日本臨床麻酔学会誌
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35 巻, 5 号
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原著論文
  • 鎌田 高彰, 森 庸介, 杉浦 孝広, 佐藤 奈々子, 高橋 京助, 落合 亮一
    2015 年 35 巻 5 号 p. 567-572
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    心臓血管外科手術では術後急性腎障害(AKI)頻度が高率である.循環停止法を必要としない胸部下行大動脈置換術術後でのAKIの発症頻度を調査し,検討を行った.対象は胸部下行大動脈置換術101例,Acute Kidney Injury Network criteriaを用いて術後AKIを分析した.術後AKI発症率は42.6%,AKI発症群と非発症群を比較し有意差を認めた因子は術前,術中は慢性閉塞性肺疾患既往歴,術中フロセミド使用,体外循環灌流時間であった.術後因子に関しては集中治療室在室日数,術後人工呼吸器装着日数で有意差を認めた.本研究で心臓血管手術でのAKI発症頻度が高率であることを再確認した.
  • 伊藤 美保, 伊藤 健二, 坂本 麗仁, 安藤 亜希, 鈴木 利保
    2015 年 35 巻 5 号 p. 573-578
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    われわれは以前にFloTracTM/VigileoTMを用いたGDT(Goal-directed therapy)を実践し,その有用性について報告した.今回,GDTが周術期管理に及ぼす影響について検討した.対象術式は膵臓手術とした.対照群(n=24)では平均血圧,心拍数,尿量を指標にし,GDT群(n=23)では上記に加えSVV,SVIを指標に術中管理を行った.GDT群のICU滞在日数は1.3±0.6日,対照群は2.5±2.2日とGDT群で有意に短縮していた(P=0.043).術前術後のBUN,クレアチニン値は群間で有意差を認めなかった.術中輸液の適正化が,術後の早期回復に寄与できる可能性が示唆された.
  • 西部 伸一, 新原 朗子
    2015 年 35 巻 5 号 p. 579-584
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    未熟児出身者19例を対象として,サイズ1ラリンジアルマスク(LMA#1)を用いた麻酔中の気道合併症の頻度と,術前の呼吸器疾患が気道合併症に与える影響を後方視的に検討した.気道合併症は5例に生じ,酸素飽和度低下が2例,エアリークが2例,位置異常が1例であった.5例のうち気管支鏡で声門が完全に観察された症例が4例,観察不可能であった症例が1例で,気道合併症と観察所見には関連はなかった.また,呼吸器疾患症例9例中4例,呼吸器疾患のない症例10例中1例に気道合併症が生じ,呼吸器疾患症例で多い傾向にあった.術前に呼吸器疾患のある未熟児出身者にLMA#1を使用する場合には,気道合併症に注意が必要である.
症例報告
  • 佐藤 徳子, 高田 浩太郎, 谷口 美づき, 牧野 洋, 加藤 孝澄, 佐藤 重仁
    2015 年 35 巻 5 号 p. 585-588
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    Sotos症候群は,特徴的な顔貌,過成長,学習障害などを特徴とする遺伝性疾患である.Sotos症候群が疑われる患児の全身麻酔導入にセボフルランを使用したところ,四肢の痙攣様運動および心電図上ST低下が生じた.手術は中止とし,精査より冠攣縮性狭心症が疑われた.後日予定された手術の麻酔では,導入時からニコランジルの持続静注を行い,チオペンタールにより急速導入し,セボフルランで麻酔維持した.周術期に心電図異常,神経学的異常などは発症せず,術後経過は良好であった.高濃度セボフルラン吸入を避けたことで問題なく麻酔導入を行うことができた.Sotos症候群疑いの患児への麻酔を経験したので,麻酔管理上の問題を文献的考察を加えて報告する.
  • 甲田 賢一郎, 木村 悠香, 鵜澤 將, 三部 徳恵, 菅野 敬之, 北村 享之
    2015 年 35 巻 5 号 p. 589-594
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    妊娠13週で全身麻酔下腰椎椎間板ヘルニア摘出術を施行した1症例を報告する.妊婦に対する手術・麻酔のタイミングは流早産・奇形の危険性が少なく,母体の解剖学的・生理学的変化が比較的少ない,第2三半期(妊娠14〜28週)が適している.本症例では神経症状の悪化と子宮が増大すると腹臥位が困難となるため,妊娠13週に手術を行った.また,妊婦に使用する薬剤の選択にも注意が必要であり,米国食品医薬品局とオーストラリア医薬品評価委員会の分類をもとにチオペンタール,フェンタニル,レミフェンタニル,セボフルラン,ロクロニウムを選択した.妊婦に対する非産科的手術の麻酔では母体の安全性を確保し,胎児への悪影響を最小限にするために子宮胎盤血流の維持や催奇形性薬物の回避に努める必要がある.
  • 田原 里美, 岩坂 日出男, 濱本 浩嗣
    2015 年 35 巻 5 号 p. 595-600
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    46歳の男性.バイク運転中の交通外傷により骨盤骨折,両側手関節骨折受傷した.当院に救急搬送され,気管挿管後人工呼吸管理および出血性ショックに対して全身管理を行った.ショック状態を離脱した後,骨盤骨折に対し創外固定術が行われ,後日,創外固定抜去術が行われた.一旦退院したが,心不全および肺水腫による呼吸苦出現し再入院となった.多発交通外傷性腱索および乳頭筋断裂による重症僧帽弁閉鎖不全と診断され,僧帽弁置換術および三尖弁形成術が行われた.外傷性僧帽弁閉鎖不全症の早期診断およびその術中麻酔管理には注意が必要である.
  • 廣﨑 早江子, 若松 正樹, 平野 洋子
    2015 年 35 巻 5 号 p. 601-606
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    内科的治療が奏効せず甲状腺機能亢進のまま甲状腺全摘術を要したバセドウ病患者の周術期管理を経験した.手術はセボフルランとレミフェンタニルを用いた全身麻酔下に行われ,カルぺリチドとランジオロールを術中使用した.翌日抜管したが,数時間後より甲状腺クリーゼを発症し徐脈から心停止に至った.心拍再開後,多臓器不全(心・肺・肝・腎不全,DIC)を合併し治療に難渋した.術後2日目,血漿交換を契機にショックを離脱し得た.その後,全身状態は改善傾向を示し術後19日目にICUを退室した.血漿交換は適用基準・時期・回数等未解決な点も多いが,内科的治療に抵抗する甲状腺全摘術後の重症クリーゼでは治療手段の一つになり得ると考えられる.
  • 紀之本 将史, 中川 裕一, 藤井 文, 原 祐子
    2015 年 35 巻 5 号 p. 607-610
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    症例は37歳女性.巨大腹部腫瘍に対して腫瘍摘出術が予定された.子宮筋腫の可能性が高く大量出血および巨大腫瘍摘出に伴うさまざまな合併症が危惧されたが,腫瘍は大きなトラブルなく摘出することができた.術後鎮痛は早期の抗凝固療法を考慮し持続創部浸潤麻酔とフェンタニル持続静注で行った.退室時疼痛の訴えはなく,術後の疼痛管理はおおむね良好であった.硬膜外麻酔困難症例に対し0.2%ロピバカインの持続創部浸潤麻酔とフェンタニル持続静注を併用することにより有用な術後疼痛管理を提供できる可能性が示唆された.
短報
  • 盛 直博, 丸井 輝美, 樋口 慧, 善山 栄俊, 竹本 真理子, 桑迫 勇登
    2015 年 35 巻 5 号 p. 611-614
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    術前に気道確保困難が予測された患者に対し,新しいビデオ喉頭鏡であるKing Vision®を用いて意識下挿管を安全に施行し得た1例を報告する.71歳の男性,上顎癌拡大全摘後で顔面変形・気管狭窄を指摘された.手術室入室後,咽頭・喉頭・気管内へ局所麻酔薬を噴霧した.King Vision®チャンネルブレードタイプを用い,気管チューブ内腔にチューブエクスチェンジャーを通しブジー先行法で挿管を行った.喉頭展開は容易であり,呼気の影響による画面の曇りも生じなかった.King Vision®は意識下挿管を施行する上で一つの選択肢になりうることが示唆された.
日本臨床麻酔学会第34回大会 シンポジウム ─カテーテル手術の外科と麻酔─安全な低侵襲手術の確立を目指して──
  • 小出 康弘, 黒川 智
    2015 年 35 巻 5 号 p. 615
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
  • 山中 太, 豊田 浩作, 小出 康弘, 田中 正史, 野村 岳志, 齋藤 滋
    2015 年 35 巻 5 号 p. 616-621
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)が,2013年6月に本邦で承認されて,約2年が経過した.TAVIは,高齢や合併症などの問題から標準的な治療である大動脈弁置換術(surgical aortic valve replacement:SAVR)を施行できない,もしくは手術リスクが高い有症候症例に対して適応となっており,本邦での総実施数もすでに1,000例を超えた.しかし,一方で,TAVIに関するエビデンスの多くは欧米での研究で得られたものであり,日本におけるエビデンスは少ない.一般に,日本人の体格は欧米人よりも小柄で,それだけ弁輪径も小さく,デバイスを留置する際に起こる大動脈弁輪破裂のリスクが相対的に高くなることなどが報告されており,日本人特有のエビデンスの蓄積が必要である.また,呼吸器疾患,慢性腎臓病,整形外科疾患等の随伴疾患が併存することが多く,複数の診療科の連携にとどまらず,多職種による包括的な診療が必要となる.そこで,われわれの施設での知見をもとに,日本人の重症大動脈弁狭窄症例を対象にした,TAVIへの取り組み,初期成績,合併症,今後の課題について考える.
  • 黒川 智
    2015 年 35 巻 5 号 p. 622-630
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    カテーテル治療の麻酔計画を立案し,麻酔管理をする上では,それぞれの手技において起こりうる合併症・有害事象とその発生リスクについて正確に把握すること,各種麻酔薬が呼吸・循環に及ぼす影響とさらに不整脈診断・治療では刺激伝導系に及ぼす影響を考慮すること,手技の侵害刺激の程度を把握することが重要である.その上で,術者との連携を綿密にし,あらかじめ治療目標や手技手順などを確認しておくことが有用である.麻酔科医が管理を担う場合,多くは全身麻酔あるいはMACによる管理が選択されるが,本稿では上述の点についてこれまでの知見を紹介し,最後に全身麻酔下に行われるASO留置術における左心不全のリスクについて解説する.
日本臨床麻酔学会第34回大会 シンポジウム ─脳代謝モニタリングの適応について─
日本臨床麻酔学会第34回大会 シンポジウム ─緩和医療:麻酔科ができること─
  • 細川 豊史
    2015 年 35 巻 5 号 p. 660
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
  • 小川 節郎
    2015 年 35 巻 5 号 p. 661-667
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    緩和医療とは何かについて俯瞰的に述べた.緩和ケアとは「生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して,疾患の早期より,痛み,身体的問題,心理社会的問題,スピリチュアルな問題に関して,きちんとした評価を行い,それが障害とならないように予防したり対処したりすることで,QOL(生活の質,生命の質)を改善するためのアプローチである」と定義されている.最近ではこのケアは「がんと診断された時から始める」ことが必要とされ,生命の最後の時間にのみ行う医療ではないことが強調されている.本稿では緩和ケアのうち,特に頻度が高い痛みへの対応に関し,陥りやすいピットフォールについても触れた.
  • 山縣 克之
    2015 年 35 巻 5 号 p. 668-672
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    以前から麻酔科医は周術期管理や疼痛治療の専門家として活躍してきた.緩和医療においても,麻酔科医はその技能を発揮することにより,療養中の疼痛管理だけでなく他科の緩和的治療を支援することもできる.例えば,放射線治療の際に骨転移痛のために体位が保てない患者へは,持続硬膜外ブロックを行うことで治療の完遂が可能になる.麻酔科医が活躍の場をさらに広げていくためには,主治医との連携によるニーズの把握と提供できる技術の他科への提案が必要である.マンパワー不足のような解決すべき課題もあるが,麻酔科医は専門性を生かして他科治療にかかわることで,緩和医療のみならずがん治療の発展に今まで以上に貢献できると確信する.
  • 小杉 寿文, 佐藤 英俊
    2015 年 35 巻 5 号 p. 673-678
    発行日: 2015/09/15
    公開日: 2015/10/26
    ジャーナル フリー
    われわれ麻酔科医が行う手術麻酔の本質は,「手術という侵襲」から患者を守ることである.緩和ケア・緩和医療の本質は,「病気という侵襲」から患者を守ることではないだろうか.病気の時期にかかわらず,患者や家族,そして治療スタッフをも含めて,安心して治療と療養に専念できる環境を提供することが求められている.侵襲制御医学の専門家としての麻酔科医には,周術期に限らず,高度な技術と心を提供できる領域が広がってきている.麻酔科医にしかできないくも膜下鎮痛法を例にして,麻酔科医が緩和ケアにいかにかかわるかを検討する.
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