日本臨床細胞学会雑誌
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51 巻, 5 号
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原著
  • 平 紀代美, 東 学, 奥山 大, 中島 真奈美, 鈴木 宏明, 山城 勝重
    2012 年 51 巻 5 号 p. 315-322
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 : 病理組織診断との比較による尿細胞診の成績評価方法を模索し, さらに Liquid-based cytology (LBC) の意義を検証し, LBC 標本と従来法標本の細胞像の違いを明らかにした.
    方法 : 術前に尿細胞診を行った 114 例の初発膀胱癌を解析した. まず, 2004 年 WHO 分類に基づく病理組織診断により細胞診の評価を行った. 次に, CytoRich Red による LBC 法と従来法標本を併用した場合と, 従来法標本のみとの感度と特異性を比較した. さらに 2 方法の細胞像を検討した.
    成績 : 細胞診断は組織の表層病変の増殖形態により感度に差が出ることが明らかとなった. 2 方法を併用した感度は 84.3%, 従来法だけでは 61.1%で, LBC 標本を加えることにより感度は改善され, 特に低悪性度尿路上皮癌で差は大きかった. LBC 標本では細胞数が多く, 大型集塊が多く塗抹されることにより, 診断精度が向上した. また LBC 標本の併用で特異性の低下は認めなかった. 細胞所見は, 従来法標本の細胞像との差は尿検体で最も少なかった.
    結論 : 細胞収集能に優れた LBC 標本の採用により, 尿細胞診の精度が引き上げられることが証明された.
  • 西村 理恵子, 山本 珠美, 香川 昭博, 森田 佐智子, 寺本 典弘, 高畑 浩之
    2012 年 51 巻 5 号 p. 323-328
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 : 乳癌受容体結果が原発巣と転移巣で異なる例が比較的多いことが報告されている. 一方, 細胞診は生検が難しい転移巣にも施行可能である. セルブロックは, 液状細胞診と比較すると装置購入の必要がなく追加標本作製も容易である. そこで, 乳癌ホルモン受容体 (HR) 検査におけるセルブロックの有用性を液状細胞診と比較して考察した.
    方法 : 乳癌切除検体から穿刺吸引した細胞検体でセルブロックと液状細胞診を作製した. それらに HR の免疫染色を行い組織標本の結果と比較した.
    成績 : エストロゲン受容体 (ER) は 35 例中 34 例で細胞診と組織の結果が一致し (一致率 97%), プロゲステロン受容体 (PR) は 35 例中 31 例で細胞診と組織の結果が一致した (一致率 89%). ER あるいは PR のいずれかが陽性の例を HR 陽性とすると, 35 例中 34 例でセルブロックと組織の結果が一致し (一致率 97%), セルブロックと液状細胞診の結果は全例一致した.
    結論 : 乳癌 HR 検査において, セルブロックと組織あるいは液状細胞診の結果は高い一致率を示した. セルブロックは染色の追加が容易で設備投資や消耗品の費用が安くてすむ点で, 液状細胞診よりも実務に適している.
  • 西原 和代, 松井 美智代, 下山 玲子, 佐々木 志保, 藤中 浩樹, 島津 宏樹, 伏見 博彰
    2012 年 51 巻 5 号 p. 329-332
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 : 安価で容易であり日常業務の流れの中に無理なく組み込める, 質の高いセルブロック標本作製法としてポリエチレン製使い捨てピペットと袋オブラートを利用する方法を考案し検討した.
    方法 : ポリエチレン製使い捨てピペットと袋オブラートを利用して作製したセルブロック標本 (ピペット・オブラート法) 194 例を, 従来のセルブロック作製法 (アルギン酸を用いる方法) 23 例と比較し検討した.
    成績 : 本法は切断したピペット帽子部を容器として利用し細胞を集め, それをオブラートに包んで処理する方法であり, 以下の観点から従来法より優れていた. 1) 作業工程が少なく, より簡便であった, 2) 細胞ゲル化の操作がなく, ゲル化用の試薬作製が不要となった, 3) 従来法では問題となったゲル化内での細胞の分散がなく, 目的とする細胞が数多く標本中に集められ, 微量検体でも作製が可能であった, 4) 標本中にオブラートが残らず, HE 染色や免疫染色, 粘液染色の結果は良好であり, 従来法でみられた共染はなかった.
    結論 : 本法は専用の試薬や特別な器具の準備を必要とせず, 作製時間や手間が少なく安価であり安全かつ容易に日常的にセルブロック作製が可能であると考えられた.
  • 田中 可奈子, 佐藤 香織, 西島 良美, 吉田 朋美, 小山 徹也, 福田 利夫
    2012 年 51 巻 5 号 p. 333-340
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 : 神経鞘腫は良性軟部腫瘍の中でも発生頻度が高く, 二次変性に伴って多彩な組織像を示すため, その細胞像を正確に理解しておく必要がある. 本研究では神経鞘腫の捺印, 圧挫, thin-layer (T) 標本を用いその細胞像を, Antoni A 型 (A) と Antoni B 型 (B) に分類し, 肉眼像・組織像とともに比較・検討を行った.
    方法 : 軟部に発生し, 組織学的に確認された神経鞘腫 9 例の切除例を対象とし, 組織標本および新鮮割面から捺印, 圧挫, T 標本を作製し, HE 染色, Pap 染色を行った.
    成績 : 組織学的に 9 例中 2 例が A であり, 圧挫・T 標本で組織像と同様の核の柵状配列と Verocay body がみられた. B は 7 例で, その内の 5 例の細胞標本では腫瘍細胞の同定は困難で, 組織像でみられた二次性変化のうち水腫性・粘液性変化, 出血, ヘモジデリン沈着, 泡沫細胞の出現のみみられた.
    結論 : 細胞標本で A の特徴的な細胞配列がみられる場合は診断が容易だが, 二次性変化を示唆する所見のみの場合も B 由来の細胞である可能性を考慮して診断する必要があり, 捺印または圧挫標本と検体の一部や針洗浄による T 標本の作製を組み合わせることで診断に有用な所見が多く得られると考える.
  • 高頭 秀吉, 江村 巌, 薄田 浩幸, 岩本 久司, 池津 満, 加藤 法男, 田村 正史, 山田 隆志, 山田 佑輔
    2012 年 51 巻 5 号 p. 341-347
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    目的 : 肺腺癌の EGFR 遺伝子変異解析における気管支鏡下採取細胞診 (BFC : Bronchofiberscopic cytology) 検体の有用性を評価するため, 同一症例の BFC 検体と癌組織ホルマリン固定パラフィン切片 (FFPES : formalin-fixed paraffin-embedded section) の変異結果の相関性について検討した.
    方法 : 119 例の腫瘍 FFPES と同一症例の BFC 検体を対象に検索した. BFC 検体は, 97 例が術前の新鮮 BFC 検体であり, 22 例は細胞診断用の保存パパニコロウ染色 BFC 標本を検討した. exon19 の欠失変異は Mutant-enriched PCR 法, 点突然変異 (G719S, G719C, L858R, L861Q) は nested Cycleave 法により解析した (検出感度 0.2%).
    成績 : FFPES の EGFR 遺伝子変異結果に対し, BFC 検体の感度と特異度は, それぞれ 96.6% (57/59), 100% (60/60) であった. BFC 検体では偽陽性症例はなかったが, 偽陰性が 2 例存在し, いずれも細胞診断用 BFC 標本における癌細胞数は 0.2%未満であった.
    結語 : 同一症例の BFC 検体と FFPES 間の全一致率は 98.3%であり, BFC 検体は EGFR 遺伝子変異の検索対象として有用である.
症例
  • 高橋 明日香, 高橋 保, 松本 学, 宮嵜 恵利子, 吉良 佳那, 戸井 慎, 弘井 誠, 森木 利昭
    2012 年 51 巻 5 号 p. 348-353
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 腫瘍の 90%以上が淡明細胞腺癌であったきわめてまれな肺腺癌を経験し, その細胞学的特徴および腫瘍細胞の明細胞化の機序について検討したので報告する.
    症例 : 70 歳代, 女性. 胸部 X 線写真と CT で左上葉に腫瘤を指摘され, 血清中の CEA が高値を示すことから肺癌が疑われた. 気管支擦過細胞診で, 細胞境界明瞭な類円形∼円柱状の淡明な細胞質からなる腫瘍細胞が小乳頭状や蜂巣状, 腺腔様配列を示す集団で認められた. 細胞質内には多数の微細空胞がみられるものの, 粘液産生やグリコーゲンの異常蓄積所見は認められなかった. 細胞転写法による TTF-1 免疫染色で陽性を示したことから肺原発の淡明細胞腺癌を推定診断した. 切除組織の免疫染色では腫瘍細胞は TTF-1, SP-A, CEA, CK7 に陽性であり, II型肺胞上皮細胞由来で, CEA 産生性の淡明細胞腺癌と診断された. 電顕的には淡明な腫瘍細胞には種々の大きさの層板小体をいれた多数の空胞や vesicular structure が認められた.
    結論 : 本腫瘍細胞の明細胞化には層板小体の異常な産生・分泌が深くかかわっていると思われ, 肺原発の淡明細胞腺癌の重要な所見と考えられる.
  • 鈴木 奈緒子, 星 利良, 古田 則行, 杉山 裕子, 佐藤 之俊, 元井 紀子, 石川 雄一, 宝来 威
    2012 年 51 巻 5 号 p. 354-359
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 気管支に発生する顆粒細胞腫はまれであり, その細胞像についての報告は少ない. 気管支に発生した顆粒細胞腫で, 細胞学的に核異型度の異なった 2 例を経験したので報告する.
    症例 : 症例 1 は 45 歳, 女性. 症例 2 は 37 歳, 男性. 2 例とも胸部 CT にて右上葉に異常陰影が認められ, 肺腫瘍が強く疑われた. 経気管支穿刺吸引細胞診では診断が得られなかったが, 同時に採取された生検組織診で顆粒細胞腫と診断され, 肺葉切除術が施行された. 摘出材料の捺印細胞診にて 2 例ともに豊富な顆粒状細胞質を有する腫瘍細胞を集塊状ないし散在性に認め, 顆粒細胞腫と診断した. 症例 2 は大型核や紡錘形核を有する細胞が混在しており, 良悪の判定に苦慮した. 組織診にて 2 例ともに豊富な好酸性顆粒状細胞質を有する腫瘍細胞の充実性増殖を認めた. 腫瘍細胞はいずれも免疫組織化学的染色で S-100 蛋白陽性を示し, 顆粒細胞腫と診断された.
    結論 : 顆粒細胞腫の細胞所見は境界不明瞭な顆粒状細胞質が最も特徴的な所見であるが, 症例により核に大小不同性や形状の多彩な像を示すことがある.
  • 石原 光浩, 本田 由美, 徳永 英博, 田上 さやか, 下田 環, 猪山 賢一
    2012 年 51 巻 5 号 p. 360-363
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 壊死を伴う唾液腺多形腺腫の報告例はまれで, 悪性腫瘍と誤診断されやすい腫瘍の一つである. 今回, 壊死を伴う耳下腺多形腺腫の 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 71 歳, 女性. 約 2.5 cm 大の左耳下腺腫瘍に対して穿刺吸引細胞診が施行された. 穿刺吸引細胞診では壊死や好中球主体の炎症細胞を背景に, 紡錘形細胞が結合性の乏しい集塊を形成しており, 核分裂像が散見された. 通常の多形腺腫にみられるシート状の筋上皮細胞の集塊や粘液様間質は認めず, 筋上皮腫あるいは非上皮性悪性腫瘍を考えた. 摘出された腫瘍の組織像では, 被膜下の腫瘍辺縁部を縁取るように少量の多形腺腫の腫瘍成分がみられるのみで, 腫瘍の大部分は壊死や肉芽組織であった.
    結論 : 多形腺腫でも壊死を伴うことがあり, 本症例のように穿刺吸引細胞診で腺腫部分の腫瘍成分がほとんど採取されていない場合, 悪性腫瘍との鑑別が問題となる. 画像所見, 臨床情報などを加味して総合的に判断する必要がある.
  • 村田 行則, 荒川 文子, 田島 秀昭, 石井 幸雄, 石田 剛
    2012 年 51 巻 5 号 p. 364-368
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 精巣上体乳頭状嚢胞腺腫は精巣上体に発生するまれな良性腫瘍で, 細胞学的な報告はほとんどない. 今回われわれは本腫瘍の 1 例を経験したので, その細胞像と組織像について報告する.
    症例 : 68 歳, 男性. 約 1 年前より陰嚢腫大を自覚. 左精巣部に石灰化を伴う多胞性腫瘍を認め, 精巣原発の奇形腫を疑い左高位精巣摘除術施行. 切除検体の腫瘍擦過細胞診では, 赤血球と泡沫細胞を背景に平面的ないし軽度重積性を示す結合性の強い上皮細胞集塊を認めた. ライトグリーンに淡染する淡明な細胞質と円形∼卵円形の小型の核を有する N/C 比の低い腫瘍細胞で, クロマチンは微細顆粒状, 小∼大型の核小体を有していた. 一部の細胞には, 核溝や核内細胞質封入体が認められた. また, 細胞質は PAS 反応陽性で, グリコーゲンを豊富に有していた. 組織学的には, 精巣上体乳頭状嚢胞腺腫と診断された.
    結論 : 本例にみられた細胞学的所見に, 腫瘍の発生部位, 臨床情報を加味することで, 精巣上体乳頭状嚢胞腺腫は細胞学的に推定診断が可能であると考えられる.
  • 野木 才美, 山崎 龍王, 藤田 裕, 小林 織恵, 大田 昌治, 小林 弥生子, 梅澤 聡
    2012 年 51 巻 5 号 p. 369-373
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 今回われわれは, コルポスコピーおよび狙い組織診で異常所見を認めず, 子宮頸部擦過細胞診にて子宮頸部小細胞癌と診断しえた 1 例を経験したので報告する.
    症例 : 34 歳, 0 経妊 0 経産, 不正性器出血にて当院を受診した. 内診, 経腟超音波, コルポスコピー検査にても異常所見を認めず, 唯一, 子宮頸部細胞診で小細胞癌 ; (非常に小型で N/C 比の大きい, 核が濃染した異型細胞を認め小細胞癌を疑う所見) であったため, 狙い組織診を施行するも頸管腺の一部に扁平上皮化生を認めるのみで悪性所見を得なかった. 画像検査 (MRI) においても子宮頸部に明らかな腫瘤像を認めなかったために診断的円錐切除を施行したところ, 正常な扁平上皮組織下の間質部に, 浸潤性の小細胞癌を認めたため, 広汎子宮全摘+両側付属器切除+骨盤および傍大動脈リンパ節郭清術を施行したところ, 摘出子宮に癌の残存を認めないものの, 骨盤リンパ節に 1 個 (1/42) 転移を認めたため, 術後補助化学療法を施行した. 以後 1 年 6 ヵ月経過するも再発傾向を認めていない.
    結論 : 小細胞癌は予後不良であり, 今回のように摘出子宮に癌が残存していなくともリンパ節転移を認めることがあり, 安易な妊孕性温存意義は危険であると思われ, その診断に細胞診が有用であったために報告する.
  • 佐々木 陽子, 中本 周, 岡田 早苗, 入江 愛子, 堀江 靖
    2012 年 51 巻 5 号 p. 374-379
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/12/10
    ジャーナル フリー
    背景 : 高分化乳頭状中皮腫 (well-differentiated papillary mesothelioma, 以下 WDPM) は主に中年女性の腹膜に発生する腫瘍で, 良性∼低悪性度のまれな疾患である. 今回われわれは卵巣表層上皮に発生した WDPM の 1 例を経験したので, その細胞像を中心に報告する.
    症例 : 50 歳代, 女性. 不正出血を主訴に受診. 右卵巣に多房性腫瘤を認め, 開腹手術となった. 腹腔洗浄細胞診で紙風船様細胞集塊を多数認め弧在性細胞はほとんどみられなかった. 右卵巣腫瘍は顆粒膜細胞腫であった. 同時に摘出された左卵巣には組織学的に表面と嚢胞内に異型の乏しい一層の立方状細胞が乳頭状に増殖していた. その多くは血管軸を伴わず風船様であった. 免疫染色で, 増殖細胞は Calretinin (+), HBME-1 (+), AE1/3AE (+), CAM5.2 (+), D2-40 (+), Ber-Ep4 (−) であった. 以上より, 左卵巣腫瘍は WDPM であり腹水中に認めた紙風船様細胞集塊はそれ由来と診断した.
    結論 : 異型の乏しい紙風船様の集塊が多数出現し弧在性細胞がほとんどみられない体腔液細胞像が WDPM の特徴と考えた.
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