目的:乳房温存術における切除標本断端擦過細胞診にて出現する良性乳管内増殖性病変と非浸潤性乳管癌の細胞像について比較検討した.
方法:擦過細胞診標本はDiff-Quik染色およびPapanicolaou染色にて判定し, 細胞像を (1) 異型のない乳管内増殖性病変,(2) 異型を伴う乳管内増殖性病変,(3) 非浸潤性乳管癌・非コメド型,(4) 非浸潤性乳管癌・コメド型の4病変に分類した.
結果:主要な細胞所見について (1)-(4) の順に述べると,(1) 背景には線維芽細胞, アポクリン化生細胞などをみる. 乳管上皮細胞は結合性が強くシート状または管状の集塊を示し, 核は類円から楕円形である.集塊表面には筋上皮細胞の濃縮短紡錘形核の付着を多数みる.(2) 背景は (1) に加え, ときに泡沫細胞をみる. 乳管上皮細胞は2, 3層の重積性を示し, 筋上皮細胞の付着を少数みる. 集塊内の細胞は流れるような配列で, 核は楕円から紡錘形を示す. 集塊中に不整な管腔形成をときに認め, その周囲細胞は楕円形核を示す.(3) 背景は泡沫細胞, ときに石灰化小体などをみる. 乳管上皮細胞は3層以上の重積性を示すが, 結合性がやや弱い. 細胞は類円形均一, 核は密で均等な核間距離を伴う. クロマチンは濃染, 核小体は認めない. 集塊中に円形の管腔形成をときに認め, 周囲細胞は類円形核を示す.(4) 背景は (3) に加え壊死を伴う. 乳管上皮細胞は3層以上の重積性集塊とそこから剥離散在する細胞をみる. 核は大小不同が強く, 核形不整を認める.クロマチン濃染で著明な核小体と核分裂像をみる.
結論:細胞の観察は迅速性を要するためDiff-Quik染色が有用である.(1) と (4) の鑑別は比較的容易である.(2) と (3) においての鑑別点は背景に出現する細胞の種類, 乳管上皮細胞集塊の採取量, 構成する細胞と核形, 中で形成される管腔の形および周囲細胞核, 付着する筋上皮細胞などに注目することである.
抄録全体を表示