日本臨床麻酔学会誌
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33 巻, 5 号
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日本臨床麻酔学会第32回大会 特別講演
  • 青柳 誠司
    2013 年 33 巻 5 号 p. 697-702
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      人間は蚊に刺されて吸血されてもほとんど痛みを感じない.高速度カメラを用いて透明なポリマー製の人工皮膚への蚊の穿刺の様子を詳細に観察し,その結果に基づいて蚊の穿刺メカニズムを推測した.蚊の口器のうち,穿刺に重要な役割を果たしている大顎と,その両側の小顎2本の合計3本の針について,それらと同様の形状・寸法を持つ3本の針をマイクロマシニングの技術を用いて工学的に実現した.これらの針を蚊と同様に互いに位相差を持たせて協調動作させ,人工皮膚への穿刺実験を行った結果,穿刺抵抗力が1/3~1/4に低減されることが確認できた.痛みと穿刺抵抗力には相関があるため,痛みの低減が期待できる.
日本臨床麻酔学会第32回大会 招待講演
  • 紺野 愼一
    2013 年 33 巻 5 号 p. 703-708
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      慢性痛には心理社会的因子が深く関与している.しかし,患者の心理的因子を評価するのは容易ではない.そこで,われわれは外来で施行可能な問診票BS-POP(Brief Scale for Psychiatric Problems in Orthopaedic Patients)(整形外科患者に対する精神医学的問題評価のための質問票)を作成した.BS-POPはすでに信頼性,構成概念妥当性,基準関連妥当性,再現性,および反応性が計量心理学的に検証されている.心理社会的因子を評価せずに手術等の侵襲的な治療を行うと,症状は回復せずにむしろ悪化することが少なくない.リエゾン治療の必要な慢性痛を呈する症例では,心理社会的側面の洞察と同時に,症例によっては脳機能を評価した上で治療を行う多面的アプローチが重要である.
日本臨床麻酔学会第32回大会 招請講演
  • 飯田 宏樹
    2013 年 33 巻 5 号 p. 709-718
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      麻酔科医は喫煙患者では周術期管理に苦慮することを経験してきた.喫煙は呼吸・循環機能を含め全身に影響を与えることは広く知られているが,周術期禁煙の意義は十分には理解されていない.周術期においては,喫煙者は非喫煙者に比べ,死亡,肺炎,予期せぬ気管挿管,人工呼吸,心停止,心筋梗塞,脳卒中等の死亡率・術後合併症のリスクが高くなることが示されている.最近では術前の禁煙期間が1週間長くなると,術後合併症が19%減少することが報告されているので,できるだけ早く術前禁煙を達成させることが大切である.ここでは周術期禁煙の意義を示すとともに,手術直前まで喫煙している患者に対する麻酔管理をいかに行うべきかも含めて提示する.
  • 小原 伸樹
    2013 年 33 巻 5 号 p. 719-727
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      肥満は静脈麻酔薬の薬物動態を変化させるため,麻酔科医は薬物動態に関する基本的な考え方を理解して麻酔薬の投与計画を行う必要がある.肥満患者への利用を想定せずに作成されたPKモデルを用いたシミュレーションやTCI投与の結果は不正確になりうる.最近,肥満患者のために従来のものから修正された,または“アロメトリックスケーリング”や“3/4ルール”を応用した新しい薬物動態モデルが発表されており,シミュレーションに用いて麻酔薬投与量を決定する場合の参考になる.
日本臨床麻酔学会第32回大会 シンポジウム ─吸入麻酔薬─
  • 山蔭 道明, 後藤 隆久
    2013 年 33 巻 5 号 p. 728-729
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
  • 萬家 俊博
    2013 年 33 巻 5 号 p. 730-735
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      亜酸化窒素はこれまで長年にわたって臨床で用いられてきたガス性吸入麻酔薬であるが,その環境に及ぼす影響や種々の有害作用のために臨床で用いられることが少なくなってきた.日本におけるレミフェンタニルの臨床導入がさらに拍車をかけている.亜酸化窒素の地球温暖化への悪影響がことさら強調されてきたが,実は揮発性吸入麻酔薬も個々に温暖化係数を有する.デスフルラン単独よりもデスフルランと亜酸化窒素併用の方が地球温暖化への影響を低減できるとの試算もある.患者の背景因子と手術上の禁忌要件の有無を考慮して,亜酸化窒素を低流量で併用することは,これからも手術室における全身麻酔の一つの方法として生き残るものと考える.
  • 水原 敬洋, 後藤 隆久
    2013 年 33 巻 5 号 p. 736-741
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      キセノンに麻酔作用があることが1946年に報告されて以来さまざまな研究が行われ,その特性が麻酔薬として理想的であることが判明している.キセノンはすでに欧州では麻酔薬として臨床認可されており,本邦でも臨床認可される可能性はあると考えられる.キセノンは導入・覚醒が早い,鎮痛作用を持つ,術中の循環動態が安定する,脳保護作用を持つ,術後認知機能障害を予防できる可能性がある,といった多数の利点を持っている.しかし一方で,キセノン自体のコストは高く,臨床普及を阻む欠点となっている.本稿ではキセノン麻酔の利点と欠点を概説し,今後の展望についてまとめる.
  • 平田 直之
    2013 年 33 巻 5 号 p. 742-749
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      2011年8月から使用可能となったデスフルランは,本邦で最も新しい吸入麻酔薬である.すでに多くの施設で使用されているが,従来の吸入麻酔薬と比較して,麻酔の維持,覚醒や回復はどのように異なるのであろうか.また,高濃度デスフルランは,気道刺激性を有し,交感神経活動を刺激することが知られているが,実際使用する際に留意すべき点としてどのようなことがあげられるのであろうか.本稿では,デスフルランを実際に臨床使用する中で見えてきた,デスフルラン麻酔の特徴および留意点について述べる.
日本臨床麻酔学会第32回大会 シンポジウム ─小児における声門上器具─どれを選択しますか?安全に使用できますか?─
日本臨床麻酔学会第32回大会 シンポジウム ─痛みの医療における質問票を用いた評価法の有用性と限界─
講座
  • 鈴木 利保
    2013 年 33 巻 5 号 p. 781-789
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      周術期管理の効率化に果たす麻酔科医の役割について解説した.手術医療は急性期病院の最も大きな収入源であり,麻酔科医が中心となり,手術室の効率化を果たす必要がある.効率化を果たすためには,標準化は絶対条件である.標準化の流れは手術室の構造や運用方法,医療機器や消耗品にとどまらず,ERASに代表される周術期管理自体にも広がる可能性がある.一方,効率化の推進によって安全対策が損なわれる場合もある.今後,麻酔科医は周術期管理チームのリーダーとして,患者の早期回復,入院期間の短縮に貢献し,積極的に安全対策に取り組む必要がある.
  • 濱田 宏
    2013 年 33 巻 5 号 p. 790-795
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      近年,術前の長時間絶飲食という習慣をやめて,手術前に炭水化物負荷食を導入する施設が増えている.当院も飲水制限時間を緩和し,さらに炭水化物負荷食を院内の一部で導入したが,その過程で種々の課題に直面した.まず飲水制限時間を緩和する中で,(1)クリアフルイドの定義,(2)除外症例の設定,(3)絶飲水時間の具体的設定など,細かい検討が必要だった.また,確実な飲水許可指示を行うために,麻酔科術前指示の確認方法を細かく策定した.さらに炭水化物負荷食を食事として配膳する場合,食事オーダーをいつ,誰が,どのように出すかについては今も課題である.導入にあたっては事前にこれらのことについて検討しておく必要がある.
  • 矢田部 智昭, 横山 正尚
    2013 年 33 巻 5 号 p. 796-801
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      Enhanced Recovery After Surgery(ERASTM)のプロトコールの一つである,術前炭水化物負荷はインスリン抵抗性を改善し有用である.今回,本邦で入手可能な炭水化物含有飲料であるアルジネード®ウォーター(AgW)にもインスリン抵抗性改善効果があるか正常血糖高インスリンクランプ法を用いて評価した.6名の健常被験者を対象としたクロスオーバー研究で行った.A群はAgW摂取群,B群は絶食群とした.A群では21~24時までにAgWを375ml,検査当日朝に250mlを摂取した.B群では前日21時以降は水,お茶のみの摂取とした.インスリン抵抗性の指標であるGIRはA群で有意に高く,インスリン抵抗性が改善された(11.5±2.4 vs. 6.2±2.2mg/kg/min,P=0.005).本研究からAgWはインスリン抵抗性を改善できることが明らかになった.
原著論文
  • 三根 奈々, 谷川 義則, 園畑 素樹, 平川 奈緒美, 坂口 嘉郎
    2013 年 33 巻 5 号 p. 802-807
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      経口補水液(OS-1)と高濃度炭水化物含有飲料(AW)の術前水分補給効果と飲水量に関する比較検討を行った.手術当日2例目以降予定の脊髄くも膜下麻酔下に施行される人工股関節全置換術症例を対象とし,封筒法にて各群20例(OS-1 1,000ml群,AW 1,000ml群,AW 250ml群の3群)に分け水分補給効果を前向きに調査した.OS-1 1,000ml vs AW 1,000ml群,AW 1,000ml vs AW 250ml群ともΔFENa(fractional excretion rate of Na)に有意差なく,効果は同等であった.術前摂取飲料に両飲料水とも適することが示唆された.
  • 志田 恭子, 祖父江 和哉, 平手 博之, 有馬 一, 藤田 義人, 笹野 寛
    2013 年 33 巻 5 号 p. 808-814
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      麻酔中の誤薬は最も一般的な有害事象であるが,原因の多くは薬剤シリンジの取り違えである.誤薬防止対策の一つとして,各国で薬剤シリンジラベルの標準カラーコードが制定されている.薬効別カラーコード制定の動きは,1980年代の南アフリカのStellenbosch大学のFoster 教授の原案から始まり,各国へと広がった.2008年にISO(国際標準化機構)がISO26825を策定した後は,各国の提言もISOに準じて改訂され現在に至っている.本稿では,薬剤シリンジラベルの標準カラーコードを文献的に調査し,制定の歴史をまとめた.日本でも国際標準のカラーコードを導入するとよいと思われる.
症例報告
  • 田村 貴彦, 矢田部 智昭, 山下 幸一, 横山 正尚
    2013 年 33 巻 5 号 p. 815-819
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      73歳,男性.重症僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁逆流症)を合併したアドレナリン優位型褐色細胞腫に対し,腹腔鏡下右副腎摘出術を施行した.麻酔導入後,PreSep oximetry catheterTMとFloTracTMを用いて,心係数と中心静脈酸素飽和度(ScvO2)の測定を開始した.腫瘍周囲の手術操作の間,血圧と全身血管抵抗(SVRI)が急激に上昇したために,フェントラミンを投与した.腫瘍摘出後,血圧と心係数を維持するためにドブタミンを使用した.これらのモニターを指標にした循環管理を行うことで,僧帽弁閉鎖不全症を合併した褐色細胞腫の麻酔を安全に行うことができた.
  • 吉村 真一朗, 小嶋 大樹, 平手 博之, 杉浦 健之, 有馬 一, 祖父江 和哉
    2013 年 33 巻 5 号 p. 820-825
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      小児の心臓血管外科術後に悪性高熱症(MH)を疑うも,診断の過程で難渋した症例を経験した.MHは近年,麻酔薬の改良に伴い,その発症頻度は漸減しているものの,麻酔における致死的合併症として念頭に置くべき疾患の1つである.しかし,心臓血管外科手術の周術期ではMHの所見を見落としやすい状況にある.さらに,骨格筋検査や遺伝子検査を行える施設は限られており,診断を得るまでに長期間を要する.本例では臨床経過からMHを強く疑って遺伝子検査を行ったが,対象となるRYR1遺伝子に変異は認めなかった.小児の先天性心奇形は,複数回にわたり手術を必要とすることも多いため,検査による診断の前にMHを疑い,早期対応をすることが望まれる.
  • 蓑輪 尭久, 平手 博之, 杉浦 健之, 笹野 寛, 祖父江 和哉, 薊 隆文
    2013 年 33 巻 5 号 p. 826-829
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      止血凝固能異常のない高齢女性における帯状疱疹による疼痛に対して,硬膜外ブロックを施行したところ,施行後に神経症状を呈した症例を経験した.MRIで硬膜外血腫が認められた.血腫は少量であったが,脊柱管狭窄や椎体圧迫骨折などの高度椎体変形が存在したため血腫が拡散せず,局所的な神経圧迫により,神経症状が増強したと考えられた.高度脊椎変形を伴う患者への硬膜外ブロックでは,少量の血腫でも神経圧迫を起こす可能性があり,十分な注意が必要である.
コラム
〔日本医学シミュレーション学会〕 原著論文
  • 駒澤 伸泰, 山本 憲康, 黒田 達実, 宮居 健, 太城 力良
    2013 年 33 巻 5 号 p. 831-836
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      G2010 AHA-BLSヘルスケアプロバイダーコース(HCP)受講生に受講前後の心肺蘇生に対する意識を調査した.質問項目は,「BLS初動に関するもの」,「人工呼吸の施行に関する意識」,「一般市民へのBLS普及に関するもの」とし,5段階での共感度評価とした.BLS初動関連では,「見知らぬ人の卒倒を見たら通報する」と答えた受講者の割合は受講前後で有意差はなかったが,見知らぬ人や家族の卒倒時のBLS開始に関しては有意に増加した(P<0.05).人工呼吸関連では「家族への人工呼吸のためらい」は受講前後で不変であったが,「見知らぬ人への人工呼吸のためらい」や「感染のリスクへの恐れ」は有意に低下した(P<0.05).AHA-BLS-HCP受講により医療従事者のBLS初動および人工呼吸に対する意識の変化が認められた.
〔日本医学シミュレーション学会〕 紹介
  • 鈴木 昭広
    2013 年 33 巻 5 号 p. 837-841
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/11/09
    ジャーナル フリー
      ASAの困難気道ガイドラインが10年ぶり,2度目の改訂を迎え,日本語翻訳版が本誌に掲載されることとなった.ガイドラインの内容に関しては,気道管理の4つの柱であるマスク換気,気管挿管,喉頭上エアウェイ,侵襲的気道アクセスに大きな変化はない.基本戦略の「STEP1管理困難の予測」では喉頭上エアウェイ留置困難と喉頭展開困難が加わった.STEP3では管理プラン実施にあたり考慮すべき事項に,初回挿管からビデオ喉頭鏡の使用を考慮する旨が追加され,新しい時代の幕開けが感じられる.ガイドライン変更の背景を考察し,このガイドラインが麻酔科医の教育・診療に与える影響についてまとめた.
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