使用した。 殿部および大腿後面における太陽膀胱経に、 WHOの取穴方法に従って刺鍼を施し、 その部位を中心とした局所解剖を行った。
    【結果】1.新秩辺(WHO, 2006)は、 後大腿皮神経、 下殿神経・動脈、 坐骨神経が出現する梨状筋下孔の近傍に位置した。
    2.旧秩辺は上殿神経・動脈が出現する梨状筋上孔の近傍に位置した。
    3.殿部および大腿後面での坐骨神経への刺鍼部位として、 (1)坐骨神経形成根部、 (2)梨状筋下孔、 (3)仙尾連結と大転子を結ぶ線上の外側1/3点、 (4)坐骨結節と大転子を結ぶ線上の中点、 (5)承扶の約1cm外側の地点、 (6)殷門の外側、 大腿二頭筋筋腹の内側半部、 が挙げられた。
    【結論】1. 新旧両秩辺とも殿部および大腿後面にとって重要な神経・血管の近傍に位置し、 種々の病的症状に対する有効な刺鍼部位と考えられる。
    2. 殿部および大腿後面での坐骨神経に対する刺鍼部位として、 走行経路より6カ所が示唆された。
報告
  • 冨田 賢一, 渡邊 一平
    原稿種別: 報告
    2010 年 60 巻 5 号 p. 819-828
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    【目的】生姜灸は艾と皮膚の間に介在物として生姜を置く隔物灸で、 局所の湿熱による温和な刺激効果が期待できる灸法である。 今回、 我々は艾重量を固定し、 生姜の厚さを変化させることで生じる温熱刺激特性を温度センサーを用い調査した。 また厚さの異なる生姜灸を被験者に行い、 温熱刺激に対するアンケート結果と施灸時の最高温度の関係について調査した。
    【方法】厚さ3mmのベニア板上に温度センサーを設置した。 生姜は一辺2cmの正方形に切り、 厚さは3mm、 5mm、 7mmの3種類とした。 各厚さにスライスした生姜の上で、 重量200mg、 高さ2cm、 直径2cmの円錐形に整えた艾シュを燃焼させ、 経時的温度変化を測定した。 また人体に対する温度感覚の調査として、 それぞれの厚さの生姜灸を前腕内側部に行う際、 生姜灸と皮膚との間に温度センサーを設置して、 施灸時の最高温度を調査し、 施灸後、 生姜灸についての温熱感覚と快適感覚に関するアンケートを行った。
    【結果】ベニア板上における温度測定の結果、 隔物である生姜が厚いほど、 最高温度は低くなり、 最高温度到達時間も遅くなることがわかった。 また、 人体への施灸の結果、 温熱感覚と施灸時最高温度の間に相関関係が認められ、 生姜の厚さが薄いほど温熱感覚が強い傾向が認められた。 快適感覚については、 やや心地良い、 心地良い、 非常に心地良いと回答した被験者は、 3mmは10例中5例、 5mmは12例中9例、 7mmは9例中5例に認められた。
    【考察と結語】生姜灸を行う際の隔物の厚さは刺激量を決定する上で、 重要な要素であると考えられた。 快適感覚については、 生姜灸の温熱刺激は心地よさを与えやすい刺激であると考えられたが、 最も薄い厚さ3mmの生姜灸は不快感を訴えた被験者が10例中5例認められた。 艾重量200mgの生姜灸を行う際、 患者に不快感を与えないよう施灸する場合、 生姜の厚さは5mm以上が望ましい事が示唆された。
  • 頸・肩こり, 眼疲労に及ぼす影響
    鈴木 真理, 山口 智, 五十嵐 久佳, 小俣 浩, 菊池 友和, 田中 晃一, 磯部 秀之, 大野 修嗣, 三村 俊英, 君嶋 眞理子
    原稿種別: 報告
    2010 年 60 巻 5 号 p. 829-836
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    【はじめに】近年、 情報化の発達により、 VDT作業者は急増している。 VDT作業者における心身の疲労は以前から問題視されているが、 多くのVDT作業者が有する頸肩こりや眼疲労に対する鍼治療効果についての報告は数少ない。 そこでこの前向き研究では、 VDT作業者の愁訴に対する鍼治療効果について検討した。
    【方法】対象はVDT作業者61例 (男性41例、 女性20例) である。 鍼治療は、 週1回、 計4回、 個々の頸や肩の症状に応じて、 円皮鍼を用いて行った。 評価は、 頸こり・肩こりと眼疲労を自己記入式で行った。 VAS値の経時的変化、 また鍼治療前と4週後のVAS値より改善率を算出し、 眼疲労と頸こり・肩こりの関連について検討した。
    【結果】鍼治療により頸こり、 肩こり、 眼疲労のVASの値はともに、 初診時より徐々に減少を示した。 また、 眼疲労と頸こり・肩こりの改善率には正の相関が認められた。
    【結論】VDT作業者の頸や肩のこりに対し鍼治療を行い、 頸肩こりが軽減するとともに、 眼疲労も改善することが示された。 鍼治療は産業医学の分野で有用性の高いことが示唆された。
臨床体験レポート
  • 転位した関節円板と随伴症状に対する効果
    皆川 陽一, 伊藤 和憲, 今井 賢治, 大藪 秀昭, 北小路 博司
    原稿種別: 臨床体験レポート
    2010 年 60 巻 5 号 p. 837-845
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    【目的】鍼治療は、 顎関節症の保存療法としてよく用いられているが、 その多くが咀嚼筋障害を主徴候としたI型の報告である。 そこで今回、 関節円板の異常を主徴候としたIIIa型患者に対して鍼治療を行い、 症状の改善が認められた1症例を報告する。
    【症例】19歳、 女性。 主訴:開口障害、 開口・咀嚼時痛。 現病歴:X-1年、 左顎に違和感が出現した。 X年、 口が開きにくくなると同時に開口・咀嚼時の顎の痛みが出現したため歯科を受診した。 診察の結果、 MRI所見などから顎関節症IIIa型と診断され鍼治療を開始した。
    【方法】鍼治療は、 関節円板の整位と鎮痛を目的に外側翼突筋を基本とした鍼治療を週1回行った。 効果判定は、 主観的な顎の痛み・不安感・満足感をVisual Analogue Scale(VAS)で、 開口障害を偏位の有無で、 円板・下顎頭の位置や形態の確認をMRIにて評価した。
    【結果】初診時、 顎の痛みを示すVASは52mmであり鍼治療を行ったところ、 2診目治療前には痛みの軽減がみられた。 4診目に一時的な症状の悪化が認められたが、 その後も治療を継続することで顎の痛みを示すVASが2mmまで改善した。 一方、 治療8回終了後のMRI撮影では関節円板の転位に著変はないものの運動制限と開口障害の改善がみられた。
    【考察】顎関節症IIIa型に対する鍼治療は関節円板の整位はみられないものの転位した関節円板に随伴する症状を改善させる効果を有することが示唆された。
その他(調査)
  • 清川 朝栄, 古橋 一人, 葛谷 壽彦, 坂本 幹男, 楠本 高紀
    原稿種別: その他(調査)
    2010 年 60 巻 5 号 p. 846-853
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
    目的】中和医療専門学校附属治療所には臨床実習教育の役割がある。 実習の充実には、 ある程度の患者数が必要である。 一定の患者数を確保するためには、 患者の意識と動向を探ることが一手段に繋がるのではないかと考え、 調査することにした。
    【対象】治療所に来院する初診扱い患者344人中218人分のカルテ (抽出率63.4%) と、 継続患者332人の中から同意を得た172人の継続患者 (抽出率51.8%) を対象に調査した。
    【方法】初診扱い患者のカルテから来院動機を区分して人数集計を行い、 継続患者にはアンケート調査を実施した。 調査内容は、 年代、 性別、 初めて施術を受けたのは治療所か否か、 治療所で受けている施術パターン、 来院時の苦痛度合い、 施術後の苦痛度合いについて質問して集計を行った。 これらの調査分析の結果から、 患者の意識や動向を推測した。
    【結果】来院動機としては 「紹介」 が最も多く、 全体の約7割を占めた。 また、 アンケートの集計では、 あん摩中心群と鍼灸中心群の施術パターンには年代や性別には因果関係がなく、 あん摩中心群の患者が多かった。 一方で、 VAS値を用いて表した 「来院時の苦痛度合い」 では、 鍼灸中心群があん摩中心群に対し有意に高かった (P<0.05)。
    【考察】多くの患者は、 「紹介」 をきっかけとして来院し、 あはき受療経験者では、 あん摩施術と鍼灸施術の間の差異を体感的に感じていることが推測できた。 また、 受療患者は 「自分の症状にあった施術」 を意識していることが伺えた。 これらのことから、 各施術方法の適応や長所・短所などあはき施術に対する適切な情報を繰り返し発信し、 紹介と言う来院動機を上手に活用することが大切だと考えられる。
    【結論】来院動機として 「紹介」 と言う形式は、 患者数を確保する上で有用な手段である。
国際部報告
  • 石崎 直人, 神田 善昭, 矢島 葉子, Chu Daniel
    原稿種別: 国際部報告
    2010 年 60 巻 5 号 p. 854-858
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/05/25
    ジャーナル フリー
     去る2010年9月16日、 中国上海郊外の蘇州市で世界鍼灸学会連合会 (WFAS) による鍼灸鍼の国際標準化に関する会議が開催された。 2009年11月にFranceのStrasbourgで開催されたWFAS学術大会の会期中に発足したワーキンググループ(WG)によって進められてきた鍼灸鍼の国際標準規格を定めようとするもので、 同じく現在進められているISO/TC249伝統医療の国際標準化会議への提出を視野に入れたものである。 今回蘇州での会議は2010年5月に開催されたWG会議に続いて開催されたものであり草案に対する各国の意見と日本からの提案に基づいた改変をしようとするものである。 今回は蘇州で行われた会議の内容を報告する。
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