日本臨床麻酔学会誌
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28 巻, 7 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
日本臨床麻酔学会第27回大会 教育講演
  • 岩崎 賢一
    2008 年 28 巻 7 号 p. 889-899
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      一見安定しているように見える心拍や血圧, 脳血流などは, ある一定の値を中心に比較的急速に揺れ動いている. この揺らぎを自発変動や自然変動と呼んでいる. この自発変動の情報から生体の状態をより詳細に把握しようとする試みが発展してきた. 特に心拍変動の周波数解析から心臓自律神経活動の評価をする方法は, 臨床研究においても広く応用されている. また, 血圧変動から交感神経性の血管運動の評価をする方法も用いられている. さらに, 血圧と心拍の変動の関係を解析することにより, 動脈圧受容器心臓反射機能を評価することができる. 一方, 血圧と脳血流の変動の関係を解析することにより, 脳血流自動調節機能を評価することも可能である.
講座
原著論文
症例報告
  • 濱田 梢, 原 哲也, 三好 宏, 趙 成三, 澄川 耕二
    2008 年 28 巻 7 号 p. 935-940
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      デクスメデトミジンを用いた術中覚醒試験の麻酔管理を経験した. 症例は17歳, 女性で, 胸椎側弯症の診断のもと第2胸椎から第12胸椎までの脊椎後方固定術が予定された. 脊髄損傷の危険があるため術中に覚醒させて下肢の運動を確認する必要があった. プロポフォールの持続静脈内投与で麻酔を維持し, 覚醒前よりデクスメデトミジンの持続静脈内投与を開始した. 覚醒は速やかで, 興奮や体動はなく, 指示に応答可能であった. 術後, 下肢の神経学的異常を認めなかった. デクスメデトミジンとプロポフォールを併用した麻酔管理は術中の患者の苦痛を軽減するとともに, 速やかな覚醒により下肢の神経学的評価を可能とした点で有用であった.
  • 菅野 敬之, 甲田 賢一郎, 原田 雅樹, 佐藤 泰雄, 井手 康雄, 田上 惠
    2008 年 28 巻 7 号 p. 941-944
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      脳性麻痺による右不全片麻痺合併患者に対し, 開脚仰臥位で硬膜外麻酔併用全身麻酔下に腹式子宮全摘術を行ったところ, 術後に左大腿神経麻痺を発症し, 半年後に自然回復した. 大腿神経障害の原因には, 開創器による圧迫, 截石位, 術式 (全股関節形成術, 腎移植術) などがある. 本症例では, 開脚仰臥位にすると右股関節拘縮のため骨盤が体幹に対して右方向に回旋し, 下腹部の左側が右側に比べ相対的に高くなったことにより, 開創器による圧迫が助長されたと考えた.
  • 高橋 浩, 木村 健, 越川 総枝
    2008 年 28 巻 7 号 p. 945-950
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      66歳のアルコール依存症患者が上腕骨骨折, 右膝蓋骨骨折の全身麻酔手術後, 覚醒せず術後3日目に死亡した. 手術翌日施行したCT, MRI, MR-Angiography (MRA) 検査で, 椎骨脳底動脈領域の脳梗塞と診断された. 剖検の結果, 死因はすでに存在していた右房内血栓が, 卵円孔を通過し奇異性塞栓を生じ, 中脳, 橋, 小脳の多発性脳梗塞を起こした可能性が高いことが判明した. 術前に卵円孔開存を診断することは, 最も診断能が高いとされるコントラスト経食道心エコーを用いても難しい. 不幸な転機をとった症例であり術前診断の限界を感じたが, 覚醒遅延の原因検索に問題が残った.
  • 駒井 美砂, 安村 里絵, 高山 渉, 吉川 保, 金子 武彦, 小林 佳郎
    2008 年 28 巻 7 号 p. 951-955
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      亜急性期ヘパリン起因性血小板減少症 (HIT) 患者に対する腹部大動脈人工血管置換術の周術期抗凝固管理を行った. 患者はワルファリン単剤で良好に抗凝固管理されていたが, 腹部大動脈血栓の融解は得られず手術となった. ワルファリンは術当日まで継続しPT-INRは2.58と高値であったが, 大動脈遮断前の抗凝固能としては不十分であったため, アルガトロバンを持続投与することで無事管理ができた. 術中の臨床的な抗凝固レベルはACTの推移と比較的よく合致していたが, PT-INRのみを指標として抗凝固の調節をするのは困難であった. 亜急性期HIT患者の抗凝固管理においては凝固能検査値の適切な解釈と判断が重要である.
紹介
  • 徳嶺 譲芳, 宮田 裕史, 加藤 孝澄, 松島 久雄
    2008 年 28 巻 7 号 p. 956-960
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      初期臨床研修医に対し, 超音波ガイドによる中心静脈穿刺のトレーニングを行った. 受講生に対して, 事前に受講内容のレジメを送付し, 当日その内容をシミュレータを用いて解説した. 単純血管モデルにより, 穿刺針の基本手技の練習を行った後, シミュレータで内頸静脈穿刺の練習を行い, 動脈誤穿刺の回避など, 実践に準じた練習を行った. トレーニング終了後アンケート調査を行った. 受講生から良い評価を得たが, 同時にコース内容に関する要求も多く出された. 中心静脈穿刺をより安全なものとするため, 初期臨床研修医に対する超音波ガイド下中心静脈穿刺のトレーニングは重要である. しかし, 教育効果の高いトレーニングとするには, さらなるコースの見直しと改良が必要である.
第14回日本麻酔・医事法制 (リスクマネジメント) 研究会
  • 樋口 範雄
    2008 年 28 巻 7 号 p. 963-973
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      医療事故が起こった場合, 過剰に警察が医療の現場に介入する現象をここではパズルとしますが, これが大きな社会問題となっています. そもそも, このパズルを生み出したのは, 異状死についての法による過剰な介入が原因です. その結果, ここ数年医療事故への対応として警察による過剰な制裁型のパターンが目立ちます. この制裁型は医療チームの中にも対立を生み, より良い医療安全を構築するのに逆行します. そのため, 真相究明と再発防止に向け医学界が関与するモデル事業が始まりました. 成果はまだ少ないのですが, 医療安全には役立つと認識されつつあります. それを踏まえて, 解決策として医療安全委員会の構想が提案されています. そこでは, 医療者が中心となった安全システムを作ることが重要であり法はそれを支援するというのが大原則です.
  • 小澤 秀夫
    2008 年 28 巻 7 号 p. 974-979
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      社会の危機管理に対処するために, リスクマネジメントという考え方が, キーワードとして広く検討されるようになってきた. 一方, 医療現場の安全管理向上は社会の要求として強まっており, 多くの研究と実践がなされるようになってきている. 国際規格 (ISO14971) には医療機器の設計段階にて, リスクマネジメントの考え方を取り込むことが定められている. このような考え方は病院内の業務にも応用され始めてきている. 医療現場で発生する大きな事故には, ヒューマンエラーの重なる連鎖現象が潜んでいることが多い. このヒューマンエラーの連鎖を断ち切るリスクマネジメントを進めることが, 病院内安全管理を確立していくうえで重要と思われる.
  • 影山 京子, 橋本 悟, 田中 義文
    2008 年 28 巻 7 号 p. 980-985
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      麻酔科領域には紛争, 訴訟に発展する数々の特殊な問題が潜んでいる. 第一に,「麻酔担当医と患者との人間関係, 信頼関係が十分に形成されない間に麻酔が実施される」, 第二に, 患者側の「麻酔の危険性」に対する認識不足, 第三に,「全身麻酔は患者の不可視の状態の下に行われ, 医療行為の過程が患者にはわからない」, 第四に「局所麻酔の場合, 患者にとって簡易な医療行為にみえるにもかかわらず発生した結果はきわめて重大・深刻である」ということである. これらの特殊性を理解したうえでの慎重な麻酔業務の遂行と, 不幸にして事故が発生した場合,「過失」に相当するか否か慎重に検討し, 事故の再発防止と当事者, 被害者両者の救済に努める必要がある.
  • 牧野 裕美, 木内 淳子, 松村 陽子, 客野 宮治, 江原 一雅, 野坂 修一
    2008 年 28 巻 7 号 p. 986-992
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      2006年末までの5年間に法律雑誌などに掲載された, 術後呼吸管理不備で訴えられた民事訴訟判例を検討した. 11判例あり, 頭頸部の手術が約8割を占めた. 術後12時間以内の呼吸不全の発症が多く, モニター装着等により継続的観察が重要であると判例で判断された. 術後に薬剤を投与する場合は, 薬剤による合併症の発現に早急に対応できる体制下で行うことが要求されていた. 特に, 添付文書での適応外使用を行う場合には, 十分な体制で行うことが要求された.
  • 嶋田 文彦, 野坂 修一
    2008 年 28 巻 7 号 p. 993-999
    発行日: 2008/11/14
    公開日: 2008/12/13
    ジャーナル フリー
      今回われわれは麻酔への同意における麻酔関連説明文書の重要性に着目し, 日独3病院の比較を試みた. 文書の構成形式に大差はなかった. しかし麻酔関連死亡率の表示の有無や患者との特別合意事項表記の有無といった点に, 差異がみられた. これらは, 彼我の医療をめぐる状況の違いによるとも考えられる. だが近年のわが国の医事紛争判例基準は, 一般的合理的医療水準から個別的具体的事象へと向かっており, 特別合意事項記載はこの点を重視しているため, 参考とすべきと考えられた.
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