Wanらの提唱する甲状腺未分化癌の乏細胞変異型に相当すると考えられるまれな症例を経験したので報告する. 症例は58歳女1生で, 甲状腺右葉に硬い腫瘤あり, 初回切除標本でRiedel甲状腺炎と診断されたが, 再発後の切除標本から甲状腺未分化癌と診断された. 初発より1年5ヵ月で死亡した.Wanの報告した組織像とは,(1) 病巣部の強い線維化と硝子化, 一部の石灰変性,(2) 低異型性腫瘍細胞が主体,(3) 紡錘形異型細胞の存在,(4) 血管内侵襲,(5) 甲状腺周辺組織への腫瘍の浸潤は合致したが,(1) 胞巣内部の嚢胞-空隙の形成,(2) 初回標本で扁平上皮化生の存在,(3) 梗塞巣が微小である点は相違した. 免疫組織化学的には腫瘍細胞はcytokeratin, p53陽性で, MIB-1陽性率は初回標本7%, 再手術標本26.3%であった. 穿刺吸引細胞標本では, 異型細胞は (1) 比較的少数 (2) 異型の軽度な細胞が主体,(3) 細胞接着性の低下傾向,(4) 紡錘形核, 不整形核, 核小体の腫大, 大型核, クロマチンの密在や不均等分布を示す異型のやや強い少数の細胞, 背景所見では線維芽細胞集塊, 膠原線維束, 多数の好中球, 形質細胞などが認められた. 通常の未分化癌に比べ弱い異型細胞が主体で, 上記細胞所見と背景所見が合致した場合, 本症を疑う必要がある.
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