日本臨床麻酔学会誌
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26 巻, 5 号
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—日本臨床麻酔学会第25回大会 学術講演—
  • 後藤 倶子
    2006 年 26 巻 5 号 p. 467-473
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      高齢化社会の到来に加え, 手術手技や麻酔管理の向上により高齢者の手術は増加し, 術後脳障害も増加していると考えられる. 術後脳障害を予防するには脳梗塞の病型や病態を勘案して周術期管理計画を立案することが重要である. 脳血管障害の既往を有する患者の術後再発率は高く, 術前評価や厳重な循環管理, 発生機序に応じた治療が必要である. 脳梗塞の多くは血栓や塞栓による脳動脈の閉塞によって生じることや, 術後の凝固能亢進により血栓形成が加速されることから, 抗血栓療法や脳灌流圧の適正な維持が重要である. 周術期管理を行う麻酔科医には脳虚血の予知や脳蘇生などの重要な役割があり, 頭部, 頸部における動脈硬化の診断や全身管理のスキルが求められる.
  • 白神 豪太郎
    2006 年 26 巻 5 号 p. 474-481
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      日帰り手術では質が高く費用対効果の優れた麻酔・周術期管理が求められる. 術後痛, 悪心・嘔吐, めまい, 傾眠, 尿閉などの副作用症状は患者満足度を低下させ, 帰宅を遅延させ, コストを上昇させる. 日帰り手術では帰宅を阻害する合併症発症の危険性の高い手技や薬剤, 高価な薬剤や資源を無制限に使用するべきではない. 回復遅延要因のうち最も重要なものは術後痛と術後悪心・嘔吐であり, これらに対する対策が必須である. 術後鎮痛には局所・区域麻酔および非オピオイド鎮痛薬を活用する多用性バランス鎮痛が, 副作用が少なく有用である. 日帰り手術成功のためには, 適切な手術と患者の選択, 医療従事者および患者への教育が不可欠である.
—日本臨床麻酔学会第25回大会 シンポジウム—
麻酔科医の果たすべき役割:周術期のニーズに応える麻酔
  • 岩崎 寛
    2006 年 26 巻 5 号 p. 482
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
  • 鈴木 昭広
    2006 年 26 巻 5 号 p. 483-488
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      手術室入室後, 麻酔導入で入眠するまでの過程で患者のニーズを満たす方法について検討した. 吸入麻酔導入と静脈麻酔導入を比較したところ, 入眠に要する時間は静脈麻酔導入が有意に短かったが, 導入時の合併症, 第三者による入眠時のフェイススケール, 導入時の苦痛体験の自覚などに差はなかった. 静脈穿刺困難な例などでは血管確保に固執せず吸入麻酔導入を選択してもよいと考えられた. 硬膜外穿刺を鎮静下に行った試みでは, ミダゾラムをRamsay score III, IV を目標にタイトレーションした群では穿刺自体の記憶がなく, 苦痛体験として自覚しない者が90%を占め, かつ疼痛反応は保たれて放散痛などの検出は可能であると考えられた.
  • 長田 理
    2006 年 26 巻 5 号 p. 489-496
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      わが国の卒後臨床研修制度は2004年に抜本的な改正が行われ, プライマリ・ケア能力と医師としての素養を身につけるべくすべての医師に義務づけられた. 本制度における麻酔科研修は救急医療の一環として必修であり, 研修1年目に受けることが望ましいとされている. 研修医にとって麻酔科研修は救急医療の場で該当する行動・経験目標項目について経験を得るための機会であるとともに, 良質で安全な医療を理論的に実践するための知識・経験を得ることである. われわれは薬物動態・薬力学に基づく麻酔薬投与法を教育しており, 研修医は臨床の質を低下させることなく吸入麻酔・静脈麻酔を分け隔てなく習得することが可能である. 同時に 「指導医によって言うことが違う」 ことは研修医の教育効果を低下させるため, 研修医に対する小テストを利用してガイドラインを遵守するよう指導的立場の麻酔科医を再教育する必要がある.
  • 坪川 恒久
    2006 年 26 巻 5 号 p. 497-507
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      Awake OPCABは, 高位胸部硬膜外麻酔を用いて挿管せずに, 自発呼吸と意識を維持したままOPCABを行う周術期管理方法である. 高位胸部硬膜外麻酔は, 交感神経遮断により心仕事量を抑え, 限局性の冠動脈拡張作用をもち, 心筋保護的に作用するなど, 虚血性心疾患を有する患者には有益な面を多くもつ. 一方で, ヘパリンを使用した手術のため硬膜外血腫形成が懸念され, 硬膜外膿瘍や局所麻酔薬中毒にも注意する必要がある. 自発呼吸を維持することの利点は, 挿管を必要としないことと, 心拍出量および脳血流量の維持が期待されることである. 逆に欠点としては, 気胸や誤嚥の可能性があり, 経食道エコーを使うことができないことがある. 意識を維持することの利点は, 脳灌流および神経学的合併症のモニターとして優れていることである. いずれの要素に関してもエビデンスの蓄積はまだ不十分であり, 今後の検討が必要である.
  • 佐伯 茂, 朝野 宏子, 三宅 絵里, 小川 節郎
    2006 年 26 巻 5 号 p. 508-514
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      術後痛は患者にとって数多くの不利益をもたらすので, できるかぎり取り除くべきである. 術後鎮痛手段としてはいくつかあげられるが, 先行鎮痛の有効性は議論の多いところである. しかしながら, 本法は患者に不利益をもたらすことはないのでなるべく行うようにすべきと考える. 侵襲度の低い手術, 侵襲度の高い手術, 強度の術後痛が予測される手術など, 手術の性質により術後鎮痛手段は異なってくる. 侵襲度の低い手術であれば, 鎮痛薬の内服, 鎮痛薬の筋肉内投与などで十分対応可能である. 強度の術後痛が予測される手術の場合, 硬膜外鎮痛 (PCA併用) を行うが, これが不可能ならば鎮痛薬の持続静脈内投与, 持続皮下投与 (いずれもPCA併用) が選択される. 術後疼痛管理には患者, 麻酔科医, 診療担当医それぞれにおいて問題点があり, これらを解決していくことが必要である. しかしながら, 保険上の観点から術後疼痛管理を取り巻く環境を見てみると, 術後疼痛管理が行いやすい環境からはほど遠いと考える.
—日本臨床麻酔学会第25回大会 パネルディスカッション—
21世紀の麻酔器について
  • 尾崎 眞
    2006 年 26 巻 5 号 p. 515
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
  • 讃岐 美智義
    2006 年 26 巻 5 号 p. 516-521
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      近年, 電子カルテの普及に伴い, 副次的に自動麻酔記録装置の導入が加速している. 自動麻酔記録装置自体, モニターからの数値入力を麻酔チャートに展開する程度のものという認識のうちはそれほど魅力を感じないが, ネットワーク接続により新たな展開が見えてきた. 一方, 麻酔科医の単なる道具であった麻酔器だが, 近年では種々のセンサーの搭載と電子制御により, 道具というよりむしろ電子機器という側面が強くなっている. 電子化された麻酔器から出力される情報を統合活用できれば, 医療現場における大変革となる可能性がある. 麻酔器がきちんと動作していた証拠をタイムスタンプ付きで残せば, 訴訟対策となり, 麻酔器からの数々のパラメータ (IN/OUTの麻酔薬濃度やガス流量など) を生体モニター情報とともに統合すれば, クリニカルナビゲーションや正確で質の高い臨床研究, 臨床治験が可能である. 自動麻酔記録装置の現在と将来像, 現在の麻酔器の限界と将来のあるべき姿, そして, 相互の発展にそれぞれがどうかかわるべきかを論じた.
  • 後藤 隆久
    2006 年 26 巻 5 号 p. 522-526
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      21世紀の日本は少子高齢化が進む. 高齢者が増えるので手術件数は増えるが, 労働力人口は減るので麻酔科医は増えないと思われる. そこで21世紀の手術室では, ASA分類1~2度の患者の低侵襲手術の麻酔は自動化, 遠隔操作化すべきと思われる. LANで麻酔科医に伝える情報として, バイタルサインなどのほかに, 麻酔器の作動状況が考えられる. 21世紀の麻酔器はデジタル化, ネットワーク化が進むだろう.
—日本臨床麻酔学会第25回大会 パネルディスカッション—
私はこんな硬膜外麻酔を勧めます
—日本臨床麻酔学会第25回大会 パネルディスカッション—
緩和医療とその治療:麻酔科医はどうかかわるか
  • 宮崎 東洋
    2006 年 26 巻 5 号 p. 560
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
  • 冨安 志郎, 橋口 順康
    2006 年 26 巻 5 号 p. 561-569
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      がんが発生すると, がんの増大に伴う機械的刺激やがんが誘導した炎症細胞から放出される発痛物質により持続的な侵害刺激が発生する. やがて疼痛伝達系全体に感作が発生すると, 病巣から離れた皮膚の痛覚過敏, アロディニアなどの知覚異常, 立毛筋収縮や発汗などの交感神経刺激症状, 筋肉の収縮, 周囲の圧痛といったいわゆる関連痛が発生する. 内臓や骨などの深部体性組織に発生したがんでしばしばみられる現象で, 内臓や骨が侵害刺激を入力している脊髄レベルに同様に侵害刺激を入力している皮膚, 同脊髄レベルに遠心路核をもつ筋肉, 交感神経に症状が出現する. 痛みの部位に病巣がない場合は, 関連痛を念頭において異常のある皮膚, 筋肉のデルマトーム, マイオトームから責任脊髄レベルを同定し, そのレベルに侵害刺激を入力する内臓や骨の異常を検索することが病巣の早期発見につながる. また, 関連徴候として神経障害性疼痛様の知覚異常が出現することを知っておくことは鎮痛薬選択の意味から重要である.
  • 岡本 慎司, 森本 昌宏, 森本 充男, 前川 紀雅, 森本 悦司, 古賀 義久
    2006 年 26 巻 5 号 p. 570-575
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      進行がんに対する治療法の進歩による患者の延命に伴い, 痛みを訴える患者が増加していると推察される. このような患者は痛みのコントロールが困難であるとして当科に紹介されることが多く, これらの痛みに対しては神経ブロック療法の併用を積極的に行っている. 特に骨転移による痛みは医療用麻薬のみでコントロールすることは不可能であり, 持続硬膜外ブロックを選択することが多い. さらに, 当科では在宅での管理を積極的に行っており, 硬膜外持続注入用アクセスを用い, 21名で良好な除痛効果を確認している. がん性疼痛患者に対しては, 医療用麻薬一辺倒ではなく適切な時期に適切な神経ブロック療法を行うべきであり, 在宅での管理にあたっては, 硬膜外持続注入用アクセス植え込みを積極的に施行すべきと思われる.
講座
  • 木内 恵子, 中川 美里, 香河 清和, 松浪 薫, 清水 智明
    2006 年 26 巻 5 号 p. 576-582
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      著者の所属する施設では予定帝王切開術の96%を脊髄くも膜下麻酔で行っている.0.5%高比重ブピバカイン2.5mLにモルヒネ0.1mgを添加して使用している. ブピバカインはテトラカインと比較して術中鎮痛補助薬の使用が少なく優れた鎮痛効果を示す. またモルヒネを添加することにより術中術後の鎮痛作用を増強させる. 脊髄くも膜下麻酔は手技が容易かつ効果が確実で運動神経遮断効果が高く, 3種類の区域麻酔法のなかで, 効果発現が最も早い麻酔法である. 欠点としては, 低血圧の頻度が他の区域麻酔法に比べて多いことがあげられる.
  • 石山 忠彦
    2006 年 26 巻 5 号 p. 583-587
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      麻酔は, 麻酔科医, 外科系の医師, 看護師, 薬剤師, 患者, 麻酔機器が介在する医療システムである. 多くの人や物が介在することから, 麻酔施行時には多くの危険が潜んでいると考えられる. しかし, 危険の潜んでいる場所をみつけるのは難しい. 最近多くの施設で行われているインシデントレポートによる報告は, 危険がどこに潜んでいるのかを割り出すのに有用である. 個々のインシデントは, ある個人が不注意で引き起こすものではなく, 環境によって誘発された結果であることから, その解析には, 当事者個人の責任追及と事実の解明に力点を置くのではなく, インシデントの予防と安全対策に力点を置くことが必要である.
原著論文
  • 門井 雄司, 河原 史典, 後藤 文夫
    2006 年 26 巻 5 号 p. 588-593
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      平成17年の4週間に群馬大学医学部附属病院で行われた全身麻酔予定手術222例における麻酔関連薬物破棄量を検討した. 麻酔方法は, 患者の年齢等を考慮しながらプロポフォール1~2mg/kg, ベクロニウム0.1mg/kgで導入し, 亜酸化窒素4l/分-酸素2l/分-セボフルランでの麻酔維持を基本とした. 麻酔導入時の血行動態の変動に対しての各種薬物使用は各担当麻酔科医の判断とした. 心臓・血管外科手術の麻酔方法は, ミダゾラム0.1mg/kg, フェンタニル10μg/kg, ベクロニウム0.1mg/kgで導入し, プロポフォール4~6mg/kg, セボフルラン0.5~1.0%とフェンタニルの間欠投与で維持し, フェンタニルの使用量は最高20μg/kgまでとした.222例の注射器の平均使用本数は8.8±8.5本, 全破棄した薬物の金額は142±343円, 一部破棄した薬物の金額は954±876円であった. プロポフォールは222例中169例で破棄があり, 平均残量は88±48mg, ベクロニウムは222例中162例で破棄があり, 平均残量は4.5±2.8mg, エフェドリンは222例中156例で破棄があり, 平均残量は34±7mgであった. プロポフォール, ベクロニウム, エフェドリンは7割以上の症例で破棄されていた. 麻酔科医は使用しなかった麻酔関連薬物量およびその金額を正確に把握し, それらの量や金額を減らすことに注意することも肝要であると思われる.
  • 今 久子, 山蔭 道明, 古瀬 晋吾, 永井 荘一郎, 並木 昭義
    2006 年 26 巻 5 号 p. 594-601
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      腹式子宮全摘手術90例を対象に, 術後の硬膜外鎮痛法における拮抗性鎮痛薬エプタゾシンの有用性について検討した. 対象を無作為に3群に分類し, ロピバカイン群 (R群, n=30) では0.5%ロピバカインのみを, エプタゾシン群 (E群, n=30) では0.5%ロピバカイン1mLに対して2.7mgのエプタゾシンを添加したものを, そしてブプレノルフィン群 (B群, n=30) では0.5%ロピバカイン1mLに対して4μgのブプレノルフィンを添加したものを, 手術終了時から2.1mL/hrの速度で持続硬膜外投与を行った. 疼痛の程度以外に, 悪心・嘔吐の程度ならびに合併症について比較, 検討した. E群は, R群と比較して鎮痛薬を必要とするまでの時間が有意に長く, また使用の程度が有意に少なかった. 手術終了6時間後の時点での疼痛の程度は, E群が他群と比較して有意に低かった. 悪心・嘔吐の程度はE群で最も少なかった. 投与中止後の歩行時の合併症ならびに排尿障害などはB群でのみ認められた. 局所麻酔薬にエプタゾシンを添加した低用量硬膜外持続投与法は, 開腹術後の質の高い鎮痛法として有用であると考えられる.
症例報告
  • 越川 桂, 今町 憲貴, 齊藤 洋司
    2006 年 26 巻 5 号 p. 602-606
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/10/25
    ジャーナル フリー
      無治療のファロー四徴症 (TOF) 患者の40歳以上の生存率は3%であると報告されており, 60歳以上のTOF根治術の麻酔管理に関する報告はきわめて少ない. われわれは, 60歳代まで無治療であったTOF根治術の麻酔症例を経験した. 成人例では小児例と異なり, 慢性的なチアノーゼを呈することが多い. そのため, 術前から多血症を生じることが多く, 血液の過粘稠, 凝固系異常, 脳膿瘍, 脳梗塞や心内血栓などの全身合併症を伴いやすいことが特徴である. 麻酔管理では, 小児例と同様に経皮的動脈血酸素飽和度 (SpO2) を保つことが最も重要である. 術中は循環血液量の減少や頻拍を予防すること, さらに, 右左シャントの増大を防ぐよう体血管抵抗を保つことが大切である. 成人TOFの根治術においては, 上記のような術前合併症に留意し, 麻酔管理時にはSpO2の低下をきたさないような工夫が必要である.
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