日本臨床麻酔学会誌
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37 巻, 5 号
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症例報告
  • 久保田 亮平, 伊東 久勝, 坂本 菜摘, 佐々木 利佳, 廣田 弘毅, 山崎 光章
    2017 年 37 巻 5 号 p. 579-584
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    Fontan循環成立後の6歳男児における脳腫瘍摘出術の麻酔を経験した.患児は左心低形成症候群に対してfenestrated total cavopulmonary connection法を施行されており,経過中に発見された脳腫瘍に対して摘出術を予定された.手術時間は長く出血量も多かったが,中心静脈圧を指標とした輸液・輸血療法と,肺血管抵抗上昇の予防により,安定した循環動態を得ることができた.開頭手術ではFontan循環にとって不利に働く要素が多く,患者の循環動態と脳灌流への影響を十分に理解した上で,適切な麻酔管理を行う必要がある.

  • 松田 知之, 橋本 壮志, 山根 毅郎, 森下 洋子, 森 麻衣子, 原 美紗子
    2017 年 37 巻 5 号 p. 585-590
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    検診にて肺癌が見つかり,右下葉に対して胸腔鏡下区域切除術を施行した78歳男性で,術前診断のついていなかった潜在的な特発性間質性肺炎が術後4日目より急性増悪をきたし肺炎の寛解,悪化を繰り返したのちに結果として救命できなかった症例を経験した.手術対象となる肺癌患者のうち,顕性,不顕性にかかわらず数%はなんらかの間質性肺炎を合併しており,肺癌術後の手術関連死亡の原因としては間質性肺炎の急性増悪が約四分の一を占め最も多いことを認識して麻酔科医として周術期管理に当たるべきである.

  • 川喜田 美穂子, 石山 実花, 北川 愛子, 太田 志摩, 網谷 謙, 西村 佳津
    2017 年 37 巻 5 号 p. 591-595
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    72歳男性.左聴神経腫瘍摘出術が予定された.パークベンチ体位をとって4時間後赤褐色尿が出現したが,血液ガス検査,循環動態とも安定していたため手術はそのまま継続した.麻酔時間は9時間15分であった.術直後から側胸部の皮膚に発赤を認めた.術翌日の検査で血中CPK上昇(7,563IU/L),ミオグロビン尿(87ng/mL),CT検査にて側腹部および右臀部の筋肉に腫脹が認められたため,横紋筋融解症と診断された.経過中尿量は保たれており腎機能障害は認めなかった.発症の主な原因はパークベンチ体位による長時間手術と考えられるが,輸液制限やD-マンニトール使用による脱水,肥満などいくつかの誘因が重なり発症したと考えられた.

  • 大日方 洋文, 西部 伸一, 新原 朗子
    2017 年 37 巻 5 号 p. 596-599
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    16番染色体短腕トリソミー(Trisomy 16p)は成長発達障害,中枢神経障害,頭蓋顔面奇形等のさまざまな障害を合併するまれな染色体異常症で,これまでに麻酔関連の報告はない.今回,困難気道が予想されたTrisomy 16p乳児の喉頭ファイバー検査およびMRI検査の鎮静に,デクスメデトミジン持続投与(0.8μg/kgの初期負荷投与および0.8μg/kg/hの維持投与)とケタミン単回投与を併用し,特別な気道確保を行うことなく,気道合併症,呼吸抑制,徐脈等を認めずに数時間の鎮静を安全に行うことができた.Trisomy 16p乳児の鎮静に,ケタミンと併用したデクスメデトミジンは有用であると考えられた.

  • 杉部 清佳, 池田 水子, 宮崎 良平, 東 みどり子, 神田橋 忠, 外 須美夫
    2017 年 37 巻 5 号 p. 600-605
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    61歳男性に対し胸腔鏡補助下右肺下葉切除術を硬膜外麻酔併用全身麻酔で行った.術後2日目から頭痛,嘔気,倦怠感の症状が出現した.硬膜外カテーテル抜去のタイミングと一致したため硬膜穿刺後頭痛を疑い輸液負荷,安静,鎮痛薬投与を行った.症状は改善せず,術後10日目に意識障害を呈し,血清ナトリウム(Na)値113mEq/Lと著明な低Na血症を認めた.高張食塩水の投与と水制限により術後12日目に血清Na値は正常化し,症状も改善した.低Na血症の原因として副腎機能不全とバゾプレシン分泌過剰症(SIADH)が疑われた.術後頭痛,嘔気の原因として低Na血症を考慮する必要がある.

  • 山口 智子, 山口 昌一, 後迫 江理奈, 小林 充, 高橋 浩
    2017 年 37 巻 5 号 p. 606-610
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    巨大腹部腫瘍摘出術の麻酔管理では,特に呼吸・循環管理に注意を要し,腫瘍が大きいほどその管理に難渋する.今回,われわれは腫瘍重量約70kgの超巨大卵巣腫瘍摘出術の麻酔管理を経験した.症例は37歳女性,左卵巣摘出術の既往があった.入院時,貧血,酸素飽和度(SpO2)の低下と軽度の拘束性換気障害以外に大きな合併症はなかったが,腹囲が大きすぎるためMRI等の術前検査を十分に行うことができなかった.導入時の低酸素血症と再膨張性肺水腫を念頭に呼吸管理を行い,心拍出量,1回拍出量変化,中心静脈圧を指標としながら循環管理を行った.気道確保器具の選択や,術後呼吸器合併症にも注意が必要であった.

  • 川越 いづみ, 三高 千恵子, 片岡 久実, 佐藤 大三, 林田 眞和, 稲田 英一
    2017 年 37 巻 5 号 p. 611-615
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    趣味がマラソンの62歳女性が硬膜外併用全身麻酔下に胸腔鏡下肺切除術を施行された.術前心電図では心拍数(HR)58bpm洞性,左室高電位が見られた.硬膜外カテーテルから手術開始時にフェンタニル100μg+0.25%レボブピバカイン7mLの一回投与を行った.術後回復室到着15分後HR 26bpm (洞性)に低下,1分後心停止し,心臓マッサージ,アドレナリン1mg投与,バッグバルブマスク換気を行い3分で心拍再開した.心エコーで異常所見はなかったが,術前の繰り返す失神発作が判明し高度徐脈の可能性が示唆された.スポーツ心臓の可能性がある患者では十分な問診を行い,高度徐脈の発生を念頭に置いた周術期管理が必要である.

日本臨床麻酔学会第36回大会 招請講演
  • 水上 勝義
    2017 年 37 巻 5 号 p. 616-620
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    本稿は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」に沿って,不眠症,うつ病,認知症の行動・心理症状(BPSD)について述べる.不眠症に対するベンゾジアゼピン系薬剤の使用は特に注意が必要である.非ベンゾジアゼピン系薬剤についても同様のリスクが報告されており,使用に際して慎重さが求められる.三環系抗うつ薬は抗コリン作用が大きいため高齢発症のうつ病への使用は特に慎重さが求められる.選択的セロトニン再取り込み阻害剤も転倒リスクが報告されている.またスルピリドは使用を控えるべきである.BPSDに対して対症治療の前に抗認知症薬の効果をみることは有用である.BPSDに対する定型抗精神病薬の使用は特に慎重さが求められる.非定型抗精神病薬も必要最小限の使用量と使用期間にとどめるべきである.

日本臨床麻酔学会第36回大会 教育講演
  • 村田 寛明
    2017 年 37 巻 5 号 p. 621-628
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    教科書からは超音波ガイド下神経ブロック(USGNB)の手技,適応および関連する超音波解剖学の知識が得られる.NYSORAなどのウェブサイトやYouTubeで共有される教育的動画は実践的な知識の習得に役立つ.FacebookにはUSGNBについて双方向性に情報交換できる非公開グループが存在する.ハンズオンセミナーでは描出の実践的な技術を,超音波検査トレーニング用ファントムでは描出に必要な超音波プローブ操作と穿刺の技術を,そして食用肉などを用いた手作りファントムでは薬液の注入技術を習得できる.これらの知識と技術を身につけた上で施設の状況に応じて臨床経験を積む.所属施設では実施していない新たな手技を導入する際には,他施設の見学も有用である.

日本臨床麻酔学会第36回大会 シンポジウム ─術後痛管理の役割:NRSの先にあるもの─
日本臨床麻酔学会第36回大会 シンポジウム ─区域麻酔と抗凝固・抗血小板薬 日本版ガイドライン作成に向けて─
麻酔科医が知っておくべき感染症の知識(第2回)
  • 稲垣 喜三
    2017 年 37 巻 5 号 p. 674-680
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    麻酔科術前診察では,感染症のスクリーニングとして,梅毒やB型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルスの血中抗原や抗体価を検査している.施設によっては,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のスクリーニングも実施し,術中・術後の患者および医療従事者の感染予防に役立てている.成人では,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やクロストリジウムディフィシル腸炎(CDI)の感染の発見と予防が,その後の創部感染や院内感染の防止に繋がる.小児では,年齢によって発症しやすい感染症が存在する.術前診察では,発疹や上気道症状,消化器症状の既往を注意深く問診し,診察による理学的所見を的確に取ることが求められる.不活化ワクチン接種から手術までの期間は2日間で,生ワクチンの接種から手術までの期間は21日間である.手術後の予防接種は,少なくとも術後7日間以上の間隔を空けて実施する.

  • 堀 龍一朗, 白田 亨, 森兼 啓太
    2017 年 37 巻 5 号 p. 681-683
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    微生物検査において正しい検査成績を得るためには,正しい検体採取・輸送・保存が不可欠である.これらの過程で不適切な処置がなされた場合,検査成績を誤って解釈するおそれがある.検体は発病初期の抗菌薬投与以前に採取し,採取時には病原体推定のために消毒薬や常在菌の混入を避け,病原体を確実に含む材料を採取することが要求される.検体輸送・保存時には材料中の微生物の増減を防いだ状態を維持するため,材料中に含まれる微生物に適した環境条件で輸送・保存を行う.検体は病原体を含んでいる可能性があるため,検体採取・輸送・保存を通して自身を含んだ医療従事者の感染や環境の汚染防止に配慮する必要がある.

  • 堀 龍一朗, 白田 亨, 森兼 啓太
    2017 年 37 巻 5 号 p. 684-686
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    感染症の原因となっている病原体に対して効果のある抗菌薬を選択するには,薬剤感受性試験が欠かせない.測定法は,微量液体希釈法とディスク拡散法がある.前者は自動測定機器において汎用されており,後者は比較的小規模で自動測定機器を保有しない施設において汎用されている.その結果を解釈する際,単に最小発育阻止濃度の数値のみで抗菌薬の選択を行うことは不適切である.抗菌薬の選択にあたっては,医師のみならず,微生物検査領域を専門とする検査技師や抗菌薬を専門とする薬剤師に相談することが望ましい.

  • 西 圭史
    2017 年 37 巻 5 号 p. 687-694
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    感染症治療に用いる抗菌薬,抗真菌薬,抗ウイルス薬について分類や種類,作用機序と適正使用する際の注意点,副作用,相互作用,禁忌を述べた.おのおのの薬に関する基本事項を知り,理解することが適正使用へ向かう一歩である.また,近年,適正使用について国レベルでのプランが進行する中で,さらなる推進につながるよう患者アウトカムの改善,副作用の防止,耐性菌の抑制,医療費の抑制に寄与すべく基本的知識についても述べた.総論的な内容となっているが,これらの薬の理解の一助となることを願う.

  • 白石 義人
    2017 年 37 巻 5 号 p. 695-701
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    感染防御に関して個人の感染防御の基本は標準予防策の確実な実施である.特に手指衛生は,必ず医療現場で①患者に触れる前,②清潔・無菌操作の前,③体液に暴露された可能性のある場合,④患者に触れた後,⑤患者周辺の物品に触れた後に行う.また,職業感染の予防のため,事故後の報告や対応手順を策定しておく.手術室の感染防御は,空調管理と環境表面の清掃と消毒であるが,それは環境表面の無菌性を追求することではない.手洗い水は水道水で良い.ICU(集中治療室)では個室管理(コホーティング)を工夫する.VAP(人工呼吸器関連肺炎)やカテーテル感染を予防し適切な皮膚消毒と抗菌薬の投与を行う.医療関連感染(HCAI)防御のための組織作りは重要であり,ICT(感染管理チーム)ラウンドも定期的に行う必要がある.アウトブレイクに際しての行政への報告の基準や根拠となるカルテ記録の作成が法的に求められる.

  • 谷野 雅昭
    2017 年 37 巻 5 号 p. 702-705
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    現代医療,とりわけ手術において,消毒・滅菌が極めて重要であることは誰もが認めるところであろう.しかしながら,われわれ医師を含めた医療従事者はその教育を十分に受けてきたとは言い難い現実がある.麻酔科医にとっては非常に身近なものであるにもかかわらず,消毒については十分な知識を有しているとは言えない状態で,滅菌に至ってはほとんど何も知らないままでいる人が大半ではないだろうか.消毒・滅菌について,それらの定義や分類をはじめとして,その本質を理解するために必要な基礎的な知識を述べる.

  • 中村 公昭
    2017 年 37 巻 5 号 p. 706-711
    発行日: 2017/09/15
    公開日: 2017/10/20
    ジャーナル フリー

    消毒薬は消毒できる微生物の範囲から3つのレベルに分類されているが,単に効果の強い消毒薬を使用すればいいというわけではなく,使用目的に応じて適切な消毒薬を選択する必要がある.消毒薬は成分,溶媒,添加物によって消毒効果や適用可能な範囲が異なるため,その特徴を理解し適正に使用しなければ期待する効果を得られない,また副作用を生じる可能性がある.手術室で使用する主な消毒薬を取り上げて,各消毒薬の使用方法,特徴,使用上の留意点について紹介する.

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