【緒言】薬物性肝障害発症のため薬剤中止と入院加療を余儀なくされ、 それに伴い不眠、 不安感などのうつ症状の再燃を認めたうつ病患者に対して鍼治療の介入を試みたところ、 これらの症状の改善を認めた症例を報告する。
【症例】症例:37歳男性。 主訴は不眠、 不安感。 平成23年6月に精神科 (クリニック) にてうつ病と診断され不眠や不安感などのうつ症状に対して内服治療が開始されたが、 3ヵ月後に薬物性肝障害を発症したため、 本学附属病院内科へ入院し服薬を中止した。 その結果、 不眠や不安感などのうつ症状の再燃が認められたが、 薬剤が使用できないため主治医の指示により鍼治療を開始した。 方法:鍼治療は不眠や不安感などのうつ症状に対して弁証論治を行なった。 睡眠状態の評価として、 睡眠時間を記録し、 熟睡感については 「ある」、 「ない」 の2段階スケールで評価した。 うつ症状についてはベックうつ病評価尺度 (Beck Depression Inventory:BDI) を入院時、 鍼治療5回目、 退院時の3回評価した。
【経過】入院時の睡眠時間は2~3時間程度であり、 熟睡感も得られていなかったが、 鍼治療2回目後の睡眠時間は9時間と大幅に改善し熟睡感も得られた。 治療4回目には5時間の睡眠時間と熟睡感が得られ、 退院まで同程度の睡眠状態が維持された。 BDIスコアについても、 入院時24点と 「中程度のうつ状態」 であったものが、 鍼治療継続により退院時には8点と 「正常範囲」 となり、 改善が認められた。 また、 薬物性肝障害の状態も徐々に改善を認め入院19病日に退院となった。
【結語】薬物性肝障害発症により抗うつ薬の中断を余儀なくされた結果、 不眠、 不安感などのうつ症状が再燃した患者に対して鍼治療を行った結果、 不眠や不安感の改善が認められた。 鍼治療は本症例における薬物性肝障害の原因となった薬物の代替的役割を担うことができたと考えられた。
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