日本臨床麻酔学会誌
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36 巻, 1 号
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症例報告
  • 伊加 真士, 清水 一好, 川出 健嗣, 金澤 伴幸, 西谷 恭子, 森松 博史
    2016 年 36 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    スガマデクスは安全・迅速にロクロニウムを拮抗できる薬剤として広く使用されている.今回われわれは筋弛緩モニターを使用し,投与基準どおりにスガマデクスを使用したにもかかわらず,術後に再クラーレ化が疑われた症例を経験した.症例は78歳の男性で,胃癌に対し腹腔鏡下幽門側胃切除術が施行された.術中およびスガマデクス投与前にTOFウォッチを使用し,TOFカウント2を確認後,スガマデクスを3.6mg/kg投与し抜管した.その約70分後に著明な酸素化の悪化と四肢の体動低下を認め,ネオスチグミン投与により酸素化・体動の改善を得た.投与基準どおりのスガマデクス使用でも再クラーレ化の可能性は否定できないため,抜管後の厳重な呼吸の観察が重要である.
  • 髙橋 深雪, 丹羽 康則, 浦山 美穂, 島田 宣弘, 竹内 護
    2016 年 36 巻 1 号 p. 7-10
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    胸腔鏡手術中に発症した心タンポナーデに対して,経食道心エコー図検査(TEE)を用いて診断し救命し得た.症例は65歳の男性.左転移性肺腫瘍に対し,右側臥位で胸腔鏡下左肺上大区域切除術が行われた.術中,検体摘出直後に突然収縮期血圧が50mmHgに低下した.胸壁からの出血を認め急速輸液と昇圧剤投与を行ったが,止血完了後も循環動態は安定しなかった.原因検索のためTEEを行い心タンポナーデと診断し,心膜切開後速やかに循環動態は安定した.術中心タンポナーデはまれであるが起こりうる合併症として鑑別が必要である.またTEEは術中の急激な循環不全の際に有用なモニターである.
  • 松本 勇貴, 橋本 和昌, 吉田 龍, 島津 勇三, 服部 尚士, 管 桂一
    2016 年 36 巻 1 号 p. 11-14
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    癌放射線治療の再開後,浮腫から急激に気道が狭窄し呼吸困難に至った2症例を経験した.1症例目は換気,挿管困難に陥り,輪状甲状膜穿刺を行った後,気管切開術を施行した.2症例目は事前にファイバースコピーで気道狭窄を評価し,経鼻挿管を行った後,気管切開術を施行した.再度の放射線治療後には,重篤な気道狭窄が生じることを念頭に置くべきである.
  • 道姓 拓也, 藤井 智子, 伊賀 美季子, 山田 新, 坂本 篤紀, 小坂 誠
    2016 年 36 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    36歳の女性.先天性水頭症に対して1歳と27歳のときに脳室腹腔(VP)シャント手術を受けた.VPシャントは機能しており,頭蓋内圧亢進症状はなかった.骨盤位妊娠に対して37週6日で帝王切開の予定となった.術前の腹部X線検査で,子宮前面にVPシャントの走行を認めた.VPシャントを有する帝王切開の報告は散見するが,推奨される特定の麻酔方法はない.神経学的徴候と産科的考慮から選択される.今回は,手術開始から児娩出に時間を要すると判断して,脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔を選択した.脊髄くも膜下麻酔はTh3の高位まで達したが,母子ともに問題なく分娩を終了した.
短報
紹介
日本臨床麻酔学会第34回大会 シンポジウム ─術後の重篤な有害事象(SAEs)に対する現状と対策:セーフティネットとしてのRapid Response System(RRS)の可能性─
日本臨床麻酔学会第34回大会 シンポジウム ─筋弛緩モニタリングの深い原理と広い使用法─
  • 高木 俊一
    2016 年 36 巻 1 号 p. 50
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
  • 笹川 智貴, 岩崎 寛
    2016 年 36 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    神経筋接合部には多数のニコチン性アセチルコリン受容体が存在し,神経終末から放出されたアセチルコリンが受容体に結合することにより脱分極され筋肉は収縮を起こす.アセチルコリンが受容体に結合すると受容体は回転運動によりダイナミックにチャネル開閉を調節する.通常終板に存在するアセチルコリン受容体は成熟型と呼ばれ,α2βεδの5つのサブユニットで構成される.また,シナプス前にはα3β2で構成される神経型アセチルコリン受容体が存在し正のフィードバックを介してシナプス小胞の再動員に寄与している.一方,胎生期の筋肉や除神経された筋肉上ではεサブユニットがγサブユニットに置換されたα2βγδのサブユニットで構成される未成熟型が発現し,特にスキサメトニウムへの反応性の違いから臨床上問題となることが多い.また近年では,従来中枢神経にしか存在しないと考えられてきたα7サブユニットのみで構成されるα7アセチルコリン受容体が特殊状態下の筋肉に存在する可能性が示唆されており,その生理的役割が注目されている.
  • 小竹 良文, 豊田 大介, 牧 裕一
    2016 年 36 巻 1 号 p. 57-62
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    筋弛緩の程度をモニタする手段としては定性的(主観的)モニタと定量的(客観的)モニタに大別されるが,残存筋弛緩に由来する合併症を回避するために必要なTOFR>90%までの回復を確認するためには定量的モニタが必須である.具体的な定量的モニタとしては筋電図モニタ,筋張力モニタ,圧電気モニタ,加速度モニタ(AMG)およびphonomyogramがあるが,現時点でのclinical standardはAMGであるといって差し支えない.ただし,AMGには階段現象,TOFR>1となる現象などいくつかの注意すべき点がある.筋弛緩モニタリングをより普遍的に使用するためには,各手術室への常備と教育プログラムの充実が必要であるとされている.
  • 北島 治
    2016 年 36 巻 1 号 p. 63-71
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    筋弛緩薬は神経筋接合部に作用する薬物だが,神経筋接合部に対する作用を直接的に測定する方法はない.そのため測定筋の支配神経を刺激し,筋の動きを測定,効果を推測することが,筋弛緩モニタリングである.モニタリング機器:TOF-Watch®が臨床では多く使用されている.モニタリング部位:尺骨神経刺激による母指内転筋反応を測定するのが一般的である.その他は皺眉筋,短母趾屈筋,咬筋があげられる.モニタリングの実際:刺激電極貼付時にアルコール綿で清拭脱脂し黒電極は末梢,白電極は中枢側に接続する.トランスデューサは動きに対して垂直になるように取り付け,皮膚温の低下に注意し,キャリブレーションを行う.
講座
  • 志賀 俊哉
    2016 年 36 巻 1 号 p. 72-78
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    メタアナリシスは,臨床上の疑問に答える有力な手段としてすでに確立された研究手法であるが,従来の手法では2種類の治療法を直接比較することしかできず,その多くは介入群vs.対照群であった.3種類以上の治療法の結果を統合する方法は,multiple treatment comparisonあるいはネットワーク・メタアナリシスなどと呼ばれ,ベイズ・モデルを用いることで可能となる.この方法は,過去に直接比較試験を実施していない治療法の比較(間接比較indirect comparison)や,どの治療法が最も優れているか(治療法の順位付けrank of probabilities)を可能にする点において,特に強みがある.
〔日本静脈麻酔学会 紹介〕
  • 藤岡 頌子, 木村 斉弘, 木山 秀哉
    2016 年 36 巻 1 号 p. 79-82
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    プロポフォールとレミフェンタニルを用いた全静脈麻酔は,さまざまな手術患者に広く利用されている一方で,心予備能の少ない患者では著明な循環抑制を生じる場合がある.ケタミンは交感神経刺激作用と鎮痛効果を有する独特な静脈麻酔薬である.しかし,日々の臨床で頻用される薬物ではなく,研修期間中にすべてのレジデントがケタミンを使う機会に恵まれるとは限らない.当施設では毎週1回,定期的な症例検討カンファレンスにおいて,周術期に有意な問題のあった症例の管理を議論している.たとえ臨床経過に問題がなかったとしても,症例の提示を通して,ケタミンのような使う機会の少ない薬物に関する基本的知識と実践的なコツを広めることができる.症例検討カンファレンスは,麻酔関連の薬理学を学ぶ貴重な機会となりうる.
第21回日本麻酔・医事法制(リスクマネジメント)研究会 特別講演
  • 山本 正二
    2016 年 36 巻 1 号 p. 84-91
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    死亡時画像診断(Ai)について解説する.現状では,犯罪見逃し防止や,医療関連死などが疑われる症例に対してのAiの実施が先行するような形をとっているが,今後はより広く社会に普及するシステムになるだろう.なぜならば,人間死ぬのは一度きりで,Aiを受けるのも一度きりだからだが,CT装置が普及している日本なら,誰でもどこででもAiを受けることが可能である.これほど平等な死因究明方法はほかにない.2015年10月には医療事故調査制度も施行され,Aiは重要な役割を果たすことになるだろう.
第21回日本麻酔・医事法制(リスクマネジメント)研究会 教育講演
  • 前田 順司
    2016 年 36 巻 1 号 p. 92-105
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    医療ADRは,医療紛争の最終的な解決手段である民事訴訟の前段階として位置付けられ,医療紛争がADRによってスクリーニングされた上で,真に厳格な裁判手続による解決が必要な事件について裁判手続で紛争の解決が図られること,及びADRを経ることによって,医療紛争の争点が明確にされて,医療訴訟において円滑に審理が進むという効果があり,医療紛争解決のための重要な役割を負っている.しかし,我が国においては,医療ADRの整備が遅れていたものの,近年各地で整備が進み,一定の医療紛争の解決に役割を果たしているが,今なお,医師のADRに対する協力及び関心が低いという問題点が指摘される.
第21回日本麻酔・医事法制(リスクマネジメント)研究会 紹介
〔日本医学シミュレーション学会〕JAMS教育セミナーMETコース
  • 安宅 一晃
    2016 年 36 巻 1 号 p. 118
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
  • 児玉 貴光, 鹿瀬 陽一, 中川 雅史, 安宅 一晃, 中川 隆
    2016 年 36 巻 1 号 p. 119-126
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    阪神・淡路大震災以降,わが国では災害時における初期医療の充実とともに危機管理医学が発展してきた.災害拠点病院には災害時にも医療を継続する高度な能力が要求されているにもかかわらず,手術室における災害対策・危機管理は十分に進んでいると言い難い状況にある.さまざまな状況下でも無事に手術を遂行することは医療安全上も重要であり,手術に携わるすべての医療従事者は危機管理に精通しておかなければいけない.手術室に起こりうる危機の中でも麻酔科医が比較的遭遇する可能性が高い手術室火災に焦点を絞って,その対応策について解説する.
  • 金井 歳雄
    2016 年 36 巻 1 号 p. 127-133
    発行日: 2016/01/15
    公開日: 2016/02/12
    ジャーナル フリー
    当院では全手術の進行程度を7段階(Seven Operation Steps:S.O.S.)に定義,分類し,共通尺度で表現できるようにした.つまり,Step 1 Induction,2 Incision,3 Critical/Resection,4 Lethal,5 off Critical/Reconstruction,6 Closing,7 Recoveryである.手術続行不能時,麻酔覚醒,臓器クランプ,緊急閉創,他院転送という一連の作業(Clamp, Close & Transfer:CCT)が必要となるStep 3〜5 Criticalやそのままでは致死的で次の段階までは必ず続けなければならないStep 4 Lethalを明確化できた.さらに,S.O.S.情報を電子的に管理することにより,全手術室の状況が瞬時に,一瞥で把握できるようになった.津波災害時,最大の災害弱者である手術室患者に対する本部の迅速な対応が可能になる.この仕組みの日常的な運用は手術室の運用管理や病棟への情報提供上の意義も大きい.
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