全日本鍼灸学会雑誌
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63 巻, 4 号
全日本鍼灸学会雑誌
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
巻頭言
特別講演
  • 島田 達生
    原稿種別: 特別講演
    2013 年 63 巻 4 号 p. 230-243
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/04/23
    ジャーナル フリー
    【目的】からだの中でもっとも大きな器官は、 脳や肝臓ではなく、 皮膚である。 ヒトの表皮は水を通さず、 物理的・化学的刺激に対する重要な防御器官として作用し、 種々の抗原の体内侵入をも防いでいる。 真皮は密生結合組織からなり、 循環系に加えて、 感覚性の神経終末が存在する。 皮膚の微細構造は部位により多少異なり、 部位別に解説する。
    【材料と方法】ヒト皮膚を種々の形態学的技法を使って、 光学顕微鏡、 走査電子顕微鏡、 透過電子顕微鏡で観察し、 皮膚特に表皮と真皮の不思議な世界を探索した。
    【結果と考察】表皮:角質層は、 物理的刺激をうける手掌や足底ではかなり厚いが、 他の部位では薄い。 胚芽層は加齢とともに薄くなる。 超旋刺は、 胚芽層に分布する抗原提示細胞 (ランゲルハンス細胞) を刺激し、 免疫力を高めているかもしれない。 触覚・圧覚にあずかるメルケル細胞が、 指腹、 足底、 体肢の毛盤の表皮最下層に分布する。 真皮:組織学的に疎性結合組織からなる乳頭層と交織密結合組織からなる網状層に分かれる。 乳頭層の最表層は、 径 40 nm のコラゲン細線維 (Ⅲ型コラゲン) が密な網目をなしている。 網状層では、 径 120 nm のコラゲン細線維 (Ⅰ型コラゲン) 束が交織配列している。 乳頭層に線維細胞にくわえて、 抗原刺激にあうとヒスタミンを分泌する肥満細胞があり、 血管の透過性を亢進させている。 鍼灸とヒスタミン分泌との関連が注目される。 乳頭層の表層に指状の突起、 真皮乳頭は、 指腹、 足底、 褥瘡好発部位(仙骨)で顕著である。 乳頭内にループ状の毛細血管やマイスネル触覚小体がある。 表皮が薄い部位 (手掌や足底を除く)では、 真皮乳頭はなく、 毛細血管が点在している。 乳頭層に毛細リンパ管があり、 間質液の吸収や細菌等の取り込みに関与している。 痛覚・温覚に携わる自由神経終末は、 網状をなして乳頭層の最表層に分布し、 顔面、 手背、 前腕、 下腿、 仙骨部に密であり、 手掌、 足底、 殿部では疎である。 ファーター・パチニの層板小体は、 真皮深層から皮下組織にかけて分布し、 圧覚や振動覚の受容器である。 それは指腹と足底に多い。 針を刺すときの痛みは、 自由神経終末の密度と関連がある。 今後、 鍼灸とランゲルハンス細胞、 メルケル細胞、 線維細胞、 肥満細胞および種々の神経終末との関連が注目される。
  • 患者に無駄をさせない神経路の再建・強化を目指して
    川平 和美
    原稿種別: 特別講演
    2013 年 63 巻 4 号 p. 244-251
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/04/23
    ジャーナル フリー
     脳卒中リハビリテーションでは多くの治療が行なわれ、 特に固有感覚神経筋促通法 (PNF) やブルンストローム法、 ボバース法などの神経筋促通法が片麻痺の回復を促進するかについて研究されてきた。 しかし、 これらの片麻痺への効果は従来の治療法より有効であるとの結果は得られていない。
     片麻痺は大脳皮質あるいは運動野からの軸索の損傷が原因で生じていることから、 その回復には大脳皮質から脊髄前角細胞までの神経路の再建/強化が欠かせない。 神経路の強化には、 まず興奮を伝えたてシナプスを伝達効率が上げる、 興奮伝達を繰り返してシナプスの組織的な結合強化を促進する必要がある。
     促通反復療法は、 患者の意図する運動に関与する神経路の興奮水準を治療者が新たな促通手技によって高め、 その運動の実現と反復を行い、 神経路の再建/強化を目指している。 治療効果はクロスオバーデザインや比較対照試験、 無作為対照試験など客観性の高い方法で検討され、 いずれも促通反復療法の片麻痺改善効果を証明している。 今後、 促通反復療法と電気刺激や振動刺激などとの併用療法により効果的な治療となることが期待される。
報告
  • 中村 真理, 長崎 絵美, 米山 奏, 坂口 俊二
    原稿種別: 報告
    2013 年 63 巻 4 号 p. 252-259
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/04/23
    ジャーナル フリー
    【目的】月経随伴症状 (以下月経症状) は月経開始直前や月経中などに発生する不快な症状の総称である。 今回、 診療録を3年間後ろ向きに調査し、 月経症状に対する鍼灸治療効果の実態を検討した。
    【方法】対象は 2009 年1月から 2012 年3月に本鍼灸院に来院した月経症状を有する初診患者 203 名とした。 鍼灸治療は本治法として中医弁証論治と、 月経症状に対する標治法 (共通穴) として次リョウ (BL 32)、 会陽 (BL 35)、 腰兪 (GV2)、 関元 (CV4)、 三陰交 (SP 6) を用いた。 40 ミリ・16 号、 ステンレス鍼を次リョウに 20㎜、 三陰交に 10㎜刺入して 10 分間置鍼した。 その他には9分灸で熱感を感じてから3壮行った。 効果判定には月経随伴症状日本語版 (Menstrual Distress Questionnaire:MDQ) を用いた。 解析は対象者を婦人科疾患有りと診断されている 46 名 (以下、 あり群) と診断されていない 157 名 (以下、 なし群) に分け、 治療前と治療開始後一月経周期 (以下治療後) における月経前・中の MDQ の8尺度得点で比較した。 さらに、 あり群では三月経周期まで追跡した。
    【結果】一月経周期での治療回数は平均 2.2 回であった。 月経前は両群とも6尺度で、 月経中ではあり群で3尺度、 なし群で5尺度の得点が有意に減少した。 あり群の三月経周期にわたる継続治療による効果については、 月経前では、 「痛み」、 「水分貯留」、 「集中力」 で、 月経中では、 「痛み」、 「水分貯留」、 「行動の変化」 で有意に得点が減少した。
    【結論】月経症状に対する鍼灸治療は、 短期的にはなし群で効果的であるが、 あり群でも継続治療により効果のあることが示唆された。
  • 中村 真通, 和田 勉, 辻 朋来, 武田 光司, 河野 都紀子, 大久保 正樹, 坂本 歩
    原稿種別: 報告
    2013 年 63 巻 4 号 p. 260-267
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/04/23
    ジャーナル フリー
    【目的】鍼灸治療において、 温筒灸は簡便に用いられているが、 灸を途中で取り除くタイミングは施術者により異なっている。 そこで、 灸の刺激時間が局所の循環改善に及ぼす影響について、 近赤外線分光法 (NIRS:Near Infrared Spectroscopy) を用いて筋組織の血液酸素化動態の変化により比較検討した。
    【方法】インフォームドコンセントを行った健康成人 12 名を対象とし、 右肩上部に温筒灸を 1 壮行い、 組織血液酸素化動態 (ΔOxy-Hb,ΔTotal-Hb) を 0.5 秒毎に測定した。 実験は、 まず control (対照) が介入なしで 15 分間測定し、 施灸群は、 測定開始 2 分後に施灸し、 熱痛を感じてから 30 秒後に取り除く (除去 30)、 熱痛を感じてから 45 秒後に取り除く (除去 45)、 取り除かない (継続) の 4 通りを比較した。 あわせて灸の燃焼温度ならびに施灸部位の皮膚温、 熱痛感覚の強さを測定した。
    【結果】対照に対し、 除去 30、 除去 45、 継続はΔOxy-Hb、 ΔTotal-Hb、 皮膚温において有意な増加がみられ、 施灸群の間に有意差はみられなかった。 熱痛感覚の強さについても施灸群の間で有意差はなかった。 施灸群ともに、 熱痛を感じ始める前後からΔ Total -Hb、 ΔOxy-Hb ともに急激に増加を始めていることから、 熱痛の侵害刺激による軸索反射が血液量と動脈血を増加させていると考えられた。
    【結論】温筒灸施術において、 熱痛を感じてから 30 秒以上付け続けることによって筋組織の血流が改善されることが示唆された。
  • 恒松 美香子, 恒松 隆太郎, 宮本 俊和
    原稿種別: 報告
    2013 年 63 巻 4 号 p. 268-275
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/04/23
    ジャーナル フリー
    【目的】鍼灸師の手指衛生操作に関連する要因を検討し、 鍼施術上の手指衛生操作の改善への示唆を得ることを目的とした。
    【デザイン】横断的調査
    【方法】122 名の鍼灸師を対象とした。 質問紙を用いて、 手指衛生操作と経験年数、 1 日あたりの患者数、 施術方針、 刺入方法、 教育、 性別、 および年齢についての違いを検討した。 さらに、 手指衛生操作に関連している項目を検討した。
    【結果】有効回答は 109 名 (89.3%) であった。 手洗いをしない群は手洗いをする群と比較して年齢が若く (P <0.01)、 臨床経験年数も短く (P <0.01)、 1 日あたりの患者数が多かった (P <0.05)。 鍼施術上、 素手で鍼体に触れないようにする用具 (以下、 指サック等の用具) を使用する群は、 素手の群と比較して、 施術方針が現代医学的である者の比率が高く (P <0.05)、 教育を受けた者の比率が高かった (P <0.05)。 手洗い行動がおろそかになることには年齢が若いこと [オッズ比(OR) = 1.10、 95%信頼区間 (CI) = 1.01-1.20] および 1 日あたりの患者数が多いこと (OR = 0.90、 95% CI = 0.83-0.98) が関連していた。 さらに、 指サック等の用具の使用には使用の教育を受けた経験があること (OR = 3.45、 95% CI = 1.27-9.36) が関連していた。
    【結論】鍼施術前の手洗いの実施は年齢が若いことおよび1日あたりの患者数が多いことでおろそかになる。 また、 鍼施術上、 指サック等の用具を使用することには教育経験が関係する。
臨床体験レポート
  • -シングルケースデザインによる検討-
    上杉 慎太郎, 中村 好男
    原稿種別: 臨床体験レポート
    2013 年 63 巻 4 号 p. 276-283
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/04/23
    ジャーナル フリー
    【目的】円皮鍼を下肢に貼付することでウォーキング中やその後の日常生活での脚の重い感覚・脚の張る感覚・脚の力が入りづらいという症状の主観的評価に及ぼす効果を円皮鍼と sham を用いて比較検討した。
    【方法】被験者は毎日 10,000 歩のウォーキングを日課としていて、 ウォーキング中や日常生活動作において慢性的に脚の重い感覚や脚の張る感覚そして脚の力が入りづらいという症状を呈し、 脊椎疾患や内科的疾患を有している 70 代の男性 1 名である。 介入:全 10 回とし、 ランダムに円皮鍼または sham を 2 日間貼付し円皮鍼貼付前と当日夜と翌日夜に下肢の主観的評価に関するアンケートを記入してもらった。 介入部位は症状の部位や圧痛を考慮して両側の下肢の合計 10 ヵ所とした。 評価:下肢の各症状の主観的評価アンケートは Visual Analog Scale (VAS) を用いた。 記入は 1 回の介入で 3 回、 全 10 回の介入プログラムで計 30 回記録し、 当日夜と翌日夜それぞれの円皮鍼条件と sham 条件との差をランダマイゼーション検定 (R 検定) を用いて解析した。
    【結果】下肢の重感についての主観的評価は、 翌日夜の円皮鍼条件に対する sham 条件は R 検定の結果、 有意差が認められた (P <0.05)。 下肢の張り感についての主観的評価は、 翌日夜の円皮鍼条件に対する sham 条件は R 検定の結果、 有意差が認められた (P <0.05)。
    【結論】下肢の重い感覚、 下肢が張る感覚を呈する患者に対して円皮鍼を 2 日間留置することで、 脊椎疾患や肝機能疾患、 下腿静脈瘤等の疾患を保有している者に対しても症状軽減効果に円皮鍼が有効であることを示唆している。
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