日本臨床細胞学会雑誌
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32 巻, 6 号
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  • 丸田 淳子
    1993 年 32 巻 6 号 p. 833-839
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    甲状腺穿刺吸引細胞診を3272症例について施行したところ, 核内細胞質封入体を癌症例874例中723例 (82.7%), 非癌症例2398例中5例 (0.2%) に認めた.核内細胞質封入体がみられた非癌症例5例は, 濾胞腺腫, 腺腫様甲状腺腫であった.これらの症例では被膜浸潤および脈管侵襲がみられず癌病変で観察される核内細胞質封入体の所見と光顕的, 電顕的に差を認めなかった.非癌病変において核内細胞質封入体の出現率は低いが, まれにみられるため癌を確定するものではないといえる.
  • 弦間 昭彦, 久勝 章司, 山野 義光, 吉森 浩三, 村田 朗, 小林 国彦, 日野 光紀, 吉村 明修, 工藤 翔二, 仁井谷 久暢
    1993 年 32 巻 6 号 p. 840-845
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/12/05
    ジャーナル フリー
    1988年5月より1990年12月までに当院にて気管支鏡下生検を施行され, 核DNA量測定のため塗抹標本を作製された非切除原発性肺癌48例について, その核DNA量を測定し臨床病理学的所見と比較検討した.
    100個以上の腫瘍細胞の核DNA量を検討し得た症例は48例中43例 (89.6%) であった.その平均核DNA量 (MNDC) は3.36±0.77Cで, ANEUPLOID STEM CELL LINE (ASCL) の出現率は72%(31/43) であった.各組織型間には, MNDC, ASCLの出現率ともに, 有意な差は認められなかった.TNMの各因子と核DNA量を比較検討すると, まずMNDCは, N3 (3.69±0.80C) がN2以下 (NO-2) の症例 (3.01±0.63C) に比し, また, M1 (3.62±0.81C) がMO (3.07±0.61C) に比し, 有意に高値であった (p<0.01, p<0.05).
    ASCLの出現率もN3 (16/18, 88.9%) がNO-2 (10/19, 52.6%) に比し, M1 (19/23, 82.6%) がMO (12/20, 60.0%) に比し, 有意に高率であった (p<0.05, P<0.02). この結果は, 非小細胞癌 (NSCLC) に限ってもほぼ同様であった. つぎに予後について検討すると, 全症例, 非小細胞癌の検討においてMNDCが多い症例群 (4.00C以上) は, 少ない群に比し有意に生存期間が短かった (P<0.01). 以上の結果より, 進行肺癌において核DNA量は, 癌の進展, 特に転移と強く関係し, 予後とも関連を持つことが示唆された. このことは気管支鏡下生検材料を用いて核DNA量を検討することが, 進行肺癌における局所療法全身療法の選択, 術後化学療法の適応, 予後の予測などに有用である可能性を示唆している.
  • 山本 達生, 堀口 尚, 菅間 博, 小形 岳三郎, 深沢 政勝, 池沢 剛, 稲毛 芳永, 赤荻 栄一, 三井 清文, 堀 原一
    1993 年 32 巻 6 号 p. 846-852
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    最近開発されたカラー画像解析装置を用いて, 非小細胞肺癌の核DNA量の計測を行い, 同時に計測した細胞形態との関係, および臨床病理所見との関係を検討した.
    全症例63例中, diploidyは15例 (23.8%), aneuploidyは48例 (76.2%) にみられた.まず, 得られたヒストグラムパターンからDNAploidy (diploidy: A群, aneuploidy: B群) と細胞周期のS+G2/M期の細胞数 (増加なし: タイプ1, 増加あり: タイプ2) に注目して, A-1 (5例), A-2 (10例), B-1 (20例), B-2 (28例) の4グループに分類した.A群とB群間では, 測定しえた核異型度 (核の大きさ, 核の大小不同性, 核縁の不整度) に違いがみられたが (p<0.001-0.05), タイプ1とタイプ2とではその核異型度に有意差はなかった.さらに各グループと, 組織型, 腫瘍の進展度 (病期, 腫瘍径, リンパ節転移, 胸膜浸潤, 肺内転移) および患者の予後などの臨床病理所見との関係を検討した結果, A群とB群間には明らかな相関はみられなかったが, タイプ2はタイプ1に比較して, 腫瘍径が大きく, リンパ節転移例が多く, 有意に予後は不良であった (p<0.05).
    以上から, 非小細胞肺癌において, DNA ploidyの異常は, 癌細胞の核異型度とは相関するが, 生物学的悪性度を必ずしも反映しないことが示唆された.
  • CT・口腔耳鼻科的診察の有用性
    森谷 浩史, 柳沼 康之, 渋谷 広子, 高橋 一弘, 黒沢 美枝子, 佐藤 美賀子, 吉田 晴美, 飯澤 祥江, 富田 健, 松川 明
    1993 年 32 巻 6 号 p. 853-859
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    喀痰検診要精検例 (D, E判定) に対して, 気管支鏡検査と併せてCT, 口腔耳鼻科診察を行った.その結果, 肺癌30例と口腔-咽喉頭の癌8例を発見した.上気道の診断において, 口腔耳鼻科的診察を行うことは有効であった.発見肺癌30例のうち23例が胸部X線無所見であったが, うち12例がCTで所見を有していた.喀痰検診要精検症例に対する単純写真の意義は粗大病変のスクリーニング程度と認識しておくべきであり, CTの併用が必要と思われた.特に, CTは気管支鏡観察範囲より末梢の病変の診断に効果があった.以上のような一連の精検で局在不明であった中から経過観察中に3例の癌を発見した.初回検査で癌が証明されない場合は厳重な経過観察が必要と思われた
  • 渡辺 隆紀, 君島 伊造, 古川 義英, 中山 浩一, 鈴木 真一, 二瓶 光博, 土屋 敦雄, 阿部 力哉, 星 和栄, 望月 衛
    1993 年 32 巻 6 号 p. 860-866
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    乳癌における核形態と臨床病理学的諸因子との関連を検討した.原発乳癌90例および乳腺良性疾患13例を対象とした.May-Grunwald-Giemsa染色の細胞診標本を用いて約200個の核について核面積および核最大長径を画像解析装置を用いて計測した.核面積は乳腺良性疾患に比べて乳癌が有意に大きかった (P=0.00001).乳癌と臨床病理学的因子との検討では, 腫瘍径が大きくなるにつれて核面積も有意に大きくなっていた (P<0.01).ホルモンレセプターではPR陰性群の方が陽性群に比べて有意に核面積が大きかった (P<0.01).核の大小不同性の指標として核面積標準偏差値を用いたが, 腫瘍径 (P<0.05) とPR (P<0-01) にて有意差を認め, 腫瘍径が大きいもの, およびPR陰性群では大小不同性が強かった.
  • 深沢 政勝, 菅間 博, 小杉 岳三郎, 植野 映, 田中 秀行, 相吉 悠治
    1993 年 32 巻 6 号 p. 867-875
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    乳腺穿刺吸引細胞診を施行後, 組織学的診断が確定した652例 (良性373例, 悪性279例) について, 組織診との判定が不一致で誤診といえる症例は, 良性4例 (1.1%), 悪性21例 (7.5%) にみられ, 疑診 (Class III) 判定例は, 良性21例 (5.6%), 悪性26例 (9.3%) にみられた.これらの症例について, 組織診と判定が不一致となった要因および疑診 (Class III) 判定となった要因を検討した.
    良性乳腺疾患における判定不一致 (Class IV, V) 例の4例中3例は, 細胞異型が高度のため判定が不一致となり, 1例は細胞所見を過大評価したのが原因であった.疑診 (Class III) 判定例21例のうち1例は標本不適によるもので, 12例が過大評価, 8例が高度異型によるものであった.
    悪性乳腺疾患では, 判定不一致 (ClassI, II) 例21例中その大部分を占める17例は標本不適によるもので, 腫瘍細胞が十分に採取されていなかったことが原因であり, 細胞自身の異型度が低いために判定が不一致となった症例は4例であった.疑診 (Class III) 判定例26例についても同様の傾向があり, 標本不適が11例とやや多く, 細胞所見を過小評価していたものが9例, 軽度異型が6例であった.
    以上の結果より, 乳腺穿刺吸引細胞診では, いかに細胞を確実に採取するかが最も重要であることが示唆され, 特に小腫瘤では超音波誘導下での穿刺が望まれる.さらに, 現在の細胞診の判定基準では, 細胞形態的に良・悪の鑑別が困難な症例が存在することから, 症例によっては生検をもって診断を確定することが必要と考えられる.
  • (1) 実地臨床と関連した新しい細胞診報告方式の提唱
    垣花 昌彦, 沢井 繁男, 山下 俊樹, 浦崎 政浩, 野原 キクエ, 佐々木 陽一, 山田 喬, 村上 俊一
    1993 年 32 巻 6 号 p. 876-883
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    乳房細胞診の診断結果め報告にPapanicolaouの分類を応用するのには, 好ましくない点が多い. そこで, 細胞診の結果が直接臨床上の指針となるような, 新しい報告方式の基準を考案した. すなわち,“CO: 細胞採取不良, 標本作成上の失敗による標本不良により判定不能. CI: 細胞は採取されているが上皮性成分がない. CII: 上皮性成分, 結合組織成分が採取されているが細胞異型がない. CIIb: 良性であるが, 採取細胞に軽度の異型があり, 要経過観察. CIIIa: 細胞異型は中等度, 悪性を完全には否定できないので外来で試験切除もしくは厳重な経過観察. CIIIb: 細胞異型は強く悪性を疑うが確実でないので, 入院して試験切除, 迅速組織検査を行う. CIV: 細胞異型は若干弱いが悪性細胞. CV: 細胞異型の強い悪性細胞.” である. さらに, できるかぎり推定病変を記載することにした.この報告基準にしたがって1988年から1992年まで成績を検討すると, CIV群, CV群は, 63 例中63例すべて悪性. CIIIb群では35例中18例が悪性. CIIIa群では65例中4例が悪性であった. この方法により, 過剰な手術を行う可能性が減少し, 適切な指針となることがわかった. また, 細胞採取の状況がわかるような報告を作ることによって再検査の要請や, 悪性細胞がみられない場合でも総合診断の一部としての細胞診の意味づけができるようになった.
  • 名古屋 美智, 椎名 義雄, 山宮 幸二, 郡 秀一, 飯島 淳子, 藤井 雅彦
    1993 年 32 巻 6 号 p. 884-894
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/12/05
    ジャーナル フリー
    AgNORs (nucleolar organizer regions) 染色を細胞診塗抹標本に応用するために, HeLa229細胞を用いた固定法・染色条件の基礎的検討と, 乳腺25症例 (線維腺腫8例, 乳腺症・葉状腫瘍各1例, 乳頭腺管癌・充実腺管癌各6例, 硬癌2例, 粘液癌1例) を用いた評価法の検討を行った.
    その結果, いずれの固定法においても銀反応は20℃ ・60分間行ったものが最適であった.湿固定標本で得られる核小体様AgNORsの評価は出現個数・大きさ・1AgNOR面積と全AgNORs面積のそれぞれ核面積に占める割合および不整形AgNORsを有する細胞の割合の5項目について行った.不整形AgNORsを有する細胞の割合は, 良性病変で9.7%, 悪性病変では24.5%と両者の問に有意差を認めた (p<0.005) が, 出現個数や大きさなどにおける計測からは有意差は得られなかった.乾燥標本で得られる核小体内AgNORs顆粒の評価結果は, 10個以上顆粒を有する細胞が悪性病変において75.6%と良性病変の8.7%に比べ多数観察された.さらに悪性病変ではAgNORs顆粒が核小体内に充満している細胞を多数認め, それらは細胞増殖能が高いことが示唆された.
    以上の結果から乳腺細胞診標本におけるAgNORs染色は, 乾燥標本を用いそれらの数や分布状態に着目して評価することが望ましいと考えられた.
  • 塩田 敦子, 五十嵐 達也, 黒瀬 高明, 大野 正文, 半藤 保
    1993 年 32 巻 6 号 p. 895-899
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    われわれは1984年から1992年に香川医科大学産婦人科において経験した原発性外陰癌22例についてその擦過細胞診所見を検討し, 有用性について考察した.
    組織i型は, 扁平上皮癌14例, 腺癌3例, 乳房外Paget病5例であった.
    病変擦過細胞診を採取したものは20例であり, 外陰癌全体での細胞診陽性率は75.0%(15/20), 疑陽性を加えると90.0%(18/20) であった.
    組織型別にみた細胞診陽性率は, 腺癌では33.3%(1/3) と低いものの, 扁平上皮癌では84.6%(11/13), 乳房外Paget病でも75.0%(3/4) と高い陽性率を示した.
    擦過方法別では, ヘラで83.3%(10/12), 綿棒で62.5%(5/8) と, ヘラの方が綿棒に比べ採取細胞数が多く, 陽性率がやや高い傾向にあった.
    外陰癌における擦過細胞診は従来いわれているより陽性率が高く, 補助的診断法として有用であると考えられた.
  • 滝沢 憲, 木村 祐子, 黒瀬 雅美, 井口 登美子, 武田 佳彦
    1993 年 32 巻 6 号 p. 900-905
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    最近9年間に当科で経験した妊娠に関連した異常細胞診と子宮頸部異形成・上皮内癌および浸潤癌について, 臨床的に検討した.
    1) 1984年から1992年までに実施した妊婦8012例の初診時細胞診は, ClassV2例, Class IV5例, Class IIIb7例, Class III13例, Class IIIa22例で要精密検診者は, 49例 (0.61%) であった.このうち35例 (71.4%) が精密検診を受け, 浸潤癌2例, 上皮内癌8例合計10例 (0.13%) の子宮頸癌と, ほかに2例の高度異形成が発見された.
    2) 妊娠が終了した9例の細胞診, 組織診の変遷をみると, 4例では組織診より細胞診断がより軽い判定であり, 標本採取不良がその原因と思われた.産褥時の組織診では, 妊娠中より, より進行した病変は認めなかったので, 上皮内癌以下の場合には保存的管理を行い得ること, 分娩方法も産科的適応に従って対処し得ることが判明した.
    3) 産褥1年以内に子宮頸部高度異形成以上の病変を認めた5症例は先行する妊娠時の細胞診が陰性であったが, その原因は, 標本採取不良であった可能性が考えられた.
    妊婦の癌検診では, 子宮腟部 (要すれば頸管部) の確実な擦過により, 適切な細胞診を行うことが重要だと思われた.
  • 牧野 浩充, 中名生 裕子, 佐藤 信二, 矢嶋 聰, 東岩井 久
    1993 年 32 巻 6 号 p. 906-913
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    宮城県の子宮頸癌集団検診におけるfalse negative症例のretrospectiveな検討を行った.
    1984年4月から1991年3月までの7年間に, 集団検診で発見された浸潤癌症例のうちで1年前に検診歴があり, その子宮頸部細胞診が陰性であった25例 (扁平上皮癌19例, 頸部腺癌6例) をfalse negative症例とした.
    1) 浸潤癌発見1年前の陰性細胞診標本 (25例) の適性評価はsatisfactoryが20例, less than optimalが3例, unsatisfactoryが2例であった.
    2) unsatisfactoryを除いた評価可能な23例中4例はscreening errorと考えられ, 扁平上皮癌で118%(2/17), 頸部腺癌で33.3%(2/6) と頸部腺癌に多い傾向が認められた.それ以外の19例については異型細胞を認めなかった.25例全体でみるとscreening errorが16%(4/25), sampling errorが84%(21/25) と考えられた.
    3) 扁平上皮癌では, その自然史がほぼ解明されており, また細胞診断の精度がきわめて高いので, sampling error, 特に病変部からの細胞採取が適切に行われていないことがfalse negativeの大きな原因であると考えられた.頸部腺癌では, 病変部位の問題による細胞採取の困難さに起因するsampling errorと, 腺細胞異型の診断の難しさが要因と考えられた.
  • 田勢 亨, 大友 圭子, 八重樫 伸生, 佐藤 信二, 矢嶋 聰
    1993 年 32 巻 6 号 p. 914-920
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/12/05
    ジャーナル フリー
    初期子宮頸部腺癌の細胞所見を明らかにするために, 腺異形成12例, 上皮内腺癌14例, 微小浸潤腺癌16例および3mm以内の浸潤腺癌9例の術前細胞標本を検討した.
    1) 腺異形成では, 背景はきれいで出現する腺細胞数は多く, 棚状配列・腺房状構造をとる.核腫大はみられるが細胞質縁での突出は少なく, 核過染性は軽~中等度であり, 核クロマチンは細網状で均等分布を示した.細胞質には繊毛がみられた.
    2) 上皮内腺癌では, 背景はきれいで異型腺細胞に棚状配列・ロゼット形成がみられ核は同等に腫大し細胞質縁での突出がみられた.核過染性は中等度であり, 核クロマチンは細網状~細顆粒状で均等に分布していた.
    3) 微小浸潤腺癌では, 背景は比較的きれいで異型腺細胞に重積性の強い立体構造や羽毛状構造がめだつ.核は腫大し, 大小不同や多形性もみられた.核過染性は高度で, 核クロマチンは顆粒状で核縁の肥厚には一部不均等がみられた。核分裂像もしばしばみられた.
    4) 3mm以内の浸潤腺癌では, 腫瘍性背景がみられ, 異型腺細胞の立体構造は多彩であり, ぶどう状あるいは乳頭状集塊もみられた.核の異型も著明であった.
  • 中山 裕樹, 仲沢 経夫, 西中 健二, 加藤 久盛, 岡島 弘幸, 中村 満美子, 岩撫 成子, 吉田 力
    1993 年 32 巻 6 号 p. 921-926
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    子宮内膜細胞診採取に際し, 増淵式吸引チューブおよびエンドサイトが挿入不能の例に, ディスポーザブル人工授精用カテーテル「デイキャス®」を用い, 挿入率・細胞所見などを検討した.
    1) 挿入不能率はデイキャスを用いることで, 5.1%から3.5%に減少した
    2) 非癌例では増淵式吸引チューブに比べ,
    (1) 扁平上皮や顕管粘液の混入は少ない傾向にあったが他の背景所見に差はなかった.
    (2) 内膜クラスターの出現数はやや少ない傾向にあり, 22例中3例は判定不能であったが, 吸引法に著しく劣る成績ではなかった. 乾燥傾向の標本が多かった.
    3) 体癌例では, 細胞所見・悪性細胞クラスター出現数は増淵式吸引チューブと差がなく, 12例中11例で陽性であり, 1例で内膜細胞がみられず判定不能であった. また,「デイキャス」にて初めて診断された例も1例あった.
    内膜細胞が採取されていない場合, 必ず再検査を行うという原則さえ守れば, 従来の内膜細胞診ら採取器具が挿入不能の際の補助器具として,「デイキャス」は有用と考えられた.
  • 正常子宮増殖期内膜と高分化型腺癌の比較
    小坂 順治, 永田 順子, 岡部 一裕, 高山 雅臣
    1993 年 32 巻 6 号 p. 927-930
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    核小体形成領域 (nucleolar organizer regions: NOR) はrRNAをコードするDNAループで, これをとりまく非ヒストン蛋白質は好銀性で (Ag-NOR), 銀染色により容易に染色できる. Ag-NORは細胞の増殖性と関連するためAg-NORの数がヒトの腫瘍の診断や予後判定のうえで有用であるといわれ, ヒトの子宮内膜においても内膜増殖症では異型性が増すほどAg-NORも増え, 腺癌ではさらに増えるとの報告がある. そこで, エンドサイトまたはウテロブラシを用いた子宮内膜擦過細胞診標本におけるAg-NORを観察し, 細胞診断学的に有用であるかどうかを検討した. 対象は正常増殖期子宮内膜20例と高分化型腺癌9例で, エンドサイトまたはウテロブラシで内膜細胞を採取し, 銀染色を行い20~30個の細胞の核内のAg-NORの数をカウントした. 正常内膜ではAg-NORは1~6個, 平均2.68で, 高分化型腺癌では2~7個, 平均4.78であり高分化型腺癌では有意にAg-NORの増加が認められた. 高分化型腺癌では核異型が軽度で腺癌としての診断が困難な症例もあり, Ag-NORは安価で簡単な操作で染色できることから, 細胞診における補助的診断に有用であると考えられた.
  • 山田 昭二, 清田 秀昭, 日高 康雄, 吉岡 均, 工藤 玄恵
    1993 年 32 巻 6 号 p. 931-936
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は, エンドサイト法標本における高分化内膜腺癌の3次元的特徴所見を見出し, その診断的意義について検討を行うことである.対照はエンドサイト法, 直接塗抹法にて得られた, 増殖症を除く良性内膜90例 (16~76歳, 平均45歳) と, 高分化内膜腺癌13例 (48~70歳, 平均59歳) を用いた.良性例ではごく少数例に裂隙を形成する細胞集塊が認められたが, そのほとんどは間質成分を有し, 細胞配列は正しく, 3層以上の不規則な重積はなかった. 核が細胞基底側 (内側) に位置する所見もなかった. 一方, 癌例では裂隙を形成し, 間質成分を欠く細胞集塊が多数例 (13例中10例) 認められた. そして, 8例に3層以上の不規則な重積と核が細胞基底側 (内側) に位置する所見を認めた. 癌例の細胞構築的特徴を組織像に対応してみると, 細い血管間質を中心に, 腫瘍細胞が乳頭状~ 樹枝状~ 鋸歯状に子宮内腔あるいは腺腔内へ増殖し, 核が細胞基底側に存在する箇所に相当すると思われた. エンドサイト法で得られた細胞集塊が裂隙を形成し, 3層以上からなる不規則な重積を有し, 間質成分を欠く場合には癌の可能性が高いと考えられた.
  • 特に組織構築を中心に
    森 一朗
    1993 年 32 巻 6 号 p. 937-947
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    子宮内膜細胞診における診断をより正確に行うために, 正常内膜60例, 腺腫性増殖症12例, 高分化型腺癌20例を対象に内膜細胞診を施行した. 個々の内膜細胞ならびに集塊の形態について観察し, 鑑別診断の可否を検討し次の結果を得た.
    1) 細胞異型として核クロマチン, 核小体数, 核小体径, 細胞面積, 細胞核長径短径について比較検討し, 統計学的には有意差を認めた.
    2) 細胞集塊形態を検討し, 正常月経周期症例では, glove finger状集塊, シート状集塊, grape状集塊, 間質細胞集塊, 乳頭状集塊に分類可能であった. ただし乳頭状集塊は月経期にのみ認めた.
    3) 腺腫性増殖症, 高分化型腺癌症例には樹枝状集塊, back to back集塊, 乳頭状集塊を認めた. 特に樹枝状集塊は高分化型腺癌に109集塊 (54.5%) と高率に認めた.
    4) 樹枝状集塊内に認められる束状集塊は高分化型腺癌症例の80%に認め, 腺腫性増殖症では認められなかった.
    5) 集塊の分岐において2次分岐は正常月経周期では1%, 腺腫性増殖症では3%認めた. 高分化型腺癌では50%認め, 3次分岐は高分化型腺癌にのみ4%認めた.
    以上の結果より内膜細胞診においては従来の細胞診診断基準に加えて, 集塊の分岐, 樹枝状集塊, 束状集塊の有無の観察が重要であると示唆された.
  • 立岡 和弘, 上坊 敏子, 久嶋 則行, 大河原 聡, 林 玲子, 蔵本 博行
    1993 年 32 巻 6 号 p. 948-955
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    子宮体癌のなかで漿液性腺癌はまれなものであるが, その予後は一般の体癌に比し不良であることが指摘されている. われわれは273例の体癌の中で3例の漿液性腺癌を経験したので, その細胞所見を報告する. 3症例の年齢は56歳, 53歳, 64歳であった. FIGO進行期は3症例ともIIIA期であった. 2例に腹水を認めたが, これらの症例も含めて全例腹腔細胞診陽性であった. また1例では卵巣への転移を認めた. 全例手術および化学療法を施行し, 最近の2例は生存中であるが, 1例は術後14ヵ月で再発死亡した.
    3例のうち筋層浸潤を認めた2例の内膜細胞所見の背景は血液, 壊死物質で汚染され, 正常内膜細胞の出現はみられなかった. しかし, 筋層浸潤のなかった1例では背景はきれいで, わずかに正常内膜細胞の出現を認めた. 腫瘍細胞は大小種々の重積性著明な乳頭状集塊を形成して出現しており, 腺管構造は目立たなかった. 集塊周囲には孤立性の腫瘍細胞も少数認めた. 腫瘍細胞の核はクロマチンが増量し, 大小不同性が著明であり, 核縁は肥厚し, 大型の核小体を1-2個有していた. 細胞質は比較的少なく, 一部には空胞を有しているものもあった. N/C比の高いのが特徴的であった. Psammoma bodyはいずれの検体にもみられなかった. 腹腔細胞診にも同じ細胞が乳頭状の集塊を形成して出現していたが, 内膜細胞診より集塊は小さく細胞質内の空胞形成傾向が強かった.
    画像解析システムを用いた核面積の検討を2症例について行った. 症例1および症例2の核面積は103.8±56.3μm2,119.0±44.5μm2と大型で, 核の大小不同が著明であった.
    内膜細胞診における卵巣原発漿液性腺癌との鑑別の要点は,(1) 腫瘍壊死性背景,(2) 細胞集塊が大きいこと,(3) 正常内膜細胞がほとんどみられないこと, であった.
  • 大野 正文, 五十嵐 達也, 塩田 敦子, 黒瀬 高明, 半藤 保
    1993 年 32 巻 6 号 p. 956-959
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    卵巣癌術後の再発を早期に発見する目的で, 初回手術後定期的に施行した腹腔洗浄細胞診により, CT, MRI, USGなどの各種画像診断法や, 各種血清腫瘍マーカー値が陽性所見を示す前に, 細胞診断学的にとらえることのできた2症例を報告した. 腹腔洗浄細胞診は, 術後腹腔内化学療法を施行するために設置した皮下埋め込み式リザーバーを介して行ったもので, リザーバーが卵巣癌術後管理の細胞採取経路としても有用であることを示した. このような方法で得られた細胞標本の採取細胞量は十分あり, 細胞学的鑑別診断は比較的容易と判断された.
  • 特に免疫・化学療法による非癌細胞の形態変化について
    平井 康夫, 清水 敬生, 池永 素子, 南 敦子, 都竹 正文, 陳 瑞東, 藤本 郁野, 山内 一弘, 荷見 勝彦, 増淵 一正
    1993 年 32 巻 6 号 p. 960-964
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    腹腔内化学療法のためのリザーバーを用いて, 腹腔内悪性病変が問題となった28症例に繰り返し腹腔内洗浄細胞診を施行した. 免疫・化学療法がおよぼす腹腔内洗浄細胞への影響を検討し, 以下の結果を得た.
    1.腹腔内非癌細胞にみられる, シスプラチン (CDDP) を主とする腹腔内化学療法による変化は, 好酸球増多, 腫大した反応性組織球または中皮細胞と思われる異型非癌細胞の出現, 組織球増多などであり, 化療後1週間でほぼ消失するが, 一部は2-3週間持続した.これらの変化は時に癌細胞と非常に紛らわしく注意を要した.
    2.シゾフィラン, レンチナンなどのBRMの腹腔内投与による免疫療法では, 直後から抗癌剤投与とやや異なり, 多数の著しく多核化した巨大組織球の出現, 組織球増多がみられ, 遅れて, 腺癌細胞の集塊ときわめて紛らわしい乳頭状に外向増殖した中皮細胞集塊をみとめることがあった.
    3.リザーバーを用いると容易に何回でも腹腔内洗浄細胞診が可能で, 腹腔内悪性病変の管理上非常に有効である. 正確な細胞診断のために, 免疫・化療による腹水中の非癌細胞の形態変化を熟知することが重要である.
  • 土井 正輝, 板倉 誠, 木下 明雄, 大場 祥, 柴山 英一, 石川 英彦, 桑原 紀之, 田所 衛
    1993 年 32 巻 6 号 p. 965-969
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    髄液細胞診で腫瘍細胞の質的診断が困難であった髄膜悪性黒色腫について報告する.
    症例は全身に多数の色素性母斑を認める23歳女性で, 急性の脳圧充進症状を契機に当院に来院した.髄液細胞診では腫瘍細胞は少数でまばらに存在し, メラニン顆粒は明確には観察し得なかった. 摘出された腫瘤の病理組織にてヘマトキシリンエオジン染色でメラニン顆粒を認め, 特殊染色ではグリメリウス染色, フォンタナマッソン染色で陽性顆粒をNSE染色, S-100蛋白で陽性像を示した. さらに電顕標本で細胞質に多数のMelanosomeが確認された. 皮膚の臨床所見との関連から本症例はMelanose neurocutanéeを基盤とした悪性黒色腫に相当した.
  • 佐藤 信也, 大野 招伸, 日野浦 雄之, 木佐貫 篤, 林 透, 鍋島 一樹, 柊山 剰, 直井 信久
    1993 年 32 巻 6 号 p. 970-973
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    眼瞼に発生した脂腺癌2例の術中捺印細胞像について検討した.症例1は69歳女性, 右下眼瞼外側に腫瘤がみられた.捺印細胞像は, おおむね腺癌の性格を有していたが, 細胞質内に明らかな粘液は証明されなかった.組織診も同様の所見であったが, 最も有用な所見は凍結切片を用いたOil Red O (ORO) 染色で多数の脂肪滴が認められたことであった.症例2は83歳男性, 左上眼瞼の3分の2を占める隆起性の腫瘤がみられた.捺印標本において, 小型で異型性にやや乏しく, 結合性の強い集塊を形成する腫瘍細胞を認めた.基底細胞癌に類似していたが, ORO染色によって細胞質内に脂肪滴が証明されたため脂腺癌を疑った.組織診は症例1に比べて脂肪滴がやや少なかったので分化度が若干低い脂腺癌と診断された・脂腺癌は臨床的に霰粒腫や眼瞼炎との鑑別が困難な場合が多い.このような再発性あるいは難治性の眼瞼部炎症では分泌液や擦過, 吸引などによる細胞診的アプローチが役立つ場合が多い.さらにその細胞像を十分理解し, 同時に脂肪染色を行えぼほかの腫瘍との鑑別は十分可能で, 早期発見にも有用であると考えられた.
  • 細胞病理学的特徴および細胞増殖能について
    清久 泰司, 高橋 保, 森木 利昭, 植田 庄介, 小松 千津, 宮崎 恵利子, 弘井 誠, 原 弘
    1993 年 32 巻 6 号 p. 974-979
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    甲状腺髄様癌は比較的まれな腫瘍である. われわれは好酸性大型細胞からなり組織像が褐色細胞腫と類似した1例を経験したので, その細胞病理学所見を中心に免疫組織学的および電顕的所見と細胞増殖能について報告する. 症例は65歳, 女性. CEA, カルシトニン高値を指摘され精査加療のため来院. 甲状腺左葉に被膜形成のない境界明瞭な1.5×1.3cm大の腫瘍を認めた. 捺印細胞では, 顆粒状の豊富な胞体をもつ腫瘍細胞が多数散在性に, 一部集籏性に認められた. 細胞, 核ともに大小不同が著明であった. 組織学的には, 豊富な好酸性胞体をもつ多形性の大型細胞が充実性密に, あるいは索状, 胞巣状に増殖, 核分裂像が散見された. グリメリウス染色では胞体内に多数の好銀顆粒がみられた. 免疫組織学的にはカルシトニン, CEA, NSE, ケラチン陽性. 電顕的には, 細胞内小器官はよく発達し, ミトコンドリアが豊富であった. 200~500nm大の類円形の分泌顆粒を多数認めた. PCNA陽性細胞は約50%であり甲状腺未分化癌と高分化型の乳頭癌や濾胞癌の中間であった. 褐色細胞腫に類似した甲状腺髄様癌であったが, その鑑別にはカルシトニンの免疫染色が有用と考えられた.
  • 佐藤 隆夫, 今野 元博, 前田 光代, 前倉 俊治, 久保田 勝明, 郡 健二郎, 栗田 孝, 橋本 重夫
    1993 年 32 巻 6 号 p. 980-986
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    症例は60歳, 男性. 肉眼的血尿, 背部痛で発症し, 放射線学的に腎盂腫瘍が示唆され, 腎尿管全摘出術が施行された. 組織学的検索にて, 腎孟に乳頭状の増生を示す移行上皮癌 (TCC) が, 腎実質に腎細胞癌, 混合型, 多形細胞型 (RCC) が認められた. 両者は一部で混在, 移行していた. lotus tetragonolobus aggulutinin (LTA), peanut aggulutinin (PNA), soy bean aggu-lutinin (SBA), dolichos biflorus aggulutinin (DBA) に関するレクチンの染色と抗上皮膜抗原 (EMA), 抗ヒト顆粒球関連抗原 (M1) に関する免疫染色を試みた. RCC, TCCの部分で下部尿細管マーカーであるPNA, SBA, DBA, EMAが陽性反応を示した. LTAはRCCおよびTCC部分で一部に陽性反応を示した. したがって, 本例は移行上皮にも尿細管上皮にも分化しうるベリニ管上皮由来の腫瘍で, ベリニ管癌, 混合型と考えられた. 術後, 喀痰細胞診で, 腺癌細胞が認められ, 肺へのRCC成分の転移が示され, また, 局所再発部の穿刺細胞診にて, 多形性に富む腺癌由来と考えられる異型細胞が観察され, RCC成分の局所再発が考えられた. 術後7ヵ月で呼吸不全にて死亡し, 剖検された. 剖検所見でも, TCC成分を含まないRCC成分の局所再発, および肺転移が認められ喀痰および局所穿刺の細胞診像が確認された.
  • 細胞像を中心に
    久場 睦夫, 大城 盛夫, 源河 圭一郎, 岸本 明久, 岩政 輝男
    1993 年 32 巻 6 号 p. 987-994
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    気管支発生顆粒細胞腫の1例についてその細胞所見を報告した. 腫瘍の捺印標本で, パパニコロー染色でライトグリーンに好染する胞体と類円形の核を有する細胞集団が集合状あるいはシート状の配列で認められた. N/C比は小さく, 豊富な胞体には好酸性の微細な顆粒が充満していた. 核の大小不同性は軽度であり, 核縁は薄くクロマチンは微細顆粒状でほぼ均一であった. 核小体は約半数に認められた. 細胞質の顯粒はPAS染色にて赤色に好染し, ジアスターゼ消化試験は陰性であった. 病理組織学的所見では, 気管支上皮下の粘膜固有層, 粘膜下層に卵円形ないし多辺形の腫瘍細胞の増生がみられ, 胞体には好酸性の顆粒が充満して認められた. 核は小型, 類円形あるいは一部紡錘状であり, 大多数が胞体の辺縁に位置していた. 電顕的には, 腫瘍細胞の胞体に径0.3μから3μmにおよぶ大小多数の類円形顆粒が密接しで存在しており, その内容は電子密度のさまざまな無構造物や顆粒状物質, 空胞など種々の形態をとっていた. 一部にはミエリン様構造物が認められ, また問質に面する腫瘍細胞膜直下には基底膜が認められた. 免疫組織学的検索ではS-100蛋白とNSEが陽性であり, 本症の組織起源に関しては電顕所見とあわせ神経由来が示唆された.
  • 万代 光一, 山内 政之, 大崎 博之, 金堂 奈津, 中脇 珠美, 山上 啓太郎, 佐伯 俊昭, 森脇 昭介
    1993 年 32 巻 6 号 p. 995-999
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    穿刺細胞診・組織診で確診できた肺クリプトコッカス症の2例を報告した. 症例1は75歳の女性. 特発性浮腫の加療中に偶然胸部結節状陰影を指摘された. 気管支内視鏡下肺穿刺細胞診および組織診で黄膜を有する酵母型真菌を貧食した組織球を認め, 肺クリプトコッカス症と診断できた. 内科的治療で結節状陰影は消失した. 症例2は46歳女性. 職場検診で肺の空洞性陰影を指摘された. 透視下経皮的肺穿刺細胞診・組織診でPAS反応陽性の萸膜を有する酵母型真菌を証明し, 肺クリプトコッカス症と診断した. その後, 肺の外科的切除が行われ, 線維乾酪性肉芽腫性病変内にクリプトコッカスの存在を確認した. 自験2例ともに臨床的に肺癌との鑑別が問題となったが, 穿刺細胞診および組織診が確定診断に有効であった.
  • 設楽 保江, 長谷川 康子, 馬嶋 恵子, 古川 悦子, 中澤 久美子, 小池 盛雄
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1000-1006
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    胸水中に癌細胞が出現し, 病理組織学的に胸腺癌と診断された3例について縦隔穿刺像も含めて細胞形態学的に検討した. 3例の胸水中の癌細胞は類似の細胞像を呈した. 共通する所見としては, 1) 癌細胞は小型から中型の集塊で出現し, 細胞密度が高く, 集塊の結合性は非常に良好で, その出現数は少ない. 2) 腫瘍細胞はたまねぎ状あるいは同心円状配列を呈する. 3) 細胞は小型でN/C比が高い. 4) 核は不整形で大小不同があり, クロマチンは穎粒状, 核縁は不規則に肥厚する-核の中心に好酸性の大型核小体を有する. 5) PAS, アルシアン青染色は陰性.
    縦隔穿刺細胞診の行われた2例では細胞は比較的小型であり, 上皮細胞の大きさは胸腺腫瘍の悪性度の鑑別の指標とはならなかった. しかし密度の高い集塊として出現すること, 小型ながら核の大小不同があり, 著明な大型の核小体を有すること, 背景にリンパ球をほとんど認めないことが胸腺癌の診断に有用であった.
    臨床的に前縦隔腫瘍が疑われ胸水中に上記の特徴をもつ細胞を認めた場合, 胸腺癌を考える必要がある.
  • 浦岡 孝子, 辻本 正彦, 黒川 和男, 林 真奈美, 大西 あゆみ, 野口 教彦, 奥田 敏美, 滝 一郎
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1007-1011
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    胸腺原発カルチノイド腫瘍はまれな疾患で, その穿刺吸引細胞診像の報告はきわめて少ない. 今回われわれは, 穿刺細胞診上, 従来の報告例より異型性の強かった胸腺原発のカルチノイド腫瘍の1例を経験したので報告する. 症例は, 61歳女性で, 胸部CTスキャンにて大きな前縦隔腫瘤および直径1cmの単発の肺転移巣を指摘され, 腫瘤摘出術が施行された.
    術前の前縦隔腫瘤に対する穿刺吸引細胞診では, 出血性背景に小型の腫瘍細胞が, 不規則集団を形成ないし, 孤立散在性に出現していた. 細胞形態は比較的均一であるが, 大小不同も認められ, N/C比は大きく, 核は切れ込みが目立ち, クロマチンは顆粒状で増量し, 核小体の目立つ細胞も認められた.
    組織像では腫瘍細胞は大小不同の核を有し, 核分裂像を伴い, 豊富な血管網を伴って充実性胞巣を形成して増殖していた. 核小体, 核形不整の目立つ細胞もあった. 腫瘍細胞はグリメリウス染色, クロモグラニンA免疫染色陽性で, 電顕では神経内分泌穎粒が認められた. 以上より胸腺原発のカルチノイドと診断された.
  • 安田 大成, 山上 千秋, 石上 増雄, 平田 明宏, 大林 千穂, 伊東 宏
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1012-1016
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    26歳, 女性, 上大静脈症候群で発症, 画像上前上縦隔に最大径7.5cmの腫瘍であり, 摘出試みるも肺および上大静脈浸潤のため不可能, 術中迅速診断が施行された.組織学的にはいわゆるround cell tumourであり, 確定診断にいたらなかったが, 捺印細胞診ではときに切れ込みを有する不整形核に数個の核小体の目立つ, 胞体の乏しい細胞が散在しており, lymphomaを強く疑わせ, 後に免疫組織化学的検索によりnon-Hodgkin's lymphoma, B-cell, diffuse, large cell typeであることが確認された.縦隔原発びまん性大細胞型リンパ腫 (MDLL) はまれであり, ことに迅速診断時, ほかの縦隔腫瘍との鑑別は困難である.MDLLの診断における捺印細胞診の有用性を中心に, 本例の組織像, 電顕所見その他若干の病理学的特徴について報告する.
  • 藤井 丈士, 野首 光弘, 川井 俊郎, 久保野 幸子, 武 彰, 村山 史雄, 蘇原 泰則, 斎藤 建
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1017-1020
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    背部胸壁に原発した類上皮肉腫の1例を報告した.患者は64歳男で胸壁腫瘤を主訴に来院.胸部CTで左脊柱起立筋内に石灰化を伴う腫瘤を認めた.穿刺吸引細胞診では大型類円形ないし多稜形異型細胞よりなる結合性の疎な細胞集塊や少数の紡錘形細胞がみられた.摘出された腫瘍は白色充実性分葉状で, 一部で出血や中心壊死を伴い, 辺縁では骨化がみられた.組織学的には多稜形細胞が上皮様胞巣を形成する部分と紡錘形腫瘍細胞からなり, 両者はなだらかに移行していた.一部でrhabdoid featureを呈していた.免疫組織化学的にはCAM 5.2陽性, EMA陽性, CEA陽性, vimentin陽性, HHF35陽性, α-smooth muscle actin陽性, NSE陽性, desmin陰性, S-100陰性, factor VIII陰性であった.電顕的には細胞質に豊富な中間径細線維がみられた.
  • 南雲 サチ子, 曽根 啓子, 和田 昭, 松田 実
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1021-1024
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    乳腺のなかでもまれな管状癌で穿刺吸引細胞診が施行されたので, その細胞像について報告する. 症例は45歳女性, 主訴は右乳房腫瘤. 触診, 超音波画像, マンモグラフィーともに癌が疑われ, 腫瘤の穿刺吸引細胞診も陽性と判定された. 乳房切除術の迅速病理組織診断では乳頭腫症および硬化性腺症と診断されたが, その後の永久標本組織診断では管状癌と診断された.
    穿刺吸引細胞所見は (1) 腫瘍細胞は10-30個程度の細胞からなる小集団で出現し, 腺腔様配列や結合性が密な立体的管状構造配列を示す.(2) 腫瘍細胞はN/C比は大きいが大小不同が少なく均一で, 核は類円形でクロマチンは細類粒状で核小体はあまり大きくなく, 異型の乏しい癌細胞が多い.(3) 背景には間質由来の双極裸核様細胞も少なくきれいであることなどの特徴がみられた. 穿刺吸引材料においても上記の細胞学的特徴から管状癌の診断は可能と考えられた.
  • 西野 武夫, 高橋 年美, 鍋嶋 誠也, 太枝 良夫, 磯野 敏夫, 菅野 勇, 長尾 孝一
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1025-1030
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    乳腺原発の腺様嚢胞癌の1例を経験し, その細胞像と組織像について検討した.症例は45歳女性, 左上外側に長径14.2mmの腫瘤を認めた.Papanicolaou染色では球状, シート状の細胞集塊の内部に特徴的な透明状の粘液様球状物を認め, Giemsa染色では赤紫色を示した.細胞は小型, 裸核状で, 核の大小不同は少なかった.核クロマチンは中等度増量, 細穎粒状で, 核小体は小さく1-2個認められた.組織学的には, 小型の腫瘍細胞が胞巣状, 索状に増殖し, 各胞巣は粘液様物質を内容とする真の腺腔と偽嚢胞腔を伴い籠状構造を呈していた. 真の腺腔を構成している上皮細胞は, CEA, EMA, keratin陽性で, 電顕的には微絨毛が認められ, その腺腔内容物はPAS陽性であった. 一方の偽嚢胞腔を構成している上皮細胞はVimentin陽性で, 偽嚢胞内容物は全てア回腸膀胱形成術後30年で膀胱粘膜より腺癌が発生した1例を報告する. 患者は47歳男性で, 17歳時に結核性膀胱萎縮にて閉鎖環型の回腸膀胱形成術を受け, 以来尿路感染をくり返し, 血膿尿を訴えて当院を受診した. 尿細胞診では悪性を疑う異型細胞を認めた. 膀胱鏡で左壁に大きな隆起性腫瘍を認め, 経尿道的生検後に膀胱・回腸環全摘術が行われた. 腫瘍は組織学的に小腸粘膜に似た腺癌で, 漿膜下組織まで浸潤していた. 連続切り出しで, 腫瘍はおもに膀胱粘膜上にあり, 膀胱粘膜面は腸上皮型の高円柱上皮に置き変わっており, さらにほかに離れた小さな癌病巣も存在することがわかった. われわれはこの腫瘍は慢性膀胱炎により腸上皮化生細胞に置き変わった膀胱粘膜から発生したものと結論した. 細胞学的には腫瘍細胞, 腸上皮細胞, 回腸導管尿中の変性した腸上皮細胞と相互にきわめて類似しておりこの三者の区別は困難であった. しかし核径増大, 核膜の肥厚, エオジン好性の核小体, さらに細胞相互封入像などに注意を払えば腺癌細胞とほかの良性細胞の鑑別は可能と思われた. 回腸膀胱形成術後に腸上皮化生を基礎として膀胱腺癌が発生することがあるので尿細胞診を用いた長期間の経過観察が必要と思われた.ルシアン青陽性で, 部分的にはPAS陽性も認められた. またGiemsa染色で赤紫色, トルイジン青染色では紫紅色のメタクロマジーを示した. 電顕的には少数の上皮細胞に筋上皮様分化を認め, 内腔には基底膜様物質, 未熟膠原線維を確認できた.
  • 穿刺吸引細胞像を中心として
    及川 守康, 笹生 俊一, 菅井 有, 安保 淳一, 石田 茂登男
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1031-1036
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    乳腺の紡錘細胞癌を, その穿刺吸引細胞像を中心として, 病理組織学的所見, 免疫組織化学的所見さらに電顕的所見を加えて報告した.
    症例は57歳の女性で, 検診にて左乳腺腫瘤が発見された.穿刺吸引細胞診で, 細胞は散在性, 一部小組織片としてみられ, 腫瘍細胞は, 線維状, 長紡錘形, 多辺形を示し, 多核巨細胞を含み, 大小種々の大きさで, 異型性が強く, 肉腫が疑われた.摘出された腫瘍は大きさが2.5×1.5cmで辺縁明瞭な灰白色調充実性腫瘍であった.組織学的に, 周囲との境界明瞭な腫瘍内には線維性長紡錘形細胞が束をなして種々の方向に走り, 多核巨細胞が混在していた.この病巣の外側部に浸潤性の乳頭腺管癌の小部分が認められ, 紡錘細胞癌と診断した.免疫組織化学的に肉腫様細胞はvimentinとactinが陽性, 一部の細胞にkeratinとS-100蛋白の陽性像をみた.乳頭腺管癌の部位では癌細胞はEMA, CEA, CA15-3が陽性を示した.電顕的に, 肉腫様細胞はr-ERの発達が強く, 一部の細胞にフィラメントおよびdesmosome様構造を含む細胞接着装置が認められた.
    本例のように穿刺吸引細胞診で肉腫を疑わせるような異型細胞だけが採取された時の紡錘細胞癌の診断はむずかしく, これらを含めて考察を加えた.
  • 大沼 眞喜子, 小野寺 博義, 武田 鐵太郎, 小室 邦子, 村田 孝次, 中村 克宏, 松田 尭
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1037-1041
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/12/05
    ジャーナル フリー
    悪性2例を含む4症例の膵ラ島腫瘍について割面擦過塗抹像を検討し, 良・悪性および産生ホルモンにより細胞像に違いがあるか否かについて考察した.
    症例1では, 細胞は均一散在性, 一部ロゼット様配列を示し, 核は円ないし類円形, 核長径平均8.77±1.07μmであった.クロマチンは顆粒状, 核小体は概して小さいものが1個認められた.細胞質に富み, 核は偏在性であった.
    症例2は, 症例1と同様の細胞像だが, 核長径は10.26±1.53μmとやや大型の傾向があり, 20μmの大型核もみられた.
    症例3は, 細胞は散在性から集塊状で, 核は類円形ないし紡錘形であり, 核長径平均は9.89±2.00μmであった. クロマチンは増量し, 核小体は1~2個認められた. 集塊形成細胞の細胞質はライトグリーンに淡染しているが, 散在性のものは裸核状であった.
    症例4は, 症例3と同様の細胞像を呈したが, 核長径10.63±2.33μmとやや大きい傾向にあった.
    今回のわれわれの検討の結果からは, 細胞像のみでは良・悪性の鑑別は困難であった. また, 産生ホルモンの違いによる細胞像の差も明瞭ではなかった.
  • 西阪 誠泰, 佐々木 政臣, 若狭 研一
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1042-1045
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    腎尿管結石の精査, 治療経過中に発見された原発性尿管上皮内癌 (CIS) を経験したので報告する. 症例は57歳, 女性. 主訴は肉眼的血尿および左腰部痛である. 来院時より左腎尿管結石の診断のもと内服治療を受けていたが, 経過観察中に水腎症の出現がみられたため, 左逆行性腎孟造影を施行, その際に採取されたカテーテル尿の細胞診からはじめてclass IVが得られた.その後も5回の尿細胞診から陽性所見が得られたため, 左上部尿路のCISを疑い, 左腎尿管全摘術を施行した. 摘出標本の病理組織学的所見では, 尿管全体にGrade 3のCISとdysplasiaが認められた. 上部尿路に発生したCISの確定診断は困難であるが, さらに同側に尿路結石を合併している場合その診断はより困難となる. いずれにしても診断のためには, 尿細胞診が重要な役割を担うことになるが, その評価には慎重な検討が必要であると考えられた.
  • 平 紀代美, 井手 ありさ, 岩本 和彦, 山城 勝重, 藤田 昌宏, 前野 七門, 大室 博, 藤枝 順一郎
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1046-1051
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    回腸膀胱形成術後30年で膀胱粘膜より腺癌が発生した1例を報告する. 患者は47歳男性で, 17歳時に結核性膀胱萎縮にて閉鎖環型の回腸膀胱形成術を受け, 以来尿路感染をくり返し, 血膿尿を訴えて当院を受診した. 尿細胞診では悪性を疑う異型細胞を認めた. 膀胱鏡で左壁に大きな隆起性腫瘍を認め, 経尿道的生検後に膀胱・回腸環全摘術が行われた. 腫瘍は組織学的に小腸粘膜に似た腺癌で, 漿膜下組織まで浸潤していた. 連続切り出しで, 腫瘍はおもに膀胱粘膜上にあり, 膀胱粘膜面は腸上皮型の高円柱上皮に置き変わっており, さらにほかに離れた小さな癌病巣も存在することがわかった. われわれはこの腫瘍は慢性膀胱炎により腸上皮化生細胞に置き変わった膀胱粘膜から発生したものと結論した. 細胞学的には腫瘍細胞, 腸上皮細胞, 回腸導管尿中の変性した腸上皮細胞と相互にきわめて類似しておりこの三者の区別は困難であった. しかし核径増大, 核膜の肥厚, エオジン好性の核小体, さらに細胞相互封入像などに注意を払えば腺癌細胞とほかの良性細胞の鑑別は可能と思われた. 回腸膀胱形成術後に腸上皮化生を基礎として膀胱腺癌が発生することがあるので尿細胞診を用いた長期間の経過観察が必要と思われた.
  • 舟橋 信司, 朝隈 蓉子, 千野 秀教, 野村 利之, 伊丹 真紀子, 手島 伸一, 福島 範子, 河村 毅
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1052-1057
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    前立腺原発の小細胞癌を経験したので報告する. 患者は78歳男性で, 排尿困難で当院受診. 前立腺の針生検で燕麦細胞型の小細胞癌と高分化腺癌の併存が認められた. 膀胱洗浄液中の腫瘍細胞は小型でN/C比が高く, 小細胞癌か低分化腺癌か決め難い細胞が小集塊, 孤立散在性または木目込細工様に配列していた. 高分化腺癌の細胞は認めなかった. 経過中に喀痰から小細胞癌が認められた. 5ヵ月で死亡したが, 剖検材料での捺印標本の腫瘍細胞は中間細胞型の小細胞癌の像を呈していた. 組織学的には前立腺原発部および浸潤転移部とも小細胞癌のみの像で腺癌は認めなかった. 特殊染色では好銀顆粒 (グリメリウス染色) 陽性, 免疫染色ではNeuron-specificenorase (NSE), クロモグラニンAが陽性であった. 電顕的には細胞質内に一層の限界膜で囲まれた神経内分泌穎粒を認めた.
  • Masashi Imachin, Yasuo Kato, Kuniaki Funakoshi
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1058-1061
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    バルトリン腺扁平上皮癌の穿刺吸引細胞診における細胞所見について報告した.腫瘍細胞の核は円形ないし楕円形で, クロマチンは微細穎粒状に増量し, 核小体はやや目立った.細胞質は比較的豊富であった. このような細胞所見および腫瘤の解剖学的位置から, バルトリン腺原発の扁平上皮癌と診断した.バルトリン腺の解剖学的位置を考慮すると, 穿刺吸引細胞診はバルトリン腺由来の腫瘍の診断方法として有用と考える.
  • 森 俊彦, 舟木 憲一, 高橋 誠, 大谷 明夫, 木村 伯子, 木村 薫, 目黒 麗子
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1062-1067
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    子宮体癌より肺へ転移し, 癌性リンパ管症の経過をとり, 喀痰細胞診も陽性であった1例を経験したので報告する.
    症例は48歳, 4妊2産の主婦で, はじめ咳漱, 呼吸困難症状出現し, 胸部X線, CT所見にて癌性リンパ管症の診断をうけた.また不正性器出血もあり, 子宮体内膜細胞診陽性にて子宮体癌を疑われ, 手術を行った. 肉眼的所見では子宮内腔の後壁上方と底部にポリープ状の腫瘍を認めたが, その他の体内膜表面は比較的平滑であった.底部のポリープ状腫瘍の組織診では, 漿液性腺癌で筋層内に深く浸潤し, 脈管内侵入所見も認められた. 子宮体内膜の細胞診で, 核増大, クロマチンの増量, 著明な核小体を有する腺癌細胞を認め, くり返し行った喀痰細胞診上にも, 同様の腺癌細胞が出現し, 子宮体癌由来の癌性リンパ症と推定した.
  • 富松 功光, 五谷 美保子, 中村 巌, 松原 藤継, 中西 功夫
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1068-1073
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    卵巣漿液性表在性乳頭状腺癌 (seroussurfacepapillarycarcinoma, SSPC) の2例を経験したので報告した.症例1は66歳, 主訴は下痢と下腹痛で各種画像診断にて, 大量の腹水を認めたが, 原発巣は不明であった.症例2は63歳, 主訴は下腹痛で, 大量の腹水と転移性S状結腸腫瘍を認めたが, やはり原発巣は不明であった.症例1の血中CA125は, 15000U/m1以上, 症例2の腹水中CA125は, 7480U/mlと異常高値であった.子宮体部および腹水細胞診にて, 核の大小不同が著しく明瞭な核小体を有した腫瘍細胞が, 乳頭状をはじめとしたさまざまな形で集塊を形成していた.また, 砂粒体様の像も認められた. 2例とも, 開腹時所見は癌性腹膜炎の状態であったが, 肉眼的には両側卵巣ともに正常大で, 術後の病理診断および特殊組織染色にて, 卵巣表面から発生した乳頭状腺癌であることが判明した. ともに, 手術および化学療法にて現在寛解状態にある.細胞診, そして, 血中の腫瘍マーカーをはじめとした血清学的な血液検査や詳細な画像診断を行うことは, 術前にSSPCの診断ひいては正しい手術方法や化学療法を可能とし, 予後を向上させるのにきわめて重要であると考えられた.
  • 安松 弘光, 田中 信利, 若林 信浩, 江川 博彌, 林 雄三
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1074-1077
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    左鼠径部に発生した子宮内膜症の穿刺吸引細胞診を経験したので報告する. 症例は35歳の女性.主訴は左鼠径部の腫瘤であるが, 月経時に痺痛を伴うため近医を受診したのち, 当院外科を受診し, 左鼠径部の穿刺吸引細胞診が行われた.
    その細胞診では, シート状の配列を示す異型性のない上皮性の細胞集塊とともに, 不規則な配列を示し, 重積性で異型性のない非上皮性の細胞集塊もみられた.さらに, このような細胞集塊のほかに, シート状で胞体の比較的広い再生上皮様の細胞集塊も出現していた. このような上皮性細胞と間質細胞の2種類の細胞が存在することと, 月経時に痙痛を伴うという臨床症状より子宮内膜症と診断された.
    その後, この腫瘤の摘出術が施行され, 1.5×2.2×1.5cmの腫瘤が摘出された.この線維性腫瘤のなかには散在性に大小の腺管とその周囲に間質の密な増生がみられ, 病理組織学的にも子宮内膜症と診断された.
    子宮内膜症の穿刺吸引細胞診による診断は上記の所見を得ることによって容易であった.
  • 野田 起一郎
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1078
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
  • 坂本 穆彦
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1079-1085
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    甲状腺穿刺吸引細胞診の有用性に対する認識はほほ定着したものといえる.それは, 病変に対する高い正診率と, 採取手技の簡便さとによるところが大である.甲状腺癌の組織学的診断基準は多くの組織型では細胞異型の程度と良・悪性の違いが関連づけられている. 細胞レベルでの所見が, 組織診断には不可欠なものとされている. しかしながら, 濾胞癌と濾胞腺腫の鑑別は困難であり, その主因は組織学的診断基準そのものにある.すなわち濾胞癌の診断では細胞レベルの異型性は必要条件とはされず, むしろそれに重きをおくことによって, 誤判定を生む可能性がかくされている.この点を十分に理解して診断に臨むべきである. しかしながら, 濾胞癌の占める割合は全原発性甲状腺癌の10%ほどであるので, 甲状腺癌全体としては約90%の症例では細胞診によって単に陽性というのみならず, 癌の組織型までも推定可能であり, 実質的には確定診断として用いられている.
  • 矢谷 隆一, 白石 泰三, 石原 明徳
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1086-1095
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    組織学的診断の確定した乳癌104例と良性疾患127例について穿刺吸引細胞診の診断成績を報告し, その意義と問題点について述べた.癌の正診率は86.5%, 誤陰性率は2.9%であった.陰性および疑陽性と判定された症例を検討すると, 細胞学的に結合性が強く小型で異型性の乏しい癌 (乳頭構造や篩状構造を示す分化型の癌) を悪性と判定しえなかったことと, 細胞採取量が少なく (硬癌) 確診にいたらなかったことが正診しえなかったおもな原因であった.一方良性疾患の正診率は85%であり, 誤陽性率は1.6%であった.陽性や疑陽性と判定された疾患は, 乳管内乳頭腫, 乳頭部腺腫, 上皮成分の増生した線維腺腫など上皮の旺盛な増生を示す病変であり, 細胞採取量が多く, 散在傾向を示し, これに核型やクロマチン異常をともなった例が多かった.
    さらに診断成績を向上させるためには, 1) 十分な情報量を得るための細胞採取の工夫と, 2) 個々の細胞所見に加え, 細胞集塊の配列, 形や構造についての観察や出現パターンに注目した新たな判定規準の設定が必要であるとともに, 3) 今後客観的に良悪を判定できる方法の開発が望まれる.最近注目されている癌遺伝子産物c-erbB-2蛋白, およびp53蛋白についてわれわれの知見を報告した.
  • 松嵜 理
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1096-1102
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    前立腺の穿刺吸引細胞診 (FNA) には60年の歴史があり, 採取方法や検体処理方法もほぼ完成され, その成績も約90%と良い結果が得られている.そのうえ最近では) その組織分化度の推定も可能となってきている. しかしながら, 前立腺の穿刺吸引という操作上) 術者の習熟度が検体の善し悪しにそのまま反映することから, これらの欠点を補正するために, 次の2点の改良がなされた. 第1に病巣の正確な確認と採取の困難な部位からの採取のために, 超音波ガイド下経会陰的穿刺の活用を行うこと. 第2には採取量の少ない検体からなるべく多くの細胞を集める操作としての生食浮遊法があげられる.
    次に前立腺細胞診検体の評価に対する最近の進歩がある.FNA検体による組織分化度の推定はすでになされてきているが, それ以外に治療効果の判定と治療に対する治療感受性の予測がある. 特に治療感受性については) 病理組織で確認されている前立腺癌特殊型 (large duct型, comedo型, combined型) の判定が大切で, そのFNA検体上の指標として, papillary cell cluster, necrosisの存在, 移行上皮癌または未分化癌成分の混在が重要な所見であった.
  • 牛込 新一郎, 原田 徹, 杉下 雅美, 三浦 幸子, 塩森 由季子, 春間 節子, 清水 春美, 加藤 弘枝
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1103-1111
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/12/05
    ジャーナル フリー
    深部病変でもガイド下に行われるようになった骨・軟部腫瘍の吸引生検細胞診と一部捺印細胞診について) 代表的な腫瘍における細胞学的特徴について要点を述べた. 出現する腫瘍細胞やマトリックスの特徴から, 1) 類骨マトリックス形成性腫瘍, 2) 軟骨マトリックス形成性腫瘍, 3) 多核巨細胞の出現の目立つ腫瘍, 4) 小円形細胞を主体とする腫瘍, 5) 紡錘形細胞を主体とする腫瘍, 6) 多形性を特徴とする腫瘍) 7) 脱分化型肉腫などを便宜的に分類して細胞学的鑑別診断を試みた.加えて, 補助診断としての免疫組織化学の応用上の問題点についても触れた.
    これらの細胞学的特徴の解析と鑑別が基本ではあるが, 組織型の正しい推定に際しては, 臨床情報 (年齢, 部位, 検査成績など) と画像を十分評価してなされるべきことを強調した.
  • 栗田 宗次, 越川 卓, 中村 栄男, 蒲 貞行, 布施 清子, 中里 景子, 加藤 悦子, 所 嘉朗, 須知 泰山
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1112-1117
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    1980年から1991年までに, 740症例に808件の表在性リンパ節穿刺細胞診が施行された.740例中228例の細胞診が, 引続いて行われた外科的生検による組織診と対比された.転移性腫瘍の110例は細胞診により99例 (90%) が転移性腫瘍, 1例 (1%) が悪性リンパ腫と診断された.悪性リンパ腫の72例は細胞診により53例 (74%) が悪性リンパ腫, 1例 (1%) は転移性腫瘍と診断された.良性病変46例では2例 (4%) が誤陽性で悪性リンパ腫と考えられた.悪性リンパ腫をB細胞リンパ腫, T細胞リンパ腫およびポジキン病の3群に分類した.細胞診が悪性の陽性率は, B細胞リンパ腫では87%(46例中40例), T細胞リンパ腫では50%(20例中10例), ポジキン病では67%(6例中4例) であった.また, T細胞リンパ腫を改訂Kie1分類を用いて悪性度より亜分類した.その陽性率は, 高悪性度では86%(7例中6例), 低悪性度では31%(13例中4例) であった.
  • 覚道 健一, 池田 正典
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1118-1119
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
  • 子宮頸癌の発癌過程とHPVとの関連を明らかにするために
    手島 英雄, 己斐 澄子, 片瀬 功芳, 梅澤 聡, 加藤 友康, 都竹 正文, 山内 一弘, 荷見 勝彦
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1120-1125
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    HPV感染と癌化との関係を臨床的に解明する目的で, われわれはDysplasia (CIN; cervical intraepithelial neoplasia) の症例を外来でfollow upしている.ヒトパピローマウイルス (HPV) の検出には分子生物学的手法の一つであるSouthern blot hybridization法を用いている.病変部を長期観察するために, 組織生検は初回以降行わず, そのため剥離細胞を採取し, DNA抽出を行っている.
    CIN I, IIでは, HPVのタイプに多様性が認められ, CINIIIになるとHPV16型が優勢となる.子宮頸癌では, 扁平上皮癌でHPV16型が優勢であり, 腺癌ではHPV18型が優勢であった.Southern blot hybridization法を中心に述べる.
  • 紀川 純三, 板持 広明, 金森 康展, 皆川 幸久, 寺川 直樹, 雪正 昭
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1126-1131
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    細胞診材料を用いた種々のHPV検出法の有用性, およびその臨床応用の可能性と問題点を明らかにするために本研究を行った.鳥取大学産科婦人科外来を受診した149症例の子宮頸部細胞診材料を対象として, 免疫組織化学法, in situ hybridization法, Dot blot法, Southern blot法, またはpolymerase chain reaction (PCR) 法によりHPVの検出を試みた.次に, 鳥取県の子宮癌集団検診受診者の細胞診標本を再検鏡し, 細胞診断によるHPV感染の頻度を検討した.HPV検出はすべての検出法において可能であり, 各種検出方法の特徴が示された.HPV陽性異形成症例の検討では多くにHPVの持続感染を認めた.しかしながら, HPV感染陽性正常細胞診症例を追跡した結果では4例のうちの3例は1年以内に陰性化した.一方, PCR法やDot blot法などの高感度HPV検出法を集団検診の場に持ち込んだと仮定すると, 現在の約100倍のHPV陽性者が検出されることになり, その対応の困難性が示された.
    以上の成績から, HPV検出にあたっては各種検出法の特徴を理解したうえで目的に応じた検出法を選択すべきであること, 同時に, 現時点では正常細胞診症例のHPV検出の臨床的意義は小さいことが示唆された.
  • 橋本 知子, 外園 泰弘, 小川 敦子, 栄鶴 義人, 覚道 健一, 古山 順一, 武元 良整
    1993 年 32 巻 6 号 p. 1132-1137
    発行日: 1993年
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    サイトメガロウイルス (HCMV) の成人での顕性感染 (CMV感染症) はまれであるが, 臓器移植, 特に骨髄移植の際の免疫抑制状態では, CMVによる間質性肺炎が高い死亡率をもたらす.Ganciclovir (GANC) 投与で予後が改善されてきたが, 予防的長期投与は骨髄抑制の点より好ましくない.したがってGANC投与にはCMV感染症の迅速診断が不可欠となるため, CMVDNAをPCRで検出しCMV感染症を確定診断する試みを行った.検体として, 末梢血・骨髄液・尿沈渣・唾液・気管洗浄液細胞のDNAを用い, PCRにはCMVのV領域のプライマーを使用し, 検体採取から約4時間での診断を可能とした.このPCRの結果はウイルス培養等の結果ともよく一致した.CMV感染症の有無を骨髄移植後のスクリーニングとして行い, 陽性例にただちにGANCを投与し, 骨髄移植後のCMV感染症による死亡を0とすることができた.
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