日本臨床麻酔学会誌
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36 巻, 2 号
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原著論文
  • 赤崎 由佳, 林 浩伸, 高谷 恒範, 西村 文彦, 中瀬 裕之, 川口 昌彦
    2016 年 36 巻 2 号 p. 141-146
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    術後視機能障害を回避するために視覚誘発電位(VEP)モニタリングが使用される.高輝度光刺激装置の使用,網膜への光刺激到達を確認するための網膜電図の併用により再現性のあるVEP記録が可能になった.今回,われわれは視機能障害リスクのある脳神経外科手術で行われたVEPモニタリングの信頼性について検討した.118症例中113症例でコントロールVEPの記録が可能であった.20例で有意なVEP振幅低下を認め,そのうち16例は一時的振幅低下,4例は手術終了時までの継続的振幅低下であった.全例で術後視機能障害を認めなかったので視機能障害を検知するためのVEP変化の感度は算出できなかったが,特異度は96.5%であった.
症例報告
  • 神山 治郎, 松岡 宏晃, 齋藤 博之, 神山 彩, 齋藤 繁
    2016 年 36 巻 2 号 p. 147-151
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    症例は45歳女性.関節リウマチの診断で近医よりステロイドとメトトレキサートの処方を受けていた.体重減少と呼吸苦を主訴に内科受診し粟粒結核の診断で当院ICUへ入室となり,抗結核薬投与を開始した.粟粒結核による敗血症性ショックから離脱したが,呼吸状態が再増悪し人工呼吸管理となり体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)導入となった.抗結核薬が奏効しECMOを離脱,栄養リハビリテーションの後に人工呼吸器離脱,独歩退院となった.本症例は入院時著明なるい痩であったことや根本治療である抗結核薬が内服主体であったため,消化管を利用した栄養が重要であった.
  • 尾野 直美, 中平 淳子, 中野 祥子, 宮崎 有, 南 敏明
    2016 年 36 巻 2 号 p. 152-157
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    整形外科手術を予定した患者において,術前に閉塞性肥大型心筋症が判明し,心拍数のコントロールと左室流出路狭窄の緩和目的に8日間のβ遮断薬の内服投与(ビソプロロール2.5mg/day)を行った.経胸壁心エコーにて左室流出路狭窄が改善したことを確認し,β遮断薬の導入から9日目に全身麻酔と神経ブロックによって手術を施行した.術中は経食道心エコーによって左室流出路狭窄の程度の確認を行い,頻脈や低血圧を避けるよう麻酔管理を行った.麻酔科・整形外科・循環器内科で手術延期を決め,β遮断薬の投与による術前管理と円滑な術中管理を行うことができた症例を報告する.
  • 竹内 愛美, 田口 祥子, 田中 万里子, 白水 和宏, 辛島 裕士, 外 須美夫
    2016 年 36 巻 2 号 p. 158-162
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    1歳女児の気管内異物摘出術を声門上デバイス(air-Q®)による気道管理下に気管支ファイバースコープを用いて行った.声門上デバイスを使用し気管内異物を除去する方法は,自発呼吸を残したまま管理できる点で手技中の酸素化不良を起こしにくく,また比較的径の太い気管支鏡を使用することができる点で有効であるが,異物除去の際の刺激による喉頭痙攣・気管支攣縮や換気困難等の危険性がある.本症例ではair-Q®を使用しセボフルラン麻酔下に自発呼吸下で異物除去を行い,合併症なく手技を終えた.air-Q®を用いた気道管理は小児気管内異物摘出術の麻酔に有用であった.
短報
日本臨床麻酔学会第34回大会 シンポジウム ─発達期脳に対する麻酔薬の毒性,最新の知見─基礎から今日の臨床をどうするか──
日本臨床麻酔学会第34回大会 パネルディスカッション ─周術期管理チームの理想と現実─Best of the Teamを目指して──
講座
  • 小川 覚
    2016 年 36 巻 2 号 p. 204-211
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    一般に,心臓外科周術期においては血液希釈の影響により凝固障害が発生しやすいが,外科侵襲により上昇したサイトカインを介して凝固反応は活性化もしやすい.ダイナミックに変動する凝固能に対して,各種凝固テストを活用することで,止血異常の治療や血栓性合併症の予防に努める必要がある.人工心肺離脱後には凝固障害に起因した止血困難が問題となるが,中央検査室における各種血漿測定法の検査限界を熟知した上で,日常臨床に活用することが望ましい.近年,全血検体で凝固時間を測定可能なPoint-of-care装置(プロトロンビン時間,フィブリノゲン濃度,トロンボエラストメトリーなど)の利用が,止血管理を中心に心臓外科手術でも行われつつある.最適な止血戦略を構築するにあたっては,各施設で測定可能な止血凝固検査を組み合わせて対応していくことが求められている.
  • 栗田 真佐子, 藤井 洋泉, 森松 博史
    2016 年 36 巻 2 号 p. 212-218
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    従来の術後鎮痛は,硬膜外鎮痛が主体であったが,近年は抗凝固療法中の症例が増えて硬膜外鎮痛が選択できない症例が増加している.一方で末梢神経ブロックはこの10年で飛躍的に進歩し,内視鏡手術のみならず非内視鏡手術の術後鎮痛にも多く用いられるようになってきている.末梢神経ブロックは,開胸術,下腹部手術,肩関節や肘関節の手術では第一選択となりうる.しかし,上腹部手術ではオピオイドの併用などマルチモーダル鎮痛が必要である.
  • 駒澤 伸泰, 藤原 俊介, 趙 崇至, 西原 功, 南 敏明
    2016 年 36 巻 2 号 p. 219-223
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    麻酔科専門医資格認定のための専門医試験は年々難化傾向にあり,範囲も手術室麻酔だけでなく,集中治療・ペインクリニック・緩和医療・救急医療まで幅広くカバーする必要がある.大阪医科大学麻酔科学教室では定期的に麻酔科専門医教育のための勉強会やシミュレーション講習会(二次救命処置,超音波ガイド下中心静脈穿刺,困難気道管理)を行っている.超音波ガイド下神経ブロック講習会も教育病院群全体で行い,専門医育成だけでなく指導医側のコンセンサス作成を目指している.さらに周術期急変対応コース(ALS-OP)という周術期危機管理に対するノンテクニカルスキル向上を目指したProblem-Based Learning Discussion(PBLD)形式の講習会も開催している.麻酔科専門医育成において教育病院群全体でのシミュレーション教育は有効と考えられる.
  • 廣田 和美
    2016 年 36 巻 2 号 p. 224-228
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    Journal of AnesthesiaのEditorialや麻酔誌で,日本における麻酔科学研究が危機的な状況にあることを述べてきた.今回,麻酔科学領域の臨床研究に絞って解析したが,主要3大麻酔科学誌への掲載論文数は年々減少し,この12年間で約83%も減少した.その結果,韓国,中国には2012年以降抜かれた状況となっている.しかしながら,インパクトファクターが付いた雑誌全体で見ると31%の減少に留まっている.ただし,日本麻酔科学会の会員数は年々順調に増えているにもかかわらず,論文数は減り続けており,現在は会員150名につき1編とかなり低い状況にあり,大きな問題である.
〔第10回日本医学シミュレーション学会 学術集会〕 特別企画 ─周術期二次救命処置トレーニング(ALS-OP)の必要性─
  • 駒澤 伸泰, 羽場 政法, 藤原 俊介, 上嶋 浩順, 五十嵐 寛, 南 敏明
    2016 年 36 巻 2 号 p. 230-235
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    予期せぬ挿管不能・換気不能(cannot intubate,cannot ventilate:CICV)の解除は二次救命処置の範疇に含まれるといえる.挿管不能・換気不能を形成する因子は患者の気道解剖だけでなく,生理的状況や麻酔科医の技量,手術室の環境因子なども含まれる.予期せぬCICVへの対応は麻酔科医の気道管理に関連した技術的能力だけでなくノンテクニカルスキルの習得が重要である.このようなノンテクニカルスキル養成のために気道管理に関連した周術期二次救命処置トレーニング(ALS-OP)が有効な可能性がある.本稿ではALS-OP気道編の内容と可能性について紹介する.
  • 上嶋 浩順, 駒澤 伸泰, 羽場 政法, 藤原 俊介, 岡安 理司, 大嶽 浩司
    2016 年 36 巻 2 号 p. 236-240
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    われわれは,中心静脈穿刺後に起こりうる生命に関わる重篤な合併症に対して,迅速かつ適切に対応できるような二次救命処置トレーニングコースを開発した.中心静脈穿刺時に生命の危機に直結する「血胸による循環血液量減少性ショック」「気胸による閉塞性ショック」「空気塞栓からの肺塞栓」「ガイドワイヤーが契機となった致死性不整脈」「ガイドワイヤーによる心タンポナーデ」「内頸静脈穿刺による上大静脈穿孔」「感染による敗血症性ショック」の7つの合併症に関してシナリオを作成し,個々の受講生に適した方法論の習得と確立を目指したコースである.本コースは中心静脈の穿刺技術や教育法を習得するのではなく,穿刺後の合併症に早期診断・対応を行うためのコースである.そのため,日本医学シミュレーション学会が主催する中心静脈の穿刺技術や教育法を習得する「Central Venous Catheterization(CVC)実践セミナー」を補うコースとして必要であると考えた.
  • 羽場 政法, 駒澤 伸泰, 藤原 俊介, 上嶋 浩順, 水本 一弘
    2016 年 36 巻 2 号 p. 241-246
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    日本麻酔科学会が行っている麻酔関連偶発症例調査によると手術による大量出血は,死亡原因の上位を占めている.また術中発症の病態として「急性冠症候群」は発症頻度も高く,心停止への移行頻度が高い.二次救命処置講習会で学んだことを実践するには,二次救命処置講習会受講により,適切な知識を得た後,1.手術室の状況に合った患者モデルの使用,2.原因疾患に応じた知識の習得,3.症例に対応するための環境整備の検討,4.メディカルスタッフとのチームコミュニケーションを学ぶ方法が必要である.Problem-based Learning Discussion形式のトレーニングは,それぞれの受講生に応じた知識の体系化が可能であり,ディスカッションを通してチームコミュニケーション(ノンテクニカルスキル)をつくることも期待される.チーム医療を推奨する周術期管理において,これらのPBLD形式のツールが医療安全向上に貢献できるのではないかと考えた.
  • 藤原 俊介, 駒澤 伸泰, 羽場 政法, 上嶋 浩順, 水本 一弘, 南 敏明
    2016 年 36 巻 2 号 p. 247-250
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    ペインクリニック領域での二次救命処置には通常のAdvanced Life Support(ALS)コースを基本とした上で,領域特有の心停止予防と早期対応訓練が必要である.2013年度の日本ペインクリニック学会第47回大会では307施設に対する有害事象調査報告が行われ,抗うつ薬,NSAIDs,アセトアミノフェン,強オピオイドなどの薬剤に関する有害事象だけでなく,インターベンショナル痛み治療,末梢神経ブロックに関連する重篤な合併症も多数報告された.これらの重篤な合併症には早期発見と適切な対応が重要であり,医師だけでなくメディカルスタッフを含めたシミュレーション講習会が有用である.ペインクリニック領域での実際の急変への具体的な対応を検討するシミュレーション講習会としてのALS-Operation(OP)は医療安全向上に有効な可能性がある.
〔第10回日本医学シミュレーション学会 学術集会〕 ランチョンセミナー
  • 羽場 政法, 駒澤 伸泰, 安宅 一晃
    2016 年 36 巻 2 号 p. 251-256
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    日本医学シミュレーション学会では,2011年から安全な鎮静・鎮痛法の講習会(以下,SED実践セミナー)を行っている.SED実践セミナーは,2002年に米国麻酔科学会が発表した「非麻酔科医のための鎮静・鎮痛薬投与に関する診療ガイドライン」をもとに作成されているが,鎮静深度の管理,Monitored Anesthesia Care,術後管理,意識下挿管の考え方など麻酔科専門医育成にも有効な可能性がある.さらに,安全な鎮静・鎮痛法を日本全国に根づかせるためには麻酔科医の協力が必要であり,麻酔科医のSED実践セミナー受講は院内医療安全向上の観点からも重要な可能性がある.
  • 徳嶺 譲芳
    2016 年 36 巻 2 号 p. 257-263
    発行日: 2016/03/15
    公開日: 2016/04/20
    ジャーナル フリー
    近年,超音波ガイド下中心静脈穿刺が,中心静脈穿刺の標準手技となった.しかし,超音波ガイド法でも致死的合併症が報告されている.超音波ガイド法の利点を生かすには,「最適な教育」が必要といわれている.しかし,最適な教育がどのようなものか,いまだ明らかではない.危険手技である中心静脈穿刺において,「シミュレーション教育」が,最適な教育は何かという命題を解く鍵となる.最適な教育を求めて,どのような研究が行われ,どこまで達成されたか,われわれはどこに進むべきか考察する.まずは,より効率的な教育法を考案することから始めよう.そして,新しい教育は,穿刺成功率の向上ではなく,合併症を防ぐことが目標となるだろう.
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