全日本鍼灸学会雑誌
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65 巻, 2 号
全日本鍼灸学会雑誌
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
巻頭言
研究部安全性委員会ワークショップ
  • 第63回(公社)全日本鍼灸学会学術大会愛媛大会
    新原 寿志, 古瀬 暢達, 上原 明仁, 菅原 正秋, 山﨑 寿也, 山下 仁
    原稿種別: 研究部安全性委員会ワークショップ
    2015 年 65 巻 2 号 p. 64-78
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/19
    ジャーナル フリー
     我々、 公益社団法人 全日本鍼灸学会 研究部安全性委員会は、 同学会が主催する第 63 回 学術大会 (愛媛大会) において、 鍼灸の安全性の向上、 なかでも鍼による有害事象の防止を目的に臓器損傷および神経損傷を対象としたワークショップを開催した。 ワークショップでは 「安全性向上のための局所解剖 Q&A」 と題し、 1) 開業鍼灸師および整形外科医師を対象とした鍼の有害事象に関するアンケート調査と、 2) 国内の鍼臨床に関連した気胸や神経損傷等に関する文献を紹介すると共に、 3) 経穴の解剖学的研究を基礎とした刺鍼部の局所解剖 (上半身) について Q&A 形式による特別講義を行った。 気胸を中心とした臓器損傷や神経損傷など鍼による重篤な有害事象の発生頻度は、 国内の鍼臨床全体からみれば極めて低いと推定されるがほぼ毎年報告されていること、 また、 実際には論文等で報告されているよりも多く発生していることが示唆された。 これら有害事象の発生を防ぐためには、 人体の構造、 特に刺鍼部の解剖学的知識が極めて重要であり、 加えて安全な刺鍼技術の修得が必須である。 本ワークショップを契機に施術者自身の知識と技術を再確認し、 安全で安心な鍼治療を実践していただければ幸いである。
総説
  • シリーズ「日本鍼灸を明日に伝える-東京宣言を受けて」
    小川 卓良
    原稿種別: 総説
    2015 年 65 巻 2 号 p. 79-90
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/19
    ジャーナル フリー
     東京宣言のシンポジウムでは、 私は 「日本鍼灸の特質 (臨床面)」 を担当した。 内容は起草委員会の討論と医道の日本誌の鍼灸業態アンケート結果を分析したものである。
    日本鍼灸の中医鍼灸と違う特徴は、 第一に診断・治療の両面で 「触れる」 を重視、 第二に、 西洋医学的発想の治療或いは診断器具の開発。 第三に管鍼法や様々な細い微鍼による弱刺激治療の開発。 第四に西洋医学的発想と古典に基づいた治療の折衷。 第五に灸治療が盛んで、 第六に未病治を重視し、 第七に主訴にとらわれない個別的治療がある。 そして、 日本鍼灸は多様性が大きいのも特徴で、 それを是として甘んじてきた弊害がある。
    西洋医学は個別化はデカルト科学に馴染まないため標準化を目指す。 また、 人体全ての機能を体系的かつ動的に分析することは不可能なため、 病態把握においては病因論であるのに治療ではアロパチーという対症療法に終始している。
     アロパチーは反対の治療をすることで、 体温が高ければ原因は無視して解熱する。 血圧や血糖値もしかりである。 東洋医学では、 免疫力を高め、 菌やウイルスの活動を制限するように体温を上げる治療を行う。 どちらがより本質的かは自明である。
     少子高齢化により、 高齢者に優しく安全で自然治癒力を高め、 予防に有用でかつ経済的な鍼灸は今後需要が増加すると予想される。
     しかし、 現実は減りつつある。 それは国民だけでなく病医院における需要も減っている。 消費者 (国民・病医院) ニーズの分析を怠り、 自らを変革してこなかった証左でもある。 これには卒前・後の教育改革が必至である。
原著
  • シャム鍼対照N-of-1試験
    鍋田 智之, 山下 仁
    原稿種別: 原著
    2015 年 65 巻 2 号 p. 91-98
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/19
    ジャーナル フリー
    【目的】不眠に対する鍼治療の効果を検証するため、 円皮鍼を用いた N-of-1 試験を実施した。
    【研究デザイン】A:無治療 (1週間)、 B:真の治療 (Real, 3週間)、 C:偽の治療 (Sham , 3週間) の条件交換法による N-of-1 trial とした。
    【セッティング】森ノ宮医療大学 (大阪市住之江区) で行った。
    【参加者】1ヵ月以上の自覚的不眠を訴え、 ピッツバーグ睡眠質問票 (PSQI) で 6点以上の男女 4名。 参加者4名を ABAC または ACAB 法のいずれかにランダムに割付けた。
    【介入】期間 B では神門、 内関、 三陰交に円皮鍼 0.6 mm を週 2回貼付し、 期間 C では鍼先を取り除いた偽円皮鍼を用いて同様に施術した。
    【主要評価項目】睡眠日誌による睡眠時間と中途覚醒回数を記録した。 副次的な評価項目として、 ピッツバーグ睡眠質問票 (PSQI)、 日本語版気分プロフィール調査 (POMS)、 ストレスに関する Visual Analog Scale (VAS)、 および各期間中の腕時計型睡眠計 (ActiSleep) を記録した。
    【主な結果】エントリーおよび研究開始時点で PSQI 8 点以上を示し、 特に入眠障害を強く訴えた 1 例について検証した。 真の治療で中途覚醒回数の減少 (Real 1.6±0.9,vs Sham 3.6±1.3) が認められた。 睡眠時間 (Real 426 min±49.3, vs Sham 450 min±60.0) に差は認められなかった。 Actisleep でも中途覚醒時間 (Real 65 min±14.7,vs Sham 129 min±39.5)、 睡眠効率 (Real 82.8%±3, vs Sham 68.6%±4.3) は真の治療でより改善を示した。 POMS の T 得点は混乱 (real 51, sham 67) で差が認められた。 しかし、 wash out が十分ではなく、 マスキングも不十分であった。
    【結論】円皮鍼治療が不眠を改善するうえで有効な患者が存在する可能性が考えられた。 しかし、 今後はバイアスの問題を再検討し、 さらに質の高い研究によって再検証する必要がある。
報告
  • 耳鳴の自覚的評価に及ぼす影響
    安藤 文紀
    原稿種別: 報告
    2015 年 65 巻 2 号 p. 99-106
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/08/19
    ジャーナル フリー
    【目的】耳鳴の自覚には多様な因子が関係するが、 鍼治療が耳鳴の大きさ、 気になり方、 あるいは耳鳴による日常生活の障害など、 耳鳴患者のどのような要素に影響するかは検討されていない。 そこで症例を集積し、 鍼治療効果の特性を分析・検討したので報告する。
    【方法】対象は平成 16 年4月より平成 26 年3月まで明治東洋医学院専門学校附属治療所鍼灸科の耳科領域の専門外来を受診した耳鳴患者 46 症例の内、 鍼治療を5回以上継続できた 31 症例について分析した。 対象の年齢の中央値は 60 歳、 耳鳴の罹病期間は1カ月以上が 81%を占め、 10 年以上も 16%含まれていた。 29 例は耳鼻咽喉科を受診し、 23 例は聴力低下を指摘されていた。 耳鳴の大きさは Visual Analog Scale (VAS)などにより、 持続、 気になり方などは標準耳鳴検査法 1993 の自覚的表現の検査により、 耳鳴による日常生活の障害は Tinnitus Handicap Inventory (THI)の日本語訳を用いて評価した。 鍼治療は週1回の間隔で5回単位で行い、 完骨など患側乳様突起周辺の経穴や頭頸部の圧迫により耳鳴が変化する反応点などに置鍼を行った。
    【結果】鍼治療終了時には、 VAS・自覚的表現の検査などで評価した耳鳴の大きさは有意な低下が生じた。 気になり方、 THI も有意な低下が生じたが、 持続は変化なかった。 頭頸部の圧迫時に耳鳴が変化した6症例は鍼治療終了時は全例で改善が生じた。 頭頸部の圧迫時に耳鳴が変化しなかった 21 症例の鍼治療効果は、 改善 57%、 不変 14%、 悪化 29%であった。
    【考察、 結語】鍼治療は耳鳴の罹病期間にかかわらず、 耳鳴の大きさ、 気になり方、 耳鳴による日常生活の障害を軽減する可能性が示された。 頭頸部の圧迫時に耳鳴が変化する体性感覚刺激が耳鳴の発生に関与していると考えられる症例では、 鍼治療が有効と考えられた。
編集者への手紙
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