日本臨床麻酔学会誌
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34 巻, 4 号
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原著論文
症例報告
  • 春山 直子, 前 知子, 寺田 尚弘, 嵐 朝子, 安部 彩子, 山崎 隆史
    2014 年 34 巻 4 号 p. 491-495
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      頭蓋内にあるカテコラミン分泌型グロームス腫瘍摘出術の周術期管理を経験した.症例は31歳の女性.高血圧と頭痛を主訴とし,右頚静脈孔を中心とした直径50mmのカテコラミン産生グロームス腫瘍と診断された.術前にαブロッカーの経口投与と腫瘍血管塞栓術を施行後,全静脈麻酔下に頭蓋底腫瘍摘出術が行われた.腫瘍操作時の異常高血圧にはニカルジピンで,腫瘍摘出後の低血圧にはノルアドレナリンの持続投与で対処した.手術終了後,右舌咽神経麻痺を疑ったため,覚醒良好であったが挿管したままICUに移動して,術後3日目に抜管した.同様のカテコラミン産生腫瘍である褐色細胞腫に準じた術前処置だけでなく,頭蓋底腫瘍開頭術としての特徴を踏まえて管理する必要があった.
  • 坂倉 庸介, 上村 明, 八木原 正浩, 宮部 雅幸
    2014 年 34 巻 4 号 p. 496-499
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      硬膜外麻酔のまれな合併症にカテーテルの抜去困難がある.抜去困難時に無理に引き抜くと,カテーテルが切断し,体内に遺残する可能性がある.今回硬膜外カテーテル抜去困難症例を経験した.術後さまざまな体位でカテーテルの抜去を試みたが,抜去できなかった.CTを撮影し,3次元画像を構築したところ,カテーテルの固定部位として,右椎間関節が考えられた.固定を解除するために,左方向へ引きながら抜去したところ,カテーテルを切断することなく抜去できた.硬膜外カテーテル抜去困難例において,3D-CTによるカテーテル走行の確認がカテーテル抜去の助けとなった.
  • 山本 匠, 蒲生 正裕, 高森 未奈
    2014 年 34 巻 4 号 p. 500-504
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      左内胸動脈は,長期の良好な開存性を有するため冠動脈バイパス術においてグラフトとして頻用される.鎖骨下動脈狭窄は,冠動脈バイパス術を受ける患者の0.2~6.8%に存在するとされ,その場合左内胸動脈グラフトの使用はcoronary-subclavian steal syndromeによる冠動脈虚血を起こす可能性があるため使用を避けるべきである.本症例では,麻酔導入後の経食道心エコーによる重度鎖骨下動脈狭窄の診断により,使用グラフトを変更し術後coronary-subclavian steal syndrome発生のリスクを回避できた.経食道心エコーは,鎖骨下動脈狭窄の診断・評価に有用な検査である.
  • 小田 富士子, 佐藤 暢一, 佐藤 聖子, 原田 昇幸, 寺田 享志, 落合 亮一
    2014 年 34 巻 4 号 p. 505-509
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      54歳,女性.10代で重症筋無力症を発症.54歳時にクリーゼがみられ,精査時に発見された肝腫瘍に対して肝右葉切除術が予定された.入院時に球麻痺症状が持続していたため,術前に免疫吸着療法を施行し,手術時に症状は改善していた.麻酔維持は硬膜外麻酔とセボフルランによる全身麻酔で行った.術中は筋弛緩モニタリングを行い,手術終了時にTOF比1.0への回復を確認後,スガマデクスにより筋弛緩薬を拮抗し抜管した.しかし手術12時間後には軽度の呼吸困難を訴えた.全身型重症筋無力症患者を術前に免疫吸着療法で管理しても,術後早期からクリーゼを引き起こす可能性があるため,術後の看視を怠ってはならないと考えられる.
紹介
  • 堀江 彰久, 関谷 秀樹, 山口 祐佳, 福井 暁子, 寺田 享志, 落合 亮一
    2014 年 34 巻 4 号 p. 510-515
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      2011年4月より当院に周術期センターを開設した.口腔外科は,口腔機能管理部門を同年11月より担当している.同部門設置後の1年間にセンターを受診した患者5,243名のうち,センター常駐の歯科衛生士による口腔チェック後の助言で,麻酔科医が口腔外科受診を指示した患者数は769名で,受診率は14.6%であった.内訳は,動揺歯への対応が313件,口腔感染源対策が278件であった.その結果,全身麻酔時の歯の損傷事故は0件となった.こうした選択的受診システムにより,手術前口腔処置が不必要な患者の口腔外科外来受診をなくすことができた.口腔外科が周術期センターにおけるチーム医療に参画することで効率的な外来運営が可能となった.
日本臨床麻酔学会第32回大会 招請講演
  • 市川 高夫
    2014 年 34 巻 4 号 p. 516-521
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      不必要な手術部位感染(SSI)のために使用された抗菌薬投与に起因するアナフィラキシーショックによる患者死亡をなくすためにも,SSI予防は病院経営にとって重要である.予防できるSSIは医療事故としてとらえ,その要因分析も行うことが多くの場合可能である.SSIの要因として,環境因子,術者因子,患者因子に分類できる.SSI予防のためにはこれら要因を理解し,要因分析を実施することが必要である.交絡因子が多い分野であるので,単独での効果を証明することが困難なこともある.エビデンスが証明されているものはもちろん理論的に理解できる要因はバンドルとして実行することが必要である.
日本臨床麻酔学会第32回大会 シンポジウム ─周術期のチーム医療─
  • 落合 亮一
    2014 年 34 巻 4 号 p. 522
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
  • 柴田 ゆうか, 河本 昌志, 木平 健治
    2014 年 34 巻 4 号 p. 523-530
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      手術室薬剤師業務は事故防止と薬品適正管理の観点から始まり,薬剤師の一元管理による薬品管理強化に貢献した.しかし薬物療法の適正使用への貢献において薬剤師の専門性が遺憾なく発揮されているとは言い難い.また多くの病院で薬剤師が充足しているとはいえない状況があり,いまだ手術室への薬剤師配置ができないところもある.手術室における薬剤師の参画を進展するためには,周術期医療における薬剤師業務の指針の作成や診療報酬上のインセンティブなど手術室への薬剤師配置のための環境整備が今後の課題である.
  • 杉本 浩士, 松成 泰典, 川西 秀明, 萱島 道徳, 川口 昌彦, 古家 仁
    2014 年 34 巻 4 号 p. 531-537
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      日本麻酔科学会による周術期管理チーム養成の提唱等により,病院長の方針のもと,麻酔アシスタントとして麻酔補助業務を担当する臨床工学技士が誕生し,平成26年3月現在,6名が当院の研修プログラムを修了した.その業務内容は,術前準備を含めた麻酔補助・機器管理の大きく2つに分けられ,詳細は多岐にわたる.麻酔科医の業務軽減と医療安全の向上を目的として当制度が発足して現在約4年が経過した.麻酔補助においては業務の拡大と教育体制の充実が今後の課題であり,機器管理においてはますます業務が増える傾向にある.われわれ麻酔アシスタントと当院麻酔科医が共同で業務を行うことにより,医療安全の向上につながる可能性があると考える.
日本臨床麻酔学会第33回大会 シンポジウム ─大量出血と輸液・輸血療法─
講座
  • 鈴木 利保
    2014 年 34 巻 4 号 p. 556-567
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      硬膜外麻酔は特に抗凝固療法の併用において,運用を誤ると事故につながる可能性があり,その使用頻度が減少している.しかしながら硬膜外麻酔は患者の早期離床,入院日数の短縮に大きく貢献し,術後管理体制に影響されない優れた鎮痛法であることも事実である.われわれは硬膜外麻酔を活かすために,肺血栓塞栓症ガイドラインの最高リスク患者の術後鎮痛フローを作成し,硬膜外カテーテル抜去後に抗凝固療法を開始している.また抗凝固薬を1種類のみとし,看護師に対して脊髄硬膜外血腫を早期に発見するためのチェックリストを用いて,不測の事態には上級医に素早く報告できるような運用法を構築し,一定の成果を上げている.術後疼痛対策は,施設の規模や体制によって大きく異なるが,硬膜外麻酔の否定は,患者と施設の双方にとって利益とならない.抗凝固療法については,施設間の位置づけが異なると考えられるが,硬膜外麻酔,IV-PCAや超音波ガイド下末梢神経ブロックには,それぞれ長所と短所があり,施設の事情に適した運用法を用いる必要がある.
  • 戸部 賢
    2014 年 34 巻 4 号 p. 568-575
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      近年術後鎮痛の重要性がますます高まりさまざまな鎮痛方法,鎮痛薬が使用されるようになったが,いまだ十分といえる状況にはない.われわれは2006年より京都大学再生医科学研究所 田畑らと共同で徐放化局所麻酔薬を作成し研究を行っている.これまでに,2~3日間で50%程度,7日間で90%程度放出するようなリドカイン徐放シートの作成に成功した.さらにそれをラット術後痛モデルでの効果と投与部位周囲に毒性のないことを証明した.その後粒子化しラット硬膜外投与でも同様の実験を行った.現在,ヒトボランティアにおいて医師主導臨床試験を行っている.徐放化局所麻酔薬の単回投与で安全かつ簡便な術後鎮痛方法の確立を目指したい.
  • 濱口 眞輔
    2014 年 34 巻 4 号 p. 576-582
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      麻酔科医が行う慢性痛の治療には神経ブロックなどの侵襲的治療と,非侵襲的治療があるが,近年では薬物療法の進歩と抗凝固療法の増加のために侵襲的な治療を選択しにくい.慢性痛に対する神経ブロックは診断的治療として有意義であり,神経学的高位診断,微小病変の確認と臨床診断の補助に有用である.また,期待される鎮痛効果がみられないときには悪性疾患が発見されることが多く,同意が得られない患者には十分な説明とともに薬物療法を先行することが望ましい.麻酔科医は薬物療法に精通するとともに侵襲的治療にも精通し,痛みに対してあらゆる病態を考慮し,患者の精神状態も評価した上で適切な治療法を選択することが求められる.
〔日本医学シミュレーション学会〕 紹介
  • 羽場 政法, 駒澤 伸泰, 藤原 俊介, 讃岐 拓郎, 安宅 一晃, 上農 喜朗
    2014 年 34 巻 4 号 p. 583-587
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      日本医学シミュレーション学会は安全な鎮静・鎮痛法の講習会を行っている.セミナー受講前後の受講生の知識を確認するために,セミナーを受けた受講生55人のうち同意が得られた47名を対象とし,米国麻酔科学会非麻酔科医のための鎮静・鎮痛ガイドラインに基づくプレ・ポストテストを行った.プレテストに比べ,ポストテストにおいて有意に正答率が上昇した.しかし,両テストにおいて,「カプノグラフィの重要性」を問う問題では正答率50%未満であった.本セミナーは,安全な鎮静を普及させる可能性を示唆している.しかし,さらに安全な鎮静を普及させるためには,今回の結果をもとに講習会内容を検討し,今後も継続的な講習会の評価と改訂が望まれる.
麻酔科医に必要な気道確保のポイントと教育(第2回)
  • 小林 孝史, 本田 泉
    2014 年 34 巻 4 号 p. 590-595
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      全身麻酔の導入に際しては,十分に脱窒素を行う.マスク保持の方法は,片手で行う場合「EC法」が基本となる.小指で下顎を引き出すことにより,舌が持ち上げられ口咽頭が開放する.気道が開放されない場合は,triple airway maneuverやエアウェイを使用する.片手でのマスク換気が困難な場合,両手でのマスク保持による二人法が有効である.バッグバルブマスク(BVM)によるマスク換気を行う場合,使い方次第では高濃度の酸素が投与されていないことがあるため,注意を要する.
  • 倉橋 清泰
    2014 年 34 巻 4 号 p. 596-600
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      70年以上にわたり使用されてきたミラー型やマッキントッシュ型の直視型喉頭鏡の必要性が今後も続くことには疑いの余地はない.ただし,これらの器具における欠点も明らかであり,それを軽減/克服した器具は,臨床のさまざまな場面でその有用性が論じられている.本稿では,それらの器具の中でも最近特に機種や型が充実してきているビデオ喉頭鏡について,手術室や集中治療室,あるいは緊急気道確保が必要になる現場における器具の調達および実際の使用に際しての参考になるように,その有用性と問題点を整理して紹介した.
  • 青山 和義, 竹中 伊知郎
    2014 年 34 巻 4 号 p. 601-607
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      気管支ファイバースコープを用いた気管挿管は,気道確保困難症例において,(1)困難予測症例における意識下挿管,(2)全身麻酔下での予期せぬ挿管困難症例における代替挿管方法,(3)挿管不能,マスク換気不能時の声門上エアウェイを通しての挿管方法,に良い適応となる.また気道確保困難症例以外にも,意識下挿管や経鼻挿管が必要な場合,頸椎不安定症例において適応となる.最近,ビデオ喉頭鏡など新しい有用な挿管器具が開発されているが,気管支ファイバースコープは唯一柔軟な挿管器具であり,他の硬性器具では適合できない高度な解剖学的偏位,高度な気道病変,開口不能時にも対応できる可能性がある.気道確保の方法は今後もさらに多様化していくことが予想されるが,ファイバースコープを用いた気管挿管は,麻酔科医にとって習得しておくべき手技であることに変わりはない.
  • 浅井 隆
    2014 年 34 巻 4 号 p. 608-612
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      麻酔導入後にマスク換気が困難で,下顎挙上によっても上気道閉塞が十分に解除できない場合には,適切なエアウェイを挿入する.エアウェイには経口と経鼻があるが,マスク換気困難な場合,侵襲の少ない経口エアウェイを選択する.しかしエアウェイ挿入によっても換気困難な場合,声門上器具の挿入を試みる.声門上器具は,マスク換気が困難なときの“レスキュー”器具として役立つ可能性がある.“挿管不能,換気不能”という緊急時には,挿入が容易で,換気の成功率が高い声門上器具を使うとあらかじめ決めておくのがよい.そしてすべての医療従事者は,いざというときにこれらの器具を確実に挿入できる能力を普段から身につけておく必要があろう.
  • 野村 岳志
    2014 年 34 巻 4 号 p. 613-621
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      緊急時の外科的気道確保としての輪状甲状膜穿刺・切開は種々の気道管理ガイドラインの最後の手段の一つである.手技自体は喀痰吸引などを目的に計画的に行う輪状甲状膜切開と同じであるが,施行する環境は大きく異なる.SpO2モニターが低音調で頻脈,不整脈,あるいは徐脈を告げ,アラーム音が鳴り響く中での手技である.時間的余裕はなく,数分で心停止となる.このような状況下での緊急輪状甲状膜切開はやはり手技自体の成功率が下がる.そのため換気不可能となった場合は人員を集め,生理学的状態を考えながら換気不可能に対処するタスクチームを編成する必要がある.確実な輪状甲状膜切開と同様に,二人法のマスク換気,薬剤の投与,除細動器・救急カートの準備,確実な記録記載などを行うことも重要で,タスクチームとしての対処が患者の生命予後を左右する.
  • 松島 久雄
    2014 年 34 巻 4 号 p. 622-626
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      気管切開は古くから行われている外科的な手技と,セルジンガー法で行う経皮的な手技とが行われている.経皮的気管切開術は専用キットが販売され,比較的手技が容易であることから,最近では実施頻度が増えている.しかしながら,外科的気管切開術の方が望ましいケースもあり,どちらの手技にも精通しておくべきである.よく知られている外科的処置であるが,正しく実施できなければ即座に重篤な合併症を引き起こす.合併症を回避するためには,手技だけではなく,適応を正しく判断し,事前準備をきちんと行うべきである.安全な外科的気道確保のために気管切開の手順について解説する.
  • 車 武丸
    2014 年 34 巻 4 号 p. 627-631
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      気道確保の目的は酸素化の維持である.患者要因,手術要因,施行者要因,環境要因などによって最適な気道確保方法は異なる.したがって,安全な気道管理のために配備すべき器材について,一般論的に述べることは困難である.本稿では文献的考察に加え,筆者の個人的見解も含め,安全な酸素化の維持のためには何が必要か,術前評価,マスク換気,声門上器具,気管挿管,外科的気道確保,体外循環に分けて考察する.
  • 水本 一弘
    2014 年 34 巻 4 号 p. 632-635
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/09/06
    ジャーナル フリー
      DAM(Difficult Airway Management:困難気道管理)の教育では,近年,シミュレーション・トレーニングが重要視されてきた.シミュレーション・トレーニングにより,技術の習得だけでなく,チーム医療に必須のnon-technical skillsや危機管理能力を養うことが可能である.トレーニングの質管理には,指導者に対する認定制度(インストラクター制度)が必須である.
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