日本臨床細胞学会雑誌
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35 巻, 5 号
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  • 布引 治, 鳥居 貴代, 甲斐 美咲, 覚道 健一
    1996 年 35 巻 5 号 p. 367-372
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    単純型子宮内膜増殖症の組織標本により, その拡張腺管の形態変化を数値化による測定で確認し得るか否かについて検討を行った.
    著者らは組織標本における正円形に近い増殖期腺管断面にみられる腺腔核数を算定, さらに同細胞診症例にみられた土管状腺管の最大拡張部分より直角に引かれた線上の核数を最大拡張腺管直径線上核数 (NNMD (Nuclear Number on Maximum Diameter of gland)) と名付け, 核数算定した結果, 両数値の平均値±標準偏差値の範囲は重複する数値を示した. これより両数値は内膜腺管の拡張性の指標を示すほぼ伺一の数値と推定し, 各組織型における腺腔核数の定量を行った.
    結果として, 増殖期内膜はNNMD16~21個, 分泌期内膜はNNMD29~35個, 単純型子宮内膜増殖症はNNMD40~46個の数値が算定された. ルーチン検査において, これらの数値が得られた場合, おのおのの組織状態が推定されると考えられた.
    以上のような腺管構築に着目したスクリーニングを行えば, 単純型子宮内膜増殖症を推定する病変はある程度は検出可能と思われた. また陰性例診断における過大評価も減少させ得ることも示唆された.
  • 江村 巌, 渡辺 徹, 薄田 浩幸, 内藤 真
    1996 年 35 巻 5 号 p. 373-379
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    子宮内膜細胞診における増殖症と類内膜腺癌, Grade 1 (G1腺癌) の質的判定基準を設定するため, Surface syncytial change (SSC) 28例, 子宮内膜増殖症 (内膜増殖症) 11例, 子宮内膜異型増殖症 (内膜異型増殖症) 13例およびG1腺癌29例を検討し, 以下の結果を得た.
    1) 病理組織学的に内膜増殖症の9.1%, 内膜異型増殖症の38.5%, G1腺癌の72.4%で癌や増殖症の組織中にSSC類似病変を認めた.
    2) 細胞診標本中の細胞塊は子宮腺型タイプ1, 2, 3とSSC型タイプ1, 2, 3とに分類された.
    3) 子宮腺型とSSC型の細胞はそれぞれ異なった見方で診断する必要がある.
    4) 子宮腺型タイプ1あるいはSSC型タイプ1を認めた症例はG1腺癌を疑う必要がある.
    5) 構成細胞に異型性がある子宮腺型タイプ2, 3, SSC型タイプ2, 3を認めたら内膜増殖症や内膜異型増殖症を疑う必要がある.
    以上, 診断に当たっては内膜上皮の性質を良く理解することが重要と考えられた.
  • 清水 道生, 森谷 卓也, 広川 満良
    1996 年 35 巻 5 号 p. 380-384
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    当院にて1986年1月から1993年10月までに施行された甲状腺穿刺吸引細胞診でClass IIIと診断された症例のうち, 標本の保存がよく, かつ病理組織との対比が可能であった53症例を対象に, 各疾患における診断困難例を解析し, その対応策を明らかにする目的で検討を行った. 正診できなかった要因の一つとして検体採取細胞量の少ないものや乾燥変性があげられるが, 前者では術者の技量以外に著明な石灰化や硝子化などの存在も大きく影響すると考えられた. 一般に, 採取細胞量が多い場合は良性疾患であっても, 細胞量が多いことが過大評価され, 採取細胞量が少ない場合は悪性の細胞所見が過小評価される傾向がみられ, 前者ではいわゆる過形成性の腺腫様甲状腺腫でその傾向がみられた, 核内細胞質封入体は良性疾患での報告もあり, 厳密な判定基準で診断に望む必要があると思われた. 組織学的診断基準に起因するものとしては小濾胞状集塊が多数みられるような場合があり, この場合は濾胞状病変として, 良悪性のコメントはひかえるべきと思われた. 以上の要因を考慮しつつ, 典型的な所見のみを有意として, 少なくとも複数の有意な所見を見出すように努め, 最終的にはそれらを総合的に判断する必要があると思われた.
  • 特に硬癌との鑑別について
    土屋 眞一, 実原 正明, 石井 恵子, 町田 智恵, 渡辺 達男, 松山 郁生, 林 美鈴, 原 佳津志, 傳 麗, 北村 隆司
    1996 年 35 巻 5 号 p. 385-392
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    小葉癌は乳房内多中心性発生という臨床病理学的特徴を有しており, 組織診はもとより細胞診での “小葉癌” 診断は乳房温存療法の適応と絡んで非常に重要である. 小葉癌, 特に浸潤性小葉癌 (ILC) の細胞学的特徴を知るためILC12例と, 鑑別の対象として狭義の硬癌 (SCP), 広義の硬癌 (SCB) を用いて組織, 細胞および電顕的に検討を行った. その結果, 第1点の鑑別点は線状配列するILC個々の細胞質は丸みを帯び, いわゆる数珠状の形態 (rosary-likeappearance) を示すが, SCPのそれは直線状となること. 第2点は核形, 核の配列でILCは円~楕円形を保っているが, SCPは周囲問質の圧排によって個々の核が押され, 縦並状となること. これはSCBのクサビ状, 塊状配列部も同様である. 第3点は明, 暗調細胞の存在でILCのほぼすべてが明調の細胞質で構成されているのに対し, SCPやSCBは明, 暗調両方の細胞質を持つ癌細胞が混在していること. 第4点は核クロマチン分布でILCは正染色質が, SCP, SCBでは異染色質がその主体を占めていることである. その他ILCには比較的大きな円形核小体が1個認められることや不明瞭な細胞境界を有している点も鑑別所見の一つとして考えられた.
  • 特に高分化型肝細胞癌の細胞像を中心に
    小林 省二, 川口 光彦, 山田 啓輔, 三木 洋, 大森 正樹
    1996 年 35 巻 5 号 p. 393-400
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    肝内小結節性病変の針生検時に得られた細胞診と組織診を対比して, 肝生検における細胞診の有用性を証明した. 対象とした69結節のうち良性病変は14結節で, 結節性脂肪変性, 肝硬変の再生結節, 腺腫様過形成などがみられ, それぞれの組織に対応した細胞像が認められた. 悪性腫瘍は55結節で, 高分化型肝細胞癌は43結節で細胞診では30結節 (約70%) に正診が得られた. 中分化肝細胞癌, 転移癌では全例に正診が得られた. また壊死や生検組織が微小であるために組織診断の不可能な場合に細胞診のみで悪性という診断をうることのできたのが5例あった.
    腫瘍細胞に類似した異型細胞としてlarge cell dysplasiaがあるが, 大型の異型細胞で核の濃染性と核小体の腫大を特徴とするが, 核不整や核縁の肥厚は弱く, N/C比も高くないという点で異なる. 高分化型肝細胞癌の細胞像は (1) 細胞集塊では細胞核密度の増加,(2) 細胞は小型で, 均一な印象,(3) N/C比は増加するがanisokaryosisは弱い,(4) 核の偏在傾向がみられ, 多くは淡明な細胞質を持つ, などの特徴を示す. しかし腺腫様過形成などの境界病変との区別の難しい場合もある. 肝臓の細胞診の正診率の向上には十分な細胞数を得るとともに, 境界病変の細胞像の記載の充実がのぞまれる.
  • 小室 邦子, 佐藤 郁郎, 武田 鐵太郎, 小野寺 博義, 大沼 真喜子, 植木 美幸, 阿部 美和, 中村 克宏, 立野 紘雄
    1996 年 35 巻 5 号 p. 401-408
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    早期胆嚢癌の発見率向上を目的として, 摘出胆嚢の粘膜域全面の擦過細胞診が施行された717症例を対象として, 擦過細胞診の胆嚢疾患の診断に果たす問題点の洗い出しと有用性ならびに診断能の限界について検討を加えた.
    1) 肉眼的にほとんど異常を認めない胆嚢からも擦過細胞診により癌細胞が検出され, 早期胆嚢癌の術中診断が可能であった. 擦過細胞診は病変の存在が不明瞭な表面平坦型早期胆嚢癌を含む胆嚢癌の発見のための有力な方法と考えられた.
    2) 胆汁細胞診や捺印細胞診よりも擦過細胞診の方が確実に細胞が採取され, スクリーニングに有効な検査法と思われた. 胆嚢の短冊状全割組織標本を作製する前段階として行うべき簡便スクリーニング法として位置づけたい.
    3) 粘膜表面に癌が存在しない転移性胆嚢癌では粘膜擦過によっても癌細胞は検出されず, そのような症例では割面擦過を行う必要がある.
    4) 隆起型早期胆嚢癌では, 癌細胞の陽性率は低かったが細胞所見を熟知することにより診断は可能と考えられた.
  • 中皮腫と鑑別が問題になった腺癌の比較検討
    西山 みどり, 山崎 志寿子, 高橋 剛, 吉田 康雄, 岸田 由起子, 薬丸 一洋, 高山 昇二郎
    1996 年 35 巻 5 号 p. 409-418
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    一般に, 体腔液細胞診では, 悪性中皮腫と低分化腺癌との鑑別が問題となることがままある. 今回われわれは, 悪性中皮腫4例 (胸膜2例, 心膜1例, 腹膜1例) と, 中皮腫との鑑別が必要であった肺腺癌3例をretrospectiveに比較検討した.
    細胞所見では, 細胞集団の形状について両者で差がみられた. 核不整は腺癌で高率にみられた. 核小体は, 中皮腫では小型であるのに対し, 腺癌では小~大型とさまざまであった. 細胞質は, 中皮腫では厚いものが主であるのに対し, 腺癌では厚い~薄いものまでまちまちであった.中皮腫ではmicrovilli様のものがみられた.
    PAS染色は, 両者ともに陽性を示し, ジアスターゼにより中皮腫ではすべて消化されたが, 腺癌では未消化もあった. アルシアン青およびコロイド鉄染色は両者ともに陽性であり, ピアルロニダーゼにより中皮腫では消化されたが, 腺癌では消化されなかった.
    免疫染色では, CEAは腺癌で高率に陽性であり, 中皮腫ではほとんど陰性であったが (弱) 陽性の細胞を多少認めた例もあった. Keratin・EMAは両者ともほとんど陽性で特に差はなかった.
    中皮腫に対して腺癌のほうが細胞所見で多様性がみられた. また粘液染色および免疫染色の結果が鑑別に有用であった.
  • 凍結保存の試みと酵素抗体法への応用
    金岡 明博, 三宅 秀一, 川辺 民昭, 黒木 登美子, 金 榮治, 小畑 義, 中山 啓三, 鷹巣 晃昌
    1996 年 35 巻 5 号 p. 419-423
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    胸水・腹水の液状検体10例と各種摘出材料10例について次の3種類の標本を作製した. 1) 塗抹後, ただちに95%エタノールで固定した標本, 2) Chanらの方法に従い, 塗抹後冷風で30分間乾燥させ, 生理食塩水で30秒間再水和後, 95%エタノールで固定した標本, 3) 塗抹後風乾した標本を約1ヵ月間-80℃で凍結保存した後に, 室温に戻し2) と同様に再水和後固定した標本. これらの標本についてパパニコロウ染色を施行し, その細胞像を比較した. さらに体腔液5例の1) と3) の標本について4種類の抗体を用いて酵素抗体法を行った. パパニコロウ染色標本で1) と2) の標本を比較すると, 2) の標本に軽度ながら, 細胞が膨化する, 核網の染色性が低下し核内が明調に染色される, 細胞の立体的集団が平坦となるなどの傾向がみられたが両標本に大きな差異はなく, 鏡検に十分耐える染色性が得られた. 3) の標本の細胞像も2) とほぼ同様の所見であった. また, 1) と3) の酵素抗体法の染色結果に差異はみられなかった.
    これらの結果より, 未固定の乾燥塗抹標本を凍結保存した後に再水和する方法は, 後日のパパニコロウ染色や酵素抗体法などの染色のために細胞標本を保存する手段として有用と思われた.
  • 新井 ゆう子, 西田 正人, 西出 健, 河野 圭子, 角田 肇, 久保 武士
    1996 年 35 巻 5 号 p. 424-427
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    きわめてまれな子宮頸部漿液性腺癌の1例を経験したので報告する. 症例は64歳の5経妊5経産婦. 閉経後出血を主訴とし, 臨床進行期はIlb期であった. 子宮頸部細胞診では, 壊死物質の多い汚い背景に, 悪性細胞が一部に重積性のあるclusterを形成し, 出現していた. 核は大小不同著しく, 1~2個の大型の核小体を有しており, 核所見は低分化型子宮体癌と類似していたが, 細胞質は豊富であった.
  • 三宅 康之, 広川 満良, 高須賀 博久, 伊藤 慈秀, 藤原 道久
    1996 年 35 巻 5 号 p. 428-431
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    卵巣悪性ブレンナー腫瘍の塗抹細胞像を報告する. 細胞像は多彩で,(1) コーヒー豆様核を有する細胞,(2) 線毛円柱上皮細胞,(3) 粘液産生性の腺上皮細胞,(4) 異型移行上皮細胞,(5) 扁平上皮癌様細胞などがみられた. 良性細胞から悪性細胞まで多彩な細胞像が混在し, 細胞診断の困難さを伺わせる1症例であったが, むしろ, その多彩性が本腫瘍の特徴と思われた.
  • 佐藤 賢一郎, 水内 英充, 若林 淳一, 田中 恵, 伊東 英樹
    1996 年 35 巻 5 号 p. 432-438
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    子宮内膜細胞診が診断のきっかけとなった69歳閉経後結核性子宮留膿症のまれな1症例を経験した.子宮頸部細胞診では異常を認めなかったが, 子宮内洗浄前の子宮内膜細胞診にてwaterybackground, protein dropletとリンパ球の高度浸潤を伴う炎症性背景の中にLanghans型と思われる多核巨細胞と類上皮細胞のclusterが認められた.子宮内洗浄後の子宮内膜細胞診所見は背景が多少クリーンになっている他洗浄前と同様であった.子宮内膜の病理組織診では結核をはじめとした慢性肉芽腫性炎症病変が認められた.抗酸菌染色陽性, 結核菌DNA検査陽性, ツベルクリン反応陽性と合わせ閉経後結核性子宮留膿症と診断した.子宮留膿症は比較的まれな疾患であるが, その取り扱いに際し結核性ということもあり得ることを念頭に置くことは重要であり, また内膜細胞診が診断のきっかけとなる可能性もあることが示唆された.
  • 飯塚 真理, 宇井 万津男, 伊吹 令人, 城下 尚, 倉林 良幸, 堀越 美枝子
    1996 年 35 巻 5 号 p. 439-445
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    今回われわれは, 子宮内膜増殖症のホルモン療法後妊娠し, 分娩後に子宮内膜癌に進行した1症例を経験したので報告する.
    症例は23歳, 0妊0産.月経不順.1991年5月, 不正性器出血を主訴に来院した.子宮内膜の肥厚がみられたため内膜細胞診と組織診を施行し, 異型増殖症と診断された.未産婦であり, 挙児希望があったため, ダナゾール療法を開始した.3ヵ月後, 内膜組織診で桑実形成性腺腫性増殖症と診断され, 大量黄体ホルモン療法を施行した.その間, 内膜細胞診と組織診を再検したが悪性所見はみられず, 4ヵ月後, ホルモン療法を中止し, 排卵誘発を行った.3ヵ月後に妊娠が成立し, 1993年2月正常分娩となった.1年後, 内膜細胞診と組織診で異型増殖症と診断され, ホルモン療法を再開した.4ヵ月後, 内膜組織診で高分化型腺癌, 間質浸潤陽性と診断されたため, 1994年8月, 準広汎子宮全摘術+両側付属器摘出術+骨盤リンパ節郭清術を施行した.現在まで, 異常なく経過している.
  • 佐々木 政臣, 八幡 朋子, 濱田 智美, 若狭 研一, 伊倉 義弘, 後藤 清, 櫻井 幹己, 田中 繁宏
    1996 年 35 巻 5 号 p. 446-450
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    喀痰細胞診で悪性細胞を疑った口腔天庖瘡を経験したので報告する.症例は73歳, 女性, 難治性口腔びらんにて入院, 入院時の喀痰細胞診に扁平上皮の多核巨細胞, 核小体の著明な棘融解細胞を認め天庖瘡またはウイルス感染を疑うも, 再検しているうちに,“渦巻状”, ボール状細胞集塊, 相互封入像を呈する細胞などが多数みられるようになり, 扁平上皮癌を疑い生検を施行したが肉芽組織を伴うびらんであった.喀痰細胞診標本, 生検材料を用いて抗ヒトIgGの直接蛍光抗体法を行い, 喀痰細胞診標本の異型扁平上皮細胞にIgGの特異蛍光を認め天庖瘡と診断.患者は副腎皮質ホルモンの全身投与により軽快し退院した.
  • 大朏 祐治, 真辺 俊一, 岩田 純, 園部 宏, 岡田 雄平, 首藤 省一郎, 大森 克介
    1996 年 35 巻 5 号 p. 451-455
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    乳頭癌を合併した甲状舌管嚢腫の1例について穿刺吸引および捺印細胞診所見と病理組織学的, 免疫組織学的検索結果について報告する.症例は64歳女1生で, 10年位前から存在していた前頸部腫瘤が次第に増大してきたために受診した.穿刺吸引細胞診により, 類円形核を有した異型細胞が孤立散在性ないし集塊状にみられ, 核内封入体の他にコロイドも認められたことから乳頭癌を合併した甲状舌管嚢腫が疑われた.摘出腫瘤は, 4×3×2cm大で周囲と癒着強く, 多結節状で割面は多房性であり, 1ヵ所で嚢胞内腔に向かう乳頭状増殖がみられ, 石灰化を伴っていた.捺印細胞診では, 核内封入体・核溝が明瞭な大型細胞がみられ砂粒体も認めた.組織学的にこの部は乳頭癌の像を示し, 多房性嚢胞とともに甲状腺組織も一部に併存したことから, 乳頭癌を合併した甲状舌管嚢腫と診断した.免疫組織学的には通常の乳頭癌とは若干の染色性の相違が観察された.
    穿刺吸引細胞診により乳頭癌は確実に診断し得るので, 甲状舌管嚢腫症例では癌の合併を念頭に置いて臨むことが重要であろう.
  • 薄田 浩幸, 江村 巌, 渡辺 徹, 内藤 眞
    1996 年 35 巻 5 号 p. 456-459
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    喉頭原発のneuroendocrine carcinomaはまれな腫瘍であるが, 腹壁転移をきたした1例を経験したので, その穿刺吸引細胞像について報告する.
    症例は69歳の男性.喉頭癌の診断にて, 喉頭全摘とリンパ節郭清術が施行され, 病理組織学的にはneuroendocrine carcinomaと診断された.術後約10ヵ月, 左側腹部皮下腫瘤がみられ, 穿刺吸引細胞診が施行された.腫瘍細胞は孤立散在性に出現し, 上皮由来を思わせる腫瘍細胞の結合は認められなかった.細胞および核は円形ないし類円形で, 核細胞質比 (N/C比) は大きく, 軽度大小不同を認めた.核膜は軽度肥厚し不整は目立たず, 核クロマチンは増加し, 細ないし粗大穎粒状で不均質で, 小さな核小体を認めた.悪性リンパ腫ないし白血病細胞の可能性も考えられたが, 切除された喉頭癌の細胞に類似していたため, 免疫染色を施行したところEMA, クロモグラニンが陽性でその転移巣と考えられた.腫瘍摘出術が施行され, 組織学的に喉頭癌の転移が確認された.
    最近では皮下腫瘍などの診断が穿刺吸引細胞診でなされる場合が少なくない.その際, 正確な診断のためには本腫瘍のように癌腫でも上皮性結合をほとんど示さない場合があることに留意するとともに, 十分な臨床情報が重要であると思われた.
  • 上野 真由美, 藤山 淳三, 井出 禎, 河又 國士, 佐藤 之俊, 河端 美則
    1996 年 35 巻 5 号 p. 460-465
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    経気管支穿刺吸引細胞診 (以下TBAC) にて肺小細胞癌と診断したが, 術後の組織診ならびに細胞診の再検討において右肺原発Primitive neuroectodermal tumor (以下PNET) と確定診断されたまれな1例を経験した.患者は25歳女性.右胸痛, 右背部痛を主訴とし入院した.精査にて右肺下葉に直径4cm大の腫瘤を認めTBACを施行した.TBACにおいて, 疎な結合性を示す異型細胞を多数認めた.これらは小型円形細胞で裸核状のものが多く, 木目込み細工様配列が認められたため, 肺小細胞癌と診断し治療を行った.しかし, 後に細胞診検体と病理組織検体に対し免疫組織化学的検索などの精査を追加し, 腫瘍細胞はPAS陽性, MIC2陽性, Neuronspecificenolase (NSE) 陽性であることから最終的にPNETと診断された.本症例とその他の小円形細胞性悪性腫瘍における細胞診上の鑑別点について検討し, 肺腫瘍の細胞診において特に若年者で小型円形細胞が認められた場合はPNETの可能性を考慮する必要があり, 鑑別のためにPAS染色ならびにMIC2やNSEなどの免疫染色が有用であると思われた.
  • 宮嶋 葉子, 伊藤 仁, 梅村 しのぶ, 堤 寛, 長村 義之
    1996 年 35 巻 5 号 p. 466-471
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    乳腺adenomyoepitheliomaの1例を経験したので報告する.症例は74歳, 女性.乳腺腫瘤を自覚し来院.臨床所見にて悪性腫瘍が疑われ, 穿刺吸引細胞診および腫瘍摘出生検が行われた.
    穿刺吸引細胞診では, 腫瘍細胞は集塊状に採取され, 多くの場合, 間質を伴う上皮細胞集塊として出現していた.これらの間質は腫瘍細胞の小集塊を境界するように認められた.腫瘍細胞には, 異型に乏しい類円形から楕円形の核を有する小型の細胞とそれよりはやや大型でN/C比の低い多辺形細胞が混在していた.組織学的, 免疫組織学的および電子顕微鏡的検討により, 前者は腺管上皮細胞であり, 後者は筋上皮細胞と考えられた.
    乳腺adenomyoepitheliomaの穿刺吸引細胞診所見として, 腺管上皮細胞, 筋上皮細胞の存在が重要であった.特に後者は, 線維腺腫などでみられる裸核状筋上皮細胞とは異なり, 大型, 多辺形, 核内封入体などの特徴が認められた.本腫瘍は腺腫, 乳頭腫あるいは乳腺症などの良性病変との鑑別が必要な, また, 癌とoverdiagnosisしないよう留意するべき腫瘍であると考えられた.
  • 実原 正明, 土屋 眞一, 北村 隆司, 松山 郁生, 千賀 脩, 原 佳津志, 北原 新一, 林 美鈴
    1996 年 35 巻 5 号 p. 472-478
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    乳腺のAdenomyoepithelioma (AME) は, 乳管上皮と筋上皮細胞の同時増生を示すきわめてまれな腫瘍である.今回われわれはAMEの1例を経験し, その細胞像を中心に報告した.症例は67歳女性, 左乳房に4cmの腫瘤を認め, 触診, 画像診断にて悪性腫瘍が疑われ, 穿刺吸引細胞診では, 一部の腺細胞に異型を認めたことから悪性も否定できず, class IIIbと報告した.腫瘍摘出術を施行し組織学的にAMEと診断された.本腫瘍にみられる筋上皮細胞は境界不明瞭なライトグリーン淡染性の豊富な胞体を有し, N/C比が低く, 中心性に核を認める多辺形細胞で, その出現様式も小腺房状集団を取り囲むように, あるいは単一細胞集団として出現する傾向にあった.このように本腫瘍の筋上皮細胞は, 他の良性乳腺疾患とその形態および出現様式が著しく異なっており, AMEの特有な所見と考えられた.さらに, 免疫細胞学的検索も本腫瘍を確定するためには重要な手法と思われる.
  • 桜井 孝規, 広川 満良, 鐵原 拓雄, 有光 佳苗, 畠 榮
    1996 年 35 巻 5 号 p. 479-482
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    3例の色素嫌性腎癌の捺印塗抹細胞像について報告する。その特徴は,(1) 腫瘍細胞は小集塊状, シート状に出現し, 裸核細胞が少ない,(2) 2核細胞が目立つ,(3) 細胞境界がきわめて明瞭である,(4) 核周囲明庭がある,(5) 脂肪染色が陰性である, などである。これらは他型の腎細胞癌とは明らかに異なり, 色素嫌性腎癌に特徴的な細胞像と考えられる。
  • その形態的特徴と鑑別診断を中心に
    植嶋 しのぶ, 植嶋 輝久, 山村 章次, 河村 秀樹, 工藤 浩史, 吉田 春彦, 広川 満良
    1996 年 35 巻 5 号 p. 483-487
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    64歳, 男性の腹水中に前立腺癌細胞を認めたので, その細胞像と鑑別診断を中心に, 免疫染色, および電子顕微鏡所見を加えて報告する.
    腹水中の前立腺癌細胞は小型円形で結合性の弱い小集塊状, あるいは散在性に出現し, 胞体には大小の空胞を有するものもみられた. 平均核径は8.3μm, 核形の不整が強くみられ, 1~3μmの大型核小体が目立った. 免疫染色は通常の湿固定の後に染色したものと, パパニコロウ染色標本をMountQuick細胞転写法で分割し染色したものとの両方で検索した.その結果, ProstateSpecificAntigen (PSA). CEA. EMA. Keratinがそれぞれ陽性を示し, vinentinは陰性であった. 腹水沈渣中の異型細胞の電顕所見では微絨毛の発達は悪く, 細胞質にはライソソームやintracytoplasmiclumen様の空胞がみられた. 本例では, 腹水中に腺癌の特徴を有する異型細胞が多数みられたものの, 細胞像のみから原発巣を推定することは困難で, 抗PSA抗体を用いた免疫染色が原発巣推定に有用であった.
  • 鶴田 誠司, 新井 淳次, 堀越 美枝子, 石原 力, 小島 勝, 城下 尚, 小林 功
    1996 年 35 巻 5 号 p. 488-493
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    耳下腺に発生した低悪性度mucosa-associated lymphoid tissue (MALT) リンパ腫の2例の捺印細胞所見について報告した. 1例では中型の細胞が主として出現していた. 中型の細胞には2種類がみられた. ひとつは淡明な細胞質と, くびれた核を有していた (centrocyte-like cells). もうひとつはMay-Giemsa (M-G) 染色にて塩基性を示す広めの細胞質をもち, 核は類円形で偏在傾向がみられ形質細胞への分化がうかがわれるものであった. 大型の芽球や形質細胞, 類上皮細胞も散見された. 他の1例では, 腫瘍細胞は主として中型で広めの細胞質を有し, 類円形の核には偏在傾向がみられた. M-G染色にて塩基性を示し, 核周明庭も認められた. また形質細胞へ分化を示す芽球や, 中等数の類上皮細胞も混在していた. 細胞標本ではlymphoepitheliallesionは認められなかった.
    低悪性度MALTリンパ腫を細胞標本のみから診断することはときとして困難であるが, 発生部位や, 特徴的な細胞所見を考慮すれば診断可能であると考えられる.
  • Langerhans cell, interdigitating cellの形態を中心に
    大崎 博之, 中村 宗夫, 舩本 康申
    1996 年 35 巻 5 号 p. 494-499
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    15歳の男性に発生した薬剤誘発性のDermatopathic lymphadenopathy (DL) の1例を報告する.リンパ節捺印細胞診ではリンパ球とともに, Langerhans cell (LC), interdigitating cell (IDC) が多数出現していた.これらLC, IDCは特にPapanicolaou染色上でライトグリーンに淡染する樹枝状突起様の細胞質, 微細かつ淡染性のchromatinでしわをもつ核など特徴的な細胞形態を呈していた.また一部のLCの細胞質内にはメラニン穎粒の存在を認めDLを推定した.リンパ節の細胞診でLC, IDCが多数出現する病変にはDL, Histiocytosis Xや皮膚T細胞リンパ腫の初期像, 皮膚症状を伴うATL (adult T-cell leukemia) の初期像などがあるが, 病変の数はさほど多くなくLC, IDCの特徴的な細胞形態を認識したうえで, 臨床診断, 臨床経過を十分把握していれば細胞診のみでもかなりの診断の絞り込みができ, また鑑別診断もある程度可能であると考える.
  • 大野 招伸, 浅田 祐士郎, 佐藤 信也, 日野浦 雄之, 作 良彦, 田島 直也, 住吉 昭信
    1996 年 35 巻 5 号 p. 500-503
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    13歳女性. 左アキレス腱部に痺痛, 腫脹を認め, 2年後に摘出術を施行された. 病変はアキレス腱に存在し, 一部周囲結合組織と癒着していた. 術中細胞診標本では, 比較的均一で紡錘形ないし多角形の腫瘍細胞が多数みられ, 核は類円形でクロマチンは細穎粒状, 通常1個の明瞭な核小体を認めた. 細胞質は淡明で比較的豊富であった. メラニン穎粒は認められなかったが, 腫瘍細胞の多くはS-100蛋白, HMB45 (抗メラノーマ特異抗体) が陽性で, 電顕的にメラノゾームが観察された. 明細胞肉腫は, 明瞭な核小体を有することや免疫組織化学が診断に有用なことから, 臨床所見を加味すれば術中捺印細胞診で診断が可能と考えられる.
  • 木村 雅友, 田中 浩平, 藤木 千香, 前倉 俊治, 橋本 重夫
    1996 年 35 巻 5 号 p. 504-505
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
  • 単一細胞PCRへの工夫
    谷口 恵美子, 張 志強, 中村 美砂, 横井 豊治, 覚道 健一
    1996 年 35 巻 5 号 p. 506-507
    発行日: 1996/09/22
    公開日: 2011/11/08
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