日本臨床麻酔学会誌
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39 巻, 7 号
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症例報告
  • 長谷川 真貴子, 小原 伸樹, 大石 理江子, 今泉 剛, 江花 英朗, 村川 雅洋
    2019 年 39 巻 7 号 p. 631-635
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    症例は47歳,男性.4年前より肺胞タンパク症に対して片側全肺洗浄を9回および一期的両側全肺洗浄を2回施行していた.このうち計7回体外式膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation:ECMO)を使用し,血管周囲の結合組織の増生が著しくなったため両側大腿静脈への送脱血管の挿入が困難となっていた.今回,病状が再度増悪したが,ECMOの使用を回避するために低酸素血症が重篤になる前に片側全肺洗浄を行う判断をした.それによりECMOを使用せずに手術を完遂できた.肺胞タンパク症で血管確保困難が見込まれる場合,早期に全肺洗浄を計画することでECMOの使用を回避できる可能性がある.

  • 鏡味 真実, 黒川 修二, 大島 知子, 堀場 容子, 野口 裕記
    2019 年 39 巻 7 号 p. 636-640
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    Coffin-Lowry症候群は,低身長,特徴的顔貌,骨格奇形,精神運動発達遅延,心奇形などを特徴とするまれなX連鎖性遺伝疾患である.特に,特徴的顔貌のため気道確保困難を起こしうるため注意が必要である.今回,本症候群患者の全身麻酔管理を経験し,安全に管理し得たため報告する.

  • 渡部 洋輔, 仙波 和記, 堀内 大志郎, 常盤 大樹, 出崎 陽子
    2019 年 39 巻 7 号 p. 641-646
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    症例は66歳男性でパイナップル,ハウスダストのアレルギー歴があった.前交通動脈瘤に対し全身麻酔下に脳血管手術が施行された.手術終了後スガマデクス200mgを投与したところ,紅斑および昇圧剤に反応不良の血圧低下を認めアナフィラキシーショックと診断した.循環動態はアドレナリン投与で改善した.心電図で下壁領域にST上昇を認めていたが循環動態の改善とともに軽快し,冠動脈造影検査で有意狭窄はなかった.術後ICUへ入室したが経過良好であり翌日には一般病棟へ帰室した.ICU入室直後のトリプターゼはベースラインより軽度上昇を認めた.後日スガマデクスに対してプリックテストを行ったが有意な反応は認められなかった.

  • 鬼丸 大知, 荒武 俊伍, 華山 悟, 本庄 鷹浩, 柿沼 玲史, 澤村 成史
    2019 年 39 巻 7 号 p. 647-652
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    症例は87歳,男性.冠動脈バイパス術を施行されていたが,低心機能が改善せず機能性僧帽弁閉鎖不全が徐々に悪化していた.心不全による入退院を繰り返したため,全身麻酔下で経皮的僧帽弁クリップ術が予定された.術中にクリップ部位確認のために逆流量を増やす目的で輸液負荷を行ったが,デバイスからの灌流液の流入と相まって左室前負荷の過剰から心拡大をきたし,クリップ把持に困難をきたした.また術後の体液管理にも難渋した.本術式は手技の局面に合わせた僧帽弁逆流の調節が求められるが,輸液負荷だけでなく血管収縮薬を併用して左室前負荷を適切にコントロールすることが手技の成功につながると考えられる.

短報
  • 山田 章宏, 禰宜田 武士, 岡本 真拓, 山家 智紀, 宮林 真沙代, 木村 信行
    2019 年 39 巻 7 号 p. 653-656
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    慢性期脊髄損傷患者の麻酔管理では,自律神経過反射(AD)が問題となる.症例は56歳,男性で第11胸髄以下の完全麻痺がある.左陰嚢膿瘍に対し精巣摘除術が予定された.日常生活でのADの既往はなく,今回膀胱内操作は行わないため,術中にADを発症する可能性は低いと考えた.無麻酔で手術を行うことも可能と考えられたが,AD発症への対応が遅れる可能性があったため,監視下鎮静管理(MAC)で行った.デクスメデトミジン(DEX)の持続投与とフェンタニルの間欠投与でBIS値35〜78,RASS−1〜−2で経過した.術中にADを発症することはなく,安全に麻酔管理ができた.DEXはADの抑制効果が報告されている.そのため,脊髄損傷患者のMACで使用する鎮静薬として有用である可能性がある.

  • 平田 陽祐, 藤村 高史, 三宅 健太郎, 竹内 直子, 水落 雄一郎, 有馬 一
    2019 年 39 巻 7 号 p. 657-661
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,脊椎後方固定術中に血気胸を生じたまれな症例を経験した.症例は68歳女性.L1-L5腰椎変性すべり症,腰部脊柱管狭窄症と診断され,腰椎後方固定術が行われた.麻酔覚醒後マスク6L/minの酸素投与をするもSpO2 92%まで低下し,収縮期血圧も80mmHgまで低下した.肺エコー検査では左気胸が疑われた.胸部単純X線および胸部CTでは,左血気胸を認めた.集中治療室に入室し,ただちに胸腔ドレーン留置した.酸素化および循環動態は次第に改善し,術後第28日目に独歩退院した.脊椎後方固定術中および術後の血気胸の診断に対して,肺エコー検査は有用であった.

紹介
  • 長澤 実佳
    2019 年 39 巻 7 号 p. 662-668
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    微小血管手術を予定された54歳の女性イスラム教徒患者の周術期管理を経験した.イスラム教の宗教上の理由から,麻酔管理では生物由来製品(ブタ),アルコールは使用できないなど使用薬剤に制限があり,患者に確認を行う必要があった.イスラム教徒の周術期管理には,麻酔管理以外にも通訳の問題,ハラール食の提供,未婚の女性では男性医師の診察に制限がある,生活習慣の違いを理解する,などの配慮が必要となることがある.当院で経験した症例から学んだ,イスラム教の概要と,使用に制限のある生物由来製品を提示し,イスラム教徒患者の周術期管理における注意点を考察する.

日本臨床麻酔学会第38回大会 シンポジウム ─専門医制度とサブスペシャルティ─
  • 佐和 貞治, 上村 裕一
    2019 年 39 巻 7 号 p. 669-670
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー
  • 佐和 貞治
    2019 年 39 巻 7 号 p. 671-678
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    麻酔科専門医制度は,1954年10月に日本麻酔学会により設立され,今日まで半世紀以上にわたって運用されてきた本邦においては最も古い伝統ある専門医制度である.一方,2014年5月には日本専門医機構が設立され,2018年度より麻酔科領域における専門医研修制度は,この日本専門医機構の麻酔科領域専門研修制度に移管される.日本麻酔科学会の麻酔科専門医についても,2019年度の更新より日本専門医機構の麻酔科領域専門医へ順次更新者より移管する.このように麻酔科専門医制度は,その管理主体が日本麻酔科学会から日本専門医機構へ移管する変革時期にあり,新認定制度や機構の更新基準等に関することを中心に概説したい.

  • 垣花 泰之, 松田 兼一, 西村 匡司, 日本集中治療医学会専門医制度・審査委員会
    2019 年 39 巻 7 号 p. 679-683
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    新専門医制度による基本領域専攻医の専門研修が2018年4月に日本専門医機構の下で開始となった.日本集中治療医学会は,麻酔科と救急科の2つの基本領域のサブスペシャルティであり,2021年の開始に向けて準備を進めている.新しい専門医制度では集中治療専門医は麻酔科,救急科のサブスペシャルティとなっているが,決してこれだけの診療科に限定されるべきではなく,今後,他の専門医のサブスペシャルティにもなるべく関連学会や日本専門医機構の理解を求めていく必要がある.

  • 川口 昌彦, 国沢 卓之, 岡本 浩嗣, 野村 実
    2019 年 39 巻 7 号 p. 684-690
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    日本心臓血管麻酔学会が目指すサブスペシャルティは,理念に掲げたとおり,「心臓血管麻酔専門医制度は,麻酔科専門医のサブスペシャルティとして,心臓血管麻酔に関する十分な専門知識と技能を有し,より安全で質の高い心臓血管麻酔の提供と教育的,指導的な役割を果たせる専門医を育成し,国民の健康・福祉の増進に貢献することを目的とする.」である.学会独自の教育と専門医制度を設立・運用してきているが,今後は,日本麻酔科学会の承認を得られた後,日本専門医機構の認定を得られることを目標として,機構の示す要件を一つずつ検討し,必要のあるものは改善を開始している.最終的に患者,メディカルスタッフ,会員の皆様に恩恵をもたらせるよう,活動を進めていく予定である.

  • 眞鍋 治彦
    2019 年 39 巻 7 号 p. 691-697
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    ペインクリニックは,手術・外傷後の急性痛,全成人の20%以上と推定されている慢性痛,がん性疼痛,など痛みを主訴とする疾患の診療部門であり,その専門医は総合的な視点で診察し,専門の技術を活かして治療を実施する.日本ペインクリニック学会は,専門医制度が一新されたことに伴い,サブスペシャルティ領域として新専門医研修制度を構築中である.その制度は,二階建ての一階部分となる麻酔科学会専門医研修プログラムと整合性を持つように立案されている.研修期間は,2年以上を予定しており,到達目標,経験目標を達成し研修終了と判定されれば,書類審査,筆記,口頭試験を行い専門医と認定する.更新は5年ごとで,基本診療科の更新と連動する.

日本臨床麻酔学会第38回大会 シンポジウム ─術中運動誘発電位モニタリングの標準化に向けて─
  • 川口 昌彦, 飯田 宏樹
    2019 年 39 巻 7 号 p. 698
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー
  • 林 浩伸
    2019 年 39 巻 7 号 p. 699-706
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    開頭手術や脊椎・脊髄手術などの術後運動機能障害が危惧される手術では,術中に下行性運動経路モニタリングとして運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)が用いられる.全身麻酔下という特殊な環境と術式の多様性に対応した刺激方法と記録方法を選択することが正確なMEPモニタリングの実施に必要になる.近年,MEP低下時の警告基準も術式によって異なることも報告されている.また術中MEP変化を解釈する際には,麻酔薬や血圧などの全身性の影響によるMEP低下(hemodynamic fade)による偽陽性を区別しなければならない.

  • 福岡 尚和
    2019 年 39 巻 7 号 p. 707-715
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)は,術中誘発電位の中で最も麻酔薬の影響を受けやすく,麻酔科医はMEPモニタリング時の麻酔管理について精通しておく必要がある.MEPモニタリングにおいて第一選択となる麻酔維持法はプロポフォールとオピオイド(レミフェンタニル,フェンタニル)による静脈麻酔であるが,ベースラインMEPが記録できるのであれば吸入麻酔薬(セボフルラン,デスフルラン)を用いてもよい.麻酔深度モニター,筋弛緩モニターを使用し,麻酔深度をできるだけ一定に保つことが重要である.

  • 田中 聡
    2019 年 39 巻 7 号 p. 716-720
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)モニタリングの安全性は高いものの,まれに有害事象が生じる.電気刺激は興奮性神経細胞障害,熱傷,電気化学的傷害の原因になりうるため,過剰な刺激強度は避ける.他には,電極刺入に伴うもの,痙攣,不整脈,咬傷,体動といった有害事象がある.顎筋収縮による口唇・舌損傷は比較的頻度の高い合併症である.頻回に観察し,必要があれば防護策を講じる.電気刺激時の体動が手術操作を妨げることがある.MEPモニタリングの有効活用のためには,モニタリスト,外科医,麻酔科医がその有害事象について熟知し,連携をとりながら実施することが求められる.

  • 和泉 俊輔
    2019 年 39 巻 7 号 p. 721-729
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    胸部下行大動脈瘤手術,胸腹部大動脈瘤手術において脳脊髄障害はある一定の頻度で発生し,対麻痺は最も重篤な合併症である.運動機能障害が発生する危険性のある手術では術中から運動機能をモニタリングすることで術後の運動機能を温存することが重要である.そのためには運動誘発電位(motor evoked potential:MEP)を安全かつ適切に記録し,その変化を評価できるための麻酔管理が必要になる.MEPの変化があった場合にどのように評価し対応すべきかを示す.大血管手術では体外循環の使用,大動脈遮断や低体温などがありMEPの評価に注意を要する.また脊髄保護戦略の一つである脳脊髄液ドレナージについても概説する.MEPモニタリングや脳脊髄液ドレナージの情報を共有することで,大血管手術における脊髄保護の麻酔管理の一助となり,患者予後の向上に資することを目標とする.

講座
  • 岡田 英志
    2019 年 39 巻 7 号 p. 730-737
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    健常な血管内皮細胞の表面に存在する内皮グリコカリックスは,血管の恒常性維持に重要な役割を果たしている.このグリコカリックスは敗血症や手術侵襲などで障害されるといわれているが,グリコカリックスは構造が非常に不安定でその3次元構造を視覚的にとらえるには特殊な技術が必要である.毛細血管の内皮細胞同士の接合様式は器官の違いによる差が大きく,連続型,有窓型,洞様型毛細血管の3つに分類されている.本稿ではそれぞれ構造の異なる心臓,肺,腎臓,肝臓の毛細血管内皮構造とその表面に存在する内皮グリコカリックスの構造,さらに実験的に誘発した敗血症性血管内皮傷害の超微形態を紹介する.

〔日本臨床モニター学会〕第29回日本臨床モニター学会総会 教育講演
  • 磯野 史朗
    2019 年 39 巻 7 号 p. 740-745
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    上気道閉塞は,鎮静薬,麻薬,筋弛緩薬などにより咽頭気道拡大筋活動が低下することが誘因となって生じる致死的な合併症である.上気道閉塞を正確に診断できる呼吸モニターが望まれるが,現在,麻酔・集中治療領域で臨床使用できる呼吸運動モニターや呼吸量モニター単独では,上気道閉塞を診断できない.咽頭筋活動が低下した咽頭気道は,気道内圧に大きく依存するcollapsible tubeの性質を持つ.この咽頭気道は,吸気時に発生する気道内陰圧によって咽頭気道が狭窄し,吸気流量が制限される.この時に特徴的な平坦な吸気流量波形は咽頭気道閉塞のマーカーと考えられ,上気道閉塞を検出可能な呼吸モニターとして応用可能である.

第25回日本麻酔・医事法制(リスクマネジメント)研究会 教育講演
  • 山本 正二
    2019 年 39 巻 7 号 p. 748-752
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    オートプシー・イメージング(Ai)は,CTまたはMRIを使用して死因を特定するための検査手法である.現在Aiは犯罪見逃しを防ぐため,または医療関連死が疑われる場合に実行されることが多い.しかし,CT装置はすでに日本全国に多数あり,誰でもどこでもAiを実施することが可能であり,今後,Aiは,社会的に受け入れられ,将来的にはもっと普及すると思われる.今回,医療事故調査制度におけるAiの重要性について解説した.

第25回日本麻酔・医事法制(リスクマネジメント)研究会 特別講演
  • 木内 淳子, 江原 一雅, 佐久間 正和
    2019 年 39 巻 7 号 p. 753-757
    発行日: 2019/11/15
    公開日: 2019/12/17
    ジャーナル フリー

    民事裁判と異なり,医療における刑事裁判の全貌は公表されていない.しかし公刊資料で収集すると業務上過失に関する医療刑事裁判では,1950年から2017年末までの被告人数は444名で,そのうち127名が公判請求され23名が無罪となった.一般的な刑事裁判では検察庁に送付された中で,8.3%が公判請求され,99.8%が有罪となっている.最近医療水準が問題となった事件では無罪判決が続いた.しかし年代別の無罪の比率には大きな変化は見られなかった.2015年以降医療機関からの警察届出件数は減少したが,司法解剖に至った事例が58件あり,刑事裁判になる可能性は依然として残る.事故発生後の医療機関としての対応についても検討を行った.

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