乳腺腫瘍について, 細胞学的診断の立場から, 良・悪性所見の境界を解明する目的で, 一般的Papanicolaou法と併用し, 加水分解酵素であるAlkaline phosphatase, Acid phosphatase, β-Glucuronidase等の3種を用いて検索した. 材料は腫瘍からの吸引, 擦過細胞診, さらに手術材料を用いた.
第一実験群として, まず組織レベルの検索を, 15例の悪性腫瘍と15例の非癌例について行い, 第二実験群としては, 浸潤癌12例と非浸潤癌1例の癌群13例, 非癌例13例について, 細胞診と組織診とを併用し検索した.
その結果, Alkaline phosphatase反応は, 悪性腫瘍の組織型に関係なく, すべての癌胞巣は陰性反応を呈し, 細胞診学的にはPapanicolaou法による悪性異型細胞の大部分は活性の消失と著しい減少がみられた. 1例の非浸潤癌では弱い活性細胞が混在していた. 非癌例では乳腺症, 線維腺腫等に関係なく明らかな陽性活性反応が認められた.
Acid phosphatase, β-Glucuronidase等の反応は, 癌例, 非癌例と出現した異型細胞については, 活性の差はほとんどなく, 組織学的には, Apocrine metaplasia, adenosisなどの上皮に強い活性がみられた.
以上, 乳腺腫瘍の良・悪性異型細胞の診断には通常のPapanico1aou法とAlkaline phosphatase反応の併用により, その境界病変の解明に意義ある一つの方法であることが結論された.
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