日本臨床麻酔学会誌
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30 巻, 4 号
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日本臨床麻酔学会第29回大会 招請講演
  • 椎谷 紀彦
    2010 年 30 巻 4 号 p. 497-505
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      大動脈外科に伴う脊髄虚血は,分節動脈由来栄養動脈の非再建により発生すると考えられてきたが,最近は,豊富な側副血行路の存在により,脊髄灌流圧(動脈圧-脳脊髄圧)を高く維持すれば分節動脈をすべて犠牲にしても脊髄虚血には陥らない,というコンセプトが主流となっている.本コンセプトにおいては,モニタリング結果に応じた血圧管理やCSFDなど,脊髄灌流圧維持のために麻酔科が果たす役割は非常に大きい.本稿では,現代のコンセプトに基づく脊髄保護戦略を概説し,その戦略下で外科医が麻酔科医に期待するものを述べるとともに,どのような症例で側副血流が不十分になるのかに関する最近の知見と自験例の手術成績を紹介する.
日本臨床麻酔学会第28回大会 教育講演
日本臨床麻酔学会第29回大会 教育講演
日本臨床麻酔学会第28回大会 シンポジウム 左利きの局所麻酔薬─レボブピバカインとロピバカイン─の基礎から臨床まで
  • 山本 健, 川真田 樹人
    2010 年 30 巻 4 号 p. 534
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
  • 古江 秀昌, 歌 大介
    2010 年 30 巻 4 号 p. 535-544
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      ブピバカインに含まれる光学異性体の一つ,S(-)体であるレボブピバカインは,痛みを伝えるAδ線維およびC線維における活動電位の伝導と,痛みの中枢への入り口である脊髄後角表層に誘起された興奮性のシナプス応答の双方を選択的に遮断し,触を伝えるAβ線維を介した伝達には比較的弱い抑制作用を示した.一方,R(+)体光学異性体であるデクスブピバカインは,AδやC線維およびAβ線維を介した伝達を区別なく遮断した.光学異性体が痛みの伝達に対して選択的な遮断効果をもつことを生理学的検討結果から述べ,その解析に用いた末梢から脊髄に至る痛みの伝達の研究法や局所麻酔薬の評価法を併せて紹介する.
  • 黒川 博己, 中尾 三和子
    2010 年 30 巻 4 号 p. 545-554
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      ラセミ体であるブピバカインには重篤な心毒性が認められることから,その左旋性異性体で毒性が少ないとされるレボブピバカインが開発され本邦でも承認された.本邦での適応は0.75%レボブピバカインが硬膜外麻酔,0.25%が術後鎮痛である.海外では現在50数ヵ国で使用され,すでに他剤との比較や安全性についての報告がいくつかなされている.本稿では,まず本邦での臨床治験の結果から,日本人におけるレボブピバカイン使用の有効性と安全性について述べ,次に海外での硬膜外投与に関する報告を述べ,その特徴について概説する.海外での術中硬膜外への使用報告ではブピバカインやロピバカインと比較した結果,わずかな違いは麻酔効力の差に起因するものであり,効力はブピバカイン>レボブピバカイン>ロピバカインとされている.しかし,高濃度を用いる術中使用に関しては3剤ともほぼ同様に有効と認識されている.
  • 小田 裕
    2010 年 30 巻 4 号 p. 555-564
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      局所麻酔薬の中枢神経毒性は,血中濃度の上昇に伴って脳内の濃度が上昇した結果,GABA作動性抑制性ニューロンが広範囲に抑制されることによって生ずる.中枢神経毒性は心毒性にも密接に関与しており,中枢神経毒性を亢進あるいは減弱させる薬物は心毒性にも影響を与えうる.静脈麻酔薬,吸入麻酔薬はいずれも局所麻酔薬の中枢神経毒性を抑制するが,交感神経α2受容体作動薬であるデクスメデトミジン,β1受容体遮断薬であるプロプラノロールも脳に直接作用して同様の作用を有する.局所麻酔薬の脳内濃度の推移は,血中濃度と類似しているが,リドカインとレボブピバカインでは血液中から脳内への移行の度合に差がある可能性が示唆された.
日本臨床麻酔学会第29回大会 シンポジウム DAMの現状総括と今後の方向性を探る
  • 辻本 三郎, 五十嵐 寛
    2010 年 30 巻 4 号 p. 565-566
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
  • 青山 和義, 竹中 伊知郎
    2010 年 30 巻 4 号 p. 567-576
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      ファイバースコープガイド下気管挿管(ファイバー挿管)は,気道確保困難に対する管理(DAM)において中心的な役割を担っている.米国麻酔科学会のDAMアルゴリズムにおいて,ファイバー挿管は,(1)予期した挿管困難症例の意識下挿管方法,(2)予期せぬ挿管困難症例の全身麻酔下の代替挿管方法,(3)挿管不能,マスク換気不能時のラリンジアルマスクを通しての挿管方法,の3点に位置づけられている.ファイバースコープは,現在のDAMにおいても,将来のDAMにおいても,欠くことのできない器具であり,ファイバースコープを利用した挿管方法は,すべての麻酔科医が習得し,いつでも利用できるようにしておくべき手技と考えられる.
  • 村島 浩二
    2010 年 30 巻 4 号 p. 577-584
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      気道管理はマスク換気と気管挿管を中心に発展した.LMA(Laryngeal Mask Airway)が世の中に出て四半世紀が過ぎ,LMAはDAM(Difficult Airway Management)に必要不可欠となった.当初,LMAの開発は気管挿管より簡便かつ低侵襲という特徴を目的としていた.しかし,気道確保困難に有効という症例報告や臨床研究の増加に伴いDAMでの役割が広く認められるようになった.そして,LMAの3つの特徴が明らかになるに伴い,初期のLMA Classicから発展した挿管用LMAやLMA ProSealといった第2世代,そして第3世代のLMA Supremeへと進化している.
  • 鈴木 昭広
    2010 年 30 巻 4 号 p. 585-592
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      ビデオ・光学機能を利用した喉頭鏡は近年,多種利用可能となってきた.直視型喉頭鏡である第1世代喉頭鏡の時代は,視線とチューブ通過経路が同一だったため,喉頭が見えれば挿管できたが(Can visualize, can intubate),逆に喉頭が見えなければ挿管できない(Can not visualize, can not intubate)という状況を生んだ.直視型の限界を克服するため,喉頭視認性を改善させるべく開発されたビデオ喉頭鏡のなかでも,気道解剖に合わせて極端な屈曲を有するGlideScopeなどの第2世代喉頭鏡は,喉頭視認性を改善したものの,見えても挿管できない(Can visualize, but can not intubate)という現象,およびカメラで見ていない死角での軟部組織損傷という新たな問題を生み出した.チューブ誘導機能をもつ喉頭鏡は第3世代の喉頭鏡と位置づけられ,なかでもガイド溝を有するタイプは軟部組織を鋭利なチューブ先端から保護し,かつ視線経路を再びチューブ通過経路と一致させ,第1世代のCan visualize, can intubateの原点に回帰させることを可能とした.第3世代喉頭鏡は今後の気道管理を変え,気管挿管の新たなスタンダードとなるだけの性質をもつと考えられる.
  • 内野 哲哉
    2010 年 30 巻 4 号 p. 593-602
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      気管挿管もマスク換気も不可能ないわゆるcannot intubate,cannot ventilate(以下,CICV)の場合,最終的には外科的気道確保の適応となる.その頻度は低いものの,日々気道確保に従事する麻酔科医が習熟しておくべき手技といえる.特に緊急の際に有用な輪状甲状膜穿刺・切開は重要である.輪状甲状膜経由でのアプローチ法には外科的手法と経皮的手法がある.また経皮的手法には直接穿刺法とセルジンガー法があるが,手術麻酔に専念する麻酔科医が輪状甲状膜穿刺・切開を学習,実施する機会は多くはない.今後CICVに備えたシミュレーショントレーニングや臨床研修のあり方を模索し,実践していく必要がある.
講座
  • 佐藤 雅美, 白神 豪太郎, 廣田 喜一, 福田 和彦
    2010 年 30 巻 4 号 p. 603-610
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      京大病院デイ・サージャリー診療部(DSU)は本邦国立大学附属病院としては初めての日帰り手術専用施設として設立され,2000年1月より診療を開始した.DSUでは2009年12月までに総計10,148件の麻酔科管理手術が行われたが,患者個々の周術期情報を収集・解析し,麻酔・周術期ケアの改善を図ってきた.例えば,婦人科子宮鏡手術ではmonitored anesthesia care(MAC)の導入により術後回復時間が短縮し,日常生活回復度の患者自己評価が向上した.安全かつ患者満足度の高い日帰り麻酔・周術期ケアを提供し,さらに向上させていくためには,患者からの周術期情報を取得しフィードバックしていく不断の努力が緊要であり,そのためには麻酔科医のみならず看護師,外科医との協働が必須である.
  • 浅井 隆
    2010 年 30 巻 4 号 p. 611-618
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      従来の喉頭鏡を用いた気管挿管では,声門を明瞭に確認できないことがあり,理想的とはいえない.エアウェイスコープは,自然な頭頚位のままで声門を確認でき,気管チューブの誘導もできるビデオ喉頭鏡で,従来の喉頭鏡で気管挿管が困難な症例でも高頻度で挿管可能,というエビデンスが出されている.ビデオ喉頭鏡は従来の喉頭鏡に比べさまざまな利点があるので,近い将来にはビデオ喉頭鏡が主流になっていくべきだろう.また,病棟あるいは院外での心肺蘇生時でも有用と期待できる.しかし新たな器具,技術も万能ではないため,従来法の適切な使用能力をどのように維持していくかを検討する必要があろう.
原著論文
  • 小寺 厚志, 芳賀 克夫, 宮崎 直樹, 宮成 信友, 片渕 茂
    2010 年 30 巻 4 号 p. 619-624
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      われわれは,90歳以上の消化器外科緊急手術症例を対象に,外科技術評価法Portsmouth-Physiological and Operative Severity Score for the enUmeration of Mortality and morbidity(P-POSSUM)の在院死亡予測の精度を,receiver operating characteristic曲線下面積(AUC)を用いて検討した.P-POSSUMは,患者の生理機能を表わすphysiological score(PS),手術の大きさを表わすoperative severity score(OSS)と両者から算出される予測死亡率(R)からなるが,AUCはPS:0.872,OSS:0.677,R:0.887で,PSやRの精度は高かった.なかでもPSは術前に算出可能で,麻酔管理上重要な情報となりうる.
症例報告
  • 山本 洋子
    2010 年 30 巻 4 号 p. 625-628
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      症例は55歳,男性.慢性腎不全の精査中,左腎腫瘍が発見され硬膜外麻酔を併用した全身麻酔(セボフルラン使用)下に腎摘出術を行った.術式は開腹法で体位は左半側臥位で腎臓付近が高くなるよう手術台を曲げた.手術時間は約4.5時間だったが,術中悪性高熱症の発症を思わせる所見はなかった.第1病日より38~39℃の発熱と,CPKの上昇がみられ,第2病日には11,000U/lを超えた.腎不全が進行したため血液透析を行った.ダントロレンを静脈内投与したところ解熱し,CPKは漸減した.後日,生検筋でCICR速度を測定したが亢進はみられなかった.発熱と高CPK血症の原因として感染と体位による横紋筋融解症が疑われたが,悪性高熱症との関連も否定しきれなかった.
  • 堀田 有沙, 藤本 陽平, 堀 直人, 平川 公美子, 吉川 範子, 立川 茂樹
    2010 年 30 巻 4 号 p. 629-633
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      難治性腹水の治療に腹腔と大静脈をカテーテルで繋ぐデンバーシャント術がある.患者は末期肝硬変のためリスクは高いが,術中,長時間,仰臥位を保つことは苦痛が大きく,全身麻酔を要するときがある.本手術は腹水の体循環への大量流入による心不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)など,周術期の合併症も多い.当院では全身麻酔下のデンバーシャント術4例を経験した.プロポフォール主体で管理した1例では覚醒遅延が生じ,セボフルランを主体とした吸入麻酔の方が管理しやすいと考えられた.気道確保は自発呼吸下でラリンジアルマスクを使用することで筋弛緩薬,麻薬を必要とせず呼吸循環動態が安定した状態で手術を行うことができた.予後は術前状態の影響を大きく受けると考えられた.
  • 小寺 厚志, 上妻 精二, 宮崎 直樹, 瀧 賢一郎, 江崎 公明
    2010 年 30 巻 4 号 p. 634-637
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      脊髄くも膜下麻酔で麻酔管理を行った脊椎手術の2症例を経験した.症例1は60歳,男性.特発性間質性肺炎に対して内服加療中であった.腰部脊柱管狭窄症に対して椎弓切除術が予定された.全身麻酔後の特発性間質性肺炎の急性増悪を考慮し,0.5%等比重ブピバカインによる脊髄くも膜下麻酔で管理した.症例2は47歳,女性.血縁者に悪性高熱症患者あり.腰椎椎間板ヘルニアに対して内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術が予定された.全身麻酔による悪性高熱症発症の可能性を考慮し,0.5%等比重ブピバカインによる脊髄くも膜下麻酔で管理した.麻酔中に低血圧と嘔気が認められた以外には,2症例ともに良好な経過で無事退院した.
  • 矢田部 智昭, 山崎 理絵, 山下 幸一, 横山 正尚
    2010 年 30 巻 4 号 p. 638-641
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      拡張型心筋症は麻酔管理上,麻酔薬による循環虚脱や致死性不整脈への対策が重要となる.今回,拡張型心筋症患者の鼓室形成術の全身麻酔を経験した.65歳,男性.NYHA分類II度,左室駆出率(EF)は33%であった.慢性中耳炎に対して,鼓室形成術を施行した.術中の心機能評価はFloTracTM/VigileoTMを用いて行った.麻酔維持で低用量からプロポフォールを開始したにもかかわらず,心係数の予想外の低下をきたしたが,FloTracTM/VigileoTMを参考に輸液負荷を行い,改善し得た.拡張型心筋症では麻酔薬による循環抑制が著しい場合があり,適切なモニタリングのもとで薬剤の選択や投与量を慎重に判断する必要がある.
  • 尾関 奏子, 斎藤 理恵, 田中 厚司, 金 日成
    2010 年 30 巻 4 号 p. 642-646
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      下大静脈内腫瘍栓子を合併した腎腫瘍摘出術では,手術操作による腫瘍栓子の遊離や空気塞栓症が生じる可能性がある.このような致死的な合併症を回避するためには,腫瘍栓子の形態を経時的に観察しつつ循環動態の変動に対しても迅速に対応する必要がある.われわれは,経食道心エコー(TEE)だけでなく肺動脈カテーテルを用いたモニタリングを行うとともに,下肢のうっ血予防と手術視野の確保のため,さらに腫瘍塞栓症や空気塞栓症による緊急開心術への移行に備えて部分体外循環を使用することにより,合併症なく麻酔管理を行うことができた3症例を経験したので報告する.
術後管理におけるPCAの上手な使い方(第1回)
  • 岩崎 寛, 佐藤 重仁
    2010 年 30 巻 4 号 p. 648
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
  • 上村 裕一
    2010 年 30 巻 4 号 p. 649-654
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      麻酔科学の進歩は周術期の患者の安全性を向上させたが,同時に術後鎮痛治療法の進歩で患者のQOLを改善した.術後鎮痛治療法の進歩には,機器や薬物の開発が大きく貢献したが,周術期の抗凝固療法の普及も大きく影響している.術後鎮痛治療法は全身投与法と区域鎮痛法に分けられ,それぞれにいろいろな薬物と投与法が使用されているが,最近それらを統合的に使用して質の高い鎮痛を行う複合的鎮痛法も広まりつつある.これらの術後鎮痛治療法の進歩の中で最も影響が大きいものが,Patient-controlled analgesia(PCA)であり,今後さらに発展が予想される.
  • 高木 俊一
    2010 年 30 巻 4 号 p. 655-661
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      麻酔領域の薬剤は短時間作用薬へと変遷したことにより,速やかな覚醒が得られるとともに術後の疼痛管理が必須となった.術後疼痛管理に理想的なPCAの普及には,周術期疼痛管理チームを発足させ,小規模から始めて規模の拡大をするのがよい.また,定期勉強会を開催し,正しい理論とPCA機器の使用方法を皆で共有する.不十分な鎮痛,副作用,アラームなどへの対応はマニュアル化し,緊急時には麻酔科へ連絡する24時間体制のシステム構築を完成させる.患者のPCAに対する不安を解消し,効果的な鎮痛を提供するためには,パンフレットや実際のPCA機器を用いた説明を繰り返し行うことが求められる.
  • 高橋 正裕, 古家 仁
    2010 年 30 巻 4 号 p. 662-668
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      PCAは鎮痛効果発現が速く,患者個々の活動度に合わせた鎮痛が可能である.また,コスト削減に寄与できるなどの利点がある.これに対し,(1)機器操作が煩雑,(2)重たく持ち運びが大変,(3)患者教育が必要,(4)意識障害患者では使えないなどの欠点も存在する.PCAを用いた術後疼痛管理をよりよくするためには,利点を享受しつつ,これらの欠点をいかに克服するかが肝要となる.われわれは,欠点をより少なくするために,Acute Pain Service(APS)の指導のもと,ディスポーザブルPCA注入器を用いた術後疼痛管理を行っている.
  • 高橋 正裕, 古家 仁
    2010 年 30 巻 4 号 p. 669-675
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      PCAによる術後疼痛管理を行うためには,術中に鎮痛薬をローディング投与し,覚醒時に鎮痛薬の効果部位濃度をMEAC(minimum effective analgesic concentration)付近にしておく必要がある.モルヒネを用いる場合は,覚醒30~60分前に0.2mg/kg投与すれば,覚醒時に効果部位濃度が約30ng/mlとなる.また,フェンタニルを用いる場合は,持続投与量0.5μg/kg/hのIV-PCAを接続した後,30分ごとに2μg/kgを3回ローディング投与すれば,ローディング開始3時間後に効果部位濃度が約1ng/mlで安定する.
  • 井上 莊一郎, 平 幸輝, 瀬尾 憲正
    2010 年 30 巻 4 号 p. 676-682
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      経静脈的自己調節鎮痛法(intravenous patient-controlled analgesia:IV-PCA)は,投与経路の確立が容易で硬膜外鎮痛が適応とならない症例にも用いることができる利点がある.しかし,硬膜外鎮痛と比較すると,体動時の鎮痛効果が劣ること,呼吸器合併症の頻度が高いこと,消化管運動機能の回復が遅いことが欠点である.また,オピオイドのIV-PCAだけで鎮痛を得ようとすると,オピオイドの副作用によって術後回復が妨げられることもある.そこで,IV-PCAを用いる際には,ほかの鎮痛法と組み合わせたmultimodal analgesiaによって,オピオイドの弊害を回避しながら鎮痛効果を高める工夫をする方がよい.また,IV-PCAの適応とならない症例があることにも留意する必要がある.
  • 井上 莊一郎, 平 幸輝, 瀬尾 憲正
    2010 年 30 巻 4 号 p. 683-689
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/10/28
    ジャーナル フリー
      硬膜外自己調節鎮痛法(patient-controlled epidural analgesia:PCEA)は自己調節鎮痛法(patient-controlled analgesia:PCA)の手法を硬膜外鎮痛に応用したもので,PCAの利点に加え,持続硬膜外投与だけでは鎮痛域が狭少化してしまうことをボーラス投与によって補うことができ,持続硬膜外鎮痛よりも少量の鎮痛薬で同等の鎮痛効果が得られるという利点がある.そこで,術後硬膜外鎮痛を選択した際には,PCAが不適当である症例を除いてPCEAを選択する方がよい.硬膜外鎮痛の利点を考えると,術式としては開胸手術,開腹手術,股関節または膝関節手術はPCEAのよい適応である.しかし,PCEAを考慮する際には,術式だけでなく,患者の血液凝固機能および周術期の抗凝固療法を勘案しなくてはならない.
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