日本臨床麻酔学会誌
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26 巻, 2 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
講座
  • 鈴木 昭広
    2006 年 26 巻 2 号 p. 133-139
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      新しい麻酔科専門医制度で定められた教育ガイドラインで, 麻酔科医は吸入麻酔, 静脈麻酔など, 各種の麻酔方法を万遍なく実践指導することが求められるようになった. これまで当施設内には回復室がなく, 覚醒遅延の懸念からかぎられた麻酔科医がかぎられた症例でしかTIVAを実践していない傾向があったため, TIVA普及の方策を考慮する必要が生じた. そこで, TIVAの専門家を招いたセミナーを開催し, さらにBISモニター, TCI, 薬物動態シミュレーションソフトを用いて麻酔担当者, 指導者が患者の麻酔状態に関する情報を客観的に共有できる麻酔管理を学んだ. その後TIVA管理症例は増加し, 施設内でもTIVAが麻酔方法のオプションの一つとしての立場を確立することができた.
  • 高木 俊一
    2006 年 26 巻 2 号 p. 140-145
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      TIVAを普及させるためには, まずTIVAで麻酔した症例をみて, 麻酔の質を感じることである. そして, TIVAを知り教育するためには薬物動態学, 薬力学を理解することが肝要である. この過程において湧いてくる疑問を, 静脈麻酔薬の薬物動態を体感できる研究に換えて取り組むと理解が深まる. 覚醒遅延などの症例をシミュレーションすることによって, 血中濃度, 効果部位濃度と臨床状態をリンクしてイメージすることができる. また, 研修医に対するアンケートからTIVAは容易に受け入れられることがわかった.
  • 長田 理
    2006 年 26 巻 2 号 p. 146-149
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      麻酔科専門医が習得すべき項目を整理した日本麻酔科学会発行の麻酔科医教育ガイドラインにTIVAが明記されるようになったものの, 日常的にTIVAを教育している施設は少ない. われわれの施設ではTIVAを習得するために必要な6項目について, 環境整備を進めるとともに研修医のみならず麻酔科専門医に至るまで講習会・実地トレーニングを行うことで, TIVAを日常的に活用できるようになった. 一方でTIVAがなかなか普及しない環境においては, 麻酔科医が勤務する大学・病院に直接TIVAインストラクターを派遣して直接現場で麻酔方法を披露する出張デモンストレーションも, TIVA教育において有効なものと期待される.
原著論文
  • 塩田 典子, 和泉 博通, 古賀 知道, 中村 隆治
    2006 年 26 巻 2 号 p. 150-155
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      長期腹膜透析の合併症の一つである被嚢性腹膜硬化症に対して施行した腸管癒着剥離術38例の麻酔 (硬膜外麻酔併用全身麻酔) の水分管理法について検討した. 血管内容量の指標として肺動脈拡張期圧 (PADP) と中心静脈圧 (CVP) を用いた. PADP, CVPが低い症例では補液による血管内容量の補正を行った. PADP, CVPが適切にもかかわらず混合静脈血酸素飽和度 (SvO2) や連続心係数 (CCI) が低い症例に対してはカテコラミンを使用して水分過剰を防止した. 溢水, 脱水による術後合併症をきたした症例はなかった. 肺動脈カテーテルを用いることにより, 溢水, 脱水による術後合併症を認めることなく水分管理が可能であった.
  • 日野 博文, 坂本 三樹, 永納 和子, 笹野 淳, 長野 治和, 内田 和秀, 舘田 武志
    2006 年 26 巻 2 号 p. 156-163
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      重症筋無力症を合併した胸腺腫10例においてプロポフォール (propofol: PL) が四連刺激下での誘発筋電図に与える影響を, 筋無力症を合併していない胸腺腫10例と比較検討した. また, PLが挿管操作の難易度に与える影響を調べるため挿管スコアを設定し, 両群間で比較検討した. PLは重症筋無力症合併群で有意に単収縮高の低下を引き起こしたが, 四連反応比に対しては影響を与えず, PLはアセチルコリン受容体を含めたシナプス後部に作用する可能性が示唆された. また, 重症筋無力症合併群で有意に挿管スコア点数が高かった. PL中止後にはT1値の低下は回復し, 30分以内に全例抜管可能であった. PLは軽度の筋弛緩効果および速やかな筋力回復から, 重症筋無力症において安全に使用可能な麻酔薬と考えられた.
  • 門井 雄司, 富岡 昭裕, 齋藤 繁, 後藤 文夫
    2006 年 26 巻 2 号 p. 164-170
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      平成17年6月の1ヵ月間に群馬大学医学部附属病院において行われた全身麻酔予定手術256例における麻酔関連収益を前向きに検討した. 心臓外科手術以外の手術では, 麻酔方法はプロポフォール2mg/kg, ベクロニウム0.1mg/kgで導入し, 亜酸化窒素4l/分 —酸素2l/分-セボフルランでの麻酔維持を基本とした. 麻酔中の麻酔濃度や薬剤投与は各担当麻酔科医師に委ねた. 心臓外科と脳神経外科の麻酔時間はほかと比較して著しく延長していた (p<0.05). 麻酔料金は心臓外科麻酔が371,550±242,360円とほかと比較して高額であった (p<0.05) が, 麻酔剤料金では手術による差を認めなかった. 一方, 1分あたりの収益を計算すると, 胸部外科と産科が脳神経外科と比較して高額であった (胸部外科: 706±208円, 産科: 717±246円, 脳神経外科: 367±91円, p<0.05). 麻酔料金と麻酔時間との関係は一次直線の関係であるが (y=332x+29513, r2=0.61), 1分あたりの収益は麻酔時間が長くなるにつれて減少した (y= -600 logX+1923, r2=0.77). 麻酔時間が短時間であるほど麻酔単価が高いことが今回の解析で示された.
  • 久慈 昭慶, 市川 真弓, 菊池 和子, 岡本 明子, 熊谷 美保, 城 茂治, 矢部 雅哉
    2006 年 26 巻 2 号 p. 171-178
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      障害者歯科治療のための, プロポフォールを主体とした, らせんワイヤー入りラリンジアルマスクエアウェイ (FLMA) を用いた日帰り麻酔49例を検討した.
      麻酔は, 意識下に静脈路を確保できた36例 (73%) では, ミダゾラムによる鎮静下にモニターを装着し, プロポフォールで導入・維持した. 意識下に静脈路を確保できなかった13例 (27%) では, セボフルラン, 亜酸化窒素, 酸素で緩徐導入した後, 静脈路を確保し, ミダゾラムを投与してプロポフォールで麻酔を維持した. プロポフォールの標的血中濃度は, TCIを用いた19例ではFLMA挿入時7.0 (±0.6) μg/mL, 麻酔維持時3.1 (±0.9) μg/mLであった. TCIを用いなかった30例でのプロポフォール投与量は, FLMA挿入時2.3 (±1.3) mg/kg, 麻酔維持時は8.6 (±1.8) mg/kg/hであった. FLMAによる気道確保が容易であったのは41例 (84%) で, ほかの8例 (16%) では頭部後屈や下顎挙上, FLMAの位置調整などを要した. プロポフォールの投与時間は64 (±21) 分, プロポフォール投与中止から帰宅許可までの時間は69 (±15) 分であった. 帰宅後は悪心・嘔吐が1例にみられたが, そのほかに問題はなかった.
症例報告
  • 朝倉 雄介, 西脇 公俊, 佐藤 光晴, 藤原 祥裕, 小松 徹, 島田 康弘
    2006 年 26 巻 2 号 p. 179-183
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      セントラルコア病 (central core disease: CCD) を合併した小児の肝芽腫に対する拡大肝右葉切除術の麻酔を経験した. CCDは近年同定された悪性高熱症 (malignant hyperthermia: MH) の遺伝子と同一の遺伝子異常で発症する先天性非進行性ミオパチーで, CCDの合併は麻酔中にMHを発症する可能性の高い危険因子と考えられている. 当症例ではMHに関する術前評価は十分であったため, とくに問題となることはなかったが, 術中予期せぬ大量出血に遭遇し管理に難渋した.
  • 大西 佳子, 影山 京子, 南波 まき, 石川 嘉昭, 中嶋 康文, 橋本 悟, 田中 義文
    2006 年 26 巻 2 号 p. 184-188
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      進行した強直性脊椎炎では, 換気困難や挿管困難の可能性が考えられる. 今回, 挿管困難が予測されたため気管支ファイバースコープを用いて挿管を行ったが, 抜管時に通常の気管切開は困難で, 気道確保には喉頭截開術が必要となる可能性があることが判明した症例を経験した. 喉頭截開術では, まれではあるが声帯の機能を半永久的に失う可能性があるため, 術前に患者および家族への十分な説明を行う必要があると考えられた.
  • 岡本 香奈, 村上 昌宏, 後藤 慶, 南立 宏一郎, 相原 啓二, 蒲地 正幸
    2006 年 26 巻 2 号 p. 189-193
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      気管チューブの抜管直後に心破裂をきたした症例を経験した. 患者は75歳, 女性. 急性心筋梗塞の診断のもと当院ICUに入室した. 入室後, 気管挿管を施行し人工呼吸を開始した. 心筋梗塞に対しては経皮的冠動脈形成術 (PTCA) およびステント挿入が行われた. カテコラミン投与に加え, 大動脈内バルーンポンプ (IABP) も使用した. 第9病日にIABPを抜去, 第10病日に気管チューブを抜管した. 抜管直後から急激に血圧が低下し心停止となったため, ただちに心肺蘇生 (CPR) を開始した. 心破裂による心タンポナーデと診断し, 心嚢穿刺を施行した. 一時的に血行動態の改善を得ることができたが, 救命することはできなかった.
  • 田口 志麻, 中尾 三和子, 川口 稜示
    2006 年 26 巻 2 号 p. 194-198
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      術中高度低血圧と上半身紅潮によりアナフィラキシーショックが疑われたため手術を延期し, 原因検索後2度目の手術を行ったが, 術後に呼吸困難を認め, 再挿管された症例を経験した. 呼吸困難の理由として, アナフィラキシー, 筋弛緩薬の残存, 術操作による気胸, 機械的刺激による咽喉頭浮腫などが考えられた. アナフィラキシーの既往が疑われる患者では, 術後呼吸困難が起きても原因の特定が困難であり, 厳密な患者管理が重要である.
  • 城山 和久, 山田 智子, 大谷 十茂太, 酒井 明彦, 小林 雅子, 森脇 克行
    2006 年 26 巻 2 号 p. 199-202
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      右房内腫瘤を合併した大腸癌症例の麻酔管理を経験した. 症例は79歳, 女性. 右房内腫瘤に可動性がなく嵌頓や塞栓の可能性が低いこと, 人工心肺時のヘパリン化による大腸癌からの大量出血の可能性が高いことから, 大腸切除術が先行された. 麻酔は硬膜外麻酔併用全身麻酔で行い, 術中経食道心エコー図検査で腫瘤の状態を観察した. 腫瘤の嵌頓や塞栓による循環不全に備え, 経皮的心肺補助装置の使用を考慮し, 大腿動静脈にカテーテルを留置した. 術中循環動態は安定し, 合併症なく手術は終了した. 術後53日目に右房内腫瘤摘出術を施行し, 腫瘤は病理学的に血栓と診断された. 心臓内腫瘤を合併した症例の非心臓手術では, 循環動態を安定させ, さらに腫瘤の嵌頓や塞栓が生じたときの対策を考慮して麻酔管理を行う必要がある.
  • 輪嶋 善一郎, 益田 律子, 志賀 俊哉, 今永 和幸, 井上 哲夫, 坂本 篤裕
    2006 年 26 巻 2 号 p. 203-206
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      エスモロールは短時間作用型 β1遮断薬であり, 適応として 「手術時の上室性頻脈性不整脈に対する緊急処置」 があげられる. しかし, 本邦ではその著効例の報告がほとんどない. 今回, 脳動脈瘤クリッピング術前の頭部三点固定時に生じた連発する上室性期外収縮に対しエスモロールを使用し, 良好な結果が得られたので報告する.
  • 岩崎 衣津, 松本 睦子, 倉迫 敏明, 仁熊 敬枝, 八井田 豊, 石井 典子
    2006 年 26 巻 2 号 p. 207-210
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      症例は56歳の男性. 増大した良性対称性脂肪腫に対し, 二期的に摘出術が予定された. 術前のMRIでは, 中下咽頭の後壁に脂肪腫が存在し狭窄を認めていた. 二期手術の術後, 上気道閉塞を伴う努力呼吸となり, 経皮的動脈血酸素飽和度の低下を認めたため, 希釈エピネフリンの吸入とデキサメタゾンの静脈内投与を行ったが症状は改善しなかった. その後, 粘稠痰の喀出を契機に呼吸状態は改善した. 今回の気道閉塞は, 脂肪腫による咽頭の狭窄に加え, 挿管による気道の浮腫, さらに長期喫煙によると思われる喀痰の貯留が原因であると思われた. 本疾患患者に対する麻酔では, 術前に気道周辺組織への浸潤の程度を評価することが重要であると思われた.
  • 河本 瑞穂, 舘岡 一芳, 櫻井 行一, 猪狩 典俊, 仙石 和文, 岩崎 寛
    2006 年 26 巻 2 号 p. 211-214
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      食道腫瘍気管浸潤を有する, 55歳, 女性に対して, 緊急気管内ステント留置術がPCPS併用全身麻酔下に予定された. PCPS開始後に, 経口気管挿管を行った. 手術途中, 手術操作のために気管チューブを抜去せざるを得なかった. しかし抜管から15分後, 右手SpO2, PaO2のみが一時的に低下した. 左上肢はPCPSで十分に酸素化された動脈血が灌流しているが, 右上肢は自己心拍による酸素化の悪い動脈血が灌流していると考えられた. 本症例では, 気管内酸素吹送と, 血圧を上げず自己心拍血流を抑えて事なきを得た. 心機能に問題のない症例でPCPS併用管理を行う場合には, 右手のSpO2, PaO2で脳・心への酸素供給が保たれているか否かをモニターすべきである.
掲載論文関連講座
  • 市原 靖子, Carlos A. Ibarra Moreno, 菊地 博達
    2006 年 26 巻 2 号 p. 215-224
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      悪性高熱症は誘発薬などによって骨格筋の異常な代謝亢進が引き起こされる致死的な疾患である. 常染色体優性遺伝をとり, 多くはリアノジン受容体 (RYR1) の遺伝子変異のために起こるといわれている. 一方, セントラルコア病は先天性非進行性ミオパチーの一種である. 臨床症状として重症例は少ないが, 側弯症や四肢の関節拘縮などを有することが多い. セントラルコア病患者の悪性高熱症合併例は以前より報告されていた. またセントラルコア病の遺伝子変異がRYR1領域であることから, セントラルコア病と悪性高熱症は非常に関連深い疾患である. しかし悪性高熱症だからといってセントラルコア病を必ず伴っているわけでもなく, 逆にセントラルコア病だからといって, 確率は低いと思われるが必ずしも悪性高熱症であるわけでもない.
  • 中川 伸一, 田村 公一, 阿部 晃治, 武田 憲昭
    2006 年 26 巻 2 号 p. 225-232
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/03/29
    ジャーナル フリー
      喉頭截開術は前頸部を皮切後, 甲状軟骨を正中で垂直に切開し喉頭内腔へアプローチする術式である. 本法では喉頭内の構造を前後にわたって広く観察することができるため, 経皮的に喉頭内にアプローチするには最も有用な術式である. 喉頭截開術の適応は, 喉頭癌 (T1, T2の声帯癌) , 喉頭外傷, 喉頭狭窄, 経直達鏡下に摘出できない良性腫瘍である. 本稿では喉頭截開術の歴史と適応, 手術手技, 問題点と合併症について解説した. また, 放射線治療後の再発喉頭癌症例, 喉頭閉塞症例を呈示し, 喉頭截開術が気道確保にも有用であることを示した.
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