目的:消化管間質腫瘍 (Gastrointestinal stromal tumor, GIST) を捺印細胞所見に加え, 臨床病理学的, 免疫組織化学的および分子生物学的に検討した.
方法:GISTと診断された手術摘出材料から捺印細胞の得られた9例を対象に, 腫瘍部捺印細胞像を検討し, 併せて腫瘍の大きさ, 分裂像数, 転移・浸潤の有無c-kit (CD117), CD34, asmooth muscle actin, desmin, S-100蛋白による免疫染色, また, c-kit遺伝子exon 9~11の解析を行った.
結果:(1) 臨床病理学的検討: 臨床的に明らかな悪性型が4例, 予後不明な3例と偶然発見された2例の良悪不明型が5例であった.(2) GISTの捺印細胞所見:(1) 多少の好中球およびリンパ球を背景に, 腫瘍細胞は紡錘形~多辺形を呈し, 裸核様孤立散在性あるいは集塊状に出現していた.(2) 悪性型では, 主に壊死を伴った腫瘍性背景に腫瘍細胞は孤立散在性に出現し, 腫瘍細胞集塊の結合性は疎であった.核には, くびれなどの不整形や大小不同性を示すものが多かった.また, 核小体は小型円形で1, 2個の好酸性を示すものが多かった.(3) 良悪不明型では, 腫瘍性背景に孤立散在性の腫瘍細胞とともに比較的結合性の強い集塊および結合性の疎な集塊が出現しており, 一部では, 比較的きれいな背景に腫瘍細胞は集塊状に出現する傾向が強く, 集塊辺縁のほつれや核不整の少ないものもあった.(3) 免疫組織化学的検討: パラフィンブロック薄切標本の染色結果によりCajal型, Cajal型と神経分化や筋分化が混じる混合型の4グループに分類できた. 悪性型4例中3例がCajal型であり, 良悪不明型はすべて混合型であった.(4) Gkit遺伝子解析: 全例にc-kit遺伝子のexon 9~11になんらかの変異を認めた. exon 11の部分欠失は悪性型3例, 良悪不明型1例に存在した. exon 9のアラニン, チロシンの挿入は悪性, 良悪不明型のそれぞれ1例に認められた. 点突然変異は悪性型2例以外すべてに存在した.
結論:GISTにおける捺印細胞像の特徴により, 悪性度推定が可能であると考える. 今後, 症例を積み重ね, 臨床病理学的, 免疫組織化学的所見に加えて, c-kitの遺伝子解析を行うことにより, GISTの生物学的特性をさらに明らかにする必要があると思われる.
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