子宮肉腫は複雑な形態をとることから, いかなる肉腫かを同定することは細胞診, 組織診においてきわめて困難な場合が多い.そこでわれわれは筋由来悪性腫瘍の組織診断の際, よく用いられる, 燐タングステン酸ヘマトキシリン (PTAH), ファンギーソン (VG), マロリーアザン染色を細胞診に応用し, 細胞診レベルにおける平滑筋肉腫の同定の可能性を検討した. 予備実験として子宮筋腫のため摘出された標本 (5症例) より子宮内膜, 子宮筋層, 子宮膣部の各組織と, 人工妊娠中絶によって得た胎児 (5症例) の大腿部筋組織を10%ホルマリンで固定後, パラフィン包埋し, 4~6μmに薄切後, H-E, PTAH, VG, アザン染色を試み, 各組織の染色性を調べるとともに, 子宮体内膜, 子宮頸内膜, 子宮膣部扁平上皮を同一ガラス面に捺引塗抹し, さらに横絞筋組織を捺引した後, 95%エタノールで固定後, Pap. 染色標本を作成するとともに, 10%ホルマリンで固定後, 特殊染色を試み, 細胞診レベルにおける各細胞の染色性を検討した. 組織細胞診レベルにおいても平滑筋, 横絞筋の筋線維はPTAHで深青色~紫色, VGで黄色, アザンで紅色に染色され, 扁平上皮, 腺上皮にみられる張原線維とは区別することができた. さらにわれわれは肉眼的に悪性と思われる腫瘍 (5症例) より得た細胞診標本にPap. 染色の他に上記の特染を試みた. 非上皮系悪性細胞と思われる細胞は, 細胞質にPTAHで染色, VGで黄色, アザンで紅色に染まる細胞質内線維を有することから平滑筋肉腫細胞と同定された. またスライドガラスに塗抹された細胞の透過型電顕標本を作成したところ一部の細胞に細胞内細線維がみられ, これは細胞の長軸に平行に走り, 所々に電子密度の高い斑紋 (dense patch) を形成し, 直径80~100Åであることから平滑筋線維と同定された. これら5症例の腫瘍は光顕, 電顕とも組織学的に分化型の平滑筋肉腫であった. このように未分化肉腫は別として, 平滑筋線維の発達した分化型平滑筋肉腫においては従来のPap. 染色の他に上記の特殊染色を施せば細胞診レベルで病変を推定することがある程度可能と思われる.
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