【緒言】足三里への灸は古くから行われており、 持久力の向上が期待できる。 そこで運動前の足三里の台座灸刺激による漸増負荷運動中の呼吸代謝への影響を検討した。 【対象と方法】対象は研究に同意を得た健常成人男性14名。 ランダム化クロスオーバーデザインとし、 Moxa期間とCont期間を設けた。 Moxa期間では、 運動負荷前の3日間、 両側の足三里へ台座灸 (竹生島、 セネファ社) を3壮行わせた。 漸増運動負荷は自転車エルゴメーターを用いた。 呼吸代謝は換気性作業閾値 (VT)、 呼吸代謝閾値 (RC)、 運動終了時 (Peak) の各指標を記録した。 併せて酸化ストレスを測定し、 酸化ストレス度 (d-ROMs)、 抗酸化力 (BAP) を評価した。 【結果】呼吸代謝ではPeakの到達時間 (Time)、 換気量 (E)、 運動負荷量 (Watt)、 酸素摂取量 (V・O2)、 二酸化炭素排出量 (V・CO2)、 体重で除したV・O2 (V・O2/W) がCont期間に比してMoxa期間では有意な上昇を認めた (P<0.05)。 酸化ストレス指標d-ROMs・BAPは両期間に有意差はなかった。 各期間内での経時的変化では、 d-ROMsではCont期間のPreとPostに有意に上昇を認めた (P<0.05)。 【考察】Peak時において、 Moxa期間はCont期間に比してTimeが5.8%延長し、 V・O2/Wが4.7%増加した。 好気性のエネルギー代謝を高め運動耐容能が増加し、 全身持久力を高めた可能性がある。 運動前に抗酸化作用を高めることには利点があり、 本研究での期間内の酸化ストレス動態から、 灸刺激による抗酸化作用により運動負荷前後の酸化ストレスの有意な上昇が抑制し、 持久力が向上した可能性がある。
【緒言】鍼灸師は自営や勤務をはじめ多様な働き方を選択できる職業であるが、 働き方が満足度や生活とのバランスに与える影響についての研究は少ない。 本研究では、 鍼灸師の働き方と、 満足度や 「ゆとり」 について探索的に検討した。 【対象と方法】登録鍼灸師を対象に横断研究とした。 全日本鍼灸学会、 日本鍼灸師会、 全日本鍼灸マッサージ師会、 および特定のSNSグループの協力を得て、 学会・業界団体の所属会員、 およびSNSグループの所属者に対してオンラインアンケートを配布した。 調査項目は、 性別、 免許取得後年数、 業務形態、 労働時間、 婚姻状況、 ゆとり (時間、 経済、 精神、 生活)、 満足度 (仕事、 生活、 両者のバランス) とした。 データ解析では、 記述統計、 カイ二乗検定、 Wilcoxon順位和検定、 ロジスティック回帰分析を使用し満足度への影響を評価した。 【結果】解析対象は500人であり、 業務形態は自営業65.6%、 勤務25.6%、 自由業5.8%、 他職業3.0%であった。 時間・経済・精神・生活のゆとりを感じた者は58.6~76.2%、 仕事・生活・両者のバランスの満足度が高かった者は68.2~79.4%であった。 多変量解析では、 満足度に対して、 業務形態および取得後年数に関連は認められず、 時間的・経済的・生活全体のゆとりが、 満足度に対して有意な正の影響を与えた。 【考察】鍼灸師の働き方は 「勤務」 や 「開業」 にとどまらず多様であり、 全体的に満足度も高かった。 また、 業務形態や取得後年数による満足度の差は見られず、 自らの状況や価値観に応じて働き方を選べることが、 満足度や生活の質の向上に寄与している可能性が示唆された。 本研究は、 鍼灸師が自らの価値観に応じた働き方を選択できる職業であることを示し、 今後の職業選択やキャリア形成の検討に有益な知見を提供する。
【緒言】スポーツ分野で活用されている円皮鍼の主な治効機序は軸索反射による血流増加と推論されている。 しかし、 円皮鍼のような皮膚刺激を目的とした医療機器 (はり用器具) によって刺激局所の組織血流量 (以下、 局所血流量) が有意に増加するかどうかは、 現時点で明らかになっていない。 さらに、 鍼体が多芯で皮膚に挿入される滅菌済みの鍼 (以下、 多芯円皮鍼) は現在のところ市販されておらず、 その有用性は不明である。 【対象と方法】健常成人男性16名を、 多芯円皮鍼 (鍼長0.55mm、 鍼底部直径0.3mm、 鍼本数37本、 ピッチ1.0mm、 生体安全性樹脂製) を片側の前腕掌側中央部に30秒間留置し、 その1週間後にシャム円皮鍼 (同製の平坦な円盤) で同様に刺激する群と、 順序を反対に刺激した群に1:1の割合で無作為に割り付け、 単盲検下でランダム化クロスオーバー試験を実施した。 主要評価項目は局所血流量の変化量 (刺激後-前) および変化率とし、 レーザー血流計を用いて測定した。 副次評価項目は心拍数とし、 統計学的手法には線形混合モデルを用いた。 【結果】刺激5分後における局所血流量の変化量について、 シャム円皮鍼では平均-0.09 (95%信頼区間:-0.39~0.21) mL/min/100gであったのに対して、 多芯円皮鍼では平均8.83 (95%信頼区間:5.86~11.79) mL/min/100gとなり、 有意な介入効果が認められ (P < 0.05)、 時期効果 (P = 0.47)、 持ち越し効果 (P = 0.44) は認められなかった。 心拍数には介入効果は認められなかった (P = 0.95)。 【考察】本試験で用いた多芯円皮鍼により局所血流量が有意に増加することを確認した。 また、 心拍数の有意な増加を伴わなかったことから、 この反応は主に軸索反射や一酸化窒素の関与、 さらに体性-自律神経反射によるものと推察される。