目的 : われわれは, 胆汁細胞診の習得, 表面型腫瘍性病変の発見を目指し, 摘出胆嚢から粘膜擦過および胆汁細胞診を試みている. そのなかで, 胆汁中に剥離した細胞は, 組織像・粘膜擦過標本に比べ, 小型で, N/C 比も増加する印象を受けた. そこで, 実際, どの程度変化するのかを検証した.
方法 : 粘膜擦過・胆汁標本上に十分量の細胞が得られた 5 例 (胃全摘術に伴う摘出胆嚢 1 例, 胆嚢結石症 1 例, 高分化型腺癌 3 例) を対象とした. 点計測 (point counting 法) で, 個々の細胞の核の大きさ, 細胞質の広さを推測し, N/C 比も算出した. すなわち, 組織像と細胞像 (擦過・胆汁) を計測領域として無作為に画像化し, 多数の格子点を重ね, 計測可能な細胞で点計測を行った. そして, 「組織 : 擦過」「組織 : 胆汁」「擦過 : 胆汁」のすべての対で, 核の大きさ・細胞質の広さ・N/C 比の平均値の差につき Tukey-Kramer test を用いて有意差検定を行った.
成績 : 胆汁中の剥離細胞では, 核・細胞質ともに小型化するが, N/C 比は増大する. 核は, 組織・擦過標本に比しすべての症例で有意に小さく, 組織標本に比べての比率の平均は 0.71 程度であった. また, 細胞質もすべての症例で有意に狭まり, 組織との比率の平均は 0.53 で, 実にほぼ半分の広さとなった. 逆に, N/C 比は全例で組織を大きく上回り, 組織との比率の平均は 1.37. そして, 症例 2 を除く 4 例では最大値を示し, 組織・擦過標本との間に有意差が確認できた.
結論 : 胆汁中に剥離した細胞は, 腫瘍性・非腫瘍性にかかわらず, 組織・擦過標本に比べ, 核の大きさ・細胞質の広さともに減少する一方, N/C 比は増大する. 日常の胆汁細胞診では, 以上の結果を念頭に置き, 判定に臨むことが重要と思われた.
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