日本肺癌学会中皮腫細胞診評価ワーキンググループは, 上皮型中皮腫, 反応性中皮細胞の胸水剥離細胞診標本を用いて, 背景, 出現様式と集塊形態, 細胞相互の関係, 核, 細胞質等を検討し, 中皮腫の細胞診断の細胞形態のクライテリアを確立し, それを形態計測にて検証し, 統計学的に有意なものを明らかにした. さらに免疫細胞化学, p16FISH の検討を加え, 中皮腫診断基準を作成した. 細胞形態では, 背景の粘液様物質, Ⅱ型 collagenous stroma, hump 様細胞質突起を有する鋳型細胞, 細胞質の重厚感, 細胞質辺縁の不明瞭化, オレンジ G 好性細胞, 多核細胞の出現率の増加が有意な所見であった. 免疫細胞化学では, 癌腫との鑑別には中皮マーカーの calretinin, D2-40, WT1, 癌腫マーカーの CEA, MOC31, Ber-EP4, TTF-1, napsin A からそれぞれ 2 抗体の実施が必須であり, 反応性中皮細胞との鑑別には EMA, desmin, Glut-1, CD146 が有用であった. また, 反応性中皮細胞との鑑別には, FISH 法による p16 のホモ接合性欠失および免疫組織・細胞化学的な BAP1 の欠失の有無の検討の組み合わせが有用であった.
目的 : セルブロック検体を用いた乳癌受容体検査は, 生検困難な検体で有用であり, 今後広く日常的に行われると考えられる. 組織検体についてはガイドラインによる推奨固定時間があるが, セルブロックに関する検討は行われていない. そこで, セルブロック検体の最適ホルマリン固定時間を検討した.
方法 : 乳癌切除検体を対象とした. 腫瘍部を穿刺吸引して細胞を採取し, 10%緩衝ホルマリンで 2~120 時間固定を行った. 固定後の細胞をセルブロック化し組織検体と同様の方法で ER (10 件), PgR (10 件), HER2 蛋白 (21 件) の免疫染色, HER2 DISH 法 (15 件) を行った. ホルモン受容体は癌細胞 100 個中の陽性細胞数を用いて判定し, HER2 蛋白と HER2 DISH は ASCO/CAP のガイドラインに従い組織と同じ基準で判定した.
成績 : ER, PgR および HER2 DISH は, 2~120 時間の固定で染色性に影響は認められなかった. HER2 蛋白は, 6 時間未満で 3 件, 48 時間を超える 1 件で染色性の低下を認めた.
結論 : セルブロックを用いた乳癌受容体検査におけるホルマリン固定時間は 6 時間以上 48 時間以内が望ましい.
目的 : TBS 導入直後とその後で ASC-H 判定状況の経時的変化を調べ, ASC-H 判定数が増加し, ASC-H の概念がいかに普及したかを明らかにした.
方法 : 子宮頸がん集団検診へのベセスダ方式導入後の前期 2009~11 年と後期 2012~14 年で, ASC-H 判定の頻度を比較した. ASC-H 症例のその後の組織診での CIN の検出率を比較した.
成績 : 検診受診者に対する ASC-H の頻度は, 前期 0.02%, 後期 0.08%と増加し, 細胞診異常に占める割合も 2.9%から 8.5%に増加した. ASC-H 判定例の≧CIN2 の検出率は, 前期 77.3%, 後期 60.1%で低下傾向がみられ, ≧CIN3 は前期 60.0%, 後期 35.0%と有意に低下した.
結論 : ベセスダ導入当初 3 年間は, ASC-H 判定数は少なかったが, その後の 3 年で ASC-H の概念が普及し判定数は増加した. 一方, 偽陽性例が増加し, ≧CIN3 への陽性反応的中率は低下した. ASC-H の乱用を避け, 適正な運用が望まれる.
背景 : 今回われわれは, 術中迅速細胞診断で診断しえた回盲部子宮内膜症を経験したので報告する.
症例 : 32 歳, 女性, 未経妊未経産. 心窩部痛を主訴とし近医を受診, 腸閉塞が疑われ当院紹介となった.
子宮内膜症で右側卵巣切除歴があり, 月経に伴い腸閉塞症状が悪化していたために, 腸管子宮内膜症による癒着性腸閉塞が疑われ回盲部切除術が施行された.
術中, 回盲部に粘膜下腫瘍を認めたため, 迅速細胞診断として穿刺吸引細胞診を施行した. 穿刺吸引細胞診中では, 孤立散在性の間質と凝集状の間質を背景に内膜腺類似細胞の集塊を認めた. 一部では化生性の変化がみられたが, 構造異型や細胞異型は認められなかった. 組織所見では, 粘膜下, 筋層内, 漿膜下組織内に内膜腺上皮と間質からなる島状組織が認められ, 回盲部子宮内膜症と考えられた. 免疫組織化学所見は, 内膜腺部分で ER (+), PgR (+), CK7 (+), CK20 (−), 内膜間質部分では CD10 (+) であり, 回盲部子宮内膜症と診断された.
結論 : 回盲部子宮内膜症の 1 例を経験した. 子宮内膜症はさまざまな臓器で発生するため, 病歴などを考慮し, 詳細なスクリーニングを行うことが重要である.
背景 : 大動脈周囲に発生した傍神経節腫の超音波内視鏡下穿刺吸引法 (EUS-FNA) で得られた細胞像を検鏡する機会を得たので報告する.
症例 : 70 歳代, 女性. 下腹部痛を訴え, CT 検査で左大動脈周囲に約 30mm の腫瘤陰影を指摘された. 悪性リンパ腫を疑い EUS-FNA を施行した. 細胞診では充実性の上皮様集塊や血管周囲に多数の細胞を認めた. それらの細胞の細胞質はライトグリーン好性で細胞境界は不明瞭, 核は類円形や長楕円形で大小不同を認め, 核縁は薄く, 核クロマチンは微細顆粒状, 核小体を 1 個認めた. モノトーナスな細胞の増生がみられ, 腫瘍細胞と考えたが, 組織型は推定困難であった. 組織診では充実胞巣状の細胞集塊を認め, 間質は乏しく, スリット状の血管からなっていた. 発生部位, 組織像, 免疫染色の結果から傍神経節腫と診断し, その後, 腹腔鏡下摘出術を施行した.
結論 : EUS-FNA は低侵襲の検査法として普及し, 深部臓器の多様な検体採取が可能となった. 今後も本腫瘍をはじめ, さまざまな細胞像を理解して診断することが重要であると考える.
背景 : 筋上皮癌 (myoepithelial carcinoma, 以下 MC) は一般にまれな腫瘍であるが, 軟部組織原発のものはさらにまれで診断が難しい. 今回, 左肩に発生した MC を経験したので報告する.
症例 : 10 歳代後半, 男性. 約 10 年前より無痛性の左肩腫瘤を自覚, 半年前より急速に増大したため, 当院紹介受診. 針生検により悪性と診断されたが, 組織型の確定にいたらず, 切開生検後に広範切除術が施行された. 切開生検時の圧挫細胞診では, 小型類円形を呈する腫瘍細胞が主に孤立性に出現し, 血管性間質の周囲を取り巻くような集塊, ロゼット様配列や核分裂像も認め, ユーイング肉腫を疑った. 組織診では充実性, 胞巣状や一部に網目状構造を呈し, 粘液様や硝子様基質も認めた. 腫瘍細胞は上皮様細胞, 淡明細胞や紡錘形細胞が混在し, 多彩な形態を示していた. 形態像, 免疫組織化学, 遺伝子検索より MC と診断された.
結論 : 筋上皮腫瘍は一般に多様な形態を呈し, 採取された箇所により形態が異なるため, 組織型推定に苦慮する場合がある. 細胞診で円形細胞を主体とした悪性細胞がみられた際には臨床所見も加味し, MC も鑑別に挙げることが望まれる.
背景 : 外陰 Paget 病は外陰悪性腫瘍の 1~2%とまれな腫瘍である. 今回, 擦過細胞診にて外陰 Paget 病を推定しえた 2 例を経験したため報告する.
症例 : 症例 1 ; 82 歳, 女性. 2 年前より外陰部掻痒感, 発赤があり, 症状が増悪したため当院へ紹介され受診した. 外陰部の擦過細胞診では, きれいな背景に孤立性に N/C 比が高くクロマチン微細な小型細胞が散見された. 核小体が複数みられ, 軽度核形不整を伴う細胞も認められた. 集塊はみられなかったが, 相互封入像が認められた.
症例 2 ; 79 歳, 女性. 近医で子宮筋腫を認めたため, 当院へ紹介され受診した. 当科受診時, 外陰部に広範な発赤を伴う皮膚肥厚を認めた. 外陰部の擦過細胞診では, きれいな背景に N/C 比の高い小型細胞が孤立散在性に認められ, クロマチンは微細で核小体が目立っていた. 平面的な小集塊も 1 ヵ所あり, 細胞は N/C 比が高く, 核小体が目立ち, クロマチンは微細だった.
結論 : 外陰部病変の擦過細胞診で異型のある腺系細胞が認められたら, Paget 病も鑑別に入れた精査が必要である. また, 外陰擦過細胞診にてブラシを用いることで細胞採取数が増加し, 診断精度が向上する可能性が示唆された.