目的 : 細胞保存液セルバースTM (セルバ : メタノール 40.5%) での子宮内膜 LBC 標本作製手順策定のための予備検討として, 血性検体における種々の条件下での血液成分塗抹状態や細胞塗抹量を比較した.
方法 : 口腔内扁平上皮細胞を用い, 血液とともにセルバに添加後, 室温または冷蔵にて, 一定時間 (最長 72 時間) 保存した. その後, 種々の処理を施した BD シュアパス―LBC 標本での塗抹細胞数や背景所見を比較した.
成績 : セルバ―血液添加において, ①室温と冷蔵保存で, 前者の塗抹細胞数は後者よりも非常に有意に低値を示した. その結果から, ②室温保存で分離剤での密度勾配処理を試み, 保存 3 時間以内なら, セルバ―血液添加なしの細胞数に対する割合は約 6 割を保持したが, 時間経過とともに減少し, 特に保存 24 時間以降では 1 割程度と顕著な減少を認めた. その結果から, ③室温保存でセルバよりもアルコール濃度が低い (約 23%) BD 社の婦人科検体用細胞保存液を溶血剤として処理後, 分離剤処理を試みたところ, 保存 72 時間においても, 血液添加なしでの細胞数の 5 割台を維持し, 検討②よりも細胞数は著しく改善した.
結論 : セルバでの血性検体における細胞塗抹は, 室温保存での溶血剤・分離剤処理がベターな方法であることが明らかになった.
背景 : 肺粘表皮癌はまれな腫瘍であり, 粘膜下腫瘍様の形態をとることから気管支擦過細胞診での組織型推定がしばしば困難となる. 気管支擦過および洗浄検体にて術前細胞診断に苦慮した肺低悪性度粘表皮癌の 1 例を経験したので報告する.
症例 : 40 歳代, 女性. 検診にて胸部異常陰影を指摘され当院を受診し, 胸部 CT にて左下葉気管支内に境界明瞭な結節を認めた. 気管支擦過・洗浄細胞診では, 核がほぼ中心性で異型の弱い多陵形細胞と, ごくわずかではあるが核偏在性で細胞質に多量の粘液を含んだ泡沫状の細胞を認めた. しかしいずれも異型に乏しく, 細胞量も少なかったため, 組織型推定は困難であった. 最終的に生検および手術検体で肺低悪性度粘表皮癌と診断された.
結論 : 下気道発生の粘表皮癌の細胞診断においては気管支擦過細胞診に比べ, 穿刺吸引細胞診での検体採取が有用とされているが, 異型の弱さや採取されてきた細胞の各成分の割合, 細胞量によっては診断が困難となることがある. 細胞の採取方法にとらわれず, 特徴的な細胞像を理解し, 臨床像, 画像所見や腫瘍の発生部位から粘表皮癌の可能性を念頭に置くことが肝要である.
背景 : 子宮頸部腺癌は子宮頸癌の約 20%を占めるとされるが, 子宮頸管内および深部子宮頸管腺に病巣が点在するため, 細胞診での偽陰性が問題となる. 今回われわれは子宮頸部に扁平上皮病変と腺系病変が共存した 3 例を経験したので文献考察を加えて報告する.
症例 : 症例 1. 38 歳, 1 妊 1 経. 妊娠時の腟部細胞診が HSIL であり妊娠中は保存的に経過観察し, 産後の細胞診再検でも HSIL が持続したため, コルポスコピー下生検を実施したところ CIN3 と診断. 円錐切除術後の組織診は AIS と CIN3 との共存であった. 症例 2. 51 歳, 2 妊 2 経. 過多月経で受診時の細胞診で AIS の判定. 円錐切除術後の組織診は AIS と CIN1 との共存であった. 症例 3. 43 歳, 2 妊 2 経. 検診 HSIL で紹介受診. 当院で再検した細胞診では ASC-H と AGC-NOS の判定. コルポスコピー下生検の結果は CIN3 の診断. 円錐切除術での組織診断は CIN3 と adenocarcinoma IA2 期との共存であった.
結論 : 子宮頸部腺系病変は円錐切除術後に初めて診断されることも多く, 術前に診断することは困難である. 細胞診で腺系病変が存在しなくてもほかの検査で腺系病変を疑う場合には, 腺系病変のみならず扁平上皮病変と腺系病変との共存も念頭におき精査し, HPV 検査も腺系病変の存在を疑う一助となる可能性がある.
背景 : 多形腺腫由来癌は, 先行して存在する多形腺腫が悪性化したものである. 癌腫の組織型は多様だが, 大半は唾液腺導管癌か筋上皮癌である. 細胞診で多形腺腫由来癌の悪性・良性の両成分を認めることは少ないが, 今回両成分を細胞診標本に認めた多形腺腫由来筋上皮癌の 1 例を経験したので報告する.
症例 : 90 歳代, 女性. 13 年前から右側口蓋の粘膜下腫瘤を指摘されており, 臨床的に良性とされ経過観察を受けていたが, 7 ヵ月前から急速に増大してきたため, 治療方針決定のため穿刺吸引細胞診を施行した. 細胞所見は大型異型細胞が結合性の弱い集塊で出現しており, 癌腫と考えられたが組織型は確定できなかった. 摘出標本の組織診では, 腫大した不整形核を有する多辺形の腫瘍細胞が胞巣状に増殖しており, 免疫染色結果と合わせて筋上皮癌と考えられた. 加えて腫瘍組織内に多形腺腫成分が確認され, 多形腺腫由来筋上皮癌と診断された. 組織診後の細胞診標本再検討で多形腺腫成分が確認された.
結論 : 長い経過を示す唾液腺腫瘤が急速に増大した症例では, 多形腺腫由来癌の可能性を疑い, 多形腺腫と癌腫の両成分が出現しうることを念頭に, 細胞診標本を観察すべきである.
背景 : 臀部囊胞内容液の細胞診を契機に肺癌の発見にいたった症例を経験したので報告する.
症例 : 60 歳代, 男性, 肛門周囲に疼痛を伴う膿瘍を主訴として受診. 細胞像は壊死性背景に大型核で核型不整, クロマチンの増量や核小体の目立つ異型細胞が多数みられ, 多核の細胞も認めた. 後に実施された組織診断では N/C 比の高い核型不整な異型細胞の集簇を認めた. 免疫組織化学の結果, 癌の転移が疑われたが, 原発巣の推定にはいたらなかった. CT 検査の結果, 肺に占拠性病変が発見され, 気管支擦過細胞診を行った. 結果は臀部腫瘍と類似した異型細胞がみられた. PET 検査では肺, 肺内リンパ節, 後腹膜, 鼠径リンパ節に異常集積像を認め, 肺癌の多発転移と診断された. 追加で行った免疫組織化学の結果, 肺非小細胞癌と診断された.
結論 : 臀部囊胞内容液と気管支擦過材料の細胞像の比較や免疫組織化学を実施することで, 原発巣の推定にいたった. 治療方針決定を目的に実施された分子病理学診断では PD-L1 に高発現を示した. 本患者にはペムブロリズマブが著効し, 肺, 臀部, リンパ節ともに腫瘍は縮小傾向にあり, 経過は良好である.
背景 : 類上皮血管内皮腫 (epithelioid hemangioendothelioma : EHE) は肺, 肝, 骨・軟部組織に好発する悪性血管系腫瘍であり, 多くは WWTR1-CAMTA1 融合遺伝子を有する. 今回われわれは, 胸膜に発生した EHE を経験した.
症例 : 62 歳, 男性. 右側の胸水貯留と全周性の胸膜肥厚があり, 臨床的に肺癌や悪性中皮腫が疑われたが, 生検の結果 EHE と診断された. 右胸膜肺全摘と心膜横隔膜合併切除が行われたが, 腫瘍の完全摘出は困難であった. 胸壁の残存腫瘍の増大や腹水の出現があり, 放射線・化学療法が行われたが, 術後 3 ヵ月で死亡した. 病理学的所見 : 上皮様の腫瘍細胞が小胞巣状, 索状に増殖し, しばしば細胞質内空胞を認めた. パラフィン包埋腫瘍組織を用いた分子遺伝学的検索にて WWTR1-CAMTA1 融合遺伝子が検出された. 細胞所見 : 淡い細胞質と偏在性の不整な核を有する円形ないし短紡錘形の異型細胞が出現していた. 少数の細胞に細胞質内空胞を認めた. 腹水セルブロックの免疫染色では, 血管内皮マーカーと CAMTA1 が陽性であった.
結論 : 胸膜発生の EHE は腺癌や悪性中皮腫との鑑別が問題となるが, 上皮様に加え紡錘形の異型細胞の混在や細胞質内空胞の存在を認識し, 体腔液検体のセルブロックを用いた免疫染色を併用することで診断可能と考えられる.
In this study, we developed a new immunocytochemistry method, which is performed on floating cells. After antigen-antibody reaction and colorization carried out under the floating condition in a microtube, the cells are on a slide glass. This floating immunocytochemical method allows stronger colorization than the conventional immunocytochemical method. This cell floating method could also improve the immunostaining by shortening the staining time in comparison with the conventional method.
We report the case of a 59-year-old woman with pancreatic mixed adenoneuroendocrine carcinoma (MANEC) and liver metastasis. The EUS-FNA smear was hypercellular with neoplastic cells scattered in loosely cohesive clusters. The tumor cells had large round nuclei, coarse granular chromatin and light green cytoplasm. Although the diagnosis was suspected as NET or adenocarcinoma, the lack of a definite pattern and unclear differentiation prevented a definitive cytological differential diagnosis. Histopathological examination of the liver biopsy specimen revealed that the tumor nests contained intraluminal mucin and immunohistochemistry revealed that the cells were positive for neuroendocrine markers. Thus, we finally made the histopathological diagnosis of MANEC.