腹部大動脈瘤で,待機的にY型人工血管置換術が施行された10症例を対象として,大動脈遮断に伴う虚血や再灌流が血管内皮・凝固線溶系に与える影響を,虚血局所血行と全身血行で比較検討した.術前,大動脈遮断直後,遮断解除直前,遮断解除直後と遮断解除1時間後で,虚血局所および全身でトロンボモジュリン(TM),プラスミノーゲンアクチベータ-インヒビタ複合体(tPAIC),プラスミン-α
2プラスミンインヒビタ複合体(PIC)とトロンビン-アンチトロンビンIII複合体(TAT)を測定した.tPAICは大動脈遮断中に虚血局所で有意に増加し,その局所-全身血較差は酸素飽和度,乳酸値と相関を認めた.虚血・再灌流時に,虚血局所と全身で分子マーカーの変動が異なること,虚血局所ではtPAICが有意に上昇することが示され,TMの変化で検出できないほど軽微な虚血による血管内皮刺激を反映する指標となりうることが示唆された.
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